「あれ? せつ菜……じゃなくて菜々か」
「零さん、こんにちは。ご機嫌はいかがでしょうか?」
「まぁ、ぼちぼちかな」
虹ヶ咲の校内をフラついていると、毛先を三つ編みにした如何にも優等生の雰囲気を醸し出している中川菜々と遭遇した。菜々は頭を下げて挨拶をする。
こうして見ると雰囲気が優木せつ菜の時と全く違うな。表の顔は超ガリ勉の元生徒会長、裏の顔はスクールアイドルとして活動しているが、その顔の違いでテンションの差が雲泥なのでコイツの正体を知らなければ別人に見えてしまうのも仕方がない。それに俺がコイツと再会したときはせつ菜の方だったから、むしろ菜々の冷静沈着タイプの方が珍しく見える。いつもなら俺を見るなり速攻で大好きを伝えようとしてくるコイツだが、菜々モードのためか淡々として落ち着いていた。
「今日はスクールアイドルの練習の指導でこちらに来られたのですか?」
「そうだけど、お前知ってるだろ」
「……? 申し訳ございません、生徒会長を降りてから各同好会の動向はあまり耳にしていないもので……。それでは私、生徒会のお手伝いがありますのでこの辺りで失礼します」
「へ? 今から練習だろ? 今日は全員集合って聞いてるぞ?」
「そうですか」
「え……??」
菜々はきょとんとした顔をしているが、その顔をしたいのは俺の方だ。まるで自分がスクールアイドルの練習に参加しないような言いっぷり。今日練習があることを忘れてるのか? しかし昨日せつ菜から『お弁当を作って来るから明日の練習で味見して欲しい』と連絡が来ていた。またメシマズの料理を食わされるのかと意気消沈していたのだが、コイツそれすらも忘れてるのか? それに例え練習だろうが人一倍やる気を出すコイツがここまで淡泊な反応……何かあったのか?
結局菜々はこの場を立ち去ってしまった。自分で言うのもアレだけど、せつ菜も虹ヶ咲チルドレンの1人として俺を心酔している。なのに俺を前にしてここまで冷静にコミュニケーションを取れること自体がおかしい。まさか―――――女の子の日だから機嫌が悪いとか?? だとしたらあまり触れない方がいい話題だな……。
そんな低俗なことを考えながらスクールアイドル同好会の部室へ向かう。
「零さん! 今日はお早いご到着ですね!」
「ん? せつ菜……?」
「? どうかされたのですか?」
「いやお前、着替えたのか?」
「えぇ。今日はいいお天気ですし、練習まで時間がありますが気合を入れるために着替えちゃいました!」
練習着のせつ菜が目の前に現れた。さっき別れたばかりなのに何という早着替え。だがさっき生徒会室の手伝いに行くって言ってなかったか? 先程とは違って今度は生徒会のことを忘れ、逆にスクールアイドルの練習に精を出そうとしている。どんな心境の変化があったら短時間でここまで乖離する行動を取れるんだ……?
「お前、生徒会の手伝いはどうした?」
「生徒会……? 私はスクールアイドル一筋ですが?」
「えっ?」
「とにかく、今日は零さんが来てくださると言うことで皆さん心待ちにしています! さぁ行きましょう!」
「お、おい引っ張るなって!」
せつ菜と菜々でキャラが全然違うのは知っていたが、キャラ変更前の性格や行動まで忘れて全くの別人になり切るような奴ではなかったはずだ。むしろ冷静沈着な元生徒会長である菜々もスクールアイドル活動には前向きだし、せつ菜の姿であってもよく生徒会の手伝いをしている。だからこそ今のコイツが菜々と全くの別人にしか見えねぇぞ……。でもそんなことあるのか?
