艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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時間帯はまばらであれど、不定期更新とは一体……うごご。
投稿遅れて申し訳ないです。
「予約投稿? 知らない子ですね」
「早くしろー! 間に合わなくなっても知らんぞー!!」

アニメ第十話前半戦になります。
ここから原作とかなり離れていますので、そのあたりご注意して頂ければと思います。


第二十八話『今を生ける英雄』

Out side

 

 

所変ってこちらは夜の呉鎮守府。

第五遊撃部隊の旗艦である吹雪は提督室に提督と二人きりで居た。

長門は別室で陸奥と大淀と共に、大規模反攻作戦へ向けた図上演習を行っている。

 

「……そうか、あの涼月がか」

 

帰還後の戦果報告では隠蔽していたのだが、

せめて提督だけにでもと伝えに来ていたのだ。

何かの手違いかで提督の耳に入るといけない。

それに提督なら早々公表しないと思ったのだ。

 

「はい。すみません提督……でも」

「吹雪が気に病むことではない。寧ろ轟沈が一人も無く、トラック島の損害は軽微。

 寧ろよくやってくれたと言いたいところだ」

 

「ただ、賢明な判断だ。こんな時にその事態を公表すれば混乱は免れない」

「ありがとうございます」

 

涼月が意識不明の重体である事を知っているのは第五遊撃部隊の皆のみ。

その影響が特に大きかったのは何を隠そう吹雪自身であった。

 

「とにかく今日はもう遅い。近々MI作戦が発令されるだろう」

「MI……?」

「ああ。本部が特定した敵棲地の名前だ。その攻略作戦だからMI作戦、とのことだ」

「なるほど……」

「さぁ、明日も早いからもう寝たほうがいい」

「解りました。失礼します」

 

敬礼をして吹雪は提督室を出ていき、提督室では一人提督が残される。

一服しようと煙草を手に取り、火を付けようとしたところでやめた。

 

『生憎、煙草を吸う人に興味ありません』

 

涼月にそう言われたのもあるが、最近の吹雪が涼月に似てきたというのもある。

いずれ共に同じ道を歩むことになるかもしれない艦娘。

そうなる前に嫌われては元も子もない。

 

「別の一服をするとしよう」

 

提督は戻ってくるであろう長門の為に書置きをして、提督室を後にした。

 

 

Side 提督

 

 

一人提督が向かった場所。そこは小さなお店。

提灯がほんのりと夜の闇を赤く照らしていた。

引き戸がカラカラを音を立てる。

 

「いらっしゃい。あら、提督。ご無沙汰しています」

「ご無沙汰しているのはこっちの方ですよ。鳳翔さん」

 

落ち着いた雰囲気の店内と、柔らかな笑みを返す鳳翔さん。

居酒屋鳳翔、ここに来るのも久しぶりだ。

鎮守府正面海域を突破するまで忙しく、突破できたと思えば、

他の鎮守府との共同作戦が実行に移り航空戦力が充実している呉故に、

こちらの機動部隊が駆り出され再び激務に追われる。

 

前ここに来たのはここに着任して安定した頃ぐらいか。

着任後の荷物が詰まったダンボールがようやく片付いた時ぐらいか。

良くは覚えていないが、この店の雰囲気に随分癒されたのを覚えている。

 

「「提督、お疲れ様です」」

 

店の角、二人の女性がそこに居た。

我が鎮守府を誇る航空部隊の主力艦、赤城と加賀である。

彼女は珍しくも日本酒と突き出し、それに少量の小料理だけであった。

赤城は数本の焼き鳥。加賀はだし巻き卵。

 

「二人にしては少食だな」

「このお店と食堂では流石に住み分けてますよ」

「……そもそも、鳳翔さんのお店ですし」

 

確かにここは甘味所間宮と違い、多種にわたる料理を小出しする。

それもまたこの店の味となっていて、非常に良い雰囲気を作っていた。

因みに下戸でも通えるように清涼飲料も揃えてあるが、

基本的には一見の客や駆逐艦を始めとした子達はお断りとなっている。

それ故、鳳翔さんの後輩でもある赤城を始めとする空母がこぞって集まっているのだ。

 

席に座って日本酒を注文し、突き出しを出してもらう。

今日の突き出しはイカの塩辛、オクラと鰹節の和え物、冷奴だ。

 

「そう言えば鳳翔さんが仰っていましたよ。このお店に涼月さんがいらしたとか」

「涼月が……」

「勿論翔鶴さんとでしたよ」

 

一見で駆逐艦である彼女が此処に入るというのはかなり不可解な事ではあるのだが、

第一機動部隊で共に居た翔鶴が連れてきたのなら納得だ。

ただ鳳翔さんも良く認めた物だと思う。

 

