いつもに比べて遅い投稿なうえに駄文になっていると思います。恋愛的な甘い展開を全く書けないダメ作者ですみません。
それでは本編どうぞ。
011
あっという間に学園祭当日。
学生の親族やOG、政府役員に企業など他では見られないほど幅広い人種と職種が来客として訪れ、学生はもてなしつつ祭を謳歌していた。
金持ち学校故に、教室内の装飾や並べられた調度品は一流・・・とはいかないがそれでも一般的な学園祭で学生が用意するものとは比較にならないレベルになっている。
一年一組は『ご奉仕喫茶』と名を掲げ開店。
男子生徒という最大の目玉があるので朝から盛況。
また執事やメイドとのゲームに勝つとツーショット写真を撮影してもらえるのも人気の1つで、目当ての店員に勝つために何度も来店する女子生徒も居る。
(執事とのゲーム権は入店時の抽選制)
「いらっしゃいませ、お嬢様」
「いらっしゃい。席に案内するよ」
来店したお客様を席へと案内する一夏。
彼は燕尾服をピシッと着こなし、中学時代にバイト(五反田食堂)である程度接客の基本が身についているので真面目な素人執事として人気を博している。
逆に忍野はネクタイを緩めボタンを外し、だらしない恰好をしてはいるが、不慣れながらも真面目に接客しているので来客の生徒からは不良執事などとよく分からない理由でリピーターが多い。
しかし二人は二大看板ではあるがそれだけではお店は廻らない。他にもお客が来る理由があるのだ。
レジには最早1組のマスコットとしての地位を盤石のものとした八九寺 真宵。接客にはシャルロットを筆頭とした専用機持ち主の面々。
そんなメイド服に身を包んだシャルロットがティーカップの載ったトレーを片手に注文の席へと急ぐと。
「すみません。ゲームしてもらえないですか?」
「あ、はい。かしこまりました♪」
ゲームを挑まれる。
彼女を始めとしたこのクラスの代表候補生たちはその肩書きもあってゲームの指名率が高い。元々候補生は本国では一種のアイドル的な存在なので当然とも言える。
ちなみに現在のランキングはラウラ、シャルロット、箒、セシリアの順。メディアでの報道が少ない分、ラウラとシャルロットの人気は高い。
「またのお越し待ってるよぉ」
微笑みを浮かべ軽く手を振りながらお客の見送った忍野はゲームに使った小道具を持って厨房に下がる。
「5番テーブル今終わったよぉ」
「分かった! それじゃあ少し休ーーー
「忍野くーん! ご指名だよ!」
ーーー憩してる暇はないね」
「はぁ、大忙しだねぇ」
「忍野くんって何でそんな他人事のように喋るの。忙しいの君だよ?」
厨房班の子のもっともなツッコミをスルーしつつ、再び店に出る。
「お待たせしました。って簪か、いらっしゃい」
「お、お邪魔します」
「ちょっと無視してんじゃないわよこの不良執事!!」
無視されたことに悪態をつく鈴。彼女はスカートタイプの真っ赤なチャイナドレス姿で様になっている。そして彼女の後ろに隠れるようにしている制服姿の簪。何かあったのかその表情は恥ずかしさが見て取れる。
「二名様ご案内でいいのか?」
「簪だけよ。アタシは一夏の順番待ち」
「り、鈴も一緒にっ!」
「何言ってのよ。ほら案内しなさい」
「んじゃご案内しますよ、簪お嬢様」
「お、おじょっ///!?」
「そんな驚かないでくれよ。一応執事だし、簪はのほほんさんに言われ慣れてるだろ?」
「本音のは、何か違う・・・」
「それじゃあかんちゃんで」
「~っ///! お、お嬢様でいい///」
「ではご案内~」
「あれ? 凰さん忍野君を指名してなかった?」
「恥ずかしがり屋の代わりに言ってあげただけよ」
「??」
012
~一夏サイド~
学園祭ってここまで忙しいものだっけ?
