ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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歓迎会はホラーの始まり

 結局、新入部員の歓迎会は無事に行われた。

 とは言ってもかのんたちが作っていた料理が全員分出揃ったのはついさっきのことであり、それまでは俺との恋人ごっこを妄想してトリップしていたために危うく歓迎会の開始が遅延するところだった。ただでさえ放課後開催で日が暮れてるってのに、開始と終了が遅くなったらコイツらの親に謝罪するのは顧問である俺の責任になってしまう。そんな面倒なことにならなくて良かったが、変に恋人ごっこを連想させる発言をした俺のせいでもあるか。いや、コイツらの恋愛レベルがクソ雑魚なだけで俺は悪くない。花咲く女子高生なら恋バナくらいで取り乱さないでくれよ……。

 

 そんなこんなでいい感じに夜になり、星空も見えてきた。秋になって日が落ちるのも早くなり、歓迎会が始まってまだ間もないのにあたりはすっかり暗い。一応中庭の灯りで俺たちのいるキャンプテーブルあたりは明るいが、この学校自体が貧乏なためか学校内にそういった設備があまり整っていない現状がある。そのため夜になると校内は校庭を含めてかなり暗くなり、もはや夜の山の中でキャンプをしているのと大差ないくらいだ。だからこの学校の完全下校時刻は他校と比べて少し早かったりする。そのため学校に残るためには今のコイツらのように申請をした奴らだけに限られるってわけだ。

 

 

「先生、ケーキ取ってきマシタ! どうぞ!」

「可可。あぁ、サンキュ」

「アンタねぇ、さっきから全然食べてないじゃない」

「すみれか。いや俺の歓迎会じゃねぇんだし、アイツらに食わせてやれよ」

「料理作り過ぎちゃったのよね。可可が買ってきたケーキを加えると結構な量になってるわ」

「なので男性の先生がたくさん食べてくれないと、全部捌ききれないのデス!」

「俺割と少食なんだけど……」

 

 

 コイツらが料理を作っている時から食い切れるのかと疑っていたけど、可可がそれなりにデカいホールケーキを買ってきたせいで疑いは確信になった。余ったら各自持って帰ればいいと思うのだが、生憎取り分け用の容器がないためこの場で頑張って消化するしかない。ただコイツらは俺が唯一の男性ってことで期待している様子。しかしさっきも言った通り俺はそこまで食える人間ではない。女の子だったらたくさん食えるんだけどな――――って、うるせぇわ。

 

 

「歓迎会の様子も動画にしっかり収めましたの。これでLiellaファンからの再生数を荒稼ぎして、マニーをガッポガッポ……うひひ」

「夏美ちゃん、また悪い顔になってるっす……。Liellaの動画で得た収入は、部費として使うって決めたんじゃなかったっすか?」

「ま、まぁそれはそれ、これはこれですの……」

「ダメだよ夏美ちゃん。勝手なことは部長として許せません。収益が欲しかったら、夏美ちゃん自身が出てる動画を撮ればいいよ」

「そういえば千砂都さん、1年生の皆さんはまだ自己紹介の動画を撮っていません。メンバー紹介も兼ねて撮影してはどうでしょう?」

「おっ、それいいね! ナイスアイデアだよ恋ちゃん!」

「「「「う゛っ……」」」」

 

 

 1年生の4人は身体をピクっとさせる。

 実はちょっと前に自己紹介動画自体は撮影していたのだが、男に抱かれて顔を真っ赤にしている姿を晒しているだけなのでボツとなった。そしてその動画は2年生たちには公開していない。ただいくらボツになったとは言え1年生たちの記憶にこびり付いているのは確かで、スクールアイドルを始めて早々に黒歴史を作る結果となってしまった。

 まあ俺と一緒にいると嫌でも忌むべき記憶は刻み込まれるもの。ラブコメ主人公のヒロインってのはそうなるもんなんだよ。申し訳ないねぇ……。

 

