艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~ 作:kasyopa
癒し回でストーリー上関係ない話でしたが、何とか書き上げる事が出来た……
なお、ストーリーから大きく外れている関係上、かなりネタが濃い回になってます。
バシー島を攻略した私達は、予想以上の活躍との事で第一艦隊は休暇を与えられた。
そして今は、演習で溜まった疲労を抜く為に入渠をしている。
暫く出撃続きだったからか私の予想の上回る入渠時間が表示された為、
専用のドックを使って疲労を癒していた。
ほとんどの人達は先に上がっていったのだが、
唯一赤城さんだけがまだ時間を多く残していた。
空母であり、非常に高い練度と命中率を誇る彼女だからこそありえる時間なのだろう。
と言っても疲労回復の為に専用のドックで互いに一時間というのはどうかと思ったが。
「涼月さんは随分と時間がかかるんですね」
「はい。加賀さんから少しお話は伺っていたと思うのですが」
『駆逐艦でそれほどの時間を要するという事はむしろ誇るべき事よ。
これが唯一と言っていいほどの練度の目安なのだから』
長く入渠するというのが誇りに思うべきことだというのに、あまり納得がいかない。
「そうね。駆逐艦であるあなたがそんなにも入渠に時間を要するのは、
誇らしいことだと私も思うわ」
にっこりと微笑んでこちらを見る赤城さんを見て少し顔が熱くなる。
やっぱり、この人は大和さんに似ている。
もしも私が大和さんではなく彼女に会っていたら、恐らく護衛艦として……
そこまで思って思考が止まる。そこまで思えなかったからだ。
私はやはり大和さんの護衛艦であるべきだ。
そう決めたからだ。あの月の夜に。
そこまで心に改めて覚えさせて前を向く。
目に映るのは長い入渠時間。少しばかり憂鬱になってしまう。
「暇そうね」
「はい……」
「……そうだ」
ぽんと手を叩いて赤城さんは木で出来た背もたれに手を掛ける。
一体何をしようとしているか解らなかったが、次の瞬間それが引き出された。
水飛沫を上げながらも勢いよく開けられたそこにはいろいろな道具が入っている。
「全部防水性だから問題ないわ」
よく見ればこの間加賀さんがやっていたと思われる将棋なども入っている。
なるほど、蒼龍さん達が言っていたのはそう言う機能だったのか。
「海戦ゲームって知ってる?」
「えっ、はい。ルールだけなら」
「なら良かった」
その中を漁り、海戦ゲームの道具を出してくる赤城さん。
でも専用のドックは手すりで丁度遮られている。
海戦ゲーム用の道具は比較的大きく、手すりが邪魔になっていた。
それを横の壁にある小さなボタンを押すことで、
ゆっくりと手すりが下に下がって格納された。
「蒼龍達に聞いたことは無い? 長時間の退屈な入渠を楽しめる様にって」
「い、一応は」
「海戦ゲームは二人でしか出来ないからほとんど出来ないし、
私達がゆっくりできる時間はほとんど入渠しかないから、
実を言えば入渠も一つの楽しみなのよ」
心底嬉しそうに準備する赤城さん。どうやら本当にするのが久しぶりのようだ。
「さ、始めましょう」
「負けませんよ」
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結果は私の四戦全敗に終わった。やはり正規空母である彼女は格が違った。
「落ち込まないでください。そんな日もありますよ」
別の意味でつやつやしている彼女が言ってもあまりフォローにはならなかったが、
それでも赤城さんと交流を持てたのは嬉しい事だった。
脱衣所で一緒に牛乳を飲む。
その時少しだけ赤城さんの胸に目が行ったが即座に視線を戻した。
その視線を戻した先。カレーの書かれた大きなポスターが貼り出されているのに気付く。
「鎮守府カレー大会……ですか」
「カレー!?」
ものすごい早さで食い居てくる彼女。彼女もまたポスターを見た。
「なるほど、ついにこの日がやってきましたか」
「あの、鎮守府カレー大会とは一体」
週に一度、鎮守府では決まってカレーが出ているのは知っている。
それはトラック泊地に居た時も同じで、毎週私達が当番を交代しながら作っていた。
ただ磯風さんだけは例外で、野分さんに羽交い絞めにされてでも止められていた。
泊地に慣れた頃になると私も制止役に加わり、二人掛りで止めていた。
「この大会は、一年間分の鎮守府のカレーのレシピが決まる重要な大会なのよ」
「一年間分ですか。随分と長いのですね」
「それだけ名誉あるという事。当然、選ばれるのは優勝者のカレーよ」
「自身のカレーで優勝を目指す大会、ということですか」
「そうね。私としては、その後の試食会が楽しみなのだけど……」
