ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 スリーズブーケ回。

 先日のアンケで蓮ノ空の設定を知らない方が多いとお見受けしたので、ちょくちょく設定説明を織り交ぜながら話を展開する予定です。
 他と比べてこのシリーズ特有の設定が多いため、説明がちょい長くなってしまうのはご了承ください。


大好きな同級生、疑惑の後輩

 スクールアイドルの女の子にだけ発症するという謎の病気『スクールアイドル病』を調査するため、俺は蓮ノ空女学院に強制的に生徒として転入させられた。

 大人である俺が高校生として転入できたのは、秋葉によって就寝中に無理矢理クスリを投与され、その影響で身体が小学校高学年~中学1年生くらいのまだ成長期に入ってない背丈にされたからだ。しかも自分の正体がバレると副作用により身体が溶けるという罰ゲーム付き。そんな意図しないデッド・オア・アライブの学校生活を送るハメとなっていた。

 

 スクールアイドル病とはスクールアイドル子の身体のどこかに傷のようなものが入り、ある時を境に本人の自覚なしにその傷が身体全体に広がって――――その後はお察し。

 本人がその傷を視認することはできず、他の誰であろうとも確認することはできない。そして本人がその病状を知った瞬間、その傷は瞬く間に全身に広がってしまう。

 そんな中、唯一その傷を視認して尚且つ治せるのが俺らしい。どういう理屈なのか、どういう治療の原理なのかはさっぱりだけど、どうやら俺の指で触れれば傷は塞がるようだ。あまりに都合の良すぎる展開で秋葉が自ら仕込んだ自作自演なのではと疑ってしまうが、アイツもアイツでそれなりに深刻だったので恐らくヤラセではないのだろう。

 

 ちなみにその傷のある場所が厄介で、まず服を着ている状態で見える部位にはないらしい。だとしたら俺にしか視認できない都合上その本人を脱がすしか確かめるすべはなく、最悪胸部や女の子の大切なところにある……なんて可能性もある。

 

 そんな事情があるからこそ学校生活でまずやることはその本人に接触し、裸を見ても良い関係を築くことが最優先。

 実際に昨日が転入初日だったのだが、既にスクールアイドルクラブの子たちと出会い、、仮入部として手伝いのポジションに就いた。初日としては上出来の動きだろう。

 

 そんなわけで、今日は人生二度目の学校生活の2日目。

 蓮ノ空のスクールアイドルはグループよりも2人1組のユニットで活動することが多く、練習も全体より2人でやることが多いらしいので、とりあえずそっちの練習にお邪魔することになった。

 

 今日は同級生である日野下花帆と、先輩(本来俺の方が歳上だが)の乙宗梢のユニットである『スリーズブーケ』の練習を観に行く予定だ。

 予定とは言ってももう練習場である中庭には到着している。日野下が乙宗に大声で何やら嬉しそうに話しており、乙宗も困った顔をしながらその話を聞いているのでこっちには気付いてないようだ。

 

 

「零クンってば凄いんですよ!」

「あなた、昨日からずっと神崎君の話ばかりね……。しかも凄い凄いって、一体何が凄いのかしら……?」

「今日クラスメイトの子が財布を落としちゃって困ってたんですけど、その時の状況や通ってきた場所を聞いただけで財布の場所を探し当てちゃったり、英語がペラペラで帰国子女の瑠璃乃ちゃんが困るほどだったり、体育で膝を擦りむいた子の応急処置を的確にしたり、もうカッコよくてカッコよくて!」

「随分と目立っているのね、彼……」

 

 

 2人の会話が聞こえてくる。

 別に目立とうと思っていたわけではない。転入2日目にして俺を目立たせようとするイベントが発生することが悪いんだよ。昨日もう少し自分を抑えめにすると決めたばかりなのにな。

 つうか何かあるたびに日野下が俺を頼ったり期待してくるせいで、コイツ自身がクラスカーストが高いせいか必然的にこっちが目立たされてしまう。迷惑な話だよ全く。

 

 ちなみに大沢の英語力はカタカナ語レベルだったので、俺が目立つどころか誰でも勝てると思うぞ。

 

 そして、日野下はまだ俺の話を続けようとしていた。

 このまま顔を出さないと無限に俺の話をし続けて乙宗が枯れそうなので、彼女を救うためにも割って入ることにする。

 

 

