ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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過去への扉:アナタこそ救世主!

 学校の冬休みも中盤戦に突入し、年の瀬が迫りつつある今日この頃、結ヶ丘は休みなのにも関わらず何故か賑わっていた。どうやら学内SNSで学校中の大掃除をしようというイベントが発足したらしく、本日生徒たちが有志で集まって大掃除を開催しているわけだ。有志とは言えどもそれなりの人数が集まっており、もはや掃除業者すら不要なくらいである。みんな人がいいっつうか、1年間お世話になった校舎を綺麗にしてあげようという律義な奴が多いな。ただ単にみんなでの共同作業が好きなのかもしれないが……。

 

 だが迷惑なことが1つ。そう、俺まで駆り出されていることだ。いくら教師だと言えども年末は学生と同じく冬期休暇であり、つまり俺がタダ働きする必要なんてない。だが生徒だけにやらせるのはどうかとあのクソババア、もとい理事長に出勤命令が下され今に至るってわけだ。はた迷惑な話だよ全く。

 

 

「先生、さっきから全然手が動いてマセンよ……」

「いや逆に聞くけど、休暇中に駆り出されてやる気を出せると思うか……?」

「可可は皆さんや先生と一緒に掃除ができて楽しいデス!」

「ホントに何でも楽しそうにやるよなお前……」

 

 

 現在俺は可可と2人で部室の掃除をしているわけだが、相変わらずどんなことでもテンションを上げて活動するコイツとの温度差がヤバい。その差は掃除の効率の良さにも現れており、てきぱき掃除をする彼女とは対照的に俺はやる気が出ずに掃除と休憩を繰り返すのみ。そしてその度にモップを持った彼女に苦言を呈されながら俺ごとまとめて掃除されそうになる。掃除あるあるの『ちょっと男子ぃ~』と同じシチュエーションだなこれ……。

 

 

「そういやかのんたちはどこにいるんだ? アイツらがいれば部室の掃除なんてすぐ終わるだろ」

「今は講堂の掃除のお手伝いをしていマス。なんたって広いので人手が必要デスから」

「なるほど。だから豚小屋並の狭さのここは俺たち2人でいいって算段か」

「豚小屋じゃないデス! 思い出がたくさん詰まった、いわば可可の記憶そのものなのデスよ!」

 

 

 スクールアイドルに込める気合が人一倍強いコイツだからこそ言い張れるセリフだな。最初のスクールアイドル仲間であるかのんと友達になったときも、専用の部室としてこの部屋が与えられた時も、自身の夢へ一歩進むたびに逐一喜んでいた。そりゃスクールアイドルになるために日本に来たのだから当然と言えば当然か。だからこそコイツにとっては日本での学校生活の何もかもが思い出であり、その活動拠点であるこの部屋が記憶そのものってのも頷ける気がするよ。

 

 ま、だったら掃除くらいは協力してやるか。

 

 

「それに俺たち2人って言ってマシタけど、先生サボりまくりなので頭数にカウントしないで欲しいデス……」

「分かったやればいいんだろやれば。まずは――――ん? このソファの横に積みあがってる段ボールなんだよ。これを捨てればいいのか?」

「ダメデス!」

「じゃあこっちの段ボールは?」

「それもダメデス!」

「んじゃあこれは?」

「ダメ!!」

「なんなんだよ!! こっちがやる気を出したと思ったらダメダメって、人に掃除やらせる気あんのか!?」

「その段ボールの中には可可の思い出たちがたくさん詰まっているので、ダメなものはダメデス!!」

 

 

 思い出云々の話はさっき納得したけど、どれもこれも大切だから捨てられないってそれゴミ屋敷になる奴の言い分だからな……? そういやコイツの家もやたら散らかっていた気がするけど、もしかしたら意外と片付けができない子だったりするのか? コイツと知り合ってもう8ヶ月くらいだが、意外とまだ知らないこともあるみたいだ。

 

 そんなことを考えている間に、可可は段ボールの中を次々と取り出していた。ライブの小物や使わなくなった衣装、ファンレターや学校のみんなが作ってくれた応援垂れ幕など、ありとあらゆるモノが段ボールにぶち込まれていたらしい。思い出なんだったらもっと大切にしろよって話だが、『この一気に詰め込んでいるのが思い出が溢れている感じがしていいのデス』とか言われそうだ。