何が起こっているのか状況が分からず混乱していると、女の子が1人駆け足でこちらに駆けよって来た。確かコイツは――――
「生徒会の副会長?」
「はいっ、ご無沙汰しております!」
女の子は俺に深々と頭を下げる。
ストレートのロングヘアで眼鏡をかけているのが特徴で、生徒会で副会長と努めている女の子だ。前任の生徒会長である菜々の補佐も勤め上げ、更には現生徒会長の栞子のサポートもしているため秘書能力が高い。理性的な顔立ちをしており、目は切れ長、眉の優美な曲線、細く長い鼻柱、形の整った唇と、流石は選ばれし虹ヶ咲の生徒だということが分かる。見た目も雰囲気も清楚さと美麗さを感じる正統派美少女だ。
「副会長なのに廊下を走るなんて、何か急ぎの用事でもあるのか?」
「それはもう!! 零さん、もしかしなくても菜々さんたちのことで混乱しているのでは?」
「あ、あぁ、そうだけど良く分かったな。まさか何か知ってんのか?」
「原因は分からないですけど、今菜々さんとせつ菜ちゃんの間で起きている状況であれば……」
うわぁ……また面倒事に巻き込まれるフラグがビンビンだ。ただでさえ自分の身体がピンチだって状況なのに面倒事を増やすんじゃねぇぞ全く……。
だが困っている女の子を放っておくわけにはいかないので、仕方ないけど巻き込まれてやろう。
「簡潔に説明しますと、菜々さんとせつ菜ちゃんが2人いるのです」
「へ? 2人? 元々キャラが違い過ぎて2人みたいなものだったけど……」
「今は物理的に2人になっているのです。同じ世界に菜々さんとせつ菜ちゃんが2人共存していると言えば分かりやすいでしょうか」
「んなバカな。いやでもさっき菜々と会ったけど、今のせつ菜と言動が全く違って同一人物には見えなかったな……」
同じ顔立ちなのは流石に隠し切れないが、それ以外は性格も雰囲気も何もかもが別人にしか見えない。そう考えると菜々とせつ菜が分離している説は頷けはする。しかしどうしたらこんな事態に陥るのか、その原因は全く分からない。いや、こんなことをする奴は世界でただ1人のような気もするけど……。
疑いの目を奴に向けていると、向こうから何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「菜々ちゃんこっちこっち!」
「引っ張らないでください高咲さん!」
「侑に……菜々!?」
「副会長さんから連絡をもらって菜々ちゃんを連れてきました。お兄さん、これで現実を思い知りましたよね?」
「ホントに2人いるのか……」
侑が菜々を引っ張ってきたことで、この場に2人の同一人物が揃った。さっきも言った通り見た目だけだと全くの別人なので同一人物感はさらさらないが、正体を知っている人からすると目の前の光景が不気味でならない。こういうのってドッペルゲンガーって言うんじゃなかったっけ? しかも本人がそのドッペルゲンガーと出会ってはダメみたいな迷信があったような気がする。まあ今回はアイツの仕業だろうからそんな心配はいらなそうだけど。
「せつ菜さん、ご無沙汰しております」
「いえいえこちらこそ、菜々さん」
「いやお前ら同一人物だから」
「「は?」」
「お前何言ってんのみたいな顔するなよ……。つうか自分自身が相手なのに結構よそよそしいのな」
「みたいですね……」
どうやらお互いのことは自分ではなく他人として認識しているらしい。ということは菜々はスクールアイドルとしての記憶は持ってないし、せつ菜は元生徒会長の記憶を持っていない。今は菜々とせつ菜で使い分けをしていた時のそれぞれの役割が分離しているように見える。よくもまぁこんな綺麗に真っ二つにできるものだな……。
「で? どうしてこんなことになってるんだ?」
「秋葉さん」
「あぁ、もうそれ以上言わなくていい。大体分かってた」
「菜々さんが料理室で零さんにお渡しするお菓子を作っていたのですが、理事長が用意した材料のせいなのか、味見した時にピカっと身体が光っていつの間にか2人に分離していたのです……」
「そんなことだろうと思ったよ。それで元に戻す方法は?」
「「さぁ……?」」
まあコイツらが知るわけねぇよな。
さて、ここからどうするか。菜々とせつ菜はお互いに相手を不思議そうに見つめている。性格が違っても元は1人の人間なので惹かれ合うところがあるのだろうか。なんにせよこのまま放っておくとお互いに単独で行動してしまうので早めに元に戻してやらなければならない。以前コイツは元生徒会長である中川菜々こそが優木せつ菜だと全生徒にバラしてしまったため、その事実が知られた今、コイツが2人別々にいる状況を見られるとパニックになるのは必然。そうなる前に何とかしてやりたいが……どうすんだ?
