艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

4 / 97
プロローグのみだと見栄えも非常に悪い上に、
即読み終わって『次はよ!』となる事態があるので早めの更新。
書き貯めはあるけどどこまで持つかどうか……

4/7 プロローグに紛れていた文章を移す修正を行いました。


プロローグ4

ここ、トラック泊地は比較的平和で敵の襲来は少なく、

あったとしても軽巡や駆逐艦と言った編成らしい。

磯風さん曰く「本土の方に流れていってるのだろう」とのことらしい。

それでも哨戒中の遭遇戦などで交戦することもあるので、皆気を引き締めている。

極稀に敵偵察機と思われる艦載機が飛んでくる事もあるがそれは私が迎撃していた。

 

そんな不安定な平和を謳歌している泊地なのだ。

 

 

「実動演習をしよう」

 

磯風さんが唐突にそんなことを言い出す。

因みに今日の料理当番は大和さんでパンやコーンスープと言った洋朝食だった。

 

「どうしたんですか突然」

「いくら遭遇戦で実戦経験が豊富とは言えど、

 このままでは本土の艦娘達とは練度が段違いになってしまうからな。

 哨戒に加え艦娘同士で演習することで練度を高め合うんだ」

 

確かに道理には適っているが、突然言い出すのも一体どうかと思う。

まぁ、それが『彼女らしい』といえばらしいのだが。

 

「それはいい案ですね。私は賛成しますよ」

 

ぽんと手を叩き嬉しそうに賛同したのは意外にも大和さんだった。

 

「あの、流石に演習となると上層部の許可が必要なのでは」

「その点は私が掛け合いますから。

 私自身の練度向上の為にと言えば、案外すぐに通るかもしれませんよ」

「なら決まりだな。早速明石に演習用の弾頭の生産を依頼してこよう」

 

そして当事者である磯風さんは意気揚々と食堂を出ていき、

大和さんも上層部と掛け合うために食堂を出ていった。

 

「捕らぬ狸の皮算用の様な気がしますが、大丈夫なのでしょうか」

「大丈夫ですよ。大和さんが言っているように、

 彼女自身の練度向上はこの前進基地完成と同じぐらい最優先事項ですから」

 

野分さんが苦笑しながらそう言ってくる。

その言葉の意味が理解できず首を傾げた。

 

「このトラック泊地は、いつか発動される大規模反攻作戦に向けての前進基地で、

 その反攻作戦の戦闘の要となるのが、大和さんなの」

 

大和さんはそこまでにも重要な戦力であることに驚く。

そういえばここに配属されてからと言うもの、大和さんの艤装を見たことが無い。

助けてくれた時はしていただろうが、

私自身が意識を失っていたので見ることはできなかった。

 

「大和さんはそこまで凄い人なんですか?」

「はい。そもそも涼月さんもここに来るまでこちらの戦力について、

 一切教わらなかったと思います」

 

野分さんの言う通りで、泊地の詳細についてはこちらの方に教わるよう言われていた。

流石に追及は出来なかったが、少しばかり違和感を覚えたのは間違いない。

 

「多分こっちに配属されて最初から知ってたのは明石さんくらいじゃないかな」

「その理由は何よりも、大和さんが極秘に建造された艦娘である事にあります」

「待ってください、それだと何故舞風さんと野分さんはそれを」

「大和さんから聞いたの。『同じ場所で戦う仲間に嘘は付けない』って」

 

こちらに配属されて間もない頃に誘ってみた事があったが丁重に断られ、

その事を知った磯風さんからは軽く説教された。

 

大量の資源を消費するのは知っていた。しかし別にそう言った事情があったとは。

だから彼女は必要以上に哨戒任務に出ることが許されないのか。

 

「でも、それだと演習でさえ……」

「いつか来る未来を見据えて進歩的になるか、今の状態を保つ為に保守的になるか、

 そこを決めるのは上層部ですよ。私達が気にしていても仕方ありません」

 

野分さんの言葉に、完全論破されてしまったのだった。

 

 

///////////////////

 

 

「大和、砲雷撃戦、始めます!」

 

爆音が鳴り響く。

彼女の放った砲弾は標的に向かって飛んでいき、大きな水柱が上がった。

双眼鏡で確認するが直撃はしていないようだ。

 

「夾叉か……うん、次は直撃させます!」

 

再び放たれた砲弾は今度こそ標的を貫いた。

 

大本営が出した結論。それは大和の練度向上を優先による演習の許可であった。

今は配置された標的の砲撃を行っている。

そして大和さんが砲撃を行っている理由はもちろん砲撃の精度を上げるための物。

彼女が装備している46cm三連装砲は段違いの射程距離を誇っているが、

当然距離が離れれば僅かなズレも大きな反れに繋がってしまう。

 

