艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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更新が遅れ続ける悲劇。

転がり続ける少女の努力。
第十話の後半戦になります。

果たして吹雪は改二に成れるのか。


第二十九話『もう一回』

Side 吹雪

 

 

私が提督に涼月さんの事を伝えた翌日。

 

私は今、今朝の走り込みをしている。

次の作戦がどれだけ大規模な物になるかは解らない。

それでも私は赤城先輩との約束を果たす為にも、今はいない涼月さんの為にも、

もっともっと強くならなければいけない。

 

『いつか来る大規模反攻作戦に私の随伴艦として、参加してもらえないかしら』

 

『貴女が成長できたのは、確かに私が居たからかもしれません。

 ですが忘れないでください。貴女は私を含めた皆が居たからこそそこまで成長できた。

 貴女の内にある本当の貴女が成長したいと望んだから、そこまで成長できたのです』

 

私は皆のお蔭で強くなった。ならその皆を守れるためにもっと強くなりたい。

私はそう望んでいる。だから私は強くなる。

 

「よーし、後一周!!」

 

私は更に気合をいれて、トレーニングに励むのだった。

 

 

///////////////////////

 

 

朝練を終えて食事を終えれば授業が始まる。

 

「おはよう睦月ちゃん、夕立ちゃん、如月ちゃん」

「「おはよう吹雪ちゃん」」「おはようー」

 

挨拶をするも皆あんまり元気がない。

ふと如月ちゃんの後ろの席、涼月ちゃんの席だったところには名札が倒してあった。

 

「なんだかまだ信じられないね。涼月ちゃんが居ないっていうの」

「ずっと一緒だったっぽいもんねー。私ももっともっと頑張らなきゃ!」

「まぁまぁ、それだけ涼月ちゃんが凄い駆逐艦だったってことよ」

 

思い思いの事を口にしている三人。

トラック島が空襲されたことは知っているし、損害は軽微という事は知っている。

でも、涼月さんがあんなことになったという事は言っていない。

知らない方が……いいこともあるから。

 

「吹雪ちゃん? 大丈夫?」

 

睦月ちゃんが顔を覗き込んで来る。

それに大丈夫とだけ言って私は自分の席に座った。

 

こっちに戻ってきてからは無線傍受を恐れて交信はあまりしていない。

だから向こうに何かあったとしても、一大事でない限りは連絡は来ない。

トラックに居る大和さん達も涼月さんの事は隠しているから、

涼月さんが今どうなっているのかは私も知らない。

 

ただ知っているのは、涼月さんが意識不明の重体に陥っているという事。

生死を彷徨っているという事。

頭、つまり脳までは入渠では治せないのでこればかりは医療に懸けるしかないと、

明石さんが真剣な口調で言っていたのを思い出す。

 

南西諸島海域の時はあれだけの重傷だったけれど頭は何とか大丈夫だったそうで、

傷を塞いでからの入渠ですぐに復帰できた。

でも今回は違う。今回は頭がやられてしまったからどうしようもない。

一応医療に詳しい妖精さんが居る為何とかなるかもしれないけど、

呉みたいに本土と陸続きではない為、お医者さんを連れていくことも出来ない。

 

「さぁ授業始めるわよー」

 

教官である足柄さんが入ってきて、私は現実に引き戻されるのだった。

 

「と、その前に。長門秘書艦からの放送があるから聞いて頂戴」

 

授業が始まると思いきや、長門秘書艦からの放送があるらしい。

何だろうと思っていると、短くブザーが鳴った。

 

『秘書艦の長門だ。皆そのままで聞いてほしい』

 

いつになく真剣な口調だ。何か大きな事が起こるのだろう。

不意に昨日の夜提督が言っていたことを思い出す。

 

『とにかく今日はもう遅い。近々MI作戦が発令されるだろう』

 

つまりこの放送は。

 

『近々予定されていた大規模反攻作戦だが、本部の調査により敵棲地はMIと断定された。

 これにより大規模反攻作戦は、MI作戦と名称を変更する』

 

その名前を聞いて皆がざわつき始める。

やっぱり、ついにその作戦が発令されるんだ……

 

『まだ編制は固まっていないが、この作戦の発令は明後日となる。

 急な話で済まないと思っている。編制の発表は明日行う。

 皆は五省の元万全を整え、備えていてほしい。以上だ』

 

大本営の人達も焦っているんだろうか。

トラック島が空襲され敵艦隊を殲滅してから、

そこまでとは言っても時間が経っていることに。

 

 

////////////////////////

 

 

一日の授業が終わる。でも、何をやったかはまるで頭に入っていなかった。

 

