暴物語   作:戦争中毒

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しのぶルーム

 

001

 

 

クラス代表決定戦から4日。現在、二人の男子生徒はそれぞれ荷物をまとめている。

授業が終わった放課後、山田先生から

 

「織斑くん、忍野くん。お部屋のリフォームが終わりましたので本日からそちらにお引っ越ししてくださいね」

 

と言われ準備してるのだ。

けして夜逃げや退学ではありません。

 

 

 

 

「一夏、もし良ければ手伝おうか?」

「いや、いいよ。もともと一週間だけの予定だったからそんなに荷物を広げてないし」

「そ、そうか・・・」

 

一夏が荷物をまとめるのを見て何か手伝えないかと思った箒だが特に何もなかった。

彼女からしたらセシリアとの差を少しでも広げておきたいのだろうが、一夏の鈍感と自分の照れもあってこの一週間でそれ程距離が縮まったりはしなかった。

 

「それじゃ、また明日な」

「あ、あぁ、また明日」

 

荷物をまとめ終わった一夏は、自分の家に帰るかのような軽い別れを告げ、部屋を出た。

寝食供にした女の子にそれって・・・。

 

箒はふと部屋を見渡した。一夏の私物が無くなり少し広く見え、なんだか寂しさを感じる。そして一夏の使っていたベッドに目が止まった。

 

「一夏の寝ていたベッド・・・」

 

すると箒は、何か見えないものに引かれるようにゆっくりと一夏のベッドに近づい行き、ベッドに座った。そして抗いようのない力に倒されるように枕に顔をうずめた。

そして一呼吸、肺のいっぱいまで息を吸った。

 

「って、これではまるで変態ではないかぁぁぁあ!」

 

その後、引っ越しのようすを見に来た山田先生に見つかるまで箒は一夏のベッドで悶えていた。

 

 

 

 

002

 

 

 

 

さて、一夏は自分の新しい部屋に着いた。

ドアを開けて中を見たが、基本的な内装は他の部屋と同じなようで変わり映えしない。

だが一夏は部屋に入るなり、風呂場の扉を開けた。前の部屋ではユニットバスが目に映ったが、この部屋ではまず洗濯機が見え、その先にもう一つ扉が見える。もともとあったシャワールームを脱衣場兼洗濯場にしてその奥に新たに風呂場を作ったようだ。

脱衣場は広く、洗濯機があってもそれ程圧迫感を感じない。そして除湿機も設置されてるので洗濯物はここで干すことができる。

脱衣場を見終わった一夏は、改めて風呂場の扉を開いた。

風呂場は六畳ほどだが大きな湯船が目に映る。大人でも足を伸ばせるほどでゆったりできるデザイン。壁にはパネルがありどうやらブローバスなどの機能があるようだ。

 

「凄いな、風呂が楽しみになりそうだ」

 

ちなみに一夏は風呂好きである。爺くさいですね~。

今夜の風呂に想いを馳せながら荷物を片付けるために脱衣場を出た一夏。

すると、

 

「あれ、一夏はもう来てたのか」

 

忍野が荷物の入った鞄とドーナツ屋の大きな袋を持って部屋に入ってきた。

 

「ミスタードーナツを買いに行ってたのか?」

「ああ、ちょっと訳あってね。おっとそうだ」

 

すると忍野のは袋の中からドーナツの箱を一つ取り出した。

 

「ほい、一夏。おすそ分け」

「ありがとう。後で忍と食べるよ」

「んじゃ、俺は用事を済ませてくら」

 

そう言うとさっさと出て行く忍野。部屋に残された一夏はコーヒーを淹れてから影の中の忍に声をかけた。

入学してからは必ず人目があったため忍は出てこれなかったので、そのお詫びという意味を込めて一緒にドーナツを食べようと思ったのだ。

 

「お~い忍。ミスタードーナツがあるぞ~。ゴールデンチョコレートだぞ」

 

「ぱないの!」

 

可愛らしいかけ声とともに笑顔で一夏の影から登場した忍。幼女姿で白いワンピースを着た彼女はその光を放つような金髪と、透き通るような白い肌もあって現在離れした美しさで、そして人形のような可愛さもあった。

 

だが三分しか戦えないヒーローの巨大化シーンのようなポーズで出てきたため、

 

「ぐげっ!」

 

影を覗き込んでいた一夏の顔面に幼女の拳が突き刺さった。

 

「おぉー! よりどりみどりではないか!」

 

