暴物語   作:戦争中毒

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後語り

 

001

 

 

~ラウラサイド~

 

「ラウラ、強さとは何だと思う?」

 

教官にそう問われた時、私は迷わず“戦闘力”と答えた。しかし不正解だと言われた。

私には何が間違っているのか分からなかった。

 

 

けれど、その答えの一つに、強烈に出会ってしまった。

 

『強さって言うのは戦う力じゃない、意志 の強さだ』

 

・・・そう、なのか?

 

『そうさ。他人を口実にして自分の意志を すり替えてる奴はどれだけ戦う力があって も張りぼて同然、偽物だ』

 

・・・私は、偽物なのか?

 

『本物になりたいなら遠慮や我慢なんかせ ずに自分を貫き通せばいい。本当の意味で 自分の意志を持てばそれは本物だ』

 

・・・お前は強いな。

 

『強くない。俺は何もできなかった弱者だ』

 

『けど、もし今の俺が強いっていうなら、 それはーーー』

 

それは・・・?

 

『強くあろうとしているからだ』

 

強く、あろうと・・・。

 

『誰かの為に、何かの為に、そして何よりも自分の為に』

 

自分の為に・・・。

 

『守りたいんだ。全てを守れないのは分かってる。でも自分の手の届く所にいる人だけでも守りたいんだ』

 

誰かを、守る強さか・・・。

 

『だから、君も守ってみせるよ。ラウラ・ ボーデヴィッヒ』

 

言われて、私の胸は初めての衝撃に強く揺さぶれる。

早鐘を打つ心臓が教えてくれる。

ああ、そうか。これが・・・そうなのか。

 

ーーー忍野、仁。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、ときめいてしまったのだな。

 

 

 

 

002

 

 

 

「う、ぁ・・・」

 

ぼやっとした光が天井から降りているのを感じて、ラウラは目を覚ました。

消毒液の匂いから医務室なのだろうと感じた。

 

「気がついたか」

 

ラウラは声のした方に顔を向けるとそこには千冬が足を組んで座っていた。

 

「私・・・は・・・?」

「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉痛と打撲がある。しばらくは動けんだろう。無理をするな」

 

ラウラは自分の記憶の途切れに気づき、千冬に問いかけた。

 

「何が・・・起きたのですか・・・?」

 

全身に走る痛みにその顔を歪めながら、ラウラは無理をして上半身を起こす。

金と赤の瞳が真実を知りたいと千冬に問いかける。

 

「ふう・・・。一応、重要案件である上に機密事項だからな」

 

暗に口外するなと念を押し、千冬はゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「VTシステムは知ってるな?」

「はい・・・。正式名称、ヴァルキリー・トレース・システム・・・。過去のモンド・グロッソの部門受賞者、“ヴァルキリー”の動きをトレースするシステムですが、あれは・・・」

「そう、IS条約で現在どの国家・組織・企業におしても研究・開発・使用の一切が禁止されている。それがお前のISに積まれていた」

「・・・・・・」

「巧妙に隠されてはいたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志・・・いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査が入るだろう」

 

千冬の言葉を聞き、ラウラは俯いてしまった。

 

「私が・・・望んだからですね」

 

千冬はラウラが何を言わんとしたのか分かった。いや、あの姿を見たら何になろうとしていたのか理解できる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はいっ!」

 

いきなり名前を呼ばれ、ラウラは驚きも合わせて顔を上げる。身体の痛みも忘れて背筋を伸ばしているが大丈夫か?

 

「お前は誰だ?」

「わ、私は・・・、」

 

その言葉の続きが出てこない。しかしラウラは何かを思い出し、続きを答えた。

 

「今の私は誰でもありません、これからラウラ・ボーデヴィッヒになります!」

 

ラウラの言葉が予想外だったのか、千冬は一瞬、呆けた顔してから優しい笑みを浮かべた。

 

「そうか。それならたっぷり悩めよ、小娘」

 

そうラウラに言い残してから、千冬は医務室を出た。

 

 

 

003

 

 

 

 

 

「織斑先生」

 

医務室から出た千冬を廊下で待っていた人物。そこにはいつものタブレット型端末を持った山田先生がいた。

 

「VTシステムを撃退したあの刀の解析が終わりました」

「山田先生、それで何かわかりましたか?」

 

