ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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かすみんBOX大量発生!

「――――そんなわけで、今日の練習メニューはさっき言った通りで行こうと思います。次は来週のライブのことについてなんですけど――――」

 

 

 いつもの虹ヶ咲学園の校内。いつも通り部室へ向かっているのだが、隣を歩く侑から事務連絡が鬼のように飛んでくる。さっきまで昼寝をしていた影響か頭が上手く回っておらず、そのせいでコイツから押し付けられる連絡が処理できずにパンクしそうだ。あまりの情報過多にそもそも声が耳から反対側の耳へ通り抜けてしまっていた。

 

 

「お兄さん聞いてますか? さっきからあくびばかりして全然聞いてるようには見えないんですけど」

「実際聞いてねぇし。寝起きだけどまだ頭が起きてない」

「もう……。お兄さんのアイデアとか承認を貰いたいことが山ほどあるんですから、しっかりしてくださいよ」

「そういう面倒なことはお前らでやってくれっていつも言ってるだろ。出会った頃はお前もマネージャーとしてひよっこだったから俺もサポートしてたけど、今はその必要もねぇだろうしな」

「認めてくれてるのか、お兄さんが怠惰なだけなのか……」

 

 

 まあどっちもだな。上司である俺が自分の技術を部下である侑に教え込むことで、コイツが1人で同好会のマネジメントができるようになればそれだけ俺が楽できる。出会った頃からそういうなるように動いており、実際にコイツは年末のファーストライブ成功の実績を作ったのでもう俺から教えることはない。でも成長を遂げた後もやたらと俺の隣に来たり、俺にわざわざそれ言う必要あるかって事務連絡を寄越してくるのは何故なのか。もしかして無自覚に俺の隣にいるのが居心地よかったり……?

 

 

「ライブの演出とかは学園の生徒に聞いてもいいんじゃねぇか? これだけたくさんの生徒がいるんだ、お前らだけでは思いつかないアイデアを溜め込んでる奴がいるかもしれないだろ」

「あぁ~それ実はもうやってるんですよね。目安箱みたいなものを設置していて、みんなからのアイデアを募ってます」

「そんなのがあるんだったら俺がアイデア出しする必要ねぇだろ……」

「そうだったらいいんですけどねぇ……」

 

 

 侑はばつが悪そうな顔をする。そんな便利なモノを設置してあるのに、その意見を参考にせず俺に聞いてくるってことはそれなりの理由があるのだろう。

 

 

「あっ、そんな話をしていたらちょうど見えました。アレですよ。目安箱には見えないかもしれませんけど……」

「アレって、あのブサイクな人形みたいなモノが……?」

 

「ブサイクとは失礼な! 超超超プリティなかすみんBOXですぅうううううううううう!!」

 

「うえっ!? かすみちゃん!?」

「いたのかよ……」

 

 

 後ろから俺と侑を引き剥がすようにひょこっと『かすかす』ことかすみが現れた。かすみは廊下のテーブルに置かれていたブサイク人形を抱きかかえると、これ見よがしに見せつけてくる。

 人形かと思ったけど、材質は紙を切り貼りしただけっぽい。目安箱と言っていたのでそりゃそうかって感じだが、よく見てみるとかすみの外見をしていた。投書を収めるための箱としての機能のためか頭でっかちであり、手足はペラッペラの紙を張り付けられており造りは簡素。そして何より目を引くのが、顔面を殴りたくなるほどムカつく表情をしていることだ。目が点で眉も垂れており、まるで『あれれぇ~投書しないんですかぁ~』と言わんばかりのイラつく顔をしている。よく今まで破壊されなかったのか不思議なくらいだ。

 

 

「これが同好会へのご依頼投書箱である『かすみんBOX』ですっ! どうですか零さん? かすみんに似て可愛いですよね? ね?」

「おい侑、これはネタで言ってんのか……」

「残念ながら本気です」

「お二人ともなんですかその呆れ顔!! えっ、可愛くないですかこれ!?」

 

 

 いるんだよな、可愛いのセンスがズレてる奴。顔がキモい動物を可愛いとか言っちゃう女の子とかたまに見かけたりする。それこそ南ことりなんて音ノ木坂のアルパカを可愛い可愛いって言って写真撮りまくってたからな。そのあたりの感性は流石に共感できない。

 

 

