ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

526 / 589
桃金色(ピンクゴールド)の情恋

 何度も言っていることだが、俺はお高くまとまったお作法や場所が苦手だ。

 親が海外で活躍しているためか世間一般で見れば裕福層な家庭で育ったのだが、教育方針が放任主義だったためかこれまで自分の意思欲求に従ってワイルドに生きてきた。そのせいで複数の女の子と付き合うような常識外れの人間になってしまったわけだが、それはそれとして、そういった事情があってか何かに縛られるような雰囲気ってのはどうしても苦手なんだ。

 

 だがそんな俺とは真逆で、付き合っている女の子の中にはお嬢様クラスの子が何人もいる。虹ヶ咲の奴らで言えばしずくや栞子がそうだが、アイツらの家にお邪魔する時はそれなりに緊張してしまう。家で食事をご馳走になることもあるけど、妙に堅苦しい雰囲気が祟って飯を食うのに集中できないのは良くある話だ。

 

 それに飯の方も高級感あふれるお高い料理よりも、女の子が作ってくれる家庭的な手料理の方が俺の口に合う。妹の楓の手料理を始め、歩夢とかも俺によく弁当を作ってくれるし、女の子の愛情が籠った飯の方が美味しく感じるんだよな。それに自分の庶民舌では高級な食材の味なんて見分けられるわけがなく、焼肉もチェーン店で満足できるし、パスタもコンビニの冷凍で味は十分だと思っているくらいだ。

 

 そんなわけで、恋人がたくさんいること以外は真っ当な庶民である俺なのだが――――

 

 

「やっぱりここのレストランのフルコースは上質ね。ここには何度も来てるけど、毎回アタシの舌を唸らせるもの」

「そりゃよかったな」

「あら? アナタの舌には合わなかった?」

「美味いよ。ここまで俺に合う料理ばかりとは思わなかった」

「そりゃそうよ。今日のために歩夢たちからアナタの好みの料理や味付けを聞いて、レストランのオーナーに伝えたんだから。つまりアナタ専用のフルコースになってるってこと」

「マジかよ。金持ちはやることが違うな……」

 

 

 今晩はランジュからの誘いで、彼女の行きつけのレストランで食事をしている。会話でお察しの通りの高級レストランで、しかも俺のためだけの特別フルコースを振る舞うという豪勢っぷり。しかも俺たち以外に誰もいない貸し切りなので、どれだけの金をつぎ込んだらこの状況を再現できるのか想像もできない。まあやることなすことが豪快なコイツだからこそ手を抜きたくはなかったのだろう。

 

 ちなみに料理の味の程はお世辞抜きで普通に美味い。たださっきも言った通り所詮は庶民舌のため、高級素材を使った料理であってもそこらの料理と味の差は分からない。だから美味しいを連呼することしかできないマシーンになってしまうのだが……。

 

 

「この後も最上階に1室しかないスイートルームを予約してあるわ。アナタとの特別な1日だからこそ出し惜しみなんてできるはずないもの。それともこんな豪勢なおもてなしは迷惑……だったかしら」

「いや、全然。お前が考えてくれたデートプラン、隅から隅まで堪能させてもらうよ」

「零……。えぇ、満身創痍になるくらいたっぷり楽しませてあげるわ!」

「かと言って張り切り過ぎるのはやめてくれ……」

 

 

 無邪気な笑顔で俺を搾り取ろうとしてくるランジュ。さっきまで高級レストランに見合う美麗な面持ちで飯を食っていたの、俺から現状満足の言葉を聞いた瞬間に子供みたいに喜びやがった。見た目は美人で性格も高飛車なので寄り付きにくさがあるコイツだが、中身が今の通り意外とガキっぽいんだよな。ステージ上では派手なパフォーマンスで大物感を出してるのに、プライベートではすぐに意地を張ったり対抗心を燃やしたり小物感が目立つ。そういうところが可愛いんだけどさ。

 

 なおそのお泊り会もランジュの提案だ。以前のゲームセンターのような庶民的な遊びではなく、夜にホテルのレストランでディナー、そしてスイートルームに宿泊という成金ムーヴ。だから今日は俺もそれなりにいい恰好をしてきたのだが、やっぱり堅苦しい雰囲気は苦手だ。だが嫌悪感を抱くことはなく、むしろ彼女に誘われたことが素直に嬉しかったりする。そりゃ好きな女とならどこへ行っても楽しいと思ってしまうので、要は付き合う人間が誰かによるのだろう。この人となら苦楽を共にできる、みたいな。

