「ふわぁ~~……」
「おはよう零君♪ 相変わらず眠そうだね」
「あん? 秋葉……?」
「今日は楓ちゃんが用事でいないから、私がその代わりってわけ」
「あぁ、そういえばそうだったな」
朝起きてリビングに降りてみると、そこにはエプロンを身に着けた秋葉が朝食を作っていた。本来ならその役目は妹の楓なのだが、昨日から雪穂と亜里沙の3人で旅行に行っていることを忘れていた。だから今日は秋葉が朝飯の準備をしてくれているらしい。
コイツが料理できるのかよって思うかもしれないが、意外にも家事スキルはある。以前に俺が浦の星女学院へ教育実習へ行った際、秋葉も別の用事で沼津に行くことになり、その時に2人で一緒に住むことになった。だが楓は『お兄ちゃんと一緒に住むのであれば身の回りのお世話をしてあげるは必須』と、秋葉に己の家事スキルをこれでもかというくらいに刻み込んだんだ。あの時のアイツの勢いは凄まじく、悪魔と言われる秋葉が圧倒されるくらいだったのはよく覚えている。でもそのおかげで教育実習期間中の飯は何とかなったし、今もこうやって楓がいないときのピンチヒッターになってくれるので助かってるよ。
そうこうしている間にテーブルに朝飯が並べられた。
俺と秋葉はテーブルを挟んで向かい合って座りながら飯を食う。
「どう? お姉ちゃんのお味は?」
「その言い方だと卑猥な意味に聞こえるだろ……。普通だ普通」
「もうっ、そっちの言い方の方がヒドいよ! 久々にお姉ちゃんの手料理を食べさせてあげたのに!」
「楓の味をほぼ再現してる。そして俺はいつも楓の飯を食ってる。つまり日常的だから感想はない」
「褒められてるのかそうでないのか分からないんだけど!?」
「女の子の手料理なんて食べ慣れてるからな。俺の胃袋はグルメなんだよ」
「相変わらず王様してるなぁ零君は……」
俺の周りに料理が上手い女の子しか存在していないのが悪い(せつ菜とかせつ菜とかせつ菜は除く)。手料理を作ってもらったりするのは日常茶飯事だし、定期的に手作りお菓子も供給される。それで舌が肥えない方がおかしいだろ。そんなご馳走を定期的に摂取していれば当然舌も胃袋もグルメになってしまうのは仕方のない話だ。
「なんにせよ、私の手料理が今日一日の活力になってくれるのなら嬉しいよ!」
「意外と体力使うからな教師って……。つうかお前、学校行ってんのか? 教師になったくせにあまり授業してないって話だけど……」
「私は非常勤講師みたいなものだからね、あまり授業は入ってないんだよ。それに別の仕事もあって忙してくてさ。今日も新薬のテストだから行けそうにないね」
「何してんのかは知らねぇけど、あまり学校で暴れるなよ。この前の一件でかのんたちに余計な警戒をさせちまってるから」
「はいはい善処しま~す♪」
なんだよその笑顔はホントに分かってんのかコイツ……。毎回言葉もテンションも軽いから、本気と遊びの境界線が自分の姉なのに未だに判断できない。だからなのか言葉の節々が怪しすぎて怖いんだよ……。
そんなやり取りをしながら朝食を平らげ、身だしなみを整えて学校へ行く準備が整う。
意外にも俺の着ていく服にアイロンをかけてくれていたり、さっきみたいに飯を作ってくれたりと献身的なところがあったりする秋葉。そういう姿だけは誰もが憧れる理想の姉なんだけど、中身がな……。
その後は特に何も起こることはなく出勤の時間になった。わざわざ玄関まで来て見送ってくれるあたり、謎の新妻感を醸し出している。その優しさが逆に怪しいっつうか、嵐の前の静けさって感じがするのは気のせいか……?