「可愛いのは可愛いかもしれないけど、その箱に何か意見が入っていたことって1回もないんだよね……」

「はぁ? なんで?」

「恐らくかすみちゃんの可愛い人形と思われて目安箱と認識されていないか、自分の承認欲求を満たすための道具を設置してるとしか思われてないかのどちらかかと……」

「なるほど」

「ちょっと納得しないでくださいよぉ!! きっとかすみんの魅力が凄まじすぎて、恐れ多くなって意見すら言えなくなってるだけですから!!」

「それはそれで目安箱の意味ねぇだろ……」

 

 

 虹ヶ咲学園はどの部活や同好会も一定の成績を上げるほどの成果を残しているが、コイツらスクールアイドル同好会はその中でも群を抜いており、校内でも全校生徒から応援されるくらい人気のグループだ。だからこそ目安箱に協力してくれる奴がいてもおかしくないのに投書ゼロとか、むしろその実績を達成する方が難しいだろう。ある意味で偉業だな。

 

 

「こんなに可愛いのに、まだかすみんの魅力に皆さんまだ追いついていないってことですね」

「負け姿もお前の魅力だからな、少なくともその人形の顔面はグーパンで凹ませたい。そしてお前の絶望に打ちひしがれる顔が見たい、ってのは全校生徒の総意だと思うぞ」

「それはドSすぎますよ!? いくら零さんでもかすみんの顔を傷つけることだけは許せないですぅ!!」

「いや人形だし」

「かすみんBOXはかすみんと一心同体なので、この子はもうかすみんなんです!!」

 

 

 もうかすみんのゲシュタルト崩壊で何が何やら。もしかしてそれで相手の頭をバグらせてかすみん地獄に陥らせるのが目的なのでは……? いや、短絡思考のコイツにそこまで考えることはできねぇか。

 つうか投書がゼロなのってこのかすみんBOXとやらが微妙に腹立つ顔してるからじゃないのか? 近づいたら顔面パンチをしたくなる衝動に駆られるから意図的に避けていたとか。もう見た目だけで人を煽ってそうな顔してるもんな……。

 

 

「シテナイヨ!」

「あん? いきなり片言で腹話術するんじゃねぇよ」

「へ? かすみん何も言ってませんけど?」

「侑、イタズラが過ぎるぞ」

「いやいや! そんな芸できないですよ!」

「じゃあだったら誰が……」

 

 

 他にここにいる奴と言えば……このブサイクBOXしかない。だけど無機物無生物だぞコイツ。今にも煽ってきそうな表情をしているけどただの紙製の人形だ。天地がひっくり返っても喋るはずが――――

 

 

「カスミン、カワイイ?」

「は?」

「「しゃ、喋った!?」」

 

 

 発せられた声に驚き、かすみは咄嗟に抱きかかえていた自分のBOXを手放す。

 もう誰が聞いても間違いない、コイツ――――今喋りやがった。創造した本人が驚いているので何か仕掛けを施しているとは考えられず、コイツが突然意思を持ったと思っていいだろう。口はマジックで書かれているだけなので動いてないのだが、どこかに音源を発するところがあるのか……? 疑問は尽きないが、とにかくまた面倒事に巻き込まれそうになっているのは確かだ。

 

 

「ネエネエ、カスミン、カワイイ?」

「また喋ってる……。お兄さん、そんなに近づいて大丈夫ですか?」

「喋ってる原理を知りたくてな。かすみ、念のため聞くけど何か心当たりは?」

「う~ん、昨日この子のパーツが老朽化していたので修理をしたくらいですかねぇ~。でもそれくらいで……あっ、その修理の材料は秋葉さんからもらいました」

「「絶対にそれだ!」」

 

 

 俺も侑も全てを察してしまう。もうね、秋葉の仕業と言っておけば天地がひっくり返ってもおかしくねぇんだよ。むしろこの世の非現実的なことは全てアイツの仕業と言っても過言ではない。もはやいつものことだから『何やってんだよアイツ』とか言及すること自体が面倒になっていた。

 

 

「カスミン、プリティ?」

「カスミン、サイコー?」

「ふえっ!? お兄さん増えてますよこの子!?」

「2つ作った覚えはないですけど!? どういうことですか零さん!!」

「俺に聞くなよ知るか。つうかどんどん増えてね……?」

 

 

 かすみんBOXは影分身するかのごとく、瞬きするその瞬く間に次々と増殖していた。そして気付けば廊下の端から端まで列が形成されるほどになっており、どんな駆動装置が付いているのか列を保ったまま行進し始めた。もちろんその間にも瞬きをするたびに増殖を続けており、隊列も廊下の曲がり角で見えなくなるくらいには形成されているようだ。