とりあえず元に戻すにしても何か取っ掛かりがないといけない。性格が二分割されているとは言っても元は同一人物だから、何かしら共通点は残されているはず。その点が分かればそれを皮切りに行動できるのだが……。
「零さん! 先程クッキーを焼いてみたのですが、味見をしていただいてもよろしいでしょうか!!」
「なんだそのバイオレットに黒を混ぜた毒々しい色は!? つうか何故腕に抱き着く……」
「私が料理を作るといつも逃げてしまうではないですか。だからこうして腕に絡みつくことで逃走を防止しているわけです」
「そ、そうか……」
せつ菜は自分の胸と胸の間に俺の腕を挟むようにして抱き着いてくる。コイツはあまりお色気で攻撃してくるタイプではないので、この行為は俺を逃がさんとする人間の本能に基づくものだろう。かすみよりも低い身長のくせに歩夢に匹敵するような胸の大きさの持ち主なので、これはもうロリ巨乳と言ってもいい。本人がスレンダーなことも相まって胸の大きさが一際目立つ。つうか最近みんなにおっぱい攻撃されまくっている気がする……。いや男として嬉しいけどだけどさ。
「ちょ、ちょっとせつ菜さん! 零さんにそんな羨まし――いや、そんな破廉恥なことを!」
「抱き着く行為は大好きを伝える行動として最適な方法ですから! しかも零さんがお相手ならこの身体いっぱいで愛を伝えて当然ですっ!」
「そんな理由で……うぅ~~っ!! 零さん、失礼します!!」
「えっ!?」
「「えぇっ!?」」
なんと菜々も俺の腕に絡みついてきた。明らかにこんなことをする性格ではないのにいきなり大胆になるなんて何があった?? 侑と副会長も菜々のいきなりの暴挙に目を丸くして驚いている。
ちなみに菜々も当然だがせつ菜と同じカラダ付きなので胸の大きさも当然同じ。そしてその豊満な胸を形が変わるくらい俺に押し付けて抱き着いている。さっき破廉恥って言ってたけどお前のカラダも相当だぞと言ってやりたい。言わないけど。
「こ、これはせつ菜さんの色香に零さんが惑わされないように対抗しているだけであって、決していかがわしい意味ではないですから!!」
「言ってることめちゃくちゃだぞお前……」
「つまり、菜々さんは抱き着くことで自分の良さをアピールしようとしている、ということでしょうか? そうであれば私も負けません!!」
「お、おいっ、何争ってんだ!? てか抱き着き過ぎだ!!」
「こ、これは元生徒会長として零さんに抱き着く居心地の良さをリサーチしているだけで、別に好きとかそういう感情ではありません!!」
「その割には顔が真っ赤っかだよ、菜々ちゃん……」
「ふえぇっ!?」
「せつ菜ちゃんに笑顔で抱き着かれてるの羨ましぃいいいいいいいいいいいいい!!」
「騒がしくなること言うなよ助けろよ……」
せつ菜は大好きを伝える勝負だと思って闘志を燃やしてるし、菜々はそれらしい理由を垂れるも対抗心が剥き出しだし、副会長はその光景を見て羨ましがってるし、コイツら3人みんな優等生なクセして頭のネジが吹っ飛んでやがる。2人の抱き着き攻撃も更に激しさを増し、引っ付かれ過ぎてもはやコイツらが俺の腕かのように一体化していた。侑も『あぁ、またいつものが始まったよ』的な表情で呆れて助け舟すら出さないしで、相も変わらず俺の周りは騒がしいな……。
「性格も完全に別になってるのに、お兄さんへの愛だけはお互いに持ってるみたいだね」
「もしかしたら、そこにお二人を元に戻すヒントがあるのかもしれません」
「私もそう思うんだけど、当の本人たちがあの調子だからお兄さんも困ってるみたい……」
「男性に簡単にカラダを許すようなその抱き着き方、元生徒会長として見過ごせません!!」
「菜々さんだって私と同じように抱き着いているではありませんか!!」
「こ、これは零さんを少しでも守ろうと大きく密着しているだけで、邪な気持ちは一切ありません!!」
どっちもどっちだよ……。
