ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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嫉妬相手は美里おねーちゃん!?

「おい愛、そろそろ待ち合わせの相手を教えてくれてもいいんじゃねぇか?」

「ダメダメ! 実際に会ってもらうまで秘密なの!」

 

 

 そんなわけで、今日は愛に誘われて2人きりのデート――――と思ったのだがそうではないらしく、どうやら他の女性を連れてきて一緒に遊びたいらしい。名前も顔も知らない見ず知らずの男女を引き合わせるなんて中々に酷な事をするが、愛の友達とあればいい奴なのだろう。相手から見て俺がいい男と判定されるのかは別として……。

 

 ちなみに今日の愛はいつもよりテンションの上がり方が凄い。同好会のみならず虹ヶ咲のムードメーカーとなっている彼女だが、今日だけは子供っぽい無邪気さが感じられる。友達ってよりかは大好きな家族を待っているかのような雰囲気だ。

 時折コイツとの会話で登場していた『おねーちゃん』なる人物だろうか。愛がその『おねーちゃん』の話をする時は、いつも決まって精神年齢が一回り下がって子供のようにはしゃぐ。コイツに実の姉妹はいなかったはずなので恐らく親戚か幼馴染のような近しい人物なんだろうが、愛がその『おねーちゃん』を心底慕っているのは知っている。俺をお出かけに誘ってきたときから笑みを浮かべて嬉しそうにしていたので、噂の『おねーちゃん』が来ることはほぼ確定だろう。

 

 

「あっ、おねーちゃんだ! おーいっ、こっちこっちーっ!!」

「もう愛ちゃんったら。そんなに声を上げなくても分かるわよ」

 

 

 どうやら来たらしいな。

 大学生くらいの女性。おでこの中央で分けたブロンズヘアー。その髪の先をゴムでまとめて肩にかけている。顔立ちは整っており、垂れ眉と垂れ目の特徴から穏やかで物静かな雰囲気だ。その優しそうな見た目からどことなく主婦っぽさも感じる。おとなしそうな女性だけどぱっと見でスタイルは良く、物静かな雰囲気とは裏腹に大人の魅力がある女性だということを一目で実感した。

 

 相変わらず女性を変な目で見ることだけは長けてるよな俺。でもこうして初見の女性の特徴を簡単に言葉で表せるなんて、まるで会ったことがあるような――――って、えっ!?

 

 

「お前、美里……?」

「えっ、零君!?」

 

 

 俺は愛の『おねーちゃん』に見覚えがあった。向こうも俺の顔を見るなり手を口に当てて驚いた。

 

 

「なになに!? 零さんとおねーちゃんって知り合いなの!?」

「あぁ、同じ大学なんだよ。1年生の頃から取る講義が結構被ってて、顔を合わせているうちに話すようになったんだ」

「でも驚いたわ。まさか愛ちゃんがよく話してくれる『おにーちゃんみたいな人』があなただったなんて」

「いや俺も『おねーちゃん』の正体がお前だとは思わなかったよ」

 

 

 愛が美里のことを話す時は決まって『おねーちゃん』呼び、そして虹ヶ咲関係者以外に俺のことを話す時は『おにーさん』呼びらしい。そりゃお互いに代名詞でしか存在を知らないから気付かねぇわな。

 

 さっきも言った通り川本美里とは同じ大学で同じ学年であり、しかも同じ講義を取っていることが多かったから自然と話す仲となった。話す中でスクールアイドルの話題を良く出していたので身内にそんな奴がいるのは知っていたけど、まさかそのスクールアイドルが愛とは思わなかったぞ。世界は広いのか狭いのか分かんねぇな……。

 

 

「でもおねーちゃんも水臭いな~。零さんみたいなイケメンが友達なら私に自慢してくれても良かったのに。それだったらおねーちゃんの話からその人は零さんだって分かったよ、絶対に」

「別に話すことでもねぇだろ。大学で会って話すだけで、特別な関係でもねぇんだから。なぁ美里?」

「そ、そうね……。でも病院にお見舞いに来てくれるのはとても嬉しいわ」

「へ? お見舞い……?」

 

 

