艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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いいえ、入りません。
第六話後半戦です。あとがきは随時更新!


第十六話『ボーキサイトは具材に入りますか?』

夕張さんがボーキサイトを奮発して作った鍋は、

非常に頑丈ながらも熱伝導率がいいという、私からしても羨ましくなる程の逸品だった。

 

そして今は、料理この鎮守府内で一番上手いとされる間宮さんの所に来ていた。

 

「ねぇ間宮さん、おいしいカレーの作り方ってない?」

「そうね、愛情をたっぷり注いだカレーなんて言うのはどうかしら?」

「あの、愛情は確かに必要ですが、そう言うのではないと思いますよ」

 

愛情は確かに必要。だけれども愛情だけでおいしくなることは必ずない。

磯風の料理がいい例である。

 

「そうね……なら、バシー島で発見されたっていう、幻のボーキサイトが」

「「「「幻のボーキサイト!?」」」」

 

間宮さんらしからぬ発言に私は驚きながらも、暁さん達はその話に食いついた。

遠征を主にしている身からすると、それはそれで興味のある話なのだろう。

 

……因みにボーキサイトはアルミの原料で、

水に溶け出し吸収されやすくなったアルミは少量ならまだしも、

大量に摂取すると神経毒となりえる危険な物質。

 

気が付けば暁さん達はその幻のボーキサイトを求めて、

再び遠征に出るということで話が纏まっており、

私はそれを阻止するためにも、随伴艦として遠征に出る事にしたのだった。

 

 

 

「電ー、そっちは見つかった?」

「見つからないのです」

「響ー! そっちはどう?」

「Нет(ニィエート)」

 

鉱山の一角で始まったボーキサイト探し。

私はどうにかしてでも彼女達より先に幻のボーキサイトを見つけ、

確保して見つからないようにしなければならない。

 

「妖精さん達、頼みますよ」

 

激しく首を縦に振る妖精さん達。彼女達も必死なのだ。

それもそのはず。彼女達も間宮さんの料理を食べておりお世話になっている。

でも料理の一つであるカレーのレシピに、

一年間も毒素が含まれた物を投入されるのは全力で回避したいのだろう。

正直に言えば私だってそうだ。おいしくなっても体に毒なら意味がない。

全力でトラック泊地まで逃げ戻りたくもなるが、それを食べるのは私だけではない。

文字通り呉鎮守府の命運がかかっている。

 

艦娘である私達は『もしかしたら』支障がないかもしれないが、

当然このカレーは提督も食べるので、

流石に普通の人間である提督に食べさせる訳にはいかない。

 

「あっち……? ありがとうございます!!」

 

4人に気付かれない様にこっそり抜け出し、妖精さんが見つけたと思う場所へと駆ける。

そこにはかなり純度の高いと思われるボーキサイトが大量にあった。

 

「流石です妖精さん」

 

マストから身を乗り出して撫でてとせがむ二人を優しく撫でてあげる。

 

「涼月さーん! そっちは見つかったー?」

「いいえ! そちらはどうですか!」

「まだー!」

 

これだけ質の高いボーキサイトがあれば、料理ではなく別の物に仕えるだろう。

 

その後なんとか4人には幻のボーキサイトが見つからずに済み、

アルミ鍋を作って無くなってしまったボーキサイトを補充するために、

いつも変らぬボーキサイトを輸送する遠征となった。

 

そこに私は解り辛い様に幻のボーキサイトを紛れ込ませ、

鎮守府に到着後そこから再度抜き取り、工廠とは別の場所に隠しておくのだった。

 

「もうやだやだやだ! カレー大会なんてやめるー!」

 

幻のボーキサイトを隠し終わって戻ってくると、

港に寝転がって駄々をこねる暁さんの姿が。

遠征に向かう時の気合はなく、まるで第五部隊に配属が決まった吹雪さんの様だった。

それを聞いて響さん達も気分が下を向いている。

 

「一度や二度の失敗で諦めるのですか? もっと努力をしないのですか?」

「だって、もう暁達に出来る事なんてないじゃない!」

 

瞳に涙を貯めながらこちらを向く暁さん。

皆も落ち込みながらも、どうしろというのだという視線を向けた。

 

