新キャラ、新設定、新ストーリー、そしていつもの主人公でいつも通りにお楽しみください!
設定はリンクラのストーリーをベースにしていますが、他の章と同じく99.9%オリジナル展開です。
私自身の蓮ノ空のストーリー理解度については、アプリのストーリーは最新の12月分まで全て、漫画の方が最新の2話まで全て読破済みです。
今回の章の時系列は蓮ノ空スクールアイドルが全員揃った後とざっくり決めていますが、具体的にどこら辺なのかは今後話が進む過程で決める予定です。
リターン・オブ・ザ・高校生!?
あまり良い寝心地ではない。
俺の部屋のベッドや枕は自分用にチューニングされた寝心地最高の逸品であり、毎日の忙しい教師生活の疲れを癒してくれる。休日だと妹に起こされるまで永遠と寝ていられる心地良さがあり、余程のことがない限り勝手に目覚めるなんてことはない。
しかし、今はそんな心地良いなど皆無だ。まだ目は明けてないが意識は覚醒しており、この不規則で小刻みな揺れは目覚めを促すばかりか寝起きのすっきりとした気分すら害してくる。まるで舗装されていない山道を車で走っているかのような不快な揺れだ。それに何だか身体に違和感がある。体感だけどいつもより身体が軽いような気がした。
そこで目を開ける。まず見えたのは座椅子。この形状、材質は見覚えがある。それに加え圧迫感のある閉鎖空間に地を駆けるこの音は、自分が今どこにいるのかを容易に想像させてきた。さっきは半ば冗談のつもりで例えたが、まさか本当に車の中だったとは思わなかった。
聞こえる音は走行音。俺は車の後部座席で目覚めたようだ。
でも、おかしい。
俺は昨晩自室のベッドで寝たはずだ。なのに何故か車内にいる。もしかして誘拐とか犯罪に巻き込まれたのかと思ったが、運転手の顔を視認した瞬間にその疑いはすぐに晴れた。まぁ下手をしたら犯罪者なんかよりよっぽど世界の癌のような奴だが……。
「あっ、零君。起きた? おはよ」
運転手は俺の姉である神崎秋葉。運転席からミラー越しに俺の起床を確認したのか、さもこの状況がいつもの朝がってくらいに気楽に挨拶してくる。
俺はその顔を見た瞬間に犯罪的なものに巻き込まれていない安心感を抱くが、それ以上にまた変なことが起きそうだと警戒心を抱いた。
座席に横になっていたからか体勢が悪く身体がやや痛いので、この状況について問い詰めるためにもとりあえず身体を起こした。
そして、ふと窓の外を見てみると、建物すら何も見えないひたすら木々が立ち並ぶ山道をどんどん進んでいることに気が付く。またしてもさっき冗談で言った山道の例えが現実となっていたので思わず唖然としてしまった。
「えっ、ここどこ……?」
「山の中だよ」
「なんでそんなとこいるんだよ……。今度は何をしようとしてんだ?」
「まあまあ、あとで順を追って話すよ。私だってあなたをこっそりベッドから車に運んで、そして長い間ここまで運転してきて疲れてるからね」
「知るかよ……。今回は何だよもう……」
コイツには今まで散々な目に遭わされてきたから、今俺の中で危険信号が激しく点滅している。犬にされたり赤ちゃんにされたり、女の子たちに惚れ薬を入れたり酔わせたり、影響が大きいところでは学園を設立して女の子たちを俺や自分の都合のいいように教育したり、人の行動力を見極めたいって理由で人命救出させるために建物に火を放ったりと、もはややりたい放題だ。
そして今回は勝手に車に乗せられて山の中だ。こんなの警戒せずにいられるかっての。
そんな衝撃展開の中でもまだ眠気が完全に収まっていなかったのか、あくびが出そうになる。そのため口を手で塞ごうとしたとき、自分の手のひらを見て更なる衝撃事実が発覚する。
「えっ、手が……小さい??」
明らかに自分の手が小さくなっている。
右手も左手も、なんなら頭も脚も身長も、何もかもが一回りどころか二回り以上小さくなっており、明らかに子供の体型となっていた。
「おい、なんだよこれ!?」
「あぁそれ? これからやってもらいたいことがあるんだけど、それは大人の姿じゃダメだからねぇ。それにほら、相応しい恰好もしてるでしょ?」
「ん? えっ、これ、制服!?」
「そ。高校生、久しぶりでしょ♪」
って、今はそんなことはどうでもよく。コイツさっきなんつった? 高校生? 俺が??
