艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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時間はさかのぼり、第十一話の呉視点のお話です。
定めの軛に対して何かを見出した赤城達は無事MI作戦を遂行する事が出来るのか。




第三十六話『定めの軛』

Side 赤城

 

 

私達はトラック泊地へ向かった主力艦隊と分れ、先に合流地点にて待機していた。

事前に偵察機は飛ばしておいたものの敵を発見出来ていないどころか、

味方の主力艦隊すら見つけられていなかった。

 

「加賀さん、どう?」

「いえ、こちらには何も。蒼龍さん、飛龍さんは?」

「こっちも駄目みたいです」

「この天気だと流石に厳しいのかな……」

 

鈍色の雲が覆う敵の勢力圏で、刻々と時間だけが過ぎていく。

金剛さんも水上電探に意識を向けているが、

見つけられないのかあまり良い表情ではなかった。

 

「来ませんね、大和さん達」

「既に予定時刻を過ぎておる。何かあったのではないか?」

 

利根さんが懐中時計を見ながらも時間を気にしていた。

 

「無線封鎖が徹底されている以上、向こうの動きも解らないですもんね」

 

筑摩さんの発言が今のもどかしさの原因を付いていた。

予定時刻を過ぎても現れない主力艦隊、何かあったのではと思ってしまうも、

無線封鎖の徹底によって互いの連絡手段は意図的に断たれている。

この状況でどう動く? 旗艦として私は何をしなければならない?

考えるんだ。今まで私達が行ってきた事を、まとめ上げて、未来に繋ぐ為に。

 

「進みましょう、赤城さん」

 

そんな中加賀さんが私に進言する。

 

「ここは敵の勢力圏内。このまま敵に見つかっては一網打尽になりかねません。

 なのでここに数人残した状態で私達は索敵を続けたまま進撃するのがいいかと」

 

加賀さんの言う通り此処は敵の勢力圏。

敵機動部隊が少ないとはいえ相手も偵察を行っている筈。

制空権、制海権共に喪失していなければ確保もしていない。

 

故にこの場所に留まり続けても、いつ敵がどこから襲ってくるのか解らない。

だからと言って全員で動けば大和さん達主力艦隊と合流出来ない可能性が高まる。

その為に数人ここに残し合流させ、私達が先行して制空権、制海権を確保する。

なるほど、それならば……

 

「吹雪さん、金剛さん」

「は、はい!」

「貴女達はここに残って大和さん達を含む主力艦隊と合流後、

 私達の後を全速力で追いついて下さい」

「で、ですが今動けば敵に発見される可能性も……」

「そのために私達機動部隊が先行するのです。

 制空権、制海権、共にどちらへ傾くか解らないこの現状で、共に失っては元も子もない。

 吹雪さん。待つのも一つの任務だという事を、理解していただけませんか」

 

不必要に動けば敵に見つかる可能性もある。

が、ここで立ち止まることが出来ない以上、偵察を行っている私達が先行した方が、

安全性も必然的に高くなる。

二人を残してもこちらには一航戦・二航戦以外に戦艦である比叡さん、

重巡である利根さんと筑摩さん、重雷装艦である北上さん、駆逐艦である夕立さんが居る。

 

吹雪さんだけを残しては敵に発見された場合の轟沈というリスクは高くなる。

なので大型電探を保有し戦艦である金剛さんにも残ってもらうのだ。

その点では比叡さんも同じなのだが、

第五遊撃部隊で長い時間を共にしているというのが決定打となった。

 

「……はい!」

 

吹雪さんの返事を聞いて私は首を縦に振り、先行するのだった。

 

 

/////////////////////

 

 

先行して暫く経つも、偵察機は相変わらず敵機も敵艦隊も見つけられていない。

間もなく敵棲地だというのに、敵は何をしているのだろうか。

 

「そろそろ棲地MIが、こちらの攻撃機の圏内に入りますよ」

 

