ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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一足早いウェディング

 今日の舞台は結婚式場。白を基調とした神々しいチャペル。たまたま近くを通りかかって遠目で見ることはあっても、こうして実際に脚を踏み入れるのは初めてだ。こんな綺麗な土地を俺のような穢れた足で踏みつけるのは少し申し訳ないな。

 

 式場に来たってことで、恋人がたくさんいる中からとうとう結婚にまで漕ぎつけた女の子がいるのか!? と思われるかもしれないが、今日はただ単に果林のモデルの仕事についてきただけだ。いくらなんでも大学生で結婚はまだ早いだろ。まあ俺本人が二十歳になる前にスピード結婚した父さんと母さんの息子なんだけどさ……。

 

 ちなみに俺と同じく付き添いで来ている女の子が1人。藤黄学園の2年生で果林の大ファンである綾小路姫乃だ。

 

 

「果林さんのウェディングドレス姿を生で見られるだなんて、もう今からワクワクが止まりませんよね? ね!?」

「分かってるっつうの。それを俺に聞くの今日で何回目だよ。ここの来る前からずっと言ってるだろ……」

 

 

 見た目も性格も清楚で大和撫子を体現したような彼女なのだが、果林ガチ勢すぎてアイツが絡むと今の様にテンションが爆上がりする。いつものお淑やかな様子はどこへやら、この撮影場所に来るまでに何度も自分の中の抑えきれぬ楽しみを俺にぶつけてきている。まあこれでも以前は果林の前でアガリっぱなしだったから、今みたいに恥ずかしがらずに欲望を解放できているという点では成長(?)なのかもしれない。アガってる奴を宥めるのとテンション爆上げの奴を相手をするのではどっちが楽かって話もあるが……。

 

 そんなわけで俺たちはチャペル内の来賓席に座りながら果林の着替えが終わるのを待っている。奥の壇上では撮影のスタッフたちがせっせと準備をしており、モデルの写真を数枚取るだけでも中々の大仕事なんだと実感させられるな。

 

 

「結婚かぁ……」

「なんだ? 相手でもいるのか?」

「いえいえそんな!」

「告白されたこととかないのか? あぁ、女子高だからそんなのはねぇか」

「中学の頃なら何度か……。でも全て断りました。なんというか、男性とどう接したら良いのか分からなくて……」

「典型的な箱入り娘だな……」

 

 

 見た目の雰囲気の通りいいところのお嬢様らしいので、男との付き合い方なんて全く心得ていないのだろう。でなきゃ俺と初めて会ったときにあんなに警戒しないはずだ。最初は俺をスクールアイドルたちの純潔を奪いまくるスクールアイドルキラーと勘違いしてやがったからな。まああながち間違いでもねぇんだけど。

 

 

「でもさ、俺とは普通に話せてるだろ」

「神崎さんは何度もお会いしていますし、果林さんや虹ヶ咲の皆さんからもお話を聞いて信頼できるお方だと知っていますから」

「そうか。お前可愛いから、そうやって男に慣れていけばすぐ結婚くらいできるだろ」

「うっ……!!」

「なんだよ急に……」

「可愛いって……なるほど、これが果林さんたちが言っていた神崎さんの無自覚攻撃ですか……」

 

 

 綾小路は頬を染めてそっぽを向く。

 そもそも無自覚で言っているつもりはなく、そりゃ可愛い子を見たらカワイイって褒めるのが普通だろ? せっかくその子の持ち味なんだから褒めてあげないと損だ。だからと言ってかすみみたいに執拗に押し付けてくるのはウザイけども……。

 

 それにしても結婚か。俺もみんなも現状で満足している感もあるし、あまり考えたことはない。そもそももし結婚式を挙げるとして、俺って何回式に出ればいいんだよって話だ。1ヶ月間毎日出席し続けなければならないくらいに女の子がいるってのに。毎日誓いのキスをするってのも、慣れてしまって後半は事務作業になりそうだな……。

 

 そんなことを考えている間にも綾小路は待ちきれずじっとしていられないようで、自分から進んでスタッフの人の手伝いをしに行った。

 しばらくして俺の席へと戻ってくる。

 

「果林さんの着替えが終わったみたいですよ! 一足先に私たちに見せてくださるそうです! さぁ、早く行きましょう!」

「分かったから引っ張るなって!」

 

 

