艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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アニメ第十二話inトラック泊地戦。
彼女らは無事に呉の艦隊と合流できるのか……


第三十五話『一心同体』

Side 大鳳

 

 

私も加勢しようと思っても、潜水艦相手に有効な攻撃手段を持っていない。

ここは彼女に任せるしかなかった。

 

「大鳳さんは偵察機による周囲を警戒していてください。

 他の敵艦隊が来る可能性があります」

「解ったわ」

 

野分さんが私の前に出て警戒してくれる。私はその言葉に従って彗星を発艦させる。

炎を纏って高速で飛んでいく彗星。これが精鋭機の性能なのか。

でも慢心してはいけない。それがあの時の様な悲劇を生むのだから。

 

野分さんが私の前に、舞風さんが大和さんの前に出て、魚雷に対する警戒を強めている。

その二人は熟練見張員の妖精さんを駆使して雷跡を発見しては機銃で迎撃し、

間髪入れず磯風さんがその方向へ向かって爆雷を投射することで撃破していた。

 

「そこだ!」

 

三回目になる魚雷の迎撃と敵潜水艦の撃破。これで計三隻もの潜水艦を撃破。

そのせいか磯風さんの爆雷は底をついていた。

しかしここまで潜水艦を撃破したのだ。

深海棲艦もこれ以上潜水艦の投入はしていないだろう。

それでも磯風さんは周囲への警戒を怠らない。

 

「磯風さん、そこまで警戒しなくてもいいのでは……」

「そう言うわけにはいかん。

 お得意のアウトレンジ戦法であろうと、敵がどこに潜んでいるかは解らないからな」

 

「大和、先程の攻撃による損傷はないか?」

「お蔭様で助かりました。ありがとうございます、磯風さん」

「なに、他愛ないことだ」

 

その目は先ほどの様に笑ってはいない。むしろ決意した目をしている。

私と出会って笑みをこぼした後の様な、決意と覚悟に満ちた顔。

そして彼女の発言には確証こそなかったものの、信じるに値する物だった。

アウトレンジ戦法と言う言葉も初めて聞いたけれど、初めてという気がしない。

潜んでいるという言葉にも頷ける。

私と彼女はいつかどこかでそんな言葉を聞いたことがあるような、そんな気がした。

 

彩雲各機から連絡。味方の艦隊を発見。こちらに向かってきているらしい。

燃料と妖精さんの為にも、こちらに帰艦することを命じた。

 

「皆さん、呉からの部隊が間もなく合流するそうですよ」

「あ、みんな見て!」

 

舞風さんが十二時の方向を指す。そこには複数の艦影があった。

空には彗星が複数機護衛として空を翔けていた。無事合流で来たという事に安堵を覚える。

 

が、そうは問屋がおろさない。

その合流する艦隊に向けて、四発の雷跡が浮かび上がったのだ。

突然の事で野分さんも舞風さんも、磯風さんでさえ不意を突かれる。

それもそのはず。こちらを狙っていた潜水艦が突然目標を変更したのだから。

急ぎ引き金を引く彼女らであったが、完全に迎撃できずに残った二本が合流部隊へと飛んでいく。

 

無線封鎖をしている為にこちらの声は向こうには届かない。

だからと言って迎撃しないと向こうに被害が出る。しかしこちらには打つ手がない。

磯風さん達は全速力でその魚雷を追いかけていたが追いつける筈がない。

向こうは回避運動を取ろうともしていない。

水柱には気付いただろうが、それが何によるものなのかは解らないのだろう。

 

「翔鶴さん!!」

 

私は必死になって名を叫んでいた。何故翔鶴さんなのかは解らない。

ただ、ただ何故か彼女に命中するのではないかという不安がそうさせたのだ。

もちろんその声が届くはずもない。そのまま雷跡は水平線の向こうへ消えていく。

 

ああ、また『大丈夫だろう』という気持ち、『慢心』によって味方が被弾するのか。

あれだけ演習したのにも関わらず、また守れないのか。

私はその場で蹲る。自分の無力さを噛み締める。涙が海に落ちて水面の中に消えていく。

 

『まだ私達が残ってるよ!』

 

そんな中、私の頭の中に声が響いて顔を上げる。

そこには偵察機替わりに発艦させ彼女達の護衛に付いている二機の彗星が、

海面に向かって特攻している所だった。

 

私はその姿を見て確信する。さっきの声は彗星に乗る妖精さんの声。

私の妖精さんの声。名前は知らない。でも少なくとも意思疎通は出来ていた。

彼女達が何をしたいのか。彼女達がどんな気持ちなのか。今なら手に取る様に解る。

 

