【改訂版】零の役者~Fateの劇をやってたらルイズに召喚されました~(勘違いもの)   作:法螺依存

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第一話『偽セイバーがルイズに召喚されたようです』

 知り合いに『ちょっと役が決まらないから手伝って欲しい』と言われたのは一週間前のことだった。

 何でも頼んでいた役者が組織の者に捕まったらしい。なんのこっちゃ。まぁ、きっと、いつもの厨二病が発言しただけだろうから、どうでもいいけど。

 

 やる劇はFate何とかという作品を基にした劇らしい。

 ただ、普通の劇では無い。 なんでもこの劇は腐女子の腐女子による腐女子のための劇らしい。……腐女子って何だろうか? 女の子ゾンビのことだろうか?

 まぁ、いいや。取り敢えず、何故か役者は全員男で構成されている。ヒロインも勿論男。

 なのにちょっとしたエロシーン的なものもあるらしいってんだから吐き気がする。やっぱり断っとけばよかった。まぁ、後の祭りだけど。

 

 俺は今ステージの下のリフトの上で待機している。

 出番になると上で煙が上がり、その間にリフトがあがって然もいきなり現れたように演出するらしい。少なくともリハーサルではそうだった、と思う。

 それにしても大丈夫だろうか……。この一週間で覚えられることは覚えたが、所詮素人の付け焼刃。それが主人公級の役なんて……。セリフだって曖昧だ。

 

 暗澹たる思いを胸に抱きながら俺は溜息を吐こうとして飲み込んだ。どうやら出番のようだ。リフトが上がり始めた。

 

 深呼吸してから頬を叩いて気合を入れる。やり過ぎてひりひりするがそんなことは気にしない。今しなくちゃいけないことは役になりきること。

 なんて、やってみたがやっぱりなかなか割り切れない。

 その原因の一つが俺の配役だ。俺は作品のヒロインを任された。

 

 そう――ヒロインである。セイバーというらしい。

 嫌だなー女の子の役なんて。聞けばベッドシーン的なものもあるらしいのだ、最初にそれを聞いてたら絶対やらなかったってのに……!

 俺に役を頼んだ、自称『凄腕魔術腐女子』曰く、顔立ちが今いる役者達で一番女の子っぽい…むしろ女。そして一番身長が小さいかららしい。

 俺はこれでも170センチ超えているんだが……まぁ、実際この中では一番小さいんだからそれはしょうがないと思う。

 

 でもさ。顔立ちが女の子っぽい…むしろ女、は酷いでしょう俺だって立派な青少年。勿論女ではないから女の子が好きだしエロは大好き。自分でも女っぽいとは思っていたけどもうちょっとオブラートに包んで欲しかった。

 可愛い系の顔立ちだねとか……いや…それもそれできついかもしれない。

 

 そんなことを考えているうちに、リフトはそろそろステージに上がりきろうとしていた。

 色々と嫌なこともあるし、言いたいこともあるけど、そんなことお客さんには関係ないことだ。仮にも役を任されたんだから、素人だけど一生懸命やらないとな。何事も経験だ。

 さっさと終わらせてこの無駄に銀色アーマー紳士服を付けた意外と重いコスチュームともおさらばしよう。

 天井の鏡っぽい扉をくぐればそのときから俺はセイバー(男)だ。

 

 いくぜっ――!

 

 

 

 ◆第一話『偽セイバーがルイズに召喚されたようです』

 

 

 

 予定通りステージ上は煙が出ているようで周りは見渡せないが、一つ驚いたことがある。煙の僅かな隙間から青空が見えるのだ。しかもステージに草が生えている!

 まぁ……一つではなかったが、それは置いておこう。

 

 目は開けたといっても一瞬で、さらに薄目だったので、確かかどうかは判らないがたぶん手の触り心地から地面の草は芝生と思われる。

 凄いなぁ。今時の演劇は草まで用意するのか。

 と内心で感動していると大変なことに気づいた。頭に被っていた金髪のカツラが吹っ飛んでしまったようだ。たぶんステージに上がった時の演出の爆破で飛んでしまったのだろう。慌てて周りを探す。すると光に反射してきらっと光るものが見えた。

 あれか! この煙が晴れる前にカツラを取らなくては!

