艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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戦う彼女らの水平線に映るのは、勝利かそれとも敗北か。

最終回、始まります。


第四十一話『私は貴女の傍に居る』

Side 吹雪

 

 

「赤城先輩! 加賀さん! しっかりしてください!」

「天城姉さんが……こんな……」

 

一方で私は赤城先輩と加賀さんを励ましていた。

でも二人ともまるであの深海棲艦に心を支配されたかのように、

全く立ち直る様子はなかった。

 

天城さん。加賀さんの話に出てきた、赤城先輩の姉妹艦でありお姉さんだ。

赤城さんも加賀さんも相当慕っていて、そんな人が何故か深海棲艦となって現れた。

それも改装予定だった空母として完成された状態で。

 

それを施したのは深海棲艦なんだろうけど、

こうやって物理的にも精神的にも潰しに掛かってくるなんて初めてだ。

これが深海棲の戦術なのかは解らないけれど、

私が今やるべきなのは二人を元の二人に戻し守る事だ。

 

「吹雪さん、貴女は行きなさい。私達は……もう戦えません」

「そんなこと言わないでください! あの深海棲艦が天城さんだったとしても、

 私達は戦わないと沈んじゃうんですよ!?」

「それでいいんです。これが私達に対しての罪なのだとしたら、裁かれるべきです」

 

どうしてそんなことを言うのだろうか。

今の二人にはあの時私を光と言ってくれた赤城先輩の面影も、

涼月さんの事を分析し話してくれた加賀さんの面影も無かった。

 

「吹雪さん……深海棲艦とは、一体何なのでしょうか」

「えっ……」

 

赤城先輩がおもむろにそう問いかけてくる。

深海棲艦は文字通り深海から突如現れた謎の敵。

海路を遮断してこの国の未来に大きな打撃を与えた。

それは赤城先輩だって解り切っているはずの事なのに、どうしてそんなことを聞くんだろう。

 

「何って……倒すべき敵じゃないんですか!? 人類にとっての脅威じゃないんですか!」

「もしも、もしも深海棲艦が正義で、私達が悪なのだとしたら」

「何を言って……!」

 

すぐそばで大きな水柱が上がる。

大鳳さんや涼月さんが援護に回ったとはいえ、制空権は確保できていない。

絶え間なく押し寄せる敵艦載機からの被害を抑えるためにも、私は砲火を空へ向ける。

 

「攻め入られ、防衛するのはこの世の理です。この世には防衛本能と言うものがありますから」

「だから私達はこうして戦ってるんじゃないですか!」

「でも逆に私達が深海棲艦に対して先制を打ち、深海棲艦が抵抗しているだけだとしたら」

 

根も葉もないことを呟く赤城先輩。その顔は絶望に染まり切っている。

確かに深海棲艦が何者かは誰も知らない。

それが赤城先輩のいうように私達が深海棲艦に対して先制を打って、

深海棲艦がただ反抗しているだけという説もありえなくはない。

 

でも同時にそれが確信である保証もない。

真実なんて誰も知らないし、解らないままに終わるのは良くあることだ。

それを探求しても、結局解らずじまいで終わってしまう。

今の赤城先輩と加賀さんは、延々と出ない答えに囚われている。

そして全てを諦めてあの深海棲艦に沈められるのが二人の罪滅ぼしだと言っている。

 

私だってもしも夕立ちゃんや睦月ちゃん、如月ちゃんが沈んでしまって、

私の前に深海棲艦として現れたなら、私の無力を恨んで絶望してしまうだろう。

引き金を引くことも戸惑ってしまうに違いない。

 

そんな事態に陥ったことのない私には解らない事ばかり。

 

それでもいえる事がある。

いつまでも過去に縛られていては今と向き合う事は出来ない。

今と向き合う事が出来なければ、今を生きることは出来ない。

 

「私には深海棲艦が何かなんて解りません。でもそんなことに囚われて、

 今を見捨てる事なんて私には出来ません」

「なら吹雪さん、貴女だけでも……」

「それは赤城先輩達も同じです。今を生きないと、今を始めることは出来ません」

「ですが私達に今という時間は……」

「いい加減にしてください!!」

 

私の一喝に二人が驚き顔を上げる。

私自身も二人にこんなことを言いたくはなかった。

本来こんなことを言うのは私の役目じゃない。赤城先輩達が言うべきことだ。

それでも今私が言わなければこの二人は本当に轟沈してしまうだろう。

 

「赤城先輩も、加賀さんも、天城さんから託されたんじゃないんですか!