 

 

「えっ、これどうするんですか!? かすみちゃんの人形がこんなにたくさん……。このままだと学校を占拠しちゃいますよ!」

「かわゆ~いかすみんたちがたくさん見られるなんて、みんな幸せ者ですねぇ~♪」

「そんなこと言ってる場合かよ……」

「だってかすみんの目的は、全世界に自分の可愛さを伝えることですから! これはいい機会ですっ!」

「別にこの現象はお前の力によるものじゃないけどな」

 

 

 自分のために利用できるものは利用する、まさにかすみのズル賢さそのものだ。そこまで自分の魅力を追求し続ける執念だけは認めてやってもいいかもしれない。ただ秋葉の力を利用するのだけは避けた方がいいと思うぞ。最初は協力しているよう見せかけるけど、すぐ裏切られアイツのオモチャにされるのがオチだ。まあ今回はBOXの材料をこうなるとは知らず使ったみたいなので、完全に未遂だろうけどな。

 

 

「あっ、歩夢たちからもグループチャットに連絡が来てますよ。『何が起こってるの!?』って、みんな戸惑ってるみたいです」

「だろうな。あちこちで騒ぐ声も聞こえるし」

「学校中パニックだよかすみちゃん!!」

「と言われましても……。だったら、全校生徒みんなでかすみんたちを愛でればいいんですよ! ほら、こんなに可愛いのに!」

「カスミン、ケナゲ? カスミン、アイラシイ?」

 

 

 憎たらしい表情のまま片言で喋ってるから、愛でる以前にちょっと怖い。しかもさっきから疑問形で自分を褒めさせようとしてくるのは何故なんだ……? しかもコイツら1人1人が個別で音声を発しているため非常にやかましい。

 

 こうしている間にもこのブサイク人形はどんどん増殖しているのだろう。だとしたら侑の言う通り校内がパニックになるのは当然。まあこれも中須かすみという存在を大勢に強く印象付ける、という点では有効な手なのかもしれないが……。

 

 

「どうしますお兄さん? 私たちでどうにかできる事態ではないかもしれないですけど……」

「当の本人に解決する気がねぇんだったらどうしようもない」

「する気はありますよ! ただこれだけ可愛いかすみんたちがいっぱいいると、どうにかするのも気が引けると言いますか……」

「自分に対して気が引けるって自惚れやべぇな……」

「えっ、だってかすみんの可愛さは世界一ですよね? ねぇ!?」

「「…………」」

「お二人ともどうしてそこで黙るんですかぁ!!」

 

 

 いやそりゃ可愛いとは思うけど、小生意気なコイツに対してだからこそこちらも素直に行きたくない。変に調子に乗らせると付けあがるのは確定であり、これまで以上にウザ絡みされるのも必然だからだ。

 

 それにしても、この人形たちをどうしようか。色々と調べるために疑問形を発しながら行進する人形1体を拾い上げる。外見だけは普通の人形そのものだが、コイツらを止める術はあるのか……?

 

 

「カスミン、カワイイ?」

「はいはい可愛い可愛い」

「モットホンキデイッテ?」

「可愛いよ」

 

 

 俺は何を言ってるんだ……? もうどうしたらいいのか分からな過ぎて思わず肯定の言葉を口走ってしまった。もちろん中須かすみ自体は可愛いと思っているので間違いではない。だから本心と言えば本心だ。

 

 

「カスミン、カワイイ!」

「えっ?」

 

 

 その時だった。俺の手からかすみんBOXが煙幕と共に消滅したのは。跡形もなく消え去ったのでコイツはオリジナルではなく分身体の方か。いきなり消滅した理由は分からないが、消える直前の声は片言で疑問文を連呼していた時のトーンとは少し違い、何やら満足気でかすみに極限まで似ている高い声だった。

 

 

「うぅ……」

「え~と、かすみちゃん? 顔が真っ赤になって身体がピクピクしてるけど大丈夫……?」

「ら、らいじょうぶれす……」

「呂律回ってないよ!? 本当に大丈夫なの!?」

「零さんに可愛いって言われて嬉しくて、そして身体がビクビクって……」

「お前に言ったんじゃなくて人形に言ったんだけどな」

「これも秋葉さんに提供された材料で人形を作っちゃった副作用ですかね……」

「だろうな」

 

 