「高校生ってなんだよ!? 後で話すじゃなくて今教えろ!」
「ちょっとよろしくないことがあってね、その調査のために零君には今から行く高校に生徒として編入してもらうの」
「はぁ!? 訳わかんねぇんだけど!?」
「あっ、もうすぐ着くよ。校舎見えてきた」
「ったく、なんだよもう……」
また変な薬でも盛られたか。いつも通りっちゃいつも通りだけど、これに慣れてる俺も俺だよな……。
窓から外を見てみると、確かに校舎が見えていた。建物はかなり古風であるが古臭くはなさそう。むしろ新設されたかってくらいに立派で綺麗だ。
完全に閉鎖された山中だと思っていたが、校舎回りは意外と自然豊かで見通しが良く蓮の花の咲く湖も見えるので景色は悪くない。まあ学校以外に施設が何もないから山中の牢獄っぽさは否めないが……。
車が校舎裏の駐車場に到着する。
降りてみると、自分の背丈について更なる疑問が浮かんできた。
「おい、俺って設定上は高校生なんだよな……?」
「そうだよ?」
「にしては背が低すぎないか? 仮に高校1年生だとしても男だったらもっと伸びてるだろ」
「だって10歳くらいの背丈にする薬を飲ませたんだもん、そりゃそれくらいの背になるよ」
「なんで小学生!?」
「だってそっちの方が――――」
「この背丈じゃないとできないことなのか? この学校に呼んだのもそれが理由?」
「可愛いじゃん♪」
「はぁ!?!?」
この小学生身長に何か理由があるのかと思ったら、まさかコイツの趣味かよ。いやコイツは自分の都合を優先させるので全然不思議ではないが、さっきはそこそこ真面目にやって欲しいことがあるとか言ってたのにも関わらずこれだからな、もうやってられっかよ……。
「一応この春に中学生になったばかりって設定で、ここには飛び級で編入したってことで話を通してるから。ちなみに大学クラスの勉強なら余裕でパスできる有能ってことにもしてあるから、その賢いお
そういった外堀を埋めるところだけはしっかりしてんだよなコイツ。そうやって逃げ場すらも埋められることで、否が応でも厄介事に従わせられているのだが……。
秋葉はトランクに積んでいた荷物を取り出すと、その中からスクールバッグを俺に渡す。どうやら筆記用具や教科書などの準備も完璧らしい。
そして理事長やら教員たちに挨拶に行くことになったため、秋葉の後ろをついて歩く。
「おい、そろそろ教えろよ。俺をこの姿にしてここに連れてきた訳を」
「そうだね。歩きながら話そうか」
どうせ逃げられないんだったら面倒事を手早く解決して帰るだけだ。抵抗するだけ時間の無駄ってことくらいコイツと20年以上一緒にいるから分かり切っている。こういうところあっさり妥協してしまうあたり俺も調教されてるのかもな……。
「やってもらいたいことは、スクールアイドル病の治療だよ」
「スクール、アイドル病?」
「私が見つけて名付けたんだけど、文字通りスクールアイドルの子が発症する病気のこと。発症とは言っても、他の誰かは愚か自分でさえ病気になっていることなんて気付かないけどね」
「見つけた経緯とか気になるけど、これからやることだけ簡潔に教えろ」
「さっすが話が分かるぅ~」
「そういうのいいから……」
なんか意図的に話を先延ばしにされてねぇかこれ?? そもそもコイツがまともに事情を話したことなんて過去に全然なかったし、これから話される内容が事の全容とは俺自身も思っていない。察しろと思われてるのかもしれないが、いくら姉弟であっても無理があるネタばかりなんだよないつも……。
「1つ注意点としては、自分がその姿になっていることは誰にもバレてはいけない。この学校の生徒や教師にはもちろん、あなたの親しい人たちにもみんなね」
「またそれかよ……。別にバレたところで何かあるわけでもねぇだろ」
「バレたら熱を帯びて溶けるから、全身が」
「へ?」
「そういう薬の効能にしてるの。ただ若返るだけなんて、メリットしかなかったら面白くないじゃん。強い力にはそれと等しい代償が伴う、昔からの格言だね♪」