テーブルを片づけてから次のお客様の出迎えへ急ぐけど、そろそろ休憩に行かせて欲しい。
忍野も更識さんのテーブルの対面でぐったりしてるし。
受付に行くと、そこに居たのは明るい茶髪でレディース姿を着こなすOL風の女性だった。
「いらっしゃいませ、お嬢様?」
「あの、自信がないなら普通に“お客様”にしてもらえないでしょうか? 疑問系にしないで下さい」
「す、すみませんそんなつもりじゃ」
「そんなに慌てなくてもいいわよ」
「改めてまして、お嬢様。席にご案内いたします」
「お願いします」
別にこの人が大人だからお嬢様と呼ばなかったわけじゃない。初対面のはずだけど既視感がある。
それに彼女を見た時にあの狂信者と共に居た傭兵、エピソードが脳裏に浮かんだのも理由だ。共通点はどこにも、欠片ほども存在しないはずなのに何故彼を思い出したのかまるで分からない。
「ご注文は何にいたしましょうか?」
「その前にこちらを」
席に案内をすると注文より先に名刺を取り出して渡してきた。
「えっと・・・IS装備開発企業“みつるぎ”
「はい。織斑さんにぜひ我が社の装備を使っていただけないかなと思いまして」
またか、とうんざりしてしまう。俺や忍野のガンダムに装備提供を名乗り出てくる企業は後を絶たない。世界に二人しかいない男性操縦士が使ってるとなれば俺達なんかが想像できない程の宣伝になるそうだ。
だけど今の装備に不満はないし、忍野は企業が装備品を通して機体データを盗むだろうから付けない方がいいって言ってるからこう言った申し出は断る事にしてるんだよな。
「せっかくですがそう言った話はまた後日お願いします」
「そう言わずに! 私も上司に契約取って来いって言われてるんです!!」
そんな泣き言を言われても知りませんよ!!
「お願いします! 追加装甲1枚でもいいですから契約してください! ほらっ、これなんか学生さんのバイト代でも(分割で)買えますよ!」
いい大人が泣きつかないで下さい!
パンフレットをこれでもかと広げられ、すがりつくように腕を掴まれてしまい席を離れることも出来ない。どうすればいいんだ!?
「そう言うのはお断りしてるんだよねぇ」
「「!?」」
いつの間にか巻紙さんの背後に立っていた忍野。
彼は言うや否や、席に座っていた巻紙さんのスーツの襟を掴んで持ち上げる。180cm近くの彼が持ち上げると巻紙さんの身体は宙に浮いてしまい、ヒールを履いた脚をばたつかせていた。
その姿はずいぶんと慣れており、可笑しさ満載なのに不自然さを感じられなかった。
なんでだろう?
「お、降ろして下さい!」
「はいはい、煩いから静かにしようねぇお嬢ちゃん」
「ンだとこの、」
「ああ”ん?」
「ご、ごめんなさい」
ギャアギャア騒ぎながら忍野に運ばれて行く巻紙さん。ってか一瞬ふたりとも性格変わってなかったか?
「鷹月さん、この人強制退場」
「分かったよ。お一人様出口へご案内~」
出入り口で受付を担当していた子に巻紙さんを押し付けてから戻って来た。
「優柔不断だねぇ。いらないんだからサッサと断りなよ」
「面目ない」
「まぁそれはいいけど。そろそろ五反田くんが来てる頃なんじゃないか?」
「ヤッベエッ! 忘れてたあ!」
弾のやつ絶対怒ってるよな。
013
友人の五反田 弾を迎えに行った一夏だが、ここでは割愛するとしよう。
起こった事を羅列するなら、弾くん上級生に一目惚れ、テンション上がったため高校生にもなって転んで怪我、その上級生に連れられ保健室GO。
一夏は弾の春を応援すると言い訳し、彼の友人だと思われるのがちょっぴり恥ずかしくなって教室に戻ったのだ。
「あっ一夏くんおかえりー」
「・・・何でここに楯無さんが?」
出迎えてくれたのは、更識 楯無。
「ときに一夏くん。特訓に付き合ってあげているんだから生徒会の出し物にも協力しなさい」
「その言い方、忍野が絶対小言を言うフレーズでしょ」
