ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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先生へのお見舞い?立ちはだかるSister!

 澁谷かのんです。

 結ヶ丘は先日から冬休みに突入し、学生にとってはひと時の休息期間となった。最近は日中は授業、その他の時間はスクールアイドルの練習や作曲に時間を全て捧げていただけあって大変だったら、ここでゆったりできるのは本当に助かるよ。でも逆に冬休みで時間が余っているからこそ練習のやりどきであり、それで結局学校にほぼ毎日集まってるから生活習慣的には授業がある日とあまり変わらなかったりする。それでも好きなことに1日没頭できて楽しいから、普通の学校生活よりも充実している感はあるかな。とか言っちゃうと授業がつまらないとか思われそうだけど、それはそれ、これはこれってことで。

 

 それに練習があると言うことは、それだけ先生と一緒にいられる時間も増えるということ。零先生は私のクラスの担任だからいつも一緒と言えばそうなんだけど、やっぱり身近で見守ってくれる練習の時間の方が好きだったりする。先生は普段から私たちのことをよく見てくれているけど、練習の時の方が距離が近いからなんだかこう、嬉しい……かな。先生が近くにいてくれると自然とやる気も上がるし、心なしか発声や動きのキレも一回り良くなる気がする。それはみんなも同じようで、先生がいないからと言って練習の手は抜かないけど、いる時の練習の質の良さはいない時よりも確実に上。そう考えると、先生が顧問になってくれて本当に良かったよ。

 

 だけど、今日はいつもとは違う日常で――――

 

 

「かのんちゃん、頑張って! いやぁ~幼馴染がこんな大役を任されて私も鼻が高いよ!」

「かのんさんはいざという時にしっかり決めてくださる方だと、私もよく知っていますから」

「ほら、なにグズグズしてるの。こんなところで立ち往生してたら不審者に思われちゃうでしょ」

「今こそ部長としての誇りと意地を見せるときデス! かのんならやり遂げられると信じてマスから!」

「…………」

 

 

 私っていつもみんなからやたらと持ち上げられることが多いけど、それってまさか危機的状況に陥ったときに私に振るための策略だったんじゃないの!? いつも持ち上げてあげてるんだから今回も代表でお願いって、それ逆にいいように使われてない!? もしそうだったらみんなこと信じられなくなっちゃうよ!? それに持ち上げられてる理由もカリスマ性があるとかヒロインっぽいとか、私に到底不釣り合いな属性ばかり付与されてるんだけど……。

 

 みんなが私の背中を無理矢理押すのも無理はなく、目の前にそびえ立っている建物――――先生の家を見たら怖気づかざるを得ない。

 私たちが先生の家に来た理由はただ1つ、先生のお見舞いをするため。実は先生が風邪で寝込んでおり、症状は軽いらしいけど心配で練習にならなかったので思わずみんなで押しかけてしまった。理事長さんから先生の家の住所を聞いてその前まで来たまでは良かったものの、いざインターホンを押そうとすると指の震えが止まらない。だから他の誰かに押してもらおうと思ったんだけど、それからの流れはさっきの通りで……。

 

 

「や、やっぱり帰らない? ほら、寝てるかもしれないし、ご家族にご迷惑になるかもしれないし……」

「ここまで来て何を言っているのデスか!! そんな臆病なかのん、可可は……可可は見たくありマセン!!」

「なんで泣いてるの!?」

「かのんちゃん……。私たちを逞しく先導する、カッコいいかのんちゃんが見たい!!」

「アンタはここで立ち止まる人間じゃないはずよ。臆病風に吹かれて逃げる人間でもないわよね?」

「かのんさんの前には無限に道が続いています。故に常に走り続けられる、つまりずっと成長し続けられるということです」

「みんな都合のいいこと好き勝手言い過ぎじゃない!? ホントに帰るよ!? いいよね!? ねぇねぇ!?」

 

 

 もう完全に他人事だと思ってるよねみんな……。確かにお見舞いに行きたいって最初に言ったのは私なんだけど、やっぱり言い出しっぺっていいことがない。そもそも私が言い出した後にみんなも『自分もそう思っていた』って言ってたから、私に全てを委ねる権限は誰にもないと思うんだけど……。

 

 

「そ、そんなヒドい!! かのんちゃん、先生を見殺しにしちゃうんだね……」

「意外と薄情だったのね、アンタ……」

「可可はそんなかのんを見たくはありマセンでした!!」

「何事も突き進むだけが正解とは言えません。時には立ち止まることも必要でしょうから、私は責めないですよ……」

「ねぇそろそろ怒っていいかな!? いやもう怒ってるけどね!?」

 

 

 みんなの口角が少し上がってるから、もう私の反応を見て面白がっているのは確定だ。私は自分のことをそれなりに温厚だと思ってるけど、そろそろ怒っていいかな? いいよね?? みんなのイタズラな笑顔が憎い!!

