艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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更新が遅れて申し訳ないです。
今回はアニメ第八話中盤のお話。
お節介とは誰なのか。そして涼月に少しばかりの変化が……?


第二十話『その手を取って』

その翌日、私は鎮守府から持ってきたボーキサイトを工廠に持っていった。

昨日はかなり忙しかったため港の一角に隠し、落ち着いた明朝に移動させている。

工廠の扉をゆっくりと開けると、明石さんが頭を抱えていた。

 

「明石さん、ご無沙汰しています」

「あっ! 涼月さん、戻ってたんですか!」

 

私の姿を見るなり飛び上がってこちらにかけてくる明石さん。

そんな彼女を見るとここに初めて来た時のことを思い出す。

 

「熟練見張員の妖精さん達は元気にしてますか?」

「はい。お蔭様で色々と助かりました」

「良かった~。で、どうしたんです? 艤装の修理ですか?」

「いえ、今日はあの時のお礼も兼ねてちょっと資源を持ってきたんです」

 

そう言って持ってきたボーキサイトを見せる。

それを見ると彼女の顔はみるみる明るい物へと変わっていった。

 

「わぁ~! このボーキサイトどうしたんです!?」

「呉に居た時に間宮さんから教えて貰ったんですよ。

 その時の遠征に出た時に見つけた物です」

 

一つずつボーキサイトを手に取って眺める彼女は、まるで宝石を眺めるようであった。

しかしここまで喜ばれるとは思っていなかった。

 

「渡りに舟とはまさにこの事ですねぇ」

「何かあったんですか?」

「それが上層部からFS作戦遂行の為の航空戦力の増強を依頼されまして、

 追加の航空戦力は何とか用意出来たんですけど、新鋭機の開発まで依頼されて……

 頑張りはしてみたんですけど、やっぱり普通のボーキサイトだと出来ない訳で」

 

なるほど、それなら納得できる。

私は装備開発に関わったことは無いので詳しいことは解らないが、

工作艦である彼女が言うのであれば間違いはないのだろう。

 

「ではこのお礼も兼ねて少し涼月さんにお話があるんですが、よろしいですか?」

 

 

Side 野分

 

 

鈍色の雲が空を覆う、白黒の世界。

その空は敵艦載機で埋め尽くされ、完全に制空権を失っている事が手に取る様に解った。

私と舞風が機銃を空に向けてもただそれはかわされるだけで、

この程度の力では到底奪回など出来るものでもない。

 

遠くで赤城さんが加賀さんを牽引しているのが見えた。

 

これはあの夢。知らない何かをまるで知っているような夢。

目覚めた後も頭にべったりと張り付く悪夢。

一つだけ違うとすれば……これが、明晰夢であるという事。夢を夢だと解っている夢。

だからこそ私はその後の展開を私は知っていた。

 

「赤城さん! 直上!」

 

考えるよりも先に口が動く。

でもその声は届いていないのか、それとも変えられないのか、

敵艦載機は加賀さんを牽引を続ける赤城さんに急降下爆撃をして、大きな爆発が起きた。

 

彼女の飛行甲板が炎上し、いつしか航行できなくなっていた。

こうなってはあの言葉を口にするだろう。

 

「ごめんなさい……雷撃処分、して下さい……」

 

自分の落ち度故のこの失態。そして自らも航行不能になるほどの損傷を受けた。

沈むにも沈めないこの状態で、赤城さんは艦娘の手を借りてまで沈もうと思っている。

死んで償おうと思っている。だから私は。

 

「自らの涙は! 自分で拭きなさい!!」

 

言い放った。

相手が正規空母だろうが呉と言う激戦地からやってきた艦娘だろうが関係ない。

そんな絶望した彼女に介錯する気はない。

あの時は流されるままに魚雷を撃っていたけど、今は違う。これは明晰夢。

夢だと解る夢ならば、抗うことだってできるはずだ。

 

「私達は駆逐艦! 赤城さんを介錯するのが役目じゃない!

