001
「いやぁ~、一番手になるとは思ってなかったよ」
それぞれの試合開始位置についた忍野たち。向こうに見えるのは訓練機の『打鉄』を纏った箒と、専用機を纏ったラウラがいる。
ラウラの専用機は漆黒で右の非固定装備についている大きなカノン砲らしき物が目立つ。だが観客席の生徒達が見ているのはラウラの頭のセンサーだ。その機体デザインとドヤ顔で“高圧的な軍人”に見えるがその頭にある、うさぎの耳にも見えるセンサーのせいで“これからお遊戯会をする子供”に見えてる。
観客席から慈愛の雰囲気が漂っている。
「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」
「そんなに楽しみにしてたのかい?」
ちなみに試合開始までまだ時間があるため、忍野はアルケーの頭部を部分解除している。その横で簪は緊張しているのか青ざめた顔で黙ったままだ。
「この時を楽しみにしていたのだから一戦目でも満足だ! 貴様に勝利して、織斑一夏とも果たし合いをするのだ!」
「元気がいいねぇ、でも貴様呼びはやめてくれるかな?」
「うむ、なら何と呼べばいいのだ?」
「普通に“忍野”でいいよ」
「では忍野、果たし合いを所望する!」
「いいぜ、相手になってやる」
試合開始前にラウラのテンションは最高潮をむかえようとしている。
忍野はそんなラウラをよそに、さっきから黙ってる簪が気になったが先にラウラの隣で黙ってる箒に話し掛けた。
「それはそうと箒はボーデヴィッヒさんにタッグを申し込んだのかい?」
何気なく箒にそう質問したら、ズーンっと効果音がつきそうなほど暗い雰囲気を纏い始めた。
「・・・ペアが決まらず・・・抽選になってしまった」
「・・・その、ごめん」
箒は友達が居ないわけではないが不器用なので友達にペアのお願いができなかったようだ。
箒が答えた瞬間、観客席に嫌な沈黙が流れた。来賓もステージを見づに隣の来賓と話をしようとしてる。
忍野は気まずくなったのか簪に話し掛けた。
「え~っと、簪、大丈夫?」
「だ、大丈夫・・・打鉄弐式も万全」
「やれるか?」
「頑張る」
いささか場の雰囲気が回復したと思ったら、
「無視スルナ~!」
何やら黒いオーラを放出しながら箒が訴えてきた。ラウラも若干引いている。
忍野は箒はトラウマスイッチを押したようだ。
002
『こ、これより、忍野仁&更識簪ペア対、ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒による第一試合を開始します』
アナウンスの山田先生の声がキョドっている。どうやら箒のオーラにビビってるようだ。
しかしステージに居る者はそれぞれ武器を構え、忍野は頭部の装甲を戻した。
『試合開始!!』
「簪! 箒を任せたぞォ!!」
忍野は箒を簪に任せると一直線にラウラへと突進していった。
それを追うように続く箒だがその前に簪が立ちはだかる。
「どけ! 更識さんに用はない!!」
「あなたの相手は私・・・」
すると箒は剣を構えて、
「私は、私は、ボッチじゃなぁぁぁい!!」
簪の胸にも突き刺さる言葉とともに箒は簪に突っ込んでいった。
気のせいだろうか、箒の目尻には光ものが見えた。
「戦いってのはやっぱ白兵戦だよなァ!」
「肯定はしないが否定もしない!」
こちらは忍野とラウラ。
先ほどからバスターソードとプラズマ手刀が激しくぶつかり合っている。ラウラと戦闘を行っている忍野は荒々しい凶悪な笑顔を装甲の下に隠しながら戦いを楽しんでいるようだ。
「そろそろ体も暖まってきたし準備運動はこのくらいにするかなァ!」
「こちらは暖機も終わってないぞ?」
「ほざけよ小娘ェ!」
何合目かの鍔迫り合い。お互いの刃が火花とスパークを撒き散らしながら激しくぶつかる。
忍野はバスターソードを力任せに振り切り、ラウラはパワー負けして後ろへ飛ばされたがダメージはない。
距離が開いたのでラウラは砲撃をしようとしたが忍野が先に動いた。
アルケーのサイドアーマーのハッチが開き、
「いけよォファング!」
六機の“狼”が放たれラウラに襲いかかる。
「そんな攻撃、このシュヴァルツェア・レーゲンには効かん!」
展開したワイヤーブレードとプラズマ手刀でファングを弾き飛ばしレールカノンの砲撃で破壊していった。
「チッ ならこれならどうだァ!」
忍野はライフルモードにして射撃戦に持ち込む。