「よぉ」

「あっ、零クン! やっと来た!」

「20分も遅刻よ。どこで何をやっていたの?」

「元気のない猫が校内に迷い込んでどうしたらいいのか悩んでいた女の子たちがいたから、猫を保護しがてら世話の方法を教えてた」

「なんだか、昨日から問題ばかり起きているようだけど気のせいかしら……」

 

 

 そんなの俺が知るかっての。つうか前からそうじゃなかったとしたら、まるで俺が問題を引き寄せてるみたいじゃねぇか。転入早々トラブルメーカーのレッテルを貼られるなんてゴメンだぞ。

 

 

「今日はあたしたちの練習を見てくれるんだよね! 零クンに見てもらえるなんてテンション上がっちゃうよ~♪」

「自分で言うのもアレだけど、そんな俺を信用していいのかよ」

「信用する……? 零クンって疑われるようなことしてるの?」

「いやそんなことはねぇけどさ……」

 

 

 嘘だ。正体を隠して転入してます、なんて言えねぇ。言ったら俺の身体がここで終わっちまうしな……。

 にしても、コイツはそんな俺ですら疑わない。出会った時から目を輝かせて何かと俺の周りをうろちょろしてたし、もしかして俺に気でもあるんじゃないかと逆にこっちが疑ってしまう。コイツって単純だから表も裏もウソも偽りもなさそうだしな。

 

 でも、初日からそうやって気にかけてくれたことでクラスにすぐ馴染めたのは事実。こうしてスクールアイドルクラブにも簡単に潜入できたし、コイツの存在こそすんなりと事が進んでいる最大の要因でもあるだろう。

 

 

「えぇ~っ!? やっぱりあたしがおかしいの!?」

「おかしくはないのだけれど、突然女子高にやってきた男の子をそう簡単に信用できるかと言われたらそうではないと思うから」

「乙宗の言う通りだ」

「乙宗せ・ん・ぱ・い……ね。服の着崩しも口調もそうだけど、その不良っぽさを改めて普通にしていれば多少は信用してもらえると思うわよ?」

「これが素なんでね。着飾った方が不自然になって余計に疑われる」

 

 

 日野下からは超好意的に見られているが、乙宗はまだまだ俺のことを信頼には遠い存在だと認識されていないようだ。だからこうして練習に参加させることで見極めようとしているのかもしれない。

 そりゃまぁ、女子高に来る男を信頼しろって方が難しいわな。だからこそ俺も昨日は自分の実力の一端を示したし、今日からも練習を見てやることで何かしらアドバイスをして部に貢献しようとしている。日野下みたいにいきなり好感度が高い奴なんて特殊で、やっぱり信頼ってのは積み重ねなんだなって思うよ。

 

 そんな会話をしつつ、ようやくスリーズブーケの練習が開始される。

 先輩の乙宗が後輩の日野下を指導。改善するところは指摘し、できているところは褒める飴と鞭を上手く利用しており、後輩の指導方法としてはお手本と言ってもいい。日野下も無邪気に楽しそうにしているので、この関係性すらもお手本のような先輩後輩関係で見ていて安心できる。

 

 俺は近くのベンチに腰を掛け、練習を見ながらもコイツらについてもっと調べてみることにした。

 昨日は転入初日で疲れてすぐ寝ちゃったから調べられてなかったんだよな。

 

 スマホから『スクールアイドルコネクト』、略して『スクコネ』のアプリを開く。

 スクコネはスクールアイドルのため、そしてスクールアイドルを応援する者のために作成されたアプリで、スクールアイドル本人はここから動画を上げたり配信をしたり、応援する者は動画や配信の閲覧やコメント投稿、ギフトを送ったりなど推しの支援ができる。まさにスクールアイドルってコンテンツのためだけにあるアプリだ。

 昨年度まで指導していたLiellaも使用していた影響で、俺の携帯にもインストール済みである。あまり使用したことはなかったのだが、今思えばこれを使えば昨日わざわざこの学校のスクールアイドルが誰かなんて疑問に思うこともなかったな。

 

 そのアプリでコイツらのチャンネルを見てみる。

 生配信のアーカイブが結構残っているところを見ると、リアルタイムでのファン交流は盛んに行っているようだ。動画の投稿数はそれほどだが、毎月の月末にそこそこ大きなライブを行ってファンサしているらしい。この学校が『ラブライブ!』優勝経験のある学校で名が通っているってこともあるだろうが、動画の再生数も他のグループと比較しても多い部類で人気はあるようだ。

 

 