 

 みんなに煽られはしてるけど、先生のことが心配なのは満場一致だと思っている。だからご迷惑でなければ先生のお見舞いをしたいんだけど、ご家族に会うのは初めてだから緊張しちゃうんだよね……。秋葉さんがいたら見知った関係なので話しやすいんだけど、最近はまた海外に行ってるって話だから今は家にいないはず。生徒が教師のお見舞いって変に思われないかだけが心配だよ。それに人の家の前でこんなに騒いでいたら――――

 

 

「なに? ウチの前で何してんのあなたたち」

「ひぃっ!? ゴ、ゴメンなさい怪しい者じゃありません今すぐ帰るので!!」

 

 

 みんなも私と同じく声を上げて驚いている。どうやら周りに迷惑なくらいに騒いでいる認識はあったみたい。

 先生の家の前で突然声をかけられた私たち。ウチと言っていたのでこの家の人、つまり先生のご家族と見て間違いない。

 

 それにしても、すっっっっっっっごい美少女さんだ。女の私ですらその魅力と容姿に目を奪われ、みんなも目の前の女性を見たまま固まっている。アニメや漫画の世界で描かれるような非の打ち所がない美少女さんで、この人が少し街を歩くだけで男性の目を引きまくるに違いない。歳は私たちよりも上、恐らく大学生くらいかな。茶髪でウェーブのかかった長い髪、スタイルの良さ、そしていい匂い。こんな評価をするなんて変態さんみたいだけど、そうなってしまうくらいに綺麗なんだもんこの人。

 

 

「もしもし警察ですか? 家の前に怪しい女が5人も押し寄せて来てるんですけど……」

「「「「「ちがぁあああああああああああああああああああああうっ!!」」」」」

「分かってるようるさいなぁ~もう……」

 

 

 案の定と言うべきだけどまさか通報されそうになるとは……。と思ったけど、どうやら通報するフリだったらしい。なんか私たちの扱いに手慣れている気がするけど気のせいかな……?

 とにかく手慣れてるにせよなんにせよ、怪しい者じゃないって誤解を解かないと。

 

 すると、恋ちゃんが一歩前へ出た。

 

 

「お騒がせしてすみません。私、結ヶ丘女子高等学校のスクールアイドル部の葉月恋です。こちらも同じ部活の仲間です。顧問である神崎先生がご病気でお休みになられていると聞いたので、お見舞いをと思いお伺いしました。ただ事前に連絡もせず、いきなり押しかけてしまったのは申し訳ございません」

「おぉ~っ! 流石はレンレン!」

「これぞ生徒会長って貫禄だね!」

「だから言ったのよ、最初から恋に任せておけばいいってね」

「いや裏切るの早いよ!! さっきまであんなに持ち上げてたのに!! やっぱり怒るよ!?」

 

 

 もうこれ最初から恋ちゃんでよくなかった!? 私なんかよりも圧倒的に礼儀正しいし、今みたいなお堅いお作法も知っているので、初対面の人を相手にするならまず恋ちゃんをぶつけた方が印象が良くなるはず。でも恋ちゃん自身も流石に先生の家に上がる込むとなれば緊張していたのかもしれない。今は緊急事態だから誰かが何かを弁明しないと今度は本当に通報されそうだったしね……。

 

 

「なるほど。またスクールアイドルか……」

「えっ? またって?」

「別に、こっちの話。で? お見舞いしに来たの?――――お兄ちゃんの」

「「「「「お、お兄ちゃん!?!?」」」」」

「だからうるさい……」

 

 

 家族の人だとは思ってたけど、まさか先生の妹さんだったなんて……。そういえば妹がいるって何回か聞いたことがある。先生のお昼のお弁当は毎日妹さんが作っているらしい。そう考えると、こんなに美少女で料理もできる献身的な妹って女の私からしても凄く羨ましいって思うよ。別に妹のありあのことを悪く言ってるわけじゃなく、一般的な考え方でね。

 

 

「先生にはいつもお世話になっていマスし、ご迷惑でなければ少しだけでもいいのでお見舞いしたいと思いマシて……」

「よくまぁ毎回こんなぞろぞろと。相手をするこっちの気持ちにもなって欲しいよ……。でも、どうせならちょっと楽しませてもらおうかな……」

「えっ?」

「いやこっちの話」

 

 

 なんだかさっき黒い笑みが見えたような気がしたけど、流石に気のせいだよね……? こんな美少女で兄である先生に献身的な妹さんなんだもん、優しいに決まってるよ。

 