「あら? 今回彼は快く承諾してくれたわよ」
「本当ですか?」
一夏が怪訝そうに尋ねると、タイミング良く厨房から出てきた忍野。いつもの制服姿に着替えており、執事の真似事を終わったことを告げていた。
「いやぁ青春っぽくってちょっくらい良いかなぁって思ってねぇ」
「ほらね?」
「ほらね、じゃありませんよ!」
とりあえず一喝。
しかし抵抗して無駄だとここ数日の経験で分かってしまった一夏は、肩をガクンと落とし諦めモードで話を訊く。
「で、出し物は?」
「そんな疲れた反応しないの。出し物は演劇よ」
「演劇?」
「それも観客参加型演劇」
「は!?」
観客参加型と言う初耳の演劇に素っ頓狂な声をあげる一夏だが、彼が何に声をあげているのか分からない忍野はスルーしている。
「シンデレラよ」
堂々と告げる楯無の広げた扇子には“灰被り姫”の文字が書かれていた。
閑話休題
第四アリーナに連れてこられた男二人。
生徒会の演劇は、演目の名前だけなら普通の演劇と思われるがそのセットは大掛かりで、なんとアリーナ1つを貸し切って城を建ててしまったのだ。生徒会の金と権力が伺いしれるようなものだ。
そして王子様の衣装に着替えさせられた二人はセットへと移動する。楯無には基本アドリブでOKと言われたが何を意味するのやら。
「なぁ一夏。シンデレラってどんな話なんだ?」
「知らないのか?」
「女の子が主人公の昔話って程度だ」
「フワッとなんてレベルじゃないな」
二人がセットの中に入ると辺りは暗くなり、楯無のナレーションが流れてくる。
「むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました」
普通の出だしだと安心する一夏だが、すぐに表情を曇らせる。
「否、それはもはや名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、
何やら雲行きが怪しくなってきている。
「今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちの夜が始まる。王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!」
楯無が言い切ると同時に照明は元の明るさに戻り、演劇のスタートを告げた。
「随分と物騒だねぇ。あまり子供向けとは思えないなぁ」
「と言うか全く別物だあーッ!!」
なるほど。
これなら脚本や台本は何の役にも立たない。
「はあぁぁぁ!」
まず叫び声とともに現れたのは、シンデレラ・ドレスを身に纏った鈴だった。自らの専用機の装備を彷彿とさせる青龍刀での二刀流で襲いかかる。
「よこしなさいよ!」
二人が危なげなく避けると鈴は忍野を一睨みし、狙いを一夏に定めて片方の刀を投げる。それだけに止まらず、中国の手裏剣こと飛刀も追加で投げる。
『忍ッ!!』
『ほら、受け取るが良かろう』
忍から大型二丁拳銃『阿吽』を受け取った一夏は銃身を盾にして飛刀を防ぐ。
「どこから出したのよそのデカ物!」
「そんな事より危ないだろ!?」
「大丈夫よ。死なない程度に殺すから!」
「とてつもなく危ないって!!」
鈴の意味不明な殺人宣言に一夏は近寄らせたらまずいと立て続けに発砲して距離を置く。もちろん非殺傷のゴム弾だが手裏剣や刀での対抗は難しく、鈴はセットの中にあるものを遮蔽物にしながら接近しようとする。
パァンッ!
銃声かと一夏が振り向くと、何かを叩き落としたように左手を振りかぶった姿勢の忍野が突っ立っていた。そして左手の指す先の床には弾痕。
「お~痛ぇ、これ貸し1な」
「今のぁっ!?」
何があったのか一夏が直感で理解して言葉にしようとした瞬間、自分に赤い光線が向けられたのに気づいて避ける。すると光線の先の床が弾けた。
(スナイパーライフル!? セシリアか!)
