艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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更新遅れてるでござる……
さて何のひねりも無いサブタイトル。
と言うわけでかなり過去のお話の始まり。


第三十二話『天立つ城』

Out side

 

 

それは赤城と加賀が空母になる為の訓練を始めるよりも前の話。

 

「加賀型戦艦一番艦『加賀』です。貴方が私の提督なの?」

 

提督室で、巫女服の様な服に身を包んだ加賀が敬礼している。

髪は短髪でどこも結んでいない。まだその姿は幼く、外見で見れば中学生程度。

 

「ああ、君が噂の艦娘か。我が鎮守府は君を歓迎するよ」

 

白い軍服に身を包んだ貫禄のある一人の男性がゆっくりと口を開く。

それなりの歳のようで、ここに居るのも長いのだろうと加賀は予測する。

 

「早速で悪いが、君には現状を話しておきたい」

「現状、ですか」

「古の艦の記憶を持つ艦娘と言えど君の知識は一般人だ。

 これから戦う身として知っておかなければならないこともある」

 

突如出現した深海棲艦によって、

海路は完全に寸断され、輸出入が出来ない状況にあるとのこと。

それによって島国である日本は非常に切羽詰まった状況に置かれていた。

 

その深海棲艦に対して反攻作戦が実施されたものの、

人の様に小さく小回りが利く深海棲艦を沈めるのは容易ではなく、

こちら側の兵装がほとんど効果がない。

 

そんな中突如古の記憶を持った少女達が現れる。

自我が芽生えた時から与えられた名ではなく『古の艦の名』を名乗り、

深海棲艦と戦う事を宿命づけられた少女。

 

しかし艦娘という存在は、何もない平凡な日常から突如出現した様な存在であり、

そんな少女達が武器を装備し、深海棲艦に対して打撃を与えている事が確認された。

隠蔽しようにも深海棲艦と同じく日本だけに留まらず世界中でも確認されて居た為、

その存在は瞬く間に広がっており、その存在を知らぬ者はいなかった。

 

しかし艦娘に最も適した武器――艤装の開発に後れを取っていた日本は、

イギリスに艤装を発注し完成させるに到った。

イギリスが完成させたその艤装を装備しているのが、金剛型一番艦『金剛』。

その際技術者達をその建造に立ち会わせ、設計図と共に帰国することで、

晴れて日本は艤装の建造に取り掛かる事が出来、大きな戦力増強になった。

 

金剛に続いて、比叡、榛名、霧島といった戦艦型の艤装が開発されて行き、

その設計図や技術を流用することで日本は戦艦の建造に力を入れていた。

 

それによって艤装が装備できる艦娘の特定が急がれ、

見つけ次第海上自衛隊に保護されるようになった。

 

また艦娘として生を受けた者は皆顔が整っており、

『古の艦の名』によって社会的にも浮いた存在になってしまう為、

双方で何か問題を起こす前に保護をするという目的も存在した。

 

「以上だ。質問はあるか?」

「いえ。大丈夫です」

「では鎮守府の案内は手配してあるから、その者に他の事は聞くといい」

「解りました。失礼します」

 

加賀は敬礼をして提督室から出ていく。

彼女はある程度の事も彼女は把握していたが、

そこまでに考えられた収集だとは思ってもみなかった。

そこまで艦娘と言う存在がこの国にとって、重要な戦力という事も。

 

提督室から出た加賀は外で待っていた一人の艦娘と目が合う。

加賀の巫女服によく似た物であったが、下衣は赤色。

身長は同じぐらいで、肩ほどまで伸びた黒髪が特徴的だった。

 

「始めまして。天城型戦艦二番艦『赤城』です」

「こちらこそ。加賀型戦艦一番艦『加賀』です」

 

互いに敬礼を交わす。これが、赤城と加賀の出会いであった。

 

 

 

鎮守府を回り、赤城は最後に自室を案内する。

 

「ここが私達の自室です。個室じゃなくてごめんなさい」

「構いません。状況が状況ですから」

 