 

 そうやって色々なモノを取り出していく中で、小さな冊子みたいなモノが出てきた。

 

 

「これは……スクールアイドル発足時から可可が密かに作り上げていた、Liellaアルバムの第一弾じゃないデスか!! まさかこんなところに眠っていただなんて!!」

「思い出を大切にしてるくせにアルバム行方不明だったのかよ……」

「もう第五弾あたりまで来てマスから、初期が疎かになるのは仕方のないことデス。でもせっかく見つけたので、中身を見て思い出を振り返ってみまショウ!」

「おい掃除はいいのかよ……」

 

 

 さっきとは逆の立場になってるんだが……? それに大掃除中に思い出の品を見つけて当時を振り返るって、そんな掃除あるあるまで披露しなくていいから。さっきまでサボっていた俺が言うのもアレだけど、コイツに部室の掃除をさせたら感傷に浸りまくって終わりそうにねぇな……。

 

 

「あっ、これはかのんと2人で初めてステージに上がったときの写真デス!」

「そういやそんなこともあったっけ。ファーストライブに漕ぎつけるまで相当苦労したよなお前ら」

「かのんが中々首を縦に振らなかったり、あの頃は敵対していたレンレンに邪魔されたり……。ただその苦労があったからこそファーストライブの達成感は凄まじかったデス!」

「あの時は今と違って応援してくれる学校の奴らも少なかったもんな。よくやり切ったよホントに」

 

 

 あの頃は普通科と音楽科でギスっていた時期でもあるから、普通科の生徒がスクールアイドルという世俗塗れなことをやるってだけでも珍しい目で見られていた。今では学校中が協力的で入学希望者数増加にも繋がった救世主的な扱いのLiellaだけど、最初は中々に淘汰されたスタートだったと思う。それでもかのんと可可の意思が強かったおかげで、スクールアイドル界隈にもそれなりに認知されるほどの人気になったのはすげぇ話だよ。

 

 

「やり切れたのは先生のおかげデスよ。先生がずっと傍にいてくれたから可可たちは頑張れたのデス!」

「なんか特別なことやったか俺? 記憶にねぇぞ」

「かのんから聞いた話では、先生が背中を押してくれたおかげでスクールアイドルをやる決意を固めたとのことデシタ。つまり、可可がかのんを説得している頃からスクールアイドル活動を手伝ってくれていたってことデスよね!?」

「別にお前を手伝おうとは思ってない。目の前で悩んでる生徒がいたら助けるのが教師だろ」

「新人の先生が、同じく新入生の生徒をあそこまで面倒を見るのは中々のお人好しデス。それにスクールアイドルについて手慣れているような感じで、まさかあの時は虹ヶ咲の方のご指導をしていたとは思わなかったデスが……。とにかくスクールアイドルになりたいって勢いで日本に来た可可に、道を示してくれたのは先生デシタ!」

 

 

 確かにあの時のコイツは今以上に勢いだけだったな……。スクールアイドルが好きでスクールアイドルをやるために日本の高校に入学したまでは良かったものの、メンバー勧誘やライブ出演に向けての作業など、そのあたりのイロハが全くなかったせいで空回りしていた。そのせいで強引な勧誘となりかのんには何度か逃げられ、恋にはスクールアイドル禁止令を出され(アイツの個人的な感情もあったが)、他の生徒たちには奇々怪々な目で見られるなど、どちらかと言えば苦難からのスタートだった記憶がある。

 

 そしてそれを見かねた俺がかのんや恋と話をしてアイツらを諭したり、暴走気味だった可可を落ち着かせてやるべきことを指示したりと色々動いていた気はするな。ただ俺にとっては普通のことだから別に感謝されるようなことじゃない。結局俺は自分のためにしか動かないわけで、入学早々周りから浮きまくってるコイツから更に笑顔まで消したくはないと思っただけだからな。

 

 

「それにそれに! 先生は可可たちの練習まで見てくれマシタ! それはもう完全に可可たちを助けようとした思っていいデスよね!? これでも大したことをしていないと豪語するのデスか!?」