『大鳳の無念! 晴らさせて貰うよ!』

「彗星さん!!」

 

駄目だ。このままでは彼女達は死んでしまう。

妖精さんと言うものは私自身も解っていない。

でも彼女らとて永遠と言うものは存在しない。その事実だけが理解できた。

 

『これは大鳳の! トラックの皆の! 私達の! 魂の叫びだああああああ!!』

 

そんな雄たけびにも似た言葉と共に、海中へ消える彗星。

次の瞬間、大きな二本の水柱が上がった。

 

茫然とその光景を見つめる私達。

しかしそれによって先程の魚雷は全て迎撃されたのだった。

 

 

Side 瑞鶴

 

 

合流しようとした直前に起きた一つの出来事。

微かに聞こえた大鳳の翔鶴姉ぇを呼ぶ声。そして護衛機の特攻による魚雷の迎撃。

それを見ていた私の中で沸々と怒りがこみあげていた。

 

海中に消える一瞬。その時見えた迷いの無い妖精さんの目は、

MO作戦発動直前に私の代わりに魚雷で被弾した加賀さんの目と同じだった。

私の不注意でまた狙われた。それも私の一番大切な、翔鶴姉ぇを。

それを守った代わりに今度こそ失った。大切な仲間を。

妖精さんと言う私達にとって大切な子達を。

 

『そして何よりも、回避運動もとろうともせず突っ込んで来る艦戦』

 

『これでは私の様な砲撃な回避はともかく、

 三式弾の様な空中で散布される特殊弾に対してどういった対処をするのですか』

 

でもどうしても、涼月のあの言葉が突き刺さる。

私の記憶を抉るように。はたまた、私を蝕む毒の様に。

MO作戦の時も一矢報おうと矢を放ったけど全機叩き落とされた。

さっきの艦爆の妖精さんのように一瞬の判断を下すことなど出来はしない。

 

頭の中で何かが囁く。それこそ『ターキー・ショット』。『七面鳥撃ち』。

そう。私の妖精さんは弱い。回避行動もとらないただの撃ち落とされるだけの的。

 

その頭の中で囁くそれが、私にとって全ての不快の原因だった。

だから私はそれを振り払うように今まで訓練してきた。

五航空と呼ばれてもなお、努力し続けていた。

私が私の納得のいく結果を掴むまでは終われない。

 

「七面鳥ですって!? 冗談じゃないわ!」

 

前方に躍り出て矢を番え、怒りに任せて引き絞る。

相手は見えないけど、絶対どこかに居る。必ず沈めてやる。

私を馬鹿にするような敵は全部叩き潰して沈めてやるんだ。

 

「瑞鶴」

 

優しい声と共に私の肩に手を置かれる。そこには翔鶴姉ぇの顔があった。

 

「翔鶴姉ぇ止めないで! 私が、私がやらなきゃいけないの!」

「いいえ、止めて見せるわ」

 

そのまま矢を番える手を持たれ、ゆっくりと解く様に矢をしまう翔鶴姉ぇ。

一連の流れに見入ってしまいそうだったけど、私の熱は冷めなかった。

 

「翔鶴姉ぇ! なんで、なんで毎回止めるの! 加賀さんと同じ部屋になった時も、

 涼月が翔鶴姉ぇを転属させた時も!」

「私が貴女の姉だもの」

「理由になってない!」

「それで十分なの。貴女は私の大切な妹。

 だから私は相手と瑞鶴の間に入って全部を受け止める」

 

「瑞鶴の相手に対する暴言も、行き場のない矢も、敵からの攻撃も、全部私が受け止める。

 それが、『被害担当艦』と言われた私の役目」

 

私を見つめる瞳から強い意志が伝わってくる。

『被害担当艦』という言葉をどこかで聞いたことがある気がする。

翔鶴姉ぇはずっとそう呼ばれて、不幸だと言われていた気がする。

でもそれは私のせいで翔鶴姉ぇは悪くない。むしろ私が悪いんだ。

 

「だから、自分で自分を傷つけないで瑞鶴。『幸運艦』の名が泣くわよ?」

 

私は『幸運艦』じゃない。翔鶴姉ぇのお蔭で被害が少なく済んだだけだ。

その自分の不甲斐なさに自分が腹を立てていただけだ。なら自ずと出てくる答えは一つ。

 

「ありがとう翔鶴姉ぇ」

「瑞鶴?」

「お蔭で目が覚めた」

 