 そんな感じで世間話が盛り上がりつつある中、ただ1人顔が青ざめている奴がいることに気付く。もしかして食い過ぎで気分が悪くなったのかと思ったが、俺と同じことを察知したもう1人が先に動いた。

 

 

「メイ、さっきから震えてるみたいだけど、大丈夫?」

「し、四季……。さ、さっきそこの窓から女の人が……!!」

「ここは女子高。女の人がいるのは当然」

「ち、違うって!! さっきいたんだよ―――――頭から血を流している女の人が、3階の廊下を歩いてたんだって!!」

「えっ?」

「「「「「「「え゛ぇえええええええええええええええええっ!?」」」」」」」

「んなアホな」

 

 

 メイの突然の暴露に四季は珍しく表情を崩して驚いた顔をし、他の奴らはみんな声を上げて驚愕した。

 そりゃもう夜だし、校内の明かりも消えているためそういったホラームードになるのも分かるが、常識的に考えてそんなヤバい奴が学校を闊歩してるわけねぇだろ。ただ女子高生ってのはそういった噂に過敏なもの。更に小心者のコイツらからしたら意識せざるを得ないのだろう。

 

 なんか、また面倒なことになりそうな気がしてきた……。

 

 

「もう消えたけど、さっきあの3階の遠くの窓から見えたんだって!! ウチの制服を着て、血を流して歩いてる女の人が!!」

「んなわけねぇだろ。暗いから見間違えただけじゃねぇのか?」

「そ、そうかもしれないけど……」

「でも学校と言えば怪談、怪談と言えば学校。切っても切れない関係ですの。ね、かのん先輩……って、どうしてそんなに震えてますの?」

「またお化け!? そういうの苦手なんだから勘弁してよもぉ~~~~っ!!」

「かのん先輩ってホラー系苦手なんすか?」

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」

「今にも泡噴いて倒れそうになってるわね……」

 

 

 ただ校内に女性がいるって情報だけでこれだけ怖がれるの、ある意味ですげぇな。それだけ作詞担当が故に想像力豊かなのが裏目に出たか。そうやってコミカルにビビられると逆に周りの奴らの恐怖感が薄まるから、1人の犠牲でみんなの精神が安定すると思って納得しておこう。

 

 

「ほっとけ、どうせ見間違えただけだろ」

「しかし、去年のように下手に噂が大きくなっても皆さんを不安にさせてしまうだけでしょうし……」

「だったらどうすんだよ……」

「これはLiella探索部隊が調べるしかないデスね! その血に塗られた女性の正体を!」

「いやそう来ると思ったよ……」

 

 

 去年もそんな軽いノリでお化け捜索が始まった気がする。探求心がある奴にホラー話をしたらダメだって。こうなるのは目に見えたし、どうせ途中でビビって先頭を歩くのはいつの間にか俺になってるのがオチだから。

 

 どうにも、こうにも、面倒だねぇ……。

 

 

「それじゃあ部長として、今晩はスクールアイドル部ならぬゴーストハンター部として学校を探索しよう!」

「えぇっ!? ちぃちゃん本気!?」

「わ、私もイヤだからなそんなの!! てか四季は……そういうの好きか。きな子と夏美はどうなんだよ」

「怖いのは怖いっすけど、気になるのは気になったりもする……かも?」

「こんなスクープ映像を撮れる機会は中々ないですの! お化けの香りはイコールでマニーの香り! 胸が躍りますの!」

「全く、仕方ないわねアンタたちは。私もついて行ってあげるわよ」

「と言いながらすみれ、ちょっと震えてマスよ?」

「う、うっさい! アンタもでしょうが!」

 

 

 顧問の意見すら聞かずに勝手に進めやがってコイツら。まあ俺の性格を知っていれば、こんな面倒なことをせずにとっとと帰ると言い出すに決まってるのでそりゃ無視するか。

 そんなわけで急遽メイが目撃したとされる血染めの赤女の正体を探るべく、スクールアイドル部のゴーストハンターが始まった。

 

