ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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襲来!トキメキがちな緑のアイツ!(前編)

 転入生活11日目、放課後。今日は昨日話題になっていた外部コーチが来る日だ。

 スクールアイドルのコーチ制度とは、スクールアイドル公式の会社からコーチを1人派遣してもらってソイツに一定期間だけ練習を見てもらえる、いわば公式が展開しているサービスのこと。ただ人気のコーチはとても倍率が高く、そんな奴を指名するならば間違いなく抽選。しかも抽選に当たったとしても希望通りの日時に来てくれるとは限らず、人気コーチの場合は特に忙しいのでそのあたりはブレることが多い。

 運が左右するのは仕方ないが、そこを切り抜けられれば自分たちの実力アップに間違いなく貢献してくれるのでこの制度を利用するグループは多いらしい。そもそもスクールアイドル自体がアマチュアである都合上、コーチどころか顧問すらまともに立てられないグループも多いため、こういった知識のある大人から指導してもらう機会すら珍しい奴らもいる。そんな奴らからしたら喉から手が出るほどモノにしたい制度だろう。

 

 そんな激戦が繰り広げられる抽選をVIP待遇でパスしたのがこの蓮ノ空スクールアイドルクラブ。もちろん何のコネもないコイツらがどうにかできるはずもなく、いつも通り秋葉の仕業だ。どんな手を使ったのかは知らないが、どうやら部長の梢にすら知らせず勝手に手を回したらしい。今度は一体何を企んでいるのやら……。

 

 

「どんな人が来るのかなぁ~? 楽しみだね!」

「秋葉先生、ルリたちに何も教えてくれなかったもんね。それだけ勿体ぶるってことは、こりゃ相当凄い人が来るのではなかろうか!?」

「仮にそうだとして、そんな人気のコーチを急に呼び出せるなんて秋葉先生、一体何者なんでしょう……」

「まぁ細かいことはいいじゃん! いつもと違う練習ができそうで楽しみだよ! スキルアップし過ぎて、昨日のあたしたちとは全く別人になっちゃってるかも!」

「メタル系を倒すみたいな感じ? そりゃ中々お目にかかれない人気コーチだから、それくらい経験値をくれないと!」

 

 

 俺たち1年生組は教室の掃除を終えて部室に向かっていた。

 その道中で花帆と瑠璃乃はまだ見ぬ人気コーチに対し既に高揚感を抱いている様子。疑り深いさやかは突発的に決まった人気コーチの襲来に疑問を抱いているようだが、それが普通の反応だと思うぞ。どんな奴が来るのかは知らないけど、練習漬けの時間になってくれれば俺が出しゃばることもないし、今日こそ平穏な日々を過ごせそうだ。

 

 そんな感じで和気藹々とするコイツらの後ろを歩く俺。

 昨日に入部届を提出したことで晴れてスクールアイドルクラブの正式な部員となった。とは言ってもアドバイザー的なポジションで立ち位置は微妙なところだが、コイツらに近づける機会がより増えたと思えばそれでいい。スクールアイドル病の調査をするためには少しでもコイツらと一緒にいる必要があるからな。その作戦はまだ考えれてねぇし、コイツらがそのコーチとやらに扱かれている間に考えるか。

 

 そんな呑気な雰囲気の中で部室に到着する。

 中には既に綴理と慈がいた。

 

 

「こんにちはー!」

「こんちゃーすっ!」

「お疲れ様です。あれ、梢先輩はいらっしゃらないんですか?」

「おっ、1年生ズも来たね」

「こずはコーチの人を呼びに行ってる。生徒会室にいるんだって」

 

 

 流石に花帆ほどではないにしろ、慈と綴理からもどことなく楽しみにしていそうな雰囲気を感じる。

 俺はスクールアイドルじゃないから分からないけど、そんな気になるようなことなのかねぇ。まあこんな山奥の閉鎖空間に閉じ込められてるんだ、外部からの刺激ってのは麻薬のように効くのかもしれない。しかも相手は人気コーチだってことが秋葉から知らされているので、それを考えればテンションが上がる気持ちも何となく分かるか。

 

 