「鳳翔さんが駆逐艦である涼月を認めるなんて珍しいですね」

「涼月さんの事は、瑞鶴さんや二航戦、翔鶴さんからも聴いていましたから、

 一度お会いしてみたかったのもありますね。

 それにあの時は非常に落ち込んでいましたが、直ぐに立ち直りましたよ」

「若い内は傷の治りも早い。今のうちに上手い転び方を覚えておけ、ですか」

「その通りです。赤城達もそうやって育っていきましたから」

「鳳翔さん……昔の話はちょっと……」

 

少しだけ顔を紅く染めている加賀。酔いによるものではなく恥ずかしいのだろう。

 

「しかし、鳳翔さんの『正射必中』の教えは本当に助けになりました」

 

赤城が思いついたように話題を切り替える。

『正射必中』。正しい姿勢て矢をいればおのずと矢は当たる。

弓道や空母道に通ずる言葉だが、決して一般的な言葉ではない。

 

「『正しい姿勢も日々の努力で身に付くもの。つまり努力すれば体が自然と形を成し、

 形を成した努力は必ず良い結果へと導いてくれる』。ですね」

「なるほど、鳳翔さんらしい教えですね」

 

正しい姿勢も、生まれながらにして出来る物ではない。

教わり自ら鍛練を重ねて初めて身に付くもの。

『努力に憾み勿かりしか』という言葉を兼ねた、良い教えだ。

 

「赤城も加賀も、昔は良く弱音を上げていたんですよ」

「あの二人が……」

「鳳翔さん!」「………」

 

赤城が耐えられなくなって声を上げて、加賀においては目線をそらした。

昔話はあまり好きではないらしい。個人的には興味のある話だ。

 

「個人的には気になるな」

「そうですね。では少しだけ」

 

こうして、鳳翔さんによる赤城と加賀の昔話が始まった。

 

 

Out side

 

 

空母道場で鍛練を重ねる二人の少女。少女と言っても中学生程の身長であるが。

矢を放ち、炎を纏いて艦戦となるもその機銃は的を反れた。

二人が互いに矢を放つも、一向にその的を撃ち抜くことは出来ない。

 

「空母の演習は、簡単にはいきませんね」

「………」

 

そんな中一人の空母が音を上げ、隣に居た空母は何を言うでもなく静かに弓を置く。

二人が身に纏うのは白の上衣に赤の下衣の弓道着と白の上衣に蒼の下衣の弓道着。

それは幼いころの赤城と加賀。

 

そもそも二人は空母として建造されたわけではない。

彼女らの艤装は戦艦として建造予定だったのだが、

当初敵深海棲艦に空母型の種が多く確認され始めた事により、

艦娘による航空戦力の増強も必要となり、

そこで建造途中であったのをいいことに赤城と加賀は急遽変更されたのだ。

 

「……赤城さん、諦めては駄目」

「そういう加賀さんだって、弓置いてるじゃないですか」

「でも……今日は新しい人が来ますし……」

 

赤城は活発な少女であったが、加賀は対照的に無口で無愛想な少女である。

赤城がある一つの所に全力で頑張るタイプであれば、

加賀は日々の努力を積み重ねるタイプである。

 

そんな二人でもこの空母の訓練はその身に堪えていた。

空母への改装。そこには彼女達の意思は存在しない為、

その独特な訓練に戸惑い音を上げる事が多かった。

 

上層部も新たな航空戦力として二人には期待しているのだが、

そういった現状で一向に練度が上がらないのは悩みの種であった。

その為二人の元には特別な教官が送られるという話になったのだ。

 

二人は教官が来ることによって、より一層この訓練が厳しい物になると想定する。

そんな中考え出したのはそれまでに上手くなって、

その教官を見返してやろうという物だった。

そうなれば教官などいなくともやっていけるという証明になり、

何よりもその教官が証人になってくれると赤城が睨んだのだ。

 

その為に今彼女達は空母道場におり自主訓練を行っているのだが、

だがそんな急に上手くなるわけは無かった。

逆に訓練に対する不満が積もるばかりで、今は投げ出すまでに至る。

 

「……教官って、どんな人でしょうか」

「スパルタ教育、かもしれませんね」

 

加賀の思考を遮るように声を上げる赤城。

幼い二人でも上層部の頭が固いことは知っている。

自分達の意思も関係なしに空母に改装を決めた上層部から送られてくるのだから、

どうせ頭の固い厳しい人が来るのだと赤城は決めつけていた。

 

そんな中、空母道場の扉が開かれ誰かが入ってくる。

二人は教官の人が来たのかと思い勢いよく振り返った。

 

「航空母艦、『鳳翔』です。不束者ですが、宜しくお願い致します」

 

しかしそこに居たのは温かな雰囲気を醸し出す、一人の女性。

 

「……お母さん?」

 