 つうかハンターって、捕まえてどうすんだよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 半ば強制される形で校内を散策することになった。校内は既に消灯しているためスマホのライトで照らしながら突き進んでいるわけだが……。

 

 

「結局全員来んのかよ……」

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」

「かのん先輩あまり怖がるなよな! こっちまで余計に怖くなるだろ! うぅ……」

「だったら待ってりゃいいだろ」

「みんなと一緒にいた方が怖さ和らぐかなって……」

 

 

 今も普通にビビってるからどちらにせよだな……。

 こんな感じで主にかのんとメイが震えながら付いてきていた。他の奴らも大なり小なり怖くはあるようで、挙動不審だったり周りの様子を常に窺わないと気が済まない奴もちらほらいる。そのせいで他の奴に寄り添っていないと恐怖心が高まるためか、自分の前の奴の服の(すそ)を掴んでおり、その前の奴がまた前の奴の服の裾を摘まむ。そうなると必然的に俺たちは1列の部隊となってしまうわけだ。ムカデかよ……。

 

 そんな中でも恐怖心より探求心が勝っているのが、こういうことに興味津々な四季と、バズりのため赤女を何が何でも写真に収めたい夏美だけだった。

 

 

「職員室にはまだ誰かいると思うけど、流石に生徒はみんな帰ったか。恋、生徒会に居残り届を出してきた奴はいねぇのか?」

「それが、今日は歓迎会のために家庭科室で料理をする予定だったので、本日そういった届け出は理事長が受け取ることになっていまして……」

「なるほど、だから知らねぇってわけね」

「すみません。誰が残っているのか把握していれば、こうやって見回る必要もなかったものを……」

「別にいいよ。廊下だろうが教室だろうが電気はいつでも点けられるし、暗いままってことはどうせ誰もいねぇだろうしな。つうわけだ、一通り見て回って誰もいなかったら、戻って後片付けして帰るからな」

 

 

 みんな頷くが、一番怖がっているかのんとメイは納得してないような感じだ。『お化けが見つからない』=『お化けを見つけられていない』と解釈しているのかもしれない。こういうビビりな奴らをどう安心させるかも教師としての力量が試されてるのかねぇ……。

 

 そうして暗い校舎内を進んでいく俺たち。その途中、俺と共に先頭を歩く四季が話しかけてきた。

 

 

「そういえば先生、外にいたときにかのん先輩が『またお化け』って言ってた。『また』ってどういうこと?」

「それ私も気になっていましたの。もしかして本物が出たな~んて――――」

「あぁ、去年マジで出たんだよ。お化けが」

「「え゛っ!?」」

「「え゛っえぇええええええええええええ!?!?」」

 

 

 四季と夏美の目が丸くなり、メイときな子は絶叫に近い声を上げる。前者の2人もモノホンのお化けがいる事実に驚愕したのか、流石の余裕もなくなっているようだ。

 ちなみに2年生の奴らは体験済みなので、この話題に関しては落ち着いている。それでも去年は浮いてる霊魂たちを見て顔面蒼白だったからな……。

 

 

「そ、そんな……ウソっすよね? 先生さっきまでお化けなんて科学的にあり得ないみたいな顔してたじゃないすか!!」

「ホントよ。ま、そんな仰々しいものじゃなくて、なんていうかその……はた迷惑みたいな?」

「あの時はあの時で、成仏の仕方が結構恥ずかしかったような気も。あはは……」

「「「「??」」」」

 

 

 去年、学園内の井戸の周りに霊魂がたくさん浮遊して、呻き声をあげている事件があった。知り合いの美少女幽霊を呼んで事情を説明してもらうと、それは性欲を持て余した死者の魂であり、ソイツらを成仏させるためにはソイツらの飢えを解消する必要があった。その飢えとは性欲。ただ霊体となった幽霊の性欲を解消することはできないため、目の前で甘酸っぱい愛を見せつけてその霊たちを満足させるという荒業でこの世から成仏させていった。てのが軽いあらすじだ。