加賀さんの発言に私を含めた皆の気が引き締まる。

MI作戦。棲地MI。この言葉が決意した私の心の隙間に入り込む。

でもあの悪夢に対して、私達は共に分かち合い気持ちを共有した。

大敗。それが私の慢心によるものなのだとしたら。

 

と、ここで水上機が戻ってくる。利根さんのカタパルトは不調だった為、

筑摩さんの物だろう。着水させ拾い上げる彼女。

 

「なんですって!?」

「どうしたのじゃ筑摩よ」

 

報告を受けたのか筑摩さんが驚愕する。

その異常に対して真っ先に気にかけた利根さんが声を掛けた。

 

「棲地MIに、中間棲姫が!」

 

中間棲姫。その名前からして泊地棲姫と同じような相手。

あそこまで大規模な攻撃をしてやっと倒せた相手だ。

それは深海棲艦も本気だという事が理解できた。

 

こちらの水上機による偵察は成功、帰艦して情報を伝えてくれた。

そして私達の偵察機は敵を見つけられていない。この状態ならおそらく奇襲は成功する!

そして何より、中間棲姫の撃破による制空権の確保。

これだけは先行した私達機動部隊が行わなければいけない。ならば私の決断は……

 

「第一機動部隊、一航戦、二航戦は、艦爆を随時発艦させてください!」

「「「はい!」」」

 

「攻撃隊、発艦はじめ!」

「第一次攻撃隊、発艦!」

「ここは譲れません」

「第一次攻撃隊、発艦してください!」

 

それぞれが思い思いの言葉を口にしながら、空に矢を放つ。

無数の艦爆機が空を覆い敵へと向かう。鎮守府正面海域を奪回した時と同じ光景だ。

その光景に、少しだけ安心感すら覚えてしまう。

制空権と言うものがどれだけ戦況を左右するのかという事に。

だからこそ先制を打ち相手の発艦能力を失わせる。その為の艦爆の発艦だ。

 

「第一次攻撃隊から入電! 奇襲に成功! 中間棲姫は被害甚大!」

 

蒼龍さんが喜びの声を上げる。

その声と共に私の艦載機達からも喜びの入電が入ってきていた。

そして、更なる入電。『カワカワカワ』。第二次攻撃隊の発艦の要請だ。

 

「流石に敵基地となると、一筋縄では行きませんね」

「そうね……」

 

こちらの損害はいたって少なく、更に向こうの発艦した攻撃機の数は少ない。

最初から直掩機は出ていない。なら攻めるのは今。

こちらも直掩機は出ていないが、いつでも出せる状況にある。

 

『いくらすぐ出せるという状況であったとしても、敵襲に遭ってからでは遅すぎます』

 

不意に、涼月さんの言葉が脳裏をよぎる。

バシー島を攻略した時の翔鶴さんへ向けての発言だ。

 

私はその発言を聞いて、私自身の何かに気付いた。

そして再び出撃したあのオリョール海で、話そうと決意したんだ。

 

オリョール海の奪回の時もそうだった。

敵主力部隊が居るであろう場所では主力部隊が見つからなかった。

むしろ帰還する後方からまるで初めから知っていたかのように現れた。

 

中間棲姫がいるという事は敵の主力であることはほぼ確定。

なら何故護衛艦が居ない? 何故中間棲姫だけが此処に居る?

今の状況は、あの時のオリョール海の状況と酷似している。

否、もっと厄介な状況だ。何故主力である中間棲姫を置き去りにしてまで……!

 

「中間棲姫は囮……?」

 

中間棲姫は基地ゆえに動けない。

だからこそ堂々と棲地MIに配備して囮にし、それを狩る私達を食らう。

私達はそこに中間棲姫しか居ないという事を好機と取り、第一次攻撃隊を発艦させた。

何の疑いも無く、ただ敵を殲滅するという事だけに固着していた。

これが、『定めの軛』なのか。私達を無意識にその方向へと向ける、何か。

 

でも今気づけた。私自身の『慢心』に!

