暴物語   作:戦争中毒

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クラス対抗戦 其ノ壱

 

001

 

 

あっと言う間に対抗戦当日

 

あの後、忍野が提案した“賭”を鈴は一夏に持ちかけた。一夏が二つ返事で賭にのったことに、あまりにも簡単に思惑通りになったことに鈴は少し呆れてしまった。

 

簪の専用機も機体だけは無事完成し(真宵の魔改造は全員で止めました)、武装は訓練機の物を使い出場することになった。

 

 

アリーナの客席は満席で各国の高官も観戦しに来ており、異様な熱気に包まれながら試合が始まるのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

「忍野くん」

「どうしたんだい、会長さん?」

 

廊下を歩いていた忍野は後ろから声をかけられた。振り向くとそこには更識楯無が立っていた。

 

「何処へ行くつもりかしら? お姉さん、気になるな」

「別に、ちょっと用事があってねぇ」

「試合がもうすぐ始まるのにやらないといけないような事なの?」

「ハッハー、人のプライベートにまで詮索するのかい? 趣味が悪いねぇ」

「・・・侵入者」

 

忍野のはすぐに返答しなかった。

楯無は忍野の横を通り越し、通路を塞ぐように立った。

 

「やっぱり、いったい何をするつもり?」

「ん? 普通に話して、お帰りいただくだけだよ?」

「そんなこと出来るわけないでしょ」

「なら手荒くお帰りいただくよ」

「専用機もないのに?」

「はぁあ!?」

 

そう言われて忍野は慌てて自分の首に手をやった。待機状態のチョーカーが無くなっていた。

楯無を見るとその手には探しているチョーカーがあった。

 

「いつの間に・・・」

「あとはお姉さんに任せなさい。あなたは織斑くんの応援でもしてればいいのよ?」

「そうはいかないよ、これは俺達の問題だ。会長さんこそ会場に戻りなよ」

「生徒会長として生徒であるあなたを守る義務があるのよ」

 

楯無は真剣な眼差しで忍野を見つめた。しばらく互いに無言が続き、そして忍野がため息をはいた。

 

「・・・わかったよ、降参だ。会場に戻るよ」

「わかれば宜しい、お姉さんは嬉しいわ」

「それじゃあこれを持って行ってください」

 

忍野はポケットから紙を巻いて作ったピンポン玉のような物を楯無に投げて渡した。

 

「? これは何かしら?」

「それは・・・」

 

 

 

閃光弾です

 

 

 

楯無はすぐに投げ捨てようとしたが閃光弾が炸裂した。視界が白く染まる直前、楯無は忍野が笑っているのを見た。

 

しばらくして視界が回復した楯無の手にはチョーカーが残っていた。

 

 

 

 

002

 

 

 

 

第二アリーナ第一試合。

組み合わせは鈴と一夏だ。

 

外部から来ている観客には最も気になると言える試合が始まろうとしている。

 

 

 

黒をメインに深い赤色のカラーリング、両肩にはスパイクアーマーの非固定浮遊部位を持つ中国第三世代型IS“甲龍”を身に纏った鈴とケルディムを纏った一夏は試合開始位置で合図を待っていた。

 

「ISの絶対防御は完璧じゃない。その事はちゃんと理解してるわよね?」

「勿論だ」

 

ISの絶対防御は衝撃を殺しきることが出来ず、そしてあまりにも高火力な武器だと防御を突き破って操縦者にケガを負わせてしまうのだ。

 

「全力で来い」

「もちろんよ!」

 

『これより、風鈴音、織斑一夏による第一試合を開始する』

 

 

 

『いざ尋常に、始め!!』

 

千冬の号令と共にブザーが鳴り響く

動き始めたのは両者同じタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったな」

 

忍野は試合が行われてるアリーナから遠く離れた校舎裏に来ている。遠くから聞こえてくる歓声を聴きながら試合を見れないことを残念に思い、忍野は“人払い”をすると、

 

「そろそろ出てきたらどうだい? ISを置いてきて一人になってやったんだ、挨拶くらいしなよ」

 