「吹雪ちゃん、本当にどうしたの?」

「トラックから戻ってきてからずっとこんな調子っぽいよ?」

「もしかしてトラックで何かあったのかしら……」

 

三人が思い思いの言葉で心配してくれるけど私は大丈夫の一点張りを通し続けて、

授業終わりのトレーニングに向かった。

 

夕焼けに染まる鎮守府をランニング。

朝と違ってほんのりと赤く染まっている光景は新しくて、新鮮な気持ちになった。

落ち込んだ私の心を少しだけ明るくする。

 

港まで走っていくと三機の艦載機が編隊を組んで空を飛んでいるのが見えた。

胴体帯は赤一本。赤城先輩の艦載機。

私はその光景を見てこの鎮守府に来た時の事を思い出す。

 

あの時はこの鎮守府に赤城先輩達一航戦の二人が居るとは思いにもよらなかった。

睦月ちゃんと夕立ちゃんとでこっそりと演習する様子を見に行って、

結局は加賀さんに見つかって、睦月ちゃん達と逃げようとしたけど松の枝にぶつかって、

その時赤城先輩に私の名前を呼ばれた。そして言ってくれたんだ。

 

『いつか、同じ艦隊で戦いましょう』

 

だから頑張ろうって思った。でも、現実は違う。

あの時私は鎮守府正面海域の攻略作戦で、いままで全く海に出ていないのもあって、

まともに航行することすらできなかった。

それだけじゃない。私は戦うのが怖かった。至近弾ですら怯えてしまうぐらいに。

そんなおっかなびっくり戦う私だからこそ、あの時深海棲艦は私を狙ったんだ。

孤立したところを狙われて私は負けじと撃ちはするも、

タイミング悪く飛び上がったものだから当たらない。

私はその時本当に轟沈するんじゃないかって思った。

 

そんな時私を助けてくれたのが、ポニーテールをした黒髪の艦娘。

背が高くて、艤装も大きくて、一瞬軽巡洋艦の艦娘かなと思ったけど、

その手にあったのは私の主砲によく似た小口径の主砲。私と同じ駆逐艦の艦娘。

その人が涼月さんだった。

そしてまだ一矢報おうとした深海棲艦に止めを差したのは赤城先輩の艦載機。

二人に救われて、私は生き延びる事が出来た。

 

だからもっと頑張ろうって思った。涼月さんと赤城さんみたいに戦えたらって思って。

それでも私が無力なのは変わりなくて、私は悲しかった。

今の自分じゃ絶対に届かない。あの二人と同じ海に立つわけがないって思った。

 

そんな時、司令官が声を掛けてくれたんだ。

 

 

**********

 

 

鎮守府の一角の崖の上。

私は一人で西の水平線に沈む夕日を眺めていた。

そんな中で一人の足音がして不意に振り返る。

 

「し、司令官!?」

「奇遇だな、こんなところで会うなんて」

 

司令官は肩で息をしている。それを必死に隠そうとしていたけど、私には解った。

司令官は私を探しに来てくれたんだ。

誰かが落ち込んでいるのを知って司令官に言ってくれたんだ。

 

そこまで必死な司令官に、私は疑問を覚えた。

航行すらままならない私を第三水雷戦隊に配属して、出撃させたんだろうか。

どうして私に、『問題ない、出来る』って言ってくれたのだろうか。

どうして司令官は、こんな戦えない私をこんな激戦区である呉に呼んだのだろうか。

 

「どうして、司令官は私をここに呼んだんですか?」

 

だから私は司令官に尋ねた。尋ねないわけがなかった。

すると司令官は何かを考えている。そんな中絞り出されるように言った言葉。

 

「……そうだな、夢で見たと言えばいいか」

「夢?」

 

夢……司令官の夢?

 

「特にこれと言った意味はない。ただ夢の中で見た吹雪に、何かを感じたんだ」

「……司令官も、結構オカルト的な事を信じるんですね」

「まぁ、そう思ってもらえるとありがたいかな」

 

あまりにも些細な理由。でも提督にとっては確かな理由なのかもしれない。

 

「今は解らないかもしれない。ただ、解らないならここから再び始めればいい。

 だから私は、ここで再び吹雪と始めようと思うんだ。

 前の鎮守府では出来なかったこと一つ一つを、ここで始めればいい」

 

私の隣にまで移動してきて、司令官は夕日を見つめる。

大きな掌が伸びて来て思わず怯んだ。しかしその掌は私の頭を包み込み優しく撫でる。

 

「だから吹雪も始めてみようとは思わないか。ここから再び、な」

「司令官……」

 

ほのぼのと黄昏る司令官の横顔は少しだけお父さんの様にも見えて、

私は自然と悲しみが消えていくのが解った。

だから私は、感謝とこれから始めて行く為にもこう口にした。

 

