ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回は話のネタの都合上、一人称がコロコロ入れ替わります。
 前回投稿した『ドキドキ職業妄想体験!』のお話みたいな感じで進みます!




妊娠体験!?バーチャル結婚!?

「えぇっと、妊娠体験……ですか?」

「そうそう。女子高ならではの体験イベントってこと♪」

 

 

 澁谷かのんです。

 ウィンクをして楽しそうにしている秋葉先生を前に、私たちは聞き慣れない言葉に唖然とするばかりだった。いや言葉自体の意味は分かるけど、妊娠って私たちにはまだ縁の遠い言葉だから実感というか、何をするのか分かってなくて……。

 

 今日は珍しく零先生のお姉さんである秋葉先生が部室に来ている。秋葉先生は非常勤講師で、研究者として頻繁に世界を駆け巡っているみたいだからそもそも学校に来ること自体が少ない。だから私たちもそこまで頻繁には顔を合わせていなかったりもする。ただ零先生から聞いた話と私たちがこれまで体験したことから察するに、あまり積極的に関わってはいけない人……だと思う。

 でも秋葉先生は勉強の教え方も上手く、授業はラフなスタイルなのにもかかわらず生徒のやる気を引き出すのも上手だから、そこまで悪い人には見えない。私の友達にも秋葉先生の授業が楽しみだって言ってる子もいるし、先生本人もフレンドリーで接しやすく、生徒人気が高いのは間違いない。だから零先生から聞いてたよりも全然まともって感じがするよ。

 

 そして今日秋葉先生が持ち込んできたのは、近々この学校で開催される妊娠体験イベントのプレテスト。それを私たちにやって欲しいとのこと。まあそれくらいであればお世話になっている零先生のお姉さんということもあり、二つ返事で引き受けることにした。ただ秋葉先生が既に楽しそうなのは何か不穏な雰囲気がするようなしないような……。

 

 

「妊娠体験ってアレ? お腹の膨らみを体感するためのエプロンとか、大きくなった胸を再現するための胸パットとか付けるってことかしら?」

「それもあるけど、私が監修してるんだからそんな単純なモノでは終わらせないよ!」

「いや単純でいいと思いますけど……。生徒会長としてその、あまり過激なことは禁止にせざるを得ないと言いますか……」

「なんか凄く警戒してるみたいだけど、実際に子作りから体験してみようとか、そんなエッチなことは求めないから大丈夫だって! それはそれで面白いけど♪」

「なんか可可たち遊ばれようとしてマセンか!?」

「一応これだって保健体育の授業の一環なんだから、流石の私でも真面目にやるって♪」

「さっきから笑顔が怖いんですけど……。ね、かのんちゃん……?」

「ふぇっ!? 答えづらい質問を振らないでちぃちゃん!!」

「この警戒のされよう。どうやら零君が私の悪口を吹き込んでるみたいだね……。ふ~ん……」

 

 

 悪口ではないんだけど、注意するようには言われてたから私たちは思わず警戒してしまっていた。ただそれは秋葉先生の癪に障ったようで、意地悪そうな笑みを浮かべている。これもしかして零先生が遊び相手にされちゃうとか、そういう流れになっちゃったかな……?? だとしたらゴメンなさい、先生!!

 

 そんなこんなで話が進んでいく中、秋葉さんは妊娠体験に必要なモノをバッグから次々と取り出していく。すみれちゃんが言っていた通り、お腹の膨らみを体感するためのエプロンや大きくなった胸を再現するための胸パット、そして双眼鏡のようなゴーグル……って、ゴーグル??

 

 

「これは……VRゴーグルというやつデスか!? 一気に科学的になって面白そうデス!」

「その通り! エプロンや胸パットを付けるだけなんて現代的じゃないからね、もっとデジタルに行かないと! というわけで、それを付けると疑似的に妊婦さんの生活が体験できるってこと。こっちの方が臨場感も現実味もあって楽しそうでしょ?」

「確かにゲーム感覚の方が楽しめるってのはあるわね。エプロンと胸パットを付けて歩くだけとかつまらないし」

「うん、これだったらみんなにも興味を持ってもらえそうかも。それだったら恋ちゃんもいいでしょ?」

「そ、それでしたら……」

「決まり! しっかり5人分持ってきたから早く装着したした!」

 

 