艦娘という存在は数が少なく、深海棲艦との戦闘に対する切り札となっていた。

その為鎮守府にはむしろ艦娘以外の自衛隊員や技術者が多く所属し、

部屋も個室と言うわけにはいかなかったのだ。

 

しかし海自に管理されているとはいえ、彼女達も一人の女性。

流石にプライベートまでは侵食されてはいない。

 

扉が開かれ、十二畳ほどの部屋に一人の艦娘が待っていた。

 

「天城姉さん、加賀さんを連れてきました」

「ふふふ、新しい子ね。いらっしゃい」

 

腰辺りまで伸びた長い黒髪と青いゴム留めされた長いサイドテールが特徴的な髪型。

身長は赤城達と変わらないが、口調は少し大人びている。

 

「あの、貴女は……」

「私は天城型戦艦一番艦『天城』。これからよろしくお願いしますね」

「宜しく、お願いします」

 

全てを包み込まんとするその優しい笑顔に戸惑う加賀。

一番艦として生まれたからか、それとも別の理由かは本人にも解らない。

 

 

////////////////////

 

 

加賀が配属されてから二か月もの歳月が経った。

 

天城、赤城、加賀の三人は戦艦として招集された艦娘であったが、

資源難によって艤装の建造には遅れが生じており、まだ完成してはいなかった。

 

それでも座学で戦艦としての知識を付ける事は必要となる。

弾着に関する計算や戦術など、覚えることは多かった。

着任して間々ない頃は加賀は置いて行かれる事も多かったが、

計算などが得意だったので日を重ねるごとに知識を付けていき、

いつしか成績が赤城を超える様になっていた。

しかし一方で勉強家であった天城を超えることは出来なかった。

 

「加賀さーん、勉強教えてよー」

「赤城さん、昨日勉強しようと言って、

 中々食堂から帰ってこなかったのは貴女の方ではありませんか」

「だって私達戦艦だよ? いっぱい食べなきゃ強くなれないわ」

 

赤城は物を食べるのが好きなのか、人よりも食事の量も時間も多く掛けていた。

それをこうやって『強くなる為』と纏められている為、加賀には口の出し様がなかった。

 

「赤城。確かに食事は大事だけれど、勉学を疎かにしては駄目よ」

「……はーい」

 

天城の発言に渋々返答する赤城。

天城は赤城とは対照的に小食であった。

ただゆっくりと食べるので要する時間は赤城とあまり変わらなかった。

 

「天城さんと赤城さんは、姉妹艦ですが似ていませんね」

「姉妹艦だからって似てるのは間違いだよ加賀さん」

「確かに全国から招集されている身からすれば、似ている方がおかしいとも言えるわね」

 

天城の言う通りだと加賀は口を噤む。艦娘の姉妹艦と言えど全国から招集された身。

赤の他人と何ら変わらない。しかし初めてあった気がしない。

それが艦娘の不思議なところであった。

 

今まで発見された艦娘も姿形は全く似つかぬ者達であったが、

一部の者達は一瞬にして打ち解け合い共に海で戦っているという。

その関係が『姉妹艦』として過去に建造された物だという事が解っていた。

 

「でも、私からすれば加賀も妹の様な存在よ」

 

天城はそう言って加賀の頭を撫でる。

彼女は最初こそ驚いたものの、その温かさに羞恥心が静かに抑えられたのか抵抗はしなかった。

 

『天城型戦艦一番艦娘『天城』及び二番艦娘『赤城』。加賀型戦艦一番艦娘『加賀』。

 以上三名は至急提督室まで出頭してください』

 

その温かさと心地よさを断ち切る様に放送が鳴り響く。

三人は何事かと提督室に早足で急いだ。

 

急ぎながらも礼は忘れない。

数回ノックして返事を待ち、名を名乗ってから提督室に入る。

そこにはいつも通り席に座った一人の提督が待っていた。

 

「三人ともご苦労。早速だが用件を話す」

 

間髪入れずに提督は口を開く。面倒事が嫌いな性格なのだろう。

 

「最近、新型の敵深海棲艦が確認された」

「新型、ですか」

 