「ただのお前の趣味じゃねぇか!? つうかいつもいつも命かけてねぇか俺!?」
「失敗に罰がないなんて生温いよ。私が見たいのはね、零君が颯爽と問題を解決するカッコいい姿なんだから♪」
「お前なぁ……」
もう25年以上全く変わってねぇコイツ。
ただこんなに性格が捻くれてしまったのは理由があり、あまりにも天才過ぎてあらゆる万物の事象が容易に理解できてしまうことにある。それ故に研究者のくせに物事の観測をつまらないものと感じてしまっている。
しかし、コイツが唯一興味を惹かれる対象が弟の俺だ。どうやら俺の成すことは奇想天外であるとして、それを観測することを生きがいとしている。だからこうして無理難題を押し付けるだけでなく、退路を断つ手段として身に降りかかるような背水の陣を用意してくるのだ。あまりにも迷惑過ぎる……。
背の低い子の姿で無理矢理この学校に編入させられると知った時から既にやる気が最底辺となっていたが、さっきのコイツの言葉でそれが地すらも突き抜けた。
やることを終えたら絶対すぐ帰ってやるからな。なんなら今日帰るくらいの勢いでもいい。面倒事はとっとと終わらせるに限る。
そうやって意気消沈しながら歩いていると、後ろから女の子の声が聞こえてきた。
「あっ、あれってもしかして転校生の子!?」
「えっ、ちょっと! もうすぐ授業が始まっちゃいますよ!」
振り向いてみると、やたらと明るい表情でこちらに駆け寄ってくる、淡いオレンジ色のボブヘアーで両側頭部を青いウサギの髪留めで小さく結んでいる子。そして、困り顔でその子の後を追いかける、青髪のお下げを水色のリボンで留めている子。2人の女の子が俺たちのところへやって来た。
「わぁ~!! 転校生さんって本当に男の子だったんだね――――さやかちゃん!」
「はい、まさか男性がこの学校に来るなんて驚きです――――花帆さん」
なんかすげぇ物珍しそうな目で見てきやがるなコイツら。別に転校生が来るイベントなんて珍しくもなんともないだろ。それに妙に『男』ってところを強調された気がするが、一体なんなんだよ……。
「キミたち、見るからにこの学校の生徒さん?」
「はいっ! 日野下花帆です!」
「村野さやかです。えぇっと、あなたは……?」
「今日からここの保険医になる神崎秋葉。編入になるこの子の姉です。よろしくね」
「新しい保険の先生も来るんだ! よろしくお願いします!」
「ははっ、元気いいね」
えっ、保険の先生になるって寝耳に水なんだけど?? いやそんなことを言ったら今起きてる全ての事柄がそうだから、もはや耳に水が溜まりまくって難聴になるくらいだ。
そんなこんなで初めてこの学校の生徒にエンカウントした。日野下花帆に村野さやか。どちらも顔がめちゃくちゃに良く、ビジュアルも最高だ。それこそスクールアイドルができそうなくらいには。
そんなことを考えていると、再び話題は俺へと向けられる。
「そういえば、転校生は中学1年生から飛び級での編入と聞きました。まさかこの方がその?」
「そうだよん。私の自慢の弟の神崎零、みんな仲良くしてあげてね♪」
「ぶぅうううううっ!!」
「ひゃぁっ!? ど、どうしましたか……?」
「おいちょっとこっち来い!」
「ん? どうしたどうした?」
秋葉の爆弾発言に思わず吐き掛けそうになった。驚きを隠せない村野と何故かさっきから目を輝かせてる日野下を放置し、俺は秋葉の手首を掴んで少し離れたところに引っ張った。
「おいどういうつもりだ!」
「なんか不備あった?」
「あるに決まってんだろ! 正体を隠してこの学校に入るってのにどうして本名を言うんだよ!」
当たり前の話だ。正体を知られたら身体が溶けるなんて脅してきた矢先にあっさり本当の名前を出しやがって、意味が分からない。コイツのやること成すことに意味なんて求めてたら答えを理解する前にこっちの人生が干からびるくらいだが、さっきの行動はマジで訳分かんねぇ……。