 ゲーム感覚と聞いて可可ちゃんもすみれちゃんもちぃちゃんもみんなやる気満々になり、そんな前向きな様子を見て恋ちゃんも引き下がれなくなっていた。正直私もこれだったら面白そうだし、別にただVRを体験するだけだから何もされない……と思う。変に警戒しちゃってたけど、秋葉先生も教師なんだから生徒に興味を持ってもらえるようにイベント内容を考えてくれてるだけなんだよね。疑っちゃったりして悪いことしたかな……。

 

 みんな席につき、まずエプロンと胸パットを装着する。

 

 

「意外と重いのですねお腹の重り。エプロンなのでここまでずっしりしてるとは思いませんでした」

「もうこの重さだけでも妊婦さんの気持ちがわかるね……」

「でもこの胸パットもそこそこ重いわね。妊娠したらここまで膨らむものなのかしら……」

「こ、これが巨乳の重みってやつ……? 凄い……」

「千砂都? なにやら感動しているみたいデスがどうかしたのデスか?」

「うぇっ!? な、なんでもないよなんでも!!」

 

 

 ちぃちゃん、胸パットの力だけど巨乳になることができてちょっと嬉しそうにしてる。自分がスリムな体型なことを気にしてるから仕方ないけど、まさかここまで目に見えて感動するとは……。スラっとした体型はダンスをする上では理想なんだけど、男性に魅力を見せるという点だと気になってしまうのも無理はない。私自身もスタイルがいいとは言えないからそこのところは先生がどう思ってるのか気になったりしている。

 

 ――――って、ここで真っ先に先生が思い浮かぶなんて先生に失礼だよ!! 先生は誠実だから女性をそんな目で見たりしないから!!

 

 気を取り直してVRゴーグルを装着する。座っているだけでも妊婦さんのぷっくりしたお腹と大きくなった胸を体感できるため、更にVRで実際の生活を体験するとなったら臨場感は凄まじいと思う。期待半分、緊張半分で私たちはみんなゴーグルを付けた。

 

 

「それじゃあみんなのゴーグルのスイッチをまとめてオンにするから、みんなは理想で幸せな世界をたぁ~~~~っぷり楽しんでね♪」

 

 

 なんか凄く含みのある言葉!? 理想で幸せって一体どういうこと!?

 というか、妊婦さんの生活が体験できるって聞いたけどどんなシチュエーションなんだろう……??

 

 そんな疑問を残しつつ、私たちはVRの世界へとダイブした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【澁谷かのんのVR空間】

 

 

 

 

「これがVRの世界、まるで本当の世界みたい……」

 

 

 ここって本当にVRの世界なんだよね……? 自分の肉体も周りの世界も現実みたいでVR世界に来ている感覚が薄くてビックリしちゃったよ。私はあまりゲームとかやらないんだけど、最近の技術って凄いんだね。

 肉体が本物っぽいって言ったけど、それはこの膨らんだお腹と胸ですぐに分かった。さっきはエプロンや胸パットを付けている感覚が残っていたけど、この世界だとお腹と胸の重みが直に感じられるため、自分が本当に妊娠しているんだって実感できる。エプロンを付けている時よりも重くて、これはいい妊婦さん経験ができそう。

 

 とは言っても、私はここで何をすればいいんだろう? どうやら家の中らしいから、とりあえず歩いてみたり階段を上ってみたり、それで苦労を体験すればいいのかな? それだったら別にVRの世界に入らなくても学校でできるような気も……。

 

 

「どうしたんだかのん? そんなところで立ち止まって?」

「ふぇっ……? え゛っ、えぇええええええええええええええええええ!? 先生!?」

「なんだよそんなに驚いて。大声出してあまりお腹の子に刺激を与えるなよ」

「ど、どうしてここに先生が……!? まさか私たちと同じVRを!?」

「なに言ってんだお前。俺たち結婚してるんだから同じ家にいるのは当然だろ?」

「け、結婚んんんんんんんんんんんんんんん!?」

 

 

 ちょ、ちょっと待って! 落ち着くから!!