「コーチさんってどんな人かな? 美人さんかな??」

「めぐちゃんを指導するからには、超凄い実績を持ってないと許せないんだから!」

「ルリ的にはまず親しみやすいい人がいいな。変に気を遣って充電切れになる心配ないから」

「面白い人がいい」

「やはり無難に実力のある人、でしょうか。人気と言われているので心配ないと思いますけど」

 

 

 なんかすげぇハードル上げられてるぞ見知らぬコーチ。俺もスクールアイドルの指導経験はあるが、流石に本職に比べたら実力は劣ると思っている。そもそも俺は放任主義で、基本的に練習メニューもマネージャー業務も生徒に全部任せてたしな。

 だからこそ俺よりもレベルの低い指導を見せようものなら、短期間で俺の実力を思い知ったコイツらから見限られるぞ。そんな指導だったら神崎零でいいじゃんって思われないように気を付けて欲しいものだ。そう考えると、コイツらの指導のベースラインが俺になっているのって相当贅沢だな。ま、人気のコーチらしいからそこは大丈夫そうか。

 

 今日は俺の出る幕はないので、ゆったりするためにソファに深く腰を掛ける。最近は放課後も忙しかったから、たまにはこうして休ませてもらおう。

 

 

「零さん、そのくつろぎ方は人を迎える態度ではない気が……」

「っせーな。俺が指導されるわけじゃねぇんだし別にいいだろ。それに他にやることがあるから、お前らはお前らでみっちり練習してもらえ」

「零くん、日に日に態度が大きくなってるような……」

「れいって俺様? 王様?」

「本性出てきたね。元々そんな感じだったけど」

「あたしは好きだよ! 今の零クン」

「そりゃどうも」

「むぅ……」

 

 

 どうしてむくれる……。

 自分の態度が変わっているのは俺自身も気付いている。どうも自分が学生に戻ったことで精神も思春期時代に戻っているような、そんな感じ。今の俺はコイツらが同い年だから態度も過激になっているのかもしれない。μ'sの奴らと話している時と同じ感覚だ。逆にAqoursや虹ヶ先、Liellaとは俺の方が大人で立場が上のため、それ相応の大人の振る舞いってのを意識している。だからこそ対等な立場にいるコイツらに対しては余計に尊大になるのかもしれないな。

 

 そうやって自分自身の考察をしていると、梢が部室に入って来た。

 

 

「みんな揃ってるわね。コーチの方に来ていただいたわ」

「おおっ、遂に!」

「お待たせしました。どうぞお入りください」

 

 

 花帆の目が輝く。他の奴らも大なり小なり同じだ。

 梢が部屋の外で待たせているであろうコーチを呼ぶ。

 

 どんな奴なのか俺が見極めてやる。

 そして、話題のコーチが入って来る。黒髪を肩にかかるくらいまで降ろし、毛先に緑のグラデーションが入っている――――

 

 

「皆さんこんにちは! 今回指導を担当させてもらう、スクフェス事務局所属――――高咲侑です!」

 

 

「ぶぅうううううううううううううううううううううううううう!!」

 

 

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

 

 俺は噴き出すのと同時に近くにあったタオルで顔を隠した。花帆たちの目がこちらに向いているのは分かるが、ここで顔を晒すわけにはいかない。

 

 つうかどうして!! どうしてアイツがここにいる!?

 虹ヶ先スクールアイドルのマネージャーをやっていた高咲侑。実は今年で社会人1年目であり、ピカピカの新卒だ。元μ'sの絵里や希と同じくスクールアイドル公式の会社に入社したことは知っていたけど、まさかコーチ制度の一員だってことは知らなかった。

 

 そしてこの瞬間に全てを悟った。

 秋葉の奴、絶対に愉しんでるだろこの状況……。昨日の朝のあの不敵な笑みはこのことだったのかよ。

 

 俺の身体が薬で小さくなっているのは見ての通りだが、薬の副作用で自分の正体が誰かにバレるとこの身体が溶けだすというとんでもないデメリットがある。

 でもこの学校は山の中の閉鎖空間。当然俺のことを知る奴はいないので、よほどのことがない限り正体が露見することはない。

 