 あの人の意志を! 覚悟を! そんな天城さんが赤城先輩達を恨んでいるというんですか!?」

 

「それでも赤城先輩達が沈む事を望むなら、それは勝手に諦めているだけです!

 今から逃げているだけです!」

 

「今を生きる事から、逃げないでくださいよ!!」

 

頬に涙が伝う。それを振り払って空へと砲火を向けた。

 

 

Side 涼月

 

 

私と吹雪さん、舞風さんと野分さん、夕立さんと対空防御を行うも、

まだ制空権を確保出来る程ではなかった。

 

「涼月さん! 大丈夫ですか!」

「ええ、まだまだ行けますよ」

 

私と背中合わせになる吹雪さん。

どうやら赤城さんと加賀さんを前線に復帰させることに成功したようだ。

 

「流石は皆さんの太陽です。私の目に狂いはありませんでした」

「私が太陽なら、涼月さんは月ですよ」

 

「闇夜に颯爽と現れる光。皆を導いてくれる月です」

 

なるほど、そんなたとえも悪くはない。

 

空を見上げると浮かんでいるのは太陽でも月でもなく、敵の艦載機。

この空を取り戻すにはこの上空の敵艦載機を叩き落として、

赤城さん達が発艦させることが出来ないと不可能だ。

 

吹雪さんの迎撃能力も格段に上がっている。

私が意識を失っていた時に、何かあったのか、それとも訓練したのか。

なんにせよ、それは目を見張るものがあった。

彼女なら出来るかもしれない。いや、出来る。私と同じ芸当を。

 

「吹雪さん、あれをやりましょうか」

「あれって何ですか!」

「私の使ったあの技ですよ」

 

艤装と空に意識を向けて、空に浮かぶ艦載機を捉える。

 

「えっと……私は涼月さんみたいに努力してませんし」

「なら、私の努力と覚悟を渡しましょうか」

 

私は髪留め替わりになっている対空電探を外し、吹雪さんに差し出した。

 

「これって……」

「13号対空電探の改良型です。性能は明石さんと私のお墨付きですよ」

「でもそれを外したら涼月さんがあれを出来なくなるんじゃ!」

「今の私には、妖精さんが付いてくれていますから」

 

今の私にとってそれは不要の産物でしかない。

寧ろ妖精さん達の教えてくれる感覚と電探によって得られる感覚が二重に伝わり、

逆に頭が混乱してしまう原因となっていた。

 

にっこりとほほ笑んで、吹雪さんの手に握らせる。

 

「ありがとうございます涼月さん。これでまた、戦えます!」

 

それを見た彼女は、私を信じてくれたのかそれとも意図が伝わったのか、

確かにそれを受け取り髪留めの上にそれを留める。

 

「では、行きますよ。吹雪さん」

「はい! 涼月さんも遅れないでくださいね!」

 

互いに背中を預け、空へと意識を向ける。

電探と同じように私の中で生きる妖精さん達が、私に敵の位置を教えてくれる。

電探よりももっと心地よく、

本来私の中にあったものなのだと考えれば当然のことなのかもしれない。

 

「私が皆を導く光であれば、今この光は空を貫く為にある」

 

私は空を貫く月の光と成りて、皆の未来を導く。

 

大和さんの護衛艦になる為だけじゃない。

今まで私を支えてくれた皆の為に努力していたんだ。

 

こちらの何かを感じ取ったのか、艦載機が一斉に襲い掛かってくる。

だがその程度の事で動じる私達ではない。

 

「私が!」

「私達が!」

 

「皆を護るんだから!」「皆を護り抜きます!」

 

私達の放った砲撃は上空に飛び交い襲い掛かってきた敵艦載機を、全て叩き落とす。

吸い込まれるように命中していくその一発一発は、私達の覚悟の証だった。

 

 

Side 大和

 

 

主砲を放ち、敵の増援を叩き続けていると次第に敵の動きが鈍っていることが解った。

まるで私達と同じように疲労が溜まっているような、無理やり出撃させたような。

 

