艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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毎日更新はしているから一応定期にはなるのかもしれない。
不定期更新とは一体。うごご。定時更新ではない……。


明かされた加賀と赤城の過去。それを聞いた吹雪はどう思うのか。
そして皆の決意を待たずして、MI作戦が発動されようとしていた。
アニメ第十二話、突入です。


第三十四話『日輪』

Side 吹雪

 

 

「少し長くなってしまいましたね」

 

加賀さんが現実に引き戻すかのように呟く。

聞き入っていた私はいつしか加賀さん達の過去に引き込まれてしまっていた。

 

赤城先輩も加賀さんも私と同じ、いやもっとつらい思いをしている。

大切な人を喪うという、取り返しのつかない事を。

 

「彼女からの覚悟を私達は受け取りました。

 吹雪さんも涼月さんから覚悟を受け取ったのではないですか?」

 

涼月さんが隻眼のヲ級に突っ込んでいくときに行っていた言葉を思い出す。

 

『だから私は、貴女を導く光となりましょう』

 

涼月さんが何を思ってあの時無理をしたのか。

私に彼女の生き様を見せる為? 私達を守る為? ただ勝つ為?

いや違う。あれが彼女の覚悟なんだ。

 

再び絶望に覆われそうになったあの空を。

日が沈み光が失われた闇夜を照らす月の様に。

私達を導く光と成ろうとした涼月さんの覚悟だ。

 

「私は皆を照らす太陽……かぁ」

 

涼月さんが残した言葉を呟く。私が皆を照らす太陽と言うのが解らない。

何を見てそう涼月さんはそう思い、何を知ったのか。

 

「どちらかというなら、涼月さんが太陽なんだけど……」

「そうかしら?」

 

加賀さんが割り込むように声を掛けてきた。

 

「あの子はどちらかと影の功労者の様な気がするわ」

「影、ですか?」

「鎮守府正面海域を解放する時も私達の為に道を作り、貴女を助けた。

 鎮守府への輸送ルートや資源を確保して、鎮守府をうまく機能させた。

 深海棲艦が暗号を解読しているという疑念を抱いたのも、

 あの子が今までの敵の動きを分析して考察した結果だと、蒼龍と飛龍が言っていたわ」

 

言われてみればそうだ。

あの人は私とは違って後ろから私達を育んでくれた。

如月ちゃんを島風ちゃんと一緒に間一髪の所で助けてくれたり、

翔鶴さんを第一艦隊から第五遊撃部隊に移動させるために提督の承諾を取り付けたり、

提督を通して深海棲艦が暗号を解読しているという事を教えてくれたり。

 

資源などのルートを確保して鎮守府の為に走り回っていたのもあの人だ。

それが結果として、大きな失敗と言うものを犯すことなく戦う事が出来た。

考えてみれば誰でも出来る事じゃない。

 

「貴女は今まで努力を重ね、様々な作戦を成功させてきました。

 あの人の出来なかった事を成してきたのは、まぎれもない吹雪さん、貴女よ」

 

涼月さんは、私達の後ろ盾としてずっと守ってくれていた。

その安心感があって私達は精一杯出来る事を頑張る事が出来た。

結果としてMO攻略作戦でも大きな失敗も無く動く事が出来たし、

それが結果として加賀さんと瑞鶴さんの仲が少しは良くなった……と思う。

 

「だからこそあの時の吹雪さんは、涼月さんの光と成れたのかもしれないわ」

「それに、私の光とも成った」

 

後ろから不意に声が聞こえて振り返る。

そこには潮風にその黒髪をなびかせている赤城先輩の姿があった。

 

「あ、赤城先輩!?」

「そうよね? 吹雪さん」

 

にっこりとほほ笑む赤城さんを見て、トラック泊地で約束した時の事を思い出す。

 

「赤城さん……いつからそこにいらしたんですか?」

「吹雪さんが太陽、と呟いたところからかしら?」

 

案外さっきの事で安心する。

もしも涼月さんの事で勘付かれたら、明日の作戦に支障が出るかもしれないからだ。

加賀さんも内心安心しているみたい。

天城さんの話を聞かれていたらどうしよう、とでも思っているのかもしれない。

 

