ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 前回のお話の続きとなります。
 


解放される想い

「サヤさん? どこに――――あっ、いました……って、サヤさん!?」

「お、お嬢様!?」

 

 

 M属性持ちド変態メイドのサヤは、突然現れた恋(とかのんたち)に口をあんぐりと開けて驚く。当初見せていた清楚なメイドの雰囲気はどこへやら、完全にネタキャラとしての地位を確立している。本来メイドとはご主人様のために誠心誠意を尽くす清純な女性というイメージがあるが、どうも俺が会うメイド(コスプレしてる奴ばかりだったが)はどこか頭がぶっ飛んでいる奴が多い。そろそろ俺を癒してくれる献身的なメイドに会いたいもんだよ……。

 

 

「お、お嬢様……帰っておられたのですね……」

「は、はい、練習が終わったもので……」

「お嬢様だけではなくてLiellaの皆様もいるのですね……」

「はい、今後のライブについて打ち合わせをしようかと……。事前にサヤさんに電話したのですが、全然反応がなかったもので……」

「そ、そうなのですね。この人を調教……いやお相手をしていたので気付きませんでした……」

 

 

 なんだこの空気。恋は目の前の状況が飲み込めずに混乱しており、サヤはいきなり現れた愛しのご主人様に混乱している。恋の後ろにいるかのんたちも何が起きているのか分からずに黙ったままだし、この中で俺を覗き正常でいられている者はいないだろう。それ故に微妙な空気が漂っているのだ。

 

 

「と、とりあえずお客様にお菓子とお飲み物をお出ししますね……」

「は、はい、お願いします……」

 

 

 そう言って何事もなかったかのように手に持っているロウソクとムチをクローゼットの中に隠し、本来のメイド業に戻ったサヤ。恋も何かの見間違えだろうと思って何度も目を擦って現実から逃避しようとしていた。

 

 そんな中、かのんたちが俺のもとにやって来る。

 

 

「先生、一体どういう状況なんですかこれ……?」

「さぁな。メイドが清楚だとか淡い期待はするなってことだ」

「えっ、全然意味分かんないんですけど……」

 

 

 ありのままを話すとコイツらをドン引きさせてしまいそうだし、何よりサヤ本人の名誉のために黙っておいてやる。このままこの状況がスルーされれば実はアイツがド変態メイドだったという事実も有耶無耶になるだろうしな。それに俺があることないことを話して恋とサヤの関係が悪くなるのも避けたいところ。ま、俺の温情に感謝することだな淫乱メイド。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなで先程の調教現場は何もなかったかのように片付けられ、俺が来たばかりの綺麗な応接室に戻った。長いソファにLiellaの5人が腰を掛け、1人用の高級感が溢れるソファに俺が座る。そして俺たちの近くにはサヤがメイドらしく立ったまま控えている。ソファの前のテーブルには庶民が口にすることすら憚られるお高そうなスイーツとハーブティーが並んでおり、かのんたち4人はお言葉に甘えてそれを頂いていた。

 

 かのんたちがここに来たのはライブの打ち合わせをするのが目的だったそうだが、さっきまでの微妙な空気を未だに引きずっているのか誰も言葉を発しようとしない。先程の事件のことをスルーしていいのか、それとも何か言及した方がいいのか迷っているようだった。これじゃあもう打ち合わせどころじゃねぇな……。

 

 

「そういえばどうして先生がここに? 先生が来るとは聞いていませんでしたが……」

「あぁ、コイツに誘われたんだよ。街中でいきなり知らない奴に名前を呼ばれたからビックリしたけど、まさか恋のお付きだったなんてな。それでコイツが学校での恋の様子を聞きたいって言うから、家庭訪問って名目でお邪魔したんだ」

「そんな勝手に私の話を!? サヤさん!?」

「す、すみませんすみません!! でもお嬢様の学校生活が気になって仕方なくて!」

「そこに関しては許してやれ、お前のことが心配だったんだよ」

「それはそうですけど……。うぅ、恥ずかしい……」

 

 