 その時の俺は、人生のうちでも一番と言っても過言じゃない程の素早さで駆け寄り、煙でよく見えないながらも必死にそこら辺に手を伸ばした――が、すってんころりんと湿った芝生に足を取られ前のめりに倒れこんだ。

 手に感触が伝わる。握ると、グニャリという感触だ。

 

「ぐはっ!」

 

 すると同時にそんなくぐもった呻きが自分の下から聞こえてきたた。が、まぁ、い間はそんな事を気にしている暇はないので無視。

 グニャリという感触の髪の毛があるわけないけれど、取り敢えず邪魔なので退かそうと引っ張る。しかしなかなか取れない。

 クソッと思って力を込めて取ろうとしていたら煙が晴れてしまった。

 

 ――やばい!

 

 と思ったがもう遅い。演技は始まってしまったのだ。仕方ない……カツラは諦めてこのまま演技しよう。

 そう思って立ち上がろうとすると、またしても何かグニャリとしたものに足を取られてコケてしまった。

 やっちまった!

 赤面しながら振り返って立ち上がると、何故か地面につららが突き刺さっていた。何故に?

 

 突き刺さったつららは斜めに地面に突き刺さっていた。まるでどっかから飛んできて突き刺さったみたいだ。

 飛んできたと思われる方に視線を転じると青髪の少女が木の棒をこちらに向けて立っていた。どこに氷柱がそんなにあったのか、そもそもあんな小さい体でどうやって投げたのかは知らないが、どうやら犯人は彼女らしい。

 

 それは置いておいて。置いておいてだな……はて、オープニングはこんなシーンだったろうか?

 いや、待てよ? 確かストーリーではランサーに追われていて死にそうになった主人公の前に現れるってシーンだったはずだ。ランサーの特徴は青髪で槍を持っているというものだが……。

 彼女の特徴と照らし合わせてみる。

 

 青髪…一致。槍…あの木の棒がきっとゲイ・ボルクなんだろう、そうには見えないが。きっと彼女がランサー役なんだろう。こっちを睨んでるし。

 

 そういえば例の自称凄腕魔法腐女子なあいつが言ってたっけ、おおまかなストーリーはそのまんまだけど原作と全く同じじゃ新鮮感が無いから色々と微妙に変えるって。

 ってことは彼女がランサー? 台本にはそんな事書かれてなかったんだがなぁ。アドリブか? アドリブでつらら投げられたら洒落になんないんですがねぇ。

 

 と埒もないことを考えたところでふと疑問が浮かび上がった。

 それは青髪の子がどう見ても『女の子』だっていうことだ。男の可能性も残ってはいるけれど、あれで男だったら世の中何か間違ってるよ……。

 大体俺より小さい役者はいないんじゃ無かったのかよ! あのクソ魔術腐女子め、俺をだましやがったな!

 ったく……絶対俺よりあのこの方がセイバー役適任だろうが。小さいところとか胸無いところとか、落ち着いた雰囲気とか。絶対配役間違ってる。

 

 まぁ、取り合えず俺を騙したのは今は不問にしよう。なんたって今は劇中だからな、芝居に専念しなければ。

 取り合えず士郎役を探そう。役者が相手が誰で何処にいるか分からないなんて演じる以前の問題だ。

 俺は必死に誰が士郎か分からないなんていう今の状況を悟られないように目線だけで士郎を探す。

 

「……」

 

 分からない……うっうー、誰が士郎か判んないよー! 何処にも赤髪の男なんていないじゃないか!

 くっ……こうなったら仕方が無いそこにいる、どう見ても士郎には見えない赤っぽい(桃髪)の女の子にするしかない! 神様仏様……どうか彼女が士郎でありますように。

 ってか……女の子率高くね? 男だけでやる劇なんじゃないのかよっ!