 どうやら先生の反応を見る限り私たちとは別でVRをやっているとかではなく、恐らくこの世界の先生ということだと思う。つまり秋葉先生が言っていた妊娠体験って、先生との結婚生活ってこと……? そ、そんな夢のような……って、もしかして幸せな世界ってそういうこと!? しかも既に私が妊娠済みということは()()()()()()を経験済みってことだよね!? 先生とそんな関係だなんて妄想してないと言われたらウソだけど、VRとは言えその妄想が現実になるなんてどうしたらいいのか……。

 

 

「おい顔赤いぞ大丈夫か? 妊娠中の辛さは男の俺には分からねぇけど、少しでも辛いことがあれば言えよ。なんでも手伝うから」

「ひゃっ、ひゃいっ!!」

「テンパりすぎだろ……。まさかお腹の中の赤ちゃんが動き始めて気になるとか?」

「そ、それはないと思いますけど……。そういうことではなくってですね……」

「そうか? お腹もそこそこ大きくなってきたから動いてもおかしくない頃だとは思うけど」

「ぴゃぁっ!?」

 

 

 いきなり先生にお腹を触られて思わず変な声で驚いてしまう。別に局部を触られているわけじゃないから驚くこともないんだけど、自分が妊娠しているというシチュエーションだからお腹を触れることに敏感になってしまっている。そう、自分の中に先生との愛の結晶がいて、そこを先生に撫でられるなんてとてつもない多幸感が……!!

 

 

「なんだよ急に嬉しそうにして……」

「う、嬉しいんです! 先生とこういう生活ができるのは夢でしたから……」

「なるほど。でもこれは夢じゃない。だからこれからもずっと一緒だ」

「先生……は、はいっ! よろしくお願いします!」

 

 

 ここがVRの世界だってことは分かってるけど、例えウソでも先生とこんな生活を送ることができるなんて本当に夢みたい。現実でもいつかこうなったりするのかな……?

 とにかく今はこの体験イベントを楽しもう。できればもう少し、もう少しだけ時間をくれると嬉しい……なぁ~んて。そしてその時間をより多く楽しむためには、現実世界で私がもっともっと頑張らないと……!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【唐可可のVR空間】

 

 

 そんなまさか――――可可と先生が結婚してるなんて!! 他の皆さんも同じシチュエーションを味わっているのでショウか……??

 とりあえず落ち着いて素数を数えまショウ。1、2、3、4……あれ??

 

 

「お腹かなり大きくなってきたな。歩きづらいだろうし、無理をする前に俺に言えよ。家事も変わってやるから安静にな」

「先生……や、優しい……」

「その言い方だと普段の俺が優しくないみたいじゃねぇか……」

「い、いえっ、いつも優しいですけど今日は更に男っぽいと言いマスか、可可の旦那様なんだなって実感できて心が躍ると言いマスか……」

「なに言ってんだよ、当たり前のことだろ。俺たち結婚してるんだから」

「ぐぅぅうううううううううううっ!! 結婚という言葉の破壊力がまさかここまでとは……」

 

 

 結婚という言葉がこれほどの威力を持っているなんて思ったこともありマセンでした。これが幸福になった者だけが堪能できる快感でショウか……。普段も先生に優しくされたり褒められたりすると頬が緩んでしまいマスが、先生と夫婦であるというこのシチュエーションのせいで余計に幸福を感じられて……。そ、そんなの―――――最高デスか!?

 

 

「先生は、このお腹の赤ちゃんが生まれたら何をしたいデスか……?」

「何がしたいって言われると色々あるな。お前とこの赤ちゃんと一緒にいられるだけでも俺は幸せだから。強いて挙げれば家族揃ってピクニックとか……まぁそんなの俺の柄じゃねぇけど」

「いえ全然いいと思いマス! 可可の作ったお弁当を先生と、そして可可たちの赤ちゃんに振る舞えるなんて、なんと素晴らしい未来……!!」

「ははっ、赤ちゃんにお弁当はまだ早いかな」

「た、確かに! 赤ちゃんって何を食べるのでショウか!?」

「ペットかよ……。テンション上がったら暴走するのはいつも通りか」

 

 

 ただでさえ仮想世界なのに更に未来のことを妄想してしまい、もう何が現実なのか分からなくなってしまいそうデス……。でもこの幸せを噛みしめられるのであれば現実だろうが妄想だろうが関係ありマセン! ただ、本当の現実でもこのような関係になれたら……いいなぁって。そのために恋愛術を今ここで学び、現実でも先生とこうして一緒に――――!! 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【嵐千砂都のVR空間】

 

 

 

 け、けけけけけ結婚!? 先生と私が!? 今まで先生と付き合って海外で一緒にダンス留学する妄想はしたことがあったけど、流石に結婚は想像の範囲外過ぎて……!! VR空間なのは分かってるけどまさか先生とそんな関係になれるなんてVRの私が羨ましい……いや、今の私がVRの私か。ということは――――この生活を堪能してもいいってこと!?

