【改訂版】零の役者~Fateの劇をやってたらルイズに召喚されました~(勘違いもの) 作:法螺依存
特にシエスタの件は元がひどかったので、ほとんど原文の痕跡はありません。もしも原文を覚えている方がいたらがっかりするかもしれませんが、あしからず。
また、この話は元々一話だったのですが、加筆修正にともなって長くなってしまったので分割しました。よって、少し短めです。
第四話『変態ナルシストに絡まれたようです』(1)
シエスタちゃんと別れた後、俺は相も変わらずどこともしれない広場の中をさまよっていた。もう別れてからどれくらい経ったのかもわからない。ただ、とっくに太陽は頂点近くにまで上がっていた。
今更だが、何故シエスタちゃんに道を尋ねなかったのか……。あまりの馬鹿さ加減に呆れて、歩く気力さえなくなってきていた。
誰も通りがからないし、ヘタしたら建物の中で遭難――なんていう、コントのようでいて笑えない状況にもなり得る。
不意に、ぐぅ――とお腹が鳴った。
ああ、そういえば昨日から何も食べていないなぁ。このまま遭難したら速攻死にそうだ。
取り敢えず、誰かいないのかよ。
辺りを探していると、不意にガラスの割れる音が聞こえてきた。何だか厄介事のような気もしたが、音がするということは人がいることの証左でもある。
逡巡はしたが、それも一瞬のこと。その音がした方に行ってみることにした。
「きゃっ!」
角を曲がると、突然俺の胸に誰かが飛び込んできた。俺の胸にぶつかったのは見知らぬ栗毛の少女だった。俺に当たった反動で跳ね返り、地面に尻餅を付いている。
大丈夫か、と言おうとすると少女が泣いていることに気がついた。
もしかして、何処か怪我でもさせてしまったというのか!?
俺は慌てて彼女を引き起こしてあげた。
しかし、彼女は鼻のあたりを押さえ、険しい顔で直ぐに走り去っていってしまった。何を彼女がそこまで急き立てるのだろうか?
あ……昨日から風呂入ってないし、俺の体臭、とかだったり? ってことは、もしかしてシエスタちゃんもあの笑顔の裏では『こいつ臭い』とか思ってのだろうか……。
そんな臭いかな、と襟元をクンカクンカしていると「申し訳ありません!」という声が響き渡ってきた。
今度は何だ、とそちらの方に目を向けると、シエスタちゃんが天皇陛下にでもするように深々と頭を下げていた。
「君が軽率に、香水のビンなんか拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
「申し訳ありません! 申し訳ありません!」
意外だ、あの気丈なシエスタちゃんがああも取り乱すとは……。
取り敢えず、事情を聞きに近寄っていく。そしてギャラリーの一人に尋ねてみると、そいつは嫌そうな顔をした。
やっぱ……臭いのか?
ちょっと本気で涙目になりながら、根気よく聞いてみると、大体の事情は理解できた。
どうやら、このナルシストが香水を落としてしまったのだが、それは浮気相手からもらったプレゼントしたものだったらしく、それを親切心から拾ったシエスタのせいで浮気がばれた、ということらしい。
八つ当たりもいいとこですね、まる。
うむ、最低男の見本だな。まぁ、そんな見本いらないけど。
「誤って済む問題ではないのだよ、君。それとも君が責任を取ってくれるとでも言うのかね!?」
「申し訳……ありま…せん」
ぽろぽろ、と涙をこぼしながら、消え入りそうな声でシエスタちゃんは謝り続ける。
ったく、自分が悪いっていうのに何なんだこのクズ男は。そして、それで何も言わないギャラリーもどうかしてるぜ。
普通こういう時は周り女の子がヒステリックを起こして、言葉の弾幕で袋叩きってのが日本での常識なのだが……。さすが異国の地、である。
だが、そんな文化知ったこっちゃない。さすがにこの状況では見逃せん。
「女性に責任を擦り付けるとは……。一紳士として恥ずかしくは無いのですか?」
俺は若干ドスを聞かせていってみた。するとナルシストがキョドリながらに俺に振り返った。
うわ、ダセぇ。
とか思っていたのだが、ナルシストは俺の顔を見ると、わかりやすいほどにホッとした顔をする。そして大仰に手を広げると、嘲り混じりに声を張り上げる。
「誰かと思ったら君か! 今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたのだが?」
目の前で直に話すとマジでウザ過ぎワロタ。遠くから見てただけで、ピチュンしてやりたいぐらいうざキモかったけど、この距離は殺人的だ。
しかも外人特有の香水でごまかした体臭がこれまたキツイ。まぁ……自分を棚に上げといて何言ってんだって話ではあるんだけど。
色々な意味で引いてしまっていた。すると何を勘違いしたのか、ナルシストは高笑いをし始めた。
「何か言ったらどうなんだね? それとも怯えて声も出せないのかね?」
「笑止――貴方如きに怯える? 冗談がご上手のようだ」
ムカついたので煽ってみると、分かりやすいほど顔を真っ赤にした。ブチギレてるっぽい。
「僕がこの元帥を父に持つ、名門グラモン伯爵家のギーシュ・ド・グラモンと分かっての暴言か、貴様!」
いや、知らねぇよ。
てか、今時父親の名前を借りて威張ってる奴なんて居るんだなぁ。今、凄く恥ずかしいことをしていることに気がついていないのだろうか?
