艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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敵の強襲を何とか凌いだ赤城達。そして一縷の不安がよぎる吹雪。

第十一話から第十二話にかけてのお話。
ぼちぼち最後が見え始めてきた。


第三十七話『受け入れる者、背負う者』

Side 赤城

 

 

ただひたすらに、ただひたすらに敵機を撃ち落とす。

しかし敵の機動部隊は絶え間なく現れており、激しい航空戦は未だに続いていた。

 

あれからどれほどの敵艦載機を撃墜しただろうか。

そんな事も忘れてしまう程戦いは長期化していた。

そこまで時間を費やしても制空権を確保する前に敵の増援が到着してしまう。

 

こちら側では既に損傷した艦が出てきている。

特に皆の盾となって前線を張る比叡さんが特に大きな損傷を受けていた。

良くて小破悪くて中破と言った所だが、

それは彼女の練度による洗礼された回避の賜物であって普通ならば大破しているであろう。

利根さんや筑摩さん、北上さんや夕立さんには損傷が見られなかったが、

疲労が蓄積しておりいつ被弾するか解らない。

 

撤退しようにも敵の攻撃が激しく、思うように動けないのも事実。

そしてなにより中間棲姫の周囲を飛び回っている艦戦からの伝達によると、

中間棲姫が強引にも艦載機を発艦させようとしている所であるという事。

暫くはその上空の制空権を取っている艦載機によってこちらに被害が出る事は無いだろう。

しかしそれも時間の問題でしかなく最悪増援の敵機動部隊によって、

そこら一帯を一掃される可能性も十分にあり得る状況であった。

 

何とか艦爆を発艦させて中間棲姫に追加の一撃を与える事が出来れば、

状況が変わるかもしれない。だが敵はそれを許してはくれない。

その必死さから、深海棲艦も相当本気であるという事を体で感じ取る事が出来た。

 

敵の一番槍は防ぐことが出来たものの、

第二第三と続く波状攻撃が段々とこちらの戦力を削っていき、

こちらの艦戦の矢は残りわずかとなっていた。

それはつまり戦況は私達にとって不利な状況へと傾いていると同意であった。

 

「赤城さん! 直上!」

 

そんな中加賀さんが叫ぶ。

空を見ればこちらの艦戦の間を縫って、敵の艦爆が今まさに爆弾を切り離したところであった。

あまりに突然の事で体が追いつかない。

被弾してしまうと思った矢先、私は一つの衝撃を覚えて前へと押し出された。

 

爆発。バランスを崩しつつもその場から反れた私は爆撃を避ける事が出来た。

しかし私を押し出した人が被弾するのは必然。

黒煙を上げながらもその中から姿を現したのは加賀さんだった。

 

「加賀さん!」

 

彼女の服も胸当てもボロボロで、飛行甲板も大穴があいている。

自力で航行は可能な状態であったものの、発着艦は不可能であることが見て取れる。

 

「赤城さん、貴女を残して……沈むわけにはいかないわ」

 

肩で息をしながらも微笑む彼女は中破しており戦えそうにない。

それどころか後一発でも貰えば轟沈の可能性もあり得る瀬戸際だった。

酷く動揺しそうになったけれど、

ここで取り乱しては加賀さんにも私達機動部隊にも危険が及ぶ。

オリョール海での突然の敵襲来で涼月さんを庇った時も、彼女は的確に指示をしていた。

 

「皆さん、一旦落ち着いて陣形を組み直しましょう! 第三警戒航行序列で!」

「はい!」

 

現在比叡さんが率いる艦隊と私達空母四人はある程度離れてしまっている。

このまま分断され各個撃破されては元も子もない。

合流して陣形を組み直す。これならある程度背中は任せる事が出来る上に、

加賀さんを中心に置くことで敵艦隊からの被害は抑えられるだろう。

 

「赤城さん! 中間棲姫が!」

 

飛龍さんが声を上げると共に、中間棲姫の上空を飛んでいる艦戦達から緊急の入電。

それは中間棲姫が新型の戦闘機を発進させ、撃墜に失敗したというもの。

その新型は私達の艦戦を無視してこちらに攻撃しようと向かってきているらしい。

 

鈍色の雲に覆われた空の向こうから白い点々とした何かと、蒼い瘴気を纏った敵機が飛んでくる。

あれがおそらく新型の戦闘機だろう。

 

「あの敵機は……!」

 

それを捉えた加賀さんの表情が一変し、無理やりにでも艦載機を発艦させようとする。

思わぬ彼女の行動に蒼龍さんが抑え込んだ。

 

「駄目ですよ加賀さん! そんな状態で発艦させたら!」

 