 また愛が目を丸くして驚く。彼女はいつものイケイケなノリをしているが、今日は俺と美里の意外な関係が暴露されるたびに素に戻ってしまっていた。

 ちなみに病院へお見舞いに行っているってのは本当の話だ。美里は生まれつき身体が弱く、時折身体の不調が祟って入院を繰り返している。そのせいで大学の講義も病欠で休むときがあり、その情報を聞きつけた際にはコイツの見舞いに行っているんだ。

 

 でもただそれだけ。友達として心配しているだけだから、別に特別なことはないと思うけど……。

 

 

「零君は私が入院すると毎回お見舞いに来てくれて、いつも私の身体を気遣ってくれるの。穂乃果ちゃんたちみたいな恋人でも、深い縁で繋がった親友でもない私にいつも笑顔をくれて、励ましてくれて、そんな彼に私は救われてる。それに退院をするといつも安心してくれて、おかえりって言ってくれて、いつも心をぽかぽかさせてくれるのよ」

「だから普通のことだって。そりゃ入院したって聞いたら心配するだろ。退院したら暖かく迎え入れるだろ」

「零さんってそういうことあるよねー。いつもは肉食系で俺様系なのに、そういった些細な優しさを持ってるからズルいんだよ」

「そうそう。忙しいだろうから毎回来なくてもいいって言ってるのに、絶対に顔を出してくれるのよね。そういうところがモテるのかな?」

「俺様系がたまに見せる一途な優しさっていうギャップ? 多分そういうのが女性に受けるんだよ! 男らしい俺様系と紳士的な優しさの抑揚で女の子の恋心を揺さぶって、いつの間にか心をガッチリ掴まれちゃうんだよね~」

「うふふ、そうかも♪ 無意識なのがまたズルいのよね」

「なにこの羞恥プレイ……」

 

 

 本人がいる前でソイツのモテる要素談義をするな……。流石の俺でも恥ずかしくなってくる。別に誰かに感謝されたいとか、褒められたいとか思っておらず、美里のお見舞いに行くのもただの自己満足なんだよ。入院してるって聞いて無視するのも悪いと思ってるだけなんだから。

 

 

「それにしても零さんとおねーちゃんって仲良くない? ただの知り合いならまだしも、そこまで仲良くなってたなんて愛さん知らなかったなぁ~」

 

 

 愛は口を尖らせる。もしかしてコイツ――――嫉妬してる? 美里の前だと子供っぽくなるとは言ったが、不満そうにしている顔を見ると余計にそう思えてしまう。まあ自分が姉のように慕っている女性と心酔レベルで恋をしている男が裏で勝手に繋がっていたのだから、そりゃ嫉妬して当然と言えば当然だ。愛は俺たちのことがどちらも大好きだからこそ、俺と美里の関係を知らされていなかったことに不満があるのかもしれない。だがそうは言っても俺だって美里と愛が繋がっているって知らなかったからどうしようもないんだけどさ……。

 

 

「零君とは顔を合わせたときにお話しするくらいの仲なだけだから……」

「それっ!! 名前!! お互いに名前呼びしてるよね!?」

「愛ちゃんだって色んな人とすぐ仲良くなって名前呼びするよね……?」

「零さんはね、そう簡単に相手を名前呼びしないの。名前呼びされるってことは、それだけ親密度が高いってことなんだよ!」

 

 

 愛の言っていることは間違いではない。身近に仲のいい女の子ばかり集まっているので名前呼びがデフォみたいになってるが、基本は相手が男だろうが女だろうが苗字呼びだ。呼ぶ相手が姉妹持ちの場合は分かりづらいから最初から名前で呼ぶこともあるが、それ以外はいきなり名前で呼ぶほど距離を詰めようとは思わない。そう考えると美里との関係はどうなのって話だが、大学でよく会話する、病院へよくお見舞いへ行く、おかえりの祝いをしてあげる、そして連絡先を知っている――――うん、普通に友達として名前呼びしてもいい関係なんじゃねぇか?