その言葉に天城と加賀の視線がきつくなる。

一方の赤城は何が起きているのか解らない様子だった。

 

「その通りだ。その新型は艦載機を放つ空母型という報告が入っている」

「空母……!」

 

今まで深海棲艦は駆逐艦、雷巡、重巡、戦艦のみの構成であった。

その理由は謎ではあったがそれだけでも人類側の戦力は大きく削がれ、

制海権を失ったのは事実。

だが制空権は失われてはいなかった為内陸の被害は少なかった。

なので対空砲が届かない高度まで上げた航空機による空輸が主になっていた。

 

「なのでこちらも制空権奪回の為に空母を建造することにした、が。

 そこまでこの国に資源があるわけではない」

「ですが提督、空母を建造しなければ制空権の奪回はおろか、この国の存続にかかわります!」

 

最初から艦娘の艤装を開発すればよいというわけではない。

深海棲艦よりも艦娘の登場は遅く、

それ故に艦娘の艤装ではなくイージス艦などに搭載する対深海棲艦兵装が開発されていた。

それが結果として後に登場した艦娘の艤装建造の為の資源が枯渇してしまっていた。

 

しかし空母型の深海棲艦の出現は同時に制空権の喪失も意味しており、 

内陸間での空輸はともかく、島国である日本に対しては絶望的な状況であった。

その点を最も早く理解し、提督に進言したのは天城。

 

「……だからこそだ。単刀直入に言おう」

 

提督の眼光が二人の艦娘に向けられる。その先に居るのは天城と赤城。

 

「『天城』、『赤城』。お前達は改装空母になって貰いたい」

 

改装空母。元々空母出はない者を改装して空母にするという事。

戦艦としての艤装を空母に改装することで資源の消費を抑えようと言うものだった。

 

「そして『加賀』。お前は上層部の命令により『廃艦処分』となる」

 

その発言にその場に居た皆が息を呑む。

勿論最も驚いているのは加賀本人ではあるのだが。

 

「どうしてですか提督! 加賀さんが『廃艦処分』だなんて!」

 

真っ先に声を上げたのは赤城。

 

「これも苦渋の決断だ。加賀には悪いと思っている」

「じゃあどうして加賀さんも改装空母にしないんですか!」

「赤城」

 

熱くなる赤城の肩に手を置く天城。

彼女は黙って赤城の目を見ながら首を横に振った。

 

「提督。妹の無礼、申し訳ありません」

「いや、いいんだ。それより加賀自身には早急にこの鎮守府から出ていってもらいたい」

「……その理由を伺っても宜しいですか、提督」

「制空権を失った以上、重要拠点である鎮守府が狙われる可能性が高い。

 危険な場所に、これ以上一般人である君を巻き込みたくはない」

 

席を立ち、窓から空を眺める提督はそう言った。

艦娘である加賀は、廃艦と決まった瞬間から一般人と何ら変わらない存在となったのだ。

 

「加賀さんは一般人じゃない! 加賀さんは立派な艦娘です!」

「赤城!! ……すみません提督。失礼致します」

 

赤城の声を遮るように一喝を入れる天城は、頭を下げて提督室から出ていく。

それに続いて赤城が乱暴に頭を下げ出ていき、最後に加賀が付いていくように出ていくのであった。

 

 

 

「どうして止めるの天城姉さん! 加賀さん、このままだと本当に廃艦処分されるんだよ!?」

 

自室に着いた三人の内、赤城だけが頭に血を上らせていた。

一方の天城と加賀は怒るわけでもなく、落ち込むわけでもなくただ静かに座っている。

 

「なのに、どうしてそんな涼しい顔が出来るの……」

 

感情が高ぶり、ついには涙をこぼし始める赤城。

この二か月間三人はいつも一緒で、共に歩んでいた。

また艦娘として同じ海に出る事を待ち望んでもいた。

赤城はそれを誰よりも心待ちにしていたし、それ故に加賀の廃艦処分が気に入らなかったのだ。

 

