ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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恋色渦巻く文化祭(開幕)

 遂に結ヶ丘の文化祭当日となった。

 今年は2学年になったことで生徒数も大幅に増加、学校側も使える金が潤沢になった影響か、去年よりも規模が圧倒的に大きくなっている。またそういった外的要因だけでなく、生徒たちが部活動で一定の成績をマークしたことによって学校自体が一般にも注目されており、それ故に生徒の士気も上がっているという内的要因もあるだろう。かのんたちスクールアイドルを始めとして、他の部活も大健闘したことで今の反響の大きさがあると言っても過言ではない。

 

 そして、今は文化祭1日目の午前中。既に屋台や屋外ステージ、校内イベントといった出し物全てが盛り上がりを見せる中、教師である俺は準備期間と変わらず見回り。陽のオーラが漂う中で黙々と校内警備ってのは寂しい気もするが、実は俺にはやるべきミッションがある。

 

 それは教え子たちと一緒に文化祭を回ることだ。既にスクールアイドル部の奴らからお誘いが来ており、いわゆる文化祭デートを申し込まれた。文化祭でデートと言えば思春期の男女の距離が一気に近づく定番イベント。それをアイツらが意識しているのかは定かではないが、ここまで積極的になるアイツらは珍しいので何かしら心境の変化があったのだろう。

 

 ちなみにデートブッキングではないかと思われるかもしれないが、流石に過去の二の轍は踏まない。みんなが出し物を担当するシフトの時間を考慮し、ブッキングしないようにスケジュールを組んである。恋愛ゲームなら爆弾ルート直行なイベントでも、これまで幾多のデートを制してきた俺からすればこれくらいのブッキングの処理は容易いことだよ。

 

 そんなわけで今一緒にいるのは――――

 

 

「わぁ~っ! これが都会の高校の文化祭っすか!? 華やか過ぎて気絶してしまいそうっす! どこから回りますか先生!? すみれ先輩!?」

「ちょっときな子落ち着きなさい。あまりそわそわしていると田舎者にしか見えなくなるわよ」

「平気っす。なんたって田舎者ですから!」

「なんで誇らし気なのよ。仮にも私の隣を歩くんだったら、もっとエレガントでいなさい」

「エレガントってなんっすか?」

「も~~うっ!!」

 

 

 牛か。

 見て分かる通り、まずきな子とすみれと文化祭を回っている。ただ幸先がいいのか悪いのか、田舎娘のきな子と都会育ちのすみれで微妙にそりが合っていない。はしゃぐ妹を見守る姉という言い方もできるか。

 なんにせよ、女の子1人1人個別に文化祭を回っていてはいくら俺でも身体も時間も足りないので、一緒に回れる人がいればなるべく一緒になるようにしている。本来であれば1人ずつデート感覚で回るのが本人たちの願いで俺もそうしてあげたいのだが、文化祭は2日間しかなく、しかもコイツらのシフトの時間やステージライブの時間などを考慮するとこうするしかなかったんだ。ただそうなることはみんなに確認して同意済みだから、不満がミリもないと言えばウソになるだろうが、この状況は決して修羅場ではないので安心して欲しい。

 

 そんなこんなで屋台ゾーンを練り歩く。親子連れや他高校の生徒、学校見学も兼ねた中学生らしき子などたくさんの人で賑わっている。

 ただ女性しかいないのは何故なんだ……? 女子高だから来場者が女限定って制約はこの学校にはなく、むしろ規模を大きくしていきたいこの学校からしたらそんな制約を付けるわけがない。それでも女性しか見受けられないから、女の子が活躍するアニメでよくある男が世界から断絶されたかのような感覚に陥ってしまう。そういうアニメや漫画だと故意に男子トイレの存在まで消して男を匂わせないようにするからな……。

 

 

「やっぱり都会のお祭りは最高っす! 焼きそばもクレープも何もかもが美味しくて! もぐもぐ……。もうきな子、都会の濃い雰囲気にどっぷり染まり過ぎて田舎に戻れないっす……! もぐもぐ……」

「あぁ~もうっ、食べるか話すかどっちかにしなさい! ったく、顔はいいのにそんな食い意地張ってたら魅力半減よ」

「えぇっ!? 先生はそういう子って嫌いっすか……?」

「まあいいんじゃねぇの。美味しそうにたくさん食うう奴は見ていて気持ちいだろ。それも魅力だ」

「ふふん」

「なに勝ち誇った気でいるのよ。精々太らないように気を付けなさい」

「う゛っ……」

 

 