 性格に色々難アリのサヤだけど、恋を心配する気持ちは本物だろう。実際に俺から恋の学校生活の話を聞いていた時は熱心だったし、食い気味に質問してきて親バカの毛もあったけどそれだけ恋を大切にしているということだ。M属性で主に調教されることを夢見ている変態ではあるが、心配する気持ちだけは彼女の純粋さを感じた。

 

 

「安心しろ、変なことは何も喋ってないから」

「な゛っ!? それだと私に裏があるみたいじゃないですか!! 変なこととは一体どういうことですか!?」

「なんだ? ここで言ってもいいのか? お前が羞恥心に悶えて苦しむだろうから黙っておいてやったのに」

「うっ、それは……」

「お前のあんな表情もこんな表情も、あんな姿もこんな姿も俺だけの心に留めておくから心配すんな」

「先生に知られていること自体が一番心配なのです!! 全くもう……」

 

 

 恋は怒っているようだが別に満更でもない様子だ。普段は生徒会長としての大義名分があるためか教師の俺に対してですら厳しく指導することがあるけど、その仮面さえ剥がれれば割と天然で従順な一面もある。厳粛な性格だが常にツンツンしているわけではなく、助けられたら素直に感謝できるし、教師として俺のことを尊敬してくれてもいる。なんだかんだ心はしっかり開いてくれているんだよな。

 

 そんな感じで俺と恋が話している傍らで、サヤが不満そうな表情をしていた。

 

 

「随分と仲が良いのですね……」

「えっ、そうですか? 先生には生徒会の仕事もよく見てくださっており、スクールアイドル関連でもお手伝いいただいているので、他の先生たちとは交流の機会が多いのは確かですが……」

「それでもお嬢様が旦那様以外で男性のお話をしているという、この事実が衝撃的なのです!!」

「そ、それは先生にはお世話になっているからで話題もこと欠かないですし……」

「な゛っ!? 何をニヤけているのですかはしたないですよ!!」

「ふぇっ!? そ、そんなことないですよ!!」

「いや、顔真っ赤ですから!!」

「えぇっ!?」

 

 

 なにやってんだコイツら。かのんたちもポカーンとしてるぞ……。

 どうやらサヤは俺と恋が想像以上に仲が良いことに不満のようだ。そりゃ以前の恋は学生が背負うには重い使命を背負っており、それ故に他人との交流は断絶していた奴だった。その頃をよく知っているサヤは自分こそが彼女の一番の理解者であり、自分だけは頼りにしてくれていたこともあってかある種の独占欲が生まれていたのだろう。

 だが、そこに俺が現れた。長年付き合ってきた自分ではなくぽっと出の男の方に心を開いた主を見れば、そりゃ嫉妬の1つや2つはするかもしれない。寝取られってほどでもないけど、サヤからしてみれば面白くないのは間違いないだろう。

 

 

「まさかお嬢様がノンケになってしまわれるとは……。あれだけ……あれだけ愛し合っていたのに!!!」

「ノ、ノ……なんですか? 意味は分かりませんが、否定しなければならないような気がします」

「ノンケって、恋は最初から同性愛者じゃねぇだろ……」

「でも唯一私と繋がっていたことは事実です! あなたがお嬢様を変えてしまわなければこんなことには……」

「何を仰っているのか一部理解できないところはありますが、変わったと言えば確かに先生には私を変えてもらいましたよ?」

「やっぱり!! そうでなければお嬢様がノンケになるはずがないのです!!」

「いや、変わったってお前の言う変な意味じゃねぇからな絶対」

 

 

 恋の言う変わったは『人間的に成長した』という意味で、サヤの言う変わったは『性的趣味』の意味だと思うので、お互いの会話が絶妙に噛み合っていない。つうか恋の奴、サヤから同性愛者の毛があると思われてたのか。小さい頃からずっと一緒にいたらしいし、つまり自分の近くにずっとレズビアンメイドがいたってことになる。そう考えると怖いな……。

 

 

「お嬢様! この方に何を吹き込まれたのですか!? 生徒どころか教師も女性しかいない女子高。そんな環境に男性がお一人だなんて、絶対に何か良からぬことを企んでいるに決まっています! 絶対に食って食べようとしていますよ!!」

