ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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スクールアイドルたちの夜想曲(ノクターン)(前奏曲)

 放課後になった。

 日野下たちはたっぷり昼寝をしたおかげか眠気が吹き飛んだようで、午後の授業は俺が過去に見てきた中で一番集中していたまである。

 一応これで原因不明の寝不足に苛まれてる奴はいなくなったが、根本の問題は一切解決していない。このままだとアイツらが今晩また同じ症状になりかねないので、何かしら手を打つ必要がある。

 

 当初はその糸口を見つけられぬままだったが、大賀美の話から過去に何かあるのではないかと思い、現在部室にあった部活ノートを確認している。そのノートは歴代の部員たちの手で、当時の活動の記録や日誌が綴られている。だからその中にヒントがあるのではないか、そう思っていたのだが―――――

 

 

「んだよこれ。半分以上ただの落書き帳になってんじゃねぇか。フェスへの意気込みとかならまだしも、どうでもいい絵とか描いてやがる……」

「零クン、何してるの?」

 

 

 床に胡坐(あぐら)をかいてノートをペラペラめくっていると、後ろから日野下が手元のノートを覗き込んできた。

 

 

「お前らが罹った睡眠不足が昔からあったって聞いたから、ここのスクールアイドルの活動を振り返れば何か分かるかなぁって思ったんだけど、これ無駄足か?」

「あっ、これ!」

「何か見つけたか?」

「『漫画のおすすめリスト』だって! スクールアイドルの大先輩の中にも漫画好きな人いたんだね! 親近感わくなぁ~」

「クラブの活動について書けよ!!」

「ひゃんっ! あたしに言われてもぉ~!」

 

 

 日野下は自分が怒られたと思って涙目になる。こういう緩く(たる)んだ雰囲気の奴がいるからこのノートの品質も低くなってんじゃねぇか……?

 

 他にもスクールアイドルに関係ない話題で半分以上が埋め尽くされているため、早々にこの作業を打ち切りたくなってきた。どうでもいいページは飛ばせばいいのだが、今回の件に関する重要な内容がどこかに書かれているかと思うと安易に読み飛ばすことはできない。せっかく時間を取って確認しているのに知らず知らずのうちに見過ごすなんて本末転倒だ。

 だからこそ、どうでもいい内容でページが埋め尽くされていると余計に腹が立つ。

 

 

「つうかなんだよこの絵しかないページ。当時の部員を描いたのか? 超ヘタクソだし……」

「そうね。芸術の面で言わせてもらうと、相当評価を下げざるを得ないわ」

「乙宗……。ま、お前みたいに芸術スキルが秀でてなくても下手だって分かるけどな、この絵」

「梢センパイ……」

「なにかしら花帆さん? 微妙そうな顔をして……」

「い、いえっ! なんでもないですなんでも! ほんっっっとうになんにも!」

 

 

 日野下が何かを誤魔化そうとしている。

 もしかして乙宗の奴、意外にも絵が下手だったりするのか? あまりそうには見えないけど、そういや最初に最新の部活ノートを見た時に目が点で口が線分の謎の棒人間がいた気がする。てっきり夕霧あたりのセンスかと思ったが、まさか……?

 

 そんな余談も交えつつ、この学校のスクールアイドルの歴史を順々に遡る。

 ただ目ぼしい情報はなく、そのせいで単調作業と脳が認識し始めたのかページを捲るスピードも速くなっていた。無駄に時間が経ったせいで、その間に『DOLLCHESTRA』と『みらくらぱーく!』の面々も練習が終わったのか部室に戻ってきていた。

 

 

「神崎、まだそこに座ってたんだ」

「ずっと部活のノートを見ていたんですね」

「れいには関係ないことなのに」

「普段は気ダルそうにしてるのに、どうしてそこまで頑張れる系?」

 

「あん? つうか、逆に頑張らねぇ理由ってあんのか? 誰かを見捨てるのは相当な理由がいるけど、誰かを助けるのは理由なんていらねぇだろ」

 

 

 その瞬間、部室から音が消えた。振り向いて見上げると、全員の目線が俺に向けられていることを知る。しかも揃って口を半開きにして情けない表情をしていた。何か考え事をしているのだろう、みんな無言だ。

 

 

「んだよお前ら……。余計なこと言ってないで、練習終わったなら早く手伝え――――えっ?」

 

 

 ノートに目を戻してページを捲った瞬間、突如として見開きが真っ白なページが現れた。日野下たちも俺の様子が変わったのを見て我に返ったのか、一斉に俺の後ろからノートを覗き込む。