「それは私が好きだからだよ、神崎零って名前がね。音の響きもそうだし、『神』って神々しい言葉もそうだし、『崎』は先端って意味があるから常に誰よりも前にいるあなたにピッタリ。何より『零』っていう物事の始まりを告げる、セロからの始まりの言葉が一番好きだね」
「あん……? それだけ……って、俺の名前の由来初めて知ったんだけど」
「だって名付け親は私だもん」
「なにその今回の事態に全く関係のない事実……」
「そういうことだから、私が気に食わないから偽名はナシ」
「マジ……?」
まさかの名付け親だったが、そんなことは今どうでもいい。
俺の名前は一般に知れ渡ってはいないものの、スクールアイドルでまことしやかに囁かれているスクールアイドルキラーとして裏界隈で名が流れているらしい。今回の問題解決のためにスクールアイドルを相手にすると考えると迂闊に名を出してはいけない人物が俺なのだが、この低身長といいまたしても秋葉にワガママを通されてしまった。
ニコニコして明らかに楽しんでいる悪魔が一匹。
一刻も早くここからの帰りたさで尻込む俺だが、秋葉に手を繋がれて日野下と村野のところへ戻る。姉に手を引かれるって滅茶苦茶ガキっぽくて恥ずかしいんだけど……。
「ゴメンね~。この子、新しい学校に来て緊張してるみたいで」
「んなわけあるか」
「大丈夫だよ! ショッピングモールがなくてスイーツの食べ歩きができないのは残念だけど、他に楽しいところがいっぱいあるから!」
「ショッピングモールぅ?」
「それはいいですから! とにかく、男性が1人だけだと色々不便だと思うので、困ったことがあれば是非わたしたちを頼ってください」
「えっ、ちょっと待て。男が1人って、ここ共学じゃねぇのかよ!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「初耳だ! 女子高なんて言ってなかっただろ!」
もうこの数十分だけで何回大きな声を出させれば気が済むんだよ。こんな状況だからこそ意外な展開が多いのは分かるが、何1つ俺を安心させる要素がないってのも狙っているとしか思えない。
女子高に男1人ってシチュエーション自体は慣れており、浦の星に教育実習、虹ヶ先にコーチに行き、結ヶ丘では教師と、女性に囲まれる環境に対して長年の経験がある。でも生徒として女子高で生活するとなると話は別。大人だから余裕のあるデカい顔ができていたのに、周りと対等な立場として放り込まれるどう振舞っていいのか迷ってしまう。音ノ木坂も同年代で女子ばかりに囲まれた生活だったが、そこは共学で性別比率も1:1だったから環境的には特に居心地の悪さはなかった。
しかし、今回は正真正銘の男1人。しかもLiellaの3期生の卒業を見送って、社会人としても教師としても
「えっ、女子高とは知らずに転入してきたの!?」
「そりゃまぁ……」
日野下も村野も驚くが、そりゃ普通に考えれば知らないはずないもんな。体を小さくされて車の中に押し込められ、訳も分からない間にこの学校に連れてこられたとか創作物のストーリーかよって話だ。
「ふっふっふっ、だったら紹介してあげるよ。創立100年を越え、古くから引き継がれた伝統が今も息づく、自然に囲まれ芸術分野に秀でた有名な学校。それがここ――――蓮ノ空女学院! どう? 凄いでしょ!」
「どうして花帆さんが得意気なんですか……」
「第一印象、周りに何もなくて山の中の牢獄って感じだ」
「そう! 放課後にショッピングモールでスイーツの食べ歩きをしたり服を見て回ったりしたかったのに、こんな学校のせいであたしの花咲く生活が粉々だよ~!」
「自慢をするのか文句を言うのかどちらかにしてください……」
思考が1か0に偏ってんな日野下って奴。その極端な考え方、髪の色からしても
「あっ、花帆さん、そろそろ授業ですから教室に戻りましょう」
「うぅ、もうちょっとお話したかったのに……」
「お話し好きなのは知っていますが、今回は結構拘ってませんか……?」
「えっ、そうかな?」
