艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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更新がぁ! 遅れててぇ! 更新がぁ! 時間待ちぃ!
(訳:更新遅れて申し訳ありません)

赤城達が絶望するよりも少し前のお話。
また第十二話開始時までにもどります。

改装する為に泊地に戻った大鳳は、二人の妖精さんと再会する。


第三十九話『月輪』

Out side

 

 

これは中間棲姫が倒され新たな深海棲艦が現れるよりも前、

丁度大和たちが赤城達と合流した頃の、別の場所の話。

 

「急いでください明石さん! 早くしないと!」

「こっちだって全速力でやってるんです!」

 

トラック泊地に戻った大鳳は未だに改装が行われていた。

だが戻ったは良い物の、明石曰く大鳳の改装案など上層部から受けておらず、

緊急の別暗号による打電によって大本営に掛け合い、何とか決まった程度。

何せ大鳳は大和よりも新しく竣工した艦娘であり、

こんな短期間で改になるとは誰もが予想しない事でもあったのだ。

 

そこで大鳳の飛行甲板にラテックス加工を施し服も濃い緑にするという、

所謂『迷彩塗装』を施すことになった。

また改になるとのことで艦載機の更新も同時に行われることになった。

幸いにも装備の更新は明石が開発していた艦載機がある為問題はなかったのだが、

何せ急な事で艤装のラテックス加工と服装の仕立てで時間が取られていた。

 

艦娘の服装は艤装と共に装甲としての重要な役割を果たしている為、

人の服の様に簡単には作る事が出来ない。

一応型紙はある為ある程度の作業は短縮できるのだが、

時間がかかってしまうのは大鳳自身も理解していた。

それでも焦らないわけにはいかなかった。

 

「……ん?」

 

忙しそうに動き回っている明石さんと妖精さんの中に、

二人の妖精さんがその騒ぎに紛れて工廠を出ようとしていた。

 

 

Side 大鳳

 

 

私はその子達の傍に駆け寄り、その妖精さんが誰なのかを確認してみる。

それは涼月さんの見張員の妖精さんだった。

その二人は私に見つかって驚いているようだったが、

何かを私に伝えようと必死になっていた。

何を言っているのかは解らない。けれどどこに行きたいのかだけは解った。

 

この子達は涼月さんがああなってから全く姿を見せなかった。

それが何故かはわからない。けれどこそこそ逃げ出そうとしていたという事は、

明石さんやその工廠の妖精さんに何かあるのだろう。

 

それこそ、涼月さんに何かあったからこそ、

最高のパートナーであった彼女達に知られないように何か手を施していたのかもしれない。

軟禁。監禁とまでは行かないが監視の目をきつくして、

決してそこへは向かわせないようにする。

確かに明石さんだけならともかくこれだけの妖精さんがいるのだ。

平時ではどう頑張っても向かう事は不可能だったのだろう。

 

私はその子達を手に取ると、自分の袖の中に潜ませる。

 

「明石さん、喉が渇いたので少し席をはずしますね」

「あ、はい!」

 

一応断りを入れて、私は工廠から出ると急いで涼月さんの元へと向かった。

 

 

 

涼月さんの眠る一室。

そこで涼月さんは人工呼吸器を取り付けられ、その腕には点滴の針が刺さっていた。

袖から妖精さんが這い出て来て、涼月さんの上に降りる。

それを見た医療関係の妖精さんが慌てていたが、私が制止を掛けた。

 

「大丈夫です。明石さんには許可は取ってあります」

 

勿論許可など取っていない。でもそれでいい。嘘も方便と言うのだから。

 

涼月さんの妖精さんは、順々に涼月さんの体に触れていき遂に頭へと到達する。

するとどうしたことか心配するように頭を撫ではじめた。

まるで頭になにかあるのか解っているかのように。

 

「涼月さんは、脳挫傷による意識不明の重体なんです」

 

私が二人に声を掛けると涼月さんの胸元まで移動し、まるで抱きしめる様にすり寄る。

その顔は悲しんでいる様子はなく、ただ優しく包みこむ母親の様な顔。

そして次の瞬間、その二人の妖精さんは光の粒となって涼月さんの中へ消えていった。

 

 

Side ???