確かに弓を使えば発艦は出来る。

しかし着艦させるためには私達空母が持っている飛行甲板の艤装が必要なのだ。

それにただそれを装備しておけばいいという問題でもない。

今の加賀さんの飛行甲板に穴が開いている様に、損傷が激しければ着艦は不可能。

 

「未帰還機でも構わないわ……あれは、落とさなければならない。涼月さんの為にも」

 

いつもと違う様子の彼女に、私は何かあったのだろうと思う。

しかしあの敵機は私も見たことが無い。

それに、加賀さんの呟いた涼月さんの名前。

 

加賀さんは第五遊撃部隊、涼月さんは第一機動部隊。

泊地に戻ってからは旗艦を止めて泊地の艦隊に所属している。

そんな彼女と加賀さんが共に戦う戦闘、それもあの様な敵機を含む大規模な航空戦など、

私の知る範囲では存在しなかった。そう。それは私の知る範囲での話だ。

私が知らなくても彼女と涼月さんが共に戦ったことは一度だけある。

 

トラック島空襲。結果は敵機動部隊の全滅、

トラック島への損害は非常に軽微に済んだと聞いている。

それは嘘ではないというのが解る。でも、何か裏がある気がした。

最近の第五遊撃部隊の皆の様子。特に加賀さんや瑞鶴さん、吹雪さんの様子がおかしかった。

そして今その加賀さんがあの敵機を見て、

自らが中破しているというのに『未帰還機でも構わない』と発艦させようとしている。

 

トラック島への損害は軽微。しかし艦娘への損害は知らされていない。

ならば自ずと導き出される答えは一つだ。

 

「加賀さん。トラック島空襲の時、涼月さんに何かあったのですか?」

「!」

 

必死に発艦させようとした加賀さんの構えが崩れる。相当動揺しているようだ。

やはり涼月さんに何かあったのだろう。

それ以上口を開かない加賀さんであったが、沈黙は同意を意味する。

そしてその事実は私を含めたここに居る全員が理解した。

 

艦娘の傷は全て入渠によって治す事が出来る為、

例え重症でも最悪長時間入渠していれば完治させる事が出来る。

四肢の一部が失っても、手術によって接合し取り戻すことも可能と言えば可能だ。

 

しかし彼女の先程の必死さも戸惑いも、そのどちらにも当てはまらない物。

敵討ちに近いような必死さと、轟沈した時の戸惑い。

二度と取り戻せない者に対して抱く感情にそっくりだった。

私なら解る。それに似た感情を抱いたことがあるからだ。

 

「涼月ちゃん、もしかして轟沈しちゃ「轟沈はしていません!」」

 

夕立さんの発言を遮るように声を荒げる加賀さん。

その一言には轟沈していないという事実と、

轟沈と同じような何かがあったのだという事を、皆に知らせる事になる。

 

「涼月さんは生きています。ただ、今は眠っているだけで……」

「まさか、植物人間状態とか……」

 

飛龍さんの発言に首を縦に振る彼女。

同じ艦隊であった北上さんも自然と視線を逸らしていた。

 

直後、付近に水柱が上がる。

 

涼月さんの一大事。

それは今まさに戦闘中という事を忘れさせるほどに衝撃的な物で、

結果として私達は莫大な隙を晒してしまっていた。

遠くに見えていた正体不明の敵機はもうすぐそこにまで接近しており、

その中でも特に速い蒼い瘴気を纏った敵機が、こちらの直掩機を次々に撃墜している。

練度の高い私達の艦載機を叩き落とす敵機が語るのは、圧倒的な性能の違い。

練度を上げても機体が古ければ頭打ちも必ずある。故に深海棲艦は新型を作り上げたのだ。

特に物量で押す事が出来る深海棲艦だからこそ出来る事でもある。

 

「なんじゃあの艦載機、速いぞ!」

「対空射撃が追いつかないよ!」

 

初めて見る敵機の運動性能の高さに皆が戸惑いをおぼえながらも 対空射撃を開始した。

しかしその弾は当たる様子も無く、逆にこちらの艦載機の数が減らされていく。

そして、制空権の維持が難しくなったところにもう一つの新型機が襲い掛かる。

 

白く丸い物体の口から爆弾が吐き出され、蒼龍さんと飛龍さんが被弾する。

 

「やだやだやだ! 誘爆したらどうするのよ!」

「っ! やってくれるじゃない!」

「蒼龍さん! 飛龍さん!」

 

二人の損傷はそこまで激しくなかったものの、

その爆発によってハチマキの両端が焼け焦げている。

 