「涼月さんも、かなり粋な事を言うのね」

 

そんなことを言いながらも、私の隣に立って夕日を見つめる赤城先輩。

 

「吹雪さん、加賀さん。私達は明日の作戦に向けて今まで練成してきました。

 きっと大丈夫、勝てますよ」

 

長い黒髪を翻し私達を見つめる。

その目は大きな覚悟とほんの少しの温もりが感じられた。

 

 

////////////////////////

 

 

翌日、私達はドッグに集まっていた。

この鎮守府に来てからの何度目かの出撃。

第三水雷戦隊、第五遊撃部隊、そして今は第一機動部隊としてここに立っている。

赤城先輩の護衛艦と同じ場所に立っている。

 

旗艦である赤城先輩も加賀さんもいつものように温かい雰囲気じゃなくて、

あの時見た凛々しい雰囲気に包まれていて。

二航戦の飛龍さんも、あの時教室で顔を覗かせた時みたいにフランクじゃなく、

真剣な眼差しとそのハチマキがその人の覚悟を表していた。

 

「(これが……第一機動部隊)」

 

涼月さんの所属が赤城先輩と同じ艦隊と聞いた時は、涼月さんを羨ましがっていたけど、

今ここに立ってみて初めて解る。ここは今まで私の居た艦隊と全く違う場所。

主力艦隊だという事に大きな責任と緊張を覚える。自然と手汗が酷くなっている。

隣に居る夕立ちゃんも少し震えていて緊張しているみたいだ。

何か声を掛けようと思ったけど、私自身が緊張しているからか掛ける言葉が見つからない。

 

「吹雪ちゃん! 夕立ちゃん!」

 

そんな中、良く知った声が遠くから聞こえてくる。

その方向を向くと肩で息をする睦月ちゃんと如月ちゃんの姿が。

 

「睦月ちゃん! 如月ちゃん!」

 

緊張から解き放たれる様に私達は二人に駆け寄る。

すると何を思ったのか急に私と夕立ちゃんの手を取る睦月ちゃん。

 

「……解るよ。吹雪ちゃん、夕立ちゃん。こんなに緊張してるんだね」

 

私達の手汗の量や体の震えから緊張しているのに気付いたのか、心配してくれる。

その温かさが掌から伝わってくる。どんな言葉よりも確かな物。

 

「睦月ちゃん……」

「大丈夫。この鎮守府は必ず私達が守るから」

 

掌を力強く握られる。睦月ちゃんの目は今までに見たことが無い位真剣そのものだった。

隣に居る如月ちゃんも同じ目をしている。如月ちゃんは手を添える事はしていない。

でもあのトラック泊地の時の様に、私の背中を押してくれたように、

睦月ちゃんの背中を押したんだろう。

 

「だから吹雪ちゃんも、夕立ちゃんも、後ろは気にせず思いっきり戦ってきてね!」

 

そして満面の笑顔を浮かべる睦月ちゃん。

それが決め手になったのか、自然と体を縛っていた緊張が解れていた。

 

「吹雪ちゃん、夕立ちゃん。睦月ちゃんは私が必ず守るわ。

 だから皆で勝ちましょう? この鎮守府の皆で」

 

緊張から解かれた私達を更に如月ちゃんの言葉が後押ししてくれる。

それによって大きな自信が自分の中から湧いてくる。

これは改二になった時のそれに似ている。

でもこれは今までの私が努力と一緒に皆で積み上げてきた物。

 

「「ありがとう。睦月ちゃん、如月ちゃん。行ってくるね」」

 

意図せず夕立ちゃんと言葉が重なる。それも一言一句違わず。

それで私は確信した。今の夕立ちゃんも私と同じ気持ちなんだって。

 

 

Side 大和

 

 

ところ変わってこちらはトラック泊地。

今なお修復が続けられる拠点の一室に私はいた。

 

「……涼月さん。遂にMI作戦が発動されましたよ」

 

目覚めぬ駆逐艦の手を取り静かに語りかける。

 

「この作戦で、私は正式に出撃するんですよ?」

 

ゆっくりと噛み締める様に伝えても、この人は目覚めない。

 

