艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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瑞鶴との防空射撃演習回。戦闘描写難しすぎ(ry
「いつも平気でやってる事だろうが! 今更御託を並べるな!」


第六話『幻獣達の宴』

演習用の矢を番え、放つ。放たれた矢は炎を纏い艦戦へと姿を変える。

私の自慢の子達だ。防空駆逐艦と言えどそう簡単に撃墜するなんてことは出来ない。

 

とうの涼月は冷酷な目をしていた。怒っているわけでもないが優しさも感じ取れない。

ただ目に入った物を狩る獣のような眼。そして何かを背負っているようなその風格。

 

三機の艦戦が涼月の上を取る。普通なら射角の関係で急に狙いは付けられない。

そのままこちらが狙いを定めて打ち込めば!

機銃に撃たれ戸惑う涼月の姿が容易に想像できる。

 

でもそれは3つの爆音で打ち砕かれる。炎を上げて落ちていく艦戦達。

 

「なんで、あの角度から狙えるはずが……狙えても次発が間に合うわけ……」

「長10cm連装高角砲の射角と速射性」

 

「そして何よりも、回避運動もとろうともせず突っ込んで来る艦戦」

 

「これでは私の様な砲撃な回避はともかく、

 三式弾の様な空中で散布される特殊弾に対してどういった対処をするのですか」

「っ! 御託を並べるのも一流ってわけ!? いいわ、次!!」

 

次は艦爆。更に角度のきつい急降下爆撃があればこんなやつ!

しかしまたも撃墜されてしまう。それも急降下爆撃すら出来ないままに。

涼月自身がこちらの艦載機を捉えるのが早すぎる。こんなのじゃ攻撃なんてできない。

どうにかして一糸報わないと、それこそ私の正規空母としてのプライドが許さない。

 

艦戦を展開してまとわりつかせた。これなら狙いも一点に絞り辛いし気も引ける。

そこで艦攻を使う。不意を突いた遠距離からの魚雷で確実に当てる。

涼月はこちらの思惑通りにまとわりつく艦戦に混乱しながらも対空防御を展開していた。

どれだけ捕捉するのが早くても狙いが付けられなければ意味がない。

 

艦攻の矢を番え放つ。すぐに魚雷を切り離させてその場から退避。

こちらの損害を減らす為にも、気付かれない為にもすぐに着艦させた。

 

「出し惜しみは、不要です!!」

 

声に合わせて涼月独特の腰回りを覆う艤装から更に別の発火炎が見える。

あれは……機銃!? ちょっと、どれだけ防空火器揃ってるのあいつ!

高角砲の死角を丁度補うように張られる予想外の弾幕に、

まとわりつく様に飛んでいた艦戦達は火を上げる。

 

でもまだこちらには切り札がある。さっき放った魚雷が確実に彼女の背後を狙っていた。

いくら小回りの利く駆逐艦であっても、旋回してから気付いてももう遅い。

それに艦載機とは違ってこちらは水中。上にばかり気が向いているのに気付く訳がない。

 

「アウトレンジで、決めたいわね!」

 

勝利を確信する。

 

でもそれは叶わなかった。

まるで背中に目があるかのように大きく旋回し、全速力でその場から離脱。

しかもご丁寧に機銃が魚雷を全て打ち抜いて、大きな水柱を上げた。

 

「どうして……あの奇襲をどうやって……」

 

もしかしてさっき口から漏れた言葉を聞いて何かあると思ったのだろうか。

でもそれではその後の魚雷の処理を出来るわけがない。

 

負けた。完全に打ち負かされた。

五航戦なんて言っておきながら、新人の駆逐艦に機銃の一発も当てられずに負けた。

こんなんじゃ、私の方が名折れじゃない!!

 

「瑞鶴さん」

「何よ! 私を笑いに来たっていうの!」

 

その場で項垂れていると聞きたくもない涼月の声がする。

負けた私を見るだけじゃ飽きたらず、直々に笑いに来たのか。

 

「違います。顔を上げてください」

「だったらなんだって言うのよ!!」

 

顔を上げて睨みつける。余計に溜まった鬱憤と自分の未熟さを込めて。

そこにはここに居た私に話しかけてきた時の、いつもの涼月が居た。

それを見て余計に腹が立つ。いつもの『加賀』さんの様なその雰囲気に。

 

「アンタみたいな『天才』が、私は大っ嫌いなのよ!」

「私が天才、ですか」

「そうよ! 才能を持て余して、才能の無い私達を嘲笑うような天才がね!」

「私は天才ではありませんよ」

 

しゃがんで視線を合わせてくる。同情しているのだろう。

でも私にそんなうわべだけの同情はいらない。

 

「何? 天才じゃない? じゃあ一体何だって言うの!」

「ただの道化師です」

「……は?」

 

予想外の言葉に言葉を失う。

道化師? 滑稽なことでもするの?