「ありがとうございます。もっと頑張りますね!」

 

 

**********

 

 

いつの間にか思い出に浸っていて、足が止まっていた。

 

そんな私を支えてくれる人が居たから、私はここまで来る事が出来た。

だから私はもっと強くならなければいけない。

もっともっと強くなって、もっともっと多くの人を守る為に。

 

「吹雪さん? どうかされましたか?」

 

声を掛けられて顔を上げる。そこには赤城先輩は心配そうに私を見つめていた。

 

「あ、赤城先輩!? お疲れ様です!」

「お疲れ様、今日もトレーニング?」

「は、はい! もっともっと強くなって、皆を守りたいんです!」

 

それを聞いて驚く赤城先輩。私は何か変な事を言ったのだろうか。

少し不安になっていると赤城先輩はいつもの笑顔に戻る。

 

「良い心がけですね。では、そのお手伝いをさせて頂けませんか?」

「赤城先輩が、ですか?」

「ええ。付いてきてくれるかしら」

「はい!」

 

二つ返事で返したのはいいけれど、一体何をするのだろうか。

そもそも艦種の違う私と赤城先輩で、何か赤城さんが手伝えることがあるのだろうか。

でも『正射必中』を教えてくれたのは紛れも無い赤城先輩。

考えあってこその行動なのだろうと予想して私は後を付いていく。

 

 

 

艤装を装備して演習場まで案内されると、そこで一人の良く知った女性が待っていた。

 

「加賀さん!」

 

同じ部隊、同じ部屋の正規空母。加賀さん。

加賀さんが待っていたという事は『一航戦』の二人が私のお手伝いを……?

 

「赤城さん、連れて来たのね」

「ええ。丁度良かったわ」

「あの、お二人とも何を始めるんですか?」

 

『一航戦』である二人からの直々のお手伝い。

それは私からすれば何が始まるのか解らない。

私の為にとは言っても少々大げさすぎる気もした。

 

赤城さんは加賀さんの隣で私と向き直り、二人の視線が私に集まる。

 

「吹雪さんには、これから防空射撃演習を行ってもらいます」

「防空射撃演習……?」

 

聞いたことのない名前だ。利根さんのする演習のメニューにもそんな名前は無い。

 

「涼月さんが以前この鎮守府でやっていたことよ」

「涼月さんが!?」

「この演習は対空射撃に対する練度を上げる為の演習です。

 それ故に涼月さんも非常に熱心に行っていたと聞きましたよ」

 

そう言えば涼月さんが二航戦の飛龍と言う人に誘われているのを見た。

あの時はどうしてか解らなかったけど、今なら解る。

涼月さんは対空射撃の練度を上げる為に、二航戦の人達と防空射撃演習を行っていたんだ。

 

加賀さんがMO作戦の直前で大破して翔鶴さんを移してくれたときも、

欠けた航空戦力を二航戦の二人に頼んでみると言っていたのも、

その防空射撃演習で涼月さんが培っていたからなのかもしれない

 

「吹雪さん。貴女に涼月さんの様に成れとは言いません。

 ですがこの先、W島の攻略に失敗した時の様に対空戦闘を強いられることもあります。

 だからこそ貴女は、貴女を守るだけの力を付けてほしい」

 

真剣な赤城さんの瞳が私を捉えて離さない。

私自身も離そうとは思わないけれど、その覚悟は言葉では表現できない物だった。

 

私が、私を守るだけの力。私にはその言葉の本当の意味が解らない。

きっと何かのカギになるだろうという言葉だけれど、皆目見当もつかない。

でも、解らないなら解らないなりに始めればいい。ここから、また。

 

「解りました。駆逐艦『吹雪』、頑張ります!」

 

そしてあの時約束した、赤城さんと同じ場所に堂々と立てるように。

私は、力強く頷いた。

 

 

 

必死になって食らいついても離される。

W島攻略作戦に失敗して、その時対空戦闘を行った時の比じゃない。

それよりももっともっと速くて、攻撃の合間をぬった正確な機銃掃射や爆撃が襲い掛かる。

 

まるでこちらに体当たりしてくるんじゃないかとまでに近付いての爆撃に、

私はあの時みたいに怯えてしまっていた。

 

「その程度で怯えていては駄目よ。もう一度!」

「はい!」

 

半分自暴自棄になっているのかもしれない。

それでも私は強くなりたい。皆の為に。

 

放たれた艦戦を狙い撃ち、迎撃。機銃の攻撃を小刻みに乙字運動でかわす。

しかしその旋回するタイミングで背後からの機銃掃射が私に当たる。

 