「このトラック泊地と呉の皆さんを含めた連合艦隊の旗艦として、出撃するんです」

 

解っていてもこの言葉を伝えないわけにはいかない。

意識を失っていても必ずこの言葉は伝わっているはずだから。

 

「これも皆、涼月さんのお蔭です。ありがとうございます」

 

自然と握る手に力が入る。緊張しているのだろうか。

 

「……そして、ごめんなさい」

 

あの月の下での約束は、守れなかった。

こうしてようやく出撃出来るのに、そこにこの人はいない。

それはおそらくこれからもずっと。

 

「幸せとは本来すぐそばにある物。ですがそれに初めて気付くのは失った時。

 幸せに気付くというのは……不幸な事です」

「大和、出撃だ」

 

悲しみに押し潰されそうになった時、磯風さんが扉の向こうから声を掛けられる。

私はその悲しみを振り払って涼月さんの手を置く。

 

「行ってきます。涼月さん」

 

静かに扉を締めいつもの私に戻る。

磯風さんに連れられながらも出撃用のドッグへと向かった。

 

そこには舞風さん、野分さん、磯風さん、大鳳さんが揃っている。

各自の真剣な目は全て私へと向けられていた。

 

「参りましょう。私達の勝利を刻むためにも」

「「「「はい!」」」」

 

歩みを進め、カタパルトへと踏み出し、艤装が足を、腰を、全身を覆う。

私の艤装は46cm砲を装備しているだけあって相当大きく、

駆逐艦の子達の様な派手な装着は不可能だ。

 

でもこの重みが艦娘として生まれたという事を本当の意味で教えてくれる。

やはり料理を作っている時よりも、提督が居ない代わりに指揮を取るよりも、

この時が一番幸せだ。

 

ふと視線が横に移る。そこには四人の仲間の姿が映った。そこに勿論涼月さんは居ない。

 

「……一番の幸せ、ですか」

 

私には何が嬉しいのか、何が幸せなのか、見いだせなくなりそうだった。

 

 

 

トラック泊地から少しばかり進んだ先。私達は呉から派遣された別艦隊を待っていた。

 

「大和、合流する部隊の編制はどうなっている?」

「戦艦『榛名』『霧島』、雷巡『大井』、正規空母『翔鶴』『瑞鶴』ですね。

 こちらがあちらの機動部隊と合流することでMI作戦攻略本隊となります」

「……その情報が深海棲艦に読まれている可能性は?」

「今回は別の暗号によるやり取りを行っています。その点は問題ありませんよ」

 

磯風さんが心配して尋ねてくるも、私は問題ないと告げる。

あれから無線封鎖は徹底され、緊急時の別暗号を無線では使用していた。

こういった事態を予測している上層部も上層部と思うのだが、

こればかりには感謝せざるを得ない。

 

「赤城さん達は別の艦隊なのかな?」

「そうですね。こちらに向かってきている艦隊とは別の機動部隊に含まれているようです」

「そうなんだ……」

 

舞風さんが露骨にしょんぼりしている。

赤城さんが居ないと何か不味い事でもあったのだろうか。

そんな落ち込む舞風さんを野分さんが励ましている。

 

「………」

 

そんな中、大鳳さんが一人何かを思い悩んでいた。

 

 

Side 大鳳

 

 

呉から派遣された艦隊との合流を待つ中、

私はこの泊地が空襲に遭った事を思い出していた。

 

何故深海棲艦はこの島を爆撃したのか。

このトラックには以前呉の戦力も集結した状態であったのにも関わらず、だ。

まるで入れ違いの様に恐れわれたのは、単なる偶然なのだろうか。

 

涼月さんと磯風さんに出会った時に私が落とした敵機は、

撃墜するまでの一瞬でこの島の戦力を割り出す事が出来たのだろうか。

いくら艦娘達が海水浴をしていたとはいえ、少なくとも屋内で開発などをしていた艦娘も居るし、

長門秘書艦をはじめとして司令的な艦娘もいる。深海棲艦と言えどそれは不可能だろう。

 