「oh! 敵さんもVery Hardな連戦に体が堪えてきましたカー!」

「「「もうひと踏ん張りです! お姉さま!」」」

「こんなにも可愛いSistersに応援されたら、やるっきゃないでショウ!」

 

英語交じりの言葉でいつも通りのテンションで乗り切る金剛さん。

彼女の姉妹艦である比叡さん・榛名さん・霧島さんの応援が私達まで励ましているようだ。

 

「敵艦確認! 空母3、重巡1、駆逐艦2!」

「なら私達の開幕魚雷と行きますかね」

「ええ北上さん! 私達重雷装巡洋艦の力、見せつけてやりましょう!」

 

その言葉と共に前へ躍り出た北上さんと大井さんがほぼ全ての魚雷を放つ。

金剛さんの言った通り敵の動きが悪く、重巡と駆逐艦に直撃し水底へ消えていった。

 

「流石は対艦特化型の艦種ですね」

「そうよ。たとえ最終兵器である大和さんでさえも私達には勝てないわ!」

「まぁ、その分砲撃の火力は低いんだけどねぇ。じゃ、後は任せましたよーっと」

 

後ろに下がりながらも私達にバトンを渡す二人。

流石はあの時敵艦隊の右舷の戦力を抉り取っただけはある。

 

「比叡! 榛名! 霧島! 切込み役は任せるネ!」

「では私と榛名から行かせていただきます」

「ええ。私達だって涼月さんに叩き上げられましたからね!」

 

榛名さんと霧島さんが前に出る。

以前彼女達は涼月さんと同じ艦隊に居た。彼女達もまた彼女の指揮の元、戦っていたのだろう。

 

「三式弾装填! 空母の勝手は! 榛名が! 許しません!」

「主砲! 敵を追尾して! 撃てっ!」

「ああっ! それ私の戦法なのに!」

 

放たれた三式弾が空中で弾け、その焼夷弾が三隻の敵空母、

その飛行甲板と思われる部分に直撃し焼き払う。

その光景を見て比叡さんが非難の声を上げた。

 

「Calmlyデスヨー比叡。比叡は私と共に残敵の掃討ネ!」

「解りました! 比叡、気合! 入れて! 行きます!」

 

彼女の気合の籠った声と共に放たれた徹甲弾は二隻の敵空母に突き刺さり、

大きな爆発を伴って撃沈させる。

 

「これでFinish? な訳無いでショウ! 私は食らいついたら、離さないワ!」

 

そして止めとばかりに金剛さんが追撃し、残った敵空母を撃沈。

それによって敵艦隊は壊滅し、更なる増援はどこにも見当たらなかった。

 

『私が!』

『私達が!』

 

『皆を護るんだから!』『皆を護り抜きます!』

 

涼月さんと吹雪さんの言葉と共に、

私達の上空に飛び交っていた無数の敵艦載機が撃墜される。

 

その正確な対空砲火はあの時の事を思い出させた。

あの絶望的な状況にあった私達を救った彼女。彼女は今ここに居る。

それも依然と変らぬ元気な姿で。

 

金剛さんや北上さん達の活躍によって敵の増援は断たれ制海権は確保。

残すはあの深海棲艦だけ。

 

『大和さん。臨時ながらも的確な指示、ありがとうございます』

 

赤城さんからの無線が入る。

 

「いえ、私は大したことはしていませんよ。ただ私は『奇跡』に懸けただけです」

『奇跡、ですか。……大和さん。新型の深海棲艦撃破の援護、お願いできますか』

「解りました」

 

遂に赤城さんが決断を下した。その声に迷いなど一欠けらも聞き取れない。

私達は援護であり、決着をつけるのは彼女達自身。その為に私達が取るべき行動は一つ。

 

「第一、第二主砲構え! 目標、新型の深海棲艦!」

『解ったー!』

 

第三主砲は私の背面に付いている為、対空砲としての役目がある。

今の私にとって本体を狙うのは容易い事だけど、それは私の仕事ではない。

本体から少し狙いを逸らし、丁度飛行甲板としての役割を果たしている肘掛の部分を狙う。

私の感覚を信じて、目を見開いた。

 

「敵艦捕捉! 我が主砲、薙ぎ払え!」

 

幾度も聴いた爆発音と轟音。それが私の中を支配する。

それは今までよりも確かで、確実な物だと確信した。

 

