相変わらず更新の遅い戦争中毒です。
もうじき初投稿から二年になるのにまだ学園祭、書く時間と文章力が足りない。
下手な話ですが今年も読んでいただければ幸いです。
007
一夏を医務室に預け、看病を楯無に任せた忍野は特にする事がなかったため寮へと帰路につく。
するとその途中で簪と出会い、彼女もこの後の予定がないそうなので一緒に放課後を過ごす事になった。この時彼女は頬を朱に染めながらとても嬉しそうにしていたが、忍野は特に気づいた様子はなかった。
「忍野くん、大丈夫? その、お姉ちゃんが勝手なことをして・・・ごめんね」
「簪が謝ることはないよ」
「でも・・・」
「気にするっていうのは気を病むってことだ。他人のことにまで病んでいたら、身が持たないよ」
「うん・・・、分かった」
「そう言えば簪のクラスの出し物は決まったの?」
「まだ会議中。忍野くんのクラスは?」
「よく分かんないけどメイド喫茶ださ。あっ、俺は執事服を着るからな?」
女装はしないぞ、と強く主張するように自分が執事服を着る事を言う。ところが彼女には宣伝のように聞こえてしまったらしく。
「見に行っても・・・いい?」
「っ い、いいよ」
来店の許可申請をしてきた。
本当は千冬に笑われたのでよほど似合ってないのだろうと自己解釈し、断りたいと思っていた彼だが、簪に上目遣いで目をキラキラさせながら訊ねられたら断れなかった。
と言うより断ることで彼女を傷つけるのが忍びなかった。
「そんなに面白いとは思わないぜ? 千ふ・・・織斑先生に笑われたし」
「そうなんだ」クスクス
「しかし発案者はラウラ」
「・・・意外。
「どうもアイツの副官が変な入れ知恵をしてるらしくてなぁ。まぁ今回はお陰で回避出来たからよかったけどね」
「回避って・・・?」
「他の皆はな、俺や一夏にポッキーゲームだのホストだのやらせたかったらしい。俺に口説き文句を囁けって言うのかってんだ」
「ホスト・・・。 いい///」ボソッ
「ん? 何か言った?」
「なっななんでもないよ///!」
「そうか」
「そ、そう言えば・・・、デンドロビウムの修理はほっといていいの?」
「・・・・・・」
夏休み前、忍野と簪とラウラの三人はデンドロビウムの修理を行っていたのだが、三人とも整備士ではないのでどうにも出来ないところが多々見つかった。
そんな時に助っ人として整備科志望の天才技術屋、片瀬 真宵が参加した。・・・のだが、彼女は世界に出回ってない装備を
打鉄弐式の組立の時にあれだけ魔改造を施そうとしていた彼女が、誰にも邪魔されずに装備を弄るとなると、どうなることか・・・。
「まぁ大丈夫だろ。秘匿性が低いとは言っても篠ノ之 束の技術だ。片瀬 真宵が天才でも天災には太刀打ち出来ないさ」
「・・・本音は?」
「何も考えたくない」
「現実逃避をしちゃ、ダメ」
「そう言う簪はどうなんだ。会長さん、楯無さんにちゃんと努力を認めてもらえるようになったのかい?」
忍野の質問に簪は浮かない表情をして目線を落とし、静かに首を左右に振る。
「いくつか考えたけど、やっぱり私は、IS乗りとして認めて欲しい・・・。だから、」
「やっぱり戦争かぁ。本来は言葉を交わすだけで解決するはずなのに、姉妹揃って不器用な性分のようだねぇ」
「それは分かっている。だけど、私は一度、お姉ちゃんに認められることを逃げ出して他人任せにしていた・・・。だからもう、逃げたくない。言葉で伝えられなくても分かって欲しいッ」
(まぁ昔っから相手をより理解するには殴り合いをするのが手っ取り早いって言われるからなぁ。一方的な暴力でない殴り合いなら、それは話し合いと同義だしそれも良しだ。
尤もそれも遺恨を残さない竹を割ったようなサッパリさあってこその話なんだけどな。と言っても今回の場合は、誤解とも取れる姉妹のすれ違いから起こったわだかまりだから心配する必要はないか)
「簪が頑張るって言うなら応援するけれど、勝算はあるのかい?」
「今対策中・・・」