でもこれは参ったな。性格が真逆のせいで同一人物なのにも関わらずそりが合わない。これも別人になるよう性格を分断されたが故なのか。そう考えるとなおさらコイツらが共通して持っているもの、つまり俺への愛を利用してどうにかこうにかするしかない。それが思い浮かべば話は楽なんだけど何をすればいいのやら……。
「これはもしかしてハーレム漫画やアニメでよく見る修羅場という展開では!? くぅううううううううううっ!! こんな光景が生で見られるなんて最高です零さん! しかも侍らせている相手が私の大好きな元会長の菜々さんとスクールアイドルのせつ菜ちゃんというのがまた興奮します!!」
「副会長さん……? もしかしてもしかしなくてもこの状況を楽しんでる……?」
「高咲さんはハーレムモノは苦手な感じですか? この学園にいるのにハーレム嫌いだなんて不思議ですね」
「やめてよその意外そうな顔! そもそもハーレムなんて好きな人の方が少ないでしょ!? それに誰が好きの好んでお兄さんなんかの……」
「零さんのこと嫌いなのですか?」
「来たよまたその質問……。嫌いじゃないよ」
「あれれ~? 顔赤いですよ~?」
「も~っ、うるさい!!」
何やってんだアイツら……。そんなくだらないことを話してないでこっちを何とかして欲しいんだけど……。
つうか副会長って意外と遊び心があるいいキャラしてるよな。生徒会役員ってどうしてもお堅いイメージがあって菜々はまさにその通りなんだけど、副会長はスクールアイドルにドハマりしてせつ菜の大ファンになるくらいだし、見た目のガリ勉クールな雰囲気とは全く異なる。まあせつ菜の名前を背中に刺繍した
「おい、いいからこの2人を元に戻す方法を考えろ」
「それに関しては抜かりありません。もうすぐ到着すると思うので」
「到着? なにが?」
「あっ、来たみたいですよ!」
副会長が目を向けた方を見てみると、見た目と容姿が全く同じ、緑色の髪を2本の三つ編みにし、眼鏡をかけた少女2人組の女の子がこちらに駆け寄って来ていた。
そしてその2人は俺の顔を見るなり、揃って頭を下げて挨拶をする。生徒会は礼儀正しいな。
「「零さん、ご無沙汰しております」」
「お前ら――――右月と左月か」
「「はいっ!」」
生徒会の書記を担当する2人。佐藤
「どうしてお前らがここに?」
「副会長に頼まれて、菜々さんとせつ菜さんの秘蔵コレクションを拝借して持ってきました」
「これでお二人が持つ零さんの愛をより一層増幅させることができるので、元に戻すヒントになれば良いかと」
「副会長さんいつの間にそんなことを? 私を煽ってただけじゃなかったんだね……」
「少し前にこっそり書記ちゃんたちに連絡を。ま、これでも菜々さんや栞子さんを2年連続でサポートする副会長ですから!」
「で? お前の作戦って?」
「お二人の愛の力を増幅させれば、お互いの零さん好き好きパワーが共鳴して元に戻るかもしれません」
「いや意味不明だからその理論。采配は完璧だと思うけどさ……」
いるんだよな、普段はポンコツそうに見えていざという時に本領を発揮する奴。生徒会長をサポートし続けてきたその事務能力は伊達じゃなかったってことか。
そうやって有能風を吹かせている副会長を他所に、菜々とせつ菜は何やら震えていた。
「ダメです零さん! それを見ては!!」
「そ、そうですプライバシーの侵害です!!」
「ほぅ、それだけ焦るってことは効果ありそうだな……」
「「ギクッ!!」」
いくら性格が分断されようが、中川菜々と優木せつ菜は所詮同一人物だから根底に眠る欲望までは二分できない。つまりコイツらが羞恥心を感じているということは、それは羞恥的な何かを感じていると言うことに他ならない。生徒会としてもスクールアイドルとしてもステージに立つこと、大勢に注目されることに対しては鋼メンタルを持つコイツだが、羞恥心を煽られることだけは絶望的。性格が二分されようが心にこびり付くその性格だけは決してどちらからも消えることがないんだ。
右月と左月からアルバムのようなものを受け取って中を見てみる。侑と副会長も興味津々でアルバムを覗いた。