「大丈夫ですよ! この程度で私達は沈みません!」

「よくも鳳翔さんお手製のハチマキを!」

 

艦載機を発艦させようとしても敵機の攻撃が激しく、

二人も発艦は不可能な状況にあった。

それだけではない。一度輪形陣を組み直したせいで、

敵戦艦からの砲撃もこちらに集中し始めて更なる困難を極めていた。

各個撃破されるどころかこのままでは一網打尽になってしまう。

 

「赤城先輩! 上空に急降下!」

 

上空から丸い物体がガチガチと歯を鳴らしながら突っ込んで来る。

その口の中には艦爆特有の大きな爆弾が見え隠れしていた。

咄嗟に矢を番え構えようとしたところで水柱が上がり体勢を崩す。

 

水平線の向こうに居るのは黄色い瘴気を纏った空母ヲ級が2隻と、

赤い瘴気を纏った戦艦タ級が1隻、赤い瘴気を纏った重巡リ級が1隻、

駆逐艦ハ級の後期型が2隻。先程の水柱はそのタ級による至近弾。

体勢を崩したところに間髪入れず爆弾が投下されようとしていた。

 

私達は定めの軛を分かち合い、共に強くなった。

だからこそ敵の一番槍を止める事が出来た。しかし、それだけでは圧倒的に足りない。

私達だけでは限界がある。たとえ定めの軛を受け入れても、その限界は越えられなかった。

今迫りくる定めの軛を越えた『運命』には、抗えなかった。

 

何処で何を私は間違ったのだろうか。

あの時吹雪さんと別れずに共に大和さんを待った方が良かったのだろうか。

そうすればこの襲撃も凌ぐ事が出来たのではないだろうか。

だが現実はその後悔する暇すら与えてくれない。

 

絶望は、そこにあった。

 

 

「『まだ諦めてはいけません!!』」

 

その言葉と共に後方から飛んで来た砲弾がその艦爆に直撃し撃墜する。

そして視界の中に飛び込んできたのは、吹雪さん。

彼女は次々と砲撃を繰り返して襲い掛かる白い敵機を次々に打ち貫いていく。

 

その彼女の背中を見て私は再確認する。やはり彼女は私達の光なのだと。

 

 

Side 吹雪

 

 

私が赤城先輩達を捕捉したのは、飛龍さん達が被弾した時。

そして今まさに赤城先輩の上空から、あの丸い敵艦載機が襲い掛かろうとしていた。

赤城先輩は体勢を崩していて、避けられそうにない。

 

それはまるで、初めて私が出撃した時駆逐艦に襲われたような。

だから私はあの言葉を叫んだ。

 

「まだ諦めてはいけません!!」

 

私は私の努力してきた事を信じて突き進む。

今までの努力。強くなりたいという私の意志。それをまとめて一つにして引き金を引く。

それが私と赤城先輩の『正射必中』! 放たれた弾丸が敵を貫き爆発。

庇うように赤城先輩の前に躍り出て更に砲撃を繰り返して、

何とか全ての白い艦載機を撃墜することに成功する。

 

涼月さんから受け継いだこの長10cm砲は12.7cm連装砲よりも性能が高い。

長射程、高い速射性能。南西諸島の時はあまりに咄嗟すぎて、

この砲がどういったものなのか分析する余裕もなかった。

でも今なら解る。防空駆逐艦である涼月さんにとって相応しい装備だったのだと。

 

「皆さん! 大丈夫ですか!?」

 

視線は空に向けたまま皆に声を掛ける。

私達の上空には赤城先輩達の直掩機を撃墜する青いオーラを纏った艦載機が居る。

相当な速度で空を翔けているから、

撃墜するのは赤城先輩や加賀さんと一緒に防空演習していた時より難しい。

それでもこちらの直掩機を減らさないために、偏差射撃で相手の進路を断つ。

 

「吹雪さん。どうしてここに……」

「そんなことは後からでも話せます! 加賀さんと比叡さんはすぐに退避してください!」

 

赤城先輩の前に出る時加賀さんと比叡さんの損傷が激しいのが見えた。

もしもの事があってはいけない。

まだ制空権が確保できていないからこそ退避を命じたんだ。

 

「大丈夫よ吹雪さん。私はまだ戦えます」

「そうですよ吹雪ちゃん。ここでのこのこ帰ったら、金剛型四姉妹の恥ですからね!」

 

加賀さんも比叡さんも退避する気は全くない。

 