 きな子の奴、入学してしばらくは都会の街並みを見るだけでもその華やかさに酔ってたけど、今となってはすっかり馴染んでるな。むしろ染まりすぎてこういったお祭りごとになると普段の引っ込み思案がウソのようにはしゃぐこともある。田舎にいて抑圧されていたってわけじゃないだろうが、潜在的に賑やかなのは好きなのだろう。最初は恥ずかしがっていたスクールアイドルだって今やノリノリでやってるしな。

 

 そしてすみれの方は相変わらずの世話焼き役だ。さっぱりして自分にしか興味がないように見えて、実は根っからの友達想いで心配性。言葉はキツイけどその節々に優しさが見れられる。ま、いつものコイツだな。

 

 

「きな子のことを気にしてくれるのは嬉しいっすけど、すみれ先輩ももっと自分が楽しまなきゃ損っすよ」

「そりゃ去年は質素な文化祭だったから楽しみたいけど、どちらかと言えば……」

 

 

 すみれがちらりとこちらを見る。食べ歩きみたいないつでもできるようなことではなく、男女の甘酸っぱい雰囲気をご所望のようだ。別に彼氏彼女の関係のような濃厚な雰囲気までをも求めているわけではないと思うが、俺と文化祭を回れるまで話を漕ぎつけたんだ、それなりの成果は望みたいのだろう。

 

 それにだ、デートってのは男が先導するものだ。俺だってコイツらと距離を縮めたいって本心は同じだからな。

 その気持ちと同様に、何もしなくても女の子たちから注がれる無償の愛を浴び続ける無生産者にはなりたくねぇし……。

 

 

「ほら、次行くぞ。もたもたしてたら屋台を回ってるだけで時間になる」

「あっ、待ちなさいよ。急にその気になっちゃって、どうしたの?」

「お前らと同じ気持ちってことだよ。ほら、お前も何か食いたいものとかあるだろ? 黙って隠してるみたいだったけど、さっきから屋台に目が行きすぎだ」

「う゛っ!? じゃ、じゃあ……」

「チョコバナナ! きな子、あのチョコバナナが食べたいっす!」

「えぇいっ! だからアンタはムードってものを気にしなさい!」

 

 

 最初はそりが合わなそうとか思ってたけど、意外といいコンビなのかもな。まあ半年も一緒にスクールアイドルをやってればそうもなるか。

 

 その後は普通に文化祭を見て回った。男1人に女の子2人、しかも教師と生徒だからデートと言うのかは怪しいけど、その定義は当事者たちが決めることだろう。俺は女の子たちが楽しそうに笑顔でいられる空間に一緒にいられるだけでいい。そうやって仲を深めていけば、コイツらももっと素直になれるかもしれないしな。

 

 1年生のきな子たちもそうだが、すみれたち2年生たちも未だに俺に本心を打ち明けることに慣れていない。慣れるための一番の近道は、単純だけどこうやって一緒にいることだ。文化祭効果を信じてるわけじゃないが、俺だって望んでたんだよ、こういう時を。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「先生! 千砂都! これが可可たちのコスプレ喫茶デス!」

「おぉ~っ! ちょっと如何わしいね!」

「な゛っ!? いきなり失言デスよ千砂都!!」

 

 

 やっぱり女子高でコスプレ喫茶は道徳的にマズかったんじゃねのか……?

 すみれときな子が出し物担当の時間になったので、次の女の子に乗り換えて文化祭回りを再開する。なんか浮気してるすげぇ最低な男のように聞こえるなこれ……。

 

 今回は可可と千砂都と一緒にコスプレ喫茶をしているクラスに来ていた。まあ俺の担当クラスなのだが、実際に女子高生たちがコスプレして接客しているところを見ると、千砂都の言う通りやはり如何わしい何かを感じてしまう。もちろん衣装は露出が多いものはない。世間的に欲情を煽るものも厳禁で、決してスク水やナース服などは存在しないのでそこは教師としても安心だ。見てみたいかと聞かれたらそりゃそうなんだけども。

 

 席に案内されたのでメニューを見てみる。値段はイベント価格なので通常と比べて割高だが、これもJKが接客してくれるサービス料と思えば許せる範疇。実際に客も入って中々に盛況のようだし、わざわざ文化祭というイベントの場に来て細かい値段を気にする客もいないだろう。

 

 そうやってメニューを品定めしていると、コスプレを着たJKが俺たちのテーブルへとやって来た。

 

 

「ご注文はお決まりでしょうか……」

 

「かのん!」

「かのんちゃん!」

 

「うぐっ……」

 

 

 注文を取りに来たのは和服を着たかのんだった。既に開店してからそこそこ時間は経っている上に、そもそも喫茶店の娘で接客の手伝いをしているくせに顔を赤くして恥ずかしがっているようだ。

 

 