~※~
異変は学校に到着してすぐに気づいた。職員室へ向かおうとする最中、既に登校していた生徒たちに見つかり挨拶をされるまではいつも通り。だが今日は挨拶だけで終わることはなく、何故か俺にベッタリと引っ付きながら一緒に歩いていた。
「先生、今日は一段とカッコよく見えますぅ……♪」
「また勉強で分からないところがあるので教えてもらってもいいですかぁ~?」
「お、おい……。一体どうしたんだお前ら……」
女の子2人が俺の両腕に抱き着いてホールド。2人だけではなく、途中で挨拶を交わした女の子たちも漏れなく俺に引っ付いてくる。発情してるんじゃないかってくらい赤面し、声も蕩けていて甘々な声色となっている。発達途中の胸や肉付きの良い太ももが当たっていてもお構いなし。むしろ自分たちから擦り付けているようにも見え、メスとしてオスを誘惑する動物の本能が滲み出ているかのようだ。
いくら思春期とは言えどもこの学校の生徒ってここまで淫乱だったかと疑ってしまう。以前から積極的だった子たちばかりではなく、割と大人しい子だったり清楚な子も同じ様子なのが謎だ。いつの間にここは虹ヶ咲のような俺のこと大好きっ子が集まる場所になってしまったのか。実は裏でパパ活をしている子が俺を騙して金をせしめようとしているのか。あらゆる妄想は尽きないが、少なくとも虹ヶ咲生徒のような淫乱度を持つ子やパパ活をするような薄汚れた子はこの学校にはいない。みんないい子なのは知っている。だからこそこうして密着されているのが不思議でならないんだ。
つうか最近の女子高生って身体の発達具合がいい。さっきから押し付けられている胸は全部手頃サイズであり、今のままでも十分に男を誘惑できそうだ。教師として女子生徒に劣情を抱くなんて言語道断だが、男なんだから仕方ないだろう。しかも女の子に囲まれ密着されているこの状況で卑猥なことを考えるなって方が無理な話。成長途中の健康的な身体を押し付けられたらそりゃ誰でも取り乱すって……。
「こらっ、そこ! 一体なにをしているのですか!!」
「恋!?」
不純異性交遊と聞いて飛んで来たと言わんばかりの生徒会長・葉月恋の登場。規律を重んじる彼女にとって目の前の状況は卒倒してしまうくらいの如何わしい状況だ。もはや雰囲気から怒ってるオーラが出てることが丸分かりである。
あぁ、これはまた俺が集中砲火を受けるパターンかな。毎度のことだが女の子側から近寄って来るのに、女子との距離が近いと怒られるのはいつも俺の方なのだ。なんでもかんでも男が悪いと思い込んでいる、最近SNSで良く出没する出来損ないのフェミニストかよ……。
「先生! あなたはまた女性を誑かせて!!」
「いやだからいつも言ってるだろ! 別に俺からこの状況を作り出してるわけじゃないって!」
「あなたの意志の弱さが原因ではないでしょうか? 教師なら教師らしく抱き着いてくるのであれば嗜める。それが重要――――――!?」
「まあそうなんだけどさ……。ん? どうした?」
「い、いえ……。でも先生なら仕方ないですよね……。親しみやすいですし、スキンシップを取りたくなる皆さんの気持ちも分からなくはないと言いますか……」
「え゛っ!?」
急にキャラが変わった……? いきなり主張を変えるなんてどうしたんだコイツ……?? 厳粛な雰囲気の中にも優しいところがあるのは知っているが、如何にも怒ってますよオーラを醸し出しながら突然デレを発動させるのはおかしい。しかも他の奴らみたいに顔を赤くして……。
「せ、先生、私もその……」
「な、なんだ? 怒ってないのか?」
「なんでしょう。私もよく分からないのですが、先生の近くにいるとその……とにかく、もっと近くに寄ってもいいでしょうか!?」
「えっ!? ていうかもう他の奴らに抱き着かれて場所がないんだけど……。いや寄るだけなら場所はどこでもいい……けど、ホントにどうしたんだお前?」
「先生と一緒にいると熱くなると言いますか……身も心も。それに何故かドキドキしてしまって……」
「えぇ……」
コイツもしかして淫乱属性持ちだったのか!? ド真面目が故に純粋なところがあり、その手の知識に関しては『無』だと思っていた。だがしかし、今は他の女の子たちと同じく俺に傍にいることが至高の悦びと言わんばかりの様子だ。ガミガミ文句を言いながら怒るといったいつものパターンとは打って変わり、今日は他の子たちと同じく媚びに媚びている。やはり現代のJKってのは如何に表で清楚ぶっていても裏では大なり小なり淫乱属性を持っているものなのか……。
まあそんなわけねぇか。どう考えてもこの状況はおかしい。また
「あっ、先生だ! おっはようございまーすっ!」
「千砂都!? おい今こっちに来るな!!」
「えっ、どうしてですか? 来るなと言われたら行っちゃうのが人間の性です――――――よ!?」