 ただ、白紙と思ったページの端に、小さな文字で何か書かれていることにも気が付く。

 

 

「『ごめんね』って、書いてあるね」

「これだけですけど、なんか悲しさが伝わってきますね」

「あるぇ? でもこの悲しさ、どこかで感じたことあるようなないような……?」

「昨日の夜、寝ようとしているとき」

「そうね。あの時に流れ込んできた感情と同じだわ」

「もしかして何か関係があるの? 私たちの寝不足とこれに? そんなオカルトみたいな話……」

「あるんだよ、この世には」

 

 

 俺も昔はそういうのを信じてなかったが、マジモノの幽霊を何度も見せられたら信じる信じないのレベルではなく、実在していると認識せざるを得なくなった。幽霊なのに実在してるってのもおかしな話だが、現代科学で説明できないことが自分の周りをウヨウヨしてるのがこえぇよ。

 

 話を戻すと、このページの端に書かれている一言は日野下に悲壮感を与えていた。どうやら寝ようとしていた時に抱いた感情と同じようで、それは大賀美も同じことを言っていたから個人差ではないはず。つまり、今回の現象とこのページの文言が漂わせる感情がイコールなのは何かしら結びつきがあると思って間違いないだろう。

 

 

「このページ、もう15年以上も前に書かれたものか。前後のページは特に変わったところもねぇし、この時期に何があったのか遡るのは結構骨だな。敷いて挙げるなら白紙のページと次の書き込みまで相当期間が空いてることくらいだけど、この時代のスクールアイドルに何があったんだ?」

「この当時は『スクールアイドル』という言葉は愚か、その存在すらもなかったわ。この時は『芸楽部』という名で活動していたの」

「そういやそうだったな。μ'sやA-RISEが活躍した時代がスクールアイドルの始まりって言われるほどだから、15年以上も前ってなると名もなくて当然か。実際に俺も知らなかったしな」

「あたかも見たことあるように語ってるね、あんた……」

「えっ? い、いや、ソイツらを観て『スクールアイドル』を知ったってだけで、別に当時を知ってるわけじゃないから……」

 

 

 知ってるんだけどね、まあ。

 こういう些細な言動で自分の正体を疑われかねないから注意しないと。いくらこの姿に慣れたと言っても、積み重ねてきた人生をナチュラルに改変して話すのは流石に慣れない。てか慣れたら本格的に自分は中学生になっちまいそうで、それはそれでヤダな……。

 

 

「とにかく、この時期に何が起きたのか調べる必要があるな。確か学校の資料をまとめた大倉庫があるんだっけ?」

「はい。沙知先輩に許可を取れば入れます」

「だったら行ってくるよ」

 

 

 問題のノートだけを持って立ち上がり、部室の外へ出ようとする。

 その時、日野下が声で遮って来た。

 

 

「えっ、1人で行くつもり!?」

「お前らは早く帰れ。オカルト的な話なら、もうガキの遊びじゃねぇんだよ」

「あんたもガキでしょ十分に」

「それに自分の問題を他人に押し付けるほど、ルリたち薄情じゃねーしっ!」

「でも今のうちに帰って寝た方がいいんじゃねぇのか? また夜に寝ようとすると寝付けない可能性あるだろ」

「そこまで心配してくれてるんだ、ボクたちのこと……」

「心配しなきゃ動いちゃいけねぇのか? ったく、余計なこと考えてないで来るなら勝手に来い。寝だめしておきたいなら帰れ」

 

 

 どうやら人のために動くことに対して疑問を抱いている様子。

 逆に聞きたいけどコイツらは誰かのために動いたりしないのか? これまで関わって来たスクールアイドルはお人好しばかりで見るも呆れるくらいだった。出会ってまだ1週間と少しだけどコイツらからも同じ風を感じるので、俺のやることに疑いを持つのは不思議だ。もしかしたら俺の方がおかしいのかもしれないけど。

 そういや侑に『お兄さんはお人好しの最上級』って事あるごとに言われてたな。自覚なんて全くないけども、コイツらも同じ気持ちを抱いているのかもしれない、

 

 そう考えると、日野下たちの俺のを見る目が少しずつ変わってきている。そんな感じがした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 場所を移して大倉庫。

