001
あの後、復活した忍野。簪とラウラに注文していたパフェを食べられていてたことに涙しながら(実際は涙の“な”の字すらない)ワグナリアを後にし、IS学園への帰路についた。
・・・なぜが女の子の店員に殴られそうになったが。
「あぁー、飯食いそこねた」
「お腹すいたッス~」
千冬に殴られたダメージが原因なのか、それとも空腹が原因なのか分からないが忍野とサファイアやフラフラしながら歩いている。
「自業自得じゃない」
「忍野さん、貴方はパフェしか注文されてないでしょ?」
ごもっともな意見だ。
「腹が膨れりゃそれは食事だよ」
「あんた栄養とか考えないと病気で死ぬわよ?」
「そうだぞ嫁。いい兵士はまずバランスのよい食事からだぞ」
「いや、俺の職業《兵士》じゃないから」
「でも、食事は、ちゃんと採らないと・・・」
「と言うより、忍野くんはまともな食事してるの?」
とんでもない自論を言っている忍野だが、他の人には理解されないようだ。
当たり前ではあるが。
「先輩~、何か奢って欲しいッス~」
「騒いでた罰だ、我慢しろ」
「そんな~」
ケイシーに食べ物をねだるサファイアだが、奢ってもらう事が前提の言い方なので冷たくあしらわれてる。
「たく、そんなに腹が減ってるならサッサと帰るぞ」
千冬がお腹を空かせた忍野が可哀想になったのか、優しい目でそんな事を言うが、
「へぇー。それで本音は?」
「帰って酒を飲みたい」
「ガッカリだよ!」
単なる口実だったようだ。
そんな様子を見て苦笑いする簪たち。ラウラだけは千冬が酒を飲むことに驚いているのか、目を見開いたまま固まってしまってる。
そんな驚くことかい?
そうこうしてるうちに学園へと続く、モノレールの駅に到着。
楽しかったのか面白かったのか分からない時間を過ごし、臨海学校(先輩二人以外)に思いをはせながら学園へと帰っていく八人だった。
002
学園に帰った忍野。荷物を置きに寮に戻ると、先に戻っていた一夏が居たので、電話で話した件について詳しく聞いていた。
一通り事情を聞き終えた忍野。すると一夏はずっと気になってた事を聞いた。
「なぁ忍野、なんで俺に八九寺、迷い牛が見えなかったんだ?」
一夏が気になっていたのは、“吸血鬼性を帯びている自分が、なぜ迷い牛が見えなかった”のかだ。
以前、単なる幽霊に遭った時はちゃんと見えていたのに、今回は見えなかった理由が知りたいらしい。
「ああそれか。お前、最後に忍に“食事”させたのいつだ?」
「えーっと、10日ほど前だったかな?」
「だからだよ。いくら低級とは言っても条件固定の怪異、吸血鬼性が薄れている上に条件を満たしてないお前には見えなくて当然さ。俺だって準備してなかったら見えないし」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんさ。多分、“食事”から2日~3日くらいなら見えてたと思うぞ? まぁ、わざわざ見る必要はないだろうけどな」
一夏は忍野が“見る必要がない”と言った事に、僅かながら怒りを覚え、それをぶつけた。
「忍野。お前は可哀想だとは思わないのか? 目的地にたどり着けず、迷い続けていた八九寺をーーー」
「馬鹿かお前?」
一夏の言葉を最後まで聞かずに罵倒する忍野。その目は、呆れと憐れみの色に染まっていた。
「今回は区画整理で目的地まで続く新しい道があったから解決したんだ。むしろ今回の解決方法は異例中の異例、他の場所じゃ通用しない方法さ」
そう、今回の方法が当たり前ではなく例外。
だからもし、八九寺の生前に存在した道しかなかった場合、一夏と箒は八九寺を見捨てて帰って来るしかなかったのだ。
「それとも何か? お前は迷い牛を一人残らず目的地に送り届けようってのか? 可哀想だからって」
そんなこと出来るわけがない。
“迷い牛”という伝承がある限り迷い牛になるものは後を絶たない。そんなものを全て解決するなんて吟味するまでもなく答えが出る。
「一夏。言いたくはないが、何回か怪異を、“自分の望む形”で解決して調子に乗ってないか? もしそうなら思い出せ。望みとは違う形で解決した忍との出逢いを」
“忍との出逢い”
一夏はいきなり冷水でも被ったかのような錯覚と共に、自分の最初の怪異体験を思い出した。
誰一人として望み通りにならなかった解決方法。
「思い出したなら分かるだろ? わざわざ自分から足を踏み入れようとするな。必ずしも、自分の望む形で物事が解決するとは限らないんだから」
忍野のもっともな忠告に、何も言い返すことが出来ない一夏。
「その、悪かった」
「いや、こっちも言い過ぎた」
互いに謝る二人。
そして一夏は一つの確認をする。
「なあ、八九寺は、成仏したのか?」
「さぁね。そればかりは直に見ていてないからなんとも言えないさ。専門家としては、成仏してることを祈るよ」
部屋から出て行こうとする忍野。
しかし扉を開けたところで立ち止まり、一夏に声をかけた。
「・・・飯に行こうぜ。言い過ぎた詫びだ、奢ってやる」
「・・・なら俺は好き勝手言った詫びでお前の分を奢ってやる」
「「ククッ、アッハッハッハッハッハッ!!!」」
堪えきれず、腹を抱えて大声で笑う二人。
「「このお人好し!」」
散々笑った後の二人は、いつもの陽気な雰囲気だった。
003
箒は部屋に戻ってから、昼間の不思議な体験のことをずっと考えていた。
怪異、迷い牛となって迷い続けていた八九寺真宵という少女。そしてそんなものを知っていた一夏と忍野の事を。
(あれは夢だったのだろうか? いや、八九寺は確かに居た。やっと目的地に着いたのだ、それでいいのだ。でも・・・もう少しだけ、仲良くなれたら、話が出来れば、良かったかもしれないな)
もっと話を出来れば、もっと仲良くなれたら、そんな後悔にも似たことばかり考えていた。
(それにしても、一夏たちはいったい、どんな経験をしていたのだろうか)
考えてるうちに眠気が出てきた箒は携帯電話を机に置き、ベットに入った。
その日の深夜、誰も触れてない箒の携帯が、不自然な表示をしていた。
ピッ ピピッ
《ERROR》 《ERROR》 《ERROR》
《ERROR》 《ERROR》 《ERROR》
ピッ
《
《▶YES/NO》ピッ
15%
43%
67%
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100%
《
《
『しまりましたっ!』
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