赤城がその雰囲気から感じ取った物をそのまま口にする。

加賀も思わず同じ事を口にしようとしたが、赤城に先を言われてしまい口を噤んだ。

そのお母さんという言葉が、鳳翔という艦娘の雰囲気を正確に射ている。

 

「お母さん、ですか。確かに私達は艦載機達にとってお母さんの様な存在ですね」

「そ、そうそう!」

 

赤城の言葉をうまく取り入れながらも、深く追求しない鳳翔。

赤城自身はその助け舟に乗りながらも同意し、加賀も激しく首を縦に振る。

二人を見てにっこりとほほ笑む鳳翔は空を見上げた。

空では二人の放った艦戦達が上手く編隊を組めずに飛んでいる。

 

「お二人の名前を聞かせて頂けませんか?」

 

鳳翔は二人に再び視線を合わせ、優しく問いかける。

すると二人は緊張したように敬礼した。

 

「こ、航空母艦、赤城です!」

「こ、航空母艦、加賀です……」

 

なるほどと鳳翔は頷く。

これが二人の少女と、一人の航空母艦の出会いであった。

 

 

Side 提督

 

 

「今日の昔話はおしまいです」

 

そこまで話した鳳翔は顔を真っ赤にする一航戦の二人を見て話をやめる。

流石に二人が居る前で聞くというのも酷な物だっただろうか。

 

彼女もそうだが、誰しも自分の隠したい過去はあるもの。

それが彼女の訓練していた時期なのだろう。

私としても、初めてここに着任した頃の話はあまりしてほしくない。

 

「そういえば、『吹雪』さんは元気にしていますか?」

「吹雪は……そうだな、少し参っているよ」

 

鳳翔さんの言葉に加賀が反応する。彼女も第五遊撃部隊の一人だ。

となれば涼月の話は既に知っている。寧ろ目の当たりにしている。

 

鳳翔さんにも、新しく入って来た艦娘の話はその人脈を駆使して情報は入ってくる。

彼女が吹雪を知っていたも何らおかしい事ではない。

 

「参っている、ですか?」

 

私の言葉に反応する赤城。彼女はまだ涼月の事を知らない。

疑問に思うのも無理はない。彼女は先輩として吹雪の事を気にかけているからだ。

 

「赤城、加賀。またあのような事が起きない為にも、

 吹雪の為にも、彼女を鍛えてやってほしい」

 

頭を下げる。二人は頭を下げた私に驚いている様子であったが、私は構わない。

私は彼女の為に尽くしてきたと言っても過言ではない。

これでまでも、そして今も。だからこそこの二人に頼みたいのだ。

 

「提督、頭を上げてください」

 

赤城の言葉を聞いて頭を上げる。そこには私に対して微笑む三人の空母達が居た。

 

「吹雪さんは彼女自身を守る為の力も、身に着けて貰わなければいけませんから」

「そうですね。それが吹雪さんの為になりますから」

「皆、すまない。これも私の我儘だ」

 

加賀と鳳翔さんの言葉に感謝する。

 

「吹雪さんには、また私と同じ海に立ってもらう約束がありますから」

「……そうだな」

 

赤城の言葉に私は頷く。彼女にはまだまだやって貰わなければいけない事がある。

だから彼女には加賀の言うように、自分の身を守るだけの力を付けなければいけない。

それが結果として鳳翔さんの言うように、吹雪の為になる。

そして赤城の言った、また同じ海に立つ為に。

 

「そこで、吹雪が強くなった暁には渡してやってほしい装備があるんだ」

「装備、ですか?」

「ああ。正規空母である二人も良く知っているあの主砲をな」

 

これを持つという意味は、彼女にとって特に大きな物になるだろう。

その見本となってきた一人の艦娘がいるのだから。




と言うわけでまさかの提督回&回想でした。
アニメでは色々と作戦が先走りしていましたがこちらでは大分スローペースになっています。

ほとんどの人が察していたと思いますが、
この小説での『正射必中』は鳳翔さんによる教えです。(アニメでは恐らく赤城さんの自己解釈)

簡易的な自問自答コーナー

Q.居酒屋鳳翔って一見さんお断りのお店だけどどうしたら入れるの?
A.一見さんお断り、つまり初めて見るようなお客さんはお断り、というお店は、
 所謂顔パス状態です。その店と『ご縁』を持つ感じになります。
 で、初めての人が入る為にはその店に通う人と一緒に行く必要があります。
 店側としては『この人が連れてきた人だから大丈夫』というような認識になります。
 無論連れてきた人に何かあった場合その人に全ての責任等が降りかかるのでご注意を。
 つまり、常連であった翔鶴に連れてこられたからこそ、
 涼月は居酒屋鳳翔に入る事が出来たわけです。

Q.提督は良く利用しているの?
A.一服の一つの選択肢にあるぐらいなので、割と利用しています。

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