後ろから現れた千砂都。全てを悟った俺の忠告を無視してこちらに駆け寄ろうとするが、その途中でこちらをぼぉ~っと見つめたまま硬直してしまった。そして次第に頬が赤みがかっていき、さっきまでの元気溌剌なテンションはどこへやら、彼女も他の子たちと同様に徐々に蕩けた表情になっていく。女の子をここまで豹変させるなんて、俺の身体って今どうなってんだ……。
「せんせぇ~~っ♪」
「うぉっ!? 他の奴らもいるんだから急に抱き着くな危ないぞ!?」
「えへへ~ゴメンなさい♪ でも先生を見てたら我慢できなくて!」
千砂都は俺の腕に絡みついている女の子の上から抱き着いてきやがった。まるで俺たちを押し潰さんとする勢いだったが、下敷きになった女の子も俺の腕に絡みつく体勢を崩していない。それだけ俺と一緒にいたいという思い、何としても離れないという根性があるからだろうか。そして千砂都が覆い被さっても文句1つ言わないどころか、俺をじっと見つめてこちらに夢中になっているせいか気にしていないようだ。
「実はまた新作のたこ焼きを作って来たんですよ! 食べたいですか? 食べたいですよね!? それでは今日、昼食をご一緒しましょう!!」
「早い早い!! 話題転換が早い!!」
「だって先生と一緒にお昼を一緒に出来るとか嬉しくなっちゃってぇ~♪」
コミュ力抜群な元々の性格と惚れが深くなる謎現象が相まって、いつもより一回り積極的に見える。それでも照れる時は他の子たちと同じく媚びた女の子の声を出したりと、もうそこらの男だったら簡単に恋に落ちてもおかしくないぞ……。俺はこの状況に慣れ……てはいないけど、発情女子の対応には自信があるからな。主に誰のせいとは言わないが……。
そして、また新たな刺客が現れる。
「アンタ、また女の子を侍らせていい身分ね」
「すみれ!? お前までまさか……!? ダメもとで言うけど、もし平常心を保ってるのなら助けてくれないか? 流石にこの状況だと歩けないから……」
「わ、私だけ仲間外れにするなんてズルいわよ!」
「な゛っ!? お前、既に……!!」
「勘違いするんじゃないわよ! アンタの近くにいないと心臓が高鳴り過ぎて困るってだけだから!!」
なんと見事なテンプレートツンデレセリフ。普段もツンデレ気味なところはあるが、まさかそんな模範を披露するなんてこれまでに例がない。つまり自分の行動がテンプレになってしまうくらい俺に惚れこんでしまっているのか。
すみれの襲来に手を焼いている最中、更なる子が声高らかに駆け寄って来た。
「すみれが抱き着くのであれば可可もそれ以上に、思いっきり抱き着いちゃいマス!!」
「可可、お前!? てかどこから現れた!?」
「ちょっと邪魔するんじゃないわよ! 早い者勝ちよ!」
「いいえ! 先生は先着順で女の子を選んだりはしマセン!」
今度は可可が襲来したと思ったら、いつも通りの痴話喧嘩。千砂都の時もそうだったが、惚れる気持ちが増大しても元の性格はそのままらしい。特にLiellaの面々はその傾向が強く、最初に俺に抱き着いてきた子なんてもう恍惚な表情をするだけでまともにコミュニケーションを取れる様子じゃないからな。そのせいで俺は女の子に密着されて囲まれてミノムシ状態になりそうだけど……。
「せんせぇ~可可も……可可も仲間に入れてくれマスか……?」
「わ、私も……いいでしょう?」
「うっ、ま、まぁいいけど……。そもそも既にコイツらがいるから場所がねぇぞ」
「まだ顔がありマス!」
「下から抱き着くこともできるわ」
「正気かよ……」
顔って上から抱き着くってことか?? そして下ってお前、男のどこに抱き着こうとしてるんだよ……。もはや俺に密着したいがために俺のどこにでも抱き着きたいと思うその精神、性格はそのままだけどまともな思考回路は奪われてんじゃねぇのか……? 普段のコイツらは恋愛下手でちょっとしたことでもすぐに恥ずかしがるから、いつもなら絶対にそんな変態発言はしないはずだ。それほどまでに思慕が増幅されてるのか恐ろしいな……。
そんなことよりもこの状況をどう打破すべきか。もうすぐで始業だってのに職員室に間に合わないどころか、女の子たちに引っ付かれて歩けもしない。俺に惚れている力が時間経過とともに強くなっているのか、恋や千砂都は俺と対面した直後はまだ正気を保っていたのに対し、すみれと可可は既に惚れ込んでいる状態だった。しかも他の子たちもさっき以上に頬を染めて何やらブツブツ愛を囁いてくるし、ちょっと怖いところもあったりなかったり……。
もちろん男なのである程度は力尽くで振りほどけるのだが、女の子に手を上げるなんて行動はできない。だったらこの状況をどうするか。誰かが通りかかってくれて助けてくれればいいのだが、この学校は女子高。つまり生徒は全員女の子なので漏れなく惚れられてしまう。しかも教師陣も俺を除けば全員女性。これって大人にも効くのか? もしかしたら成人女性にも惚れられるみたいな展開も……!?