 もう漏れ出すテンションを抑えきれない綾小路に、半ば引きずられる形で果林のいる部屋へと向かう。

 部屋の扉の前に立ってみると、新婦の花嫁姿と今まさにご対面する新郎の気分になる。ただの撮影なのに妙に緊張するのは俺がこれまで体験したことのないシチュエーションだからだろうか。女の子が目の前で脱ぐ時よりもドキドキしているかもしれない。ぶっちゃけ女の子の全裸姿の方が慣れちゃってるから、畏まった姿を見る時の方がそりゃ緊張もするだろう。相変わらず歪んでるな俺の人生……。

 

 

「果林さん、綾小路です。入ってもよろしいですか?」

『えぇ、いいわよ』

「失礼します」

 

 

 綾小路が扉を開ける。

 すると目の前に眩い光が飛び込んで来て思わず目を瞑る。部屋の明るさは普通なのだが、目の前の光景が自分にとって眩いがゆえに目を瞑ってしまうあの現象だ。これほどまでに『美しい』という言葉を形として目にしたことがない。

 

 

「いらっしゃい。姫乃さん、零さん」

「果林さん……」

 

 

 もちろんだが果林はウェディングドレス姿だ。ただ俺も綾小路も彼女の想像以上に麗しさに目を奪われてしまう。純白のドレスに身を包み、持ち前の端麗な顔立ちも相まって『美』が現世に降臨したかのような風光明媚の雰囲気。自分の知っている女の子の中でも美人の部類に入る奴はそれなりにいるが、ソイツらがウェディング衣装を着たらここまで美的な色気が高まるのか。もはや目の保養を通り越して盲目になっちまいそうだ。

 

 

「あら、2人共固まってどうしたの? まさか私があまりにも綺麗すぎて驚いちゃったかしら?」

「それはもちろんそうですよ! 今にも眼が焼けて視力ゼロになってしまいそうです!!」

「そ、そこまで持ち上げられるとは思ってなかったわね……」

「似合い過ぎていてもう……もうって感じですっ! もし私が結婚する時は、ウェディングドレス私の代わりに着てください!! そちらの方が全人類、何より私が悦ぶので!!」

「褒め方が限界を突破し過ぎてとんでもないこと言ってるわよ……」

 

 

 果林のウェディングドレス姿にキャラ崩壊までして舞い上がっている綾小路姫乃。

 ただコイツの言わんとしていることも分かる。男の俺も見惚れるほどだが、女性側からしてみても憧れの姿だと思う。果林はモデルとして活躍しているためか女性人気も高く、まさに大人のお姉さんという感じで学生たちからの注目されるほど美麗な容姿をしている。そんな奴がウェディングドレスなんて姿を晒してみろ、綾小路みたいにガチ勢なら発狂するし、そうでなくても惹かれてしまうのは当然だろう。

 

 

「零さんはどうかしら? この格好、初めて着てみて自分では似合っていると思っているのだけど……」

「あぁ、綺麗だよ」

「えっ、それだけですか神崎さん!? もっとこう、果林さんファンとして言うべきことがたくさんあるのでは!?」

「お前みたいな果林オタクと一緒にするな。虫唾が走る」

「大丈夫よ姫乃さん。零さんは毎回一言に全てを込めているの。だからたった一言でも褒めてもらえるだけで嬉しいのよ。それに多分心の中ではそれなりに緊張しているはずだから、フフッ」

「どうだかな」

 

 

 流石は察しがいいっつうか、コイツもコイツで俺のことガチ勢だからこっちのことを隅から隅まで理解してやがる。つうか好きな奴のウェディングドレス姿を見て緊張しない奴はいねぇだろ。それこそさっき言ったみたいに結婚を何度も繰り返して事務作業的にならない限りはな。

 

 

「でもまさか、結婚前にあなたにこの姿を見せてしまうとは思わなかったわ。これだと本当に結婚した時に魅力が半減しちゃいそうね」

「なんだ、式を挙げるつもりだったのか」

「むしろなかったの? まさか女の子たちを侍らせてお世話させて働かせるだけの主従関係だったのかしら? ま、私も歩夢たちもあなたの隣にいられればなんでもいいけど」

「亭主関白……!? 確かに神崎さんってこう言っては申し訳ないですけど――――偉そう、ですもんね……」

「おめぇらがどんな目で俺を見てるのかよ~く分かったよ……」

 

 