 

 

「ほら、おねーちゃん! 顔真っ赤だよ! おねーちゃん、もしかして零さんのこと……」

「ち、違うの! 今日は暑いからよ! 冬なのにこんなにも暑いなんてまるで暖冬ね……」

 

 

 愛はジト目で美里を見つめる。美里はいい意味で純粋、悪い意味で単純だから嘘をつくのは下手だ。だから人狼ゲームでも真っ先にボロが出るタイプ。そんな奴の嘘をコミュ力最強の愛が見抜けないわけがなく、もうバレバレのようだ。

 

 

「つうかどこか遊びに行くならそろそろ行かねぇか? 立ち話で時間を使いすぎだろ」

「むぅ~私はまだ聞きたいことがたくさんあるのに……」

「まあまあ愛ちゃん、遊びながらでも話せるから……ね?」

「そうそう」

「2人が息ピッタリに宥めてくる!? 相性いいじゃん2人共!!」

 

 

 うるさい奴だなさっきから。これも嫉妬心が多少なりとも存在しているからだろうか。今日の愛はいつもより一回りも二回りも幼く見えて可愛いな。

 

 そんなわけで俺たち3人の奇妙な関係性が判明した。愛はずっと不平そうだけど、遊びで身体を動かせばすぐ元に戻るだろ。多分……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 やって来たのはボーリング場。女性陣2人はお出かけする時によく来るらしく、身体が弱い美里もこれだけは好きなようだ。俺はと言うと、ぶっちゃけ最後に来たのがいつなのか覚えていなくらい久しぶりだ。ボーリングと言えばレジャー施設の代名詞だけど、そういやデートで全然来たことなかったな。

 

 

「愛の奴、相変わらずなんでもできるんだな。ここまでストライクとスペアしか取ってねぇぞ」

「でも零君の方がストライク多めじゃない? 得点だったら愛ちゃんを抜いて1位だし」

「まあ玉を投げるだけだから簡単だろ。投球フォームってやつ? は全然知らないからさっき少し調べただけだけど」

「綺麗なフォームだったと思うわ。思わず見惚れちゃうくらい……」

「そういうお前もいいフォームだったよ。それこそ俺も目で追ってしまったくらいだ」

「そ、そう? うふふ、ありがとう♪」

 

「あ~またイチャイチャしてる!!」

 

「し、してないわよ!!」

 

 

 愛はまたぷりぷりと怒り頬を膨らませている。それに対し美里も頬を赤らめながら俺との関係性を否定するが、少しニヤけてしまっているので全く説得力がない。しかもその反応は余計に愛の嫉妬心を増幅させるだけのような気もするぞ。

 

 

「別に普通の世間話だ。このくらいの話、お前とだっていつもしてるだろ」

「そりゃそうなんだけどさぁ……」

「お前そんなメンタル弱かったっけ?」

「愛さんだって分かんないよ。あ~~もうっ! こうなったら腹いせに、2人に大差をつけて勝っちゃうからね!!」

「間接的に俺たちに八つ当たりすんなよ……」

 

 

 とは言ったものの、心が乱れている&我武者羅なやる気ではいくら天才肌のコイツでも実力を発揮できず、結局ボーリングは俺の大差勝ちだった。そのせいでまた愛が頬を膨らませていたが、流石にそれは俺関係ねぇよな……??

 

 ボーリングが終わった後も色々なところへ遊びに行った。

 ゲームセンターでは――――

 

 

「このクレーンゲームのお人形、前から欲しかったのだけど取れなくて……。今日も何回かやったけど取れそうにないわね……」

「じゃあ俺がやってるよ。この前ちょっとだけやったからコツは知ってるからさ」

「えっ、あの……手が」

「へ? 一緒に操作してやるって言ってんだ」

「またイチャイチャしてる……」

 

 

 美里がボタンに手を置いてたから、俺もその上から置いただけだ。教えてやるって言ってんだから手を握って一緒に操作するのが普通じゃないのか??