 

 取り合えず、原作通り彼女は尻餅ついて呆然とこっちを見ていることだし、髪も赤っぽいし(桃色)だし、こいつに決めた。

 俺もちゃんとやらなきゃ。

 

「サーヴァント・セイバー、召喚に応じ参上した。問おう……貴方が私のマスターか?」

 

 俺は胸に右手を当てながらそう言った。我ながらこのアドリブはいいかもしれない。

 

「えっ?……そ、そうよ! 私がマスターよ!」

 

 私……? まぁ、細かいところは置いといて、それにしてもこの子演技上手いなぁ。

 セイバーが召還された時の呆然とした士郎を上手く演じきっているよ。本当に唖然としてるようだ。うん、この子は将来大物になるな。 

 

「承知した。これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。マスター、指示を」

 

 この子の将来のためにもこの劇は何としても成功させなくちゃな、と思いつつ、アドリブで騎士っぽく片膝ついて頭を傾げながらそう言った。

 

 俺、今結構カッコいいんじゃね?

 

 

   ***

 

 

「おい、さっさと諦めろよ、ルイズ! 後がつっかえてるんだぞ?」

 

 誰かがからかうように叫ぶと、途端に周りで笑いが起こった。

 

「私は――!」

 

 思わず言葉が出掛かったが、それを既の所で飲み込んだ。

 その言葉に反論してやりたい。罵声を浴びせてやりたい。けれど――それは絶対にしてはならないことだ。

 サモン・サーベント。コモンマジックと呼ばれる初歩の魔法であり、2年進級の絶対条件。失敗すれば進級することは出来ない重要な試験だ。

 けれど、その規則は今では形骸化している。なぜならば、普通この年になってまでコモン・マジックを使えない生徒などいないからだ。

 すなわち、それほどまでに簡単な魔法なのだ、サモン・サーヴァントと言う魔法は。

 

 そしてその至極簡単な魔法を――いや、それどころかその他のすべての魔法を、私は一度として使えたことはない。全て爆発させてしまうのだ。

 そんな私がどうして、彼らに反論することができようか。

 

 ――勿論、言うことは簡単だろう。

 けれど、私は貴族だ。貴族としての誇りを持っている。ここで言い返せば、自分でその誇りを汚すことに他ならない。

 そして私は貴族であるのと同時にヴァリエール家の一人として今この場に立っているのだ。そこで、誇りを汚すことはすなわち、ヴァリエールを汚すことでもある。

 私はいくら言われてもいい。私が魔法を使えないのが悪いのだから。

 けれど、私のせいで天下に名だたる我がヴァリエールの家名を汚すわけにはいかないのだ。

 

「ふぅ……」

 

 周りの雑念を遠ざけるために深呼吸をする。こんな事で心を乱されていては出来るものも出来なくなる。

 魔法を使えない貴族はこの世にいない。そのはずだ。

 そして私がヴァリエールの娘であるのは間違いない。だってあんなに母様やお姉さま達と似ているのだから。

 魔法の才能にあふれたあの両親の血を私は受け継いでいるのだ。 

 だから、私は――出来るのよ!

 

「宇宙のどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求めうったえるわ! 我が導きに……答えなさい!!」

 

 同時に爆発が起こった。爆発の衝撃で尻餅をつく。

 爆発――失敗だ。

 今日のために人一倍頑張ってきた。寝る間を惜しんで本を読んだ。なのに……。

 何で私には魔法が使えないんだろう……。

 何度思ったか分からない疑問を自身に問いかける。普段なら湧きあがる『次こそは』と言う気持ちも湧き上がってこない。

 それだけの力を掛けたのだ。これだけの想いを込めても出来ないなら、もう出来るはずがない。そう思ってしまった。

 

 ――ごめんさい……お父様、お母様。

 

 両親に申し訳なくて、涙が溢れる。しかし、その涙は次の瞬間喜びの涙に変わっていた。

 影に何かのシルエットが浮かび上がったのだ。 

 

「や、やった! 成功!?」

 

 どんな使い魔なのかと心躍らせて煙が晴れるのを待つ。しかし、煙が晴れると、そこに居たはずの影はいつの間にか消えていた。

 

「あ、あれ?」

 

 結局失敗だったの? まさか……妄想まで見えるなんて。

 小さく自嘲する。しかし、それを遮るように悲鳴が上がった。

 失敗のショックで立つ気力もなかった私は気だるげにそちらに振り向く。そして――驚愕した。

 