忍野がそう言うとあちらこちらから武装した黒ずくめの人が出てきた。数は30人、半数近くがサイレンサー付きのアサルトライフルの銃口を忍野に向ける。

 

「忍野仁だな?」

「わざわざ確認が必要なのかい? 特殊部隊さん?」

 

リーダーらしき人物が忍野に話しかけたがその声は女性だった。忍野はそのことに頭を悩ませながらふざけた口調で答えた。

 

「我々と一緒に来てもらおう。大人しく従うなら手荒な真似はしない」

「お断りするよ。ホルマリン漬けになるつもりはないからねぇ」

 

一夏と忍野は女尊男卑の団体からは疎まれてるが他の団体や組織からは喉から手が出るほど欲しい人材なのだ。二人がISを使える秘密を解明できるなら生きたままでも平然と解剖するだろうが。

 

「もう一度言う。抵抗は無意味だ、おとなしく投降しろ」

「つまらないなぁ、もう少し面白いこと言ってくれないか?」

「・・・頭は狙うなよ」

 

そう言うとリーダーは手上げ、隊員は銃を構えた。忍野を銃撃するつもりのようだが当の本人は薄笑いを浮かべてる。

 

 

「さぁて、戦争をしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

 

 

 

一方、試合会場

 

 

 

「逃がさないわよ!」

 

一夏は鈴の攻撃におされていた。

ガン・カタを仕掛けようと接近したところまでは良かったが、鈴が手にした青竜刀のような両刃の武器で斬り込んできたのだ。自身を回転させながら振られる刀は凄まじく、一回防いだだけで手が痺れてた。

 

十数回攻撃を回避してると鈴が回転を加えずに刀を振りかざしてきたので、一夏はピストルを連射して刀の軌道をズラしそのまま自分の間合いに持ち込もうとした。

 

「もらった!」

「甘いわよ一夏!! “龍咆”!」

 

接近した一夏の目の前にあった肩のアーマーがスライドして開き、中心の球体が光った瞬間、一夏は何かに“殴り”とばされた。

 

《お前様!》

《大丈夫だ、それより今のは?》

《わからん、じゃが気圧センサーに反応があった》

《気圧に? 空気砲か何か?》

《もう少しデータがあればわかるのじゃが》

 

 

「今のはジャブだからね」

 

鈴はにやりと不適な笑みを浮かべながら、再びその見えない“何か”で一夏を攻撃した。

 

 

 

 

 

「なんだあれは・・・?」

 

観客席で試合を見ていた箒がセシリアに質問した。一組の生徒は全員が同じ場所に集まり、代表候補生であるセシリアに試合解説をしてもらいながら観戦してる。

勉強熱心だね~。

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成し、その余剰で生まれる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す・・・第三世代型兵器ですわ」

 

 

 

「一夏! なんでビット使わないのよ!」

「飛ばしてもその見えない攻撃で速攻落とすだろ!」

「当たり前じゃない! そこッ!!」

「ガッ!」

 

一夏は懸命に避けるが攻撃が見えないため少しずつ、しかし確実にダメージをうけていた。

 

一方、鈴は焦っていた。

訓練機ならとっくにシールドエネルギーが底をつくほど攻撃を当ててるのに表示されるエネルギー残量はまだ半分も減ってない。さらに、

 

(なんであんなに撃ったり飛んだりしてるのにエネルギーが減らないの!?)

 

ダメージだけなら“装甲の強度”だとまだ説明できるがスラスターやビームで消費するエネルギーがないのは説明ができないのだ。

 

 

そんな間に忍による『衝撃砲』の解析が終わってしまった。

 

《お前様、あやつの武装のタネが割れたぞ》

《やっとか、一体あれは何だ?》

《あれは空間圧縮によるエネルギー衝撃波じゃ。気圧センサーに反応があったのは圧縮の影響じゃな》

《衝撃波か、防げるか?》

《儂を誰だと思うておる?》

《なら、しかけるぞ》

 

一夏はスラスターを一気に吹かして、鈴と距離をとった。

 

「そろそろ俺の番だ!」

《シールドビット展開じゃ》

 