「なんにせよ、これから話す機会はたくさんあると思うので大丈夫ですよ。ほら、早く行きましょう」
「う~、仕方ない。じゃあね零クン! また教室で!」
「失礼します」
いきなり名前って、馴れ馴れしい奴だな。でも笑顔は明るくて元気いっぱい、なにより俺が好きな表情だった。暴走気味ではあったが一瞬話しただけで彼女の溌剌な魅力は十分に感じられた。
村野はさっきのやり取りを見ている限り、お世話好きっぽい。形式張った喋り方をしているので性格は硬そうだが、日野下とは別ベクトルの美少女であり、どちらかと言えば顔立ちがくっきりして美人寄りに近い。
どちらも容姿レベルも人当たりも抜群に良く、男でも気さくに話しかけてくれたので、もし俺が女子慣れしてなかったら一瞬で惚れていただろう。それくらい彼女たちの印象は俺の中で良かった。
女子高に男が入るとなって邪険にされるのか危惧していたが、アイツらの様子を見ると割とフレンドリーに受け入れてくれるようだ。俺が転入してくること、そして話す機会が多いと言っていたことから同じクラスになる可能性が高いので、一応男1人で浮かずには済みそうだ。
日野下と村野が立ち去ったので、再び秋葉を前にして歩きながらさっきの話に戻る。
「もう横槍はねぇぞ。そろそろ話せ、俺をここに連れてきた理由。スクールアイドル病、だっけ?」
「そう。症状は、スクールアイドルの子の身体のどこかに傷が付くの。その傷は痛みを伴わず、身体の不調を本人に一切知らせずに陰でどんどん傷口を広げていく。その進行は止まることがなくて、やがてその子の身体は……。つまりそういうこと」
「なんだよ、それ……」
どういう原理の病気か全く分からないが、俺だって女の子からの愛情を受け取り過ぎて身体が爆発寸前な爆弾みたいな現象に陥ったし、世の中には理解のできない症状ってのがあるのだろう。
てかスクールアイドルにだけ起こる病気ってまたピンポイントな……。
「その病気を唯一治療できるのが零君、あなた」
「俺? どうして俺が……」
「そういう人間なんだよ。特別なの」
「仮に俺が治せるとして、どうすればいいんだ?」
「あなたの指が傷に触れるだけでいい。それで傷跡は塞がるはず」
「原理は全くだが、割と簡単そうだな」
「問題なのは、女の子の身体のどこに傷があるか分からないってこと。少なくとも服を着ている状態でも見える場所、手の甲とかそういうところにはない。あるとしたら、例えば胸とかお尻とか――」
「おい、まさか……」
「下腹部の下、女の子の大切な場所……とかね」
ただ女の子の身体に触れるだけかと思っていたら、デリケートな局部に傷がある可能性があるのかよ……。
あくまで可能性の話で、背中や腹など普段は服に隠れている部分にあるかもしれないが、どちらにせよ治療するためにはその子の服を引っぺがすしかない。面識のある子であれば俺の性格から裸も受け入れてくれるだろうが、この学校の生徒は全員が初対面、脱がすという行為まで漕ぎ着けるのは難関だろう。
しかし、色々と手立ては考えついている。それが実行できるかはコイツに聞いてみないと不明だが――――
「質問」
「どうぞ」
「そのスクールアイドルの子に病気のことを知らせるのは?」
「病気の特性上、本人に知られた瞬間に傷が瞬く間に広がってお陀仏」
「傷の場所にもよるけど、本人か他の誰かが気づくんじゃねぇの?」
「あなたにしか見えない。これに関しては私も例外じゃない」
「この学校のスクールアイドルって誰なんだ?」
「さぁ? 私も来たばかりだから。それも含めて今回の調査ね」
なんか、俺の不利な方向ばかりに偏るな……。
俺にしか見えないのであれば、もう俺がその子の服を脱がすしかない。禁忌の方法として盗撮して傷口を確認するという手もあるが、結局それを俺が触れなければ話にならない上に、流石に常識に欠けるのでボツ。
となると正攻法で攻める必要があるのだが、頼み込んで裸を見せてくれるくらいの関係になる必要があるってことか……? そんなことできんの? 転校生が??