彼女曰くあの時は『まぐれ当たり』らしく、自分でも驚いたらしい。

 

「皆さん、どうですか! 当たりましたよ!」

「ああ、見事だ。流石大和だな」

「さあ、どんどん行きますよ!!」

 

今、彼女は今まで以上に生き生きしている。

こんなに嬉しそうな彼女の顔は見たことが無い。

 

こういった射撃のみを行う演習だけでなく、敵艦の攻撃に対しての回避運動を行う演習、

私達艦娘同士で行う実戦を想定した実動演習も行われる。

こちらは実際の砲弾を使わず演習弾を使用したり、

雷撃に置いては推進力の低い様に改造された物を使用したりする。

 

「いやぁ、ここまで嬉しそうな大和さんは初めて見た。

 頑張って作った甲斐があったなぁ~」

 

そう感嘆の声を漏らすのは明石さん。

大急ぎで作業していたのか、服のところどころには鉄粉が付いたと思われる所があった。

この案を出した磯風さんもそうだがそれを可能にした砲弾や魚雷、

果てには標的も開発した明石さんの功績も非常に大きい。

 

「明石さん、この度は本当にありがとうございました。今度何かあったら仰って下さい」

「いやいや私の最高の報酬は、私の作った物を皆が使ってくれる事だから。

 その上ここまで嬉しそうにしてくれたり、ありがとうって言ってくれたなら、

 工作艦としてこれ以上の幸せはないよ」

 

「さて、私は工廠に戻るから、何かあったらまたお願いしますね」

「お疲れ様です。後で差し入れを持っていきます」

「そうだな。では私もお礼を兼ねて直々に」

「磯風さんのはいいです!!」

 

逃げる様に走り去っていた明石さん。理由はなんとなくわかる気がする。

 

「むぅ、私が料理の話題を出すと逃げるか止めるかのどちらかではないか」

「磯風さんはもう少し基本的な部分からですね……」

「そんなことは無い! 腹に入れば一緒だ! 皆鍛錬が足りんのだ!」

「流石に舞風でも、勘弁かなぁ~」

 

磯風さんの料理は一度だけ食べたことがある。

確か彼女がクッキーを焼いていた時に味見を頼まれたのだ。

 

その時は普通においしいと思ったのだが、問題はその後。

強烈な腹痛に襲われ一時間ほどトイレから出られなかったのを覚えている。

なお皆に調査したところ大和さんを除く全員が、

磯風さんの作った料理・お菓子を口にしているらしい。

 

いつも冷静な野分さんでも、いつも明るい舞風さんでもとは当時驚いたが、

思えば内蔵に対する直接攻撃に耐えられる艦娘はそう数はいないだろう。

 

「さてその話は置いておいて、実動演習と行きましょうか」

 

話題を切り替える為にも、演習の話を切り出す。

 

実戦を想定した艦娘同士の演習。こちらの演習は意外と難しい。

空砲に近い砲撃や必ず当たらない魚雷を使用する為、命中したかは判定で行われる。

とは言えど艦娘の判定だと戦闘に集中する関係で、判定が有耶無耶になる事も有りえる。

そこで「こんなこともあろうかと」と明石さんが用意した装備があった。

 

「さて、ではお願いしますよ。熟練見張員さん」

 

妖精さんが小さな双眼鏡を持ってマストに上り、こちらに敬礼を飛ばす。

それはマストを増設させ、見張りに徹した妖精さんを配備するという物。

因みに既にあるマストに見張台を設置する案もあったらしいが、

揺れを抑え重心を整えるためにもる為に、マスト自体の材質から見直すことになった。

これで私達は戦闘に集中することができ、判定は彼女達に任せる事が出来る。

とは言っても限界はあるので、砲撃・雷撃を数回行い命中判定は各自の妖精に委ねる。

判定は机上演習と似ているが、艦娘としてはこちらの方が感覚が掴みやすい。

それを何度も行う事で練度を高め合うのだ。

 

「では今回は私と舞風さん、磯風さんと野分さんのチームで行います」

 

大和さんは見学、というよりもこういったまだ早いという判断である。

それに先程砲撃演習を終えたばかりである。

 

「皆さん、自分の実力を過信せず頑張ってくださいね」

「ああ。解っている」「了解です」

「涼月もよろしくね」

「こちらこそ、舞風さん」

 

大和さんの言葉に笑顔で答え、舞風さんと挨拶を交わす。

親しき中にも礼儀ありというものだ。

 

ある程度距離を取ってから開始。

 

「砲雷撃戦、開始!」

 