 

 

「張り切るわよ。今日はアタシの番なんだから」

「番?」

「栞子ともミアともキスしたんでしょう? だから今日はアタシの番」

「知ってんのかよ……」

「2人がアナタに向ける表情や態度を見れば分かるわよ。今までより目線が明らかに熱々だったもの」

 

 

 コイツが人の心情を読み取るなんて珍しいこともあったもんだ。周りを巻き込んで突っ走る奴なのでそういうのは苦手だと言っていたのだが、同じく恋する乙女同士なにか感じ取れるものがあったらしい。

 

 言っておくと栞子とキスしたのが一昨日、ミアとが昨日なので、これで3日連続だったりする。まあ女の子と遊ぶ予定が連続するのはいつものことなので、もはや特別なこととは思わないけどな。ただ流石にここまでキスを連打したことはあまりない。記憶に残っているのは4年前のクリスマスシーズンにシスターズとの面々と告白し合った時くらいか。

 

 

「今は食事を堪能するとして、今晩はシャワーを浴びて、抱き合って、キスをして、一緒に寝て……うん、やることがいっぱいでワクワクするわね!」

 

 

 なんかもう性行為をする勢いだけど、あくまで一緒の部屋で宿泊するって意味だよな……? まさか本気でカラダを重ね合わせる気じゃねぇだろうなコイツ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いやマジでヤんのかこれ……」

 

 

 スイートルームのソファに深く腰を掛けながら、シャワーを浴び始めたランジュが出てくるのを待っている。

 この部屋に入るなりその広さと豪華さに驚いたのだが、ランジュはカバンをテーブルに置いてすぐにシャワールームに入っていった。今日も練習があったのでその汗を流す目的だとは思うのだが、食事の際の言葉を思い出すとどうも淫猥な響きにしか聞こえない。どこまで本気なんだよアイツ……。

 

 それにしても、耳を澄ますとシャワーの音が微かに聞こえる。スイートルームなんだから音くらいちゃんと遮断しておけと思うが、もしかしてこれは女性のシャワー音を聞いて男の性欲を暴走させるためのホテル側の作戦なのではとも考えてしまう。そしてものの見事にその術中にハマっているわけなのだが……。

 

 女の子のシャワー待ちなんてこれまで何度も体験してきているはずなのに、やはりムードとシチュエーションが故なのかいつも胸の高鳴りが抑えられない。これから自分のために、自分に抱かれるためにそのカラダを綺麗にしてくれていると思うと……うん、その献身的な愛に自尊心が高められる。これから男に抱かれますよって自ら言ってるようなものだからな、そりゃ支配欲も唆られるって。まあ今回はアイツが本気なのかどうか分からないけども。

 

 

「ふぅ、スッキリしたわ」

「え゛っ……!?」

 

 

 そんなこんな考えている間にランジュがシャワールームから出てきた――――バスタオル1枚を纏っただけの姿で。

 女性の湯上り+バスタオル1枚という破壊力はこれまで何度も味わっているが、もちろん男の性を刺激するその艶めかしい光景に慣れるなんてことはなく、毎回息を呑んでしまう。しかも持ち前のスタイルの良さが前面に押し出されており、もはやタオル1枚で覆いつくせるほどのカラダではない。タオルに押さえつけられた胸が今にも飛び出しそうになっていたり、すらりと伸びた脚と肉付きの良い太ももが(あら)わになっていたりと、スタイル抜群なせいでそれなりの大きさのバスタオルであっても全てを隠し切れていない。見えないところはもう胸の先端と秘部くらいと本当に大切なところだけだ。しかもそれすらも見えそうになっているという……。

 

 

「お前なぁ、男と2人きりなのにそんな恰好で現れるなよ。自分から襲ってOKって言ってるようなものだぞ」

「アタシ、お風呂上りはいつもこの格好だから。湯冷めするまで何も着たくないのよ」

「目の前にいるのが俺で良かったな。女慣れしてない男だったらすぐに押し倒されてたぞ」

「大丈夫。こんな姿は零にしか見せないから。他の男はもちろん、女の子であってもね」

 

 

 ランジュはウィンクするとソファに座っている俺に隣に腰を掛ける。しかもほぼ密着する状態で。こんな痴女みたいな言動をどこから学んで来たのか、それとも天然で男を誘惑する才能があるのか。どちらにせよ自分の武器を最大限に活かしてやがる。ここからどんな攻撃を仕掛けられるのか身構えざるを得ない。

 

 