でもあの帰国子女みたいな変な様子もないし、二航戦の人達みたいに愉快でも無い。

さっきまで思っていたように『加賀』さんの様なエースの風格をしている。

涼月は、そんな奴だ。

 

「私は皆の前ではお面をかぶり、さし当りのない関係を作る。

 でもその真意は中身が弱くて何かあるとすぐに引っ込んでしまう臆病者です」

 

こいつも、私と同じなんだ。

道化師なんて言ってるけどそうじゃない。そうだとしたら私だって道化師だ。

そう思うと急に親近感がわいてきた。

 

「ちょっと私の話、長くなるけど、聞いてくれないかしら?」

「はい。大丈夫ですよ」

 

涼月の同意を貰って、私は座り込んで話し始めた。

 

「私ね。『五航戦』なんて言ってるけど『一航戦』の人達にも『二航戦』の人達にも、

 随分練度が劣ってるのよ。だからここに配属になってからも自分なりの努力はしてた」

 

「でも結局は勝てなくて、前線には出してもらえなくて。

 一航戦の加賀って人には散々言われて。努力だけじゃどうにもならないって思って」

 

「だから何か教えてもらおうと思っても加賀さんにはぶつかっちゃうし、

 赤城さんに教えてもらおうにも結局加賀さんが付いてくるし」

 

「翔鶴姉ぇはいつも居てくれるけど、優しすぎて逆に言い出せないって言うか」

 

「そんな時にあんたが此処に配属されて、偶然あの時出会って、

 こいつも加賀さんみたいな嫌味な奴なんだなって思った」

 

「三水雷戦隊で戦果を挙げたって聞いて、すぐに第二支援艦隊に転属になって、

 噂じゃ期待の新型駆逐艦とか言われてて、それで無性に腹が立って仕方なかった」

 

「当然よね。私が努力してやっと『五航戦』になったのに実戦に使ってもらえなくて、

 突然入って来た駆逐艦がいきなり戦果を挙げて栄転だなんて、怒りたくもなるわ」

 

「皆の前ではいい顔して、裏では本当の事を言えない臆病者なのよ。私。

 あんたの言う、道化師と同じ」

 

「ねぇ、なんであんたはそんなに気軽なのよ。皆ではお面被るって言っておきながら」

 

どうしても不思議に思ってしまう。

ずっしりとした重圧を背負っているわけでもない。

そう見せ無い様にしている、というわけでもなさそうだった。

 

「そうですね。私の周りには素敵な人達がいて、お面を被る必要性が少なくなったから、

 とでも言うべきでしょうか」

「……それって、もう道化師卒業してるわよね」

「そうともいいますね」

「うがあああああ! アンタに話した私が馬鹿だった!」

 

私のバカバカバカ! なんでこんな奴に解ってもらえると勘違いして話したの!

でも言ってしまったものは仕方ないし!

 

そうだ! 話題を切り替えよう! そうすればとりあえず話をそらせることも出来るし!

こいつが魚雷をすんなり回避したみたいに自然に……これだ!

我ながら素晴らしい方向転換。私が疑問に思って聞けば絶対に応えてくれるはず!

まだ会話の主導権は私にある! 先手必勝!

 

「そ、そういえば! あの時なんで魚雷を避けられたのよ!」

「ああ、それは……それはこの子達のお蔭です」

 

内心話題をそらすことに成功して大喜びしていると、

涼月の艤装のマストから二人の妖精さんがこちらに向かって敬礼していた。

 

「妖精さんがこんなところで何を……」

「この子達が見張りをして、教えてくれたんです。

 泊地の方の演習では砲撃だけでなく雷撃の命中の判断もお願いしていて、

 その経験から背後の雷跡を発見して回避出来たんですよ」

 

つまりは泊地で演習をしていたから出来た芸当であって、天才でも何でもない。

 

「それに本格的な対空戦闘を行ったのも今回が初めてですし」

「え、じゃあ今回勝てたのも……」

「言った通りです。『回避運動もとろうともせず突っ込んで来る』からと」

「………」

 

結局私が負けたのは私の実力不足、ではなく変に熱くなっていたからであって、

冷静になっていれば普通に勝っていたかもしれない物だった。

 

 

Side 涼月

 

 

先程とは別の意味で項垂れる瑞鶴さん。どうやら熱が抜けたのだろう。

本当の意味で落ち着いたところで私は聞きそびれた事を聴くことにした。

 

「ところで瑞鶴さん、ここで何をしてたんですか?」

「まぁ、勝負には負けちゃったし言ってもいいかな。それは……」

 

瑞鶴さんが何か言いかけたところで、見張員の子達が指を指す。

その先には私の知らない別の艦隊の人達の姿が。

 

「あ! 翔鶴姉ぇ! おーい!!」

 

