001
~シャルロットサイド~
シャルル、改めて、シャルロット・デュノアとして学園に入ってから早3日。
男と偽ってた事にみんながどう思っているのか最初は不安だったけどみんな快く迎えてくれた。曰わく、そんなこと気にしてたら織斑先生と忍野くんの騒動を傍観できないらしい。
・・・この学園、大丈夫かな?
一夏と一緒に朝ご飯を食べていたら学食のTVのニュースが耳に入ってきた。
『本日、フランスの大手IS企業、デュノア社の社長夫妻の裁判離婚が弁護事務所を通して発表されました。妻側は会社の全権を失っており、これに対して夫の全財産の譲渡を訴えてーーー』
一夏がこっちを見てるけど僕だって知らないよ?
・・・なに、このニュース?
「忍野! これはどうゆう事だよ!?」
一夏に連れられて忍野くんの部屋を訪れました。と言っても一夏との共同部屋だけど。
「遅せぇぞ一夏。待ちくたびれたぞ」
「そんな事よりデュノア社の離婚騒動、お前がやったのか!?」
忍野くんは無理矢理叩き起こされたかの如く眠そうな、その上とてつもなく不機嫌そうな様子だ。目の焦点が合ってないし寝癖が酷い。
そして部屋中にカビ臭そうな、そして貴重そうな古書が散らばっている。
「さぁね。何でも俺に聞かないでくれ」
今から話すのは可能性だからね、っと唸るように低い声で、前置きをしてから忍野くんは話し始めた。
低血圧なのかな?
002
「今回の離婚騒動。恐らく、デュノアさんのお父さんは最初から計画してたんじゃないかな」
計画? 計画って何?
「社長の奥さん、つまり本妻はあまり誉められた人じゃないんだよ。知り合い曰わく、会社の金をかなり横領しているから是非ともカモにしたいってさ。それ以外にも黒い噂がちらほらと」
「「どんな知り合い!?」」
・・・忍野くんの方が黒い噂、たくさんありそうな気がするのは僕だけ?
「まずデュノアさんが見たって言う異国の文字の書かれた書類、そりゃ多分呪術の陣だったんだと思う。
「人為的に怪異を遣わすものさ。有名な所で悪魔の召喚に使われるあれだ。それを使って意図して百々目鬼を憑けたんだと思う」
あんな物を憑けるのになんの意味があるっていうのさ!
「百々目鬼を解決するには他人に秘密を話さなければならない。必然的に女ってことがバレるから学園に残るか、去るかしないといけない。お父さんは君が学園に残ることに賭けてたんだと思うよ」
でも、そんな事に何の意味が・・・。
「お父さんは、君の事を想ってくれてたんだよ」
「そう考えたら穴だらけの計画の説明がつく。政府と結託ではなく保護を依頼していたのなら簡単に、そして安全にIS学園に入学できる。男と言い張るくせにそれらしく見えるのはしゃべり方だけ。暗殺が目的じゃないなら暗殺術の一つも教えてないのが説明できる。そして何より専用機を与えた事。最悪、IS一機を手みやげに亡命させるつもりだったのかもね」
・・・言われてみたら、穴だらけだ。
これに気づかなかった僕って・・・。
「デュノアさんはお父さんに酷い扱いを受けたかもしれない」
・・・・・・。
「それでも、とりあえずお父さんと話をしてみたらいいかもね?」
それだけ言うと忍野くんは一夏を引きずって部屋を出て行こうとする。
「オラ、行くぞ一夏」
「な、何処へ行くんだよ!?」
「部屋から出るんだよ。これだから一夏は」
「わかった! わかったから引きずるな!」
二人が出ていき僕だけが残された。
お父さんが僕の事を想っていてくれた?
そんな訳ない、絶対ないよ。そんな事あるわけがない。
確かに暗殺の命令をしたのは本妻だけどお父さんだって僕に・・・って、あれ?
思い返してみたら特にこれと言って何かされた覚えがない? いやいやいや、そんな事ないはず!