それに、作戦の中止命令が出たといって呉の艦娘達が必ず撤退するとは限らない。

なのにそれをまるで知っていたかのように深海棲艦はこちらに機動部隊を差し向けてきた。

あまりにも出来過ぎている。暗号解読以外に、何か決定打があるのかもしれない。

でも日の朝はちゃんと島に偵察機を出していたから、

先行して発艦していたかもしれない敵偵察機は見つからなかった。

なら他に敵の動きを監視し、味方に伝えられる手段は……

 

「大和さん。トラックが空襲されたのは敵の完全な無線傍受と解読によるもの、

 と説明していましたよね」

「……はい。その故今は別の暗号が使用されています」

「でも、その中止命令が下ったからと言って、撤退しないという選択肢もあったと思うんです」

「ですが呉の皆さんは撤退する道を選んだんです。結果として涼月さんが……」

「大鳳、何が言いたいんだ?」

 

大和さんとの会話に割り込んで来る磯風さん。

寧ろ割り込んできてくれる方がありがたい。話を本筋に移せるからだ。

 

「もしも、敵が偵察機や暗号解読以外でこちらの動きを知っていたら、

 その大和さんの言う偶然が、『必然』になるかもしれないんです」

「でも大鳳さん、そんな都合のいい偵察方法なんてあるの?」

「電探……にしては距離が離れすぎていると思います。それも除いた場合で、

 なおかつ味方にそれを伝えるとなるとそう言った施設を持つ大きさも必要です」

 

舞風さんと野分さんが痛い所を突いてくる。

そう。そんなこちら側からしても夢の様な物は敵にも存在しない筈なのだ。

 

「偵察機も駄目、電探も駄目となると……」

「潜水艦か」

 

磯風さんの発言にここに居る全員の視線が集中する。もちろん私も含めて。

その磯風さんの発言に全身に鳥肌が立つ。潜水艦という物自体に恐怖しているように。

案外答えはすぐそこにあったのかもしれない。でも何かがそれを回避しようとしていた。

頭の中でそれだけは思いつくなと、思考を無理やりせき止められていたような。

 

「ですが大鳳さん、それでは今までの私達の行動は筒抜け……

 いや、もしかすれば現状でさえも!」

「生憎だが大和、そのようだ!」

 

磯風さんが大和さんの前に躍り出て、左手にある三連装機銃の引き金を引いた。

その放たれた弾幕は海面に幾多の水柱を上げ、二本の大きな水柱が上がる。

 

「ば、爆発!?」

 

水柱に恐怖を覚える。いや、覚えるんじゃない。知っているんだ。

この悪魔の様な爆発を。

 

「大鳳、お前の推理は確かのようだ」

 

回りには敵艦の姿が見えない。なのに魚雷が飛んで来たという事は、

この海域に潜水艦がいるという事だ。

 

「舞風、野分。お前達は二人を頼む」

「磯風はどうするの?」

「私は潜水艦を討つ!」

 

艤装の下から現れたのは大量の爆雷。それを海面に向けていくつか射出する。

その方向は先ほど魚雷が発射されたであろう方向。

爆雷は水中へと消え先程よりも大きな水柱を上げた。

 

「悪くない。この重みも、この感覚も。私はこの瞬間を待っていた」

 

その水飛沫を浴びながら彼女は不敵に笑みをこぼす。

狂乱や快楽ではない。悲願を叶えた者の顔。心底嬉しそうだった。

何故かはわからないけれど、彼女なら渡しを守ってくれるという安心感が体を包む。

その安心感が私の恐怖を拭い去ったのだった。





後悔という毒が効いていたのはは吹雪だけではなかった。溜め拭えぬ涙は誰の為。

やはり、涼月の近い存在である大和さんのショックは吹雪より大きい。
大戦艦といえど艦娘であるということを意識させたような感じになっています。

そしてトラック島空襲の真の理由が明らかに。
一度たりとも対潜哨戒を行っていない結果がこれだよ!
トラック島イベのE-1を意識してます。

ぼちぼち、最終回が見えてきました。
なおこちらは(この小説の)最終話部分を手掛けています。
何とか毎日更新のペースを崩さず最終話まで行けそうです。(途中に一回一週間開けたけど)
のんびりと待っていただけると幸いです。それでは!

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