艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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更新が遅れて申し訳ないです。

第一話、後半戦開始。
長門さんの台詞の言い回しがアニメと違っていますが、
原作からの大幅引用を避けるために行っている処置です。
ご了承ください。



第七話『空を征く矢』

蒼龍さんと飛龍さんの約束はまた今度という事になり、私達は出撃場所に向かう。

そこでは既に第二支援艦隊の人達が待っていた。

 

「すみません遅くなりました!」

「まったく、こんな時に遅れるなんてなってないわ!」

 

暁さんにしぐさで謝りながらも夕張さんの横に入る。

 

「何してたの?」

「少し二航戦の方々とお話を」

「へぇ、もうそんなに顔が広くなるなんてやるじゃない」

「たまたまですよ」

『主力の第一機動部隊。第二支援艦隊艦隊。第三水雷戦隊。

 稼働可能な全艦隊の出撃準備、完了です』

 

聴いたことのない声がここに揃っている艦隊を読み上げた。

それが今から大きな何かが始まるのだと、私の中で予感させる。

私が泊地に居た時とは比にならない程の、何かが。

 

『秘書艦の長門だ』

 

秘書艦である長門さん直々のお達しだ。どうやら本格的になってきた。

 

『第四艦隊が先程敵深海棲艦と交戦に入り、敵棲地を発見した。

 この鎮守府正面海域を制圧している深海棲艦の本拠地であるのは間違いない。

 これより此処を強襲する!』

 

強襲という言葉を聞いて周りがざわめく。

この鎮守府正面海域が制圧されていることは私自身も知っていた。

故に遠回りに陸路を使ってこちらに配属されたのだ。

しかし先程……本当に仕事が早い。優秀な秘書艦なのだと理解する。

 

「oh~! 鼻息が鳴るネェ!」

「お姉さま、それ使い方間違ってる……」

 

金剛さんの間違ったことわざに比叡さんが優しくフォローする。

正確には腕が鳴るであるのだが。

戦艦だけに、やはり艦隊戦では燃えるのだろうか。

 

『布陣は、一航戦、二航戦達を主力とした第一機動部隊によって、

 制空権の確保及び空からの強襲を行う。

 第二支援艦隊はその援護と殲滅。第三水雷戦隊はこれらの主力の前衛として

 先陣を切り道を作る。いいな?』

 

私達はあくまで第一機動部隊の援護。

空母を主力とした艦隊に掛かる負荷を少しでも軽くすることにある。

蒼龍さんと飛龍さんに視線を送ると、期待の眼差しで返された。

それを軽くうなずくことで返す。

 

『本作戦の目標は、深海棲艦の脅威を排除しこの鎮守府正面海域を解放することにある』

 

大和さんの言っていた『大規模反攻作戦』。

それを実行に移す為の下地作り、いや、もっと基本的な所という事だろう。

 

『各自、持てる力を存分に発揮して事に当たってほしい。慢心は、禁物だ』

「誰に行ってるのかしら」

「Хорошо」

『では、第三水雷戦隊! 主力に先行して進発! 暁の水平線に勝利を刻むのだ!』

 

長門秘書艦からのお達しはこれで終わり。

第三水雷戦隊が先行するためにエレベーターに乗り込んだ。

 

「涼月ちゃん、頑張ってね!」

 

不意に声を駆けられる。睦月さんの声だ。

 

「はい、第三水雷戦隊の皆さんも頑張って下さい!」

 

睦月さんだけじゃない。

以前戦った皆の意味を込めて、そして新しい駆逐艦の人も含めた意味を込めて、

私は応援するのだった。

 

 

 

第三水雷戦隊が出撃してからエレベーターに乗り込み、カタパルトまで降りる。

慣れない光景に思えばここに配属されて、まだ二回しか出撃をしていないことに気付く。

 

『第二支援艦隊、出撃してください』

「私達の出番ネ! Follow me! 皆さん、ついて来て下さいネー!」

 