山田先生は端末に記録した解析データを読み上げた。

 

「刀のサイズと鍛え方からして鎌倉時代ごろに産まれた『野太刀』と呼ばれる種類の刀だそうです。しかし構造も使われてる素材もいたって普通の刀です。ISを斬っただなんて実際に観てなかったら信じられません。ただ・・・」

「ただ?」

「あの刀、変なんです。刀工の名が掘られていないしどれだけ調べてもいつ作られた物なのかわからないんです」

「どういうことですか?」

「柄も鞘も無いのにキレイ過ぎるんですよ。そんな状態で保管してたらどれだけ手入れしても傷やサビが出来るはずなんですが、解析機を使っても今回の戦闘で出来たらしい傷しか見つからないんです」

 

まるで使う直前に作られたかのように。

 

 

山田先生の報告を聞き終えた千冬は黙ってしまい、様々な事が頭を過ぎった。

 

なぜ自分の弟がそんな物を持っていたのか?

 

そもそも今までどこに置いていたのか?

 

どうして黒いISにはあの刀が有効だと断言できたのか?

 

(一夏に忍野、いったい何を隠しているんだ)

 

 

「織斑先生、どうされました?」

「・・・いや、なんでもない。そのデータは機密情報として保管、閲覧規制をかけておいてください」

 

千冬はそれだけ言ってから自分の部屋に戻った。

 

 

 

004

 

 

 

 

機械の部品や電子機器が至る所にちりばめられた、音を発するものがない静かな部屋。部屋中にある空中投影ディスプレイが光り、照明のついてない部屋の中を照らしている。

 

そんな部屋の中に一人、作業をしている人物がいる。童話の中から飛び出したかのようなワンピース姿にメカメカしい白ウサギの耳。

そう、彼女は篠ノ之束。そしてここは水鏡の一室である。

 

 

突然、部屋中に鳴り響く音。音源は一台の携帯電話だ。

 

「こ、この着信音はぁ!」

 

束はすぐに携帯電話をとり、耳に当てた。

 

「も、もすもす? 終日?」

『ブツッ! ツー、ツー、ツー』

 

一言も言わずに切れてしまった。

 

「わー、待って待って!」

 

束の願いが通じたのか、再度携帯電話が鳴り響いた。

 

「はーい、みんなのアイドル・篠ノ之束ここにーーー待って待って! ちーちゃん!」

『その名で呼ぶな』

「おっけぃ、ちーちゃん」

『・・・はぁ。まあいい。今日は聞きたいことがある』

「何かしらん?」

『今回の一件、お前が噛んでいるのか?』

「今回、今回・・・はて?」

『VTシステムだ』

「ちがうよ~? 私はあんな無粋な物は作らないよ。誰かを猿真似するシステムなんて作るはずないでしょ? あ、それとねあれを作った研究所、もうこの世にはないよ?」

『そうか。では、邪魔をしたな』

「いやいや、邪魔なんてとんでもない。ちーちゃんとお話できて頭スッキリ、作業効率がアップだよ!」

『・・・では、またな』

 

再び切れる電話。もう一度かかってくることはなく、再び静寂が部屋を包んだ。

 

すると千冬との通話が終わるのを待っていたかのようにクロエから通信が部屋のスピーカーから流れた。

 

『束様、研究所を破壊した無人機を補足しました』

「なら壊しちゃっていいよ。無人機ってだけならまだしも、人殺しをしてる子には消えてもらわないと」

『わかりました。“ヴァーチェ”、目標を殲滅します』

「早く帰ってきてね! 束さんお腹ペコペコだよぉ~」

 

それだけ言って彼女は通信を終えた。

 

 

「さぁてと、これはいったい何なんだろうね?」

 

誰かに問い掛けるように呟く束。彼女が見ているのはとあるカメラの拡大映像である。

 

そこには一人の男子が手ぶらで走っているが建物の柱の裏を通過した瞬間、その手には長い刀が握られていた。

一秒にも満たないその瞬間を捉えた映像が永遠と繰り返し流れている。

 

「いっくんは手品師にでもなったのかな?」

 

心にもない仮説を立てながら彼女は映像を見続けた。

 

己が知識を持ってしても理解出来ない謎を解くために。




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