艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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更新遅れてすみません。

戸惑う面々、されど敵の攻撃は止まず。果たして連合艦隊に勝利はあるのか。
夢と波間の先に、掴む未来はあるのだろうか。

第十二話、後編です。


第三十八話『忘却ノ波間』

Side 大和

 

 

「私達機動部隊は敵艦隊の撃滅に向かいます。

 大和さん達は中間棲姫の撃破をお願いします!」

「解りました」

 

赤城さんの指示で私達は中間棲姫の撃破に向かう。後ろで私を護衛するのは磯風さん。

その後ろを単縦陣で金剛さん率いる金剛型の方々が続く。

舞風さんと野分さんは赤城さん達機動部隊の護衛艦として私達の元を離れた。

 

前方に見据えるのは中間棲姫。

傷ついた体を酷使させ未だに敵機を発艦させようとしている。

 

「大和、お前の射程であれば届く。その46cm砲、見せつけてやれ」

「そうですね……そのために私は作られたのですから」

 

磯風さんの言葉と共に、46cm砲を構える。

その口径と砲身の長さから圧倒的な長射程を誇る私の主砲は、

この連合艦隊の、ひいてはこの国の最終兵器であった。

 

「大和、砲雷撃戦、始めます!」

 

その轟音にも似た強烈な発射音と共に放たれた砲弾は、

MI島に居座る中間棲姫の丸い外装を抉り取る。

 

「oh! 流石大和の46cm砲ネー!」

「私達の出番、無いんじゃないでしょうか?」

「いえ、お姉様方よく見てください!」

 

霧島さんが気を抜く金剛さんと比叡さんを指摘する。

先程の砲撃は中間棲姫の丸い外装を抉り取っただけで、

本体である人型の方には一発も当たっていなかったのだ。

 

再度徹甲弾を装填して発射。

しかしその砲撃も本体を反れ、付近の陸に突き刺さるだけ。

その狙いは先ほどよりずれた物だという事は誰が見ても明らかだった。

 

「やはり、その長射程故に精度が……」

「いや、大和の実力ならば問題はないのだが……」

「大丈夫です。次は直撃させます!」

 

磯風さんが心配そうに視線を送ってくる。

私はそれを半ば無視する形で再三徹甲弾を装填し放った。

例え基地であろうとも人型の深海棲艦。この46cm砲が直撃すれば耐えれない。

鈍色の雲の下、弧を描く砲弾が中間棲姫に突き刺さ……らない。

果てには海上に落ちて大きな水柱を上げる物まで現れる始末であった。

 

「………」

 

どうして私の46cm砲は応えてくれないのだろう。

涼月さんを助けた時の様に、初めて私がこの砲を使った時の様に、

私の46cm砲は答えてくれないのだろう。

今ここであの敵を討ち滅ぼすことが出来なければ、味方に被害が出る事が解っているのに。

今ここで中間棲姫を討てなければ、涼月さんの様になってしまう艦娘が出るかもしれないのに。

今ここで私が討たなければ、この作戦に大きな狂いが生じるというのに。

 

この砲撃を繰り返す度精度はひどくなっていく。

私達が接近した関係でもう35.6cm砲の射程内であった。

それでも私の砲撃が当たる様子はない。

 

「……金剛、頼む」

「OK! Let's partyyyyyy!」

 

金剛さん達が放つ砲弾が中間棲姫の本体を貫き、発艦させようとしていた敵機に誘爆。

その爆発に巻き込まれながら中間棲姫は倒された。

 

「大和、中間棲姫は倒された。赤城達の援護に向かうぞ」

「私は……」

 

その場で項垂れる。

私は中間棲姫を討つという本来であれば簡単なはずの任務も果たせなかった。

料理や環境を整える事だけが上手い、戦うことも出来ない艦娘。

そんなことで私は本当に大和ホテルと言われても仕方ない。

 

「後悔してなんになる。私達は勝ったんだ」

「……確かに私達は勝ったのかもしれません。ですが、私は私自身に負けたんです」

 

『おかしいですよね。心も体も私と共に強くなろうと誓ったのに、

 いつの間にか私は涼月さんより弱くなってしまった』

 

吹雪さんに話したことを思い出す。

私は弱い。けれど涼月さんが居てくれたからこそ頑張る事が出来た。

涼月さんの為に頑張る事が出来た。

だからこそ初めて涼月さんを助けた時も、あのトラック島空襲の時も、助ける事が出来た。

でも今あの人はここには居ない。

私の護衛艦に成る為に頑張った彼女が例え意識を取り戻したとしても、

もう二度と戦場に立てないのだ。

一番頑張っていたあの人も、あの人の為に努力していた私も報われなかった。

共に強くなろうと言ったのに、共に報われない結果が訪れた。

 