 かと言って今更この性格が治るかって言われたら、それはもう無理だろう。侑からはつくづく上から目線だの、ミアからはランジュより圧倒的に癪に障ることがあるだの、他の奴らからも散々な言われようだからな。別に意図して偉そうにしているわけではないのだが、逆にナチュラルに偉そうだから救いようがないのか……。

 

 

「神崎さんと果林さんはそのぉ……もうご結婚を考えているのでしょうか?」

「そうねぇ、ゆくゆくはってところかしら?」

 

 

 果林はこちらを見てウィンクをする。相当やる気のようだ。もしかして結婚式は余計だと思っていたのは俺だけで、他のみんなもやりたいと思ってんのかな。マジで1ヶ月ずっと結婚式を挙げるハメになっちまうぞこれ。1回で済ませてくれれば助かるが、それだと誓いのキスを一気に30人近くすることになる。もう後半戦は俺の唇がふやけてるだろ……。

 

 

「あなたにはそういう人はいないの?」

「えっ、私ですか!? 神崎さんにも聞かれましたけど、私ってそんなに彼氏いなさそうですか……?」

「あなたみたいな絵にかいたのような大和撫子は見たことがない。つまりその魅力を他の男性が放っておくわけがないと思っただけよ」

「さっきも言いましたけど、そういうのはあまり良く分からなくて……。もっとこう、お互いによく知った関係で気兼ねなくお話しできるのであれば良いのですが、結局そのためには試しにお付き合いしてみないという循環に陥ってしまって……」

「あら、その条件に当てはまる男性なら1人いるじゃない。ここにね」

「「へ??」」

 

 

 ここにいる男って……俺!?

 果林と綾小路の目線がこっちに集中する。

 

 

「か、神崎さんが……わ、わわわわ私と!?」

「落ち着け。おめぇもいきなり何言い出すんだよ」

「だって姫乃さんにとって『お互いによく知った関係で気兼ねなくお話しできる』に当てはまる男性は、零さんしかいないじゃない」

「それはそうですけど……」

「ほら、だったらちょうどいいと思うけど」

「マッチングアプリの登録情報を見ただけ、みたな軽い気持ちで決めんなよな……」

 

 

 綾小路が怯むのも分かる。俺とコイツの関係は果林たちみたいな親しい関係でもなければ、かと言ってまるっきり他人かと言われたらそうでもない。綾小路たちのグループとは虹ヶ咲も参加するライブでよく顔を合わせるからな。その時にコイツは律義な性格もあってか、顧問と思われている(実際にはただの部外者だが)俺にも挨拶をしてくるんだ。合同ライブの打ち合わせの場にも毎回コイツが出席してるし、それで気兼ねなく話せるようになった仲と言えばそうだな。まあ一時期はスクールアイドルキラーとして警戒されてたけど……。

 

 

「私が神崎さんと……私が神崎さんと……」

「おい果林、アイツ戸惑ってんじゃねぇか。イジるのも大概にしておけよ」

「そうかしら? あの妄想に耽る乙女な表情、結構脈アリなんじゃない?」

「妄想させたのはお前のせいだろ……ったく」

 

 

 とりあえず乙女チックな妄想に支配されている綾小路を近くのソファに座らせておいた。頬を紅くして壊れたレコードみたいに同じことを呟いている。恋とか男関係に弱そうだもんなコイツ。

 そしていつの間にか目を瞑って眠ってしまった。それでもずっと同じことを呟いているあたり、妄想が夢となっていることが分かる。

 

 

「これでようやく2人きりね、フフフ」

「なんだその不敵な笑みは。まさかこの状況を作るためにアイツを戦闘不能にしたんじゃねぇだろうな……?」

「そんなわけないでしょ。あなたと2人きりになるくらいいつでもできるし、そもそもこの場にあなた以外を呼ばないわよ」

「毎回思わせぶりが過ぎるんだよお前は。俺以外の男だったら余裕で手玉に取れただろうな」

「あら、私ってそんなにドSに見える?」

「見える。普段の生活はズボラなのに、如何にもできるお姉さんっぽく下級生にちょっかいを出してる様を見て微笑ましく思ってるよ」

「そ、そんなところまで分析しなくてもいいから!」

 

 