 ここには年に数回ある文化祭で使用される小道具を始め、各部活で使用される衣装や器具が一堂に会して保管されている。それに加えて活動記録となる大会への申請書など、公的書類も生徒会室に置ききれない分はこちらに避難させてあるようだ。この蓮ノ空女学院の歴史を紐解ける資料も大量に保管されており、ここであれば昔のスクールアイドルに何があったのか分かるはず。

 

 と、当初はそう楽観視していたものの――――

 

 

「すっげぇ量だな。衣装や小道具まで入り乱れてやがる。これとかスクールアイドルのものじゃなくて他のクラブのだろ。もっと綺麗にしとけよな」

「大きい倉庫だからってみんな捨てずに次から次へとここに置いていくから、その影響でしょうね。(わたくし)たちが入部した時からこうだったから、あまり整理はされていないと思うわ」

「エリート校が聞いて呆れるな」

 

 

 クラブが残した過去の賞状やトロフィーなんかは丁寧に飾られているが、それ以外は割と乱雑に置かれている。そのため詳細な活動記録が知りたいのに容易に調べられない状況となっていた。

 とは言ってもここで引き下がるわけにはいかないので、小物が入っているダンボールをひっくり返してでも手掛かりを探すことにする。

 

 そんな中、別の場所を探していた村野が戻って来た。

 

 

「神崎さん、15年前のライブの申請書が()じられているファイルを見つけました」

「でかした。で? 目ぼしい情報はあったか?」

「どうやら当時の代は『スリーズブーケ』しか存在していなかったようで、申請書もその分しかありませんでした」

「えっ、スリブはコイツらじゃねぇのか?」

「ユニット名は代々受け継がれているんです」

「世襲制か、珍しい」

 

 

 受け継がれているからこそ、部員が足りないとユニット自体が一時的に消える可能性があるってことね。ただ逆に人数が6人を超過した場合ってどうなるんだろうか。基本は先輩後輩の2人ユニットって謎の縛りがあるため人数の割り振りが面倒になりそうだ。

 

 

「これ、当時の大会か何かの参加申請書っぽいですよ」

「だったら、その時『スリーズブーケ』で何か結果を残したってことかな?」

「参加した大会の結果は全て記録が残っているはずよ」

「そんなの全部記録してあったんだ!? すげー!」

「歴代先輩たちの勝率を赤裸々にしてやろうじゃんか!」

「めぐ、勝率計算できるんだ」

「うっさい!」

 

 

 後ろで騒いでいる奴らはさて置き、村野から渡されたファイルを開いて大会の結果を見てみる。

 

 

「『1回戦落ち』になってます。成績は振るわなかったみたいですね」

「待て、ここに参加人数が『1人』って書いてあるぞ。今も昔もこの学校のスクールアイドルは2人で1ユニットなんだよな?」

「えぇ。だから1人でも参加するなんて、よっぽどのことがない限りないことよ」

「つまり、そのよっぽどのことがあったってことだな、この当時」

「それってなんだろう……」

「この中にあるんじゃないか。記録されてれば、の話だけど」

 

 

 とっ散らかったスクールアイドルクラブの棚を隅から隅まで調べる必要がありそうだ。

 そんなこんなで7人で歴代のゴミ……じゃなかった遺物を漁り始める。こういった整理をし出すと、自分の興味の惹かれるものが出てきて思わず手が止まってしまうのは片付けあるあるだ。現に日野下や大沢は使われてない衣装や歌詞ノートに興味津々だし、真面目ちゃんの村野や乙宗まで今まで見つからなかった秘蔵のダンスの指南書を見つけて読み入っていたりする。

 

 極めつけは――――

 

 

「がおー。見て見て、『大怪獣ハスノドン』の着ぐるみだって」

「綴理先輩!? なにしてるんですかこんな時に!!」

「ふっふっふっ~。めぐちゃんの着付けは完璧なのだ!」

「めぐちゃんが綴理先輩を乗せたの!?」

「だって綴理が着たそうにしてたから」

「どう、怖い?」

「怖いと言うより可愛いですよ綴理センパイ!」

「なにをやっているのよ、もう……」

 

 

 コイツら、自分が今晩も寝不足の危機に瀕しているのを忘れてねぇだろうな……? ここまでのほほんとしているのを見ると事の重大さの程度が低く見えてしまう。まあコイツらが気にしていないのであればそれでもいいけどさ。逆に何者かの手によって睡眠不足に陥ることに感じ、ただ(うずくま)って動けないみたいなことになったら面倒だしな。

 