「…………」

「急に黙ってどうした?」

「ここからどうすればいいのかしら?」

「はぁ?」

「こうしたら零が襲ってくれて、あとは身を任せて気持ち良くなればいいって言ってたのに……」

 

 

 ランジュはきょとんとした顔でこちらを見つめる。いやその顔をするのはむしろ俺の方なんだけど……。

 さっきまでは男を誘うお手本の動きを完璧にできていたのにも関わらず、俺の隣に座った瞬間に急に動きが止まった。しかも本人はどうすればいいのか分からなくなってるってことは――――

 

 

「誰に吹き込まれたんだ……?」

「えぇっと、かすみ……とか、しずく……とか、璃奈、愛、彼方とか、あとは果林にエマ」

「多いな。なんとなく想像つくけど」

 

 

 虹ヶ咲チルドレン9人の中でも肉食系の連中ばかりじゃねぇか……。性的なことにはまだ恥じらいを感じている歩夢とせつ菜以外と言った方がいいか。

 アイツらが純粋なランジュに余計な入れ知恵をする姿が容易に想像できる。ただ単に俺とコイツを恋人にしてやろうと思ってるのかもしれないけど、その善意を感じるのはエマくらいで、他の6人は絶対に悪意を持っているに違いない。しかもこの程度で俺がコイツを襲うなんて考えてるみたいだけど、随分と俺の性欲を侮ってるなアイツら……。

 

 

「とりあえず、アナタに脱がされるのを待っておけばいいのかしら?」

「馬鹿。んなことするわけねぇだろ」

「えっ、もしかしてアタシに魅力がない……とか?」

「ちげーよ。大切だからだよ、お前のことが。だからそう簡単に脱がして押し倒したりしない。それにお前、今は他の奴らに吹き込まれたことを実践しようとしてるだけだろ。俺に脱がされたいと思っている気持ちが100%お前の本心ならまだしも、そんな中途半端な覚悟の奴を相手になんてできねぇよ」

「!?」

 

 

 コイツは男どころか恋愛の『れ』の字も知らないくらいに純粋なので、どう俺の気を惹けばいいのか分からいのだろう。だからアイツらに吹き込まれたことを試しているようだが、自分の魂が籠っていない誘惑に俺は靡かない。シャワー浴びたての艶やかな肌+バスタオル1枚の姿にドキッとしたりはするが、それはそれ、これはこれだ。男だったら女性の外見で反応してしまうのは仕方がない。でもそんな奴に誘惑されても自分を魅せようとはしない誘いには乗らないってことだよ。

 

 

「アタシ、また人との接し方を間違えてしまったのかしら……」

 

 

 ランジュが俯く。

 コイツってよくこうして曇ることあるよな。同好会に入る前にソロでスクールアイドルをしていた時も、本当はみんなと一緒にやりたかったのにプライドとコミュ障が原因で1人で塞ぎ込むこともあった。そして幼馴染の栞子がみんなと溶け込んでいる姿を見て勝手に落ち込んだりと、何かと曇る様子に定評のあるイメージがある。普段が天真爛漫で自信家なので、そうやってイキっている時とのギャップが凄まじい。そしてサディストな心を持つ俺からしてみれば、強い奴が曇る表情を見るのは結構好きだったり。嗜虐心ってやつだ。だからそんなコイツを見続けるのもまた一興だったりする。

 

 ただ、今回は――――

 

 

「んなことねぇよ」

「え……?」

「今日お前に誘われことは嬉しく思ってるよ。出会った頃はデートすら知らなかったお前が、男に微塵も興味もなかったお前が、こうして俺と一緒にいたいがためにお泊り会を計画してくれるなんて嬉しいに決まってるだろ。そう、お前の本気が伝わってきたからその話に乗ったんだ」

「零……」

 

 

 この場に誘ってきたときのランジュの表情は、いつもみたいに自身に満ち溢れているわけではなく、むしろその逆で女の子の表情(カオ)となっていた。以前のデートで恋を自覚したと自分で言っていたことから、今回のこの場も自分でプランを練って設定したものだろう。だからこそ誘う時に頬を染めてそわそわしていた。そこには確かに彼女の意思と本気があった。だから嬉しかったんだ。あの無垢な彼女がここまで俺を意識してくれることがな。

 

 すると、ランジュは俺の肩に頭を預け、腕を絡めてきた。ぶっちゃけこれ以上くっ付かれると胸がタオル1枚越しに押し付けられ、その柔らかさを意識せざるを得なくなる。ただ今の彼女は誘惑していると言うよりも、俺の温もりに浸りたいだけのようだ。