『涼月さん、良く私に言ってくれたんです。

 『出来る事を見極めろ、出来る事をしろ』って。

 それはできないことを無理にやらず、今出来る事をするってことだと思うんです』

「戦うべき時に戦えない私に、今などないのです」

 

吹雪さんの励ましの言葉ですら今の私には意味をなさない。

今が無いなら私の未来も無い。私の未来に涼月さんは居ない。

私の目の前は真っ暗な闇に覆われた。

 

『中々ニ面白イネェ。ソノ絶望、ソノ倦怠、ソノ後悔、ソノ未練』

 

頭の中に何かの声が響いてくる。でもそれは関係ない。

私は今絶望しているのだから。

 

『ソレガ私達ニトッテ最大ノ糧デアリ、君ニトッテ発火剤ニナル』

 

『ソノ負ノ感情ニ呑マレテ、コンナツマラナイ世界ナンテブッ壊セバイイ』

 

頭の中に響く声が鮮明に聞こえてくる。理解していく。

そうだ。あの人の居ない未来など私にとっては意味などない。

ならばいっその事その未来を全てこの力で破壊しつくしてしまえば、

幸せになれるのではないのだろうか。

 

『サァ、ソノママ深ミニ堕チチャイナヨォ』

 

暗闇の中で何かが手を伸ばす。その手を取れば私は幸せになれる。

そう思ってその手を取ろうと手を伸ばし……阻まれた。

 

阻んだのは複数の私の妖精さん。

音楽隊の子、料理を作る手お手伝いをする子、戦闘で援護してくれる子。

様々な種類の妖精さんが私の手を阻んだ。

 

『駄目だよ大和ー!』

 

可愛らしい声が聞こえてくる。

思いのほかそれは先ほど響いてきた声とは別の温かさがあった。

本能的にその声へと耳を傾ける。

 

『大和が悲しいのは解るけど、諦めちゃ駄目だよ!』

『最後までかけてみようよ! 涼月の可能性に!』

 

涼月さんの可能性? この子達は何を言っているのだろうか。

例えあの人の意識が戻っても再び戦場に立てないのはこの子達だって知っているはずだ。

なのにこの子達はかけろというのだ。

 

「貴女達も知っているでしょう、

 あの人が再び戦う事はおろか今までの様に生活することすら難しいと」

『でも可能性は零じゃない!』

『どんなに低くても、零じゃないから信じられる!』

 

この子達のいう事はもっともなのかもしれない。

でも限りなく零に近い確率など、信じるにも値しない。

 

『ソンナ奇跡ミタイナ事、起キルワケナイジャン。素直ニ諦メタ方ガ幸セダヨ』

 

そうだ、奇跡。奇跡は起きないからこそ奇跡。

でなければ奇跡などと言う特別な名前が付くわけがない。

 

『でも、奇跡みたいなことが起きるから、『奇跡』って言葉があるんだよ!』

「っ!」

 

奇跡。奇跡という言葉。そうだ。

そんな事象が起きなければ『奇跡』と言う言葉はこの世に存在しない。

存在するからこそ名前がある。

 

私があの時涼月さんを助けた時も、『奇跡』と言えば奇跡だ。

何せあんなにも深海棲艦の近くに居た涼月さんを誤射することなく、

敵の駆逐艦のみを打ち貫いたのだから。

 

「奇跡……なるほど、その言葉に懸けてもいいかもしれませんね」

 

私は伸ばした手を妖精さん達の方へと伸ばし、包み込む。

本当に私の事を解っていたのはこの子達のようだ。

考えてみれば至極当然の事。ずっと一緒に居たのだから。

こんなどこの馬の骨かも解らない謎の声に惑わされていた自分が恥ずかしい。

 

『フーン、ツマンナイナァ。マァイイカ』

 

謎の声がつまらなさそうに呟く。しかし私にとってはそんなことはどうでもいい。

私にとって重要なのは涼月さんの奇跡にかける事だ。

 

『ナラモウコンナ回リクドイ事、シナクテイイヨネェ!?』

 

狂気に染まったその声と共に、私は現実へと引き戻される。

周囲を見渡しても深海棲艦の姿はない。残っていた敵は赤城さん達が殲滅し終えたようだ。

しかしその空を見て疑問を抱く。鈍色の雲に覆われたままだ。

本来ならば主力である深海棲艦を叩けば海域解放となりこの鈍色の雲は掃われるはず。

 