「だよねぇ。あんな傍若無人な会長さんでも国家代表。策を持たずに挑むのは無理があるか」
「今持っている専用機は、今年になってから新調した物だから過去のデータが役に立たない・・・」
「まずは情報収集か」
「う、うん。それで今度、町で作戦会議をしーーー」
「ごめん、電話だ」ピッ
運悪し簪。
せっかく一緒に出かける口実があったのに生かすことが出来なかった。
「ちょっと呼ばれたから行ってくる」
「誰に呼ばれたの?」
「ラウラだ。なんか学園祭の事で用があるんだとさ」
「・・・・・・」ムスー
呼ばれたから、と言って席を立とうとする忍野だが、簪が若干ご機嫌斜めな事に気づいていない。
「待って」
「なんだい?」
「今夜、一緒に夕食を食べに行ってくれる?」
「いいよ」
「それじゃ、食堂で待ってるっ」
「うん。それじゃあまた後でね」
夕食の約束を出来たことに内心ガッツポーズ。
008
~忍野サイド~
医務室に呼ばれてやってきた。
しっかしこの学園は部屋が多すぎて困る。一言“医務室”と言っても各アリーナに学園と合わせて6つ程あったはずだ。足りなくて困るよりはマシだが不便としか言いようがない。
「お~い、ラウラ?」
「遅いぞ。嫁としての自覚が欠けていないか」
「だから嫁じゃないし。それでどうしたんだい? わざわざ医務室に何か呼びつけて」
「うむ。さっそくだが、脱げ」
「は?」
「安心しろ。悪いようにはしない。だから脱げ」
「いや何をするつもりだよ!?」
ちっとも安心出来やしないよ!?
「執事服を借りるのに採寸をしなければならない」
そう言ってメジャーを引っ張って見せてきた。
ああ、そういえばレンタルするとか言っていたなぁ。
「お前は見た目以上に身体が引き締まっているからな。背丈に合わせると既製品ではフィットしないそうだ。だからこうして採寸をしにきた」
俺と一夏は体質、と言うか怪異の種族的な特質のせいで体格の変化が殆どなく、常に最高のコンディションを保ち続けている。だから意図して鍛えなくても筋肉がついており、どれだけ怠惰に暮らしても細マッチョ状態なのだ。
「上だけでいいかい?」
「ああ。頼む」
制服の上着を脱いでからインナーを捲る。
すると、
「おお~」
ラウラが声をあげる。
どうしたのかと思って目をやると、彼女は俺の身体を凝視している様子だった。
何か可笑しなところでもあったかと、自分の身体を見下ろすが不自然や不可思議な所は何もない。では何を見ているんだ?
「かなり引き締まっているな」
なるほど筋肉を見ていたのか。
しかしこれは怪異的な体質によるものだから誉められても特にこれと言って嬉しいとは思わないんだよなぁ。
「その、さ、触ってもいいか///?」
「・・・まぁ、そのくらいなら別に」
ラウラはゆっくりと手を伸ばし、お腹に触れた。
優しい手つきで俺の腹筋を撫で、筋肉の割れ目をなぞるように、なまめかしく指を動かす。すごくくすぐったい。
「・・・///」ペタペタ
「あのさぁ、そろそろ・・・」
「・・・///」サスサス
「・・・ラウラ?」
「な、なんだッ///!?」
「なんだって、採寸するんじゃなかったのかい?」
「!! そ、そうだったな。すぐにやろう!」
「顔赤いけど大丈夫かい?」
「気のせいだ、問題ない///!!」
気のせいって。
君は日本人に比べて肌が白いんだから朱に染まってるのが一目瞭然で誤魔化してもすぐに分かるぞ。って言うか本当に透き通るほど白いな、でも病的なものではない健康的で自然な白さだから羨ましいよ。
あれ、昔の自分を思い出して目から汗が流れそう。
「終わったぞ」
気がついたらすでに計測は終了し、メールを誰かに送信している。
・・・悪用しようがないが、これって個人情報ってやつじゃないのかな? まぁいいか。
「終わったんだったら一緒に夕食に行くかい?」
「いいのか!?」
「悪いなんてことはないさ。で、どうする?」
「もちろん行く!」
この後、食堂について簪とラウラは顔を合わせた途端、思いっきり俺の足を踏んできた。
なんで?