ダメだ、詰んでる。秋葉の作るモノの効果は全て時限式なので、このまま待っていればいつかは解放されると思うのだが……それっていつだよ!?
「えぇっと、先生……ですよね?」
「えっ、かのん……?」
少し離れた場所から声が聞こえたので頑張って首を捻ってみると、そこには不思議そうな表情をしているかのんがいた。俺かどうかを疑ったのは、恐らく女の子たちに囲まれ過ぎていて俺がそこに存在していると認識しづらかったからだろう。
ようやく助けが来た! と一瞬喜んでしまったが、さっきも言った通り女の子は漏れなく異様な惚れ方をしてしまう。彼女を見たところまだ正気は保っているようだが、もう間もなくコイツらみたいに堕ちてしまうに違いない。そうなったらもう本格的に助力を願える人がいなくなるぞ……。
「大変そうですけど……私に何かできることってありますか?」
「ん? お前大丈夫なのか……?」
「? 何が大丈夫なのかは分からないですけど……。た、多分大丈夫です……」
「大丈夫ならそれでいい。コイツらを引き剥がすのを手伝ってくれ。俺から何を言っても悦ぶだけで離してくれないんだ」
「は、はいっ!」
理由は分からないがかのんだけはいつも通りだった。ただこのミノムシ状態を見ても驚くこともなく、冷静にこの状況に対処していたのは謎だ。コイツも他の奴らと同じくらいに恥ずかしがり屋なので、男1人に女の子がたくさん群がるこの光景を見たら驚くと思ったんだけど……。
その後はかのんが女の子たちを引き剥がしてくれた。中には子供っぽく俺から離れることを駄々をこねて抵抗する子もいたが、彼女が宥めてくれたおかげで助かったよ。別に抱き着かれるのは嫌じゃないしむしろ歓迎なんだけど、ここまで大勢に密着されたのは今までなかったかもしれない。もう秋もいい季節で寒いのに、あまりの人肌に汗かいちまったよ……。
「お前、本当に何もないのか?」
「何もって……一応……はい」
「そっか、ならいい。でもありがと――――」
「す、すみません! 朝礼が始まるので先に行ってますね!」
「あ、あぁ……」
かのんは逃げるようにここから立ち去ってしまった。
本人は何ともないと言っていたが、どうしてアイツだけ? それに逃げる時にテンパってたし、顔もじんわりと紅に染まっていた。俺にお礼を言われて照れくさくなったのか?
事の真相を究明するため、秋葉に連絡してみた。
すると―――――
『もしかしたら、零君を想う気持ちが他の子たちより一回り大きかったのかもしれないねぇ~』
『それでどうして効果がなかったんだよ?』
『あの惚れ薬は零君への想いを増幅させる。つまり、かのんちゃんは増幅させる分のキャパシティすらなかったんだよ。そう、元々あなたへの想いが強すぎてね』
『まさかそんな……』
『でも顔を赤くしていたってことは抵抗してたってこと。あなたの傍にいると薬の効果で更に好きになってしまうから、思わず逃げちゃったんだろうね~。自分の意思に関係なく好きになっていくことが自覚できたのも、恐らくかのんちゃんだけ。いい素質持ってるよあの子!』
『マジかよ……。でもあの状況を見て驚かなかったのは、自分の中で勝手に膨れ上がる想いと必死に戦ってそれどころじゃなかたってことか』
『いやぁ~でもまさか薬の効果が効かない子がいるとは……。想いの力が強すぎるとそういった結果になるんだねぇ~いいテストになったよ♪』
『ったくお前って奴は……』
『それにLiellaの他の子もある程度自我があったんでしょ? それだけ惚れられてるってことだよ』
そうだ、かのん以外の4人も他の女の子と比べて自分の性格を保っていた。それすなわち、薬の効果で増幅する影響が少なかったってことだ。だって元からその相手に対する想いが強かったんだから……。
なんか今回も秋葉のイタズラに巻き込まれてあぁ~疲れたみたいな感じだったのに、まさかみんなの好意を自覚する展開になるとは。もしかしたら色々と結論が出る時は意外と近いのかもしれねぇな……。
この小説では恒例となった零君羽交い締めシリーズ。Liellaのメンバーだけでは人数が少なかったのでモブキャラも増やしてみたのですが、もう零君が埋もれてしまうくらいに……(笑)
やはりハーレム好きとしては手っ取り早くハーレムを感じられるこのような話が好きなので、恐らくまたこういった展開があるかも……
虹ヶ咲2期と並行してこの小説でも虹ヶ咲編の続きを投稿するかも……と先日言っていましたが、とりあえずLiella編が落ち着くまでは投稿は控えようと思います。
ただアニメ3話の最後を見て侑を描きたい欲が高鳴って来たので、特別編として近々投稿したいと思います!