 なんとな~くかすみんBOXの集団を消す方法が分かった気がする。それはコイツの承認欲求を満たしてやることだ。いつも自分が何よりも一番可愛いと豪語しているため、その欲求を大いに(たかぶ)らせてらせてやればさっきみたいに満足して消えていく。この人形たちは自分のことを可愛いかと連呼しているのだが、まさかそれに応えてやることが解決の糸口だったとは……。

 

 ちなみに当の本人だが、自分が世界一可愛いと思っていながらも、こうして直球で可愛いと伝えてやると顔を赤くして照れる。そして今回は秋葉の罠なのか、人形に投げかけられた褒めの言葉は全部自分に言われているかのように仕組まれているのだろう。つまり羞恥心のない人形の代わりに本人が辱しめを受けるようになっているわけだ。しかもこれだけ大量にいるかすみんBOXの羞恥を全て引き受けるとなれば、コイツらを全部消す頃にコイツがどうなっているのか……。うん、口から涎を垂らして失禁してそうだ。

 

 

「侑、コイツを抱きしめてとびっきり褒めてやれ。そうすれば承認欲求が満たされて消えるから」

「なるほど、そういうからくりだったんですね」

「侑先輩、ちょっと待ってください!」

「かすみちゃん、とぉ~っても可愛いよ♪」

「ぶふぇあっ!?!?」

「かすみちゃん!? 身体の奥から何か吐き出しそうな声だったよ!? あっ、でもお人形は消えたね」

 

 

 やはり褒められて満たされると消える仕組みか。これであれば特別なことをせずともコイツらを消すことはできる。

 ただこれだけ大量の人形に誉め言葉をかけるってことは、それだけ生身の方のかすみが褒め殺しにされるってことだ。今も侑の笑顔+可愛いのコンボ攻撃でダウン気味だし、このまま続けても大丈夫なのか……? とは言ってもそれ以外に解決方法もないし、これ以上数が増えたら学校が崩壊するかもしれないのでここは我慢してもらうしかない。それに褒め殺しの快楽に悶えているかすみも見ていて可愛いからOKだ。どっちかって言うとエロ可愛いと言った方がいいか。

 

 

「侑、歩夢たちにさっきの方法でコイツらを消せることを伝えろ。生徒会長の栞子の先導があれば全校生徒も協力してくれるはずだ」

「はいっ!」

「ちょいちょい! お二人の誉め言葉だけでも脚がガクガクするくらいなのに、みんなから言われたら嬉しさがオーバーヒートしてかすみん死んじゃいますよ!」

「お前いつも褒められたがってるだろ? 今日に限って褒めるなって矛盾もいいところだ」

「それはそうですけどぉ~……。とにかく、誰もダメージを受けない平和的な方法を――――ふぎゃんっ!!」

「始まったみたいだな」

「はい。歩夢たちに連絡して、栞子ちゃんも今学校に残っている生徒に助力をお願いしているようです」

「そ、そんな勝手に――――にゃんっ!!」

 

 

 猫か。多分どこかで誉め言葉を受けたかすみんBOXが満足して消滅し、その恥じらいを本人が代理で受けているのだろう。脚をガクガクさせており、まるで後ろから激しく犯されたかのようだ。そんな淫猥な姿となっている彼女だが、ここにはいない同好会のみんな、そして学校にいる生徒たちからの褒め殺し攻撃に喘ぎ、艶めかしい吐息を吐き、頬を羞恥で緩ませていた。

 

 そして、侑がかすみんBOXの集団に近づく。

 

 

「可愛いよ、かすみちゃん」

「ふぎゃっ!?」

「超かわいいよ、かすみちゃん」

「ひぎぃっ!!」

「可愛い可愛い超かわいい!!」

「うにゃぁああああああああああああああっ!!!!」

「侑お前、遊んでないか……?」

「かすみちゃんの反応が可愛くて、つい♪」

 

 

 羞恥に悶える姿が可愛いとか、コイツ俺の性格に似てきてないか……? 一緒にいることが多いせいでドSの性格が伝染して目覚めつつあるとか怖い。

 そして侑の猛攻を受けて3連続ダメージを受けるかすみ。もちろんその間にもここにはいない生徒たちが同じことをしているようで、程度の違いはあれど照れくささが心に降り注いでいるようだ。さっきは冗談で口から涎を垂らして失禁しそうとか言ったけど、今の様子を見るにマジでそうなりそうだな……。

 

 