その中から瑞鶴さんは翔鶴さんの名前を呼ぶ。

遠くから見える人影の中に、一人だけその声に応え腕を振っていた。

なるほど、翔鶴さんは別艦隊で出撃していたのか。

それを瑞鶴さんは心配して、艤装を装備してまでここで待っていたのだ。

 

瑞鶴さんはその艦隊に向かって水上を駆ける。

私は先程の疲れもあって艤装を戻しにその場から離れるのだった。

 

 

 

「今回は貴方達がMVPですよ。ありがとうございます」

 

工廠で艤装を外してマストを外してあげる。妖精さんは相変わらず肩乗り状態だ。

トラックに居た時よりもこの子達の面倒をよく見ている気がする。

二人に聞いた話だが、トラックに居た時は明石さんが皆の面倒を見ていたらしい。

 

実を言えば艦戦・艦爆機共に発見して機動をよみ教えてくれたのはこの子達。

その角度に発射すると当たった、まぐれ当たりでしかない。機銃が命中したのも同じだ。

 

さて、程よく疲れたから間宮さんの所にでも行こう。

そう思って工廠から出ると、立ちはだかる様に二人の女性が待っていた。

 

一人は瑠璃色の髪を瑞鶴さんと同じように頭の両端で止めている髪型、

緑色の弓道着を着ていて胸当ては付けていない。

 

もう一人は茶髪のおかっぱの様な髪型だが前髪は揃えず流している。

橙色の弓道着を着ていて、同じように胸当ては付けていなかった

 

「見てたよ新兵さん。良い腕してるねぇ~」

「あの瑞鶴の奇襲を持っても一発も当たらないなんて、流石の私も関心しちゃうな~」

「あの、貴女方は」

 

思い思いの事を口にする彼女達であったが、私は生憎二人を知らない。

すると彼女達は待ってましたと言わんばかりに敬礼する。

 

「第一機動部隊所属、『二航戦』の『蒼龍』です」

「同じく第一機動部隊所属、『二航戦』の『飛龍』です」

「秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』です」

 

『二航戦』。瑞鶴さんの言っていた航空部隊の名称だ。

そして瑞鶴さん自身が、自分よりも練度が高いとも言っていた。

蒼龍と名乗った女性がさっき言っていたことを思い出す。『見てたよ新兵さん』と。

つまりこの二人は先ほどの瑞鶴さんと私の演習を見ていたという事になる。

 

「全く被弾してないって言うのは凄いけど、

 見ててやっぱりちょっと危なっかしいかなぁって所があったんだよね」

「えっ、あの、私実は本格的な対空射撃をしたことが無くて……」

「なるほどね。それなら話が早いわ」

 

ぽんと肩に手を置かれる。突然の事で驚いてしまったが、悪い気はしない。

なんとなく舞風さんの様な、那珂さんの様な同じ雰囲気がしたから。

 

「ねぇ。もっと防空射撃演習の経験、積んでみたいと思わない?」

「今なら『二航戦』の私達が、その練度向上の為に付き合ってあげるわよ!」

 

笑顔で語りかけてくる二人。

防空射撃演習。おそらく私と瑞鶴さんがやっていたあの演習の名前だろう。

確かに私は防空駆逐艦と言う名前だが、そう言った経験がほとんどない。

 

『呉は航空戦力に力を入れていると聞く。

 いち早く制空権確保する為にも、防空駆逐艦を配備するのは何らおかしい事ではない』

 

磯風さんの言葉を思い出す。

制空権の確保は空母を含めた艦隊戦に置いて、ほぼ必須ともいえるもの。

敵空母が現れた時、必ず私は必要とされるだろう。

それは即ち、守る為に必要な事。大和さんを守る為にも必要な事。

 

「はい! 是非よろしくお願いします!」

「うん! いい返事!」

「それじゃあ工廠に居るんだし早速……」

 

その時、警報が鳴り響いた。

 




瑞鶴さんェ……そしてアニメではほとんど出番のなかった『二航戦』の登場。
割とこの人達日常で何してるか描かれてないので、フランクな性格を割と乱用。

今回のネタ解説(?)コーナー(自問自答コーナー代理)

瑞鶴の艦載機の回避運動に対しての涼月の台詞(そして何よりも ~ 対処をするのですか)
遠回しに瑞鶴の『七面鳥撃ち』を言ってる。VT信管なんて物ないので三式弾で代用。

瑞鶴「アウトレンジで、決めたいわね!」
ゲーム内の攻撃時の台詞です。割と有名。

蒼龍飛龍の対面時の台詞
主任「あははははは、見てたよルーキー! 中々やるじゃない?
   ちょっと時間かかったけどねぇ~。まぁ丁度いい腕かな。ゴミ虫の相手にはさぁ」
(CV:藤原啓治)
ACVの主任の台詞。そのままだと真面目にクズ路線にまっしぐらするのでやめました。

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