001
6月上旬、日曜日。
一夏たちは久々に五反田の家に 遊びに来ていた。たちと言っても一夏と忍だけ、鈴と忍野は都合が合わなかったのだ。
「で?」
「で?って、何がだよ?」
格ゲー対戦中にいきなりな会話フリだ。
「だから、女の園の話だよ。いい思いして んだろ?」
「してねえよ。むしろ災難続きだっつの」
何回説明すれば納得するんだ、と一夏はため息を吐いた。
彼の名前は五反田 弾。一夏の中学からの友達で三年間鈴と揃って同じクラスだから中学時代はよくつるんでいた 。
「嘘をつくな嘘を。お前のメールを見てる だけでも楽園じゃねえか。何そのヘヴン。 招待券ねえの?」
「ねえよ・・・。ってか楽園っていうけどそんなにいいものじゃねえぞ」
「はあ? 何でだよ?」
「毎日、視線地獄に耐えられるか? まるで動物園の檻にいれられた動物の気分を味わえるぞ」
「うげ・・・」
具体的な例を出すと弾は嫌そうに呻いた。
「迂闊に学園の女子に手を出せば、その女 子の国に連れられてモルモットにされてし まうぞ」
「うっ・・・。そ、それは嫌だな・・・」
「まあ、鈴が帰って来た事は驚いたよ。あ いつ中国の代表候補生になったんだぜ」
「へえ〜。あの鈴がね〜」
と弾はニヤニヤとニコニコの中間みたいな顔をしていた。
「喰らえ! ミサイルランチャー!」
「「なっ!? 卑怯だぞ忍(ちゃん)!!」」
話に盛り上がっていた二人は忍の攻撃をもろに喰らって撃墜されてしまった。
今やっているゲームはISを題材にしたゲームだ。乱闘やチーム戦などの対戦がメインだが、千人組手やサバイバルなどやり込み要素もあり大人から子供まで楽しめる作品だ。
ちなみに収録されてる機体は第二回IS世界大会モンド・グロッソを元にしてるので『我が国の機体はこんなに弱くない!』と各国から抗議され、能力調整をした『御国版』が各国で発売された。
千冬はチートと言われて収録されなかった。
一人だけ仲間外れになっちゃったね。
「お兄!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに・・・」
ドカンとドアを蹴り開けて入って来たのは弾の妹、五反田蘭。一個下の中三で有名私立女子校に通っている優等生だ。
「蘭か?久しぶりだな」
「いっ、一夏さん!? と忍ちゃん!!?」
次の瞬間、蘭は一瞬で移動して忍を抱き締めていた。
「忍ちゃんが来てたなら言いなさいよ、お兄! もー、忍ちゃん可愛い! キャー!」
その光景に弾と一夏はため息を吐いた。
蘭と鈴は忍のことが大好きで、会うたびにこのように抱き締めている。弾としては蘭の好きの度合いが一夏より忍になってるのでその点は嬉しいが、妹の先行きが不安になっている。
「忍ちゃん! 私の部屋に可愛い服あるから着てみて!」
「い、いやじゃー!」
「ほ~ら、わがまま言わない」
必死の抵抗虚しく、忍は蘭に連れていかれた。怪異の王が今では中学生の着せかえ人形。
なんとも言えないね~。
「・・・あいつ、この間服を買ってきたんだけど」
「買ってきたけど?」
「全部幼女服だったんだよ・・・、忍ちゃんくらいが着る」
「・・・・・・」
蘭の将来が本格的に心配になった二人だった。
002
現在、忍野は港に来ていた。
別に彼は釣りに来たわけではない。人と会う約束をしているからだ。
「あった、あれだな」
そこに停泊していたのは一隻のクルーザーだ。外観は白で6人乗りくらいの大きさ、船尾に船内への扉がある見た目普通の船だ。
乗り込むとそこにいた女の子がお辞儀をした。