「今回は加賀さんと共に、『一航戦』の名に恥じぬよう頂き、いえ、作ります!」
赤城さんは大志を抱いているようだが、どこか方向がずれているのは、
その緩み切った顔を見れば誰もが解る事であった。
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「ごめんね。その日はカレー大会があるから演習してあげられないのよ」
「蒼龍さん達も参加されるんですか?」
「しないしない! ただ見るだけ。でも結構楽しいよ?」
日課の演習を終えて翌日の約束を取り付けようと思ったものの、
二人ともカレー大会の見学の為断られてしまった。
久しぶりに瑞鶴さんにでも頼んでみようか。
勝負事が好きな彼女であればきっと受けてくれることに違いない。
空母の演習場に行くと、加賀さんと瑞鶴さんが火花を散らしていた。
「五航戦、貴女達もカレーの腕を上げてきているというの?」
「ええそうよ! だから今度こそアンタにぎゃふんと言わせてやるんだから!」
「……そう、良いでしょう。見せて頂きます。大会で」
「望むところ!」
どうやら瑞鶴さんも大会に出る様子。
二人が言い合っている所は初めて見たが、
ここまで火花を散らすものなのかと思ってしまう。
恐らくこのままで行くと翔鶴さんも確実に、
瑞鶴さんと一緒にカレー大会に出る事になるだろう。
彼女の優しさと、何より一航戦である赤城さんと加賀さんが二人で出るのだから、
瑞鶴さんは五航戦という名を持つ二人で出たいと考えているのが打倒。
私は二人に気付かれぬ様に引き戸を締めてその場から離れる。
防空演習が出来ないなら仕方ない。明日は普通に標的を撃つ射撃演習を行おうか。
泊地に居た時も、ここに転属されてから最近は人と交流しながらも演習が出来た為、
微塵も寂しいと思ったことは無かった。それでも練度を高める為には必要な事。
私は演習の道具を借りる手続きをする為利根さんか長門さんを探すことにした。
利根さんは主に演習関係を担当する教官、長門さんは秘書艦である為、
使用許可は基本的にこの二人のうちどちらかに話を通せば問題ないだろう。
と、演習場に長門さんが居た。その様子はどこかせわしなく誰かを待っている様子。
道具を借りるにしても非常に都合が良かったので話しかける。
「長門さん」
「涼月か。すまない、少しいいか」
「えっ、あの私演習の用が「今日は休め!」」
私は彼女の威圧感に押されながらもある事を受けてしてしまうのだった。
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「断れないのが、私自身の落ち度かもしれません」
長門さんに言われた事。
それは翌日行われるカレー大会の審査員として参加してほしいというものだった。
反対はしたものの、これだけ鎮守府で名を挙げた駆逐艦だからこそ参加してほしいと、
長門さんたってのお願いだったので断るわけにもいかず、引き受けてしまった。
明日の予定も色んな意味で決まってしまったため、
本格的にやることが無くなってしまった。
のんびり散歩でもしようかと思って歩いていると、
暁型の子達が大きな鍋を抱えてどこかへ向かっていた。
「暁さん達、どうかされたのですか」
「あ、涼月さんなのです!」
「Здравствуйте(ズドラーストヴィチェ)」
「ずとら……?」
「ロシア語で『こんにちは』と言う意味さ」
電さんと響さんが私に気付いて足を止める。
響さんの言った言葉の意味も発音も解らなかったが、
すぐに教えてくれたので問題なかった。
「暁達は明日のカレー大会の為にカレーの練習をしてるところよ!」
「貴女方も出場されるんですね」
「そうよ、金剛さんや足柄さんにはぜーったい負けないんだから!」
暁さんと雷さんが今聞こうとしたことを教えてくれる。
なるほど、という事はこの鍋にはカレーが……出来ていなかった。
寧ろルーすら入っていない。というか、沸騰すらしていない。
ジャガイモも人参も非常に硬そうで、玉ねぎに至っては透き通ってすらない。
こんな状態で一体彼女達は一体どこへ向かおうというのだろうか。
「あの、カレーは出来ていないようですが」
「まだ煮立ってないのよ。だから」
「工廠に向かっているのです!」
「と言うわけだから涼月さん、また後で!」
手を振り見送る。まだ煮立っていないことに自覚はあるようだ。
問題はその後の電さんの言葉。工廠に向かっていると言った。
カレーを煮立てるという事と工廠に向かうというのに何か関係があるのだろうか。
煮立てるにもじっくりと沸騰するまで待つことが大事。
小さい鍋ならともかく私達が作るカレーは大量なので業務用と呼ばれる、
大きな鍋を使用しなければならない場合が多い。
そうすると水の量は自然と多くなり、沸騰までの時間は長くなる。