威勢の良い金剛さんの声で気を引き締める。

何と言ってもこれから本格的な戦闘が始まるのだから。

 

「秋月型三番艦『涼月』。参ります!」

 

艤装を全て装備してカタパルトから射出される。

背後から鎖に繋がれた雷装が勢いよく背中の艤装のジョイントにはめ込まれ、

同じく鎖に繋がれた長10cm砲を右手でキャッチする。

 

陣形は単縦陣。夕張さんの後ろに付いていく。

 

「皆さんちゃんとついて来れてますカー?」

 

金剛さんが気にかけてくれる。

その心意気に感謝にしながらも周囲の警戒を行った。

今は魚雷を装備するために熟練見張員の増設されたマストを撤去している。

 

「お姉さま、水上電探に艦あり! 二時の方向です!」

 

比叡さんの声で二時の方向を見ると大量の駆逐艦が群れており、

遠くで見える第三水雷戦隊が既に交戦状態に入っていた。反射的に長10cm砲を構える。

 

「行きますよ皆サン! 全砲門! Fire!」

 

合図と共に轟音が響く。ここで出来る限り多くの敵を殲滅する事。

それがまず私達に与えられた任。

速射性能を生かし、敵駆逐艦の砲撃の間を縫うように撃破していく。

体勢を崩した相手には容赦なく魚雷を発射し、確実に沈めた。

 

「涼月危ない!」

 

夕張さんが声を張り上げる。

何事かと思った直後、敵の放った弾が艤装の右舷に掠り爆発する。

大きな波間に潜んでいて見つけられなかったらしい。

逆に言えばそのお蔭で狙いがそれたともとれる。

 

損害箇所の確認、右舷に被弾、損傷軽微ながらも右舷の機銃が使用不可。

先程狙ってきた駆逐艦にお返しと言わんばかりの砲撃と雷撃を叩き込んだ。

 

『第二支援艦隊、間もなく敵棲地です。十分警戒して下さい』

 

無線で敵棲地に近いことを教えられる。それを聞き消耗した砲身を入れ替えておく。

敵棲地は鈍色の雲で覆われており、辺り一面がまるで嵐の日の様に暗くなった。

 

「Burning Love!!」

「主砲、斉射、始め!」

「攻撃するからね!」

「さて、やりますか」

「さぁ!色々試してみても、いいかしら!」

 

皆が思い思いの言葉を口にしながら砲撃を行う。

金剛さんと比叡さんが重巡洋艦や戦艦を狙っており、私達は随伴艦の駆逐艦を殲滅する。

私には私の出来ることをする。それが駆逐艦としての私の役目。

 

「吹雪ちゃん!」

 

睦月さんの声叫びにも似た声が聞こえた。

その方を見ると新しく入って来た駆逐艦の人が、

今まさに敵駆逐艦に襲われようとしている所だった。

 

「っ!」

「待って! こんな距離から撃って誤射したらどうするの!」

 

長10cm砲を構えるも夕張さんに制止される。

確かに誤射の可能性もある。誤射すれば、それこそその後襲われて轟沈は確実。

 

『私も、実はを言えば怖かったんです。あの時涼月さんを誤射してしまっていたら、と』

 

脳裏に大和さんの声が過る。そうだ、彼女だって怖かった。

でも彼女は撃った。勇気を振り絞って。だから私も主砲を構える。守る為に。

 

敵駆逐艦が海上から飛び出し、空中へと身を投げ出す。

深海棲艦が身を投げ出したその上昇と下降の中間。勢いが最も弱くなる所。

その一瞬に全てを賭ける。

 

「今ぁ!」

 

私の長10cm砲が火を噴き、敵駆逐艦の右舷が爆発した。

体勢を崩しそのまま水面に浮かぶ。何が起こったのか解らない顔をする、駆逐艦の人。

こちらの存在に気づき、視線が合う。その顔を見た時守る事が出来たと確信した。

 