「あれはちょっと走っただけですぐにへばるお前を見かねただけだ。お前って何をするにも危なっかしいんだよ。見てねぇとどこへ突っ走るか想像もできない」

「だからずっと可可を見守ってくれていたのデスか!? 可可のために!?」

「いやお前ためだけじゃねぇ。かのんも千砂都も、すみれも恋もあの頃は色々抱えていてみんな一枚岩じゃなかったからな。アイツらにも相当気をかけてたよ。その点お前は単純で接しやすかったけどな」

「へっ、それ可可がおバカっぽいってことデスか……?」

「別にいいんじゃねぇの。逆にスクールアイドルって単細胞の方がリーダー向きかもしれねぇし」

「……??」

 

 

 μ'sだったら穂乃果、Aqoursだったら千歌、虹ヶ咲だったら一応部長扱いのかすみ。うん、みんな単細胞の単純ちゃんたちばかりだ。でもソイツらに人を引っ張る力があるのは間違いなく、この3人は諦めなかったからこそそれぞれのグループが存在してるわけだしな。その点では可可も同じで、コイツが発端で途中で折れなかったからこそ今のLiellaがある。うだうだ悩んだりする奴よりも、とりあえず猪突猛進の奴の方がスクールアイドルに至ってはカリスマ性は高いのかもしれない。

 

 

「なんにせよ、可可にとっては先生は救世主なのデス! 先生が世話を焼いてくれなかったらファーストライブにも出られたかどうか……」

「さぁな。でもなんとかなったんじゃねぇか? 俺は言うほどお人好しじゃない。誰とも構わず気にかけたりはしないからな」

「だったらどうして可可を? さっき言っていた通り危なっかしいからデスか?」

「まあそれもあるけど、俺は男だぞ?」

「??」

「男だったら可愛い子に目を付けるのは当然だ」

「ぶっ!?!?」

「なんだよきたねぇ!!」

 

 

 いや男だったら美女美少女に惹かれるのはごく普通の欲求だと思うけど違うのか?? 女の子もカッコいい男に惹かれたりする理論と同じだと思うんだけど、そこは男女で感じ方が違うのかもしれない。それにしても驚いて噴き出すことはないと思うが……。別に度し難い性癖を暴露してるわけでもなく、ただ単に生物学的欲求を口に出しただけなのに世知辛い……。

 

 だがそのせいか、可可の顔の色がみるみる赤くなっていく。毎回どいつもこいつもちょっと容姿を褒めただけで恥ずかしがりやがって。そういうところが可愛かったりもするのだが、それを指摘するとなおさら沸騰しそうなのでやめておこう。先日の幽霊騒動で披露した紛いなりの告白でそれなりに耐性は付いているのかと思ったが、やっぱりまだ恋愛初心者は脱していないようだ。

 

 

「この前サニパの方々が疑っていましたが、先生って女垂らしの才能がありマスね……」

「お前らが弱いだけだ。俺のせいにすんな」

「可愛いって、かのんたちの方がよっぽどだと思いマスけど……」

「お前らみんな揃って他の奴らの方を持ち上げるよな……。言っておくけど、可愛くなければライブはあそこまで盛り上がらねぇって。仮にもアイドルなんだから容姿も世間の評価点の1つだ。つまり人気があるってことはお前らが世間から可愛いと思われていることと同義。だからもっと自分自身に自信を持て」

「うぅ、可愛さアピールなんて今まで考えたこともありマセン……」

 

 

 コイツの愛嬌の良さはアピールなんてしなくても常に前面に出ている。どちらかと言えばかのんが大人びた顔付きだから、2人で並び立つとコイツの幼い顔付きが余計に目立つ。だからこそ愛らしく見えるんだろうな。

 

 

「って、可可のことはどうでもいいデス! 先生に自分自身が救世主であることを自覚してもらうのが重要デス!」

「そんな話だっけか……?」

「結局ファーストライブが終わった後も可可たちの面倒を見てくれたじゃないデスか。スクールアイドルとして信頼できる仲間とグループを組んでステージに立つ。その夢を先生が叶えてくれたのデスから! かのんはもちろん、千砂都やすみれ、レンレンたちに引き合わせてくれたこと、とても感謝していマス!」

「アイツらのカウンセリングも大変だったなそういや……。でもそれこそ俺がいなくてもできたことだろ」

「夢だったスクールアイドルのライブまで可可を連れていってくれて、素敵な仲間たちとも出会わせてくれた。これを救世主と呼ばずになんと呼ぶのデスか!!」

「相変わらず折れないねぇ……」

 