「零クン!」

「ん? なんだよ?」

「あたしたちの練習見てくれてる? さっきから携帯いじってるけど」

「見てたよ。そんなじっと見てなくてもお前らの練習のクセは分かる。だからこっちも確認しておこうと思ってさ」

「あっ、あたしたちの動画も見てくれたんだ!」

「いやそれはまだだけど……」

「じゃあ零クンに見て欲しい動画を教えてあげるね! これと、これと――――」

「じゃあってなんだよ聞いてねぇって。てかちけぇな……」

 

 

 日野下は俺の隣に座って勝手にスマホを操作しようとしてくる。そのため肩と肩が触れ合うどころか腕や脚まで完全に密着し、男を惑わす女の子特有の甘い香りが鼻をそそってくる。

 コイツ距離感もバグってるけど、こういう無自覚なところも直した方がいいと思うぞ。幾多の女性経験がある俺だからまだ良かったものの、今の俺のポジションが普通の思春期男子だったら確実に惚れていただろう。最悪夜のネタにされてもおかしくないくらいに……。

 

 勝手に画面を操作されそうだったので日野下から携帯を離す。以前結ヶ丘で自分の素性を隠して教師をしていた頃、他のスクールアイドルの子たちから携帯へ連絡が入ったことでLiellaの面々に正体がバレてしまう事故があった。それ以来、安易に自分の携帯を相手に晒すのは避けている。

 つうか秋葉が別の携帯を持たせてくれればこんなことをしなくても良かったのに、もうちょっと配慮して欲しかったよ。設定上は大人の俺とは別人なんだからさ。

 

 

「花帆さん。特にそういった意図はないと思っているのだけれど、その、無防備に男性と密着するのは良くないことだと思うわ」

「えっ、あっ、ゴメン零クン! イヤだった……?」

「いや、んなことねぇよ。下心とかそういうの関係なく、美少女と密着したら意識くらいするだろ」

「び、美少女って! 零クンもそういうの気にするタイプだったんだ……えへへ」

「なんで笑ってんだよ……」

「いやぁ、なんだか嬉しくって♪ 女の子として見てくれてるんだなぁ~とか思っちゃったり」

 

 

 この背丈と年齢設定のせいで女の子側が俺のことをどう思っているのか地味に掴みづれぇな。大人の姿だったらありのままの自分を見てくれているので察するのは容易なんだけど……。

 一応設定では俺よりも日野下の方が年上ってことになるので、もしかしたら弟感覚、つまり姉弟の愛情の面で俺に接している可能性がある。それとも恋愛的な愛があるのか……と思ったけど、出会って2日目なのにそんなことありえるのか?

 

 単純なコイツのことだから何か裏があって俺に接近しているわけでもないだろうが、今のところは下手に恋愛方面へツッコミを入れるのはやめておくか。

 

 

「こほん。それで神崎君、(わたくし)たちの練習を見て何かアドバイスはある?」

「あるよ、いくらでも」

「それならば聞かせてもらってもいいかしら? それと花帆さん、そろそろ彼から離れなさい。そこまで接近するのは女性としてもはしたないわ」

「そ、そうですか……? 女が廃るとか言われたら……うぅ、仕方ない」

 

 

 日野下は渋々俺から離れる。

 乙宗は俺が改善案くらいたくさんあると言ったことに対して自分の練習を少々否定された気分になったのか、やや挑発気味な雰囲気を醸し出している。日野下のおいたを咎めるための圧の意味もあったのだろうか、ややプレッシャーを感じる。品行方正で精神的にもかなり出来上がっている奴だと思ってたけど、俺に変な対抗心を燃やすところとかは年相応で可愛いなと思うよ。

 

 

「日野下はまぁ、頑張って練習してもらうとして」

「それだけ!? もっと具体的なのないの!?」

「楽しいが先行してるからか動きに元気があってそれは伝わってくるけど、1つ1つの動作が大振りだったり、逆に早くなっていることがある。それは乙宗が綺麗にできているからコイツから学べばいい」

「う、うん」

 

 

 入学したての4月から個人でもライブをやりまくっているせいか、1年生にしては実力はそれなりにある。無邪気で元気いっぱいな様子は練習から既に感じられているので、あとは細かい技術を会得していくだけだ。その点、同じユニットで先輩の乙宗の技術が高いので、型に嵌った練習であれば彼女から教えてもらうことでレベルアップは容易だろう。

 

 

「乙宗は……全体的に綺麗なんだけど、お前、もしかして足首とか捻ったこととかあるか?」

「え、えぇ、花帆さんの転倒を防ぐためだけれど」

「無意識にそのトラウマを警戒しちゃってるんだろうな、右足首に重心がかからないようにしてるせいか身体の重心が僅かに傾いてる。さっきの練習を動画に撮って傾きの角度を測ってやったから、あとで携帯に送ってやるよ」