 

 つまりその過程で俺に愛を囁かれたのがかのんたち2年生。そして恋愛クソ雑魚のコイツらが俺に抱きかかえられたり、告白紛いなことをされたらどうなるのかお察しのこと。だから今それを思い出して恥ずかしがっているんだ。

 

 

「もし本物がいるんだったら、私の見た血の女も本物にいるってことに!?」

「それは大丈夫じゃないかな」

「千砂都先輩?」

「だって先生が守ってくれるからね。去年お化けが現れたとき、私たちを守ってくれた先生が超イケメンだったんだから♪」

「そうね。ま、まぁ、私と釣り合うくらいにはなってたんじゃないかしら」

「私も、あの時の先生には思わず心が高鳴ってしまいました」

「そ、そんなカッコよかったのか先生……」

 

 

 その話を聞いた1年生たちの頬もほんのり紅く染まる。相変わらず想像力は豊かだなコイツら。てか聞いてるこっちも恥ずかしくなるから、そんなことはこっそり話せよな……。

 

 そんな世間話が発展したおかげか、ビビりにビビっていたかのんとメイの気も少し休まっているようだ。

 そして俺たちは血染めの女がいたとされる3階にやって来る。またしても緊張感が高まるが、今のところ特に怪しい気配などはない。

 

 

「そろそろですの! 遂に赤女を激写するときが来ましたの! その姿をマニーに変えて……フフフ……」

「できれば捕獲して、解剖するのもちょっと面白そう。フフフ……」

「夏美ちゃんも四季ちゃんも怖いっす……」

「下手な霊よりよっぽど化け物だな……」

 

 

 本当にゴーストをハントする気かコイツら……? 思いっきり悪い顔してるし……。

 

 

「バカなこと言ってないで、とっとと見回ってとっとと帰るぞ」

「ひゃぁっ!? せ、先生ぇ……!!」

「ちょっ、急に抱き着くなかのん! 今度はなんだよ!」

「あ、あれ……血?」

「え……?」

 

 

 かのんが腕に絡みついてきた。今日一番の顔面崩壊っぷりに何を見つけたかと思えば、その指を差した先、廊下の床に――――赤い液体が垂れていた。小さな円状の赤い液体がぽつぽつと等間隔に廊下に垂れており、奥へと続いている。そしてL字型の廊下の曲がり角の、更にその先まで繋がっているようだ。

 

 

「ちょっと何よコレ!? まさか本当の本当にいるってことじゃないでしょうね!?」

「そんなの可可に聞かれても困りマス! でもこれはそうとしか思えないような……」

「やっぱり私が見た通り、髪に血がたくさん付いていて、その先からぽつぽつ垂れて……!!」

「じゃあこの先にいるってことかな? その赤い女の人が……」

「ひぃいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 確かに状況だけを見れば現実味を帯びてきた。かのんが奇声を上げるのも仕方がない。

 でも本当にいるのかそんな奴? そもそも何の目的でこの学校に? いくら夜でもこの学校は人の多い都会の中にある学校。そんな血塗れだったらいくらなんでもここに来るまでに誰かに気付かれると思うが……。

 

 

「相当血が付いているようですね。そこの手洗い場にも血の跡があったので、も、もしかしたら洗い流したけど洗い流しきれずに……」

「自分の髪に血がこびり付き。洗い流せない忌むべき印として刻まれている。そしてその怨念が膨らんでいき、この学校に憑依している可能性がある」

「そ、それは更なるバズりが期待できますの……」

「夏美さん、震えていますよ。私も人のことを言えないですが……」

 

 

 コイツらの緊張感が一気に高まって来た。このままだと混乱させかねないが、恐らくこれは――――

 

 