その時間を短縮するためには、やはり単純に弱火や中火ではなく強火が良い。
そう言えばバシー島を解放した後のあの子達の遠征で、
大量のボーキサイトを持って帰ってきた中に高速建造材が含まれていたのを思い出す。
高速建造材は主に艦娘の艤装部分を溶接したり接合する時に使う、超高火力バーナー。
通常のアーク溶接とは話が違う為、建造時間を大幅に削減できる。
明石さんが私の艤装の艦首部分を修理した時に早く終わらせる為に使ったらしい。
煮立っていない料理、工廠へと向かう4人、超高火力の高速建造材。
「まさかっ!」
私は嫌な予感がしたので、全力で4人の後を追いかける事にした。
・
・
「それじゃあ、高速建造もとい高速クッキング、開始!」
工廠の扉を開けた時にはすでに遅く、大きな火柱が立っていた。
すぐさま火柱は収まったものの、その中から現れたのは溶けて酸化した鍋。
「遅かった……ようですね」
「「「「あ、涼月さん」」」」
暁さん達もこちらに気付いたようだがもう遅い。覆水盆に返らずとはこのこと。
「い、電がわるいのよ! 高速建造材を使おうなんて言うから!」
「それなら暁だって『まだ煮えないのかしら』って言ってたじゃない!」
「電はただ、もっと強い火力があればって思って……」
「それなら私にも非がある。すまない……」
暁さんが電さんを、雷さんが暁さんを、電さんは響さんは自分が悪いと思い、
責める者、責任を感じる者の二つに分かれていた。
それを見て私は仕切り直しの為に、パンっと手を叩く。
その音に驚きながらも4人の視線が私に集まった。
「皆さん、一度起きてしまったことは取り返しがつきません。
問題はその後の対処。それが的確に行える女性こそ、
暁さんの言う『レディ』というものではありませんか?」
「でも、鍋が無くなっちゃったわ」
「他のお鍋はもう皆が使っちゃってるのです」
「ボーキサイトはたっぷりあるよ」
「解りました。では少し心当たりがあるのでその方を探して「私をお探し?」」
その関係で頼りになりそうな人を探そうと後ろを向くと、
橙色の作業着を来て遮光面をした夕張さんが居た。
逆光でかつ遮光面をしているからか異様な不気味さがあったが、
後ろの髪を纏めているリボンとその独特な髪色ですぐ誰か解った。
一方で誰か解らない暁さん達は怯えている。
「ごめんごめん、遮光面外し忘れてた」
「ゆ、夕張さん」
「さっきまで隣の工廠で装備開発してたのよ。貴女達は?」
「それが……」
電さんが事細かに先程起こった事を説明する。
「なるほどね。だから涼月は私を探そうとしてた、ってこと」
「はい。装備に興味があるのでしたら、開発の方も携わっているのではと思いまして」
「見事な推理ね。ご名答。なら涼月と暁ちゃん達の期待に応えますか!」
『……解りました。不肖明石、その信頼に応えてみせますよ!!』
その時の夕張さんは、私の艤装を修理する時の明石さんにそっくりで。
少しだけトラックに居た日々が懐かしいと思ってしまうのだった。
つまり暁達が使った高速建造材はバシー島のルートがそれた時の物だったんだよ!(暴論)
言ってしまうと、
第六話冒頭の遠征どこに行かせよう → バシー島でいいや → バシー島で高速建造材が取れる
→ 第六話で建造材使ってたよな → 第五話で攻略するのバシー島にしよう
って感じになりました。プロットにもない謎の回収劇。
この小説では、妙高型重巡が勉学、利根型重巡が演習系の教官になってます。
なので演習関係の物は利根さんが管轄して居るという解釈。ほとんど出番ないけど……
全体は長門秘書艦が一番上に君臨しているので、許可は長門でもいい。
そして地味に強くなっている二航戦の二人……
金剛さんが英語成分濃い目なので響はロシア語成分濃い目。当然涼月には解らない。
バーナーで丸焦げにしたら建造が早く済むというのは流石に考えづらかったので、
自己解釈で溶接の高速化にしました。
次回はカレー大会(本番)編。
審査員として選ばれた涼月が選ぶカレーとは、そして選ぶ基準となるのは!?
簡易的な自問自答コーナー
Q.島風ェ……
A.割と考えていたのだけれど、もし作る側だと色々難しい所があったので今回島風は……
今回の涼月は保護者役みたいなものです。
Q.加賀さんの台詞改変……
A.正直すまんかった。でもこの馴染む感じは何なんだ……
Q.正直難しかった?
A.相当難しかった。ストーリーから大きく外れる割には、
主要キャラのほぼ全員が大会に参加したり観客として参加するので、
裏側で人脈を築いていた涼月にも、多大な影響を及ぼしました。
おのれディケイドォォォォォォォォ!!! それはカレー大会って奴のせいなんだ。
Q.一体何のネタか教えてちょうだい!
A.駄目だ。