 

 

私は見渡す限り白い空間に居た。皆の姿はない。

果てがあるのか見当もつかない、そんな白い空間。

艤装は付けておらず、生まれたままの姿でそこに居た。

傷は全て治っていて、痛みも無い。

 

私は、ここに至るまでの経緯を考えてみた。

 

私が見たのは絶望の空と倦怠の海。

しかしそれは第五遊撃部隊の皆と、大和さん達によって希望へと変わった。

最後に残った隻眼の空母を沈める為に、私は私の落ち度を自らの手で清算する為に、

吹雪さんと共に空母へと立ち向かい、撃破したのだ。

 

彼女と私の魚雷が突き刺さり彼女の笑顔を見た時、

私はもう何も思い残すことは無かった。

彼女はそう言う風に笑えるまでに成長していたのだから。

 

そう思うと今まで感じていた痛みや苦しみが急に無くなって。

気が付いたらここに居た。

 

「ああ、なるほど、私は……」

 

私は、死んだのだ。

なら今は幽体離脱という状態なのだろうか。それともここが天国と言うべき場所なのか。

ただ深海棲艦の姿も見当たらないので、

その点を考えると深海棲艦は沈んだ後ここに来るわけではないらしい。

 

それにしても変なところに出た物だ。

もっと三途の川や雲の上といった解りやすい所に出せばいい物を。

これではつまらないではないか。私はその場に座り込む。

触覚も無ければ寒さや冷たさを感じる事も無いので、私は何も躊躇することは無かった。

ただ、誰もいないとはいえ恥ずかしさはあるのだが。

 

ただただ何もすることがなくその場で暇を持て余そうと思ったのだが、

ふと大和さんの事が頭をよぎる。

 

『大丈夫です。私は貴女を守るまで死ねませんから』

 

自分で言った言葉。私は、私の約束を果たせなかった。

心残りがあるとすればそれぐらいだろうか。

それでもいい。彼女達ならきっとやってのけるだろう。大規模反攻作戦を。

 

仰向けになって、背中に感じるのは温かさ。

まるで入渠しているような、柔らかなベッドの中で眠っているような。

私を受け入れるかのような心地よさだった。

 

このまま眠ってしまってもいい。

そう思って私は目を閉じた。

 

 

『駄目だよ』

 

頭の中に声が響く。私の知らない声。

呉の皆でもなく、トラックの皆でもなく、提督でもない。

 

『駄目だよ』

 

でも誰だろうと関係ない。それほどまでにここは心地よく、そして温かかった。

 

『むー! えーい!』

「わひゃぁ!?」

 

その声と共に胸元に何かが落ちてきた。

柔らかくて温かく、そして小さなもの。

それによって私は今裸である事を再確認させられ、

途端に沸いてきた羞恥心がその心地よさを吹き飛ばした。

 

「何なんですか一体! って……」

 

急に起き上がったからか、その上に乗ってきた誰かは転がって股下に落ちる。

思わず押しつぶそうになったけれど、その『誰か』を確認して何とか止めた。

ただそのままと言うわけにはいかないので素早くすくい上げる。

 

『『えへへ』』

 

それは見張員である二人の妖精さんだった。二人とも照れ隠しなのか笑っている。

なるほど、誰か解らない声はこの二人のものだったようだ。

まぁ、この子達なら別に見られても問題はない……が、流石に先程の状態は駄目。

閑話休題。

 

何故彼女達が此処に居るのだろうか。私はあの時この子達を連れて来ていなかったはず。

確かに私はあの時増設用のマストを外したし、吹雪さんと一緒に魚雷も撃った。

だからあの場所に私の妖精さんはいない。だからここに居るはずがないのだ。

 