比叡さんにおいてはその言葉の後三式弾を発射して、

遠くの敵艦隊に対して反撃の余地を与えていなかった。

散弾が降り注ぎ深海棲艦は燃え上がって一種の目くらましになっている。

駆逐艦においては弾薬に引火したのか誘爆して既に沈んでいた。

流石比叡さん。金剛さんにも負けず劣らずの砲撃の腕だ。

 

「oh! 流石私の妹デース!」

 

聞き覚えのある独特な日本語と共にどこからともなく現れた白一本と白二本の艦戦が、

四機がかりで蒼いオーラを纏った敵艦載機を叩き落とす。

その声と艦戦が現れた方向を見れば、

金剛さんが大和さん達を引き連れてこちらに向かってきていた。

榛名さんを始めとした呉から派遣された主力艦隊に、

大和さんを筆頭に陽炎型駆逐艦の三人を含んだトラックとの連合部隊。

しかしそこに涼月さんと、もう一人空母の人の姿はなかった。

 

「金剛お姉さまー!!」

「比叡ったら、泣いてはいけませんヨー。まだ私達の戦いはこれからネ」

「はい、はい!」

 

比叡さんが金剛さんの元に飛びついて、胸元で泣いている。

嬉し泣きか今まで頑張っていたのをねぎらってほしいのかは解らないけど、

その嬉しそうな顔を見ると自然と緊張がほぐれた。

涙を拭い、比叡さんと一緒に敵艦隊を見つめる金剛さん達。

 

「艦隊戦なら私達金剛型四姉妹の出番ネ! Follow me!」

「深海棲艦には、私達の絆も、戦いも、負けません!」

「榛名! いざ、艦隊戦始めます!」

「さて、どう出てくるかしら! 金剛型四姉妹、砲撃開始!」

 

金剛さん・比叡さん・榛名さん・霧島さんの放った徹甲弾が、

炎上する敵艦隊を貫き巨大な爆発を起こした。

 

先程敵機を撃墜した艦載機は赤城先輩達の直掩機に含まれていて、

こちらの制空権の確保に努めていた。

 

「翔鶴さん、瑞鶴さん……いつの間にそこまでの練度を」

「私達五航戦も一航戦、二航戦の先輩方にいつまでも頼っているわけにはいきません」

「それに大規模編制の時に私達だって前線に出てたんだから、

 自然と練度だって上がるに決まってるわ」

「それでも、あの敵機を落とすのにあれだけの艦戦を使う必要もなかったんじゃないかしら」

「落とせばそれでいいのよ。それで皆が守る事が出来るなら」

 

にっこりとほほ笑む翔鶴さんに、加賀さんの挑発的な口調をさらりと避ける瑞鶴さん。

いつもなら食いつく様に反論していたのに、その姿を見て加賀さんは笑いを零した。

 

「五航戦……いや、瑞鶴さん。私は今までの貴女が嫌いだったわ」

「反抗期って奴よ。そんなんじゃ誰だって、私だって嫌いにもなるのも無理はないし」

「でも、今の貴女はそうじゃない。そうでしょう?」

「流石加賀さん、良く解ってるじゃない!」

 

そう言って瑞鶴さんは追加の艦戦を発艦させて直掩機の増援を行う。

私の知らないところで、瑞鶴さんはとても成長していたみたいだ。

 

「吹雪さん、赤城さん。すみません、遅れました」

「トラック泊地の近海に潜水艦が居てな。その迎撃に時間を取られてしまった」

 

大和さんと磯風さんが前に進み出て謝罪する。

潜水艦。隠密を重視している艦種。

不意打ちなどに特化しているから、そんな物がこの作戦に紛れ込んでいては大変だ。

寧ろ近海に居たのだから、大和さん達も危なかったに違いない。

それでもトラックからやってきた人達には目立った被弾も無かった。

 

「大和さん、大鳳さんは?」

「大鳳は改装の為に少し遅れる。悪く思わないでくれ」

 

磯風さんの言葉に淡い光を放っていた夕立ちゃんや私自身の事を思い出す。

大鳳さんも頑張って練度を上げていたんだ。なら多少遅れるのは仕方ないのかもしれない。。

 

「大和さん、涼月さんは……」

「……あの子は」

 

そんな中、赤城先輩が何か知っているような目で大和さんに尋ねる。

その問いかけに大和さんは悲しそうに視線を逸らした。

 

「……解りました。この作戦が終わってから再度お尋ねします。

 今は迅速に敵を殲滅することが何よりも優先すべきことですから」

「……はい」

 

増援が来たというのに、嘘という名の砦が崩れ去り重い空気がその場を支配していた。

 




キタ! (アニメの)主人公キタ! これでかつる!
多分ここらへんでシンクノソラーとか鳴ってる。

しかし、一方の大和は……

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