 下級生には秘密にしているみたいだけど俺はエマと彼方から聞かされて知ってるぞ。エマに掃除をしてもらわないと部屋がものの数日で散らかることも、意外と寝坊しがちなこともな。モデルとしての体型維持のため食事には気を使ってるから料理はある程度できるみたいだけど、それ以外の家事はそれなりに壊滅的のようだ。そんな奴がその素性を隠して、まるで弱点なしの魅惑のお姉さんみたいな感じでかすみたちをからかってるのが微笑ましくて仕方ないんだよ。本人の名誉のために口封じされているのだが、こちとらいつでもその封印を解除してお前の本性を白日の下に晒せるから覚悟しとけ。

 

 ただ中身はともかく外見の素材が完璧なのは間違いなく、改めてウェディングドレス姿を見てみるとその華やかな衣装と彼女の艶やかな顔立ちと雰囲気が程よく合っており、もはや似合っている以外の語彙が消滅するくらいには目を奪われてしまう。部屋に入ってから少しの間一緒にいたのにまだ慣れないのかと思うかもしれないけど、いずれ自分と添い遂げるであろう美人のドレス姿に見惚れない男はいないだろう。

 

 

「果林」

「なに?」

「お前さっき『本当に結婚した時に魅力が半減しちゃいそう』とか言ってたけど、そんな心配はない。好きな女の晴れ姿ってのはずっと見ていられるから」

「えっ!? いきなりデレてどうしたの!?」

「顔赤くなってるぞ」

「そ、それはあなたが唐突に褒めて来るから……。そんな流れじゃなかったじゃない」

 

 

 こうやって余裕ぶってる奴に対しては逆に素直に気持ちを伝えた方が効果的なんだよ。そして攻めっ気がある奴に限ってストレートに褒められると弱かったりする。可愛さの押し売りをするかすみも、俺からの素直な誉め言葉を受けると素のテンションに戻るしな。

 

 

「俺を手玉に取ろうと思った仕返しだよ。そもそもお前こそ俺以上に緊張してるだろ? でもウェディングドレス姿を俺に見せびらかして褒めて欲しいから、俺を撮影現場に呼んだ。違うか?」

「う゛っ……。なるほど、何もかもお見通し。相変わらずね」

「ま、これでも人並み以上に女性経験はあるからな。そう簡単に俺の上に立つことはできねぇぞ」

「そうやって上から目線で女の子を屈服させて支配するあなたのこと、私大好きよ」

「そこまで鬼畜ではないと思うが……」

「でも歩夢たちも同じことを言ってるわよ? あなたのそういうところに惚れたのだから当たり前だけど」

 

 

 もしかして俺の偉そうな性格ってコイツらによってより一層形成されてないか? そうやって何でもかんでも俺を持ち上げるから無意識に自分も調子に乗ってしまうのかもしれない。

 

 

「なんにせよ、変に誘惑しなくてもお前の魅力は分かってるっつうの。おとなしく俺に身を委ねておけばいいってことだよ」

「そうね。参ったわ、降参。あとは好きにしていいわよ」

「それはここで押し倒してもいいってことか……? いやしねぇけどさ」

「でもあなたそういうの好きでしょう? 純白で穢れを知らない女の子を自分の色に染めることが。このウェディングドレスも真っ白も真っ白で、神聖な衣装であるこのドレスを自分の欲望のままに汚すことができるんだもの。あなた好みのシチュエーションよ」

「自分のことを理解されてるのもそれはそれで怖いな……」

 

 

 コイツら俺のことを知り過ぎているがゆえに、俺のニッチな趣味まで把握されているのがメリットでもありデメリットでもある。俺の性癖に応えてくれることもあれば、こうしてイジりの対象にもされるので困ったものだ。

 

 まあ今回のウェディングドレスについては……うん、欲望のままに汚すことができたらそれは楽しいだろうとは思う。ただこれからそれを着て撮影だってのに、ここで押し倒して乱れさせたらそれこそ鬼畜と言われかねない。良識はあるから、これでもね。

 

 

「押し倒すことはできなくても、結婚ごっこくらいはできるわよね?」

「えっ、お、おい!」

 

 

 果林はいきなり抱き着いてきた。お互いに顔を見合わせる。

 結婚ごっこ。花嫁とこうして向かい合っているこのシチュエーションはまさに誓いの席そのものだ。そして果林は今か今かと俺からのアクションを待っている。唇を潤わせ、少し口を開いている様子を見たらやることは1つしかない。

 

 お互いに見つめ合ったまま、さっきまでの気軽なムードが一転。もうお互いが相手のことしか見えていない、いわゆる2人きりの世界となっていた。しかも相手の女の子が唇を気にしながら男に何かを求めている、となれば――――