『アーアー、エットー? 呉トトラックノ艦娘ー。聞コエテルカナー?』

「っ?!」

 

今度は無線を通じてあの謎の声が聞こえてくる。

口調はひどく押さない様子ではあったが、

逆にそれが先ほどの様な狂気を潜ませている事を理解できた。

周囲をもう一度見ても何の姿も見当たらない。寧ろ私以外の皆にも聞こえているようだ。

 

「この声……無線から!?」

『アァ聞コエテルンダ。チョット挨拶ダケデモシトコウカト思ッテ』

 

戸惑う皆に変わって私が声を上げるとこちらの声が向こうにも聞こえているのか、

雑ながらも返答してくる。それが逆に私達の不安を駆り立てる。

 

「貴女は一体何者なんですか!」

『ゴメン! 時間無イカラ要件ダケー。君達ニ素敵ナプレゼントガアルンダヨー』

「プレゼント……?」

『ジャ、頑張ッテネー!』

 

強引に無線が切られ、その狂気に染まった声は聞こえなくなった。

 

彼女の言っていたプレゼントとは一体何か。

最後に残した頑張ってというこちらを態々応援する言葉。

そして未だに晴れないこの鈍色の雲。

全てはこの戦いが終わっていない事を意味していた。

 

次の瞬間、対空電探に無数の敵艦載機を捉える。数を数えていてはキリがない。

ならば別の事をするまで!

 

「三式弾装填、全砲門開け! 行きますよ、私の妖精さん達!」

『敵機捕捉! やっちゃって、大和さーん!』

「全主砲、薙ぎ払え!!」

 

全ての主砲から放たれた三式弾が空で花火の様に広がり、

島の向こう側から飛んで来た白い艦載機のほとんどを叩き落とす。

残った敵艦載機は増設された25mm三連装機銃の全てを使って掃討。

しかし対空電探では未だに敵艦載機を捕捉し続ける。

 

「どうして! 中間棲姫は倒したはずなのに!」

「落ち着いて下さい吹雪さん。先程の言葉を聞く限りまだ敵には手があるという事です」

 

吹雪さんが悲痛な声を上げるも、私は冷静に答える。

再度三式弾を装填して主砲を放ち、残敵を機銃で掃討。

こんなことを繰り返していてはただのいたちごっこだ。何とかして敵を探さなければ。

 

「! 皆、あれ!」

 

夕立さんが島の東側を指す。

そこには輪形陣を組みながらも、こちらへ向かって進撃してくる敵機動部隊の姿があった。

 

先頭を進むのは黄色い瘴気を纏った戦艦。

その後ろと最後方に居るのは黄色い瘴気を纏った空母。

その両隣には守る様に駆逐艦が二隻。

その姿はまるであの時トラックを襲った敵艦隊にそっくりであったが、

唯一違う何かがその中央に居る。隻眼のヲ級ではない。

 

白く膝まで伸びた白い髪。

そしてその髪を流しながらも左側にはサイドテールの様に結んでいる。

服は纏っておらず、むしろ直接黒鉄の甲冑を着込んでいるように見える。

その深海棲艦はまるで車椅子に深く座り込む一人の女性の様に、

まるで眠りから覚めたかの様な体勢でこちらを見つめている。

それが先程の中間棲姫よりもよっぽど人間、艦娘らしく見えた。

 

相手の艤装は座面が非常に長い椅子の様になっており、

背もたれともいえる部分の上には二門の主砲がある。

そして肘掛と思われる部分には長い滑走路のような物があり、

そこから絶えず白く丸い艦載機を発艦させていた。

 

『ナンドデモ……ナンドデモ……シズンデイケ……!』

 

無線ではなく直接頭の中に響き渡る深海棲艦の声。

こんな相手は初めてだ。しかし、討たなければ奇跡を信じる私に未来はない。

 

「戦艦大和、砲雷撃戦「待ってください!」」

 

砲撃を始めようとする私の声を遮ったのは、他の誰でもない赤城さんであった。

一体何事かと思って振り返るとそこには、

信じられないような、何か懐かしいような、そんな視線であの深海棲艦を見つめる、

赤城さんと加賀さんの姿があった。

 

 

Side 赤城

 

 

信じられなかった。有りえなかった。

 

無線で聞いた謎の声。その声が聞こえなくなった後、島の影から現れた敵機動部隊。

堂々の輪形陣で何かを守る様にこちらに姿を現した。

ル級やヲ級の陰に潜むもう一体の真の敵。その姿は『天城姉さん』その人だった。

 

「戦艦大和、砲雷撃戦「待ってください!」」

 

大和さんがその主砲を放とうとした時、私は無意識に声を上げた。

その声に驚いて大和さんがこちらを向いてくるが、

私の視線は常に『彼女』へ向けられている。

 

でも彼女は確かに死んだはずだ。なのになぜここに居る?