 しかし、秋葉の奴がその『よほど』をぶち込んできやがった。

 俺のことを知る奴だと話は別。特に侑は俺と付き合いが長いので、例え子供の姿であっても正体を悟られる危険性が高い。だから取るべき作戦は最初から顔を見られないようにすること。タオルで顔を隠したのもその意図があったからだ。

 

 

「侑さん……美人さん系、というより美少女系だぁ!」

「花帆さん、いきなり容姿で褒めるのはセクハラに近いわよ……。こほん、改めまして乙宗梢です。本日はよろしくお願いいたします」

「す、すみません! 日野下花帆ですっ! よろしくお願いします!」

「村野さやかです。よろしくお願いします」

「夕霧綴理だよ~。よろしく~」

「大沢瑠璃乃でっす! よろよろ~!」

「藤島慈です。めぐちゃんって呼んでください♪」

 

 

 今日こそは平穏に過ごせると思ったのに、どうも俺の日常は騒がしくないと気が済まないらしい。

 てか、どうすんだよこの状況。顔を見られる前にここを退散するしかないか。練習くらいコイツらだけでもなんとかなるだろうし、俺がいる必要もないしな。

 

 

「よろしくねみんな。とは言っても、みんなのことは配信で見て知ってるけどね」

「そうなんですね! あっ、実はもう1人部員がいるんです!」

「6人じゃなかったんだ。もしかしてソファで顔を隠しているあの子……? えっ、でもズボンを履いてるってことは男の子? この学校って女子高じゃなかったっけ?」

「あの子は特別編入で訳アリなんです。ほら、そんなところで蹲ってないでこっちに来なさい」

 

 

 こっそり逃げようと思ったら早速目を付けられた。

 たださっきまで尊大な態度を取っていた奴が急におとなしくなったためか、花帆たちは不思議そうな顔でこちらを見つめている。

 

 

「い、いや、俺は帰るから。急に具合悪くなった……」

「えっ、いきなりどうしたの? 借りてきた猫以上に丸くなってんじゃん」

「知るかよ。後は任せたぞ梢」

「ちょっと待って。本当に何かあったの……?」

 

 

 そりゃ簡単に逃げられねぇよな……。

 みんながこちらに近寄ってきたせいで余計に退路を断たれてしまう。未だに顔を覆ったタオルは外していないが、そんな隠密行動をとれば取るほどコイツらの疑いを更に加速させるだけだ。

 

 

「はは~ん。分かった、あんた一目惚れしたんでしょ。侑コーチにさ」

「は?」

「えぇっ!? ホント!?」

「確かに零さんのこんな女々しい姿、今まで見たことないですもんね……」

「顔、赤くなってるよ。タオルの隙間から見えてる」

「ちげぇよ!! 誰がそんな奴!!」

「なんか凄く失礼なことを言われた気がする。まるでお兄さん(あのひと)みたいな……」

 

 

 侑の奴が変に悟ったじゃねぇか。どうして顔を隠してんのにバレそうになってんだよオイ……。

 

 

「えぇいもうじれったい! るりちゃんタオル取り上げるよ! そっち引っ張って!」

「ラジャー! 申し訳ないけど必要な犠牲なんだ。恨むなよ~!」

「何が犠牲だ! つうか引っ張るな! オイ!!」

 

 

 慈と瑠璃乃がタオルを引っ張って俺から引っぺがす。

 そして、遂に俺の素顔が侑の眼前に晒された。ガキの姿になっているのですぐにいつもの俺とは結び付かないだろうが、正体バレのシグナルは赤く点灯して大きな音を立てている。

 

 侑は目の前の少年(おれ)がどんな顔をしているのかワクワクした様子で見つめていたが、俺の顔を少し眺めた後に目を丸くした。

 

 

「えっ、まさか……えぇっ!?」

「この子が7人目の部員の、神崎零クンですっ!」

「神崎、零!? えっ、ウソ!? 顔も似てる上に同姓同名!?」

「「「「「「???」」」」」」

 

 