「いや、これは絵具だよ。絵具をここで洗い流す時に、暗くて見えづらいから手洗い場に着色が残ってることに気が付かなかったんだ。同じ理由で、廊下に垂れたことにも気づかなかったのかもな。しかもほら、垂れている絵具の先、角の向こうの教室に続いてるだろ」

「向こうには確か、音楽室や美術室などの特別教室がある場所ですが――――あっ、まさか!」

「あぁ。特別教室で絵具を使うのは美術室だろ? 床の絵具はそっちに向かって伸びている。だからお化けなんかじゃねぇから安心しろ」

「で、でもそう思わせて、実は美術室で血塗れの女の人が待ち構えているかもしれないじゃないですか!?」

「かのんお前、妄想だけは一人前だな……。ったく、安心しろ、もし霊がいたら俺が守ってやっから。お前らには誰にも指一本触れさせねぇよ」

「先生……」

 

 

 Liellaの面々が一斉にこちらを見つめ、ピリついていた雰囲気が少し落ち着いた。

 なんつうか、恋する乙女の香りが9人分も揃うと匂いなんてないのに甘く感じるな。しかもちょっと温度上がった気がするし、コイツらの目が輝いていて期待されまくっているのが見て分かる。もしかしてクサいセリフを吐き続ければ、みんな俺に夢中になって怖さを忘れさせられたかも? いやそんな連続でイタイ発言をしまくると俺の方が羞恥心に溺れそうだ……。

 

 まぁとにかく、美術室まで行ってみることにする。

 

 

「やっぱりここだけ電気が漏れてる。開けるぞ」

 

 

 廊下が暗いためか美術室は締め切ってあっても光が外に漏れていた。ちなみに俺たちのいた歓迎会の場所からでは、この部屋の位置は校舎を挟んでちょうど裏側だったので明かりが点いていることは確認できなかった。

 

 かのんたちは固唾を飲んで俺の後ろに控える。赤女が潜んでいる可能性がゼロとは思っていないのだろう。

 美術室のドアを開ける。徐々に部屋の光が暗い廊下に差し込んでくる。目が光に慣れ、部屋の様子が映し出される――――

 

 

「あれ? 先生?」

「えっ、どうして先生が!?」

「やっほー先生!」

 

「えっ……お前ら、美術部か?」

 

「はい、そうですけど……」

 

 

 中に血塗れの赤い女がいるはずもなく、普通に美術部が部員たちが絵を描いていた。

 ビビっていたかのんたちも、目の前の光景が日常的だと理解した瞬間に警戒を解く。

 

 

「どうしてこんな時間までいるんだよ」

「展覧会が近いんですよ。だから最後の追い込みをしていたんです」

「なるほど。そういや、部員で赤い髪した奴っているか?」

「赤い髪の子……ですか? 部員にはいませんけど、今手伝ってくれている方なら――――」

 

 

「あっ、センセーじゃん! どうしたのこんなところに?」

 

 

「七草、七海……?」

 

 

 現れたのはかのんの友達である七草七海だった。かのんたちスクールアイドルをサポートにもいに貢献している奴らの1人だ。

 それにしても、相変わらず去年と今ではイメージが変わったように見える。前までは三つ編みだったのに今は髪を伸ばしてツインテールになってるし、制服も結構着崩していて、かなりイマドキ女子っぽくなってる。

 

 去年までは言っちゃ悪いがモブキャラに等しかったが、急にキャラ変わったなコイツ。去年の時は明るい性格ってだけの感じだったが、今はちょっと、いや結構掴みどころのない不思議な性格になっている。

 今も向けられている妖艶で小悪魔的な笑み。やはりこちらの何もかもを見透かしているような、そんな感じがした。

 

 

