ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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澁谷ありあは探りを入れる

「さみぃ……。あのクソババアのせいで休日に出かけるハメになっちまうなんて……ぜってぇ恨む……」

 

 

 

 年が明けたとある冬の休日。俺は昼下がりの街中を練り歩いていた。冬だから最近はいつも寒いのだが、今日だけは特別に冷え込んでいる。あまりの寒さにすれ違う人たちもみんな上着を着こみ、マフラーと手袋はもはや標準装備。ニット帽や耳当てをしている人も多く、この人混みたちの装備を見るだけでも外の気温の寒さを感じられるくらいだ。

 

 本来であればこんな寒い中、しかも休日に外にいるなんて俺からしたら考えられないことだ。だがあのクソババア、もとい理事長が下すミッション、教師たるもの生徒と同じく日々学べの圧力により資格勉強を強いられている。ただでさえ忙しい教師生活なのに資格勉強を押してくるなんてもはやパワハラだが、資格取得で給料が劇的に良くなるらしいので仕方なく従っている。だからこうやって寒い日であろうとも資格試験のために出かける必要があるのだが、給料云々を度外視しても恨むレベルだぞこの寒さの中での強制外出は。

 

 そんなこんなで試験終わりにこうして帰宅しているのが今なわけだけど、人混みのすれ違いざまに見知った顔を見つけた。それと同時に俺に気付いた向こうが真っ先に声をかけてきた。

 

 

「お姉ちゃんの先生……さん?」

「お前は確か、かのんの妹の――――」

「はい、澁谷ありあです」

 

 

 唐突な出会いに驚いた俺たちは、一瞬お互いに見つめ合ったままだった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「この前はいきなり電話して悪かったな。おかげでかのんを元に戻せたよ」

「えっ、本当にあのやり方で元に戻ったんですね……」

「お前、やっぱり楽しんでただろ……」

「えへへ、いやぁお姉ちゃんの恥ずかしがる姿を思い浮かべるだけで楽しくなっちゃって!」

 

 

 帰り道が同じ方向ってことで、予備校帰りのありあと一緒に帰宅することになった。その途中で以前にあったかのんのエンドレスやさぐれモード事件について、不本意な方法だったがコイツのおかげで解決のは確かなので一応お礼を言う。そうしたら小悪魔的この反応、やっぱ甘い言葉で褒めれば元に戻るってのは自分がただ楽しむための虚言(結果的には成功したけど)だったらしい。こんな性格の妹を持ってしまって、アイツも苦労してんな……。

 

 

「お前のせいで解決したけど、お前のせいで大変でもあったんだぞ。あのあとみんなからも『自分も褒めろ』オーラを無言で醸し出されて面倒なことこの上なかった」

「それはなんと言うか、愛されてるんですね……」

「まあ思春期女子が若い男性教師に惚れるのはよくあることだろ。それがほぼほぼ全員だから対応に困るんだけどさ……」

「よくあることで済ませられるくらいに慣れてるってことですか?」

「へ? いやぁ、そりゃ漫画やアニメでよくある話だってことだよ」

「ふ~ん……」

 

 

 あぶねぇ……早速自分の境遇をバラすところだった。しかもコイツ、あまり話したことはないけど変に計算高いところがありそうだから少しだろうがボロを出したくない。だがぶっちゃけた話、人によって自分の身分を偽ったり大っぴらにしたりして話すのが面倒だから、そろそろ真実を解放したくはあるんだけどな。それがいつになるのやら……。

 

 

「先生ってお姉ちゃんからもそうですけど、Liellaの皆さんからも慕われてますよね。いや、慕われてるっていうよりかは恋愛感情を持たれてると言った方がいいですか」

「お前、よく見てんのな……」

「ていうかあの乙女チックな表情を見て気付かない人の方がおかしいですよ。ウチの喫茶店でスクールアイドルの打ち合わせをしている時も、先生の話題が出るだけで顔を赤くするくらいですから」

「俺がいないところでもそんなことになってんのか。アイツらほど分かりやすい奴を見たことがないと思ったけど、日常生活に支障が出るレベルで恥ずかしがってるとは思わなかったな」

 

 

 先日の職業妄想体験の時もそうだったけど、想像の中で俺が出演するだけで恥ずかしがるとか生きていけるのかって話だ。所構わず考え事の中に俺が出現しただけで顔を赤くするってことは、通学中、授業中、食事中etc……あらゆる場所で羞恥心を刺激されるだろう。目の前の女の子がいきなり顔を赤くしてたら発情してると思われるぞ……。

 

 