 

 そして喫茶店では――――

 

 

「零君が頼んだそのチョコケーキ、美味しそう」

「じゃあ少しやるよ。お前はもっと食って体力を付けた方がいい」

「カロリーを渡されても……。えっ、今フォーク……。これだと間接キスになっちゃう……!!」

「またイチャイチャしてる!!」

 

 

 ただフォークで少し切り分けてやっただけだろ。それなのに間接キスやらイチャイチャやらで騒ぐなんて、れだけウブなんだよ少女漫画じゃねぇんだから。

 

 そしてたまたま通りかかったところにあった、ウサギのふれあい体験コーナーに参加したのだが――――

 

 

「その抱いているウサギ、とても零君に懐いているわね。女の子からだけでなく動物の女の子にまで好かれるなんて……」

「やめろやめろ獣の趣味はない。それにコイツが人懐っこいだけだから。ほら、お前も抱いてみろ」

「えぇ……。あっ、この子ってば私の腕の中でも気持ちよさそうにしてる。本当に人懐っこいのね」

「お前暖かそうだもんな、雰囲気的に。そうやって包み込まれると気持ちよくなっちまうのは仕方ないと思うぞ」

「そ、そう? だったら零君も……」

「じぃ~……」

「なんだよ?」

「またイチャイチャしてる!! しかも今度は子持ちの夫婦みたい!!」

「そ、そんな零君と夫婦だなんて……!!」

 

 

 そう言ってる割にはちょっと嬉しそうなのは何故なのか……。いや何となく分かるけど……。

 そして愛はまたぷりぷりと怒っている。俺が美里ばかり構っているかのように見えるけど、ボーリングでは愛に強請られて2人で1つのボールを投げる謎の共同作業をやったし、喫茶店では物惜しそうな眼をしていたからこっちから『あ~ん』してやったし、さっきもウサギを抱えたコイツとツーショットを撮った。だから美里以上に絡んでいるはずなのだが、どうしてここまでツッコミを入れて来るんだよ……。

 

 だが頬を膨らませているのは俺たちの前だけであり、ウサギや他の人と接しているときはいつもの明るい雰囲気だ。その太陽のような明るさは無意識に周りを引き込み、スクールアイドルとして有名なのも相まっていつの間にかファンの人だかりができていた。しかもその大勢1人1人と握手をしたりサインをしたりと、面倒だからと無下にせずしっかり応対しているのも凄い。普段から部室等のエースとして各種方面で活躍しているので、こうして大勢から声をかけられることにも慣れているのだろう。人気者って言葉がここまで似合う奴も中々いないな。

 

 

「愛ちゃんって本当に色んな人から愛されているわね」

「そうだな。ま、ガキっぽいところも結構あるけど。俺たちに嫉妬してたりとかな」

「嫉妬? まさか私にあなたを取られたと思っているのかしら」

「いや、お互いにだよ。俺にお前を取られたとも思ってんだろ。だからいつもとは違ってガキっぽいんだ。大好きな兄と姉にそれぞれ彼女彼氏ができた、みたいな感覚だ」

「そんな愛ちゃん初めて見たかも……」

「それだけ好きなんだよ、俺のこともお前のこともな」

 

 

 最初は『大好きな男と大好きなお姉ちゃんを私が引き合わせてやったぜ! 3人で仲良く一緒にお出かけ!』みたいなノリを期待していたのだろうが、実は俺たちが裏で繋がっていて、しかもそこそこ仲が良かったため拍子抜けだったのだろう。自分が先導するはずだったのに知らない間に好きな人同士が繋がっていてなんだか気に食わない、的な?

 

 

「そっか、愛ちゃんも可愛いところあるわね。でもサプライズを無駄にさせちゃったのは申し訳なかったかな」

「別に俺たちのせいじゃねぇだろ。大丈夫、後でフォローしておくよ」

「ふふっ、そういうところが紳士的ね。だから私もあなたのことが……」

「あっ、もうふれあいの時間も終わりか。ほらウサギ、向こうで遊んで来い。お前も行くぞ」

「え、えぇ。愛ちゃんのこと、よろしくね」

「あぁ、分かってるよ」

 

 

 これでも女心に対して少しは敏感になってるつもりだから、アフターケアはしっかりやってやるさ。心にモヤモヤを抱えさせたまま女の子と別れるわけにはいかないからな。

 ちなみにさっき美里が言いかけたことは……うん、これもまたフォローしておこう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして、いつの間にか夕方になっていた。天気がいいためか夕暮れの朱色が際立っている。