舞風さんと共に砲撃を開始し、妖精さんが目を凝らす。

向こうの方でも砲撃しているのが見えた。

一定数の砲撃を行ってから雷撃。

私の装備である61cm四連装酸素魚雷は背中と連結しており発射の際は一度外し、

腰回りを覆っている艤装の内側を連結させて発射するのだ。

これは艦首部分を接合した時に明石さんがおまけで付けてくれていたもので、

発射するのが自分の視線の先なので命中精度も良くなった。

 

「ここで大きくジャンプ・アンド・ターン!」

 

後方で雷撃を行った舞風さんが突然波を使って飛び上がり、急転進。

先頭だとまず間違いなく衝突していた。

それを考えていたのかは解らないが、突然の事で混乱せざるを得なかった。

 

 

 

情報を統合した結果としては私の命中弾は1、雷撃は回避されていたらしい。

逆に被弾は2、被雷は1と割と散々な結果。

舞風さんは雷撃を含め命中3、被弾1、被雷は先程の事もあって0という結果だった。

 

遠くの方で野分さんが舞風さんを怒っている。

あんな無茶な事をすれば怒られるのは当たり前だ。

 

「演習とは言えあんなことをした舞風も舞風だが、野分は心配性だな。」

「磯風さんはいいんですか? 舞風さんの事」

「同じ姉妹艦と言えど、舞風の事は野分が見ていてくれている。逆も然りだ。

 私の出る幕ではない」

 

磯風さんも、野分さんも、舞風さんも同じ陽炎型の艦娘だ。

舞風さんと野分さんが仲良くしているのはよく見るが、磯風さんは一人でいる事が多い。

浮いているわけではない。合わないというわけでもない。

 

「磯風さんはどうして一人でいるんでしょうか」

 

慌てて口を閉じるも磯風さんがこちらを凝視していた。

覆水盆に返らずとはよく言ったもの。

 

「そうだな。元を辿れば涼月がこちらに来た時まで遡る」

「私、ですか」

「ああ、君のペンネントに書かれた字を見た時だ。

 私にも何か、駆逐隊と呼べるものに属していたような気がしてな」

 

「私だけではない。舞風も野分も、あれから今までより仲睦まじく交流している。

 以前の二人を知らない涼月からすれば、解らないだろうが」

 

私はそう言われておもむろにペンネントを外す。

やはりそこには『第六十一驅逐隊』と書いてある。

これが何かを意味するのかは解らない。ただ、これによって彼女達は変ってしまった。

 

「それが何を意味するのかは解らない……君自身もそれがなんなのか解らないようだな」

「申し訳ありません。ただ、これは私が艦娘となった時既に身に着けていた物。

 私の一部と言っても過言ではありません」

「なるほど、だからあの時あれほどまでに焦っていたのか」

 

納得したかのようにうなずく彼女。

ここにきて入渠し終えた時の話だ。私の事なのによく覚えていると感心してしまう。

これを私に初めて締めた人は、何を想い、何を託したのだろうか。

その答えを導き出すには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 

考えようと少し俯くと、数人の妖精さんが何かの筒を持って走っている。

どこに行くのだろうと目を追っていると、大和さんの元で止まりその筒を渡した。

彼女は軽くお礼を言うとその中に入っていた手紙と思わしきものを読み始める。

その表情はどこか険しい物で、良くない知らせなのかもしれない。

 

「涼月さん」

「はい」

 

名を呼ばれ、神妙な空気の中手紙を渡される。

他の三人も何事かと集まってきた。

 

『本日をもって貴艦隊所属艦、【涼月】を呉鎮守府への転属を命ずる』

 

そう記されていた。

 

「涼月さんも知っての通り、大本営は大規模反攻作戦を計画しています。

 しかしその反攻作戦実行に向けての戦力強化は必要不可欠。

 そう言った意味での呉鎮守府への転属だと思われます」

「で、ですが何故私が!」

「呉は航空戦力に力を入れていると聞く。

 いち早く制空権確保する為にも、防空駆逐艦を配備するのは何らおかしい事ではない」

 

磯風さんが私の肩を叩く。

 

「本土に転属? おめでとう! 栄転祝いで一緒に踊ろうよ!」

「えっ、ちょっと!」

 

突然舞風さんが手を取り、身軽にステップを取る。

踊ったことは無いのだが彼女のエスコートが上手いのか自然と体が動く。

 

「うまいうまい! それ、ワン、ツー!」

「舞風さん、踊っている場合では……」

 

ただ変に止めようとするとバランスを崩しかねない。

三人とも止める気配はなく思い思いの表情を浮かべながら見ているだけだった。

そして視線を戻せば嬉しそうに踊る舞風さんの顔がある。

もう暫くだけこのままで居よう。そう思うのだった。

 

