暴物語   作:戦争中毒

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ほんねコンタクト

001

 

 

さて一夏くんの居なくなった教室。

忍野くんは何をしてるかといえば、

 

「ねぇねぇ、おっし~の~」

「・・・・・・」

 

非常に困っていた。

教室に取り残された忍野の元に、一人の女子生徒が話かけてきた。背丈が非常に小柄であり、余りに余った制服の袖がとても印象的な少女。

 

 

 

~忍野サイド~

 

何なんだこの子?

俺は次の授業まで本でも読もうと思ってたらやって来た。それに合わせて周りの子が騒ぎはじめる。一体このクラスの子達は何がしたいんだろうか?

それにしてもなんだかすごーくのんびりした雰囲気の子だなぁ。

それより『おっし~の~』ってまさか、

 

「ねぇ~、おっし~の~ってば」

 

やっぱり俺のことなのかな、違うといってくれ。なんだか凡ミスを連発しそうな呼び名だよ?

 

「それは俺の事かな? えーっと」

「布仏本音だよ~、よろしく~」

「よろしく、ってそれより『おっし~の~』ってもしかして俺の事?」

「そうだよ~。忍野だからおっし~の~! わたしの自信作~!」

 

こりゃダメだ。この子の様子じゃ訂正しても無駄だな、もう何も言うまい。

それなら仕返しにピッタリな呼び名をつけてやろう!

 

「そうかい。それじゃあ俺は君を『のほほんさん』と呼ぼう」

「わぁ~い! ありがと~う!」

 

・・・喜ばれてしまった。嫌がられると思ってたんだが、まぁクラスで話のできる人ができて良かった。みんな牽制しあって誰も近づいて来ないからね。

 

あれ?

 

「そういえばのほほんさん、ご用件は?」

 

そうだよ、この子のは他の子達が互いに牽制しあてるなか、真っ先に話かけてきた。一夏の幼なじみとは違って初対面の俺に。

それに彼女が声をかけてくるまでに“誰もその行動に気付かなかった”のだ。通常では有り得ないが・・・思い過ごしか?

 

「ん~? 別にお話をしたいだけだよ~?」

 

言ってる事に違和感を感じる。なんだかこちらを探ろうとしてるような気配を感じて仕方がない。

カマをかけてみるか。

 

「ならお話をしよう。“何の答えが知りたいの”?」

「ッ!!」

 

簡単にぼろを出した、そんなんじゃスパイ行動には向いてないよ。この様子だと誰かに頼まれたんだろうな。

一応釘を刺しておくかな。

 

「“分からない問題の答えを解くため、調査をするのはいい事だ。けど、自分のためにならないから悪い事でもあるんだよ。人から頼まれた事なら尚更だ”」

「・・・・・・」

「だから普通のお話をしようか」

「・・・う、うん」

「それじゃあ・・・

 

この後授業が始まるまで世間話をしたがのほほんさんはバツの悪そうな顔をしていた。

指示した奴にあった後、この子に謝らないとな。

 

授業開始直前に篠ノ乃箒が戻って来た。何やら顔が赤いが、フラグメーカーにやられたんだろうな。

ちなみにフラグメーカーこと織斑一夏は遅刻し千冬の『ギロチン(主席簿)アタック』をうけた。アーメン。

 

 

 

 

 

~本音サイド~

 

たっちゃんひどいよ~。

 

『忍野仁くんについてちょっと探りを入れてみてね♡』

 

なんて~。それに私はかんちゃんの専属メイドなんだよ~。

でも、更識家17代当主として命令されたら断ることは出来ないし~、頑張ってみよ~かな?

 

 

 

 

ん~?

見た感じそんな怪しい人じゃないんだけどな~。なんでたっちゃんはこんな事お願いするんだろう?

織斑先生を怒らせて楽しんでるよ~に見えるのは異常だけど

 

 

 

 

 

おりむ~がどこかに行っちゃった。

これはチャ~ンス。

でもみんななんだか牽制~してるしな~。

よ~し!

 

「ねぇねぇ、おっし~の~」

 

誰にも気付かれず話かけてみたよ~。

ふっふーん、これでも対暗部用暗部“更識家”に遣えるメイドだからね~、これくらいできるのだ。

 

「・・・・・・」

 

あれ~? 返事ないよ~?

