暴物語   作:戦争中毒

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シャルルアイ 其ノ参

 

005

 

 

「僕の本当の名前は、シャルロット・デュノア。見ての通り女なんだ」

 

 

「・・・なんで、男のフリなんかしたんだ?」

「それは・・・・・実家の方からそうしろって・・・」

「実家って?」

「僕の父がデュノア社の社長で、その人からの直接の命令なんだよ」

 

デュノア社はISの世界シェア第三位の企業で、学園で使ってる訓練機『リヴァイブ』もこの会社のISだ。一夏にはそんな会社がこんな事をする訳がわからなかった。

 

 

「僕はね、一夏。愛人の子なんだよ」

「っ!?」

 

シャルル・・・改めて、シャルロットは淡々と語り始めた。

 

「引き取られたのが2年前。ちょうどお母さんが亡くなった時にね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程で IS適応が高いことがわかって、非公式ではあったけどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」

 

シャルロットは言いたくなかっただろう話を健気に話してくれた。 一夏もそれに応えるように黙って、 話を聞いていた。

 

「父に会ったのは2回くらい。会話は数回かな。普段は別邸で生活しているんだけど、1度だけ本邸に呼ばれてね。あの時は酷かったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれてたら、戸惑わなかったのにね。

 

「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの。

 

「原因は第三世代型の開発の遅れ。今は第三世代開発期。第二世代のリヴァイブの製造で天狗になってたデュノア社はその開発競争に乗り遅れた。

 

「そんな時“二人の男性操縦士”と“他国の第三世代と同じ技術を持つ謎の機体”が報道されたの。

 

「一夏と忍野くんの機体は現在発表されてる各国の第三世代と比較しても圧倒的能力があった。そしてイギリスが開発中の装備も持ってた。もしそのデータが手に入れば状況の打開ができると思ったみたい。

 

「僕がなぜ男装していたかというと一夏や忍野くんの専用機のデータを奪取、可能であれば二人の殺害が目的だったんだ」

 

もっとも、忍野くんには避けられてたみたいだけどね。シャルロットは乾いた笑みを浮かべながら言った。

実際、シャルロットは一夏がいる時以外には忍野を見かけたことすらないのだ。一夏に用がある時のついで程度にしか話したこともない。

 

黙って話を聞いていた一夏だが殺害命令を出されてたことに流石に口を開いた。

 

「なんで俺たちの殺害を?」

「本妻である社長夫人が女尊男卑主義でISを使える男が許せなかったみたい。最初は日本に行って二人を殺してこいって命令してきたから。その後社長からIS学園に転入して専用機のデータ奪取、可能であれば二人の殺害に命令が変更されたんだ」

「・・・よく変更されたな」

「社長である父が夫人に意見したみたい、『専用機のデータがあれば経営回復できる』って。夫人は男を見下しているけどお金になる話に関しては誰の話でも聞くんだ」

「・・・・・・」

 

一通り話し終わったらしくシャルロットは黙ってしまい。一夏も黙ってしまったがある変化に気づいた。

 

「シャル・・・ロット、それ」

「ん? あ、」

 

見るとシャルロットの左手に広がっていた“目”が次々と消えていった。一つ一つ、まるで霞のように消えていき、数分後には完全に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

006

 

 

 

シャルロットは百々目鬼の消えた左手を胸に抱くようにしながら涙をうかべている。

 

「これからどうするんだ?」

 

一夏はシャルロットに質問した。女であることや目的を明かした以上、命令の遂行は不可能だ。

 

「どうって・・・時間の問題じゃないかな。フランス政府もことの真相を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて投獄されるんじゃないかな」

「それでいいのか?」

「良いも悪いもないよ。僕には選ぶ権利がないから、仕方がないよ」

 

シャルロットは笑みを向けるがその顔はすべてを諦めている、そんな顔だった。

 

そんな顔を見た一夏は、この学園の特記事項を思い出した。

 

「・・・だったら、ここにいろ」

「え?」

「『IS学園特記事項第21、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』つまり、この学園にいれば、すくなくとも三年間は大丈夫だろ? その間に何か、シャルロットが自由になれる方法を探せはいい!」

 

シャルロットは最初、一夏が何を言ってるのかわからなかった。だけどすぐに自分を助けてくれようとしていることに気づいた。

 

「・・・ここにいていいの? 一夏を殺そうとしてたんだよ?」

「それはシャルロットの意識じゃないんだ、だからここにいていいんだ」

 

シャルロットはしばらく黙っていたけれど一夏にお礼を言った。

その時、シャルロットが浮かべた笑みは、

 

「ありがとう、一夏」

 

先ほどの諦めた顔ではない、十代の女の子らしい、屈託が無いとても柔らかい笑みだった。

 

 

 

 

 

007

 

 

「へぇ~、それが事の顛末か」

「ああ、シャルロットは学園に残るらしい」

 

夜、シャルロットが寝てから一夏は忍野に今回の事をしにきた。

 

「いいお父さんを持ってるじゃないか」

「どこがだ? 政府までグルなんだぞ」

「はぁ~、わからないならいいよ」

「?」

 

一夏は忍野が何のことを言ってるのかわからなかった。しかし忍野は語ろうとせず、はぐらかすようにする。

 

「でも一夏にしては上出来だ。学園の規則を利用してあの子の身の安全の確保。てっきりそこまで俺に聞いてくると思っていたぜ」

「忍野。もしかしてお前は気づいてたのか? “シャルル”が本当は女の子だったことに」

「さぁ、どうだろうねぇ」

 

相変わらず何を考えているのかわからない、含みのある笑い方をしている忍野。

 

 

時計を見ると日付が変わろうとしていたので一夏は部屋をあとにしようとした。その時ふと思い出したことを言った。

 

「それにしても忍野。百々目鬼って盗人だけじゃなくて“盗みをしようとしてる人”にも憑くんだな」

「そんなはずないよ? あれは盗人限定だ、未遂は含まれないぞ?」

 

「でもシャルロットの話を聞いてたけど何かを盗んだって話は無かったぞ」

 

「ちょっと待て。何も盗んでいない? 間違いないのか?」

「ん? ああ、そうだ。実際“目”も消えたから間違いないだろう?」

 

 

「・・・そうだった、忘れてたよ。いや~ごめんごめん。俺のミスだ。悪いね、引き止めちゃって」

 

忍野は頭を掻きながら謝り、一夏はそれを笑う。

 

「うっかりしてるなぁ。ま、いいか、解決したし。それじゃあ、また明日」

「おやすみ一夏」

 

そうして一夏は部屋に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「盗んでいないのに憑かれたってことは・・・」

 

一夏の去った部屋で何かを考えている忍野。その時の忍野はいつものふざけた様子はなく、

 

「調べてみる必要がありそうだな」

 

真剣な顔していた。




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