「お待ちしておりました。忍野さま」
「やぁ、久しぶりだね。クロエ」
彼女の名前はクロエ・クロニクル。背が低くい華奢。流れるような銀色の髪を腰まである三つ編みが目を引く。
そして、目は“閉じられた”ままだ。
「どうぞ、こちらへ」
そう言うとクロエは忍野を船内に招いた。船内は中央に机があり左右にソファーがある。船用のものなので固定されており、ソファーは内装と一体化、シートベルトも付いている。
机の向こうには操舵室らしい部屋がある。
「それではしばらくお待ちください」
「うん、わかったよ。それと・・・はい、お土産」
「! ありがとうございます」
忍野を持っていた大きな袋の中から袋を取り出してクロエに渡した。
丁寧に両手で受け取ったクロエは、ほんの少し微笑みながらお辞儀をして奥の部屋に入っていった。
「それでは出港いたします」
普通に比べたら静かなエンジン音を響かせながら船は港を出た。
港を出てから30分くらいになるだろうか、忍野が外で風に当たってたいると船外スピーカーからクロエの声が聞こえてきた。
『そろそろ“潜行”しますので船内にお戻りください』
「え、潜行? 潜るの?」
忍野は慌てるように船内に戻り、扉を閉めた。すると扉の向こうで金属製の扉が閉まる音とそれがロックされる音がした。窓を見ると、窓枠の上からシャッターが下りてきて窓を塞いだ。
潜行する準備が済んだようだ。
『潜行開始します』
注水音が響き、その音が止むと波の音も聞こえなくなった。
海に潜ったのだ。船外が見えないのは残念だ。
ガコンッ
ガシャンッ
潜ってから5分ほどすると、何かにぶつかった音と何かが閉じるような音が船内に響いた。そしてその直後、大きな排水音が聞こえた。
しばらくして排水音が止むと奥からクロエが出てきた。
「到着しました、それではご案内します」
船の扉が開き外に出ると、そこは鋼鉄の部屋だった。一面が塗装された金属製で、明るい色の部屋に足音がこだました。
クロエと一緒に乗ってきたクルーザーを降りて部屋の出入り口へ向かうと
「ようこそ! 束さんの“水鏡”へ!」
まるで童話の中から出てきたかのようなワンピースにメカメカしい兎の耳のカチューシャを付けた女性が出迎えた。
篠ノ之束、ISの生み出した天災だった。
003
~一夏サイド~
「お前様! なぜ儂を見捨てた!?」
やっと蘭から解放された忍は弾の家を出た直後、俺に文句を言った。時刻は午後三時になろうとしている。
よく考えたら忍は二時間以上捕まってたのか・・・。
「お前様に儂の恐怖がわかるか!? 部屋に連れ込まれた直後、服を脱がされたのじゃぞ!? しかもその後、タンスから多量の服を取り出してカメラ片手に近寄って来るんじゃ! ヨダレを垂らしながら!」
「・・・・・・」
弾、蘭はもうダメかもしれないぞ。
そのうちやってくるかもしれない忍の貞操の危機に頭を悩ませながら俺は忍を肩車して学園への帰路についた。
「お前様、あの店に立ち寄れ」
もうじき駅に着こうかとした時、忍がそんなことを言ってきた。指差す方を見るとそこには全国チェーンのドーナツ屋、ミスタードーナツがあった。あ、100円セール中だ。
「ダメだ、今日はもう帰るんだ」
「儂はあの娘に捕まって昼食を食うておらんのじゃぞ? そのくらい良かろう?」
「お前、さっきお腹空いてないって言ってたよな?」
「なら今はおやつの時間じゃ、うってつけではないか?」
「“なら”じゃねーよ、それにあんまりお金持ってないんだからダメだ」
「・・・・・・」
おや? 静かになった。諦めたのかな?