放たれた九一式徹甲弾は狙い通り肘掛の部分に突き刺さり、爆発して真っ二つに砕く。

敵は爆発によって炎上し、その服さえも焼き焦がしていた。

沈めるにはまだ足りない。しかし、確実に攻撃は通っている。

 

『カッタト……オモッテイルノカ? カワイイナア……』

 

そんな声と共にその深海棲艦は海上に立ち上がり、無理やりにも艦載機を発艦させた。

何もかもつまらなさそうな表情を浮かべていた相手が感情を露わにし、

不動の存在を動かしたことによって感じられるその威圧感。

 

しかしその程度の事で、私達の覚悟は止められない。

そう。共に強くあるという覚悟は。

 

 

Side 赤城

 

 

吹雪さんのいう事は最もだ。

 

天城さんは加賀さんを通して私に意志を伝えた。

その一方で私達は天城さんが深海棲艦に成ったという理由に絶望していた。

現実から目を背け、過去の輝かしい思い出に身を委ねていた。

 

しかしそれでは今を生きることは出来ないという、重要な事を見失っていた。

ここで死んでしまっては天城姉さんの意志を全て無駄にしてしまう。

天城姉さんだけじゃない。

酷い状況から舞い戻って来た涼月さんの行動も、

こうやって励ましてくれた吹雪さんの想いも、全て無駄になってしまう。

 

「後悔と絶望は人を過去に縛り付ける鎖とは、良く言ったものです」

「そうですね……現実逃避を行っていた私達にとって相応しい例えです」

「天城姉さんが深海棲艦になったという現実は、

 私だって信じたくはありません。ですがあの人は今ここに居る」

 

「私と加賀さん。二人で天城姉さんの遺した物を背負い続けていましたが、

 どうやらそれも終わりの時が来たようです」

「赤城さん……」

「加賀さん。これもまた私達の運命と言うのであれば受け入れなければ成りません。

 その為に私達は戦っているのですから」

 

大和さんの砲撃を制止したのは、単純に考える時間を作る為。

私達の気持ちに整理を付ける為。言葉に出して自分自身に理解させる為。

吹雪さんとそのお蔭でなんとか私達は立ち直る事が出来た。

 

「大和さん。臨時ながらも的確な指示、ありがとうございます」

 

私は大和さんに向けて感謝の言葉を贈る。

ここまで特に被害も無く艦隊を率いてくれたのは彼女だからだ。

 

『いえ、私は大したことはしていませんよ。ただ私は『奇跡』に懸けただけです』

「奇跡、ですか。……大和さん。新型の深海棲艦撃破の援護、お願いできますか」

『解りました』

 

奇跡。素敵な言葉だ。

こうして天城姉さんと再会できたのは、運命ではなく奇跡なのかもしれない。

 

大和さんの放った徹甲弾がその深海棲艦の肘掛の部分に直撃する。

本体からは狙いが逸らされており、援護という言葉を理解しての行動だとすぐに解った。

 

『カッタト……オモッテイルノカ? カワイイナア……』

 

そんな声と共にその深海棲艦が海上に立ちあがる。

破壊された艤装から無理やりにも新型の白く丸い艦載機を発艦させている。

彼女もまた、必死なのだろう。しかし私と加賀さんはその現実を受け止めた。

 

「行くわよ! 全機、突撃!」

「アウトレンジで……決めたいわね!」

 

放たれる新型の敵艦載機を、

翔鶴さんと瑞鶴さんが直掩機を追加発艦させることによって何とか制空権を維持していた。

その背中からは吹雪さんと同じように私達を守る覚悟が伝わってくる。

 

「赤城さんも加賀さんも、何とか立ち直れたみたいですね」

「一時はどうなる事かと思ったけど、まさか後輩に励まされるなんてねー」

「蒼龍さん、飛龍さんも」

 

私達の隣に付く様に二人が後ろから現れる。

その表情はいつも通りの二人で、

今までの絶望しているような表情などどこにも見当たらなかった。

 

「っと、覚悟を決めたのは良いけど、矢が尽きちゃってるからどうしようも無いんだけどね」

 

艦載機を発艦させようとして、飛龍さんの発言で残りの矢がない事に気付く。

たとえあったとしても敵の新型機には敵わないだろう。

 