「吹雪ちゃん後ろ!」

 

今度は夕立さんの声。

助けた彼女の後ろで撃ち抜いた敵駆逐艦が軋みながらも動いていた。

一矢報わんとその大口が開かれ中から砲身が伸びる。

またも砲を向けるも今度は角度が悪く、彼女が壁になっていた。

駄目だ、ここからでは狙えない。諦めて砲を下ろす。

 

「まだ諦めてはいけません!!」

 

背後から声と共に艦載機が翔け抜ける。

たった一機の艦戦が私達を追い抜き、敵駆逐艦に対して機銃を掃射。

二度目の爆発と共に今度こそ敵駆逐艦は沈黙した。

 

独特の駆動音とプロペラの音。

何事かと思い空を見上げると多数の艦載機が編隊を組んで空を翔けていた。

 

「第三水雷戦隊、ご苦労様でした。……下がってください。

 ここからは第一航空戦隊が参ります!」

「ここは、譲れません」

 

その声は第一機動部隊の旗艦と思わしき女性と、その隣を行く女性のものであった。

第一航空戦隊。『一航戦』の二人と理解する。

 

彼女達は蒼龍さん、飛龍さんと共に矢を番え放つ。

その矢は炎を纏いて艦載機と成り敵へと襲い掛かった。

幾多の爆撃や機銃掃射による敵駆逐艦や重巡洋艦、戦艦までもが火の海に包まれる。

 

その中心にいるのは白い髪をなびかせ、単装砲と言えど大口径の主砲を持つ深海棲艦。

 

深海棲艦は異形の敵であったが重巡洋艦や戦艦ともなると人の姿を取り始める。

それでもまだ人間らしさと言うよりも、異形の敵と称した方が合っていた。

だが目の前に居る深海棲艦は、むしろ艦娘と錯覚するまでに人の姿を模している。

異形の深海棲艦しか見た事のない私は寧ろあの様な深海棲艦程、歪な物に見えた。

 

謎の深海棲艦はその大口径の主砲を動かし、空を覆う艦載機を迎撃し始める。

 

「主砲、斉射!」

「全砲門、Fireeee!!」

 

その隙をついて金剛さんと比叡さんが主砲を斉射。

大きな水柱と爆炎が上がるも、弾着する直前で一瞬光る障壁の様なものが見えた。

爆炎と煙が収まり、その中から姿を現したのは無傷のままの深海棲艦。

まとわりつく様に居る球の様なものの口が開き、機銃が弾幕を作る。

 

私はそれが酷く不気味に思えた。まるで艦娘の様な姿を取る『彼女』が。

そう思ったと同時に私は『彼女』に向かって魚雷を発射していた。

 

私の放った魚雷と背後からの艦攻が放った魚雷が命中し、障壁が砕け散る。

『彼女』の上空を翔ける艦爆が爆弾を投下され、巨大なキノコ雲を上げた。

その時吹いた一陣の風は一帯を覆っていた鈍色の雲を吹き飛ばし、太陽の光が差し込む。

彼女を守る様に展開していた深海棲艦達は水平線の彼方へと去っていった。

 

それが意味するのは、呉鎮守府の正面海域解放。

そして何よりも私達の勝利を意味していた。

 

「全艦健在。良かった……」

 

そう言えば『彼女』はどうなったのだろうか。

あれだけ大きな爆発をして、もう消滅してしまったのだろうか。

あれだけ歪に見えた『彼女』がどうしても気になって仕方が無かった。

 

『彼女』が居た小さな浮島。帰還をし始めた皆の目を盗んで近付く。

 

そこには蒼い血を流しながら体の左半分を失っている『彼女』の姿があった。

あの立派だった大口径の主砲も拉げてしまい、

機銃を放っていた丸い球の様なものは全て失われていた。

思わず嘔吐きかけるも必死に左手を口に当てて耐える。

どうしてこんな歪な敵にこんな感情を覚えるのか解らない。

 