僕を軟禁状態にしてたし会ってもくれない、そして何よりお母さんのお葬式にも出てくれなかった。
・・・でも、もし忍野くんが言った通りなら。
僕は携帯電話を取り出した。
確認のために、そして真実を知るために。
“正体がバレた時にのみ使用しろ”って渡されたお父さんの携帯番号。前はなんでプライベートの番号なんだろう、と不思議に思ったけど今はそれが淡い期待を膨らませる。
トゥルル、トゥルル
もし、本当に、僕のことを道具としてではなく、娘として想っていてくれたのなら。
カチャ
『誰だ? 取材ならお断りだぞ!』
「も、もしもし、お、お父さん?」
003
「忍野、お前嘘をついてたんだな」
部屋を出た一夏は真っ先に忍野にそう問いかけた。嘘とは勿論、百々目鬼の条件の事だ。
「そう言わないでくれないか? こっちとしても予想外だったんだからさ」
「予想外?」
「まさか人為的に百々目鬼を憑ける方法があったなんて知らなかったからね、余計な不安を与えたくなかったのさ」
忍野はふざけたりせず、真面目な口調で一夏に答える。
「シャルロットはこれで助かったのか?」
「多分ね、残った問題は第三者が介入できない些細なものさ。個人的には一つ気になる事があるけどね」
「気になる事?」
「誰がデュノアさんにそんな術式を使ったかだ」
「特定できないのか?」
「大昔に廃れた技術だからねぇ、使える術者を見つけること自体、ほぼ不可能だな。術式の現品があれば多少の可能性はあるが」
「廃れた技術?」
「ああ。調べたら古い文献に辛うじてその存在が記されてるだけ、術自体の記録はなし。今じゃ使える奴どころか、存在を知ってる奴自体いない有り様だ」
「でもなんで廃れたんだ?」
忍野は唸りながら頭を掻き、話を続けた。
「ん~、理由は多分2つ。まず術者がいなくなったんだろうな。祓い人や陰陽師は減少の一途だからねぇ。それに術の需要かな? 人を殺す術ならともかく、自白させる術ならもっと簡単なのがあるから必要性に欠けるからさ」
へぇ~、っと一夏はあまり興味のなさそうな返事をする。実際一夏は忍野みたいに専門家になりたいなんて思ってもないし、誰かを呪いたいとも思っていないからどうでもいい事なのだろう。
「そう言えば本妻の事を教えてくれた知り合いって誰だ?」
「・・・悪人で不吉で専門家。俺が嫌いな人間の1人さ」
「お前がハッキリと嫌いって言うのは珍しいな」
すると忍野はあからさまに顔をしかめた。その顔は思い出すのも嫌だと言わんばかりである。
「あいつは別さ。仕事の都合で情報を買っても半分しか提供しないしくせに大金をふんだくる。何かあれば“金を払え”ってばかり言う。あいつにどれだけ金を取られた事か! 衝突する事はあっても協力する事は絶対にない奴だ! 絶対に!!」
「そ、そうか」
忍野の説明は徐々に力強くなり、それとも共に敵意も強くなる。
興味本意で聞いたが藪蛇だったかと一夏はたじろいでしまう。普段、明確な嫌悪感を示さない忍野がこれだけ毛嫌いする相手とはいったいどんな奴なのか、っと気になるのと同時に絶対会いたくないと思う一夏であった。
004
しばらくして部屋から出て来たシャルロット。
その目は少し赤みを帯びていて涙を流していたことを物語っている。
それを見た一夏は恐る恐る、シャルロットに声をかけた。
「ど、どうだった? シャルロット」
「・・・お父さんは、ちゃんと僕の事を考えていてくれた」
「本妻だった人が僕に危害を加えないように、僕を酷い扱い方をしてたんだって。涙声で謝ってくれた」
「デュノア社の経営悪化の原因は、全て本妻だった人が悪かったみたい。好き勝手に会社のお金を使って政府役員と贅沢三昧、開発の遅れもその人が開発費を横領してたのが理由みたい」
「政府役員が関わってたってこと言うことは、フランスの第三世代開発は・・・」
「うん、このままデュノア社が請け負うんだって」
普通ならデュノア社はIS開発許可の剥奪があっただろうが、第三世代開発の遅れてる原因に政府の人間が関わってたとなればそうもいかない。
とりあえず、会社が無事なことに一安心する一夏。
「ありがとう、忍野くん。おかげで、お父さんとやり直せそうだよ」
シャルロットに笑顔を向けられるも、いつもどうり、何を考えているのかわからない笑みを返す忍野。
「俺にお礼を言うのは間違ってるが、とりあえず解決しておめでとう」
「なあ、一つ聞いていいか?」
しかし何かを思い出した一夏は爆弾を落とした。
「俺達の専用機のデータを盗めってやつは?」
一夏は開発が遅れてるのは事実だからこれだけは利益のために命令したんじゃないかと思った。
しかし言った瞬間、ピシッと背景にヒビがはいったかのようにシャルロットが笑顔のまま固まる。
「・・・お前がそんな事出来るわけ無いじゃんって、笑ってた」
「へ?」
「あぁーもー! 思い出したら腹が立ってきた! 最初から僕がデータを盗めるなんて思ってもいないって、バカにしてるの!? 確かにどうやってデータを取り出すか方法を考えたけどそれを笑うって! こっちは本気だったのに!」
どうやらまた藪を突いて蛇を出した一夏。
忍野は巻き込まれまいと、さっさと退散する。
「んじゃ、あとはよろしくな~」
「あ、待てよ忍野!」
ガシッ
「どこ行くの一夏。話はまだ終わってないよ?」
「あ、あはは」
結局、一夏は一時間以上シャルロットの愚痴を聞かされることになるが、途中からは自慢話を聞かされていた。自分のことを想っていて憎まれ役を演じた父親のことを・・・。
八九寺登場の話を考えてたら投稿するの忘れてました。
駄文で申し訳ありません。