 

 コイツって尊敬する人はかのんと言い俺と言い、とことん持ち上げる性格だよな。しかも本人の執念深く頑固な性格も相まって、持ち上げられたことを否定しても折れることはない。本人が本気なのは分かるけど、褒めるときは限界まで褒めちぎってくるからムズ痒くなるんだよ……。

 

 

「ファーストライブ以降も先生にはずっと助けられていマシタ……。今思い返せば可可がスクールアイドルになる前からずっと見守り続けてくれていたのデスね……」

「そういうことになるな。そう考えるとまだ1年も経ってないのに長く感じるよ」

「そうデスね。それだけ長いとこんな気持ちになってしまうのは当然デス……」

「こんなって、どんな?」

「へっ!? い、いやそ、それは……秘密! 乙女の秘密というやつデス……っ!!」

 

 

 うん、めちゃくちゃ分かりやすい。コイツもそうだけど、Liellaの子たちは自分の気持ちを隠しているつもりなんだろうがバレバレなんだよ。挙動不審なのが目に見えて明らかだし、反応そのものが初心で顔もすぐ真っ赤になるから丸分かりだ。それで本人たちは隠し通せている気でいるんだから面白い……いや、可愛いよな。

 

 

「た、ただ、先生にもっと見守っていて欲しいという気持ちは素直に伝えられマス。今は周りにかのんたちがいマスけど、それでも先生には傍にいて欲しいデス。い、いつまた可可が暴走するのか分かりマセンし、せ、先生にはもっと可可がステージで輝いているところを見せたいといいマスか……。と、とにかく、来年からもお願いしマス!!」

 

 

 羞恥心のせいか言葉はたどたどしかったが、それを乗り越えて気持ちを伝えてきた。スクールアイドルをやる以前からお互いに近しい距離にいたからこそなのか、俺のことを完全に信頼しきっているようだ。それだけコイツにとって俺との思い出、俺への気持ちが積み重なって来たのだろう。自分の夢を叶えてくれた、そしてこれからも叶えてくれるだろうと希望を託せる人が目の前にいるんだ、そりゃ信頼もするか。

 

 小動物のようで愛くるしい美少女、それでいて夢に向かう意思は人一倍強い子。そんな奴が俺の隣で全力で輝こうとしてるんだから、そりゃ何もしないわけにはいかねぇだろ。

 

 

「俺は俺の好きにする。だからお前も好きにしろ。隣にいる女の子が輝けば輝くほど俺は満足できるからな。お前は思う存分に暴れればいい。大丈夫、脱線しそうになったらすぐ助けてやるから安心しろ。お前らしく何事も全力で突き進め」

「先生……。はいっ、ありがとうございマス!!」

 

 

 実はお礼を言いたいのはこっちだったりもする。いつになっても女の子の魅力を間近で見られるのはいい。相変わらずいいポジションにいると我ながらに思いつつ、俺を満足させてくれる女の子たちには感謝しかない。Liellaの発端となったコイツには特にな。

 

 春からずっと一緒にいる彼女。二人三脚までとは行かないけど、常に隣で見守り続けていた。だったら最後の最後まで隣にいてやるよ。もしかしたら最後なんてないかもしれないけど、その時はずっと隣にいればいい話だ。こんなことを伝えたらまた顔を真っ赤にして、今度は気絶しちゃうかもな。

 




 Liellaとの過去編の第三弾でしたが、ここまで来ると零君の聖人っぷりが半端なく見えますね(笑) 教師としてのお手本ムーヴではありますが、ところどころに俺様系の言動が混じっているのが作者の自分ながらのお気に入りだったりします!
 聖人とは言えども、虹ヶ咲の子たち、つまり女性高校生と肉欲を満たし合った経験もあるので危険人物には変わりないですが……

 可可はアニメを見ただけでも凄く魅力のあるキャラだと思っていて、どこで覚えてきたんだと言わんばかりの毒舌も好きだったりします。小説だとあまり毒は吐いてないのですが、零君にドキドキするシーンが多いのが理由だったり……(笑)

 アニメ2期もあと2週間後にスタートするので、また動いている彼女たちが見られるのは非常に楽しみです!

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