「2回食ってるじゃねぇか俺どれだけ肉食だと思われてんだ……」

「仰る意味はよく分かりませんが、先生に悪気は一切ないと思いますよ……?」

「もう刷り込みをされている!? 自分の都合のいいように女性の思考を書き換えるなんて、もはやマインドコントロールの類……!?」

「落ち着け、話が飛躍し過ぎだ」

 

 

 俺は宗教団体の教祖か何かか……?? 確かに自分の世界観に女の子たちを引きずり込んでいるような気がしなくもないけど、あくまで女の子たちが自分で決めた道だから俺が強制しているわけじゃない。そうやって言い返したいんだけど、今のサヤに何を言っても火に油を注ぐだけだから余計なことは言わないでおこう。

 

 

「あ、あのっ!」

「えっ、可可さん?」

 

 

 突然話に割り込んできたのは、さっきからずっと黙ったままで背景と化していた可可だった。それは他の奴らもそうだが、どうやらみんな何か言いた気な真剣な表情をしている。レズだのノンケだの飛び交うカオスな会話に割り込むのは相当勇気がいることだと思うけど、その勇気が出るくらいには主張したいことがあるのだろう。

 

 

「確かに先生はちょっとおかしいところがありマス。学校の先輩、頼れる近所のお兄さん感が強くてあまり教師らしい雰囲気もありマセン」

「おい」

「しかし、可可たちが思い悩んだ時はいつも近くにいてくれマシタ。手を差し伸べてくれマシタ。助けてくれマシタ。こうしてLiellaがスクールアイドルとして結成できたのも、先生がここにいるみんなを1つに紡いでくれたおかげなのデス!」

「そ、それはそうかもしれませんが……」

 

 

 意外と恥ずかしいことを言いやがって可可の奴……。でもこうやって自分の想いを躊躇いなく表に出すのはコイツのいいところであり、その純粋さと想いの強さのおかげでかのんをスクールアイドルに誘うことができ、今のLiellaがあるんだ。それでも俺のことをここまで褒めてくれるなんて初めてだから、流石にちょっと驚いたよ。

 

 そして可可の素直な想いをぶつけられ、さっきまで勢い付いていたサヤは怯んでいる。多分だけど、彼女も俺のことを本気で非難するつもりはないんだと思う。ただ俺に対して少し疑いがあり、自分が長年付き添ってきたお嬢様に悪い虫が付かないようにしているだけだろう。性格はアレだけど純粋な気持ちがあることは間違いないからな。

 

 可可が先陣を切って主張したのを皮切りに、すみれと千砂都も同じく会話に割り込んでくる。

 

 

「お人好しなのよね、ホントに。頼んでもいないのに助けに来ちゃってくれてさ。でもまぁ、そのおかげで今の私たちがいるのよね……。だから……感謝してるわ」

「そうだね。他人には全く興味がない唯我独尊な性格をしているかと思えば、困ったときはいつも隣にいてくれる超ド級のお節介さんだもん。だけど、その優しさが先生のいいところだと思いますよ」

「み、皆さんまで……」

 

 

 自分の性格を冷静に分析されるほどムズ痒いことはない。それでもコイツらがここまで素直に自分の気持ちを告白するなんて初めてだから、教師として生徒に慕われていると実感できて嬉しいな。恋愛弱者のコイツらからしてみたら、恥ずかしがらずに自分の想いを打ち明けるだけでも珍しい。それだけ俺のことを悪く思われていることが許せなかったのだろう。

 

 みんなに追従してかのんも同じく口を開く。

 

 

「春に可可ちゃんからスクールアイドルに誘われた時から、先生は私の相談に乗ってくれました。何事も自信を持てなかった、逃げてきた私の背中を押してくれたのは先生です。そしていつの間にか先生と一緒にいる時間が多くなりました。安心できるんです、先生の隣は。先生が見てくれているから、先生なら絶対に目を逸らさないでくれるから頑張ろう。そう思えるんです。可可ちゃんもすみれちゃんも、ちーちゃんも、恋ちゃんも、それに学校のみんなだって先生のことを信頼していますよ。スクールアイドルのことだけではなく、自分の担当教科外の勉強を見てくれたり、ちょっとしたお願いでも助けてくれる優しさが先生のいいところです。多分私たちはそういうところに惹かれて好きになったんだと思います」