ちょっと頭が可哀想な子なのやもしれんな。
とかしみじみドン引きしていると、その間の無言をまたしても自分のいいように解釈したらしい。
「ふっ……やはり怖気づいたか。所詮はゼロのルイズの使い魔、まさに蛙の子は蛙だな!」
ナルシストのその言葉と共に辺りに笑いが巻き起こった。
はて、何が面白いんだろう?
蛙の子は蛙……どういう意味だっけ? クソ、ことわざなんて虎の威を借る狐一つしか知らねぇんだよ。
「何がおかしい」
バカのくせに頭が良いアピールしてウザいので、強めに言ってみる。
すると俺の言い方が気に入らなかったのか怒りの表情をさらに険しくする。
そしていままでの芝居じみた言葉遣いを一変して、低い声で凄んだ。
「お前……本当に話の聞き方のなっていない奴だな。いいだろう……そこまで僕に楯突くというなら……決闘だ!」
決闘? それは、お前……いくら何でも厨二病すぎんだろ。
あまりに呆れて、思わず失笑が漏れてしまう。
すると、その笑いが更に癪に障ったようで、ナルシストは地団駄を踏んだ。
なんかもう、かわいそうなので、決闘をOKしてあげた。
すると、ナルシストは不敵に笑う。
「……今更誤っても遅いからな。こっちだ、ついてこい平民!」
そう言ってずんずん進んでいくナルシストの背中を追いながら、俺はふと思った。
そういえば昨日から所々ヘイミンって単語が出てきたが、一体何なんだ? 俺ってヘイミンとやらじゃなくて使い魔なんだろ?
「私は……ヘイミンなどという名前ではない。ルイズの使い魔―――セイバーのサーヴァント、アルトリウスだ。貴様にヘイミン呼ばわりされる筋合いなど無い」
「また、減らず口を……!」
振り返り際に歯を剥き出しにして言うが、直ぐにそれを止めると、俺を見ながら吐き捨てるように言い放つ。
「ふんっ……そんな事を言っていられるのも今の内だ」
はいはい、そうですか。ホント、これは重度の厨二病患者だなぁ。いまどきアニメのキャラもいいませんよ、そんなフラグを立てるようなセリフ。
心の中で呆れながら、そういえば、と思いだした。シエスタちゃんのことだ。
シエスタちゃん大丈夫かな? と、振り返る。
するとシエスタちゃんは想定外の表情を浮かべていた。
「アルトさん……」
俺の中では、颯爽と助けに入ってくれた俺に熱っぽい眼差しを向けている――のはありえなくとも、安心した顔ぐらいにはなっているかな、と思っていたのだが、その表情はむしろその逆に位置するものだった。
まるで死地に往く恋人に向けられるような、悲壮じみた心配そうな瞳が俺を捉えている。
何でそんな悲しげな顔してるんだろう? と一瞬わからなかったが、よくよく考えてみれば、心配するのも当たり前だもんなぁ、と納得。
さっきまで怒っていたナルシストと俺が決闘(笑)に向かおうとしてるから心配なのだろう。でも安心しろシエスタちゃん、厨二ナルシストにちょっとお灸をすえてくるだけだからな。
俺はウインクして、心配ないと言ってみせる――が、その瞬間、自身に吐き気を覚えた。勢い余って吐血しそうなほどだ。
それを何とかこらえてみせる。
いやぁ、ウインクはイケメンの外人以外は似合わねぇよ。何やっちゃってんだよ、俺。と思っていたら、やっぱりシエスタちゃんもきつかったらしい。吐き気を催したのか、口元に両手を当てている。
周りの視線がハートにグサリとくる。ますます吐きそうになった。
が、仕方が無い……吐いた唾は飲み込めないのだ。このまま突っ走るしかない。
それに、変にここで恥ずかしがると逆効果だし、俺の上品路線が崩壊するからな。まぁ、相手に吐き気を催させている時点で、それに何処までの効果があるのかわからないが……。
「心配は無用です、シエスタ。誓った約束を果たすだけのことです」
まぁ、いざとなったら、この張りぼてを使うことだって出来るしな。張りぼてといえどこれ結構重いから、当てれば鈍器としての役割ぐらいはこなせるはず。
ポンポンと、腰の張りぼて剣をタッチしてみせる。
すると、シエスタは驚いたように目を見開く。
「……約束?」
うっ……約束とか、誓いとかカッコいい言葉で誤魔化そうとしたのが裏目に出てしまった!