 

 

「零って暖かいわね」

「シャワー浴びたお前の方こそだろ」

「身体の方じゃない、心の方よ。他人との距離感が分からないアタシを、他人を置いて突っ走ってしまうアタシを、そして特別な存在だと周りから持ち上げられて孤独でいたアタシを、最初に真正面から受け止めてくれたのがアナタだった。そして今もこうして、自分の意見をアタシに直球でぶつけてくれる。アタシのことを特別に思っていた人たちは何も言わずに離れてしまったから……」

 

 

 何でも天才的な才能を発揮する奴の悩みってことだな。自分が何事も他の人よりできてしまうことから相手に劣等感を抱かせてしまう。褒めてくれはするけど実力『差』を実感させてしまっているのは事実で、さっきコイツが言った通り周りから人が離れていく様子が容易に想像できる。俺も同じ天才肌だからこそ共感できたのだろう。俺の場合は女の子側から寄ってくるタイプだから人がいなくなったりはしてないけど、少なくとも他の一般人よりかは彼女の気持ちを受け止めてあげることができると思う。実際に幼馴染の栞子でさえ劣等感を抱いていたくらいだし、中々受け入れてもらいづらい悩みなのかもな。

 

 

「俺は別にお前を特別なんて思っちゃいねぇけどな」

「それはそうよね。前のゲームセンターでの対決もそうだったけど、アナタにしてみたらアタシ実力なんて赤子の手をひねるくらいに屈服させられるもの」

「そうだな。ムキになって対抗してくるところを見ると、ついつい分からせたくなっちまう」

「みんなが言っていた通りの肉食獣ね。ここまで人の心を掻き乱して、実力でも組み伏せて、それでも乙女心をしっかり掴んで……」

「迷惑か?」

「いいえ。そういう(たくま)しいところに惚れるものでしょ、女の子って」

「一般化し過ぎだ」

「少なくとも同好会のみんなはそうよ。そしてアタシも。アナタの男として優しくて、雄として強いところにみんな惚れて、好きになってる」

 

 

 ランジュは更に強く俺の腕と自分の腕を絡める。自分を真正面から抱き留めてくれる人が見つかって、そこに恋を感じているのだろう。さっきの曇りは全て消えて、頬を染めて小さく微笑んでいる。人にここまで自分の心に歩み寄られたのも初めてだけど、コイツ自身も誰かの心の隣に来られたのは初めてのことなのかもしれない。

 

 

「アタシは好き、アナタのことが。自覚したのは最近だけど、多分心の奥底ではずっと前から根付いていたと思うわ。帰国しそうになったアタシを呼び止めてくれた、あの時から」

 

 

 コイツの曇りが究極となっていたころの話か。あの時は自分にスクールアイドルは向いていないと感じて帰国しそうになっていたコイツを、空港で俺がずっと引き留めていた。ミアや栞子、同好会の奴らが駆け付けるまでな。アイツらが来るまで2人で色々話して何とかこの場に留まらせようとしてたっけ。

 

 元から俺はコイツのことは嫌いではなかった。むしろ1人であろうとも自分の信念を貫くその姿勢は評価できたし、だからこそ俺が気になる女の子の1人となってしまった。侑に厳しい言葉を投げていたのもコミュ障が故に伝え方がキツかっただけで、侑自身もコイツの言葉に前向きになれたと公言するくらいその主張には説得力があった。

 

 自分の中にここまで確固たる芯が通っている子はあまり見たことがない。仲間が欲しかったという思いは押し殺していたにせよ、それを殺してもなお孤独で輝けるくらいの実力がコイツにはあった。そこが魅力的に映ったんだよ、俺には。実際に日本でソロスクールアイドルを初めてすぐ大量のファンを獲得してたので、俺以外にもコイツに魅力に感じる人は多かったと思う。

 

 そしてそのことを空港で2人きりの時に打ち明けた。そこからコイツの中で何か決壊したようで、流れ出る水の様に感情を吐露し、さっき語っていた自分の特別さが故に仲間がいなかった過去を話してくれた。

 そこからだったのだろう。俺たちの距離が急接近したのは。そしてコイツは、自分の過去とありのままを初めて受け止めてくれた男に徐々に惹かれていった。

 

 そして、そんな弱さを目の当たりにした俺も少しずつコイツを意識するようになっていた。弱みを知ったから気になったって趣味の悪い奴みたいだけど、俺はその子の本心を知った時が一番惹かれるんだよ。裏表を全て曝け出した、その時が。

 

 