「七海ちゃん、今日は美術部の応援に来てたんだ」

「今日は? ってことは、スクールアイドル部以外の応援もやってたのか」

「え~センセーってば、自分のクラスの生徒のことも知らないのぉ~?」

「全部が全部覚えきれる訳ねぇだろ。つうかお前、絵具廊下に(こぼ)しまくってたぞ」

「えっ、ホントですか?」

「えっ、あれ零したのって七海ちゃんなんですか?」

「あぁ、この赤くて長い髪。メイが遠目でコイツを見て、頭から血を流してると勘違いしたんだよ。コイツの髪、赤って言うよりもそれなりに濃色してるしな。血と間違えたんだよ」

「そ、そうなのか……」

 

 

 さっきの手洗い場はこの美術室から廊下をL字に曲がったところにある。だからそこは美術室とは違って俺たちが元々いた場所から見えて、そこにいた赤毛の七草を見てメイが勘違いしたってところだ。ま、暗かったし、遠目で見たら分かりづれぇわな。

 

 

「女の命である髪を血と勘違いするって、なんか(しん)がーいっ!」

「すみませんすみません! 私の勘違いで!」

「いいよいいよ! センセーのカッコいいところ、見られたでしょ?」

「そ、そりゃ男らしく私たちを引っ張ってくれたところとか、守ってやるって言ってくれたところとか――――って、何言わせんだ!?」

「七草、お前……」

「フフッ、しーっ、ですよ♪」

 

 

 七草は怪しく微笑みながら、口に人差し指を当てる。言いたいことはあったが、コイツの謎の圧に押し負けて何も言えなかった。やっぱ不思議な奴だな……。

 

 

「じゃあ部長さん、もう上がりますね!」

「はい。ありがとう七草さん」

「また明日! かのんちゃんたちも!」

「うん。でもメイちゃんの見た人の正体が七海ちゃんで、本当に良かったよぉ~」

「大変だったみたいだねぇ。でもそうやって先生に抱き着いちゃって、役得なこともあったんじゃないのぉ~?」

「へっ、あっ、す、すみません先生!! 廊下にいる時からずっと……」

「別にいいけどさ……」

「あははっ、かのんちゃんも可愛いね! それじゃあセンセー、また明日!」

 

 

 言いたいことだけ言って、かのんたちの心を掻き乱すだけ掻き乱して帰りやがった。

 本当に、最近はますます何を考えてるのか分からない奴になってきたなアイツ……。

 

 

「ま、本物のお化けじゃなくて良かったな。それじゃあ俺たちも戻って片付けして帰るぞ――――ん?」

 

「きな子もさっき先生に抱き着いてたっす。思い返すと恥ずかしい……」

「守ってやる、デスか……。カッコよかったデス、先生……♪」

 

 

 みんな七草の言葉に惑わされて夢心地になっていた。

 片付け、まさか俺だけやるとかねぇ……よな??

 




 この小説で新章のたびに定番となっているホラー回でしたが、どちらかと言えば描きたかったのは怖がっている女の子の姿だったりします。やはり私も偏屈趣味なので、怖さでブルブル震えている子を見ると、ちょっといいなぁ~とか思っちゃいます(笑)

 そして1話で顔見せ程度に登場していた七草七海(アニメだと『ナナミ』で、2期で生徒会書記をやっていたモブ)が、本格的に登場しました。
 サヤさんと同じくキャラ付けを大きく変更して、ぶっちゃけオリキャラレベルになっちゃってます。オリキャラは本当に至上最低限にして、原作キャラのみで話を進めるのがこの小説の方針です。ただ、Liella編の第二章も第一章と同じことをさせても執筆している自分自身がマンネリになって飽きてしまうため、ちょっとアクセントを付けたいと思い、このキャラ付けで登場させました。
 虹ヶ咲編も第二章では零君の身体のピンチとキスを主題にして、第一章とは別のストーリーを展開してきました。そのため、Liella編も第二章は前回と展開が被らないよう、それでも恋愛面はしっかり織り込んだ、別切り口でのストーリーを展開していきますので、楽しんでいただけると幸いです。




 実はこの小説のオリキャラって500話も連載して、姉の秋葉、妹の楓、母の詩織、幽霊の愛莉の4人だけだったり……。



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