彼女は右手をただひたすらに空へと伸ばす。掴めない物を掴もうとして。

 

「深海棲艦。水底へ帰りなさい」

 

長10cm砲を構える。これ以上苦しむ彼女は見たくない。

それならば、いっそこの手で。

 

『ワタシモ……』

「えっ」

 

誰の声か解らない。無線ではない。

 

『モドレルノカ?』

 

その言葉を聞いて、何かが拒絶する。本能的に耳を塞ぐ。これは聞いてはいけない。

それでも声が聞こえてくる。頭に直接聞こえてくる。

 

『アノアオイウミノウエニ……』

「う、うわああああああああああ!!!」

 

私は残っていた魚雷を全て叩き込む。幾度と上がる水柱。

 

その隙間から見えた『彼女』の顔は、笑顔だった。

 

 

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何とか第二支援艦隊に合流し、鎮守府に帰って入渠する。

遅れた理由は「周囲を警戒していたら遅くなった」と言っておいた。

 

湯船に浸かると全身を温かさが包み込み心身共に癒してくれる。

そう、心身共に。

 

「心……」

 

深海棲艦にも心があるのだろうか。

 

『アノアオイウミノウエニ……』

 

彼女が最後に言った言葉。それは心が無ければ言えない言葉だと思う。

 

と、すぐそばに気配を感じる。

そこには湯船につかっていた響さんがゆっくり隣に移動してきた。

それも顔下半分を浸からせたままスムーズに近づいてきたので、

まるで深海棲艦の駆逐艦の様だった。

 

「艦隊に合流してから様子がおかしかったね。警備中に何かあったのかい」

「何もなかった、と言えば嘘になりますね。少しだけ気がかりなことがありまして」

「私で良ければ相談に乗るよ」

「ありがとうございます。では少しだけ」

 

私は誰にも聞こえないように響さんの耳元で囁くように口にする。

『深海棲艦に心はあるのだろうか』と。

 

「あるんじゃないかな」

 

至極当然の様に返される。

 

「そもそも互いの思惑が一致しなければ、艦隊を編成することすら出来ないと思うよ」

「……それもそうですね。深く考えすぎてしまいました」

「それにそれを知る為にも、私達は戦っているともいえる」

 

そう言って響さんは遠くの方でふて腐れている暁さんの所に戻って行った。

そうだ。解らないなら今は悩んでいても仕方がない。

このことに囚われて保守的になるよりも、未来を思って進歩的になった方がいい。

 

そう思って私は顔を上げ、引き締める様に頬を叩いたのであった。

 

 




攻撃時ボイスは大半ゲームから。
なお乱用すると今後のネタに困るという事を18話ぐらいで理解した模様。
(現在21話執筆中)

アニメのあのボスの名前は『泊地棲姫』という艦これの最初期イベントのラスボスだそうです。
アニメ設定上、彼女達の名前は知らない事を前提で進めるので、
ゲームをやってる人からするとじれったいかもしれませんがご了承ください。
(でも普通にヲ級とか言ってるんだよねどこで知ったんだか……(第七話参照))

次回からは第二話の話になるので更新が一週間おきにチェンジします。
書き貯めは真面目に大事。モチベが危機的状況になっても更新を止めない為の鉄則。

簡易的な自問自答コーナー

Q.赤城さんちょっと遅れてないです?
A.真のヒーローは遅れてやってくる。オリ主人公物なのでオリ展開は仕方ないです。
 吹雪が壁になってる状況でも駆逐艦攻撃できる時点で相当な腕だと思うけども。

Q.泊地棲姫の台詞ってなんぞ?
A.ゲームで初めて喋った敵として有名。その中でも沈む時? ぐらいのセリフです。
 CV:野水伊織。どっちかというと翔鶴さん。
 この作品にどうかかわるかは今後の展開次第。
 あともうちょっとスポット当ててもいいんじゃないかなと思った。

Q.この響何者。
A.多分悲しみ背負ってる。

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