「自分の出来る事を全てやり終えると、道が見えなくなるかもしれない。

 ですが周りを見て、他の人に頼る事が出来れば、新たな道が開ける。

 私はそうやって、第一機動部隊の旗艦になるまでに至ったのです」

「でも、それは努力してないんじゃ……」

「自分に出来る事を増やすために、日ごろの努力や鍛錬は必要なのです。

 努力は絶対に貴女達を裏切りません。『努力に憾み勿かりしか』です」

 

十分に努力したかと聞かれれば、私は首を横に振るだろう。

まだ足りない。彼女の護衛艦として、彼女を守る盾として、強くなるために。

 

「私の誓った事を成すまで、私は努力を惜しまない。

 貴女達は誓った事を成すために、努力を惜しまぬ覚悟がありますか?」

 

彼女達は目を見あって頷き合い、そして立ち上がる。

その姿からは、覚悟がひしひしが伝わってきた。

 

「涼月さん。暁達にカレーの作り方、教えてくれないかしら!」

「解りました。では早速調理室に向かいましょう」

 

私が教えられるのは至って普通のカレー。

でもそれをどこまでおいしくできるかは、彼女達第六駆逐隊の努力にかかっていた。

 

 

////////////////////////

 

 

翌日。

鎮守府内の校庭では特設ステージが設けられていた。

 

『マイクチェックワン、ツー。ワンツーワンツー、三、四ー!

 はーい皆さんお待ちかねの鎮守府カレー大会!

 実況は私金剛型戦艦四番艦、霧島と!』

『現場実況は! 艦隊のアイドル、那珂ちゃんでお送りしまーす!』

 

ノリノリの霧島さんと那珂さんが出場者を説明している中、

見物している人達の視線が私に集中している。

場違いな気がしてならず、絶えず冷汗が流れ出ていた。

 

「あらあら、そんなに緊張しちゃだめよ。長門が選んだ審査員なんだから」

「陸奥さんは審査されないんですか?」

「私はあくまで長門の補佐、審査は長門と貴女の仕事」

 

そうなのかと思いながらも、視線を前に戻す。

出演者は金剛さん・比叡さんチーム、翔鶴さんと瑞鶴さんの五航戦チーム、

赤城さんと加賀さんの一航戦チーム、島風さんと連装砲ちゃんチーム、

足柄さんと羽黒さんチーム、そして暁さん・響さん・雷さん・電さんのチーム。

これで計6チーム。

長門さん曰くこれ以外にも申請があったらしいが、

私の食べられる量を考慮して減らしたそうだ。

 

『そして審査員は『この国の危機は私が救う! 名立たる世界のビックセブン!』

 鎮守府の守護神『長門』さんと!』

『『この鎮守府でその名を知らぬ者はない! 私を誰だと思っている!!』

 防空駆逐艦『涼月』さんです!』

 

そんな事を言った覚えがないのだけれど……もしもアドリブなら凄い才能だ。

 

『では、お料理ナンバーワンの名誉を賭けて!』

『鎮守府カレー大会スタート!』

 

那珂さんの合図に合わせて号砲が鳴り響いた。

 

暫くしてところどころからカレーのいい匂いが漂ってくる。

その独特の香りが鼻の奥を擽り、食欲をわかせた。

と、足元から何かが上がってくる感触がしてみてみると、

見張員の妖精さんがカレーの匂いに誘われたのか私の脚を上っていた。

滑って辛そうだったので拾い上げる様にして机の上に置いてあげる。

 

「貴女達もカレーを食べたいのですか?」

 

コクリと首を縦に振る二人。私は構わないのだが、長門さんがどういうだろう。

 

「長門さ「構わん」あ、はい」

 

聴くまでも無いというか、即答だった。

長門さんは少なからず夕張さんの話を聞いているので、存在は知っているだろう。

この子達は長門さんにも興味があるのか、榛名さんの時と同じように近づいていく。

 

「この二人があの見張員の二人か」

「はい。折角ですから長門さんも遊んであげてください」

「……いいのか?」

「はい。この子達もそう思ってますから」

 

優しく掌を差し出す長門さんの上に乗る妖精さん達。

腕からそのまま肩の所まで昇ってしまった。

 

「なるほど、偶にはこういうのも悪くはない」

 

少しばかり不敵な笑みをこぼす彼女を見て、磯風さんを思い出した。

 

『あーっと! ここで第一の脱落者! お姉さま方が気絶してしまったぁ!!』

 

どうしたら気絶するのか解らなかったけども、

金剛さん達の鍋を見ると異様な色の煙が立ち込めていたので、即座に視線を外す。

一体何をどうすればあのようなことになるのか私にはわからない。

ただ即効性なだけまだましに思えてしまうのは気のせいだろうか。

 