そこには――――見事に俺の写真しかなかった。部室や中庭で昼寝をしている写真、飯を食っているところの写真、校内の掃除を手伝っている時の写真、それ以外にもただ誰かと喋っている姿を撮影した写真など日常的なものが何枚も、俺の写真集でも発売するのかってレベルでアルバムが埋まっていた。
「おい、これどういうことだよ……」
「ち、違いますっ!! これは零さんが学校に来られない日とか、休日で会えない時にこっそり零さん分を補給しようとするためのモノであって、ストーカーとかそういうのではないです!!」
「そうですっ!! それがあればずっと零さんの隣にいられるのです!! 愛する人の傍にずっといたいと言うのは恋人としての常であり、それを批判するのは『愛』というものの定義に喧嘩を売るようなものですよ!!」
「言ってることめちゃくちゃだねせつ菜ちゃん……」
「歩夢たちの中では比較的まともだと思ってたけど、ちゃんと薄汚れた欲望があってどっちかって言うと安心したよ」
「お兄さん驚かないんですね……」
「あぁ、これのくらいは普通だ」
女の子に囲まれる生活も長いし、女の子の数も多いからこうやって異様な愛を向けてくる子はたくさんいる。歩夢たちだってそうだから菜々とせつ菜が隠し撮りをしていたところで別に驚くことではない。この世にはもっと欲深い奴がゴロゴロいるからな……。そう思うとこんなことくらい可愛いものだ。
そしてなにより、これがコイツらを元に戻す鍵となる。
「2人共、俺の写真を集めるくらい俺のことが好きってことだろ?」
「それはまぁ……」
「もちろんですっ!」
「だったらむしろ嬉しいよ。こんなことをするくらい俺の隣にいたいってことだろ? 男としては女の子に求められるのは悪くないどころか、舞い上がっちまうくらい嬉しいことだしな」
「「うぅ……」」
「菜々さんとせつ菜さん、一瞬で顔が赤くなりましたね」
「零さんの大人の対応、凄いです」
「隠し撮りされていると言うのに……。まさに手練れって感じですね……」
「色んな女の子の裏側を見て慣れてるから、お兄さんは」
俺の周りには変な女の子ばかり集まるから、こんなことでいちいち驚いていられない。そんなことをしている暇があったら女の子の偏屈趣味ですら受け入れてしまった方がいいだろう。あまりにも変態的なのは流石に無理だが、写真を収集している程度であれば全然受け入れられる。つうか想像してみて欲しい。気になる男子の写真を集めてる女の子って可愛くないか? しかもその対象が自分なら。特に菜々やせつ菜のように自分の大好きを表に出すような全力投球ガールが、実は恋にちょっと奥手で裏でこっそり愛を向けている様子とか可愛らしい。まさに今の状況そのものだ。
「零さんが好きで好きで大好きだからです! 好きだから写真をこっそり撮ってしまうのも仕方のないことです!」
「開き直ったなオイ……。まあでも――――好きだよ、俺も」
「それはせつ菜さんのことでしょうか? それとも私……?」
「どっちもだよ。お前らは本来2人で1人。いや元々同一人物だから2人って言い方もおかしいけどな。俺は菜々モードのお前も、せつ菜モードのお前も好きだ」
「そ、それでしたらその……愛を確かめるためにキス、してくれませんか?」
「そう、ですね……。お願いします」
「「「「ええっ!?!?」」」」
生徒会組と侑が声を上げる。そりゃ目の前でキスシーンを見せられることなんて生きてる中でないからな……。
せつ菜も菜々は本気だ。頬を紅潮させているものの、俺を見つめる瞳に強い意志を感じる。せつ菜はキスとかエッチとか男との情事には弱い面があるから、そんな彼女からキスを求めてきているってことは相当な本気度が見て取れる。女の子にここまで決意させたのなら男がそれに応えないわけにはいかないよな。
「いいよ。来てくれ、2人同時に」
「2人で?」
「いいのですか?」
「あぁ」
せつ菜と菜々はお互いに顔を見合わせると、同時に俺のもとに寄って来る。そして2人で背伸びをして俺に唇を添わせた。