 

 

「いやでも心配になるよ。お前の身体ってLiellaの誰よりも華奢だから、そんなにお腹が大きくなって問題ないのかって」

「そ、それは多分大丈夫です! ほら、私ダンスで結構鍛えてますから!」

「そうか? 胸も大きくなってるし、それだけ体重が増えてるはずだろ? だから心配なんだよ」

「む、胸が!? そうか、赤ちゃんを育てられるように大きく……。つまりこれがあれば先生を……」

「おいどうした? お~い……」

 

 

 胸が薄いことを気にしていた私だけど、赤ちゃんを育てられるように身体が変化してきているおかげで並程度、いやそれ以上に胸が大きくなっている。先生はエッチな人じゃないから胸の大きさで人を測らないと思うけど、女として気になるものは気になっていた。可可ちゃんやすみれちゃんが大きかったのも相まって、私は女性としての魅力が薄いと思ってしまっていた。でも今はその悩みはない。そう、これが夢にまで見た――――巨乳!!

 

 

「先生は私の身体をそこまで気遣ってくれるんですね……」

「当たり前だ。大切な嫁さんの身体なんだ、それこそ大切にするだろ。それに俺たちの愛の印がそのお腹の中にいるんだからな」

「先生との愛の結晶……!! この赤ちゃんが生まれたら、私の胸で、大きくなった胸で……」

「お、お前、変なこと想像させるなよ……」

「え~? 何を想像してたんですか~♪ 意外とエッチなんですねぇ~」

「そのイタズラな笑顔やめろ! ったく、大人をからかおうとするその姿勢は高校時代から変わってねぇな……」

「えへへ……♪」

 

 

 先生もこういうことで恥ずかしがるんだ、意外! そうと分かればこの大人になったこの身体を駆使して先生をもっと誘惑できるはず。そうなったらこの赤ちゃんだけじゃなくて、2人目、3人目も――――って、話が早いよ私!!

 でも、ここはVRだからどれだけ積極的に行っても現実には影響しないから問題ないはず。それにもし現実でもこれだけ攻められたら……うん、頑張ろう!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【平安名すみれのVR空間】

 

 

 結婚……。私とアイツが……。べ、別に向こうから結婚してくれと言われたらそりゃ考えなくもないけど。でもこのお腹、私たちヤっちゃったのよね……? アイツと私の愛がここにたっぷり詰まって……フフッ。

 

 って、ダメダメ! 嬉しそうにしたら付け上がるだけだから絶対にそんな素振りを見せちゃダメ!!

 

 

「おいすみれ、なんか機嫌悪いのか? そりゃそんなぼってりとした腹で毎日を過ごしてるんだから、ストレスは溜まるだろうけど……」

「別に。それにこのお腹は私とアンタの……いやなんでもない」

「なんだよ。ま、お前は腹の中の赤ちゃんを乱暴に扱うことはないだろうから安心するよ。お前、スクールアイドルをやってた時も誰よりもみんなことを見てたもんな。いいお母さんになるってその頃から保証されてたようなもんだ」

「な、なに分かったような口を……」

「俺はそんなお前と結婚できて嬉しいってことだよ」

「ッ~~~~!?!?」

 

 

 コ、コイツ、毎度毎度さりげなくドキドキさせてくるのやめなさいよ!! 嬉しそうな素振りを見せないようにって思ったけど、こんなの顔が熱くなるに決まってるし、頬が緩みそうなのを抑えるだけで精一杯よ全く……。それに向こうは素直に嬉しさを伝えて来てるのに、こっちだけ平静を装ってるなんてバカみたいじゃない。

 

 

「はぁ……。私も幸せよ。このお腹の重みはアンタとの愛が詰まってるってことだから、それに幸せを感じないわけないじゃない」

「そうか。楽しみだよ、お前との新婚生活。家事もできて料理も上手くて、美人で他人想いのお前と結婚できて、俺は最高に幸せな夫だな」

「ふんっ、私なんだから当たり前でしょ! ま、まぁ私もアンタみたいなカッコよくて頼りになる男と結婚できて、その……幸せだわ」

「そっか。ありがとな」

「ッ~~~~!?!?」

 

 

 なによその優しい微笑みは!? いつもみたいに人を見下すような態度で来いっての調子狂うわ全くもうっ!!