「赤城、提督も最初に仰いました。そこまでこの国に資源があるわけではない、と」

「でも、でも改装空母がそんなに資源は使わないからこそ私達が……」

「加賀さんを廃艦処分にするのは、加賀さんの艤装を解体して私達の改装に充てる予定だからでしょう。

 ですからそこまでこの国は切羽詰まった状況だということです」

「だったら、私の方が成績悪いし加賀さんの方が空母向いてるって!」

「私達が天城型戦艦という姉妹艦だからでしょう。

 その方が、艦娘同士の関係による摩擦も少ないと上層部が判断したのでしょう」

「そんな……加賀さんはどうなんですか!」

 

赤城は埒が明かないと思って加賀に矛先を向ける。

廃艦処分になる加賀本人であれば、何か思う事があると思ったのだろう。

 

「私は命令に抗うことは出来ません。私達は艦娘であり兵器。上からの命令は絶対です」

「でも、でも!」

「……しかし、私の代わりに泣いてくれる人が居るというのは、悪くないですね」

 

加賀はそう言って苦笑いを浮かべる。

その笑顔を見て、赤城は加賀の腕の中に飛び込み声を荒げて泣くのだった。

 

 

/////////////////////////

 

 

巡洋戦艦から空母への改装は決して簡単な物ではなかった。

水上を駆ける脚部の艤装はそのまま流用できるのだが、

飛行甲板や艦載機となりえる矢の開発と、非常に多くの資源を使っていた。

天城や赤城の一部艤装は解体され、その開発資源に充てられている。

 

艦娘として生まれた彼女らにとって深海棲艦と互角に戦う事の出来る彼女らにとって、

廃艦は国民や自衛隊員からの受ける期待と、

自らの戦う意志を踏み躙られるのも同意であった。

 

荷物を纏め終わり、鎮守府で過ごす最後の夜。

皆が寝静まった頃に加賀は一人部屋を抜け出して港に居た。

 

「……私は、艦娘、なのに」

 

加賀の心を悔しさと名残惜しさが支配する。

艦娘と生まれ天城や赤城と共に深海棲艦と戦う事を決めていた加賀は、

表面に出さなかったものの、幾多の現実を突きつけられて意気消沈していた。

 

「加賀さん」

 

そんな時背後から声を掛けたのは天城であった。

 

「天城さん、寝ていたのでは……」

「可愛い私の妹が悩んでいるんだもの。放っておくなんて水臭い事しないわ」

 

横に並ぶ二人。空には小さな満月が夜の鎮守府を照らしている。

 

「私は加賀型戦艦としてこの鎮守府に呼ばれました。貴女は私の姉ではありません」

「でも、私からすれば加賀も妹の様な存在よ」

「ですが、それも明日になれば無くなります」

 

加賀の口からは、自分に突き付けられた幾多もの現実しか出てこない。

それは彼女がそれだけ心を現実に支配されているかを表していた。

 

「加賀」

 

天城の真剣な眼差しが加賀に向けられる。

別れの言葉を言うのだろうか。私を叱るのだろうか。

加賀はそんなことが頭に過り、失礼の無い様にその瞳を見つめた。

 

「……私にもしもの事があったら、赤城を宜しくお願いします」

「えっ」

 

しかしそれは予想とは違うもの。とても優しい目で加賀を見つめている。

あまりにも予想外だったことによって、今まで考えていた事が全て頭から抜ける加賀。

囚われていた現実も、彼女の口にするであろう言葉も、全て。

 

それだけ言いたかったのか、天城はそのまま立ち去って行ってしまう。

ただその後ろ姿は、その時の加賀にとってとても大きなものに見えたという。




天城型戦艦、天城。天城型戦艦、赤城。加賀型戦艦、加賀。

成績的には天城>加賀>赤城です。
恐らく幼少期であればそう言う感じになるのかなと。
そして世界的な何かが大きく見える。過去の話程世界を語るのに良い材料はない。

そして不吉な予感を臭わせながらも立ち去る天城。
その言葉の意味とは……待て次回!


P.S. 土佐さんの存在を完全に忘れている頃の執筆。
   出来る事なら出してあげたい……

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