「そう言うってことは、先生はお姉ちゃんたちの気持ちを知っているんですか?」

「お前もさっき言ってたろ、気付かない人の方がおかしいってな」

「気付いているのにずっと放置しているわけですか。中々いい身分ですよね」

「あのなぁ、俺たちは教師と生徒だぞ? 若い奴らみたいに惚れて告白して即合体みたいな安定したシナリオで事が進むわけねぇだろ」

「最後のはちょっと、いや結構極端ですけど……」

 

 

 教師と生徒とか言っているが、実のところはもうそこまで抵抗感はなかったりする。サヤに拉致されたあの一件で、自分が教師としてでなく男としてかのんたちと向き合うことを決めて以降は教師生徒の(しがらみ)は感じなくなった。そもそもAqoursとの関係だって最初は教師生徒だったし、虹ヶ咲の奴らとだってコーチと教え子で同じような関係だ。そいつらと男女の経験があるのに今更Liellaの奴らとの間に変な壁を作る必要はないってことだよ。常識とかそんなものは関係なく、俺がやりたいようにやる、ただそれだけだ。

 

 

「なるほど、生徒を惚れさせる先生か……」

「なんだ? 文句でもあるのか?」

「いえ。惚れられるのは仕方ないにしても、教師としてそれを拒否したり否定したりはしないんだなぁと思いまして。なんか見たところその事実を受け入れて当然、みたいな」

「なに言ってんだ。男と女の関係に社会的地位も身分も関係ねぇだろ。好きだから好き、それでいいじゃねぇか。お互いが幸せならそれでな」

「軽薄ですね……」

「だろうな。失望したか?」

「マイナスにはなってないですね。そもそもこうしてじっくり話すことも初めてなので、最初から好感度はゼロですから」

「手厳しいな……」

 

 

 コイツと話していて思ったけど、思ってることを容赦なく発言してきやがる。それが澁谷ありあの性格なんだろうが、とてつもなく警戒されているってのもあるだろう。一時期の侑を思い出すが、アイツの方がまだ親和性が高かったように思える。コイツの場合は自分の小悪魔系が刺激されている時は年相応に無邪気な面を見せるが、それ以外で俺と話している時はかなり淡々としている。そういった意味ではクール属性が強い雪穂に似てるかもな。

 

 

「じゃあお前の好感度を上げるにはどうしたらいいんだ?」

「私のを上げてどうするってのもありますけど、それを本人に聞くってもしかして恋愛下手ですか……? お姉ちゃんが『先生は今まで誰ともお付き合いしたことがない』って言ってたのは本当だったんですね」

「アイツそんなことまで話してんのか……」

「でも話している感じだと女性慣れしてそうな雰囲気がありますし、どっちが本当の先生なんですか?」

「俺に二面性なんてない。俺はいつもありのままの自分を曝け出してるよ」

「ホントかなぁ……」

 

 

 コイツ、意外と鋭いな。あまり一緒にいるとボロを出すとか出さない以前に俺の素性がバレてしまうかもしれない、中々に危険な奴だ。かのんから聞いた話だと中学2年生だって言ってたっけ? 中学時代の雪穂といい楓といい、そして今のコイツといい、最近の中学生は大人びている奴も多い。下手をしたらコイツ、思春期かぶれのかのんたちより精神年齢が上じゃねぇか……? 俺との付き合いは浅いのに、短時間でこちらの核心にここまで迫って来たのは素直に凄いと思うよ。同時に恐ろしくもあるけどな。

 

 それにしても中学2年生か。顔つきも身体つきも幼さから大人になる時期だ。いや別にロリコンとかそういうのじゃなくて、男だったら期待を寄せる年頃の女の子ってだけの話だ。あぁ、それが変態に見えるのか……。

 ただありあに至っては姉のかのんの美人さに似ているところがあるのか、顔つきは中学生のくせに普通に大人びている。改めて見てみるとやはり美人の妹は美人ってことがよく分かるな。眼鏡さえ外せばもっと魅力的に見えるだろう。いや今の状態でも十分に可愛いけども。それに賢い女の子とコミュニケーションを取るのは好きだったりする。女の子と言葉のプロレスをするのも楽しいしな。

 

 

「なんですかさっきから、ジロジロ見ないでください……」

「反応が丸っきり(あいつ)と一緒だな……」

「もう、この人にお姉ちゃんを任せちゃっていいのかなぁ……」

「保護者かお前は」

「だってお姉ちゃんってキツそうな見た目とは裏腹に推しが弱いし、変な男性に騙されそうになったらどうしようって!」

 

 