立て続けに撃ち込まれる弾。彼女の狙撃銃はサイレンサーを装備しているようで、一夏には発砲音とマズルフラッシュがわからない。
だが狙撃に気を取られれば眼前のツインテール殺人鬼が襲ってくる。既に投げた青龍刀は回収済みらしく遮蔽物の向こうからチラチラと白刃が顔を見せていた。
「忍野、セシリアを頼む!」
頼まれた彼はたっぷりと間を置いてから。
「知らん。自分で頑張りなよ」
「あ、おい逃げるな! 薄情者ーッ!!」
狙われてるのが一夏だけなのに気がついたのでわざわざ自分から首を突っ込む必要はないと、一夏を置き去りにしてその場をあとにする。
薄情としか言いようがないが忍野も狙われる側。いつ自分に矛先が向けられるか分からないなら矛の届かない所へ行くのは定石なのだろう。
一夏の悲鳴が聞こえても気にしてはいけない。
~セシリアサイド~
「まだこちらの位置を特定されてませんわね」
本来であれば確実に不意を突けたはずの初弾。
にもかかわらず忍野さんはそれに気づき、物を盾にして弾避けにするならまだしも、あろう事か素手で飛来する弾丸を叩き落としてしまいました。手で弾道を曲げることは物理学的に出来ないことはないのですが、普通の人の反応速度とパワーでは遅く弱過ぎるうえに、仮に成功しても手に大怪我をするのは明白。使ったのは硬質ゴム弾ですが骨折しておかしくありません。
しかし様子を見る限りあの方は“少し痛かった”程度でそれをやってのけた。
(忍野さんが関わりますと常識を見失いそうになりますわね)
ですがあの方は既に一夏さんのそばにはいらっしゃらない。これは絶好のチャンス。
鈴さんには申し訳ないですが当初の予定通り、このまま王冠を撃ち落とさせてもらいます。王冠を手に入れるのはこのわたくし、セシリア・オルコットです。
「狙い撃つぜ、ですわ」
一夏さんの口調を真似しながらわたくしの勝利のために再び引き金に指をかける。
ちょっとおふざけが過ぎますかしら?
014
一夏を置き去りにした忍野。
途中、セットに置かれた本物の高角砲を見つけるが砲身が通路の邪魔になっていたので強引に向きを変えてしまったが、さして問題にはならないだろう。
楯無のトラップが使えなくなるだけだし。
そう思っていると、物陰からラウラが飛びかかってきた。
衣装はもちろんシンデレラドレス。彼女はその容姿も相まって現実離れした存在とも見える可憐さがある。しかしやってる事がモロ現実重視。
忍野に体格で劣る彼女は不意打ちで、しかもぶつかればかなりの高確率でバランスを崩しやすい上半身目掛けて全力タックルをくり出す。
「貰ったあッ!!」
彼女の目論見通り、忍野は背後からのタックルを避けれずぶつかり、前のめりに姿勢を崩してしまう。
このまま押し倒してしまえば忍野の動きは止まる。そうなれば王冠はラウラの物になっただろう。
「なんの!」
「なッ!?」
しかし上手く身体を捻りラウラを抱きかかえるとそのままバレーのワンシーンの如き回転を見せてからしっかりと立っていた。
失敗した事に悔しがろうとしたラウラだが、自分が今どの様な状況なのか分かると頬が朱くなる。
今の彼女はお姫様だっこ、しかも忍野の顔が数センチ先にある。
「ふ~危ない危ない。今のはいいタイミングだったねぇ」
「え、えっと、その///」
「よっと、んじゃ俺は逃げる」
「ま、待ッ!」
ロクに返事を返せないままラウラは下ろされてしまい、もう少しお姫様だっこを堪能したかったと内心ガッカリしながらも当初の目的を果たそうとする。
けど忍野はサッサと逃げ去ってしまい、床に座り込んで虚空に手を伸ばすラウラだけが残された。
さて、こちらはセシリアと鈴から逃げ切った一夏。
忍野に置いてきぼりにされ追い詰められた彼の前に颯爽と現れ救い出したのはシールド片手にグレネードガンを装備したシンデレラ姿のシャルロット。狙撃と飛刀を盾で防ぎ、スモーク弾を発射して鈴とセシリアの視界を奪い、一夏を連れて逃げてきたのだ。
もっとも彼女としては逆のシュチュエーションの方が良かったご様子だが・・・。
そんな二人はどうやら城の外に来ているらしい。
「ここまで来れば大丈夫だよ」
「ありがとうな、シャル」
「どういたしまして。ところで一夏、忍野くんは?」
「あいつなら一人で逃げやがったよ」
「あ、あはは(ラウラは上手くやってるかな?)」
「はぁ~、疲れた」
安心しきっている一夏は疲れたのか床に座り込む。それを優しい見ていたシャルロットだが、黄金に輝く王冠が目に映り表情が変わる。
一夏が座ったことで必然的に王冠の位置も低くなり、今王冠はまるで貰ってくださいと言ってるかの如くシャルロットの目の前で輝いている。策や武器はいらない、ただ机に置いてある物を取るのと同じく手を伸ばせばいいだけ。
(取っても、いいよね? 争奪戦なんだし、疲れたからって休んでる一夏が悪いんだから。
ああでもこれってつまり一夏が僕のことを信頼してるから休んでるんだよね。ここで取ったらそれを裏切っちゃうから嫌われちゃうんじゃ・・・。もしそうなったらせっかく同室になっても意味ないよお。
でも誰かが取るまで終わらないならここで終わらせてゆっくり休ませた方が・・・。でもでも恩着せがましく思われたら嫌だし・・・)
だが当のシャルロットは取るべきか取らざるべきか葛藤の渦に意識がのまれ、指が動くだけで手は伸ばせない。
そしてそんな彼女を邪魔するように地響きが起きる。
そちらに目をやると坂の上から巨大な球体がゴロゴロと転がってくる。よく考えればここは学園の中なので岩や鉄製ではないはずなのだが二人には関係ない。
「まずいぞシャル!」
「早く逃げないと!」
だがどこに?