2人同時という圧力はあるがキス自体はソフトだ。2人からの愛をゆっくりと受け入れて、そしてこちらからも2人に押し付ける。愛する人にただならぬ情熱を持っているのは菜々とせつ菜らしく、それは性格を二分しようが変わることがない。2人からの甘く熱い愛情を感じながらもこちらからも2人を抱き寄せて愛を伝えてやった。
それにキスをした、ということは彼方の時と同様に俺の身体にも変化があり、またしても身体の芯から熱くなってきた。愛を受け入れる器がまた広がったのだろう。図らずも秋葉からのミッションをまた1つ達成した。
そして、突然2人の身体が光る。
あまりの眩しさに俺たちは目を瞑るも、次に目を開けたときには――――
「えっ、せつ菜ちゃんが元に戻ってる!?」
せつ菜が1人となっていた。制服ではなくスクールアイドルの練習着なので菜々がせつ菜の方に吸収されたのか。せつ菜側の見た目は何も変わっていないのでぱっと見では元に戻ったのか分からないけど……。
「せつ菜ちゃん? 本当にせつ菜ちゃんだよね!?」
「副会長さん……。えぇ、いつものせつ菜ですっ!!」
「それではいつも優しいあの菜々さんは……?」
「元会長の菜々もいらっしゃいますか?」
「右月さん、左月さん……もちろん―――――この通り!」
「「菜々さんの髪型だ!」」
せつ菜は自分の髪の先っぽを一瞬で三つ編みにして菜々モードに切り替える。それも何気に凄い芸当だけどな……。
そんなわけで無事に1人の人間に戻れたようだ。ぶっちゃけると菜々とせつ菜を両方同時に見られるのは珍しくもあったし、性格真逆の2人が会話をしている光景とか面白くてあれはあれでもっと眺めていたくはあったな。
「零さんもご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」
「いや、いいよ。お前がどれだけ俺のことを好きでいてくれているのか分かったし、嬉しかったからさ。写真まで撮られているとは思わなかったけど」
「その写真は自分の欲求不満の解消用と言いますか……。とにかく、これからは菜々とせつ菜、1人で2人分の愛をこれでもかってくらいに伝えていくので覚悟してくださいね♪」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
やっぱりせつ菜の全力投球も、菜々のクールな純粋さもどちらも好きだ。どちらにせよ愛をストレートに伝えてくる直球さは変わらず、それを真っ向から受け入れてお互いの愛を感じられる瞬間に多幸感がある。
秋葉から課されたキスをしなければならないミッションはあるものの、こうしてせつ菜たちとの絆と愛を確かめられるのであればそれも悪くない。むしろたまにはこうしてキスをしてこっちからも愛を伝えてあげたい、と思った。いつも女の子から貰ってばかりだから、こっちからもお返ししてやらないとな。
今回は菜々にもスポットを当てたせつ菜の回でした!
せつ菜は正統派ヒロインという感じで、私はラブライブキャラの中でもトップクラスに好きなキャラだったりします。なので今回は思い切って2人を同時に登場させてみたのですが、そのせいでいつもとは話の雰囲気が全然違って違和感ありまくりだったと思います(笑)
そして何気に生徒会メンバーが全員集合しました。モブキャラの副会長さんも双子の書記ちゃんたちもビジュアルはいいのでいつか登場させようと思っていたのですが、今回のタイミングがバッチリで、更に各々しっかり活躍させられて満足です!
ちなみに書記の右月と左月はアニメでは名前なしだったのですが、スクスタのストーリーでは名前付きで登場しているのでよろしければ検索してみてください!
副会長に至っては名前を付けて欲しいくらいアニメでキャラが立っていたので、この小説でオリジナル名を追加するか悩むくらいでした(笑)
最後にしれっとキスをするミッションが進んで、残り10人になりました。テンポよく毎回別の女の子とキスをする、そう思うと零君のリア充っぷりが半端ない……