 

「残念ながら、お兄ちゃんは面会謝絶なの」

「えっ!? そんなに重い病気なんですか!?」

「いや、1日休めば治るくらいには軽いよ。ただ私がそうしてるだけ」

「ど、どうして……?」

「ま、まさか先生……自分の部屋を見られるのが恥ずかしいとかデスか!?」

「ありえるわね。女性慣れしているように見せかけて、裏では意外と変態、しかも特殊性癖の持ち主であらぬ大人のおもちゃが転がってるとか……」

「そ、そんな破廉恥な!! でも時折ですが色男を感じさせる言動もありますし、もしかして……」

「虹ヶ咲の人たちのコーチをしてたって言ってたもんね。女性付き合いが豊富だからありえなくはないのかも……」

「よく自分の先生に対してそこまでの被害妄想ができるね……。ま、お兄ちゃんだから仕方なくはあるけど……」

 

 

 妹さんにまで認められるほどの女性付き合いなんだ先生って……。みんなの言ってることは確かに過剰だけど、そう考えてしまうくらいには先生は普通の男性じゃない。女性への対応には自信満々って言うか、どこか尊大な態度が垣間見えることがあるから女性扱いが手慣れていることは分かる。虹ヶ咲の方たちと知り合いだけじゃない、もっと様々な女性経験を積んでいるような気がするんだよね。もちろん私の想像でしかないけど、いつも女性に対し自信満々な先生を見ているとそう思わざるを得ない。

 

 

「そもそも一般の生徒ごときが教師のお見舞いに来るなんて普通のことじゃないよね? そこまでお兄ちゃんのことが好きなんだ」

「「「「「好きぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?」」」」」

「いやだからうるさいって……。ていうか顔赤すぎるんだけど、好きって言葉だけで恥ずかしがり過ぎでしょ……」

「す、好きとかそういうのではなくて、普段からお世話になっている先生というのもありますし、いつもご健康そうな先生が病に伏せたと聞いて心配になってしまいまして……」

「べ、別に私は心配してないんだけど、みんなが行くってなったら練習もできなくなるし、仕方なくよ、うん!」

「先生って面倒見もいいし、頼れるお兄さんっぽく見えるから家族みたいで……。そうっ、家族のお見舞いに来てる……みたいな? ね? かのんちゃん!」

「ちぃちゃん!? えっ、そ、それはまぁ……先生みたいな頼りがいのあるお兄ちゃんがいたらいいなぁ~とは思うけど……」

「…………お兄ちゃんに欲しいねぇ」

 

 

 あ、あれ? 私たちなんか地雷踏んだ? 妹さんの雰囲気がおどろおどろしくなったような……。また騒いじゃったから怒ってるのかな……?

 一応お見舞いに来た理由も、お兄さんとして欲しい気持ちも嘘ではない。それが本心というのが妹さんに伝わっているのかは分からないけど、何か怒らせること言っちゃったかな……?

 

 

「残念ながら妹は私1人で十分。でもお兄ちゃんの周りには妹系の女がやたら増えてるから、実妹からしたら困ったものだよ。また真の妹を教えてあげなきゃいけないのが面倒で面倒で」

「えぇ~っと、どういうことですか……?」

「ま、高校生のひよっこごときに熱くなる必要もないか。とにかく、家に入るのはダメ。持ってきたものがあるなら私から渡しておくから」

「えぇっ!? どうしてですか!?」

「風邪がうつったらどうするの? スクールアイドルってのは健康第一。もし風邪が治っても身体が上手く動かないってことはザラにあるし、激しい運動でぶり返すこともあるから1日で治りそうな軽い風邪でも安心できない。そんな危険にあなたたちを晒せるわけないでしょ。それにあなたたちが病に伏せったら、一番心配するのは誰だと思う?」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

 あれ、意外にも私たちのことを心配してくれてるんだ。妹さんもどこか先生と同じような性格、言ってしまうと上から目線の言動が似ていると思ったから驚いちゃった。尊大な態度だけど意外と優しいところも兄である先生と似ているのかもしれない。

 

 そして、そう思ったのはみんなも同じみたい。さっき妹さんに諭されたとき、まるで先生に言われたかのような説得力があったもん。兄妹で似ているのか、先生の面影を感じちゃった。それにスクールアイドルとしてのシンパシーも感じて――――って、あれ? どうしてスクールアイドルが出てきたんだろ……?