 美里とは別れて帰路につく俺と愛。愛は体力お化けだから、今日みたいに1日中遊び尽くしたとしても疲れる様子は一切ない。むしろ帰宅時の方が楽しさの余韻が故なのかテンションが高いことが多く、それは過去の俺とのデートではいつもそうだった。

 

 だけど、今日は別人かのように静かだ。隣を歩く愛はたまに俺をちらちらと見るだけで、全く口を開こうとしない。やはり心の曇りがまだ取れていないのだろう。いつも元気ハツラツな奴がここまでおとなしいとこっちも調子狂うな……。

 

 

「今日は悪かったな」

「えっ、どうして零さんが謝るの? こっちが空気重くしちゃってたのに……」

「重くはなってねぇけどな。美里も今日は楽しかったって言ってたぞ。それにだ、大切な彼女を曇らせるなんて、そんなの男の責任だろ」

「やっぱりそういう紳士的なところがズルいよ……」

「ま、嫉妬に燃えるお前の反応が可愛くて見てるのも楽しかったから、責任とは言いつつ後悔はしてねぇけどな」

「ちょっ!? あんなのが可愛いって零さん趣味悪すぎっ!!」

 

 

 女の子が赤面して戸惑う姿に嗜虐心を感じない男はいないだろ。気になる女の子をイジめたいと思う小学生男子並みの幼稚な考えだが、それも自分の欲求不満を解消するいい手段かもしれない。なんたって肉食系だからな、女の子の困っている姿を見ると心が高鳴るんだよ。可愛らしいとも思うし、守ってやりたいという保護欲も生まれる。あぁ、こんな性格だから趣味が悪いって言われたのか……。

 

 

「今日のお前は普段と違って子供っぽくて可愛かったぞ。部室棟のヒーローと呼ばれてみんなに尊敬されるお前が、実は嫉妬でガキみたいに頬を膨らませているところとか、昔の言葉で言うギャップ萌えって奴だな」

「ちょっ、ちょっ!! 解説しなくていいから! 超恥ずいんですけど!!」

「ベッドの上ではイタズラな笑顔を見せて余裕そうなのに、年相応の女の子みたいに可愛く不貞腐れることもあるんだなって」

「だからやめてぇえええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 もう耳の先端まで真っ赤になって手で顔を覆う愛。

 そもそも恥ずかしがる行為自体がコイツにとって珍しいことだ。容姿を褒められた時も『イケてるでしょ?』と冗談交じりながらも自分を下に見ることはない奴なので、こうして『可愛い』ところを列挙されただけで羞恥心を感じることはあまりなかったりする。流石にベッドなどで俺と()()()()()()()()の時は恥ずかしがったりはするものの、それでも俺のご主人様気質の心を性的に刺激するような言葉を巧みに放ってこちらをヤる気にさせるなど、常に余裕はある奴なのだ。だからこそこういった反応が珍しかったりする。

 

 

「今日はいつもとは違うお前を見られて良かったよ。嫉妬させたのは悪かったけどさ」

「愛さんとしてはあまり見られたくないんだけどなぁ……」

「エロく荒れ狂ってる姿は見られても大丈夫なのに?」

「それはそれ! これはこれだよ! もうっ、今日はずっと零さんにしてやられてる……」

 

 

 そっちが勝手に嫉妬に溺れただけであって、俺から何かしたわけじゃないけどな。

 そしてまた少し不貞腐れる愛。全く、面倒なギャル系お姫様だこと。

 

 

「どうしたら許してくれるんだ?」

「キス……」

「へ?」

「超超ちょー情熱的なキスをして、愛さんを愛してるって感じさせてくれれば許してあげる! 愛だけにね!」

「本気かよ。ここで……?」

 

 

 俺たちが歩いているのは普通に街中だけど、まさかここでしろって言ってんじゃねぇだろうな……? 美少女の彼女を誰かに見せつけたい欲がないわけではないけど、流石に人の往来の場でキスはハードルが高すぎる。まさかこれが嫉妬をさせてしまったが故の罰? つうかそんなシチュエーション、お前も恥ずかしいだろ……。