「そういえばここら辺の人形、一気に消えましたね」

「さっきの攻撃がよほど効いたんじゃねぇのか。お前の3発で二桁人数は消えたから、誰に褒められたかとか、褒められ方によっても威力が変わるっぽいな」

 

 

 かすみとより近しい人間の誉め言葉ほど威力が上がるらしく、俺や侑の言葉だけで周りのかすみんBOXは相当な数を減らしていた。だとすると歩夢たちの方も消すスピードは速そうだ。もちろんそれだけコイツが受ける辱しめと言う名の快楽は大きいわけだが……。

 

 

「ふにゅぅ……」

「大丈夫でしょうかかすみちゃん。気持ちよさそうにしてはいるみたいですけど……」

「快楽の刺激にカラダが耐えきれてないんだろうな。コイツにとっては可愛いって褒められることが快楽のはずだから、それにやられるなら本望なんじゃねぇの」

「いや床にベッタリと倒れてそれどころじゃないですって。もう溶けちゃいそうですよ」

「このまま続けるとアヘ顔になっちまうだろうから、ここは一思いに終わらせてやった方がいいかもしれねぇな」

「えっ、どうやって?」

 

 

 歩夢たちや他の生徒たちの結託により人形の数は減らせているだろうが、増殖のスピードに追い付いているかは謎だ。さっきまでは俺たちの周りもそこそこ数が減っていたのだが、今はまた増え始めている。つまり何か有効な一手を打たな限りコイツらは増え続けるし、かすみもが褒め殺しの快楽を一手に引き受けているせいでアヘ顔で気絶するのももう間近だ。それはそれで見てみたい気もするけど……。

 

 

「おいかすみ、起きろ。カラダをビクビクさせてる場合じゃないぞ」

「ふぇ……? ひぎぃ!? ひゃんっ!!」

「今度は二連続で喘ぎ声が……。かすみちゃんもうビクンビクンってなってるよ……」

「どこかで誉め言葉を2発貰ったんだろうな」

「皆さんからの『可愛い』が心に流れ込んできて、嬉しいんですけど快感が多すぎて……」

「漏らしたか?」

「えっ、漏らしちゃいましたか!?」

「こっちが聞いてるんだ」

「いや濡れてないですから!! 変な冗談やめてくださいよ! かすみんが変態さんみたいじゃないですかぁ!!」

 

 

 変態だよ。幾度となく俺に性的交渉を求めてくるだけでなく、カラダも簡単に許すからそれを変態と言わずに何という。まあ歩夢たち8人もそうだから一概に突出しているわけではないけど、それでも変態なことには変わりない。

 

 

「お兄さん、それでどうやってこの状況を打開するんですか?」

「かすみの可愛いを肯定し、褒めてあげればコイツらは消えるんだろ? それは言葉に愛情が籠っていれば籠っているほど消える数も多くなる。だったらそれを最愛の人に言われたら?」

「なるほど、お兄さんの心からの一撃であればかすみちゃんBOXを消せると」

「れ、零さんがかすみんに??」

「あぁ」

「ひぃ!? 急にそんな真剣な目で見つめられても……」

 

 

 かすみはメスの顔をして俺から目を逸らす。さっきまでも多方面からの褒め殺し攻撃により耳まで赤くしていたが、俺に肩を掴まれて逃げられず、真剣な眼差しで見つめられるものだから余計に顔の紅色が濃くなっている。いつもは小生意気な小悪魔的な感じで誘惑して来るくせに、いざこっちから攻めると途端に純粋な少女っぽくなるんだよな。そしてそういうのが俺の好みにストライクだから勘弁して欲しい。もっと攻めたくなっちゃうからさ。

 

 

「かすみんBOXを消すために、かすみんに可愛いって言ってくれるんですね……」

「いや、そんな事務作業のつもりはない。本気だよ。本気でお前に本心を伝える」

「ふぇ?」

「いつもは軽くあしらってばかりだからな、たまには本気になってやってもいいかなって」

「そ、そんな軽いノリでかすみんが喜ぶとでも……?」

「可愛いよ」

「ぶはっ!!」

 

 

 めちゃくちゃ効いてるじゃねぇか……。いつもは可愛いの押し売りをしてきて鬱陶しいので逆張りで敢えてこちらから褒めることはないのだが、コイツのことは普通に可愛いと思っている。自惚れてもおかしくないくらいの超美少女なのは間違いなく、ぶっちゃけ彼女レベルの女の子と付き合えるだけ、いや友達でいられるだけでも男としては勝ち組なくらいだ。そんな子が自分のことを心酔してくれているんだぞ? 向こうから好意を伝えてくれて、子犬のように寄り添ってくる。そりゃ俺だって惹かれるに決まってるだろ。