レールカノンは連射ができない以上射撃戦は不利なるがそんな事をものともしないラウラ。一発一発確実に回避しながら忍野に肉薄せんと接近する。
「うまいもんだなァ、ならコイツは避けられるかなァ?」
そう言うとアルケーが突然落下を始める。そして今までその陰に隠れていた、
多量のミサイルが飛来した。
「いい連携だ! だが甘い!!」
ラウラは驚きはしたがすぐに簪の攻撃を見抜き回避と迎撃を行おうとしたが、
「がぁ!」
迎撃をかいくぐり回避ルートを予測していたかのように次々とミサイルが命中する。
「おもしれェだろ? このミサイルはひと味違うぜェ!」
「何なんだこのミサイルは!?」
箒も簪の放ったミサイルに苦戦を強いられていた。どれだけ避けても追尾してくるのだから無理もない。
「(そろそろかな?) もう少し山嵐のミサイルを味わって欲しいけど、全ミサイル、自爆」
簪はミサイルの制御システムを起動させラウラと箒に纏わりつくミサイルを“自爆”させた。
「な、なんだ突然!?」
自分の目前に迫っていたミサイルが突然爆発して驚くラウラ。
「その大砲、いただくぜェ!」
ミサイルの爆煙に隠れるようにラウラの至近距離まで接近した忍野はバスターソードを腰に構えて斬りかかった。
「無駄だ!!」
ラウラが何かを掴むかのように片手を伸ばすと、
突然、忍野のアルケーが動かなくなった。
~一夏サイド~
試合を見ていたけど突然アルケーが動きを止めたぞ? 何遊んでるんだ、あいつ。
「忍野の奴なにやってんだ?」
「多分AICだと思うよ」
「アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略でドイツが開発してる第三世代の兵器のはずよ」
「ISに搭載されてるPICを発展させたもので対象の動きを任意で停止されることができるはずですわ」
・・・シャルルはわかるけど何で鈴とセシリアまで居るわけ?
それにしてもAICか、厄介だな。
『あの小僧、割と難儀しとるようじゃの』
「そうか? ふざけてるようにしか見えないぞ?」ボソボソ
『またあやつの悪い癖かの?』
「だろうな」
「? どうしたの一夏?」
「別に何でもないよ?」
やり過ぎなければいいけど・・・。
「コイツ、動けッてェんだよォ!」
「どうだ? この停止結界の前では手も足も出まい」
必死にラウラの停止結界から逃れようと忍野。しかしアルケーは全く動かない。忍野は諦めたかのように動くのを止めた。
「どうした? もう終わりか?」
「そうだなァ、そりじゃあァ“牙”を突き立てるとしますかなァ!」
「撃ち抜けェファング!!」
「!?」
背後からラウラを襲った衝撃。その正体は先ほど破壊したと思ってたファングの一機だ。
(残骸の中に紛れ込ませていたのか!?)
攻撃のせいで集中力が乱れてAICを維持できなくなってしまったラウラ。追撃があると身構えたが忍野は剣先をラウラに向けてるだけで何もしない。
すると忍野はオープンチャンネルでラウラに話かけた。
「おい、そろそろ本気出せよォ」
「!? 気づいていたのか!?」
「おォよ! 攻撃の詰めが甘ェし、さっきから左側の攻撃が浅ェんだよォ」
ラウラは小さく笑うと眼帯を外し閉じられていた左目を開いた。
「いいだろう。この“ヴォーダン・オージュ”を使う以上、必ず勝たせてもらう!!」
その左目は金色の輝きを放ち忍野の動きを見抜かんとしている。
「やっぱ戦いは本気じゃねェとつまらねェだろオイ!」
「そうだな・・・。そうだったな! 本気じゃないとな!」
すると忍野とラウラは武器を構え直すと、
「さァて、仕切り直しだァ!」
「いざ尋常に勝負!!」
己が勝利のために衝突した。
「やはり無理だったか・・・」
簪と箒の戦いに決着がついたようだ。
シールドエネルギー残量が0になった箒は地面に下りて悔しそうにしている。
「あなたは強い、私も危なかった」
簪の打鉄弐式もエネルギー残量が二割になっており箒の奮戦が伺える。
「忍野の援護に行かないのか?」
「・・・邪魔するなって怒られそう」
「確かに・・・」
今目の前で行われてる戦闘を見て率直な感想を述べる。
さっきから激しい音ともに黒い影と紅い影がぶつかり合っている。
・・・ここに居たら巻き込まれそうな気がした二人は冷や汗を流しながら健闘を祈りつつアリーナの隅へと移動した。
地上に下りて戦う二人。