「かのんちゃんいつも以上にも増して清楚だねぇ~♪」

「かのん美しいデス! 美し可愛いデスよ!」

「なにその造語!? やっぱり知り合いに見られるとちょっと恥ずかしいよ……」

 

 

 褒め殺し地獄。朱色の和服を着たかのんは持ってるトレーで自分の顔を隠す。そういった反応がからかう側の人間の嗜虐心を刺激するって分かんねぇかなぁ。

 でも褒め殺したいって気持ちは分かる。かのんはどちらかと言えば和服のような落ち着いた服の方が似合うんじゃないかって思うんだ。もちろんスクールアイドルのようなキャピキャピした感じの衣装姿も可愛いとは思うが、それは本人の性格が故の印象ってものがあるからだろう。逆に可可や千砂都といった元気娘の場合はそっちの衣装の方がいいと思っている。

 

 

「ほらほら先生も褒めてあげてくださいよ!」

「そうデスそうデス! かのんは可愛いと言われて伸びるタイプなのデスから!」

「なに目線なのそれ!? せ、先生ぇ……」

「似合ってるよ。俺はシックな感じの服の方が好きだな、お前の場合はだけど」

「そ、そうですか? ありがとうございます……!」

 

 

 コイツの衣装は着付けの際にも見ていなかったので、これが初感想となる。

 顔を隠していたトレーを下げ、小さく笑みを見せるかのん。去年であればこれくらいの誉め言葉でもパニックになるくらい恥ずかしがっていたが、流石に少しは持ちこたえられるようになったらしい。このコスプレ喫茶に決まったこと自体、俺に自分たちを見せつけたい意図があるらしいので、恥ずかしがって俺の前に出られないってことはないんだろうがな。まあ褒め殺しが羞恥心を煽ってるだけだろう。

 

 

「そういやお前、このシフトが終わったら俺と回るんだったよな。どうせならその服で回るか?」

「ええぇえええっ!? 無理無理無理! これでもギリギリ抑え込んでるのに、更に大勢の人の前に出るのなんて無理ですっ!」

「ステージに上がるときはもっと大勢に観られてるだろ」

「それは大勢に観られる必要があるからであって、この服は店内だけって話ですから! そういう覚悟の差ですよ……。それに、せっかく先生と一緒に回れるのに、そんなたくさん注目を浴びるようなことをしたら素直に楽しめないじゃないですか……」

 

 

 なるほど、それだけ俺との時間を大切にしてくれているってことか。さっきのは失言だったな。

 直球ではないにしても、意外と素直に自分の心を曝け出したかのん。やはりコイツも文化祭に誘ってきただけのことはあり、心境にそれなりの変化があったのかもしれない。

 ただここで俺がそれに応え過ぎて彼女やみんなを即受け入れてしまうと、彼女たちは甘えてしまって無条件に俺の告白を受け入れてしまうだろう。そうなったらもう彼女たちは自分を表に出すことをやめてしまい、成長も止まってしまう。だって俺が受け入れてくれるのであればそんなことをする必要はないからだ。そうならないためにも、こうして一緒にいてもっと自分から素直な一面を曝け出すようにしてやらないとな。

 

 そんなことを考えている中で、向かいに座っている可可と千砂都はジト目でこちらを見つめていた。

 

 

「なんだよその目は」

「な~んだか、かのんちゃんにだけ対応違いすぎません?」

「今は可可たちと一緒なんデスよ? 他の女子に色目を使うのはやめてくだサイ」

「いや対応が違うって、お前ら制服だから褒めるところねぇし、教え子が可愛い服着てたら感想を言うのは当然だろ」

「「ふ~ん……」」

「露骨に不満そうにすんなよ……」

 

 

 いやめちゃくちゃ理不尽だからなこの状況。だってこのクラスに行こうって言いだしたのはコイツらだし、かのんのコスプレを褒めようと言ってきたのもコイツらで、先に褒め殺しをしたのもコイツらだ。更に言えば俺にもかのんを褒めろと言ってきたのもこの2人。なのにかのんを褒めたらこの様子って、じゃあどうすれば地雷を回避できたんだよ……。

 

 

「だったらお前らもコスプレすればいいじゃねぇか。俺に見せてみろよ」

「「えっ?」」

「そうだよねぇ~。可可ちゃんは同じクラスだから元々衣装はあるし、ちぃちゃんにも似合うのたくさんあるよ♪」

「かのんちゃん、笑ってるけど笑ってないよ……」

「ん~? 今まで褒め殺しに殺してきた人が、自分だけ逃げるだなんてしないよねぇ~?」

「かのん怖いデス……。ここは喫茶店なのデスから、もっと笑顔で接客を……」

「なに?」

「ひっ!?」

 