 たぶんここ数年で一番の驚きだったに違いない。何とそこには白銀のナイトタキシードに身を包んだ黒髪黒目の青年が、コルベール先生の首を右手で掴み取り押さえていたからだ。

 コルベール先生は呪文を唱えようとしているが、喉をきつく押さえられているので呪文を詠唱できないでいた。

 

 何がどうなっているのと混乱しているとタバサが『ウィンディ・アイシクル』を彼の頭目掛けて放った。しかし、狙われた青年はそれを確認することもなく横に飛んで避ける。

 そして徐にタバサへ顔を向けると、その切れ長の目で鋭く睨みつける。

 睨まれたタバサは怯んだように一歩後ろに下がった。

 

 普段感情を見せないタバサがあそこまで狼狽する姿なんて初めてでなかろうか? 随分前、タバサがシュバリエの称号を持っているという噂を聞いたことがある。

 シュバリエは身分に関係ない実力による称号だ。何か優れた武功を成した人に特別に送られる。だから普通はこんな子供がもらえるようなものではない。きっと荒唐無稽な噂だろう。

 けれど、それを信じさせるだけの実力がタバサにはある。火の無い所に煙は立た無いのだから。

 

 事実、戦闘時に彼女が動揺した所を見たことがない。常に冷静で、最良の選択をする。そして魔法も速く、強力だ。普段の授業でも戦い慣れているのが、ひしひしと伝わってくるぐらいだ。

 オーク程度なら片手間で倒せるだけの実力と落ち着きを兼ね備えていることだろう。

 そんな彼女をが怯える彼は一体――。

 

 私が呆気にとられていると彼は静かに立ち上がり、私の方に向かって歩いてきた。

 周りに緊張が走る。タバサも何かしたら何時でも魔法を放てるように彼に杖を向けて警戒している。私もそんな皆と同様に凄まじいほど緊張していた。

 

 見た感じ彼は平民だろう。だが確かに『神聖で美しく』の願い通り、彼は女性と間違えそうな中性的な美しい顔立ちで、穢れを知らない純白のナイトタキシードと相俟って何とも形容しがたい神秘的なオーラを放っている。ともすれば天界の騎士が舞い降りてきたのか、とでも錯覚してしまいそうな圧倒的な雰囲気があるのだ。

 緊張しない方が無理というものだ。

 

 彼が一歩また一歩と近づくたびに私の心臓が跳ね上がる。体はまるで金縛りにでも合ったように動かず、視線すらも外せない。

 彼は私の目の前1メイル程のところに立つと、私を静かに見下ろしてきた。

 思わず何をされるんだと不安になってしまう。

 というのも、使い魔が召喚主を襲うことは、決して珍しいことではないからだ。だからこそ、コントラクトサーヴァントは各自ではなく、授業として教師がいる場で行われる。

 

 動物ならば大体の対処法はできている。しかし、人間など前代未聞だ。暴れられたらどう対応すればいいのかもわからない。

 そもそも、本当に彼は私の使い魔として呼ばれたのだろうか? 混乱に乗じて乱入してきた平民じゃないのか?

 

 そんな荒唐無稽なことまで考え始めると、不意に彼が動きを見せた。

 周りの温度が2度ほど下がった気がした。

 私も、まるで魂を握られたかのような気分だった。息ができず、足が震える。視界がショートしそうだ。

 

 しかし、そんな私達の恐怖を裏切り、彼はまるで王を前にした騎士のように右手を胸に当てると、思いもよらない言葉を私に向かって紡いだ。

 

「サーヴァント・セイバー、召喚に応じ参上した。問おう……貴方が私のマスターか?」

 

 一瞬彼が何を言っているのか理解できなかった。

 今彼はなんと言ったの? そもそも、誰に言ったのだろう?

 彼の言った言葉を胸の中で反芻する。そして出た結論はたった一つだった。彼は私に、マスターかと尋ねたのだ。つまり、彼は私に召喚されたのだ!

 嘘みたいだった。信じられなかった。

 でも――事実だ。

 

「そうよ! 私が……私がマスターよ!」

「承知した。これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。マスター、指示を」

 

 厳かに彼はそう言った。跪き、私に頭を垂れながら――。




 ついででいいので、評価していただけると作者は嬉しいです。

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