よし、もう一度。

 

「ねぇ~、おっし~の~ってば」

「それは俺の事かな? えーっと」

 

返事してくれた。たっちゃんの指示は仲良くなって情報を集めるんだっけ~?それならまずは自己紹介だ~。

 

「布仏本音だよ~、よろしく~」

「よろしく、ってそれより『おっし~の~』って 俺の事?」

「そうだよ~。忍野だからおっし~の~!」

 

ニックネーム! これは自信作なのだ~! お姉ちゃんやたっちゃんは何も言ってくれなかったけど。

 

「そうかい。それじゃあ俺は君を『のほほんさ ん』と呼ぼう」

「わぁ~い! ありがと~う!」

 

ニックネームをつけてもらえた! これだけ仲良くなれたら簡単に情報収集できそうだ。そしたらご褒美にケーキ欲しいな~。

 

「そういえばのほほんさん、ご用件は?」

 

このまま情報収集開始だ~。

 

「ん~? 別にお話をしたいだけだよ~?」

 

よーし、何から聞こうかな?まずは無難に誕生日とか聞いてそれから

 

「ならお話をしよう。“何の答えが知りたいの”?」

 

 

 

 

え?

 

彼は今なんて言った?

“何の答えが知りたいの?”

何を聞きたいのじゃなく“知りたいの”と、何の話じゃなく“答え”と聞いてきた。

 

 

「“分からない問題の答えを解くため、調査をする のはいい事だ。けど、自分のためにならないから 悪い事でもあるんだよ。人から頼まれた事なら尚更だ。”」

 

 

その時の彼からは殺気似た、しかしまったく違う異質な何かを感じた。この時私は悟った。

全て気づかれてることを。

そしてこれは警告

 

“他人の為に身を滅ぼしたいのか?”と

 

その後次の授業が始まるまで世間話をしてたけど何の話をしていたか覚えいない。此方の情報を話したわけでも、ましてや彼についての情報を手に入れたわけでもない。

本当に当たり障りのない世間話だった。

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

二時間目の休み時間。

一夏と忍野は先の授業の復習をしていた。遅刻の制裁をうけた一夏は暫く気絶していた為その間の授業内容の確認を行ってるのである。

するといきなり声をかけられた。

 

その相手は、金髪をロール状にした青い瞳の、高貴さを纏う女子だった。ちょっときつめにも思える、つりあがったその瞳でこちらを見下ろしていた。

 

「聴いてますの?お返事は?」

 

「聴いてる、どういう用件だ?」

「聞こえてるよ、どうしたんだい?」

 

一夏は彼女の方を向いて、忍野は教科書に目を落としたまま答えた。

二人の返事が気に入らなかったのか女子は一瞬だけ眉間にしわを寄せ、わざとらしさを隠さない口調で声を上げた。

 

「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、相応の態度というのがあるんではなくて?」

 

面倒な手合いが来たもんだと二人して思った。世間はISの登場で、『女尊男卑』という形になり男は下等なものとする思考が当たり前になっていた。彼女もその一人だろう。

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

「俺もだよ、どちらさまですか?」

 

「私を知らない? このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」

 

随分と高圧的な喋り方をする。しかし二人は千冬のおかげでそんな事をまったく気にせず

 

「へぇー、代表候補生か。すごいな」

「入試主席ねぇ~」

 

率直な感想をのべた。

 

「・・・二人して馬鹿にしてますの?」

 

何やら気にくわないらしく二人を睨みつけながらさらに高圧的な態度で話してきた。

 

「エリートなのはよく分かった。でもだからってそんな事言われる覚えはない」

「君がすごいのは分かるげど勉強の邪魔はダメじゃないかな?」

 

一夏は『代表候補生』が凄いのはわかるか姉が世界最強のためどうもリアクションが薄い。

忍野からすればもうじき授業がはじまるのにおさらいを邪魔する迷惑な子でしかない。しかしセシリアはそんな事気にもとめない。

 

「大体、あなた方ISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できるときいてましたが、期待外れですわね。まぁ、多少、知識はあるようですがそれもどうだか・・・」

 

「俺に何かを期待されても困るんだが」

「知識に関して文句があるなら勉強の邪魔するのはおかしくない?」

 

 

「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、ISのことでわからないことがあれば・・・、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくしは、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

セシリアは返事も聞かずに言葉を紡ぐが、

 

「あれ?俺も倒したぞ、教官」

「ああ、俺もだ」

 

 

「は・・・?」

 

二人の予想だにしない返答に思考が停止した。

そもそも二人はIS学園の入試が終わった後に入学が決まったため試験結果が知られていない。そのため彼女が、自分が唯一試験官を倒したと思っていた事も、二人が無様に負けたと想像したのも無理からぬことである。二人が言ったことがショックなのか、セシリアは驚きで目を見開いている。

そうこうしてるうちに3限目のチャイムが鳴った。

 

「っ・・・! また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

セシリアはそう言い残すと自分の席に戻っていった。

 

 

「何処へにげるんだよ」

『騒がしい娘じゃのう。』

「なんだか面倒なことになりそうだな」

 

一夏と忍野、そして影の中の忍はそれぞれ呆れながら3限目の授業にのぞむのだった。

 

 

 

 

 




のほほんさんの喋り方が安定しない。


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