セシリア戦同様、展開されたシールドビットが一夏を守り初めた。

鈴は突然のことに驚き、攻撃の手が止まるがクラス代表になった時にクラスメイトから聞いた情報を思い出しすぐに再開した。

 

「そのビットが噂の防御用ね!」

 

鈴はビット同士の間を狙って砲撃するがすべて防がれる。すでに忍に衝撃砲の仕掛けがバレてるため発射のタイミングも弾道軌道も読まれてしまってるからだ。

 

「悪いが、狙い撃たせてもらうぜ」

 

そう言うと一夏のライフルが上下に割れたかと思ったら下のパーツが先端部分を支点に90度、縦に回転してライフルの先に連結した。

その形は・・・

 

「「「ス、スナイパーライフル!?」」」

 

一夏の手にした武器を見た全員が驚いた。

一番驚いたのはセシリアだ。自分との試合の時も、牽制にしか使ってなかったバルカンが実は狙撃武器だったのだから。

 

「キャアッ!」

 

武器の形が変わったことに驚いて止まってしまった鈴は、一夏の射撃をうけて後ろに吹き飛ばされた。

なんとか姿勢を戻してシールドエネルギーの残量を確認して三度驚愕した。

 

「なんで一撃でこんなに減ってるのよ!?」

 

たった一撃でシールドエネルギーが三割近くも削られたからである。いくら油断して直撃をもらったにしても普通ここまで減りはしない。

 

「だって俺のIS、本来は狙撃機だぞ? このくらいの火力はあるさ」

 

一夏は忍野のISの火力を比較対象に、さも当然のように答えたが・・・

 

 

 

「「「ないよ!? ってか狙撃機で接近戦してたの!?」」」

 

 

試合を見ていた全員がツッコミをいれていた。

どうやら一夏くんは常識をその辺に捨てたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだやるのかい? 元気いいなぁ」

 

木の枝に座りながら忍野はそう呟いた。

目の前に残っているのは第二世代の量産IS『リヴァイヴ』を纏ったリーダーだけである。他の隊員たちはすでに全滅、少し離れた場所に転がっている。勿論、殺してはいない。

 

「いい加減諦めなよ。別に帰ってくれれば何も言わないからさぁ」

「ふざけるな! 男の癖に!」

「その男に、ISを使っても勝てないのに何を言ってるんだい?」

 

そうだ、今現在忍野はISを使わずに侵入者を撃退している。彼女以外はISを持っていなかったが(と言うより今回の為に男性だけの部隊にISを持った彼女を入れたようだ)、それでもろくに銃を撃つ間もなく全滅。彼女も慌ててISを起動させて攻撃したが殺すどころか怪我すら与えてない。

 

「このぉ、バケモノがぁぁぁ!!」

 

逆上した彼女はブレードを展開して斬りつけようとしたが・・・

 

「まだやるのかい? ショートカット、“八九式十五糎加農”」

 

突然目の前に現れたカノン砲の砲撃に直撃。爆風の中からISを強制解除された彼女が出てきた。

 

 

 

「これは君の国に返しとくから安心しな、って聞いてないか」

 

忍野は解除された待機状態のISを拾いながら横で気絶してる彼女にそう言った。

ふと上空を見上げるとISのようなものが飛んでるのが見えた。もっとも“普通なら見えない”くらいの高度だが。

 

「まったく、今日は千客万来だな」

 

そう言うと忍野は“人払い”を解くとアリーナの方へ走った。

 

 

 




八九式十五糎加農砲

口径は約149mm、砲身は6m近くなる日本軍が開発した第二次世界大戦中のカノン砲。沖縄戦で奮戦した。



ショートカット

『夜桜四重奏』に登場する能力の使い方。
言葉を具現化する能力、『言葉使い』が使用する。具現化するには対象を正しく言わないといけないので複雑になればなるほどすぐに具現化できない(『刀』ならすぐに具現化できるが『銃』だと内部構造から言なければならない)
そのため『ショートカット』にしていつでも使えるようにしている(スマホで使用頻度の高いアプリをホーム画面に置いとく感じ)




忍野の能力に『夜桜四重奏』から言霊使いを出しました。カノン砲は先日見ていたテレビの影響です、すいません。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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