艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~ 作:kasyopa
ここから一話を二話構成にするパターンが崩れます。(重要なパートなので)
オリョール海を解放し帰還した私達を待っていたのは利根さんだった。
「良くやったの。そんなお主らにもう一つ朗報じゃ!」
それは珊瑚諸島海域にて第五遊撃部隊の方々が、
敵空母を一隻撃沈、一隻大破させたという知らせだった。
無論轟沈は無く、被害報告は翔鶴さんが中破したという事。
「翔鶴さん、大丈夫でしょうか」
「大丈夫じゃ。第五遊撃部隊にはトラック泊地へ直接向かうように言っておる」
「トラック泊地!」
思わぬ名を聞いて思わず声を上げる。
「そういえば涼月はトラックから来たんじゃったな。
そう焦るでない。お主らも赤城と加賀の修復が済み次第即時向かってもらう」
「はい! ありがとうございます!」
トラック泊地に向かうという事は、前進基地として完成されたのだろう。
大和さん達にまた会える。
しかしそれは大規模反攻作戦の火蓋が切られたも同じで、大きな戦いを予見させていた。
「良かったね。またトラックの仲間に会えるじゃん」
後ろから川内さんが肩に手を置く。
彼女の言う通りだ。今は彼女達に会える。それを喜ぼう。
その後私達は高速修復材が届いた関係で、
入渠がすぐ終わった一航戦の二人を連れて、
そして秘密裏に採取していたボーキサイトを船に乗せて牽引しながら、
トラック泊地へ向かうのだった。
途中赤城さん達に激しく追及されたが『お土産』と言い張って中身は見せなかった。
/////////////////////
トラック島に着いた私達を迎えたのは、熱帯植物が生い茂った森。
その一角にある浜辺に辿り着いた私達。
「ほんとにここが前進基地……?」
「変わってませんね、まったく」
皆が不安な表情を浮かべるが、私は至って落ち着いていた。
「さあ皆さん、私が案内しますね」
この中で唯一この島を知っている私が先導しなければ意味がない。
このまま浜辺に居ては夏の日差しで参ってしまう可能性もあった。
「あら、いい匂いね」
「これは……牛肉の匂いでしょうか」
赤城さんと加賀さんはお腹が減っているのか鼻が敏感になっていた。
誰かが昼食の準備をしているのだろう。
私には土と植物の香りでその匂いが本当にするかどうか解らなかったが、
二人が言うのならば間違いはない。
森を抜けるとコンクリート製の大きな建物が立っていた。
私が居た時よりも更に広くなっている。
それが前進基地として完成されたことを物語っていた。
「うわっ、大きい~」
「大規模反攻作戦の為の、前進基地と言うだけはあるわね」
と、その建物の中から一人の少女が姿を現す。
金髪の髪に黒い制服。間違いない。『舞風』さんだ。
「あっ! 涼月! 久しぶりー!」
「お久しぶりですね。舞風さん」
彼女は私の姿を見るや否や私の手を取り踊り出す。
だが私の後ろに居る人達と目があった時、急に踊るのをやめてしまった。
今自分のしている事に気付いてはっとしたのかと思ったが、どうやら違うようだ。
その視線の先に居るのは赤城さん。そしてその赤城さんも同じ目をしていた。
まるで信じられないようなものを見た目。
「あっ……と、陽炎型駆逐艦、『舞風』ですぅ! 暗い雰囲気は、苦手です!」
その言葉を聞いて皆が舞風さんと挨拶をかわしていく。
ただ、赤城さんに対しては非常にそっけない、彼女らしからぬ態度をとっていた。
「航空母艦、『赤城』です。……よろしくね、舞風さん」
「あっ……はい……」
いつも明るく、楽し気な彼女の姿はそこにはなかった。
「とりあえず、補給、ですよね! 食堂はこっちになりまーす!」
明るく振舞おうにも空回りしているようで。
私が、あの現実味の帯びた夢に縛られている時の様に。
そう。彼女は何かに縛られた人形の様にも見えてしまった。
・
・
私は手早く食事を終わらせて、舞風さんを元々私の部屋だった場所に呼び出した。
「何、涼月? 怖いよ?」
「舞風さん、赤城さんと何かあったのですか?」
その名を聞いて動揺する彼女。
必死に目をそらしならがもその瞳には戸惑いと動揺が映っている。
「えと、野分、呼んで来ていいかな」
「逃げないのでしたら、いいですよ」
「に、逃げないって! ただ……私だけだと怖いから」