 当然だが花帆たちは侑が何故驚いているのか分かっていない。だから何が起こっているのかと俺と侑の顔を交互に見ているが、そんな周りの反応関係なく侑は唖然とした表情で俺をじっと見つめていた。

 

 どうすんだよマジでこれ。コイツらと違って侑と俺の付き合いは長くて深い。同じ名前だってことがバレ、顔すらも似ているとなれば確信寄りの疑いを持つのも必至。絶望的な状況だけど何とか誤魔化さないといけない。事情を話したいが話すとその時点でデッドエンドなので、多少無理矢理でも別人を装うしかないか……。

 

 

「なんだよその顔、俺の顔に何かついてんのか?」

「ち、違うけど、似てるんだよ知り合いに。写真でしか見たことないけどその人の若い頃に……」

「さっき同姓同名と仰っていましたけど、まさかその知り合いの方も……?」

「うん。神崎零って名前なんだ。でもその人は社会人だから、この子と顔つきはちょっと違うけどね」

「これが噂に聞くドッペルゲンガー!? もしかしてルリたちすげー現場を目撃してる?」

「世の中には自分に似ている人が3人いると言われているものね」

 

 

 あぶねぇ、コイツらが少し話題を逸らしてくれたおかげでいきなりバレることは避けられた。まあ普通に考えて今の俺を見て同一人物なんて考えねぇよな……。

 ただ侑はそれでも俺から目を離さない。疑っていると言うよりかは驚きがまだ消えてないと言った方がいいだろうか。

 俺がいきなり消えたことは秋葉から女の子たちに通達がなされており、以後はみんなに心配をさせぬよう定期的に連絡を取り合って俺自身の生存報告はしていた。そんな中でいきなり消えた奴がよく似た子供の姿で目の前に現れたこの状況、そりゃ思考停止するのも無理はない。身の保全のために今どこにいるのかは伏せていたため、こんな山奥の学校で再開するのは思いがけない出来事だ。コイツにとってこの出会いは凄まじいイベントだろう。

 

 でも、俺にとってはチャンスだ。コイツの思考がバグっている間にさっさと練習に行かせる。それで俺から目を逸らさせることができるし、花帆たちの指導をしている間はこっちに意識も向かないだろう。

 

 

「おい、お前の目的はコイツらのコーチだろ。だったら油売ってないで早く準備したらどうだ」

「ちょっ、ちょっと!」

「いてて! なにすんだ梢!?」

「コーチの方になんて言葉遣いを……!!」

 

 

 梢に頭を鷲掴みにされ、5本の指で脳をかち割られそうなくらいの指圧を受ける。大賀美との初対面時にもこの攻撃を受けた気がする……。

 

 

「大丈夫だよ梢ちゃん。口の悪い言葉は普段から受け慣れてるから、その知り合いの人にね」

「そ、そうですか……」

「とりあえず、早速練習に行こうか。秋葉さんから事前にみんなの練習メニューは教えてもらっていて、ライブの配信も隅から隅まで観たから今日の練習メニューはもうバッチリだよ!」

「えっ、あたしたちのライブ観てくださったんですか!?」

「うん。花帆ちゃんが入学時に1週間毎日ライブをしているあの時から遡って、ね♪」

「えぇっ!? それは観ないでくださいよぉ~!? あの頃は未熟も未熟で……!!」

「あははっ。じゃあ今日の練習で成長した実力を見せてもらおっかな」

「の、望むところですっ!」

 

 

 よし、とりあえず一難は去った感じだな。このまま練習に集中してくれれば問題はない。そもそも俺が練習に付き合う義理もないし、隙を見て抜け出してやる。そしてその足で秋葉を問い詰める。そうしないと腹の虫が収まらねぇ……。

 

 みんなで外へ向かおうと部室を出ようとした際に、こっそり集団から抜けようとする。

 だが、高身長の壁に目の前を阻まれた。

 

 

「綴理……?」

「れい……」

「え゛っ……?」

 

 