でも確かにここに居る。私は彼女達に聞いてみる事にした。

 

「貴女達はどうしてここに?」

『大鳳さんが連れて来てくれたの!』

『それで涼月を連れ戻しに来たの!』

 

満面の笑顔でそう答える彼女達に戸惑いを覚える。

大鳳さんが連れて来てくれたという事は、彼女も沈んだという事なのだろうか。

あの大鳳さんがあの状況でどうやって沈んだというのか。

私には解らないけれど、ただ彼女が沈んでしまったのかという事実を考えてしまう。

 

「なら、大鳳さんは『誰も沈んでないよー』……え?」

『私達が涼月と一緒になったのー』

 

私と一緒に?

皆が沈んでいないという事だけ教えて貰えて私は安堵を覚えるも、

彼女達の言っている言葉の意味が解らなくてますます混乱する。

 

「貴女達は、何を言ってるんですか」

 

私が戸惑い、さらに質問を飛ばすと、彼女達の雰囲気ががらりと変わる。

それはまるで武人の様な風格。可愛らしい彼女達ではなく、勇ましい一人の艦娘の様に。

 

『私達は貴女を守る為に貴女と一緒に居た』

『私達は貴女をまた守る為に一緒に居る』

 

『『私達は、妖精であり、英霊』』

 

『『貴女を守り、救う事が私達の使命です』』

 

彼女達の手が私の体に触れる。すると彼女らは光となって私の中に溶けていき、

私の中に何かが流れ込んできた。

それは記憶。私を生き残らせる為に死んでいった英霊の魂。古の記憶。

私の知らない言葉、私の知らない記憶。目を閉じれば浮かぶ情景。

その光の残りが私の体を覆うと、私の服となり、艤装となった。

 

「なるほど。貴女達が私と一緒に居る理由が解りました」

 

彼女達を私の中で感じる。

別の私が居る様にも思えるが、元々そうであったかのような心地よさを感じる。

 

そもそも彼女達は私と共に居た。

こうして私が命の灯火を消えた時。否、消しかけた時、彼女達はここまで付いてきた。

私をここまで私を引き戻しに来たんだ。

 

ならば私はこんな場所で私は立ち止るわけにはいかない。

進もう。皆を守る為に。私の成すべきことをする為に。

これで何も心配することは無くなった。私自身も、この子達も、全て。

 

「秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』、参ります!」

 

私はその言葉と共にこの空間から抜錨するのだった。

 

 

//////////////////////

 

 

私は目を覚ます。この感触は……ベッドの上?

 

「涼月さん!!」

「ぐふぅ!?」

 

目覚めた直後に感じた感覚。

それは一人の艦娘に思いっきり乗りかかられ、肺の中の空気がほとんど抜ける物だった。

その衝撃で口元に取り付けてあった人工呼吸器が外れる。

 

「あっ! すみません、感極まって思わず……」

 

飛び跳ねる様に私から離れたのは、妖精さんが言っていた通り大鳳さんであった。

彼女があの二人を連れて来てくれたのだろう。

 

「大鳳さん……どうしてここに?」

 

呼吸を整えながらも起き上がる。

回りでは私を治療してくれていたのか色んな妖精さんがあたふたしていた。

 

「どうしてって……改装が必要になったのでトラック泊地に戻ってきたんですよ!」

「トラックに戻ってきた? そもそも大鳳さんはトラックの艦娘じゃないですか」

「あっ……涼月さんはMI作戦の事は知らないんですよね。すみません」

 

MI作戦? 初めて聞く作戦名だ。MO作戦に似ているが、おそらく別のものだろう。

 

「大鳳さん。すみませんが私が眠っていた間の事、

 今起こっている事、全て教えて頂けませんか?」

「ええ。驚かないで聞いて下さいね」

 