 

 

「もっと言ってください……」

「可愛いよ」

「もっと……」

「可愛いよ」

 

 

 今回だけはコイツのワガママを叶えてやろう。かすみんBOXの集団を消すという名目はあるが、今だけは本気中の本気でコイツと向き合う。かすみもこちらの本気を察したのかいつものメスガキ染みた雰囲気はなく、頬を染めてこちらを真っすぐ見つめていた。

 

 

「もっと……」

「可愛いよ」

「好き……ですか?」

「あぁ、好きだよ」

「かすみんも大好きですっ!!」

「むぐっ!!」

 

 

 キスされた、いきなり。

 持ち前の承認欲求で俺に誉め言葉を言わせるだけ言わせているのかと思ったが、そのノリでまさか告白し合うとは……俺も思わず乗っちまった。

 

 かすみは勢いよく俺の唇に吸い付いてきた。こちらに首に腕を回して密着してくる。

 無数の褒め殺し攻撃よる快感が心身ともに蓄積していたためか、それを俺に対して一気に解放したって感じだ。俺を貪り食うようなキスであり、唾液の音が艶めかしく響いている。興奮しているのか彼女の吐息が俺の口内に吐き出され、唾液も相まって甘い味がする。向こうがこちらを求めて来るのであれがこちらもと、俺も少し強く彼女の唇を奪う。それならば私もと、ワガママで欲しがりの彼女ならではのキスを堪能させてもらった。

 

 そして思いがけずキスをしたので、俺の身体も()()()()()()熱くなる。虹ヶ咲12人とキスするミッションがまた意図せず1つ埋まってしまった。

 

 しばらくして、お互いに唇を離す。すると周りのかすみんBOXが煙幕と共に一気に消え始めた。それは他の場所でも同じようで、ここからでも至る所に煙が上がっているのが見える。どうやらこのやり方は正解だったみたいだな。人形はこの場にオリジナルの1体だけが残っていた。もちろんもう喋らない。

 

 

「歩夢たちから連絡が来ました。かすみちゃんBOX、全部消えたみたいです」

「そうか。このやり方でダメだったらどうしようって思ったから助かったよ、かすみ」

「えっ、かすみんはむしろ加害者側なので……」

「いや、俺の言葉を素直に受け止めてくれたからだよ。実質的にお前は悪くないしな。むしろこの事態を止めた立役者だ」

「そ、そうですか……?」

「それに自分への好意を素直に受け取って照れるところ、俺は可愛いと思ってるぞ」

「ふぇえええっ!? れ、零さんってば……も、もうっ、いきなり……。でもまぁ、そんなことありますよぉ~~えへへ♪」

「ホントにお兄さんって天然なのか狙ってやってるのかどっちなんだろう……」

 

 

 俺は本心を語ってるだけだよ。

 かすみ自身の承認欲求が存分に満たされたことで、事件は何とか終息した。コイツの小悪魔系は鬱陶しいこともあるけど、逆にそこが可愛かったりもするんだよな。憎たらしい可愛さと言えばいいのだろうか、そういうところがコイツの魅力でもある。最近は女の子たちとのキスで改めてその子の魅力を再認識することが多いから、自分の身体の不調を治すためというよりも、彼女たちとの愛を確かめ合うって意味でキスは悪くないかもしれない。

 

 

「侑せんぱぁ~いっ! かすみんと零さんのラブラブキスを見て羨ましいですかぁ~??」

「いや全然」

「あれれ~顔赤くなってますよぉ~」

「はぁ!? なってない!! もうっ、元に戻ったと思ったらこれって、これから褒めてあげないよ!?」

 

 

 イイ感じで終わろうとしていたのに、それをぶち壊す生意気さもコイツの魅力……なのか?

 

 




 今回はかすみの個人回でした!
 せつ菜回と同じく事件が入り混じった回でしたが、彼女自身が大好きな『可愛い』を零君や侑、全校生徒から受け取ることができて彼女的にはハッピーだったと思います。まあそれが快楽になって襲い掛かって来たのでダメージは半端なかったですが……(笑)

 そして何気にキスのミッションがまた1つ埋まり、残り8人となりました。これだけキスの描写が増えると、1人1人違ったキスを描くのが難しくなるのが困りどころです……(笑)


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