怖い。何が怖いというのだろうか。
やはり、彼女も私と同じような状態にあるのだろうか。
そもそも私は何故姉妹艦といえど、野分さんと舞風さんは常に一緒に居る。
それが何故かはわからない。ただ私のペンネイトを見てなおの事仲良くなったらしいが、
それは磯風さんから教えてもらった事で私には解らない。
「だから、だから、ね。野分、呼んできて、良いかな」
彼女は今にも泣きそうな目をしている。
私は静かに首を縦に振ると彼女は飛び出すように部屋から出ていった。
一人取り残された私は、夢の事を思い出す。
私でも、あの夢は怖かった。でも誰も沈まなかった。
途中で被弾した二人も佐世保に戻ったし、私達は呉に無事に辿り着いた。
私の夢はそこで終わり、その悪夢だったのかよく解らない夢を見ることは無い。
それも他ならぬ榛名さんのお蔭で、その夢から解放された。
そして如月さんの見ていた夢。
それは自分が轟沈するという夢。まるで予知夢の様に。
その夢は私が助けたその日から見なくなったという彼女。
つまりその出来事を乗り越えたから見なくなったのだ。
どちらの運命を辿ったとて、夢を見なくなるのには変わりないのだが、
彼女はあそこで沈んではいけなかった。睦月さんの為にも。
そこまで考えたところで、舞風さんと野分さんが入ってくる。
「ちゃんと来てくれましたね」
「……涼月さん、貴女にこの話をして、信じてもらえるなどとは思いません。
ただ、聞いてもらうだけで十分です。それが、私達の願いです」
「いいえ、信じます。貴女達は、私の大切な先輩であり親友なのですから」
そして彼女達は絞り出すように話し始めた。
「大規模反攻作戦、それが発令された時から少しずつ、夢を見るのです」
「私ね、最初は普通の夢って思ってたの。でも、朝起きたら必ずその事を覚えてて」
「それが何かは解りません。どこかは解りません。
誰かも知らない……いや、知らなかった」
知らなかった。つまり、今は知っているという事。
私もそうだった。ただ一人、榛名さんに会うまでは。
「制空権を失った空の下、貴女が引き連れてきたほとんどの人達が空襲に晒される。
赤城、加賀、蒼龍、飛龍、榛名、霧島……どうして……」
「そして、ほとんどの方々、特に赤城、加賀、蒼龍という方の損傷が激しかった。
それも、自力航行不能になるまでに」
「そこで、赤城さんがこういうの。『雷撃処分、して下さい』って」
「私達は彼女達の随伴艦として、その作戦に参加していたのだと思います」
「それで……私……私達……」
そこで舞風さんが泣き出してしまう。
野分さんはそれを静かにあやすが、彼女自身の目にも涙が映っていた。
「随伴艦として、介錯するのが、私達の役目……」
「そんなの、嫌だよぉ……」
舞風さんは声を上げて泣き、野分さんの頬には涙が伝う。
「おかしい事だとは解っています。こんなこと、起きるはずがないと。
でも、今日貴女が連れたあの方々を見て、舞風と話したんです。
すると互いが互いに同じ夢を見ていて、更に不安になって」
「私達は、何故こんな夢を見るのだろう。何故知っているのだろう、と」
私は、そんな二人を抱きしめる。そんな私の突然の行動に二人は驚いた。
大きい体は、こういう時に便利だと思う。
「……少し話をしましょうか」
私は語る。呉で起きた不思議な夢の話を。
最初こそ彼女達は泣いていたがいつしか私の話を聴くことで泣くことも忘れ、
涙が頬を伝うことは無くなった。
・
・
「つまり、それを超える事が出来れば夢は見なくなる、と」
「恐らく舞風さんと野分さんの見た夢は、如月さんの見た夢と同じなのでしょう。
確信を得たのは、私と同じようですが」
「なら赤城さんと……でも……」
舞風さんが赤城さんと和解すれば、と言いかけたのだろう。
しかしそこまで言う事が出来ずに尻すぼみになってしまった。
「ですがその晴れぬ思いを持ったまま作戦が実行に移れば、
そうなる可能性も高くなります」
「でも、でも……」
野分さんに答えを求める様に舞風さんは視線を送ったが、野分さんが首を横に振る。
彼女もうまい言葉や手段が見つからないのだろう。
「ですから私が、二人のお手伝いをさせてください」
「涼月さんが?」
「私の夢も、榛名さんが手を差し伸べてくれたから無事に終わりを迎えました。
ですから今度は私の大切な貴女達の手を取り、導きたいと思います」