 

/////////////////////////

 

 

浜辺には泊地に所属する艦娘全員が揃っていた。

 

私の前には艤装を装着し和傘を差した大和さんと、艤装を装着した明石さんが立っている。

明石さんはまだ解るが大和さんが何故艤装を装着しているのかが解らない。

 

横には艤装を装備した磯風さん、舞風さん、野分さんが居る。

彼女達は護衛艦としてしっかり付いてきてくれるのだが、

大和さんと明石さんはここでお別れ。

 

「涼月さん。短い間でしたがお疲れ様でした。呉での吉報、期待していますね」

「はい。大和さんも練度向上、頑張ってください」

 

互いに笑顔で敬礼を交わす。

 

私も彼女も、共にやるべきことがある。

共に強くなるというのは共に居るという事ではない。

離れていても共に強くなることは出来るのだから。

 

「私からはこれ。向こうで落ち着いたら開けて下さいね」

 

細長い包みを渡される。重量からして相当な物が入ってそうだ。

 

「あの、これは」

「それは着いてからのお楽しみという事で。いってらっしゃい、涼月さん」

「はい。ありがとうございました!」

 

艤装に何とか乗る程度。航行速度に支障は無い。流石明石さんだ。

 

「さて、行こう。あまり時間が掛かっては上が五月蠅いからな」

「磯風さん、舞風さん、野分さん。よろしくお願いします」

「いいのいいの。ギリギリまで一緒に居られるんだから!」

「それに今生の別れと言うわけではありません。互いに強く生きていればまた会えます」

 

野分さんの言葉にはごもっともだ。

死別しない限り縁と言うものはは一生残り続ける。

 

「その通りですね。では、参りましょう!」

 

私達は本土を目指して抜錨するのであった。

 

 

Side 大和

 

 

「いいんですか? あんなにさっぱりした送り出し方で」

 

明石さんが隣で悪戯に笑う。それも何か知っているような目つきで。

大体の目星は付く。恐らく涼月さんが着任してままないころの夜の事だろう。

 

「いいんです。涼月さんは強い人ですから」

 

それに、本当の送り出しは今から始めるのですから。

 

私の艤装にこれでもかを言わんばかりの妖精さん達が集まる。

彼女達の手には大小様々な楽器が握られている。

 

「さあやるわ! 軍楽隊、用意!」

 

離れていく彼女の背中に届くように。そう願いを込めて息を吸い込んだ。

 

 

Side 涼月

 

 

現在呉鎮守府では正面海域が深海棲艦によって封鎖されている為、

大きく迂回して東シナ海へ向かい九州の佐世保から陸路で呉に向かう。

その為の海路を海図で確認している時だった。

 

後ろの方から力強い演奏と歌声が聞こえてくる。浜辺の方からだ。

振り返ると浜辺で高らかに歌う大和さんと、その妖精さん達が演奏している姿が見えた。

 

この歌は、なるほど。『軍艦行進曲』と言うわけですか。

 

「本当に、粋な事をするんですね……大和さんは……」

 

自然と涙があふれてくる。

 

本当なら大和さんと居たい。でもそれではいけない。

私も彼女も共に強くなる為に。私と彼女の交わした約束を果たす為に。

 

涙を拭いて大きく手を振る。

いつか必ず来る再会の日を願って。




涼月のトラック泊地でのプロローグはおしまいです。

次回からは呉鎮守府編(本編)が始まります。
ただしアニメ開始前からのスタートになるのでそこはご容赦の程を。

簡易的な自問自答コーナー

Q.なんで大和さん演習してるんですかね
A.初出撃(Lv.1)でMI作戦に投入して大活躍出来るわけないだろイイカゲンニ(ry
 今回の話でも言っていますが、練度向上の為としか言いようがありません。
 「夕立が改二になった後でも演習してたあの的は私が作った」 by明石

Q.磯風の料理の度合いをもうちょい詳しく教えて下さい
A.外見は普通で臭いも普通です。味もおいしいのですが、
 遅効性で一時間ぐらい腹痛に悩まされます。
 「どうしてメシマズなんだ! 言え!」時報ボイス聞いて下さい。

Q.大和さんに何で軍楽隊(の妖精さん)いるの?
A.これも史実ネタです(昼食時)。また、まるゆに関する史実ネタです。
 大和さんの生演奏と歌声で軍艦マーチ聞きたいという謎の願望。
 軍艦行進曲の著作権は消滅していますが、歌詞は書いておりません
(今後加筆の可能性有)

Q.涼月・・・佐世保・・・うっ頭が
A.それ以上いけない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。