今自分たちはこの坂を登ってきた所。逃げ道はどこにもないかと思われたが、すぐそこの外壁に上へ行くための梯がかけられているのを見つける。
しかし二人ともが登っている時間はない。
「シャルは早く登れ!」
「一夏はどうするの!?」
「走る!」
「あっ、待ってよ一夏!」
シャルロットさん、今ここで“待って”と言うことは“あれに轢かれなさい”と言ってるようなものですよ?
当然一夏は待つことはなく、巨大な玉に追われ坂を猛スピードで駆け下りていき、すぐにシャルロットからは見えなくなってしまった。
「誰だよ!? こんなトラップ作動させたのは!?」
涙目になった彼女の怒りを、ナレーション席の楯無は楽しそうに眺めていた。
015
一方、その頃の忍野はと言うと。
「何だってんだよ、まったく」
城壁のセットに寄りかかりひと休みしていた。
疲弊ではなく呆れの見えるその表情は、彼女らが何故あれほど本気になるのか分からないからだ。
もう辞めだ辞めだ、と忍野は演劇を放棄して王冠を外そうと頭に手を掛ける。
が、
「アババババババ!?!?!?!?」
王冠が頭を離れた瞬間、電流が身体を駆け抜けて彼は奇妙な悲鳴をあげながら倒れてしまう。起き上がろうとするが手足がカクカクと小刻み震え所々から煙が上がっており、相当な電圧だったことが伺える。
突然自らを襲った現象に彼が困惑していると、ナレーション役である楯無のアナウンスが聞こえた。
「王子様にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます」
「遅ぇよ!! そして自責の念ってレベルか!?」
楯無の説明不足もその電流の強さに対するツッコミを入れるため、忍野は動かない身体に鞭を入れ起き上がる。
「はぁ、めんどくせぇなぁッと!」
言葉の途中でイナバウアーをするように身体を反らした忍野。
その上を野球のボール位の直径をした棒状の物体が通過し、背後にあった壁に衝突して白濁の粘液が飛び出す。
「とりもち、いや接着剤か?」
運悪く巻き込まれた木の枝がくっ付いたままな事と鼻につく化学薬品の臭いで彼はそう予想する。非殺傷で爆発武器を再現しようとした結果とも言えるが、元から捕獲用だったのかもしれない。
だが今気にするべきは、誰が撃ったかだ。
忍野は疲れた様子で発射方向を見ると、堂々たる立ち姿のフォルテ・サファイアがそこに居た。
「サファイア先輩も参加したんですか?」
今まで皆が着ていた衣装は足が隠れるほど長く広がった中世デザインのドレスだったのに対し、サファイアが着ている物は現代的な丈の短いパーティードレス。どちらもドレスであることに変わりないが、後者は原作シンデレラの時代背景から見ればミスマッチと言える。
尤もベルトで肩かけにしてアサルトライフルを二丁持ち、太股と足首にはサイズの異なるハンドガン納めたホルスターが計4つ、腰に巻いたベルトにはサブマシンガンに予備弾倉とスタングレネード。極めつけは背中に背負ったバズーカ(最初の攻撃はこれだろう)。
どこのターミネーターかと訊きたくなるほどの重装備をしている彼女がどの様なドレスを身につけようと些末な問題にしかならない。
「先輩も王冠の景品目当てですか?」
「どうしてそう思うッスか!?」
「どうも皆の狙い方がキツいんでねぇ、あの会長さんのことだから何かオマケを付けてるでしょ?」
「知りたいなら日頃の私に対する無礼を詫びるッス!!」
「お断りしまぁす」
「ならここでくたばるッスよ!!」
両手のライフルを腰だめに構え、銃撃を開始する。
忍野はセットにあるもの全てを遮蔽物にして駆け抜けるが思案顔して困っていた。
(ISでもそうだけど俺って弾幕に弱いなぁ)
自分の弱点を改めて突きつけられてしまったが、今はそれより逃げる手段を考える。けれども一夏は見捨てて来てしまったので援護をしてもらうことは出来ず、反撃しようにも1発撃つ間に100発は弾が飛んでくるような勢いなのでどうしようもない。