 馬鹿なことをやっている奴らがいる中でも調査は続くが、特に何の収穫もなく時間だけを貪り食っていく。

 スクールアイドルクラブの領域の棚はほぼほぼ調べつくし、残るはダンボールが1つだけとなった。それも相変わらずガラクタばかり入っており、もう何も残されていないと半ば諦めていた。

 

 すると、底の方に手帳が鎮座していることに気付いた。

 手に取って開くと、挟んであったと思われる学生証が落ちてきた。

 

 

「この学生証は……? 印刷が擦り切れて名前の部分が読めねぇな」

「端っこもボロボロだ。結構前の生徒さんのものかな?」

「多分な。でもどうしてこれが倉庫に……?」

 

 

 今回の件と関係があるか分からないけど、昔の遺物とあればキープして損はないはずだ。手がかりがあまりないこの状況だ、少しでも情報が欲しい。

 とは言いつつも、これからどう事態の解決に結びつけるか。このまま放っておいたらコイツらがまた睡眠障害になりかねない。ライブも近いので体調の維持は必須。ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

 そんな中、誰かの足音が聞こえてきた。物がぎっしり詰められた棚が大量に配置されているため姿は見えないが、その足音は確実に俺たち居る場所へと迫ってきている。

 オカルト系の話になってきた影響か、みんなの緊張が一気に高まる。

 

 背後に来た。俺たちは一斉に振り向く。

 

 

「およ? どうしたどうしたそんな怖い顔して」

「生徒会長……?」

「沙知先輩……」

 

 

 驚かせやがって。この大倉庫、窓も少なく照明が薄いせいで暗くてホラーな雰囲気ピッタリなんだよ。オカルト方面に話が進んでいるからなおさらそう感じる。

 

 

「もうすぐ完全下校時刻だぞ。外も暗くなってるから、キリのいいところで切り上げてはどうだい?」

「キリがいいも何も、大した収穫はなかったけどな。あったのはこのボロボロの学生証と手帳くらいだ」

「えっ、それって……!! なるほど、いい収穫だよそれは」

「どういうことだ?」

「実は生徒会業務の傍らで少し調べたんだよ。生徒会室に保管されていたとても古い書類をね。その中で判明した衝撃的な内容が1つ、驚いた」

「勿体ぶんな」

「そうだね。でも聞く覚悟はして欲しい。どうやら過去に、この学校のスクールアイドルでいたみたいなんだ。病死によって引退した部員がね」

 

 

 全員が目を見開く。

 それほど深刻な話になるとは思っていなかったので身構えておらず、いきなり押し潰されるかのようなシリアス展開に圧倒されそうになる。

 

 ただでさえ静かだった倉庫内が更に静寂に包まれる。その中で大賀美は話を続けた。

 

 

「ただ、学校側としてもこのことはあまり(おおやけ)にしたくなかったようだ。無理はない、15年以上前はまだ発展途上の学校だったからね。集客に不利な情報は口外したくないものさ。だから情報はあまり残ってないけど、生徒会室に少しだけあった。当時の『スリーズブーケ』の1人が病死して、その代のスクールアイドルクラブは解散してしまったとね」

「まさか、それがコイツだったりするのか? 名前は擦り切れてるけど、この学生証に写ってるコイツが」

「名前までは分からなかった。でもその出来事が約15年前とされている。この学校のスクールアイドルの睡眠障害が発生したのはその後から。何かあるとは思わないかい?」

 

 

 穏やかではない話になってきたな。

 もし過去の出来事とスクールアイドルたちの睡眠不足に繋がりがあるのなら、オカルトを信じるのであればまた幽霊の仕業とかその類なのか? 傍から聞いたら馬鹿馬鹿しい迷信と思うかもしれないが、俺は実際に幽霊が原因で引き起こした事件を知っている。まさか今回も……?

 

 

「そんな出来事があっただなんて、知りませんでした……」

「隠されていたみたいだからね、無理もないよ」

「でも、一体なにがあったのかな? その時に……」

「調べて出てくるかも分からないですね。これだけ調べても大した情報には辿り着けなかったので……」

「モヤモヤする。頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ……」

「ルリも苦手だ。この手のお話……」

 

 

 大賀美のおかげで話は進んだが、内心で喜んでいる奴はいないようだ。そりゃ人の不幸を聞いて歓喜するような空気じゃねぇもんな。

 進みはしたものの、ここから何をどう調べるのかは検討が付かない。唯一の手掛かりはこの手帳。後ろの方は全然書かれておらず使い切ってはいないようだが、前の方は割と日記のように色々書かれている。その中で、気になることがあった。