 護衛艦として最後まで守り抜く事!」

 

舞風が涼月さんの言葉をそのまま赤城さんに言い放つ。

そうだ。私達は赤城さんを守る為にここに居る。

今航行不能に陥っていたとしても、彼女が生き残る可能性が零ではない。

 

私達は赤城さんの傍に駆け寄り、空に砲火を向ける。

守り抜く。それが私達に与えられた役目なのだから。

 

 

**********

 

 

「っ! ………」

 

目覚める。天井が目に映る。私達は最後の最後まで抗い続けた。そして勝ったのだ。

あの夢に。現実味のある『悪夢』に。

 

「舞風! 舞風!」

「後五分……」

「もう、何言ってるの!」

 

私はまだ眠っている彼女を起こす。急かすように。

 

「あれ……野分? なんで私のベッドに居るの?」

「昨日一緒に寝ようと言ったのは舞風じゃない」

「あー、えっと……ま、いっかー」

 

目を開けるもまた再び眠ろうとする彼女を頑張って起こす。

もしかしたら、あの夢は舞風と繋がっている気がするから。

だから早く伝えたい。私の大切な人に。

 

「舞風! 今日の夢、どうだった?」

「夢……魚雷……そうだ!」

 

勢いよく起き上がる舞風は辺りを激しく見回して私と視線を合わせた。

 

「野分! 夢、どうだった!? 魚雷、撃たなかったよね!」

「舞風も!?」

「うん! ならやっぱり!」

「繋がってる……!」

 

私達は確信した。一人や二人では難しいけれど、皆の力を借りればいいと。

どんなに小さなことでもいい。小さなことから始めればいいのだと。

後で涼月さんにお礼を言わなくては。そう思い私達は着替えて部屋を出た。

 

 

 

呉からこちらに移動してきた人達の朝食を作る為に、すぐに厨房へと向かう。

一方の舞風は朝の独学のダンスをするために外へと駆り出していった。

 

厨房からは既にいい匂いが漂っている。

恐らく誰かが既に朝食を作る為に準備しているのだろう。

 

「おはようございます!」

「おはようございます。野分さん」

 

急いで厨房に入ると同時に挨拶するとそこに居たのは大和さんだった。

洋朝食を作っている。しかし今日の当番は私のはず。一体何故。

 

「あの、大和さん。今日は私の当番の日では」

「先日から呉の方々がいらっしゃってるので、当分は私が全て担当しますよ」

「ですが……」

「そうですね、もうすぐで朝食が出来ますから総員起こしをお願いできますか?」

 

見ると既にバイキング形式で多くの料理が出来上がっており、

今から私がどうこうできる問題ではなかった。

ホテルというものを嫌っていて、何故そうあろうとするのか。

やはり磯風さんの言っている、『夢に似た何か』が関係あるのだろうか。

 

「解りました。野分、総員起こしをかけさせていただきます」

 

私は部屋に戻ってラッパを取り出し、基地の屋上で高らかに吹き鳴らした。

今までより少しだけ騒がしい日々か、始まる。

 

 

///////////////////

 

 

朝食の前に鎮守府の皆さんが集められ、私達はその前に立っていた。

 

「鎮守府からの移動ご苦労だった。既にいくらか知っている者がいると思うが、

 ここでこの泊地に所属している艦娘を紹介する」

 

それを指揮するのは呉鎮守府で秘書艦をしているという長門さん。

どことなく磯風さんに似ている。

 

「大和型戦艦一番艦、『大和』と申します。皆さん、よろしくお願いしますね」

「陽炎型駆逐艦十二番艦、『磯風』。……大丈夫、私が守ってあげる」

「陽炎型駆逐艦『野分』、参上しました。よろしくお願いします」

「こんにちはー! 陽炎型駆逐艦『舞風』です! 暗い雰囲気は苦手ですっ!」

 

涼月さんは元々こちらの所属であったが、今は呉の所属である為紹介は無し。

 

「今後FS作戦には彼女達も参加してもらう。

 いずれ同じ海で戦う者同士、今のうちに親睦を深めておいてほしい」

「「「はい!!」」」

 

駆逐艦と思われる子達が特に大きな返事をする。

そんな中で涼月さんを探すも見つからない。

この子達よりも、私達よりも長身の人なのですぐに見つかると思ったのだが……

総員起こしをかけたので眠っていることは無いだろう。

特にトラックでは全員……といっても磯風さん以外料理当番になるので、

それが体に染みついて早起きするという事も有りえる。

 

「長門秘書艦、涼月が見当たらないのだが」

「ああ、彼女は今工廠に行っている。そうか後は彼女も居たな」

 

長門さんに対して私の思った質問を飛ばす磯風さん。

舞風も同じタイミングで彼女を見たので同じことを考えていたのだろう。

それを聞いて思い出したように口を開いた。

 

「今此処には居ないが工廠で艤装の修理や装備開発を担当している、

 工作艦の『明石』がいる。暇のある者は顔を合わせておくように」

 