すると雨のような弾幕が突如として止む。恐る恐る遮蔽物から顔を覗かせるとどうやら弾切れのようだ。あれだけ撃てば当然とも言える。けれども片方の弾倉交換はすでに済んでおり逃げるには時間が足りなさそうだ。
「先輩は何が目的でそんな頑張るんですか?」
「それは勿論その王冠を手に入れて、」
「手に入れて?」
すると片方のライフルから手を放し、指をピンと伸ばした手のひら上に向けて親指と人差し指で円を作って見せる。
そのジェスチャーがこの日本で意味するものは一つしかない。
「景品を転売するッスよ!!」
「うわぁゲスいよこの人」
古典的な¥目の幻覚が見えそうな守銭奴面でにっこり笑うサファイア。
と言うより欧米では“OK”でも通じるが“能無し”と捉える地域もあり、日本以外では通じないジェスチャーの一つだ。
どうやらフォルテ・サファイアは日本文化に染まり過ぎてるご様子です。ちなみに蛇足だが、このジェスチャーはギリシャやアフリカなどでは性行為を意味したり“Fuckyou”などの侮辱的な意味を持ちます。
「って言うか仮にも代表候補生なんだから金に困ってないでしょ?」
「分かってないッスねえ。お金って言うのはどれだけ楽しく稼げたかでその価値が違ってくるんスよ。同じ金額でも道楽で稼いだ方が嬉しいに決まってるッス!!」
「あ、お金に関する講釈はどうでもいいです。知り合いに金にがめつい奴が居るんでお引き取り下さい。と言うか逃げた方がいいですよ」
「ハッ、お前こそ逃げなくてもいいんスか?」
「まぁ先輩があれに轢かれても平気なら構いませんよ」
あれとは何だ?
フォルテは一応ハッタリだと思いながらも忍野の指差す自分の背後に顔を向ける。
するとセットの木々をなぎ倒しレンガ造りの路面を砕きながら近づいてくる巨大な球体。それは彼らの知らない所で一夏を追い回していた楯無のトラップ。
「さあ存分に轢かれください!! ショートカット“ワイヤー”」
「死ぬッス!! あ、コラ自分だけ逃げるなッス!!」
忍野は自分だけワイヤーを伝って城壁を登り逃げ、置いてきぼりにされたサファイアは迫り来る球体から逃げるため全力で走り出す。せっかくの重装備が仇となってしまった。
「やれやれだぜ」
その後、断末魔の叫びが聞こえたような気がしたが、彼は自業自得だと知らぬふりをしてその場を後にした。
「何だったんだ?」
『あれは人の悲鳴じゃ。大方、狐の小僧に返り討ちにでもあったのじゃろう』
「無難だよな」
まさかそれが自分を追い回していた罠が原因だと知るよしもなかった。
「一夏」
気の抜けていた所を突然呼び止められ、とっさに身構える一夏だが、相手を見て銃を下ろす。
彼を呼んだのはシンデレラドレスを身に纏った篠ノ之 箒。
もともと女性では高めの身長と整った顔立ちで大抵の衣装を着こなす彼女だが、同性が羨むそのプロポーションもあって一夏は息をするのを忘れてしまいそうになるほど見惚れてしまう。頭のどこかで箒=和装という固定概念があった彼は“ギャップ萌え”と呼ばれる物を体感していたのかもしれない。
腰にさげた日本刀に気がついて光速よりも早くその感覚を手放したが・・・。
「その、笑いたければ笑え」
どうやら自分にドレスは似合わないと思っているのだろう。いつもは堂々としている彼女は珍しいことに落ち着かない様子でソワソワ、と言うよりオドオドとしている。
「プッ、はっはっはっー」
「本当に笑う奴が居るか!? ええい、着替えて来る!!」
怒って帰ろうとする。
「確かに箒は和装ってイメージだけど、そのドレスだって似合ってるじゃないか」
「そ、そうか///?」
「ああ。いいと思うぜ」
『あ~あ、また始めおったわこのフラグ建築士は』
忍が呆れるのも無理はない。
影に居る以上、四六時中一夏の行動を見ているのだから彼の無自覚なフラグ建築に対しアドバイスどころか2つ3つ小言を言わなければやってられないのだろう。