 

「皆さん! 直掩機を!」

「赤城さん?」

「すぐ出せるという状況であったとしても、敵襲に遭ってからでは遅すぎます!」

 

私の言葉に威圧されたからか、それとも何かに気付いたのか。

皆がそれに応える様に直掩機を発艦させる。

 

直掩機達が周囲を巡回し始めた直後、緊急の入電が入る。

 

「敵偵察機を確認……!?」

 

私は焦っていた。このまま第二次攻撃隊を発艦させていたら。

あのまま慢心という、定めの軛に流されていたらどうなっていただろうか。

偵察機を発見できないまま、私達は……

遠くの空で爆発が起こる。恐らく偵察機を撃墜したのだろう。

でも敵も敵で打電している筈だ。

 

「護衛艦である皆さんは対空を重視! 第三警戒航行序列を!」

 

これだけの直掩機と連合艦隊による輪形陣。後は敵の奇襲に備えるだけ。

 

「! 水上電探に艦有り!」

「数は!」

「戦艦1、重巡2、軽巡1、駆逐艦2!」

 

少数による構成であったが、それは護衛するには持って来いの編制でもあった。

でもそれだけでは済まなかった。

 

「直掩機より入電、六時の方向から敵攻撃機隊が接近しています!」

「っ!」

 

恐らく先程の偵察機の情報を受けた敵機動部隊によるものだろう。

ある種間一髪と言った所か。少しだけ安堵しながらも空を見上げる。

 

「私達機動部隊は制空権の確保を目指します! 比叡さん達は戦艦を含む敵艦隊の撃滅を!」

「了解しました!」

 

直掩機が出ているからか、更なる護衛機を発艦させる余裕が出来る。

涼月さんはこういった事態を予測してあのような発言をしたのだ。

制空権がどちらかに傾くか解らない今に似た状況で、私達を守ってくれた。

その教えは私の中で生きている。慢心を打ち消す特効薬として。

 

中間棲姫は被害甚大、あちらの制空権は第一次攻撃隊の艦爆が確保している。

追加の発艦の可能性はあったが、滑走路がやられては思うように発艦は出来ないだろう。

更なる直掩機を発艦させ航空戦に参加させる。

それは加賀さんや蒼龍さん、飛龍さんも同じだった。

 

鈍色の空に紛れた黒い敵機と、私達の艦戦達が激しい航空戦を繰り広げる。

向こう側では敵主力の護衛艦と思われる艦隊と、比叡さん達が交戦していた。

 

常に意識は空にあり、対空防御に徹する。制空権の確保が私達の役目。

そして主力艦隊が合流するまでの間、生き残る事が私達の役目。

それが先行するという道を選んだ私達の使命だ。

 

 

Side 夕立

 

 

「さぁ! 素敵なパーティしましょ!」

 

私の主砲が火を噴いて敵の駆逐艦を吹き飛ばす。

トラックで嫌と言うほど火力テストをしていたから自分の火力が本物だってことは、

自分自身でも十分に理解していた。

 

「夕立ちゃん! 戦艦は私が相手するから、駆逐艦をお願い!」

「了解したっぽい!」

 

残った駆逐艦は一隻。でも敵には戦艦に重巡洋艦と火力面では侮れない存在が居る。

でもそれならこっちも同じ。

戦艦は比叡さんが居るし、重巡なら教官の利根さんと筑摩さんが居る。

重雷装艦で北上さんがいるし、駆逐艦なら私が居る。

 

「均衡した状況だねー。じゃ、私は軽巡でも狙わせてもらおっかな」

「ならば敵重巡の相手は吾輩等じゃな。ゆくぞ筑摩よ」

「はい、姉さん」

 

各自が持ち場に付き一斉に砲撃を開始して、敵の分断に成功する。

それからは各個撃破するだけだ。

 