今まで抱きしめていたことを思い出して二人を解放し、
視線を合わせてその手を取る。
「駆逐艦として私達に出来る事。それは彼女達を介錯するのではなく、
護衛艦として最後まで守り抜く事。
その為に貴女達は、ここで頑張って来たのではありませんか?」
「その通りだ」
扉を静かに開けて入って来たのは磯風さん。
「磯風さん、いつからそこに?」
「そうだな、舞風が野分を連れてお前の部屋に入る時からか」
「最初からですね」
「まぁ、そうなるな」
野分さんのツッコミを軽く流す彼女は、強い目をしていた。
長門さんの様に勇ましく、覚悟を持っている。
「磯風さん、まさか貴女……」
「生憎、私はそう言う夢は数えきれんほど見てきたのでな。
ならばそれを繰り返さぬように鍛錬を積み、この世を生きるだけだ」
鍛錬と言うものを何よりも重要視していた彼女は、既にある境地へと至っている。
どうやら、磯風さんの方がこの事については一枚も二枚も上手だったようだ。
私が二人に口出しするまでもなかったのかもしれない。
……いや、彼女も悩んでいたことがあったのだろう。初めから強い人などいない。
彼女は、そのきっかけが多かった。それ故に鍛錬に励んだのだろう。
『実動演習をしよう』
『いくら遭遇戦で実戦経験が豊富とは言えど、
このままでは本土の艦娘達とは練度が段違いになってしまうからな。
哨戒に加え艦娘同士で演習することで練度を高め合うんだ』
鍛錬と言うものに貪欲ともいえる彼女の真相は、私達と同じ夢にあったのだ。
「さあ、そうと決まれば哨戒任務だ!
本土の艦娘にひと時の平和を謳歌させる為にも、私達が努力しなくてどうする!!」
「ええー! 私涼月ちゃんともっと踊りたいなぁ」
「つべこべ言わずに行くぞ!」
////////////////////////
艤装を装備した私達はトラック島の周辺の哨戒を行う。
その間、私は三人に大和さんの事について聞いてみる事にした。
食事の時には大和さんは居らず、話を聞けば別の艦隊の人を迎えに行っていたらしく、
まだ会えていない。
「大和さんは最近どうされてますか?」
「大和か……少し芳しくないな」
「最近は大規模反攻作戦に向けて上層部も保守的になり、
大和さん自身の演習の参加も出来なくなってしまったのです」
「演習すらも、ですか」
「そうなんだよね。それで、最近は『ホテル』って言葉に敏感になっちゃって……」
「『ホテル』?」
大和さんとホテルという言葉に何の関係があるのだろうか。
確かに大和さんの料理は一級品で前進基地も基地として建てられた割には、
居住性がはっきり言えば呉より段違いに良い。
ホテルと言っても差支えないかもしれない。
「士気の低下を避けるために居住性を重視した造りにしたのは大和の意向なんだ。
料理が彼女だけ段違いに上手いのもそこに準ずる……が、それ以外にあるかもしれん」
「それ以外、ですか」
「涼月の言っていた、夢に似た何かだ」
大和さんも、そう言ったことがあるのだろうか。
いや、でも、二航戦の二人もそう言う事があった。
『そういえば『人殺し』とか言われてたよね』
『ねー。そこまで言うことは無いと思ったけど、あながち間違ってないから怖いよね』
覚えていない筈の事を覚えている。知らないはずの事を知っている。
最初からある分野での才を持っている者もいれば、ない者もいる。
「それこそ、私達が何故艦娘と呼ばれるのか。その真相に至れば解るかもしれないが」
数々の『夢』を乗り越えた彼女は、いつしか真相へと向かっている。
その『夢』も『才』も、全ての『解』は『艦娘』というものにあると言わんばかりに。
「とにかく、大和は少し参っている。会ってないのであれば早く会ってほしい」
「昔の涼月に似た『お節介』が紛れ込んだようからな。
彼女の舵が狂わぬように、お前が取ってやれ」
「解りました」
そのお節介が誰かは解らない。
ただ、大和さんの舵を狂わすのであれば私はその人とぶつかる。そう新たに決意した。
大和出てない……けど仕方ないのや……
今回は舞風と野分のお話。歪みし光=陽炎ですね。
彼女らもまた、同じような目にも合っているのです。
悩んでいるのは涼月だけではないのですよ。
そして磯風。彼女は一体何を見て、何を思ったのか。
彼女の史実は色々と壮絶です。
次回は第八話中盤のお話。ついにあの戦艦が……?
そして少しずつ大規模反攻作戦に向けた動きが起こります。