「もっと知りたい、アナタのことを。心だけじゃなくてもっと、もっと違うところでも……」

「それがお前の本気の本心か」

「えぇ。誰に指導されるわけでもなく、吹き込まれたわけでもない。こういう気持ちなのね、繋がりたいって」

「あぁ」

「キスしていい? するわね」

 

 

 衝動を抑えきれなくなったのか、ランジュは目を瞑り、こっちの返事を待たずして俺に唇を押し付けてきた。

 この時を待っていたかと言わんばかりに強く吸い付いてくる。キスの仕方でも本人の性格が出るというがまさにその通りで、彼女らしい力強さをひしひしと感じる。カラダごとこちらに擦り寄わせて来る勢いのため、もう彼女の上半身を全て受け止める形となっている。もちろん押し付けられる唇の進行も同時に受け止める必要があり、しかも舌まで当たりそうになってくらいに濃密で濃厚。唾液音も卑しく鳴り響き、漏れ出した淫猥な吐息に緊張させられる。抑えていたキモチを全て俺に注入する気概を感じた。

 

 甘くて熱い。今の彼女の愛をたっぷりと伝えられていた。

 

 そして十分に堪能(俺は受け止めるので必死だったが)したのか、ランジュは唇を離す。その際にも吐息が漏れ出すあたり、俺たちがどれだけ密着していたのかが分かるだろう。

 

 

「んっ……。はぁ……。いいわね、こういうの……」

「そっか。お前が満足してくれたのなら良かったよ」

「えぇ。スクールアイドル以外でここまで夢中になれるのは初めてだわ。これが恋ってものなのね……」

 

 

 初めての気持ちを粘液接触で確かめ合い、頬を緩めるランジュ。誰かとここまで深く繋がれたのは初めてだと思うので、今まさに味わったことのない幸福アドレナリンが大量に分泌されていることだろう。でなきゃこんなに嬉しそうな顔はしないだろうしな。

 

 そして、これで虹ヶ咲の面々とは11人目のキスとなった。いつもの通りで例のごとく、俺の身体は燃え滾って溶けてしまうかのように熱い。流れ出る汗も凄まじく、冷水を滝のように浴びて洗い流したいくらいだ。ただここを耐えれば俺が女の子の愛を受け入れる許容量が増えるらしいので辛抱のしどころ。身体内の臓器という臓器が焼け落ちそうなくらいに熱いけど、これが女の子のためだと思えば我慢できる。いやしなければならない。

 

 

「汗凄いわよ。大丈夫?」

「あぁ。シャワーを浴びばかりのお前が隣にいるんだ。そんな体温の女の子に抱き着かれたら汗もかくって」

「そう。でも無理はしちゃダメよ。そうだ、これからは自分1人で突っ走らないよう、他人の顔色から何もかも察せられるようになってみせるわ。そうすれば零が無理をしていても一目で分かるもの」

「メンタリストかよ……」

 

 

 コイツもコイツで成長しようとしているんだな。何もかも察せるカウンセラーになれるのかは……大雑把な性格上キツイんじゃねぇか?? まあ本人が変わろうとしているのなら応援しておいてやるか。

 

 

「そうだわ! これでお互いに気持ちを伝えあったわけだし、このバスタオル、取ってもいいわよね?」

「えっ……? いや待て、ファーストキスしていきなりベッドインは早すぎるって!」

「そう? でも璃奈たちが見せてくれたアレなんて言ったかしら……同人誌? とかでは出会って数秒でやることやってるけど」

「もうアイツらから学ぶのやめろ……」

 

 

 今日分かったこと。

 その1:ランジュが抱く本当の愛

 その2:同好会の奴らからアドバイスを貰うな

 

 

以上

 




 今回はランジュ回の最終章で、R3BIRTH編も同時に完了です!
 恋愛も知らず男も知らない子と出会う→悩みを解決する→惚れられる→キスという王道の展開を辿ってきましたが、ぶっちゃけこの小説は王道から外れたことばかりしているので、意外と普通の方が新鮮だったりします(笑) 


 作中でも零君が言っていましたが、これでキスノルマが同好会12人中11人が完了して、残り1人となりました。
 こうして見るとたくさんの女子高生相手に代わる代わるキスしているのって、それこそ普通じゃない気が……(笑)



 以下、今後の予定です。ネタバレOKの方のみどうぞ!






 3/ 6(月) 歩夢メイン回
 3/13(月) 侑メイン回
 3/20(月) 虹ヶ咲編2最終回
 3/27(月) 特別編

 



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。