 

 ちょっとした疑問が晴れぬ中、妹さんの言葉に納得した私たちは持ってきた手土産を渡した。渋々とかではなく、お互いに元気な姿でもう一度会うことを夢見てのことだから問題ない。こう言っちゃうと先生が重い病気みたいだね……。

 

 

「確かに受け取ったよ。それで、お兄ちゃんに言うことは?」

「先生に早く元気になっていただいて、また一緒に部活がしたいデス!」

「アイツの体調の悪そうにしてるとこっちも調子でないから、早く元気になりなさいよね」

「先生の笑顔がないと全然テンションが上がらないので、またその笑顔を見せてください!」

「今はご安静に。元気になられましたら、また私たちを近くで見守ってください」

「私、また先生にお会いできる時をずっと待ってます!」

「なんかお兄ちゃんが今にも死んじゃいそうな感じだね……。でもまぁ、それだけ愛されてるってことか。全くお兄ちゃんらしいというか、この子たちも本当に……」

 

 

 妹さんは笑みを浮かべていた。

 確かにアニメや漫画だったら最終回近くのクライマックスみたいな雰囲気。でも実際にはただの風邪なのでスケールが大きすぎたけど、それくらい私たちは先生を心配している。だって今まで休んだことも体調が悪そうな様子も見たことがなかったため、体調不良と聞いたら心配してしまうのは当然のことだよ。

 

 そして妹さんのさっきの言葉。愛されることがお兄ちゃんらしいって、やっぱり女性関係は豊富なんだ。しかもそのみんなから慕われているらしい。侑さんも言ってたけど先生は虹ヶ咲の皆さんからの信頼も厚いみたいなので、もしかしたら私たち以外にも家に女性が押しかけていたのかも……? 『また』とか言ってたしね。

 

 そんな感じで結局先生に直接会ってお見舞いはできなかったけど、妹さんを通じて想いを届けることができたのでとりあえず良かったかな。インターホンを押すのに緊張し過ぎてあのままだと帰ってたかもしれないから、声をかけてもらえて逆に助かったかもしれない。

 

 そして、その帰り道――――

 

 

「どうしたの可可ちゃん? さっきからずっと考え事をしてるみたいだけど……」

「先生の妹さん、どこかで見たことがあるような気がしマス……」

「綺麗な人だったし、もしかしたらモデルさんとかやってたりするのかな? だったらテレビや雑誌とかで見たことがあるかもしれないね」

「う~ん……」

 

 

 そして、私たちが帰ったあと――――

 

 

「ふぅ、一応追い返せたみたい。あれで良かったんでしょ、お兄ちゃん」

「あぁ、ありがとな――――楓」

「あの子たちが心配してお見舞いに来ることを予想していて、風邪をうつしたくないから来るなと自分で言っちゃうと突っぱねてるみたいで悲しませるかもしれないから、その役目を私に振った。たまに不器用になるよねお兄ちゃんって」

「うるせぇ……」

「フフッ♪ それに自分の名前を明かすなって無茶な命令も完遂させてあげたんだから、感謝してよね」

「してるしてる。お前の名前がバレると俺がμ'sと関係があるってこともバレかねないからな」

「でも私、あの子たちになら話していいと思うよ。いい子たちだったから」

「そうだな。ま、タイミングを見て話すよ」

 

 

 そのあと、妹さんが先生に聞こえないくらいの小声で――――

 

 

「気付いちゃうよ恐らく。お兄ちゃんとあの子たちの距離、あまりにも近すぎる。さてどうするのかな、お兄ちゃん♪」

 




 Liella編でも楓がまともに本編に登場しました! 1回出演したことはあったのですがチョイ役な上に、今回で初めてLiellaの面々と出会うことになったので初登場と言っても過言じゃないかも……

 こうやって楓を見てみると、高校生時代に比べてかなりおとなしい子になったなぁと思います。スクフェス編で梨子を家に誘った時もそうですが、意外と面倒見がいいのも兄と同じ性格で、どこか上から目線な態度も似ているので流石は兄妹って感じです(笑)




【付録】※アニメ虹ヶ咲12話を見て思いついた小ネタ

「2週間とは言え歩夢と離れ離れかぁ~」
「寂しいのか?」
「吹っ切れはしましたけど少しはまぁ……。お兄さんはそういう気持ちになったことありますか?」
「ないね。離れていても心は隣にいる。それに離れるソイツが自分の夢を追いかけているのであれば、俺は全力で応援するよ。だってソイツが夢を叶えて自分の魅力を上げれば上げるほど、俺の自尊心はより高まる。自分の女の子が魅力的になればなるほどな。だから応援するっつっても俺のためでもあるんだ。ま、俺がやる人助けもみんな自分のためだよ」
「とか言いながらちゃっかり背中を押してくれるんですよね。本当にお兄さんはお兄さんです♪」
「なぜここで微笑む……」

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