 

 

「手帳の中に『練習に学校の離れの練習場を使ってる』みたいなことが何回か出てくるんだけど、知ってるか?」

「学校の離れ……? もしかしたら予備の体育倉庫のことかも。昔は部活の練習場として使っていたって話を聞いたことがある。ただ何回か改装が入って、今は体育倉庫に置けなくなったものを置いておく場所になっているはずだよ」

「なるほど、だったら行くしかないか」

「えっ、今から? もう日が落ちかけてる。今から調査を始めたら確実に夜になるけど……」

「コイツらがまた苦しむかもしれないんだ! 悠長なこと言ってる場合かよ!」

「っ!? ゴメン……」

「零クン……」

 

 

 大賀美の気持ちも分かる。生徒会長としての責任があるのだろう。夜の暗い時間まで居残りさせるような規則(ルール)はないから認められないってことだ。外から断絶された学校で夜遊びできないとは言え、そこのところの常識は徹底しているらしい。

 だけどここで切り上げるわけにはいかない。コイツらが危険に晒されているのであればなおさらな。

 

 

「大賀美。夜の外出許可をくれ。その体育倉庫に行ってみる」

「キミって奴は……。うん、分かった。申請書はこっちで書いておく」

「サンキュ、助かる。お前らはどうする?」

「行く! 零クンが行くならあたしも!」

「日野下……」

 

 

 部室でこの大倉庫について来ると言った時とは違い、やたら真剣な眼差しを見せる日野下。

 そしてそれは、他の奴らも同じだった。

 

 

「そうね。後輩だけに働かせるわけにはいかないもの」

「ボクもやる。このモヤモヤを抱えたまま帰れないから」

「そうだね。スクールアイドルのことはスクールアイドルが解決しないと」

「それに、自分のことは自分でやるべきです」

「みんなで力を合わせればぜってーできるっ!」

 

 

 ぶっちゃけて言えば最悪今晩までに解決できなかったときのために寝だめして欲しかったのだが、そんなマイナス発言はらしくなかったな。コイツらが俺のことを信じてついて来てくれるなら、俺も信じてみよう。今まで、そうやって女の子たちを信頼して生きてきたわけだしな。

 

 

「なるほどねぃ。固くなってきてるね、絆が」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 大賀美と別れ、例の予備体育倉庫の前。

 日もすっかり落ちて辺りも暗い。学校から離れているため照明もなく、肝試しにちょうどいいスポットだ。

 

 

「お化けとか幽霊とか、そういった話になるならそういうのに詳しい人がいれば良かったのにね」

「オカ研とか? ウチの部活にそんなのあったっけ?」

「いるぞ。そういうのに詳しい奴って言うか、それそのものと言うべきか……。とにかく、さっき呼び寄せておいたから」

「どういうことですか?」

「見れば分かる。あっ、来たな」

 

 

 夜空に浮遊する白い影。

 それがゆらゆら揺れてこちらにやって来る。

 

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 我が愛しの男性より天国から呼ばれ、颯爽と現れ申しました! 本城(ほんじょう)愛莉(あいり)ですっ!」

 

「「「「「「…………へ?」」」」」」

 

 

 今までのシリアスな雰囲気をぶち壊す、陽気で脳カラな声が響き渡った。

 脚はなく一反木綿の様にゆらゆらと、頭に白い三角巾、そして白装束。本物の幽霊である、本城愛梨の登場。

 

 オカルトな話であれば、コイツに頼るのが手っ取り早いだろう。

 これで話が進めばいいけどな……。

 

 

To Be Continued……

 




 思ったよりこの小説に似合わぬシリアス展開になっちゃいました(笑) 定期的にこういうこともあるのでたまにはということで……

 本筋の話もそうですが、花帆たちが零君に向ける目線や気持ちの変化も同時に見届けていただければと思います。むしろ今回の長編をやる目的はそっちなので(笑)

 そして、最後に久々に幽霊ちゃん登場。最後に登場したのが2022年5月なので、ほぼ2年ぶりと考えると時の進みって怖い……
 彼女の活躍は以下のエピソードをどうぞ!

《Aqours編》
Aqours vs 淫乱幽霊ちゃん(前編)
Aqours vs 淫乱幽霊ちゃん(後編)

《スクフェス編》
淫乱幽霊再降臨!

《Liella編》
性なる夜と性なる幽霊(前編)
性なる夜と性なる幽霊(後編)



 いつもの好感度表は長編が終わり次第まとめて更新します。

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