深海棲艦となって私達の前に立ちふさがる?

現実と過去、思い出と今が混じり合って混沌となり、私達を惑わせる。

 

「赤城さん、あの人は……」

「解りません、どうしてあの人が此処に居るのか……」

 

葬式の後彼女は火葬され、遺骨はそのまま納骨されたはずだ。

その事実は私も、加賀さんも知っている事実だ。

でも彼女は目の前に居る。一瞬天城姉さんに似た誰かだと思ったがそれも否定できない。

私の中の何かが、彼女は天城姉さんだと定義付けるのだ。

 

解らない。解らない。解らない。

 

『テッキチョクジョウ、キュウコウカ!』

 

彼女の声が脳内に響き渡る。その一言一言が私達の記憶を抉り、掘り返してくる。

定めの軛も、あの時空襲を受けた記憶も。

空を仰げば本当に敵艦載機が直上で爆撃体勢に入っている。

 

動けないのは私や加賀さんだけではない。蒼龍さんや飛龍さんもだ。

定めの軛を分かち合ったが故にそれを掘り返され、悲劇が脳裏に映る。

恐らく分かち合わずともこうなっていたのだろう。これは逃れられない運命。

 

やめて。貴女はそんなことをする人じゃない。

私達の知っている天城姉さんはもっと素敵で、私達の憧れだった。

 

なのにどうして私達を傷つけるの? 深海棲艦だから? 敵だから?

だったら深海棲艦とは、敵とは一体何?

そもそも敵なんて最初からいなくて、私達が一方的に深海棲艦を殲滅しているだけだとしたら。

深海棲艦こそが本来あるべき姿であり、正義なのだとしたら?

先手を打ったのがこちらであれば、あの時の様に報いを受けるのは当然であり必然。

 

私達が戦うのは何の為? 国を守る為? その国に踊らされている人形だとしたら?

提督や上層部からの命令を受ける為の人の姿を持ち、

海を駆け深海棲艦と互角かそれ以上に渡り合う為の艦の力を持った私達。

それが『艦娘』として生まれた私達の真意なのだとしたら?

 

私は、私達は、気付いてしまったのかもしれない。気付いてはいけないことに。

 

「あああああああああああ―――――!!!!」

 

その叫び声は、敵艦爆の撃墜による爆発によって消し去られた。

 




艦娘と言うものは人間の体に艤装を付けて戦う者。
故に艤装は心の惑いとリンクしやすく、
大和の様に緻密な計算を必要とする長距離砲撃の場合、それが顕著に表れる物としています。
影響は、『吹雪達の手に持つタイプ』より『大和・金剛といった一体型』の方が受けやすい仕様です。
システムについてはいずれお話すると思います。

今無き者に今を成す事は出来ぬ。絶望の典型的パターンです。
今に絶望するというのは、今では無い何かに囚われるという事でもあるという見解。

敵の付け込む甘い言葉と真に信じられる者達の言葉。
奇跡のお話は、あの某野球ゲームから。
妖精さんの正体が少しずつ見えて来たのではないのでしょうか。
妖精さんはかっこかわいい。

一難去ってまた一難。敵の謎の声。(完全に主任です本当にありがとうございました)
敵編制がトラック泊地イベのE-2に酷似していて完全に俺氏歓喜してました。
感想の方でも結構声が上がっていましたが、そうです。『空母棲鬼』です。
なんだ『鬼』かと思うことなかれ。
そして一航戦と二航戦に対してのダイレクトな精神攻撃。
話題を共有していたというよりも同じ夢を見ていた、
その被害(轟沈)側故と思っていただければ。
ほぼほぼ敗因まっしぐらをダイレクトに突き抜けていく台詞ばっかりなので。

赤城の精神崩壊。恐らく血涙流してるレベル。(戦国BASARAの石田三成ルート的な)
執筆途中で迷走していた時は一発で打開するという状態になりましたがそうは問屋がおろさない。
いくら過去を振り払っても、過去が現実になれば誰もが戸惑うもの……


次回、艦これ空貫月光。第三十九話『月輪』
It`s time to dance with fairys!

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