その隣。五航戦の二人は何故か追いかけっこをしていた。

よく見ると翔鶴さんの下衣を瑞鶴さんが持っており、下着がほぼ丸出しの状態。

何があったのか解らないが、とりあえず何も見ないようにする。

……私の下衣も短すぎないだろうかと少し気になってしまった。

 

その横、一航戦の二人は一向にカレーが出来上がっていない。

それもそのはず。加賀さんが切った具材をそのまま口に運ぶ赤城さんの姿があった。

じゃがいもはたとえ芽の部分や緑色になった部分を取っていたとしても、

ゆでたり水に晒さないのは危険である。

一応加賀さんが皮をむいた後良く洗っているので大丈夫なのかもしれないが、

そもそもカレーを作る以前の問題なのでもう私は考えるのをやめた。

 

更にその隣、島風さんは何故かもういない。どこに行ったのか。

ただ食べ終えた食器の隣にレトルトと思われる銀色の袋が置いてあったので、

恐らく自分でレトルトを作り、すぐに自分で食べてどこかに行ってしまったのだろう。

 

そして残ったのはあと2チーム。

足柄さんと羽黒さんチーム、そして暁さん達のチームだ。

この2チームはしっかりとカレーを作っている。

 

そもそもお料理大会なのに脱落者が出るのは一体どうかとも思う。

翔鶴さんと瑞鶴さんのハプニングは、まぁ納得のいくところだが、

金剛さんと比叡さんの気絶する事態は普通に考えれば回避できる所。

赤城さんと加賀さんのチームはむしろ料理を作るに至っていないし、

島風さんは自己完結してしまう形で彼女の中の大会は終了している。

 

本土の人達は特徴的な人が多いと思った私も私だが、

このままでは自分もああなってしまう可能性を考えると妙な寒気に身を震わせた。

 

そんな中、暁さん達と足柄さんが何やら話しているようだ。

 

『何やら話しているようですね。現場の那珂ちゃん、音声をお願いします』

『了解です!』

 

こっそりとその間にマイクを差し込む那珂さんのお蔭で、

会場中にその会話の内容が明らかにされた。

 

『レシピに書いてあるだけでなく、今までの知識、経験、試行錯誤により調合された、

 究極のスパイス。そしてそれを生かす為の具材とトッピング、

 ご飯粒の硬さにまで拘ったこの精練し尽くされたこのカレー』

 

『そして何よりもそれを精練するだけの時間を生きてきた……

 でもそれだけの時間を費やしても、誰も付いては来なかった……

 だからこそ私には、お料理ナンバーワンの名誉が必要なの!

 これが私の覚悟、貴女達の覚悟とは、わけが違うのよ!!』

 

何だろう。この衝撃的告白とともに訪れる会場に漂い始めた重い空気は。

料理で一位になるのではなく、その一位になったという名が欲しい。

そしてその一位を目指すために今まで積み重ねてきた物を発揮する。

今までの時間が無駄でなかったという事の証明の為に。

 

あまりに現実的な話に、場の空気が完全に重くなる。

会場を見渡すと皆が引いている。

私はそもそも、何を求めているのか、その名誉が何の糧になるのかが解らない。

艦娘としての覚悟とはあさっての方向の覚悟の気がしたので、全く動じなかった。

 

『流石は飢えた狼と呼ばれる足柄さん!

 自らの現実を突きつける事で第六駆逐隊の覚悟を折る! 諸刃の剣です!』

『でもそれ会場の皆にも被害行き渡ってるよ!?』

 

マイペースな解説をする霧島さんに鮮やかなツッコミを入れる那珂さん。

それでもその場の空気が和むことはなく、

暁さん達は空気の重みに耐え兼ねてその場で崩れ落ちてしまう。

声を掛けようとすると、長門さんの手が前に出て制止をかけた。

その時の顔を見て、私は彼女に賭ける事にする。

 

「『不精に亘る勿かりしか』!」

 

立ち上がるとともに、その言葉を告げる。

その言葉は会場を駆け巡り暁さん達の耳元まで届いた。

 

「お前達は様々な者の力を借りながらも、十分に努力した。

 後は最後まで、満足の行くまでそれに取り組むかだ!