そんな時に彼の背後から近づく小さな影。
その影の持ち主は、若干イライラしていた忍が居る一夏の影を踏んでしまい、
「ぎやああっ!?」
八つ当たりのターゲットにされ転ばされてしまった。
「八九寺! 隠れていろと言っただろ!」
「ですがノノ之アさん。あのままでは何時まで経っても私の出番がないじゃないですかっ! せっかくこの八九寺Pが囮作戦を立案したのに、あ~あ、ガッカリですっ」
「悪かったなあガッカリで!! それと人を魚人島編から隻眼になった三刀流の毬藻のように言うな! 私の名前は篠ノ之だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「
「怖ッ!?」
そのまま口喧嘩にも思える文句の言い合いを始める箒と八九寺。本人達からは分からないが第三者から見れば束が嫉妬しそうなほど姉妹っぽく見える。
「忍、これどういうこと?」ボソボソ
『大方、お前様の幼馴染みの侍娘が注意を引き、迷子娘が王冠を取る作戦じゃったのじゃろう』
「逃げた方がいい?」ボソボソ
『電流を流されてもいいのなら留まるがよかろう』
「それじゃ逃げる」
そろーりそろりと気取られないよう静かにその場を離れる一夏。
二人の口論はまだまだ終わらない。
016
サファイアを生贄に大玉トラップを逃れた忍野は城内を散策、ではなく逃げていた。技術と金の無駄遣いを感じる城内に入った時から誰かにつけられていると感じた彼は、追い立てられるように城の奥へと進まされる。
(嫌な予感しかしないねぇ)
到着したのは大広間と思われる部屋のセット。
ここが終着か、と思っていると奇妙なドローン群が現れる。
青みかかった金属特有の光沢を持つボディー。
日本で古来から使われている平底釜を逆さまにしたような台形で、下部には飛行用のローターが埋め込まれており、今はヘリコプターの如く高速回転している。左右には短い三本爪のマニュピレーターを持つアーム。
そして正面と思われる箇所にはピノキオのように伸びた鼻と、赤い二つのセンサーアイが忍野へと向く。
彼は知らないが、その飛行ドローンは電気ネズミで有名なポケットに入れるモンスターに登場するモンスターに酷似していた。
その数はザッと30。ゆっくりと旋回行動を取りながら困惑している忍野を包囲する。
そして物陰からドローンの主が姿を見せる。
「やっぱり簪か。よくこれだけドローンを用意したなぁ」
「メイドイン真宵」
「あのマッドサイエンティストが」
これまた綺麗なドレス姿をした簪は、ドローンを空中パネルで操作しつつ忍野の賞賛に小さなVサインで返事をする。
王冠を手に入れるために彼女は刃物や銃をとらず“手”を増やして奪取しに来たのだ。多方向からの同時攻撃、しかも王冠だけを狙えば他の誰よりも成功率の高い戦略である。
「一応訊くけど、今回の刀剣類以外の武器って・・・」
「片瀬工房」
「武器商人かよ。それで、簪の要求はやっぱり同じかな?」
「うん。王冠を、ちょうだい」
「まぁ俺としちゃぁこんな茶番はサッサと終わらせたいんだが、自分じゃ外せないし、景品が分からない以上ヘタに渡せないんだよねぇ」
「なら・・・」
「そう実力行使。いつでもおいで」
「行って、メタング!!」
忍野は七転八倒しながら逃げ回る。
ドローンの動きはISのビットに比べればお粗末だが、今は怪異的な強化をしてない肉体なうえに数が多い。ISを使えないから空中へ逃げる事も叶わず、地面を跳ね回るしかなかった。
(やっぱり速い・・・)
対して簪は、眼鏡には次々とドローンから送られてくる情報と忍野の回避予測データが表示されるそれを吟味しつつ、目にも留まらぬ速さでパネルを叩いて冷静に操作をする。
徐々にしかし確実に包囲網を狭くしていくと忍野の表情に焦りが見え始める。するとポケットに手を入れ、すぐに出して手を振り上げた。
(閃光弾は使わせないっ!)