いつの間にか頭の中で囁いていた声は消えてなくなっていて、

私の思考を遮るものは何もなかった。

その影響かとても視界は澄んでいて、広く物事を見る事が出来る気がした。

それこそ今の戦況だけでなく、私の想い描く未来まで。

 

「私はね、ずっと守られた。でもこれからは皆を守る為の私になりたい」

 

庇われて、庇われて。ずっと私は『そのままでいい』と言われているような気がした。

まるでガラスケースの中の人形のように。

でもそれではいけない。私は、私を守ってくれた人に恩返しがしたい。

それが私の本当の願い。

 

海面を見つめる。さっきの魚雷は味方の誤射と言うわけではないだろう。

でないと向こうの護衛機が特攻してまで守ろうとしない。

ということはこの海域に敵が潜んでいる。

でも姿が見えないし、艦攻によるものでもなかった。ならほぼ潜水艦。

深海棲艦も随分と念を入れてくるんだなと思いながらも、私は艦爆の矢を射る。

さっき魚雷が発射された場所から憶測して、艦爆を発艦し投下。爆雷替わりにはなる。

そのまま即座に着艦させて矢に戻す。確実なヒットアンドアウェイ戦法。

 

暫くして、いくつかの水柱が上がって海上に深海棲艦が現れる。

その姿は今までに見たことが無いぐらい不気味な物で、

黄色い瘴気と水に濡れ顔に纏わりついている長い髪がその不気味さを増させていた。

浮上してきたのはさっきの爆撃で損傷して潜行が不能になったんだろう。

 

もう一度艦爆を発艦させようとしたところで、前に誰かが躍り出る。

それは前進に大量に魚雷発射管を装備した重雷装艦、大井だった。

 

「あんた! 横取りするつもり!?」

「そんなんじゃないわ。ただ潜水艦にはちょっとばかり嫌な思い出があるだけよ」

 

そう言いつつ魚雷発射管を真上に向ける彼女。

そのまま弾幕の様に魚雷を発射しようというのか。

 

「そんなに大量の魚雷撃たなくてもいいわよ! 私が決めるわ!」

「私もただ無意味に魚雷を撃つだけの、馬鹿じゃないんで」

 

そのまま射出された一発の魚雷は真上に少しだけ飛び、それを右手で掴む大井。

こんな荒業をして信管が作動しないか不安になったけど、

平然とそれを行う様子を見て大丈夫の様だった。

 

「落とし前を付けたかったら勝手にしなさい。

 ただ私自身も落とし前を付けたいってことだけは、忘れないで」

「……解ったわよ」

 

今までの私ならさらに反発していただろう。でも彼女にも何かあるんだ。

潜水艦に対して抱いている特別な感情と言うやつが。

 

「タイミング合わせなさいよ」

「解ってます」

 

矢を番え放つ。炎を纏って艦爆に成った矢はそのまま身動きできない潜水艦に向けて、

いくつもの爆弾を降らせた。

一方の大井は、オーバースローで投げ飛ばした魚雷を突き差し、単装砲で潜水艦を狙う。

 

「「さぁ、沈みなさい!」」

 

弾着した直後、大井の放った砲弾が彼女の突き刺した魚雷に命中し大爆発を起こした。

魚雷と爆撃。二つの爆発の影響だろう。

敵潜水艦は跡形も無く吹き飛び、もう見る影もなかった。

 

こうして私達はトラック島近海に出現していた潜水艦を叩くことに成功した。

 

でも、大鳳の失われた妖精さんは帰ってこない。

合流するも、大鳳は悲しんでいるのかその場から全く動こうとしなかった。

 

 

Side 大鳳

 

 

二人の妖精さんと彗星のお蔭で、主力艦隊の皆さんは救われた。

 

合流して残った彗星が着艦する。そこから妖精さん達が私の肩までよじ登ってきた。

落ち込まないでと励ましているのだろうか。泣かないでと慰めているのだろうか。

あの一瞬で手に取る様に解ったこの子達の感情が今では解らない。

 

彼女達は何を想い、何を知って私達と共にいるのだろうか。

 

『これは大鳳の! トラックの皆の! 私達の! 魂の叫びだああああああ!!』

 

あの子達が海中に消える直前まで叫んでいたこの言葉。

あの子達は魂と呼んでいた。あの子達の覚悟を、私と、トラックの皆の魂と称していた。

私の無念を晴らすために散っていった覚悟を、魂と称していた。

 

「あの子達は私の魂……」

 

そう言って差し支えない存在と言うのも解る。

だってあの子達は常に私と共に居た。だからこそ共に生きているといっても過言じゃない。

 

「私の魂は、あの子達と共にある?」

 

だから私の救いたいという気持ちを悟って、あの子達はあんなことをしたのだろうか。

私の悲願の為に、自分の身を挺してまであの子達は叶えたというのか。

記憶も想いも魂も分かち合い共有する。それが妖精……?