 なるほどね。俺に下手な探りを入れようとしてるのは姉を心配してのことだったのか。ここで俺と会ったのは偶然だったのだろうが、いつか俺と会話する機会があったときに今回のような探りをしようと決めていたに違いない。そう考えるとちょっとシスコン気味ではあるか。まあ家族のことを心配するのは当然のことかもしれねぇけど。

 

 それにしてもコイツ、俺のことを変な男性と思ってたのか。否定はしないけどもっとこう、言い方ってものがあるだろ。まだ女グセが悪そうとか言ってくれた方がモテ男としてのプライドが高まるから嬉しいんだけどな……。

 

 

「安心しろ。俺は女の子を悲しませたりはしないさ。なんたって俺が好きなのは女の子の笑顔だから」

「…………!?」

「なんだよ?」

「い、いえ、すっごく真っすぐな瞳をしていたので驚きました。さっきまでは口調も態度も何もかもが軽かったのに、今だけは納得せざるを得なかったと言いますか……」

「フッ、そっか」

「なんで笑ってるんですか……」

 

 

 やはり自分が心の底から信じるものは相手に伝わるものだなって思っただけだ。自分自身が軽薄でノリも適当なのは理解しているが、女の子に対しての気持ちだけは本物だ。だからこそ自分の信念を語るときだけはどうしても真面目になっちまう。別にそれで自分を理解してくれない女の子の心に響かせようとは思ってないけど、毎回みんなに共感はされるのでこの信念だけは認めてくれているのだろう。

 

 

「それにさっきからやたらこっちのことジロジロ見てません? セクハラですよ」

「お前なぁ、この人混みを見てみろ。気にするに決まってるだろ」

「えっ……きゃっ!?」

「おいっ!? あ、あぶねぇ……」

「へ……えっ!?」

「ったく、言わんこっちゃない」

 

 

 会話に集中しているように見えるが、実は街中で人の波の間を練り歩いていることを忘れてはいない。だからありあがその波に飲まれないように注意していたのだが、この人混みで四方八方から歩いてくる人全員を警戒することはできなかった。そのせいで小柄な彼女が人混みに流されそうになったのだが、咄嗟に手を掴んでこちらに引いて抱き寄せた。

 

 そして、いったん落ち着くためにその勢いのまま道の脇から裏路地に逸れた。そこでようやく俺の身体から彼女を解放する。

 

 

「大丈夫か?」

「は、はいっ、ありがとうございます。助かりました」

「気にかけてたのに悪かったな」

「い、いえっ、先生が謝ることなんて何もないですよ! むしろ感謝しかないです!」

「そうか。まあ怪我がなかっただけ良かったよ」

「…………なるほど、お姉ちゃんたちが好きになるわけか」

「ん?」

「なんでもないです!」

 

 

 顔を赤くしてるけど、さっき少し抱き合ったときに暑くでもなったか? 外気温は寒いけど、ここまで着込んでるとそりゃ触れ合ったら暑くなるわな。

 その後はありあの口数が目に見えて減ってしまった。帰宅ルートもちょうどそれぞれ分岐するところだったのでそのまま解散したのだが、ずっと恥ずかしそうにしていたのはなんだったんだ。まさかクールキャラだけど俺に抱き寄せられたせいで惚れた……とかは流石にねぇか。だとしたらチョロすぎなんだよな……。

 

 

 そして、1人になった彼女は――――

 

 

「暖かかったな、先生の身体……。まだ温もり残ってるし……」

 

 

 彼女は自分の両腕を交差させて自分の身体に巻き付ける。

 

 

「油断していた私の方が悪いのに、『気にかけてたのに悪かったな』か……」

 

 

 その時の出来事を思い返す。心のモヤモヤが止まらない。

 

 

「なるほどね……。チョロいなぁ、私……」

 

 

 また知らぬところで新たな思慕の芽が生まれるのであった――――

 




 妹キャラ好きの私としては彼女の出番ももっと増えて欲しいです! とは言いつつも本日放送された2期の1話ではそこそこ喋っていた気がするので満足です!

 そして零君に探りを入れるような女性は、大体零君のことを認めてしまうようになるこの小説のシステムがあったりします。今回のありあ然り、侑や栞子、薫子やサヤさんなど、もう彼に出会ってしまったが最後なのかもしれません(笑)



 アニメもスーパースター2期が放送開始となり、早速動いている1年生組を見ましたがみんなキャラが濃い……!! かのんたちとの絡みもそうですが、1年生同士が仲良くなっていく様子も期待してこれからも視聴を続けます!
 ただこの小説に登場させられるのはいつになるだろうって話ですね……(笑) まだランジュとミアが残ってるのに……


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