忍野が学園内で追い回された時に閃光弾を使うのを知っていた簪は、その動作を合図とばかりに劇開始時から準備していたコマンドを入力する。
彼の振り下ろした手からは予想通り、紙玉が現れて地面へと加速するが、簪のコマンドで制御され横から地面スレスレを飛んできたメタングは、かっ攫うように紙玉をキャッチしていき見事落下を防いだ。
それを見ていた忍野は驚愕と唖然を合わせたような表情をして、それからゆっくり簪の方を向く。
二人の視線が合い、簪が追い打ちのVサインを見せると。
「何てことしてくれてんだよ!!」
嘆きのように叫び声をあげながら背を向けダッシュで逃げていく。
城の中庭にあたる場所へと逃げてきた忍野。
するとちょうど正面方向から一夏が走ってきた。
「おーいッ! 忍野ー!!」
「いーちーかー!!」
無事に合流した二人。
「「早く逃げるぞって、え?」」
二人して同じ台詞を言い、互いに呆けてしまうが、直後には二人を正気に戻すように少女達の声が周囲から聞こえてきた。
「一夏さん!」
「逃げ場はないよ一夏!」
「神妙にしろ」
「逃がしはしない」
「王冠を渡しなさい!」
「諦めて・・・」
「勢揃いッスねえ!」
専用機持ちが勢揃い。四面楚歌。
中庭を模した場所なので四方は城壁に囲まれており、4つある出入り口の3つにはそれぞれ武器を構えた少女が門番のごとく立ちふさがる。
残る1つには鉄格子。
「なあ忍野っ、何とか逃げる手はないか!?」ボソボソ
「無理」ボソ
『使えぬのう。人を騙すのが狐の十八番じゃというのに』
「なら君は何か出来るのかな?」ボソボソ
『ぐー』
「「寝るな!」」
『Zzzz』
「「より深く寝るな!!」」
完全に追い詰められた男子二人だが、ここで女神ならぬ小悪魔の仮面を被ったイタズラ者が、偽善の手を差し伸べる。
「さあ! ただいまからフリーエントリー組の参加です! みなさん、王子様の王冠目指してがんばってください!」
「「「「なんて事をするんだっ!!」」」」
鉄格子がされていた門を含め、セットに幾つもあった城門全てが開くと女子生徒が一斉に雪崩れ込む。数十単位で人が走っているためセットを崩壊させるが如き地響きが発生している。
一夏と忍野にとって、今この専用機持ちの彼女達による包囲網が決壊すると考えれば善なのだが、追う者が増えることはやっぱり彼らにとって大迷惑。
逆にせっかく追い詰めた彼女達からすれば、チャンスが不意になり、自分の王冠の獲得成功率が大幅に減少して大迷惑。
どちら側から観てもロクな事をしない更識 楯無であった。
人の濁流で包囲網はアッサリ崩壊し、再びステージに解き放たれた男子二人。だが先ほどまでとは桁違いの人数に、アリーナという限られた空間で追われる鬼ごっこは持久戦にもつれ込み、二人が捕まるのは時間の問題だった。
「どうすんだよこれっ!?」
「俺が知るわけないじゃん。捕まりたくなけりゃ黙って走った方がいいと思うぜ?」
「いつになったら終わるんだうわッ!?」
「どうした?」
突如一夏が発した奇声。
忍野は振り返るが、そこについ数秒前まで併走していたはずの一夏の姿はなかった。
「あの馬鹿が・・・」
不自然にズレた床板が、平和?な学園祭の終わりを告げていた・・・。