「もしドーナツを買わぬと言うなら泣くぞ? 大声で泣くぞ? この男に誘拐されたと言うぞ? それでもいいかの、我が主様よ?」ボソボソ
「俺とお前は一蓮托生だ、もし俺が逮捕されたら二度とドーナツを食べれなくなるぞ?」ボソボソ
「・・・・・・」
「・・・・・・」
結局、見捨てたお詫びとして野口さん二人が犠牲になりました。
004
~忍野サイド~
「思ってたより小さいな」
束が何か準備するとどこかに行ってしまったので、俺はクロエに案内されて機関室に見学に来ている。
この“水鏡”はなんと潜水艦らしい。まぁ海に潜って世界中逃げていたら誰にも見つけられないな。
そして目の前にはそんな潜水艦の心臓部。車くらいの大きさの動力炉がある。
「これが永久機関なのか?」
「はい。対消滅エンジンです」
“対消滅エンジン”
物質と反物質が接触して起きる化学反応、対消滅を利用した機関だ。
質量とエネルギーは等価であるがその変換効率は非常に悪く、効率がいい化学反応“核融合”でさえ質量のうち1000分の1程度をエネルギーに変えているだけという変換効率である。それに対して、対消滅反応を起こすと質量の90%以上がエネルギーに変わる。それによって得られるエネルギー量は凄まじく、爆弾にすると1円玉サイズの対消滅で原爆の倍以上の破壊力をもつ・・・と聞いている。
「にしてもとんでもない物を作るなぁ」
「そうですね、それは同感です」
GNドライブに続いて対消滅エンジン、二つも半永久機関を作り出す束の頭はどうなってんだ?
「それで、あれが1号機の・・・」
「GNドライブですね」
対消滅エンジンの前に、両方の壁から伸びた支柱に固定されて今も光続けているGNドライブがあった。生成されたGN粒子は支柱を通って粒子タンクに貯蔵されてるようだ。モニターに沢山のタンクメーターがある。
しばらく物色していると束がやってきた。
「いや~、待たせたね! 準備できたからこっちに来て」
束に連れられて通路を歩き、研究室の前にきた。部屋に入るといくつかの発明品らしきものがあるが、それ以上に目を引くものがあった。
「ガンダム・・・」
そこに鎮座していたのは白い全身装甲にGNドライブがあった穴、額にV字アンテナがついているIS、ケルディムやアルケーと同じ番外機“ガンダム”であった。
・・・と言っても頭と胸しか見えない。コードや固定器具のせいで隠れている。それにしても頭部のコードが多いな?
「それじゃお願いね!」
おっといけない。今日はGN鉱石を“創り”に来たんだ。
「はいはい、了解したよ」
「“はい”は十回!」
「多いわ!」
「束様、そこは普通“一回”です」
クロエにツッコミ属性なんてあったっけ?
まぁいいか、そんな事よりサッサと終わらせよう。
「ショートカット! GN鉱石!!」
大きな光が生まれて、それが収縮していき光が消えるとそこにはサッカーボールくらいの大きさの石があった。
GN鉱石、GNドライブの核となる特殊鉱石だ。
「うん、何度見ても不思議だねー! 物理法則どころかいろんな法則を無視してどうやって作ってるのかな? 分解して調べたいな!」
「ハァハァ、か、勘弁してくれ・・・ゴホッ」
鉱石を回収しながら恐ろしい事を言う束だが、俺はツッコミを入れるのすら辛い有り様だ。
“ショートカット”
俺の持つ能力、言葉を具現化することができる能力を使い易くしたものだ。
どんな物でも具現化できる能力だが複雑な物になるとすぐに具現化できなくなる。この能力は具現化する物を言葉で“説明”しないといけないので複雑になればなる程“説明”が長くなり時間が掛かるのだ。
しかし、ショートカットにしたものはどれだけ複雑だろうと“一言”で具現化できるようなる。
だが、この能力は凄まじく疲れるのだ。簡単なものなら平気だが複雑なものになると疲労が大きい。一言で具現化できるようになってもそれは同じなのだ。
それゆえ極めて複雑なGN鉱石を具現化した俺は床に手をついて肩で息をしている。
「それじゃ二つ目いってみよ! 水鏡で使うには出力が低いからあと四つは欲しいね~」
「よろしくお願いします、忍野さま」
「ゴホッ、ちょ、ゴホッ、ちょと待って、ハァハァ、休憩、させて、ハァハァ」
なんとか五つのGN鉱石を具現化したが次の日寝込みました。
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