 それを果たした先に、勝利はある!!」

「「「「長門さん……!!」」」」

 

それに続いて私も立ち上がり口を開く。

 

「第六駆逐隊の皆さん、まだ終わってはいません。

 最後まで成し遂げる覚悟、私達に見せてください!」

「「「「涼月さん……!!」」」」

 

会場の周りからそれに続かんと声援が飛び交う。

見張員の妖精さんも旗を振って応援していた。

それを聞いて立ち上がる暁さん達。

 

「足柄さんの現実が立ちはだかっても!」

「皆の思いが、力になる!」

「どんなにつらいことだって!」

「4人一緒なら、乗り越えていけるのです!」

 

「「「「それが私達、第六駆逐隊!!」」」」

 

その姿から確かな覚悟が伝わってくる。

遠征から戻ってきてへこたれていた姿はもう微塵も見えない。

長門さんと頷き合って席に座る。さて、後は私達が厳正な審査をするだけだ。

当然、大局的に事を捉えた状態で。

 

調理終了の号砲が、会場に鳴り響いた。

 

 

 

盛り付けられたカレーが並ぶ。

足柄さんと羽黒さんチームのカレーはとんかつが乗っているカツカレー。

暁さん達のチームのカレーは至って普通のカレーのように見える。

 

『さて、全てのカレーが出そろったところでいよいよ審査のお時間です!』

『と言っても二つしかないんだけどね……』

「それでは、まずは足柄と羽黒の作ったカレーから」

「……いただきます」

 

スプーンですくって一口。辛い。凄く辛い。でもおいしい。

辛さが後味を引いてもう一回食べたくなるカレーだ。

これぞカレーの醍醐味であり神髄と言えるだろう。

 

「では、続いて第六駆逐隊のカレーを頂こう」

「……こちらも頂きますね」

 

一口。なるほど、私が教えただけあって味は似ているが随分と辛みが抑えられている。

具材も程よく柔らかく食べやすい。

 

「難しいですね」

「ああ、確かに甲乙つけがたい」

 

と、視線の端に見張員の妖精さんが足柄さんのカレーを舐めて、

舌を出しているのが見えた。彼女達からすると相当辛かったのだろう。

 

このカレーは確かにおいしい。でも一年間この鎮守府で出続けると考えると、

辛い物が苦手な人に対して非常に苦行な物となる。

程よい辛さならともかく、このカレーは辛い物が好きという人向けのカレーで、

決してこの広い鎮守府で出すであろう大衆向けのカレーとは少し路線がずれていた。

一方暁さん達のカレーは辛すぎず優しい味わい。水なしでも十分に食べられるカレーだ。

 

例えるなら足柄さんは本格派専門店の一級品カレーだが、

暁さん達のカレーは打って変わって大衆食堂で出るカレー。

 

長門さんに視線を送る。彼女もまた同じ考えのようだ。

 

「厳正な審議の結果、本年度の鎮守府カレー大会、優勝は」

 

「「第六駆逐隊のカレーだ(です)!」」

「「「「やったあああああ!!!」」」」

 

こうして鎮守府カレー大会は終わりを告げ、

私の審査員という役を見事に終えたのだった。

 

 

 

大会が終わり、私は長門さんと陸奥さんに呼び出されていた。

 

「すまなかったな。急な話で」

「いえ、私も今日は本来の予定が無くなってしまっていたので」

「でも長門はともかく、涼月ちゃんはどうして第六駆逐隊のカレーを選んだの?」

 

陸奥さんが首を傾げながら聞いてくる。

 

「それは、この子達のお蔭です」

 

見張員の妖精さんは、暁さん達から貰った小さなカレーをおいしそうに食べていた。

 

「それって、たしか夕張が話していたあの」

「この子達が足柄さんと羽黒さんのカレーを食べた時、辛すぎて舌を出していたんです。

 それを見て鎮守府の中でも辛いのが駄目な人が居ると辛いだろうな、と思って、

 暁さん達が作った甘口カレーを選んだんです」

 

そこまで言い終えて陸奥さんが必死に笑いを堪えていた。





かなり大会の内容がざっくりしてしまった。
後那珂ちゃんと霧島さんがしっかり司会実況してほしかったのもある。

全体的なネタの仕上がりが某熱血アニメ風になったけどギャグでしかない。
後長門さんの出番がかなり減ってしまったので色々と出番を補完しておきたかった。

次回は外伝を執筆中ですので、毎日更新から外れるかもしれません。
ちょっと変わったことしてます。

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