 

 やさぐれモード時のツリ目かのんが現れた。

 そんな感じで裏方へと連れ込まれた千砂都と可可。かのんの奴、今まであの2人に散々褒め殺しにされてきたからそろそろ堪忍袋の緒が切れる頃かと思っていたが、意外とここまで長かったな。俺の一言がなければまた泣き寝入りしていたところだろう。

 

 そうやってデート相手も接客店員も失った俺だが、クラスの子たちが気を利かせてくれたおかげで注文することには成功する。

 そして女子高生が入れてくれたコーヒーを飲みながらアイツらの登場を待っていたのだが――――

 

 

「先生! 可可ちゃんとちぃちゃんのお着替えが終わりました!」

「ちょっ、ちょっとかのん押さないでくだサイ!」

「分かった分かった! そんなに押さなくていいから!」

 

 

 ようやく着替えた2人の姿がこの世に出る。

 可可はメイド服。もちろん露出は控えめであるが、カチューシャやフリフリのスカート、ガーターベルトなどメイド衣装の基礎はしっかり抑えてある。可可のような天真爛漫な性格にはピッタリの可愛らしくも愛らしい衣装だ。

 千砂都はチャイナ服。スレンダーな女性御用達のような衣装なので、細身の彼女にとってはこれとない。スリットから綺麗な美脚も見えており、スカートとは違ってチラッと見える程度なのが逆に目を奪ってくる。可可のメイド服共々これは欲情を煽る衣装なのではないかと疑ってしまう。

 

 

「へぇ、いいじゃん。お前ら自分のキャラってものが良く分かってるな」

「それ誉め言葉なんですか……? なんかチャイナ服って身体のラインがガッツリ出ていて、スタイルちんちくりんな私が着ると幼く見える気が……」

「それがいいんじゃねぇか。それにダンスの練習着はいつも薄着で、そっちの方がライン出てるだろ。今更恥ずかしがってどうする」

「なるほど、かのんちゃんの気持ちが分かったよ。普段着は恥ずかしくないのに、媚びるための衣装を着たら恥ずかしくなるこの現象……」

「うんうん、理解してくれて助かったよ」

 

 

 そういうものなのか。俺は見る側専門でそういったコスプレはしたことないから分からないな。

 

 

「つうか千砂都はまだしも、可可が恥ずかしがるのはおかしくねぇか? お前、次のシフトで着る予定だろ。散々着付けもしてただろうし」

「覚悟の差デスよ覚悟の! こうして誰かに見せびらかされるように着るのは流石の可可でも抵抗ありマス!」

「これで分かったでしょ? 覚悟の違いだって」

「はい……。かのんの言う通りデシタ……」

 

 

 可可も反省の色を見せ、これでかのんに対する褒め殺し攻撃はなくなるのかもしれない。でもかのん自身がこの報復に対して愉悦を抱いているようで、愉しそうにしているのがちょっと怖い。味を占めて今後は立場が逆転しなければいいが……。

 

 ただ、千砂都も可可も他の奴らと比べたら羞恥心には強い方。だからその後は普通に慣れ、そのまま接客の手伝いをしていた。俺に対してだけはかのんを含め他のクラスメイトたちも加わって代わる代わる接客してきたせいで、周りからはコスプレJKを侍らせる謎の男と思われていた可能性があるけども……。

 

 

 そんな中、店の中が少しざわつき始める。まさか俺だけ店員に贔屓されてることが噂になっているのではと思ったが、目線がこちらに集中してるわけでもないのでそうではないらしい。

 何があったのかと、同じく疑問に思った可可がクラスメイトに話しかける。

 

 

「どうかしたのデスか?」

「なんかね、海外のスクールアイドルの人が文化祭に来てるって噂だよ。すっごく綺麗な人が外にいたって……」

「海外?」

 

 

 無難に文化祭は進行していたが、どうやら何かが起こりそうだった。

 




 そんなわけで文化祭編がスタートしました!
 複数話に分けて連載予定となる予定で、次回ではようやく『あの子』が来るらしいです。



 そういえば虹ヶ咲のOVA映画の公開、および幻日のヨハネがもうすぐ放送されるようで。ラブライブのコンテンツが未だ衰えることなく、何かしらの映像作品が毎年出されていることに驚きを隠せないと言いますか何と言うか……
世間的には無印時代ほどの熱はもうないですが、コンテンツ的にはまだまだ盛り上がっているため、その勢いがあるからこそこの小説を続けられていたりします(笑) オワコンになったらネタ供給がなくなって、小説も書いてないでしょうし(笑)

 ちなみに蓮ノ空も現在第6話まで読み終えました。意外とストーリーの追加が早く、頑張って追っています……!


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