 

 と思っていた矢先、愛が俺の手を引いて道の外れへと向かう。そこは建物や木々でちょうど人が往来する場所から死角となっている場所であり、まるでここだけ時が止まっているかのように静かなだ。

 木々の影になっているせいか夕日の照り付けも阻害されているような場所。ただそんな中でも愛の頬が朱色にじんわりと染まっているのが分かった。

 

 

「ここでするのか……?」

「うん。感じたいの。私は零さんのモノだって。もう嫉妬すら起こらないくらい、零さんのモノだってキスで教え込んで欲しい……」

「分かった。行くぞ」

「うん――――んっ」

 

 

 俺は愛の唇に自分の唇を添わせた。教え込んで欲しいとは言われたが力を入れたキスは好みではない。だが彼女の願いを汲み取るため、少し吸い付きは強めの熱い口づけをした。彼女も俺を求めるように俺の首に腕を回して、背伸びをしてこちらに唇を押し付ける。彼女の体温の香りも味も、そして愛も全て唇から流れ込んで来た。もう全身も心も彼女と一体化しているようで、それは向こうも同じ気持ちだろう。俺に抱き着く力も次第に強くなっていった。

 

 しばらくして、愛が俺から離れる。未だ余韻に浸っているのか恍惚とした表情で、キスの濃厚さから少し唾液が垂れそうなのが艶めかしい。

 そして俺はキスをしたことでみんなの愛情を受け止める器がまた広がったようだ。そのせいで例のごとく身体が凄く熱いけど……。

 

 

「えへへ、なんかこんなロマンティックなキスは久しぶりな気がするよ。いつもはベッドの上とかでエッチな気分でやってたから」

「あぁ、そうだな。これで気分は晴れたか?」

「うんっ! 零さんは愛さんを愛してくれてるんだなぁ~って実感したからね!」

「当たり前だろそんなこと」

 

 

 愛にいつもの笑顔が戻った。今日この顔を見るのは俺と美里が顔を合わせる前だから随分と長かったな。やっぱりコイツは明るい笑顔がお似合いで、俺もその笑顔が大好きだ。

 

 

「さっきのキスでまた愛さんが零さんのモノだって分からされちゃったなぁ~。あっ、だとしたらこれから愛さんが嫉妬してたら『また嫉妬してるのか? だったらキスで分からせてやるよ』って威圧すれば完璧じゃない? そっちの方が肉食系の零さんらしいよ!」

「いやどれだけ鬼畜設定なんだよ俺……」

 

 

 愛はにひっと笑う。彼女らしいイタズラな良い笑顔だ。しかも夕日をバックに、こちらを見上げるように笑顔を向けるという最高のシチュエーション。思わず見惚れてしまった。

 結局、今の笑みも嫉妬して不満そうな表情も全部可愛いんだよな。それは俺が好きな女の子が見せる顔だからだろう。好きな子の表情ならどんな顔でも可愛いし、もっともっと見たくなる。他のみんなは色欲ではない愛に満ち溢れたキスをした時にどんな顔をするのだろう。

 

 彼方やせつ菜の時もそうだったけど、改めてこういったロマンティックな雰囲気も悪くないと思ったひと時だった。

 

 




 虹ヶ咲アニメの4話を観たときから今回のネタを考えていたのですが、半年の歳月を経てようやく野に放つことができました!

 精神的にも大人びている一面が多い愛が、子供みたいに嫉妬してしまう様子は自分で描いておきながら可愛いと思っちゃいました(笑) 零君も言っていましたが、普段は部室棟のヒーローとして尊敬されている子が『女』を見せる瞬間が堪らなくもあります!

 そして彼方回の遥と近江ママ、せつ菜回の生徒会組に続き、今回のサブキャラは美里お姉ちゃんでした。ふわっとした少しバブみを感じさせるような女性なので、描いていくうちに段々好みになっちゃいましたね(笑) 結局惚れてるんかいって感じですけど……。

 キスのミッションはこれで3人目達成で、残り9人。順調に愛を確かめ合っていますが、これからは果たして……



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