大鳳さんは手短ながらも明確に教えてくれた。

私が脳挫傷による意識不明の重体として扱われていたこと。

例え意識が戻っても戦闘することはおろか日常生活にも支障が出ると宣告された事。

 

私が眠っている間にトラック泊地と呉では共同で行われる大規模反攻作戦の一つ、

MI作戦が発令されようとしていた。

しかしトラックの皆は私がこんなことになったからか足並みがそろわない物の、

個人で何とか今までの決意と新たな決意と共に突き進んでいたという事。

そして今まさにMI作戦が発令され、大和さん達が出撃しているという事。

 

それを聞いた私は点滴の針を引き抜き、傍に置いてあったいつもの服に着替える。

 

「涼月さん……?」

「何しているんですか大鳳さん、行きますよ」

「で、でも体の方は」

「大丈夫です。あの子達が治してくれましたから」

「……そう。ならあの見張員の妖精さん達も……」

「いえ。あの子達は私の心の中に居ます。だから大丈夫です」

 

大鳳さんはまるで私に起こった事を知っているかの様な優しい顔になる。

解ってくれたなら話が早い。私は艤装を取りに行く為に大鳳さんと共に工廠へと向かった。

 

 

 

「明石さん!」

「大鳳さん! 艤装と服が出来ました……って涼月さん!?」

 

明石さんは真っ黒になりながらも私を見て、信じられないのか頬をつねっていた。

そして夢ではない事を解ったのかいなや、私の元に駆けよってくる。

 

「涼月さん! 体の方は大丈夫なんですか?! どこかおかしい所とか……」

「心配して頂かなくても大丈夫ですよ。あの子達に治してもらいましたから」

 

勢いだけで説明するのは申し訳ないと思いながらも、時間が無いのだから仕方がない。

後でじっくり説明することにして、今は大鳳さんと出撃することを考えよう。

大鳳さんの方を見ると新たに作られた服装に着替えていた。

後姿故に背中しか見えないが、上の下着は付けていないようだ。閑話休題。

 

二人とも艤装を装備していざ出撃。

 

「あ! ちょっと待ってください!」

 

といったところで明石さんに制止の声を掛けられる。

その方を見れば明石さんが三本の矢持って、こちらへ駆け寄っている所だった。

 

「この矢は大鳳さんに」

 

矢と言っても大鳳さんがクロスボウで発射できるような矢ではなく、

赤城さん達の様に和弓を使う人用の矢であった。

 

「この矢は涼月さんが輸送してきてくれたボーキサイトで作った、和弓用の新型機です」

「ありがとうございます」

「では、参りますよ。大鳳さん」

「ええ。第一機動部隊、旗艦大鳳、出撃します!」

「防空駆逐艦涼月、推して参ります!」

 

私達はMI島へ向かう。皆を守る為、私の成すべきことを成す為に。




覚悟を受け止めた大鳳。彼女の改装にもそれなりの資源が必要となります。(弾薬450/鋼材900)

キャラ説明部分にもありますが、涼月の妖精さんは明石さんの手によって軟禁状態にありました。
何気に一番長い付き合いであったが為に、傷つけないようにという計らいだったのですが、
どうやら裏目に出たといった形でしょうか。

涼月が謎の世界に召されていたのは、魂が抜けているという状態にあった、という表現です。
幽体離脱と言うのに似たやつです。

そして妖精さん達から明かされる妖精さんの秘密。
どうして今まで涼月の妖精さんが、涼月の傍に居て涼月の為に尽くしていたのか、
という理由が此処で明らかになりました。
アニメでは妖精さんについて全くと言っていいほど触れていなかったので、
ここら辺りは完全に自己解釈およびオリジナル設定です。

意識も含めた全てが覚醒した涼月と、改装を終え覚悟を決めた大鳳がゆく。
彼女達は文字通り、救世主となりえるのか。

次回、最終回前編。第四十話『今を生きる』

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