そう言えば明石さんもいない。という事は明石さんに用事でもあったのだろう。

 

ここで私達の紹介は終わり皆は朝食を食べに行く。

私達は朝食が出来たことを伝える名目で、涼月さんを探す為工廠へ向かうのだった。

 

 

 

工廠では明石さんと艤装を装備した涼月さんが二人で何かを話し合っていた。

 

「皆さん、ちょうどいい所に」

「「「?」」」

 

待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべる二人に私達は首を傾げる。

明石さんが涼月さんの艤装指していた。

自然と視線が移ると、彼女の艤装が大幅に変更されていることに気付く。

 

元々彼女の艤装は主砲を手に持ち、艦首が半分に割られた艤装には機銃が付いていた。

だが今はその艤装に主砲が二基装備されており、その後ろに三連装機銃が付いている。

そしてサイドテールの髪留めには電探が取り付けられており、

背後の魚雷は撤去されて増築用のマストと妖精さん達が彼女の頭から顔を覗かせていた。

これは一体どういうことなのだろうか。

 

「かっこいいねぇ!」

「なるほど、改装か」

 

二人が口々に意見を述べる。磯風さんの言葉でやっと理解できた。

これは近代化改装。主砲の増設や装甲の強化などを行う物だ。

涼月さんの艤装はかなり変わっていたが、

特に変わった様子も無いのでそこは明石さんの腕が良い証拠だろう。

 

「それで、丁度いいという事は」

「皆の練度もかなり上だから、上層部がFS作戦に向けての近代化改装を許可してね。

 対空戦闘用の電探もそれなりに送られてきてるから、それの増設かな」

「なるほど」

 

中々に悪い話でない。むしろ推奨されることなのだろう。

 

「涼月さん、気分はどうですか?」

「主砲の位置と勝手がかなり変わってしまったのでそこぐらいでしょうか」

 

確かに手に持つスタイルから艤装から直接発射する形では感覚も変わるだろう。

そこは彼女の事だから演習を重ねてすぐに慣れるかもしれないが。

 

「涼月さんはここまで大規模な改装になりましたが、

 皆さんは対空電探の増設と各主砲の強化になりますから、そこまで変りませんよ」

「では、随時お願いしてもいいか」

 

磯風さんが率先して前に出る。

確かに現在の装備である12.7cm連装砲では対空戦闘は難しい。

何せ一発撃つごとに砲身を水平に戻してから装填、

再度砲身を上げて発射という非常に手間のかかる構造であるから対空戦闘力は皆無。

涼月さんがこちらに居た時の敵偵察機の撃墜をお願いしていたのもそれがあるのだ。

 

「私もお願いします」

「私も!」

「決まりましたね。では皆さんの改装が終わり次第、大和さんを呼んできてください」

「大和さんも、ですか」

「はい。今回FS作戦では空母同士の航空戦が予想されているので、

 彼女もまた艦隊決戦用ではなく、対空戦闘用に大規模な改装が予定されています」

 

演習で見ていた彼女の艤装は大きいだけでなく、大量の副砲でも覆われていた。

副砲と言えど対空火器というわけではないので、防空能力は低いだろう。

しかし大和さんがそこまで練度を上げているとは思えない。

演習には率先して参加していたものの、今では固く禁止されている。

 

「大和もまた、演習だけとは言えど練度を上げているという事か」

「演習での好成績が、彼女の更なる練度向上に役立っているという事かもしれません。

 モチベーションと言うものも、練度に大きくかかわってくるようですね」

「私も解る気がするなー。実動演習で好成績! もーっと強くなれた! なんてね」

 

体で感じる事を優先する舞風が言うならそれは確かな事なのだろう。

私も演習で好成績だと気分が高揚するし、いつもより更に強くなれる気もする。

 

「そう言えば野分さん達はどうしてここに?」

「そうでした、朝食が出来たのでお二人とも呼びに……」

 

そう言うと涼月さんが何か思い出したようにはっとする。

何か不味い事でもあったのだろうか。

 

「いえ、ただちょっと嫌な予感がしただけです」

「しばらくは大和さんが作られるそうです」

「そうなのですか」

「……涼月、私を何だと思っているのだ」

 

涼月さんには、まだ磯風さんの料理の記憶がしみついているようだった。

 

 

 

私達が食堂に着いた時には既に大和さんとその妖精さんが食器を片付けに入っていた。

あれだけあったバイキング形式の料理は綺麗に無くなっている。

 