輪形陣なら私の背中を皆が守ってくれる安心感があった。

でも今は違う。今は私だけ。孤軍奮闘。これだとどこから狙われるかは解らない。

背後だってそうだし、右舷左舷どちらからも攻撃される可能性がある。

 

「もう一回お願いします!」

 

一度でも被弾すればやり直し。

一度の被弾はこちらの隙を晒してしまう事になり、そのまま追撃に移行されてしまう。

それが爆撃だろうが機銃だろうが関係はない。

 

再び赤城先輩と加賀さんが艦載機を発艦させる。艦爆が三機、艦戦が三機。

援護する為の直掩機は艦戦だという事は知っている。

MO作戦の時翔鶴さんと瑞鶴さんが発艦させた直掩機も艦戦だ。

 

それに艦戦は爆弾や魚雷を切り離す必要がないからすぐに攻撃に移る事が出来る。

 

こんな状況で、涼月さんはどうしたのだろうか。何を見たのだろうか。

いや、こんな状況なんて比じゃない。私は、私達はもっと絶望的な状況にあった。

その時涼月さんは、道を作ってくれた。私の為に。私達の為に。

 

纏わり付く艦戦を狙って砲撃。正確に狙えば当たる。全く当たらないわけじゃない。

今までだってそうだった。あと一息、そんな所だったんだ。

 

『『正しい姿勢も日々の努力で身に付くもの。つまり努力すれば体が自然と形を成し、

 形を成した努力は必ず良い結果へと導いてくれる』と』

 

『吹雪さんが自分でもう十分努力したと思うのなら、流れに身を任せてみてください。

 そうすれば自然と体が動いてくれるから』

 

『正射必中』。赤城先輩が教えてくれた事だ。

 

私は自分の感覚を信じて、今まで努力してきた私を信じて、引き金を引く。

それは周囲を飛び回っていた艦戦を叩き落とした。

 

上空から負けじと機銃が飛んでくるけど、避けられないわけではない。

それだけ狙いが正確なら、ちょっとだけの回避でも避けられる!

私はその場で股を開いて姿勢を低くし、頭を下げて機銃をかわす。

重心を低くして逆に姿勢が安定して狙いも安定する。

擦れ違いざまに残った艦戦を撃墜した。残りは艦爆だけ。

 

『だから吹雪も始めてみようとは思わないか。ここから再び、な』

 

「駄目だったら何度だって始めればいい! 私達は、ここに居るんだから!!」

 

単縦陣で急降下爆撃の体勢に入っている艦爆を、重心を落としたままの体勢で狙う。

先陣を切っている艦爆を打ち落とすと、後続の艦爆が既に爆弾を投下していた。

命中率が高いなら、偏差の計算が上手いんだ。なら予想外の行動をすればいい!

 

錨を持って後ろに思いっきり投げつけ、そのまま旋回。

海底に錨が突き刺さり、そのまま体が引っ張られる。

だけどその錨を軸にして大きく回転。私の背後で大きな水柱が上がる。

そのまま回り、離脱しようとする艦爆の背後を取る。

 

「私が、皆を守るんだから!」

 

その声と共に放った砲弾は、正確にその艦載機を打ち貫いた。

 

「……私、やりました! 赤城先輩達のお蔭です!」

 

私は満面の笑顔で二人の方を向く。

すると体の奥から何か解らない力が湧き上がってくるのが感じられた。

 

「……上々ね。加賀さん」

「……ええ。やりました」

 

赤城先輩と加賀さんは、そんな私を見てにっこりとほほ笑むのだった




と言うわけでサブタイトルは某電子の歌姫の回転少女を若干意識。
史実をベースにした艦娘の坂を転がり続けながら消えていく艦娘のMAD無いかな。

そして涼月の今までやっていた努力を知る吹雪。何気に即興の外伝がフラグっぽかった。

今回は生きていれば何度だってやり直せる。というのがテーマになってたり。
提督の言葉でうまいのが思いつかなかった。(実は色々案があったけど全て没にした)
こういうパッとしない性格だからこそCV:三木眞一郎が似合うのではないかなーと。

そして吹雪の防空射撃演習。吹雪の分析は第八話の涼月の分析の正反対を意識しています。
何故反対なのかは後々解るかも。
後戦艦ドリフトならぬ駆逐艦ドリフト。艦娘なので軸回りの回転風味です。

吹雪を出撃・大破させなかった理由として、大本営によって棲地MIが定まっていたこと、
涼月の影響(特に第十二話)で無理をすることが無くなったという事です。
恐らく出撃していたとしても絶対に大破しなかった。

吹雪覚醒のフラグ系列に彼女のMVP台詞が使われいるのは意図的。

次回は第十話の終盤のお話と小話的なお話。あのお店が大活躍します。

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