001
「一年三組、片瀬真宵、整備科なんじゃよ!」
本音が呼んだ助っ人は忍野と簪に向けてそう名乗った。だか二人には気になることがあった。
「・・・一年生?」
「整備科って二年生からじゃなかった?」
本来、整備科は二年生になってからで一年生にはないのだ。だから真宵が“一年生”で“整備科”と名乗ったのを簪と忍野は疑問に思った。
「だから自称じゃよ?」
((自称かよ))
あっけらかんと言う真宵に二人して思わずツッコミたくなったが、とりあえず協力してくれるようなので心の中に留めた。
「それで何を手伝えばいいんじゃ?」
「あのね~、かんちゃんの機体の組み立て~」
「よかろう!」
本音に教えてもらうとすぐに作業に取りかかる真宵。
すると彼女は信じられない速度で機体の組み立てを始めた。スラスターの取り付け、ケーブルの接続、駆動系の調整と凄い勢いで組み立ていった。本音と忍野も出来る範囲で作業を手伝った。
手伝ったと言うより・・・
「ついでに改造しちゃダメ?」
「「絶対ダメ」」
「大丈夫にゃ、最高速度を三倍にするだけじゃよ」
「「どこが大丈夫なの!?」」
「ちょっとまて、何を付けようとしてる?」
「伸縮式の隠し槍じゃよ! これを相手に突き刺して高圧電流を流すにゃ」
「どこのバスターマシンですか。イナズマキックでもやれと?」
「まよちゃ~ん、何を付けてようとしてるの~?」
「ガトリングガンにゃ!」
「ビットを使う四枚羽じゃないんだから~、や~め~て~!」
暴走しそうになる真宵のブレーキ役になってた。真宵が魔改造プランを口にするたびに向こうで作業してる簪が顔を青くしてる。
作業開始からたった二時間ほどで脚部の組み立てが終わりあとは最終調整と装甲の取り付けだけとなった。他の部分はまた明日だ。
「それじゃあ、簪さん。ちょっと乗ってみてにゃ」
「わ、わかった」
「俺達、ISの組み立てしてないよな?」
「そんなことないと思うよ~、多分・・・」
真宵の作業速度は早いが暴走しそうになるのでそれを止めてばかりだったのだ。1割が作業、9割が暴走阻止。
本音もこんな事になるとは思ってなかったようでかなり疲れてる。
そんな二人をよそに、真宵は簪に合わせて駆動系の微調整をしていく。
「簪さん、違和感とかない?」
「よくわからないけど・・・たぶん、ない」
「まあ、あとは飛ばしてみてからじゃね」
そして、調整が終わった簪はISを待機状態に戻し今後の作業予定を話そうとすると、
「そんな事より簪さん! 私の作ったIS用の武器を装備して欲しいんじゃよ!」
そう言うと真宵は三人に見えるようにいくつかの設計図を空中投影ディスプレイに表示した。
「まずはこれじゃ!」
「・・・ハンマー?」
最初に見せられた画像はハンマー状の武器だが片面には突入ボルトのようなものがある。
「フッフッフッ、ただのハンマーじゃと思ったら大間違いなんじゃよ。このハンマーは相手を殴った瞬間にこの後ろにある圧力ボルトが突入して衝撃波をあたえるにゃ」
「「「それ使って大丈夫なの!?」」」
「続いてこちらにゃ!」
「薙刀か?」
次は見た目は普通の薙刀だ。長い持ち手に短刀くらいの刃がついている、変わってるところはない。
「この薙刀は光学迷彩を使っていて刃が短く見えるんじゃよ。実際の長さはこの六倍くらいにゃ」
「「「卑怯だろ!」」」
「今度はこれじゃ!」
「スピーカーに見えるよ~?」
両肩に取り付ける装備のようだが大砲とかじゃなくどう見てもスピーカーなのだ。
「これは音響兵器にゃ。黒板引っ掻き音とガラス瓶をナイフで切る音と歯医者のドリル音を混ぜたものを響かすんじゃよ!」
「「「絶対にやめて!!」」」
このあと真宵博士のユニーク武装発表会は一時間も続いた。
002
片づけが終わった忍野は一夏を迎えにアリーナへ向かっている。簪に夕食を誘そわれたため一夏を紹介しようと思ったのだ。
そしてアリーナへの通路を曲がると
「あれ? 鈴?」
「・・・忍野」
前から歩いてきたのはいつもの元気がない、目を赤くしてる鈴がいた。
「なるほどねぇ、だからあんな顔してたのか」
「うっさいわねー、誰かに言ったら怒るわよ」
「俺はそこまで無神経じゃないぞ?」
「・・・そうだったわね」
あの後、鈴は忍野を引きずって休憩所までくると何があったのか話した。口止めのつもりが愚痴を全部言ってしまい多少はいつもの調子に戻ったがまだ元気がない、弱気な姿でベンチに座ってる。
「それで? どうするんだい?」
「あいつが気づくまで許さない」
「それじゃあ、ずっとこのままだな」
「・・・そうよね、あの鈍感なら」
「ならクラス対抗戦で賭をすればいいんじゃないか?」
「賭?」
「そっ、勝った方の言う事を負けた奴が一つ聞くんだ。一夏の性格を考えれば、あいつは勝った時、なんで鈴が怒ったのか聞いてくる」
すると鈴は少し考える素振りをする。
「あいつなら確かにありそうだけど・・・。それで、その後は?」
「そしたら“約束の言葉”の意味を教えればいい、鈴が勝ったらデートにでも行って告ればいい。どっちに転んでも悪くないだろ?」
「・・・そう上手くいくかしら?」
そう言って鈴はうつむいてしまった。
「さあ? 黙っていじけるよりはよっぽど前向きだと思うが?」
「いじけてなんかいないわよ。でも、そうね」
そして鈴は突然立ち上がり、
「一夏を負かす! そして謝らせるわ!」
そう宣言した。
「デートに誘うとかじゃないんだな」
「だ、だって、さすがにそれは、恥ずかしい、と言うか・・・」
「はいはい、わかったから飯に行くぞ」
「絶対にバカにしてるでしょ!? なんか奢んなさいよ?」
「あぁ、好きな物を注文しな。奢ってやる」
そう言いながら忍野と鈴は食堂に向かった。
その時の鈴の顔は、いつもの元気いっぱいの笑顔だった。
なお、食堂についた忍野に簪が詰め寄って一緒に来た鈴のことを問いただしたとだけ述べておこう。
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