後ろで転げ回ってる一夏を完全無視してドーナツを頬張る忍。少しは気にしてあげなよ。

そうこうしてるうちに忍は一夏の分を含め、全部のドーナツを平らげてしまった。

あ、一夏くんが復活した。

 

「なにすんだよ忍!」

「お前様! 儂はこの一週間、影の中に缶詰めじゃったのじゃぞ! そのくらいのことで怒るでない」

「お前、この間人のドーナツ取ろうとしただろ!?」

「だって美味しそうだったもん!」

「だったもん、じゃない! それになんで俺の分まで喰ってるんだよ!?」

「? 何を言ってるの?」

「自覚なし!?」

 

高校生が幼女を説教してるように見えていいように振り回されてる、珍しい絵が完成した。

 

「それより、そろそろ“食事”をしないと」

 

そう言うと一夏は上着をはだける。

“食事”

吸血鬼にとっての食事はその名の通り“吸血”であるが、吸血鬼のなれの果てである忍にとっては少し違う。スキルを失った彼女は一夏以外の人間からは吸血できず、そして定期的に一夏から吸血しないと消滅してしまう。

忍にとって“吸血”は食事ではなく、輸血や栄養点滴と同意であり、欠かす事ができないのだ。

 

 

 

 

 

「いや、ドーナツを喰うた後にお前様の血は吸いとうない」

「お前、最悪だな!!」

 

・・・なのに今は嫌だと言う。

ドーナツを食べた舌を一夏の血で汚したくないようだ。一夏の血は不味いのかい?

結局、一夏が口直しとして食堂のドーナツを買ってきたら喜んで“食事”をした。

 

 

 

 

003

 

 

 

さて、時間を少し巻き戻して。

 

 

ドーナツの箱を持った忍野は、先日のお詫びをするためにのほほんさんの部屋に向かった。

え? 部屋の場所? 

クラスの子に聞きました。

 

部屋の前に着いた忍野はドアをノックした。

 

「は~いッ!?」

 

のんびりとした返事とともにキツネの格好をした本音が扉を開けたが、来客が忍野と気づくと声が詰まった。

 

「な、何か用かな~、おっし~の?」

「謝りに来たんだけど」

「へえ?」

 

「この間は怖がらせるような事を言って、ごめんなさい」

 

そう言いながら忍野のはしっかりと頭を下げ、お詫びの品としてドーナツの箱を差し出した。

 

「ちょ、ちょっと待って! 頭を上げて!」

 

突然やってきた忍野がいきなり謝ってきたので流石にパニクってるのか、本音が早口で喋っている。

するとルームメイトが心配したのか、部屋の奥から出てきた。

 

「どうしたの? 本音・・・忍野くん!?」

「あっ、かんちゃん」

「あれ? 更識さん?」

 

奥から姿を見せたのは更識簪だった。

 

 

 

 

004

 

 

 

 

とりあえず部屋に入れてもらった忍野は、改めて謝罪をした。本音も謝罪して互いに和解した。

 

「のほほんさんのルームメイトは更識さん だったんだ」

「そうだよ~。でもかんちゃんとおっし~が友達だとはね~」

「整備室が一緒だった・・・」

「二人はどういう関係なの?」

「幼なじみ・・・」

「わたしはね~、かんちゃんのメイドなの~。布仏家は代々、更識家のお手伝いさんなんだよ~」

「・・・更識さんって、いいところのお嬢さんだったんだ」

 

それからしばらく、三人はドーナツを食べながらおしゃべりをしてすごした。

そして日が沈み、夜になったころに忍野は帰ることにした。

 

「それじゃ、お休み。のほほんさん、更識さん」

「おやすみ~、おっし~の~」

「・・・・・・」

「あれ~? かんちゃん~?」

 

本音はすぐに返事を返したが簪は黙ったままだ。

 

「・・・名前」

 

「「え?」」

 

「更識って・・・呼ばないで、簪って・・・呼んで」

 

この言葉に一番驚いたのは本音だった。下の名前で呼ばせることは、更識家の女には重要な意味がある。

それなのに引っ込み思案な簪がそんな事を言うとは考えた事もない彼女は、思考が追いつかず完全に固まってしまった。

だがそんな事、知りもしない忍野は友好の証と捉えた。そして、

 

「あぁ、分かったよ。おやすみ、簪」

 

そう言うと忍野は部屋に戻って行った。

 

 

あとに残ったのは顔を真っ赤にした簪と、頭から煙を出しながら固まってるの本音だった。

 

 

 




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