「赤城さん、皆さん」

「貴女は……大鳳さん?」

 

そんな時制空権の確保の為にやってきた一人の装甲空母、大鳳さんが話しかけてくる。

彼女は弩を持ち、私達とは違う形で艦載機を発艦させていた。

そんな彼女が私達に何の用だというのだろうか。

 

「明石さんから新型機を預かっています。

 和弓用の艦載機ですので、受け取ってください」

 

彼女の手の中にあるのは三本の矢。それぞれ艦戦・艦爆・艦攻の三種類。

しかしそれは私達の見た事のない物ばかりだった。

特にその艦戦は風格といい機体自身の性能といい、全てを凌駕しているようであった。

恐らくこれを発艦させるにはかなり高度な技術が必要だろう。

 

「この艦戦は烈風、艦爆は彗星、艦攻は天山ですね。赤城さん、ご存知なんですか?」

「烈風? いえ、知らない子ですね……」

 

私の視線に気づいたのか大鳳さんが答えるも、私の頭の中には存在しない名前。

何より皇紀ではなくしっかりとした名が付いているのも、そうさせる原因であった。

 

「確かに性能が高いのですが、和弓式となるとかなりの練度が必要かと思われます」

「……赤城さん。私と共にこの艦戦を発艦させましょう」

 

加賀さんがとんでもない提案をしてくる。しかし彼女はいたって真面目だ。

こんな考えを提案するという事は、何か裏がある。

 

「私達は二人で天城さんの意志を受け継ぎました。

 それに私達空母としての意志も載せて、天城さんに届かせるんです」

 

彼女の言う通り天城姉さんの意志と共に

長い髪は私が、あのサイドテールは加賀さんが受け継いだ。

 

私達は二人で一つの意志を受け継いだ。ならばそれに私達の意志を合わせ、

私達二人で一つの意志として彼女に届かせようというのだ。

 

面白い話だ。かつて二分しそれぞれのものになった物をまた一つにして返す。

でも、そんな話も悪くない。

 

「解りました。では天城姉さんに見せつけましょう。

 私達が空母としてどこまで強くなったのか。私達の意志を込めて」

「なら私は艦爆かな。飛龍は大丈夫?」

「うん。私は艦攻で十分。むしろこれが私にお似合いだから」

 

これで全てが揃った。私達の意志を、彼女に見せつける時が来たんだ。

 

加賀さんと共に一つの和弓と矢を持って、私達の全てを載せる。

空母として努力してきた事も、今こうして立っていることも、

そして共に皆と未来を進む覚悟も。

 

「南雲機動部隊、出撃します!」

 

その声と共に、鈍色の雲に覆われた空へ一本の矢が放たれた。

 

 

Out side

 

 

涼月と吹雪、大和達が切り開いた空と海を、赤城と加賀が放った烈風が行く。

二人の想いを載せて、敵深海棲艦の新型艦載機を全て叩き落とし、

残った艤装を全て機銃によって破壊した。

 

「よし! 友永隊、頼んだわよ!」

「そろそろ反撃よ。江草隊、発進!」

 

そうして出来上がった道を蒼龍の放つ彗星と、飛龍の放つ天山が青き光を纏いて空を翔ける。

制空権を失った深海棲艦にはなすすべもない。

精密な爆撃と雷撃が突き刺さり、巨大な爆発と共に波間へと消えていく。

 

『シズカナ……キモチニ……そうか、だから私は……』

 

それと共に鈍色の雲に覆われた空に一筋の光が降り注いだ。

 

 

Side 涼月

 

 

巨大な爆発が収まり、水底へ消えるとともに意味深な言葉は聞こえなくなった。

終わってみれば呆気ない者とも思えるが、それは逆に切ない物でもあった。

敵であっても敬意を払いたくなる。それが戦いというものなのだろう。

 

一筋の光が深海棲艦の居た場所に降り注ぐ。

その光の中に、先ほどの深海棲艦によく似た姿の艦娘がいる。

赤城さんと加賀さんの髪型を足したような、そんな髪型をした一人の艦娘が。

 

にっこりとほほ笑む彼女に思わず見とれてしまう。

まるで鳳翔さんのような温かさがそこにあったからだ。

暫く見とれていると、私が見ていることに気付いたのか表情を不思議そうに変化させた。

 