「あら皆さん、朝食はまだでしたか?」

「えっと、大和さん……これは一体」

「呉の空母の方々は非常によく食べる方なので、この通りですよ」

 

私の問いに苦笑いで答える彼女。

それでもあれだけの料理を全て食べる艦娘なんて、大和さんぐらいしか考えられない。

呉にはそれほどの健啖家が居るということなのだろうか。

 

「ご無沙汰してます、大和さん」

「涼月さん。お久しぶりです。昨日の夕食はどうされたのですか?」

「昨日は哨戒後に野分さんのおにぎりを頂きました」

「そうだったのですか。すみません、折角戻ってきていただいたというのに」

 

どことなくギクシャクしている二人。すれ違っているような、そんな雰囲気。

恐らく涼月さんは昨日磯風さんに言われた事を気にしているのだろう。

『ホテル』という言葉を気にかけている彼女を。

でも差支えない言葉を選んでいるので、おそらく上手い言葉が見つからないのだろう。

 

以前の涼月さんなら色々と突っ込んで、磯風さんにお説教されたり、

私から代理で説明したり、舞風さんに誤魔化されたりしていたのに、

今では随分と大人になっていた。

それでも、独特の重い空気がその場に溜まってしまっている。

 

「大和、明石が少しばかり話があるそうだ」

「明石さんが、ですか?」

「何用かは自分の耳で聞いてくれ。ただ私からは良い話とだけ言っておこう」

「では、朝食の片付けが終わって「大和さん!」」

 

大和さんの言葉に割り込むように、後ろから誰かの声がした。

振り返ると朝の紹介の時に駆逐艦の最前列に居た、一本結びをした一人の少女の姿が。

服装はセーラー服からスクール水着に変わっていたので、

おそらく海水浴に行っているのだろう。

 

「良かったら私と海に行きませんか!」

「えっ、あの、私は」

「部屋の中ばっかりだと気分が暗くなるだけですよ! さっ早く!」

 

何かを言おうとする大和さんの背中を押し、私達には頭を軽く下げるだけの会釈をして、

食堂から出ていってしまう。

なるほど。磯風さんの言っていた『お節介』と言うのが少しばかり解った気がする。

 

「涼月、彼女だ」

「なるほど、吹雪さんですか」

「吹雪?」

 

聞きなれぬ名前に少しばかり動揺を覚える。

私達陽炎型とは違うのだろうか。艦名が違うので別だというのは解るが。

 

「私が呉に転属されて暫くして配属された方です。

 非常に努力家で、私と同じく別艦隊の旗艦を任されています」

「駆逐艦で、ですか」

 

涼月さんならまだ少し解る気もするのだが、彼女はそうには見えない。

いたって平凡な駆逐艦の艦娘にしか見えない。

もしかすると戦闘になると性格が変わるような艦娘なのだろうか。

 

「だが、まだ初々しさは残っているな」

「それはこれから解消される事でしょう。しかし、今のは流石に」

「後片付けは私達が行います。涼月さんは行ってあげてください」

「解りました」

 

涼月さんは頭を下げて、大和さんと吹雪さんを追い始めた。

私達はその背中を見送る。

 

「ねぇ野分、誰が私達のご飯作るの?」

「仕方ない、私が直々に「私が作ります!」」

 

大和さんが呉の方々に出す全ての料理を担当してくれるという事に、

少しばかり安心感を覚える私であった。




ちょっと悪夢の部分が雑だったので加筆してました。
だが定期更新を裏切ったのは許されないぃぃぃぃ!

今回は野分メインのお話でした。
駆逐艦目線の変わった悪夢。変えた悪夢。これが何へと繋がるか。
総員起こしはラッパみたいです。吹雪とかの時報ボイスから総員起こしと言うものを、
学習しました。

そして涼月が改になりました。
これでしっかりとした秋月の様な艤装スタイルになりました。
手を持つ形から艤装連結式に変わったので、脳波コントロール出来る!(ぇ
後髪留めが電探なのは磯風改のイラストを参考に。
こちらの考える電探システム的に頭部に近い方が都合がいいので。

次回は……まだ第八話の中盤です! 引っ張りますが結構分厚い内容になってるなぁ。

Q.ボーキサイトっていつの?
A.第六話をストーリーに中半無理やりにでも組み込むスタイル!

Q.追加の航空戦力ってまさか!?
A.まぁ、そうなるな。

Q.磯風ェ……
A.まぁ、そうなるな。

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