 綴理は俺と同じ目線になるまで腰を折ると、自分のおでこを俺のでこに引っ付けた。

 あまりの唐突な行動に俺も固まるが、それは花帆たちも同じだ。綴理も綴理で頬を少し赤くしており、一体何を考えてのこの行動なのか全く読めない。他の奴らもコイツのいきなりの行動に目を丸くし、口を情けなく開けていた。コイツがいつも突拍子もない行動をするのはみんな知っているが、今回は男にいきなり密着するという異常行動に目を見張るものがあるようだ。

 

 少し間が空き、綴理が俺から離れる。

 

 

「熱はないみたいだね」

「あ、あぁ、そりゃな……」

「具合が悪いって言ってたけど、大丈夫そう?」

「まぁな……」

 

 

 今更あのウソを拾ったのかよ。時間差だから何の目的で密着してきたのか分からなかった。

 そして無駄に心配をかけさせた申し訳なさがあるせいか、ここから逃げるに逃げられなくなってしまう。流れで大丈夫とも言っちまったし、こんなことで思考が鈍るなんて俺もまだまだだな。でも美少女にいきなりでこを擦り付けられたら男なら誰でもビビるって。

 

 

「綴理先輩! いきなりそんなことしたらダメですよ!」

「ん? どうして?」

「どうしても何も、男性にいきなりそんな近づくなんて……」

「無神経だからね綴理は。まあ私もちょっとは心配してたけど……」

「あたしもやりたかったなぁ……」

 

 

 案の定みんなに注意されやがった。俺だったからまだ良かったけど、思春期真っ盛りの中学生があんなことをされたら間違いなく惚れただろうな。それくらい大胆な行動だ。

 

 

 そんな中、みんなの様子を見ていた侑は――――

 

 

「花帆ちゃんたち、もしかして……」

 

 

 何かを悟っていた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 結局逃げるタイミングを失って練習に参加することになった。とは言っても今日は侑がコーチをする都合上、俺は見ているだけなので下手にボロを出す危険性は少ない。また会話の中でタイムパラドックスが起こらぬよう、あまりこの姿で侑と話をしない方がいいかもな。

 

 そんな心配をよそに練習自体は問題なく進行していた。やはり虹ヶ先のマネージャーをしていた経験、大学時代に様々なグループのコーチをしていた経験、そして社会人になって本格的な指導術を学んだこともあり、アイツのコーチ力は既にプロ級だ。事前に花帆たちの練習メニューとライブの動画から、本日の指導に最適なメニューを組んでいる。アイツらもかなりやりやすそうだ。高校生のガキだったアイツがここまで成長するなんて感慨深い。

 

 ちなみに最初に侑を見た時にも言ったが、今は髪を下ろしている。流石に社会人にもなってツインテールは媚び過ぎて子供っぽいから、という理由だろうか。彼女のトレードマーク的な髪型だっただけにパっと見で誰か分からなくなりそうだが、そのおかげでガキ時代の美少女さよりも圧倒的に美人さが勝っている。その容姿の整い具合は高校時代にずっと『スクールアイドルやらないの?』と言われるくらいだったからな。

 

 そんなこんなで休憩時間。花帆たちが俺の隣に置いてあるスポーツドリンクを飲みに戻って来た。

 

 

「零クン見てくれた? やっぱり4月の頃のあたしより、今のあたしの方が断然レベルアップしてるよね!」

「その時のお前は知らねぇけど、どれだけトラウマ抱いてんだよ……。まあ今の方がそれなりになったんじゃねぇの」

「やっぱりそうだよね! 今のあたしをもっと零クンに見せてあげるから楽しみにしててね!」

「俺だけかよ。見せるのはファンだろ……」

「それはそうだけど、やっぱり零クンにも見て欲しいから……」

 

「零さんに以前アドバイスをいただいたさっきの動き、侑コーチにも褒められました」

「だろ? まあアイツの指導力は俺が鍛えたものだけど……」

「えっ、何か言いましたか?」

「いや別に。ま、せっかくコーチが来たんだ、たっぷり学ばせてもらえ」

「はい」

 