初手から手詰まり臭を感じていると、秋葉が小瓶を2つ渡してきた。透明感のある赤と青の小瓶で、どちらも中にはカプセルがたくさん入っていた。
「それ、持っておいて。青のカプセルを飲めば元の姿に戻れる。逆に赤いのは今のその姿になれるから、臨機応変に使い分けて」
「えっ、そんな簡単に戻れるのかよ」
「だって何日ここにいるか分からないでしょ? だったら向こうに置いてきた女の子たちとたまには連絡を取り合わないといけないし、その姿でビデオ通話をするわけにもいかないよね?」
「何日もって、そんなにここに居させるのかよ!?」
「だって女の子の裸を見るのに1日や2日で終わるわけないでしょ、誰が病気にかかってるのかもまだ分かってないのに。旅行気分じゃなくて、これはれっきとした編入。しっかりと高校生活を送ってもらわなくちゃ。あっ、ここって女子寮しかないんだけど、特別に部屋を用意してもらってるから安心してね」
「えぇ……」
今回の問題の解決はそう簡単ではないとさっき自分でも感じたばかりだが、まさか寮生活をするくらいまで長期間拘束されるとは思ってなかった。本当に高校生活をもう一度やらせる気かよ……。
確かにそうなれば、俺の行方不明を心配させないために知り合いの人たちに無事を伝える必要がある。そのための元に戻る薬ってことか。この学校の関係者には小さい姿のまま正体がバレないように、それ以外では小さくなっていることが知られないように。
いやまぁ、面倒だねぇ……。
「大丈夫、みんなへのフォローはもう既にしてあるから」
「心を読むな……」
「大好きな弟くんのことだから、それくらいのことは簡単に分かるよ」
「大好きなんだったら、勝手に薬を盛って地方の学校に幽閉なんてすんなよな」
「言ったでしょ、私は難題をカッコよく解決するあなたが見たいの。それに、私はいつだって零君の味方だよ♪」
屈託のない笑顔を向ける秋葉。コイツの笑顔ほど怪しく見えるものはないが、ここに至る手段はどうであれスクールアイドルを救おうという正義はあるみたいだ。まあ一番の目的は俺の活躍を見ることなので、今回の問題はそのダシにされただけだろうが。
前を歩いていた秋葉が身体ごとこちらに振り向く。
その笑みの意図は自分の愉悦が高まっていることを表しているのか、それとも俺の新たな生活を送り出す母親的な気持ちなのか。
「どれだけ
唐突に始まった俺の二度目の青春。
かつてなかった環境とシチュエーションに、もはやどうなるのか未来など想像できなかった。
To Be Continued……
そんなわけで新章が開幕しましたが、今までにない設定でのスタートで驚かれた方もいらっしゃると思います。
これはLiellaの3期生の卒業を見送った後という時系列上、そしてラブライブ無印から時の経過が地続きな都合上、零君の年齢が女子高生である花帆たちと大きく離れてしまい、恋愛するには不自然な歳の差になってしまったことが1つ目。
そして、大人の男性と女子高生たちとの恋愛というシチュエーション自体がLiella編と被ってしまうことが2つ目で、女性キャラが目上の男性と関係を持つという観点であればAqours編から続いていることになります。
そのため、蓮ノ空では主人公と女の子たちが敢えて同等の立場になるように設定を考えた結果、今回の物語となりました。
設定もキャラも大きく一新されたとは言え、この小説のコンセプトでもある『キャラを魅力的に描いて伝える』スタンスはいつも通りなので、皆さんもいつも通り彼と蓮ノ空のキャラとの絡みを見届けていただければと思います!
次回の投稿はスタートダッシュってことで1月3日(水) 0時に投稿予定です。
ちなみにメインキャラは次話で全員出ます!
以下、アンケートにお答えいただきたいです。
(もし蓮ノ空について知らない人が多い場合、キャラとか舞台設定の詳細な説明が必要のため)
蓮ノ空のキャラやストーリーは知ってる?(アプリはリンクラ、漫画はウルトラジャンプのラブライブflowers)
-
アプリも漫画も読んで知ってる
-
アプリだけ読んで知ってる
-
漫画だけ読んで知ってる
-
YouTubeの動画を観たくらい
-
全然知らない