駆逐艦との同航戦による砲撃戦が行われる。でも私自身も負けられない。

機動力が高いかわりに装甲の薄い駆逐艦。条件は共に同じ。でも違う事があるとすれば。

 

「努力の差よね!」

 

機関を逆回転させ急速停止、その事態に敵駆逐艦は偏差射撃を行っていたからか、

私よりももっと先の所で水柱が上がっていた。

 

「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」

 

その言葉と一緒に四連装酸素魚雷を一斉発射。扇状に、かつ偏差を狙った雷撃は、

急旋回してこちらに向かってきた駆逐艦に直撃して、水底に消えていった。

 

「やるねー夕立ちゃん、私も負けられないかな」

 

北上さんが主砲で敵軽巡の動きを制限しながら、ここぞという時に魚雷を発射する。

その数発の魚雷が見事に命中、大きな水柱と共に沈んでいく。

向こうの方では利根さんや筑摩さんが敵重巡を、比叡さんが敵戦艦を沈めていた。

あっという間に制海権を確保する。

 

でもさらに遠方に別艦隊を発見する。

黄色いオーラを纏った空母ヲ級が3隻、赤いオーラを纏った重巡リ級が1隻、

駆逐艦イ級の後期型が2隻。

 

恐らくあれが奇襲部隊の本隊。私達は連戦になるも戦闘を挑むのだった。

 

 

Side 吹雪

 

 

私は胸の奥に感じるざわめきを感じながらも、大和さんを待っていた。

 

大和さん達が遅れているという事は目に見えて解っていた。

けれど一体なぜという事は私達の知る由もない。

もしかして敵の別働隊と接触して戦闘してるんじゃ……

そんな不安が私を支配すると同時に、

言葉では言い表せない漠然とした何かが私を駆り立てていた。

 

MO作戦で翔鶴さんと瑞鶴さんが襲われた時よりもずっと大きい。

トラック泊地が襲撃を受けた時に感じた物と同じような。ならこの何かは何だろうか。

あの違和感を感じて第五遊撃部隊を態々トラック泊地に転進させたんだ。

このざわめきが向かう方向に。

 

「ブッキー、またあの『何か』デスカー?」

 

金剛さんが私を心配してくれる。

実際金剛さんとは南西諸島海域の時からお世話になりっぱなしで、

私の事を気にかけてくれる数少ない先輩であり、

そして、第五遊撃部隊に成った今でも私を心配してくれる心優しい先輩でもあった。

 

「……ブッキー、そんなに気になるなら向かうといいヨ」

「でも、私が外れたら金剛さんが」

「確かに単艦での待機など危ないのは百も承知の事デース。

 でもそのせいでブッキーのSoulをThroughすることは出来ないヨ!」

 

元気よくサムズアップを飛ばしてくる金剛さん。

私はその金剛さんの表情が光り輝く金剛石のように見えた。

 

「金剛さん……」

「こっちも大和達と合流で来たら全速力で追いかけるネ!」

 

私は胸のざわめきを信じて赤城さん達の向かった方向へと全速力で向かった。

 




鈍色の雲の下中間棲姫が佇み、赤城らが討たんと奮闘する。
分断した理由は赤城さんなりの制空権の先生確保のためと思ってもらえれば。

第一攻撃隊の攻撃が成功し追加の攻撃隊の発艦要請。
しかし涼月の言葉を思い出し、流れるように同化していた軛に気付く。
バシー島、オリョール海共に割とこの為にあったと言っても過言ではない。

飛行場姫が居ない理由としては、『MI作戦だから』という理由です。
そもそも飛行場姫はAL/MI作戦であるイベントで登場していません。
なので今回は早急に退場して頂きました。

ここまで成してもまだ消えぬ吹雪の不安。
金剛さんは良き姉的存在だと意識しています。
でないとあの三人を纏められんでしょうし……

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