「まさか、いつの間にそんなことまで……」

「あとは日野下のことを気にし過ぎだ。コイツが危なっかしいのは分かるし練習だから指導するって意味もあるんだろうけど、自分の動きも気にしておけ」

「え、えぇ……」

「その日野下への拘り、自分が体調不良で倒れたせいで1人して申し訳なかったとか、そういう過去でもあったのか? 自分が隣に居なきゃって気持ちは分かるけど、そのためには自分もスキルアップしねぇとな」

「…………」

 

 

 乙宗は唖然とした表情をして何も言わない。自分では全く気付かなかったところを指摘されて驚いているのだろうか。それともアドバイスになってなさ過ぎて低レベルを実感してる? ただこれでも長年スクールアイドルを指導してきた経験もあるし、変なことは言ってないと思うけど。

 

 

「わりぃ、電話だ。秋葉かよ……」

 

 

 アイツから電話が来たので一旦その場を離れるが、それでも乙宗は目を丸くして俺のことを見つめたままだった。

 

 

「梢センパイ? どうかしましたか?」

「なんなの……」

「へ?」

「なんなの、あの子……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、零クン。お姉さんからの電話終わった?」

「あぁ、飛ばし過ぎじゃない? ってさ」

「どういう意味?」

「さぁな」

 

 

 いや意味は分かっている。どこかで見ているのか監視カメラがあるのか、さっき日野下と乙宗に対して上から指摘しまくったのが秋葉をヒヤヒヤさせたらしい。有能を見せ付けるのはいいけど、やり過ぎには注意しろと釘を刺されてしまった。

 一応アイツも俺の正体バレのことは気にしてくれているのか。いや、そうなると俺を連れてきた自分の立場が危うくなるので保険をかけているだけなのか……。

 

 

「さっきからずっと黙ってたけど、もう落ち着いたのか?」

「えぇ、ゴメンなさい。あまりにも自分にはない着眼点で指摘されて驚いてしまって。それに、過去のことまで見抜かれるとは思ってなかったから……」

「謝る必要はない。日野下を庇ったって話からコイツを大切にしてるのは分かるし、心配をかけたくないからこそ過去の失態を気にするのも分かるよ。俺はスクールアイドルじゃないけど、似たような経験をした奴と一緒にいたことがあるからな」

「そうなのね。でも可愛い後輩のためとは言え、改善すべきことはしっかりしないとね」

「俺からすれば可愛い先輩のため、でもあるけどな」

「か、可愛いってそんな……」

 

 

 乙宗の頬が少し染まる。

 俺も思いがけず気取ったことを言ってしまったと自覚した。特にここ数年はその言葉を教師として生徒を褒める常套句として使っていたのだが、今は完全に立場が違う。同年代(実際は違うが)からいきなりそんなド直球な言葉をかけられたら、そりゃ多少は意識するだろう。しかも年下とはいえ異性からとなれば尚更だ。

 

 

「そういったお世辞も言えるのね。ただ失礼なだけの人かと思っていたわ」

「これでも人付き合いは多い方なんだ、コミュニケーション力なら持ってるよ。それに本人のためになるのなら世辞なんていくらでも言ってやる」

「それじゃあ練習のアドバイスもお手柔らかに頼もうかしら」

「んなことするかよ。改善点の出し惜しみとかアドバイスで一番意味ねぇことだろ」

「ふふっ、そうね」

 

 

 なんかちょっとだけ距離縮まってないか? 気のせいかもしれないけど、僅かながらまともに会話できるようになったような、なってないような。これまでの乙宗はどこか俺のことを警戒して言葉を選びながら会話をしてたから、こうして冗談交じりで話をするのは新鮮だったりする。

 

 そんな中で、頬を膨らませている奴がいた。

 

 

「むぅ……。どうしてそんなに仲良くなってるんですか?」

「仲良くって、ただの日常会話だと思うのだけれど……」

「零クンも、あたしのことはそうやって言ってくれなかったのに……」

「可愛いって?」

「ぐはぁ!?」

「確認しただけなのにダメージ受けんなよ……」

 

 

 つまるところ嫉妬してるってわけね。どうしてコイツが俺にそこまで執着しているのかは知らないが、やっぱり女の子って可愛いと言われたいのだろうか。虹ヶ先に『可愛い』乞食してくる奴がいたから、その言葉を素直な誉め言葉と認識しづらくなっていた。