009
さて、楯無との一騎打ちに敗れた一夏はそれから毎日、放課後はISの修練をつむことになった。
楯無指導のもと、まず始まったのはセシリアとシャルロットが実演者となり、射撃型ISでの基本動作と一般的な機動を学ぶ所からである。
すぐに高度な技術の指導をしようと思っていた三人だが、開始前に彼に説明をしたら話が通じず、原因を探ると彼女達が当たり前だと思っている戦闘動作に関する知識がなかったのだ。これは一夏の勉強不足と言うわけではなく、彼が我流の戦闘動作で事が済んでいたいうのがあり、先の楯無達と同じようにあれだけの射撃をこなしていながらまさか基礎を知らないなどと誰も夢にも思わなかったのもある。
因みに、箒と鈴は専用機に銃器を搭載していないので二人は声をかけてもらえなかった。
~楯無サイド~
まさか基礎をすっ飛ばして代表候補生を同等クラスなんて予想外だったわ。おかげでちょっとトレーニングメニューを変更しないといけなくなっちゃった♪
忍野くんもそうだけど一夏くんは機体性能を抜きにして、半年ほど前からISに乗り始めたとは思えないほど強い。お姉さんである織斑先生が世界最強になったことを考えると、もしかしたら織斑家にはISに対する天賦の才があるのかもしれない。
でもそれだけじゃない・・・。
彼はその才能を裏打ちするだけの努力を怠っていない。それはこの間の組み手や忍野くんとの生身での試合を観ていれば一目瞭然。
だけどその戦い方はあまりにも不可解。
彼の戦い方は我流ではあるがスキがなく、一つ一つの技は型として明確になっていて、ある種の流派としてはかなりの完成度を誇っている。
それに攻撃の際に恐怖心がないかのような踏み込みをする勇気、・・・とは違うと思うけど相手の反撃を恐れない度胸。素人がちょっとやそっとでは修得できない。
だからその境地に到るまでの過程が分からない。
今ある武芸に存在する技や型と呼ばれるものは過去の偉人達が世代を越えながら長い時間を賭けて考案し、磨き上げて完成させている。だけど一夏くんにはそれがない。
小学生時代に剣道をしていた事はハッキリしているから“ガン・カタ”を鍛え始めた時期は早くても中学に入ってから。師範が居るのならともかく我流であれだけ鍛えるのは3年では絶対に足りないはず。
それに日本は銃砲刀剣類所持等取締法(所謂“銃刀法”)という法律で許可なく武器を所持する事が禁じられている。今は持っていた大型二丁拳銃は自衛用として特別に所持が許可されているけれど、入学前は法律違反をしていた事になる。未成年だから実刑は無いにしてもいったい何が、彼をそんな人生を棒に振るようなリスクを負いながらも銃を使って強くさせたんだろう・・・。
010
~???サイド~
『ごめんなさいね。こんなミッションをさせることになって・・・』
「それは言わない約束だろ? オレが好きで引き受けたんだ。それにこの組織に居る以上は拒否権はないさ」
『そうね・・・。ミッションの成功を祈ってるわ』
「祈るより上等なワインを用意して待っていてくれ」
そう言ってからオレは電話をきる。
祈ってもらえるのは嬉しいが、日本の神はいい加減だから気休めにもならねえな。まあそれでもやらなきゃならないんだ。
「これでやっと、計画の第一段階が始まる」
あの野郎のせいで予定より半年も遅れっちまったが、結果的に短縮できたから良しとするか。
壁のコルクボードにはメモの他に二枚の写真が貼ってあり、それには別々の男が写っている。オレは片方に狙いを定め、手元にあったナイフが投げた。
「せいぜい学園祭を楽しめよ。オレに壊されるまではなあ」
ナイフが刺さり皺の走った写真の顔は憎たらしくオレを見続ける。
そんなに見つめられなくったって、すぐに直接遭いに行ってやるよ。
ご意見や誤字報告など、よろしくお願いします。