目と目が合う。思わずそらすように周りを見るも、誰も気づいていないようだ。

そう、あの赤城さんや加賀さんでさえも気付いていなかった。

 

『貴女には私が見えるのですね』

 

頭の中に直接声が響いてくる。それはあの鎮守府正面海域を解放した時や、

先程の戦闘で深海棲艦が喋っていた時の様に。

 

「えと……あの……貴女は?」

『私は天城型戦艦として建造されるはずだった存在。空母として改装されるはずだった存在』

 

『そして、赤城の姉であった存在よ』

 

驚愕する。

あの赤城さんに姉と言う存在が居たことに。でも天城型と言うのは初めて聞いた。

もう少し聞いてみたいことがあったが、私の都合で変に話をそらしても失礼だ。

本来であれば私ではなく赤城さんに見えるべきなのだが、

彼女が私の前に現れたという事は何かあるという事だ。

 

「そんな貴女が、どうして私の前に現れたのですか? 赤城さん達ではないのですか?」

『あの子達は私が居なくても大丈夫だから。ただ私はあの子達の今を見たかっただけ』

 

特に伝えたいことがあるわけでもなく、未練と言うには余りにも小さな心配事。

空から差し込む一筋の光が、なおの事その小ささを表しているようだった。

 

『でも貴女には見えてしまった。不思議ね』

「恐らく、妖精さん達と鎮守府正面海域解放時の影響だと思いますよ」

 

私は妖精さん達から意志を受け取り、そしてまた彼女達は私の中で生きている。

それは私の目として、はたまた電探の代わりとして頑張ってくれている。

そして鎮守府正面海域を解放した時、死にゆく彼女の最後の声を聴いた。

それが何かしらの形で私に影響をもたらし、霊的存在である彼女を捉えたのだろう。

 

『なるほどね。……じゃあ、最後にこれを伝えてもらおうかしら』

「はい。なんでも仰ってください」

『ふふふ。なら『私は貴女の傍に居る』と、お伝え下さい』

「……それだけでいいんですか?」

 

どれだけ小さな心配事だったといえど、こんなにあっさりでいいのだろうか。

死んだ艦娘の事は解らないけれど二度とこんな機会は有りえないのだから、

もっと何か言うべきことがあるのではないだろうか。

 

『いいんですよ。それだけで十分です』

「……赤城さん達を信じているんですね」

『ええ。素敵な二人の妹ですから』

 

にっこりと微笑む彼女は光となって消えていく。

あそこまで潔い姿を見せつけられては、私は何も言えなかった。

 

「涼月さーん! 鎮守府に戻りますよー!」

 

その声で現実に引き戻される。

振り返れば編隊を組んだ大和さんが大きく手を振っていた。

 

「……私も、素敵な人に出会えたものです」

 

そう言って微笑む私は、その後を追いかけるのだった。





最終回は最終回らしく、王道のオンパレードで染め上げてみました。

吹雪の叱咤激励。
以前吹雪を励ましていた存在が、吹雪に励まされる。
先輩である涼月から直々に装備を託される。
土壇場での新装備で窮地を切り開く等々……

吹雪が対空カットインを使用出来た理由はただ一つ。電探が足らんかった。
ゲーム上の駆逐艦による対空カットインシステムの発動条件は、
『高角砲+高射装置+対空電探』です。
ただ『10cm高角砲+高射装置』は高角砲+高射装置を兼ね揃えた上でのかなり強い装備。

逆に涼月が電探を装備していない状況下で対空カットインが使用出来た理由は、
現在実装されている秋月が高角砲×2だけで対空カットインが出来るという所から来ています。
それをどうにかして王道展開と組み合わせたいなと思い、
妖精さん=過去のその艦の乗組員や艦長達という設定を設け、
現在では某魔法少女でいう『ユニゾンデバイス』や、
ある海軍系の漫画、『戦海のテティス』の霊感レーダーの様な状態にしています。

最後の天城の霊が涼月にしか見えなかった理由は、
鎮守府正面海域を解放した時に死亡間際の泊地棲姫と接触したり、
妖精さんの真意を知ったりとオカルト的な物にもかなり接触していたからです。
そういう境遇に今最も近いのは大鳳かもしれませんね。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んで頂いた方々、本当にありがとうございました。

………じゃが、もうちっとだけエピローグに続くんじゃよ。

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