 

「なるほど……あの子達の覚悟と意志は私と共に……」

 

そう思うと、あの子達の意志が私に伝わってくるのを感じる。

内から力を感じる。これがあの子達と私の魂の力なのか。

自然と体が火照ってきたが悪い気持ちではない。寧ろ心地いい。

 

「大鳳さん、体が……」

 

大和さんが驚いた様子で声を掛けてくれる。自分の手を見ると、淡い光を発していた。

 

「これは一体……」

「改、か」

 

磯風さんの発言に私は思い当たる節があった。

この島にやってきていた夕立と言う子が、この島を出る時には姿が一変していたこと。

それを明石さん曰く改二と言うらしいが、

その時聞いた症状と私の今の状況はよく似ていた。

 

この状況で戦っては目立って仕方がない。一旦明石さんの所まで戻ろう。

しかし私で時間を取られては機動部隊の合流に時間がかかってしまう。

 

「すみません皆さん。私はトラックに戻って改装を受けてきます。

 皆さんは先に機動部隊の方々と合流してください」

「だが、大鳳はどうするんだ。このままでは機動部隊の不足が懸念されるぞ」

「私は後から合流します。ですから皆さんは先に棲地MIに向かってください」

 

特に先程の戦闘でいつもより遅れているのだ。

ならば私一人の為にさらに遅れるというのは、流石に作戦の遂行に支障をきたす。

場合によっては機動部隊が被害を受ける可能性もある。

 

「私だけの為に、皆を殺したくはありません。たとえそれが必要な犠牲だったとしても、

 それは犠牲を正当化する為だけの先人達の思考にすぎませんから」

 

犠牲を正当化するのは、いつの時代だって許されない。

犠牲となった人々は帰ってこないのだから。

 

「……解った。必ず追い付け、大鳳」

「磯風さん達も、お気を付けて」

 

私は転進してトラックへと向かう。

新たな力を、私の内にある真の覚悟と向き合うためにも。

 

 

Side 大和

 

 

大鳳さんの後姿を見つめながらも、私達は戦場へと向かう決意をする。

合流で来たものの、先ほどの潜水艦による攻撃などで時間を取られてしまったからだ。

 

「さて皆さん、合流地点に急ぎましょう」

「待ってください」

 

私はそのまま合流地点に向かうために進路を向けたのだが、

一人がそれを阻む。そこの言葉は榛名さんによるものだった。

 

「涼月さんの姿が見当たらないみたいですけど……何かあったのですか?」

 

その言葉を聞いて私達は視線をそらす。その異常に真っ先に気付いたのは、

この呉からの主力艦隊の中であの場所に唯一いた瑞鶴さん。

 

「あいつ……まだ……」

「そうだ。まだ涼月は改装の影響で本調子ではないんだ」

 

私達の気が落ち込んでいるのを見て、話題を変えようとしたのだろう。

磯風さんは真剣な目で榛名さんを見ていた。

瑞鶴さんの漏らした言葉をうまく使った言葉。

私に視線を送ってくる。うまくごまかせという事だろうか。

 

「そうなんです。涼月さんは大規模改装を受けたので、

 艤装の調整などで時間がどうしてもかかってしまうのです。

 終わり次第こちらと合流しますよ」

 

そこまで行って、榛名さんは納得したように首を縦に振って何も言わなくなる。

しかしその自分の言葉はその場しのぎでしかないという事。

そして自分自身に涼月さんが此処に居ない現実を突きつけるものだった。




敵艦隊:潜水ソ級flagship、潜水カ級elite、潜水カ級elite、潜水カ級
(トラック泊地強襲E-1甲最終ボス編制)

潜水艦死すべし、慈悲はない。
と言うわけで何かとこの部隊の面子はかなり潜水艦とご縁がある模様。
流石に同一潜水艦と言うわけではないのですが……

明確に意志を伝える妖精さん。そして何気に初の犠牲なのかもしれない。
空母の妖精さんは艦載機乗りですから結構色々あるのかもしれません。
ここらあたりは翔鶴・瑞鶴・大鳳の史実に沿って作られてます。
翔鶴、大鳳の最後は壮絶の一言に尽きます。

そして大鳳の離脱と呉艦隊との合流、疑問に思う榛名と、
涼月が艦隊に居ない現実を再び突きつけられる大和。
嘘は方便なれど、やがて身を滅ぼす錆となる。

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