 でも男だったら『カッコいい』と言われて悪い気はしない、むしろ嬉しさを感じる奴の方が大半だと思うので、やはりお世辞であっても誉め言葉は素直に嬉しいものだろう。

 

 

「花帆さんは可愛いわよ。特に笑顔が明るくて綺麗なところとか」

「それには同意。それだけでスクールアイドルとしても女性としても魅力がある」

「ちょっとやめてぇええええええええええええええええ!!」

 

 

 日野下は俺と乙宗の波状攻撃に顔を真っ赤にし、顔面を手で覆う。

 自分から言ってくれないとかぼやいていたのに恥ずかしがるとはこりゃいかに……。

 

 日野下が羞恥に溺れたのでしばらく休憩した。

 コイツ自身スクールアイドルのように自分を魅せることをし始めたのが人生で初めてらしいから、さっきみたいに褒められ慣れしていなかったのだろう。普段は元気いっぱいの明るい子だけど、自己肯定感は低いように感じたからその感覚を持たせることも1つの課題だな。

 

 

「大丈夫? 練習に戻れそう?」

「はい、なんとか……」

「神崎君のアドバイスを基に、少し練習メニューも見直したいわね」

「俺の言葉、信じるのか」

「あなた自身のことはまだ完全ではないけれど、アドバイスは的確だからそこだけは信用できるわ」

「前者もお世辞でいいから褒めとけよ……」

「まだ疑うところがたくさんあるのよ。その服装、口調、態度、先輩へ言葉遣い諸々。それに、あなた自身のこともね」

 

 

 距離は多少縮まったかもしれないけど、それはビジネス面での話、つまりスクールアイドルのためだからということだろう。

 俺を疑っているのは無理もなく、上っ面な理由でこのクラブに入って来たことくらい察しのいい奴にはもうバレている。真実を話さない時点で疑いをかけられるのは仕方ない。ただ俺としてはスクールアイドル病のことも話せず、正体も言えないのでどうしようもない。だからこそここからどうやってもっと距離を詰めるのか考える必要がある。

 それでも昨日今日と自分の実力を示したことで、少しは乙宗に俺のことを知ってもらえたと考えれば計画は前進だろう。

 

 

「じゃ、練習しておいてくれ」

「えっ、零クン行っちゃうの?」

「あぁ、秋葉に呼ばれてな。また戻ってくるよ」

 

 

 さっきの電話で身体を検査させて欲しいと言ってきたので保健室へ向かうことにする。

 子供の身体になってまだ間もないからか、この数日は毎日身体検査で健康な状態かを確認したいらしい。正体バレしたら溶けるという爆弾を抱えた身体なので検査してくれるのはありがたいんだけど、それお前が仕込んだことだよなと問い詰めたい欲が凄まじくある。

 

 

 そして俺が去った後、日野下と乙宗は――――

 

 

「ちょっと練習を見ただけでここまであたしたちのことが分かるなんて、零クンってやっぱり凄いですね」

「えぇ。本当に去年まで小学生かと疑ってしまうくらいに……ね」

「年齢をサバ読んでるってことですか? そんなアニメや漫画みたいなこと流石にないですよ~」

「…………それもそうね。それでは、練習を再開しましょうか」

「はいっ!」

 

 

 本日、スリーズブーケの面々と少しだけ距離が縮まった。

 でも縮まれば縮まるほど俺への疑いの濃度もより濃くなっていく。

 

 秘密の学校生活。今日からいよいよ本領が発揮されている気がしてならなかった。

 




 次回も引き続きユニットごととの日常回の予定です。



【キャラ設定集】※更新版
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 日野下 (俺に気があるのか…?)※更新!
・村野さやか → 村野  (堅物真面目)
・乙宗梢   → 乙宗  (距離が僅かに縮まったかも)※更新!
・夕霧綴理  → 夕霧  (不思議ちゃん)
・大沢瑠璃乃 → 大沢  (言葉遣い砕け過ぎ)
・藤島慈   → 藤島  (生意気な先輩)

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零クン  (? 謎の好感度)※更新!
・村野さやか → 神崎さん (50 至って普通)
・乙宗梢   → 神崎君  (40→45 頼れるところはあるけど疑いもある)※更新!
・夕霧綴理  → れい   (50 おもしれー男)
・大沢瑠璃乃 → 神崎くん (50 話しやすいだけで良きかな)
・藤島慈   → 神崎   (30 生意気な後輩)

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