 でも幸せを感じているのは事実。もし現実でもコイツとこんな感じになれたらってたまに想像してしまう。あぁ~もう人の妄想にまで勝手に踏み込んでくるなんてホントに迷惑な奴! こうなったらこのVR体験でたくさん経験を積んで、現実のアイツをリードして優越感に浸ってやるんだから!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【葉月恋のVR空間】

 

 

 まず落ち着いて状況を整理しましょう。先生と私が結婚して夫婦の関係であり、私が妊娠していて、そして一軒家に一緒に住んでいて――――はい、もう思考回路がパンクしそうです……。私の思い描いていた幸せをありとあらゆる形で詰め込んだ夢のような空間。他のVRがどういうものなのか存じ上げませんでしたが、これだけ幸せを簡単に享受できるなんて、これは中毒者が出るくらいに人気が出るのも分かるような気がします。

 

 

「恋、あまり無理するな。家事なら俺が代わるっていつも言ってるだろ?」

「なるほど、そういう設定の世界なのですね……。いえ、平気です。お任せしているだけでは葉月の名が廃ります」

「変なプライド張るのもお前らしいな。だったら俺も手伝うよ。いいか?」

「は、はい……」

「どうした? なんか緊張してる?」

「い、いえっ! ただ先生と隣同士でキッチンに立っているのが夫婦っぽいなっと」

「なに言ってんだ、夫婦だろ俺たち」

 

 

 それはそうなのですが……。エプロンを付けてキッチンに立つなんて単純な行為。それなのにも関わらずどうしてここまで緊張してしまうのでしょう……!! 想いの男性と夫婦となり一緒に暮らしているというだけでも高揚感が増しますが、こうして共に家事をしていると共同生活をしているという感覚がより一層強くなって、正真正銘の夫婦なのだと実感できます。極めつけにこのお腹の子。少し動くだけでも重みを感じられるので大変ですが、その重みこそ先生との愛。それを感じられるのもまた幸せです。

 

 

「えっ、どうしていきなり私の手を……?」

「包丁を持ったままぼぉ~っとしてたからな、危ないぞ。もしかして気分とか悪いのか?」

「だ、大丈夫です! お騒がせして申し訳ございません。それにしても、こうやって気遣ってくれるのも今と変わっていませんね、先生」

「今……? 俺は元からそれなりに紳士だったと思うが? ま、お前という嫁さんができて更に敏感になったと思うよ。大切な奴を守りたいってのは今も昔も一緒だ。お前も、そのお腹の子もな」

 

 

 例えVRでも先生は先生でした。恐らく現実の先生の未来も性格や考え方は目の前の先生と変わらないと思います。だからこそ私はずっとこの方を想っているのでしょう。もし現実でもこんな未来が訪れるのだとしたら、現実の私も今まで以上に頑張る必要があるでしょう。正直に言ってしまうと積極的になるのは物凄く恥ずかしいのですが、このような幸せな未来のためなら私は――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 私たちがVRを堪能している最中、部室にいる秋葉さんは――――

 

 

「いやぁ~あっついあっつい! みんなゴーグルを付けたまま顔を真っ赤にして沸騰しちゃって、そのせいで暖房いらなくなってるよこの部屋」

 

 

 そして、楽しそうな笑みを浮かべ――――

 

 

「VR空間を作るのは初めてだったけど、流石は私、みんなを虚構の世界に閉じ込めることに成功してるね。この実験結果は今後の発明に使えそう」

 

 

 そして、優しい笑みを浮かべ――――

 

 

「でも楓ちゃんから聞いた通りだったってわけか。ウブなキミたちのままだと一歩踏み出すのもままならないから、こうして後押ししてあげてるんだよ? これも実験に付き合ってくれたお礼ってことで」

 

 

 そして、不敵な笑みを浮かべ――――

 

 

 

「その代わりと言ってはアレだけど、みんなのVR空間の様子はしっかり録画してるから♪ ただの善行なんて私がするわけないじゃん! いやぁ~人の黒歴史を握るのって愉悦すぎてゾクゾクしちゃう! いい夢を見させてあげてるんだからこれくらいは等価交換ね、フフッ♪」

 

 

 この人には関わってはいけないと、VRに没頭している私たちは当然気付くはずもなかった……。

 




 秋葉さんが割といいことをしているので書いている自分でも偽物かと思いましたが、正真正銘の本物です(笑) 5人全員に一歩を踏み出すように促しているとか、これまで以上にない謎の働きに文句を言う隙も無い……(なお最後)


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