「侑コーチ、流石は虹ヶ先のマネージャーをしていたこともあって教え方が上手いわ。ダンスの技術だけではなく(わたくし)自身の指導スキルも伸びそうなくらいにね」

「楽しそうだったもんなお前。柄にもなくはしゃぎそうなくらい昂ってたぞ」

「そ、そうかしら? はしたない姿を見せてしまったわね」

「いいんじゃねぇの。楽しいんだろ?」

「ふふっ、そうね」

 

「なんか、みんなとの一体感が増した気がする」

「アイツはそういう奴だからな。みんなを1つに繋げるのが上手い。誰に似たんだか……」

「そこまであの人のことを見抜いてるんだ、れいの得意技だね」

「んなもの、指導の仕方をちょっと見れば分かるよ。その指導を受けてる奴が愉しんでるかどうかもな。今のお前の気持ちもお見通しだ」

「本当に面白いね、れいは」

 

「侑コーチってパリピ感はあるけど親しみやすくて、これだと練習中に充電切れになることなくて良きかな良きかな!」

「そりゃ僥倖なことで」

「しかもルリが気遣いし過ぎる性格だってことも分かってるみたいだし、練習もみんなに合わせて的確で、人を見る目高すぎ!」

「そうだな。ま、俺ならお前の充電をすぐ満タンに出来るけど」

「あっ、あれは忘れてくれぇ~!!」

 

「侑コーチってば、私に個人配信まで見てくれてたんだって」

「スクールアイドル大好き……っぽいもんなアイツ」

「可愛いとも言ってくれたし、めぐちゃんは褒められて伸びるタイプだからツボをしっかり押さえられてるって感じ」

「俺がそうではないと言いたげな感じだな。別に俺だって褒めてやってもいいんだぞ」

「やめろやめろ! あんたからそう言われるのは恥ずかしいし、言うなら本心で言って欲しいからね」

 

 

 休憩中なのに休むどころか俺と会話をする各々。幽霊騒動から2日経っただけだが、日常会話も含めコイツらと喋ることが増えた気がする。以前は俺を警戒していた梢や慈、一歩距離を置いていたさやかや瑠璃乃とも距離が近くなったので、俺たちの関係性の変化が見られるいい例だ。

 実はこうして女の子と対等に話すのは久しぶりだから俺も楽しかったりする。俺はいつも対等なつもりなんだけど、教師をやってると生徒の方は下手に出ることが多いからな。子供になって唯一喜べることかもしれない。

 

 ただ、そんな中で侑がまたこちらをじっと見ているので再び危険信号だ。今の会話でも少しボロが出そうになったが、流石に疑われるようなことはないはず。せっかくさっき部室で大人の俺=子供の俺という認識をシャットアウトできたので、それをぶり返させるわけにはいかない。

 

 しかし、嫌な予感は的中するもの。

 みんなが休憩のストレッチをしたり談笑をする中、1人残された俺のもとに侑がやってきて隣に腰を下ろした。

 

 花帆たちは盛り上がっているのに、俺たちの間だけ妙な静寂が支配する。何を考えて俺の隣に座ったのか。下手にこちらから話を切り出すと矛盾の隙を晒しそうなのでコイツの反応を待つことにする。

 

 

「みんなとの信頼関係が凄いね。あの子たち、多分キミのこと……」

 

 

 侑は花帆たちを眺めながら呟く。

 そして、そこで言葉を切ってこちらに目を向ける。

 

 

「キミ、いやあなたって――――お兄さん」

「…………」

「じゃない、ですよね……?」

 

 

 ギリギリ表情も態度も平静を装えたが、えげつないほど心臓の鼓動が早くなった。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 感想でも普通に予想されていましたが、その通り高咲侑のゲスト回です!
 時系列的に彼女も社会人1年目となり、いつの間にやら人気コーチと言われるくらいに成長していました。今回の花帆たちと比べるとやはりお姉さんになったって感じがします。髪も下ろしましたし(笑)


 次回は零君の正体が遂にバレてしまうのか。バレて身体が溶け主人公不在となり『新日常』の物語がこれで終わってしまうのか。来週をお待ちください!
 ていうか、零君もバレたくなかったらその特徴的な汚い口調を治した方がいいのでは……というのは内緒。




 いつもの好感度一覧は後編の後書きにて更新します。

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