 

 

「ん……」

 

 

 俺は自然と彼女にキスをしていた。

 花嫁姿の子とキスをしていると本当に結婚式で誓いの口づけをしているかのようだ。しかも抱きしめ合っているせいで俺の手にウェディングドレスの感触が伝わってきており、果林も自分の衣装が特別なためかいつもより欲が出ているようで、息を漏らしながら俺の唇に強く吸い付いてくる。僅かに唾液の水音も聞こえるあたりキスの密着具合が良く分かる。唇からも全身からも彼女の体温が伝わってきて、女の子特有の甘い香りが鼻腔を唆ってより相手を求めてしまう。コイツも俺に夢中になっているが、俺もそうなりかけていた。

 

 しばらくお互いを堪能した後に唇を離す。それからもまたお互いを見つめ合っていたのだが、果林の表情は思いっきり蕩けていた。

 

 

「久しぶりね、この感覚……。ウェディングドレスを着てあなたとキスするなんて、みんなが聞いたら嫉妬しちゃうかも……。でもそれくらい幸せなことだわ……」

「これでお前らが満足してくれるのなら、別にいつでもやってやるよ――――ッ!?」

「ん? どうしたの?」

 

 

 カラダが熱い。秋葉の言っていた歩夢たちとキスをすることで、俺の中の女の子の愛を受け止めるためのキャパシティが広がる現象がいつも通り発生しているらしい。この熱さはそのミッションの影響だと思うのだが、最近は最初の頃と比べると発熱の温度が明らかに高くなってきている。こうして女の子に気にされるくらいになっているのだが、コイツらに余計な心配はかけられないので耐えるしかないか。

 

 

「大丈夫。俺も花嫁とのキスに少し熱くなっただけだよ」

「そう、良かったわ。あなたを本気にさせられて」

「女の子を愛する時はいつでも本気だよ」

「知ってるわ。全力で応えてくれるから、私たちはあなたのことが好きなのよ」

 

 

 言っても自分に全力でアピールしてくる女の子に同じ全力で応えるのは普通のことなんだけどな。その普通のことを複数の女の子相手に満遍なく発揮すること自体が凄いことなのかもしれないけどさ。

 

 

「あっ、もうすぐ撮影の時間ね」

「だったら俺は現場に戻ってるよ」

「だったらこの子も起こして連れて行ってくれない?」

「そうか、綾小路もいたんだった。忘れてた」

 

 

 あんなことがあったから存在を忘れていたけど、そうなると俺たちって人前でキスしてたってことだよな? 寝てんのなら見られてないから大丈夫だけど、果林が変にキスをせがんでくるからバレそうだったじゃねぇか……。

 

 

「ふわぁ……あっ、もしかして寝てしまっていましたか!?」

「えぇ、それはもうぐっすりと。よほどいい妄想だったのかしら?」

「そ、それは……」

「おいあまりイジメてやるなよ。俺、お手洗い行ってくるから先に行ってるぞ」

「は、はい……」

 

 

 俺は部屋を出る。

 そして果林と綾小路、2人きりになった部屋で――――

 

 

「見てたでしょ? さっきの」

「ふえっ!?」

「起きる前から顔が真っ赤だったもの。すぐ分かるわよ」

「す、すみません!! 覗き見するつもりでは……!!」

「謝るのはこっちの方よ。あまり人前で見せるものではなかったわね。でもあなたにも知って欲しかったの。あの人、意外と誠実でしょ?」

「はい。もっとチャラチャラした人と言いますか、女性使いが荒そうな方だと思っていたので。あそこまで女性に真剣なキスをするなんて……って、私が起きているのを知っていたのですか!?」

「ウフフ、ゴメンなさい。でもこれで、あの人との妄想がもっと捗るかもね♪」

「うぅ……」

 

 

 もはや洗脳と言わんばかりの楽園拡大が進んでいた……。

 




 今回は果林回でした!
 長年この小説をやって来てウェディングドレスを披露したのはこれが初めてだったりします。アニメだと凛が着ていましたが、衣装が神々しいのであまりエロ方面でのネタにはできず、思ったより純愛寄りのお話になってしまいました(笑)

 実は構想段階では姫乃ちゃんにもドレスを着せる予定だったのですが、尺の都合でカットされてしまいました。見た目が好きなキャラなのでもっと活躍させてあげたかったのですが、今回だけでも割といいキャラを引き出せたかと思います。


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