アルケーはその機動力を生かして攻めたて、レーゲンはその攻撃をさばいてカウンターで押し返す。
ラウラはワイヤーブレードで忍野の左手を絡め取ろうと伸ばすが右手に持った大剣で切り落とす。しかしその動作を見逃さずラウラはカノン砲を発射。
レールカノンの砲弾は忍野の手からバスターソードを弾き飛ばした。
「しまったァ!?」
しかしその直後、残っていたファングの1機がレールカノンの砲口に入り、轟音とともに爆散した。
「だがこれでビットはもう無い! 終わりだ!」
ラウラはプラズマ手刀で斬りかかり、忍野はシールドで防ごうと左手を前に出した。
「はぁぁぁ! (そんな盾、切り裂いてやる!)」
ラウラはまず盾を破壊しようと、シールドに触れた瞬間、
ラウラの動きが止まった。
「なぁッ!! これは!?」
「悪ィなァ、AICはこっちにもあるんだァよォ!!」
身動きのとれないラウラに忍野は
「チョイサァ!!」
右脚のビームサーベルで斬りつけその勢いのまま身体を回転させ左脚でアリーナの外壁に蹴り飛ばした。
表示されてるレーゲンのシールドエネルギー残量は一桁になっている。
003
~ラウラサイド~
(こんなところで終わってしまうのか?)
私は薄れゆく意識のなかでそんな事を思っていた。
(私は負けられない! 負けるわけにはいかない!・・・)
ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私という個体の識別上の記号。
“遺伝子強化試験体”
人工合成された遺伝子から作られ、兵器として鉄の子宮から生まれた。教えられたのは製造者の命令を理解するための言語と闘いの知識、それを使う戦略だけだった。
戦いのためだけに作られたが同時に実験動物として利用された。私と同様に生みだされた者たちが兵器として訓練をしていたが一人、また一人と実験のために消えていった。
“ヴォーダン・オージュ”
“越界の瞳”とも呼ばれるそれが私たち遺伝子強化試験体を使った最終実験だった。疑似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは、脳への視覚信号伝達の爆発的な速度向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした、肉眼へのナノマシン移植処理。
製造者たちはこの実験が成功して初めて“実験体”から“兵器”になると言っていた。
しかし結果は失敗だ。
ヴォーダン・オージュは一般兵での適合は問題なかったが、遺伝子強化試験体である我々とは相性が悪く次々と不適合になり、処分されていった。
最後には私と姉だけが残った。
姉は私と同型の遺伝子を使用しているらしく外見が似ており、そして自我を持っていた。当時、明確な自我を持っていなかった私を気遣ってくれた人だった。今の私ならそれが優しさだと理解できる。
しかしその人も居なくなり、遂に私の番がきた。だが私は製造者達の妥協で生き残った。
『両目が無理なら一般兵同様に片目だけにしよう』
結果は同じく、本来なら使用時のみ起動させるはずのそれが、制御不能となり常時稼働状態になった失敗作になった。
製造者達は私と言う“出来損ないの成功例”を残して逮捕され、研究所は閉鎖された。
その後、軍はIS部隊に私を“他部隊からの転属”という形で入隊させた。処分されるはずだったが兵器として使えると判断されたらしい。
(こんなところで敗北するわけにはいかない! 私を生かしてくれた方のために、そして姉達の無念を晴らすために!!)
そうだ、私を正規兵にしてくれた人の為に、兵士になれなかった姉達の為に勝ち続けなければならない。それが私の恩返しであり弔いだ。
この戦いは楽しい、でも勝たなければならない。そのためには、
(力が、欲しい)
『願うか?』
誰だ?
『ーーー願うか・・・? 汝、自らの変革を望むか・・・? より強い力を欲するか・・・?』
この際誰だっていい。
言うまでもない。
比類無き最強を、唯一無二の絶対をーーー私によこせ!
『ーーー願い、聞きとどけたり・・・』
≪Vallkyrie Trace System≫
そして、私は意識を手離した。
戦闘描写の執筆に大分時間がかかりました。
バトル以外はそれなりに思いつくのに戦闘になると全然ダメです。
ご意見、ご感想お待ちしております。