どうしようと焦っていると、そんな俺に追い打ちをかけるように、シエスタが突然泣きじゃくり始めた。
「あんな約束のために……」
やべぇ、なんか知らんが泣かせてしまった……。
なにかまずいことでも言っただろうか?
「おい! 何してるヴェストリの広場はこっちだぞ! もたもたするな!」
うっせーな、ちょっとは空気読めよ変態ナルシスト。心のなかで罵声を浴びせてから、再度視線をシエスタに向ける。
すると、シエスタが言った。
「なぜ、私なんかのために?」
「理由はありません。それが当然のことだからです」
その言葉自体に偽りはない。あそこで助けないのは人として終わってるだろ。
てか、助けないお前らは何なんだよ! タマキンついてんのか!
横の男子生徒たちに視線を向けると、皆サッと目をそらした。ついでに女どもは私は関係ありませんオーラを出していた。
それを見て俺は心からルイズは良い奴なんだと再確認した。
普通、年頃の女の子が、見ず知らずの男を自分の部屋に泊めてあげるなんてありえないもんな。むしろ、優しさに溢れすぎて危うさすら感じる。
きっとルイズが先ほどの場にいれば、俺ではなく彼女が同じ行動をとったに違いない。
いやぁ、ルイズに拾われてよかった。
運に感謝していると、ああ、そうだと思い立つ。決闘とかで迷惑がかかっても悪いよなぁ。普通喧嘩したら停学ものだ。たとえ他人の俺がしたことでも、庇護しているということで何らかの処罰が与えられることも考えられる。
「シエスタ一つ頼みがあります。いいですか?」
「勿論です、アルト様!」
「ルイズに伝言があります。すべての責は私にある、と伝えてください」
言うと、シエスタは泣きそうな顔になった。いや、まぁ既に泣いてるんだけどね。更に表情が曇ったのだ。
「そ、そんな事言えません……だって、アルトさんは悪くないじゃないですか! 私の不注意が原因なんですよ!? だから私の責任です! 私が全部悪いんです!」
髪を振り乱して、叫ぶようにいうシエスタに、俺はゆっくり首を振る。
「責任――たしかに先ほどまで、それはシエスタ、貴方にあったかもしれません。ですが、私が決闘を受けたその瞬間から、その責任は私のものになったのです。だから、責任は私が取るべきなのです」
「そんなの……そんなのただの詭弁じゃないですか!」
「詭弁でもなんでもいいのです。そして、これは私の個人的な事なのですから、ルイズには迷惑を掛けたくない。だから、どうかお願いです、シエスタ」
そう言うと、シエスタは黙りこんでしまった。そして、数瞬の後、消え入りそうな声で言った。
「そんなふうにお願いされたら……何も言えませんよ」
「分かってくれて何よりです。それに――」
俺は踵を返す。その先にはもうあのナルシストはいない。代わりに、一人の生徒が、こっちだ、と叫んでいる。
俺は一歩踏み出しながら、肩越しに言葉をかける。
「こう見えて、私は結構強いですから」
安心してくれ、シエスタちゃん。これでも、今までしてきた喧嘩での勝率は9割なのだ。
シエスタちゃんは無理やり笑顔を作った。
まぁ……そうは言っても喧嘩は弟以外したことないんだけど。