「か、かのんさん……!!」

「えっ、私なにか変なこと言いました??」

「かのん、さっきの言葉はまるで……」

「えぇ、サラッとそういうことを言うあたり抜け目ないわね……」

「うん、告白……みたいだったよ」

「えっ、あっ……うっ、うぅううううううううううううううううううううううううううう!!!!」

 

 

 かのんが顔を真っ赤にして唸る。俺への想いと思い出を語る中で、しれっと『好き』というワードを混ぜてくるあたり流石Liellaの作詞家と言えよう。もちろん本人にその意図はなく、自分の言葉を思い返しては更にショートするばかりだ。つうかいつも自爆してるような気がするぞコイツ……。

 

 

「皆様そこまで神崎先生のことを……? 学校の皆様からも慕われているのですね……」

「サヤさん」

「お嬢様……?」

「先生は信頼のおける方ですから、安心してください。重責に縛られていた私を解放してくれたのはここにいる皆さんと、そして先生のおかげです。あの頃の私は自分にも他者にも厳しく接しており、それで先生にも多大なるご迷惑をおかけしました。何度追い返しても先生は何度も何度も私に会いに来て、1人ぼっちだった私に寄り添ってくれました。皆さんの言う通りのお人好しですが、そのお節介のおかげで今の私がいます。ですから、先生のことを悪く思わないであげてください」

「お嬢様……」

「それに私はサヤさんを放っておいたり、ないがしろにしているつもりはありませんでした。でも、寂しさを感じさせてしまったのなら申し訳ございません。サヤさんには本当に感謝しています。先生やかのんさんたちと出会うまで、重責に苦しむ私を唯一支えてくれていたのがサヤさんでしたから。もちろん皆さんと出会ってからもそれは変わらず。日頃から常に神経を張り詰めていたあの頃、家に帰ると出迎えてくれるサヤさんにどれだけ救われたことか……」

 

 

 恋は俺への誤解を解くこととサヤのサポートをどちらも一瞬でやってのけた。こういう咄嗟の出来事でも要領よく対応できるのが如何にも生徒会長っぽいな。

 俺への誤解を解くことはともかく、最後のサヤへの想いは彼女の心にも響いたようだ。近しい関係だと一緒にいることが当たり前すぎて、感謝の気持ちを伝えるのも気恥ずかしくなっちゃうんだよな。だからこそこうして直接気持ちを伝えられた時の感動は大きく、相手との繋がりをより一層強く感じることだろう。

 

 

「お嬢様……私……わたしぃいいいいいいいいいいいい!!」

「ええっ!? どうして泣きそうになっているのですか!?」

「お嬢様にそこまで大切に思われていたことが嬉しくて嬉しくて……!! ずっと一方通行の関係だと思っていましたから……」

「そんなことないですよ! さっきも言った通り、サヤさんに救われたことが何度あったことか……」

 

 

 これでサヤが抱いていた俺への嫉妬心みたいなのは消えただろう。そりゃ幼い頃に両親を亡くし、それからずっと自分のお付きでお世話をしてくれた人をないがしろにするわけがない。結局今回の出来事は全部サヤの早とちりだったってことだ。

 

 

「先生も、申し訳ございませんでした。本日は色々ご迷惑をおかけした挙句、挙句の果てに調教だなんて……」

「別にいいよ。これでお前の心も張れたみたいだしな。結果オーライだ」

「あれだけの仕打ちをされたのに、お優しいのですね」

「あぁ、慣れてるからな」

「調教されることに?」

「それは違う」

 

 

 M属性メイドの登場、しかも危うく調教されそうになったのは驚いたけど、ぶっちゃけそれくらいの衝撃であれば過去に何度も体験している。だからこそ驚くことはあれど嫌悪することはない。むしろそれが俺の日常なんだって半ば諦めてるからな。もう何年もたくさんの女の子に囲まれつつ騒がしい毎日を送っている俺を見くびるなよ。

 

 

「それにしても、お前らが俺のことをあそこまで褒めちぎってくれるなんて初めてじゃないか?」

「えっ、あっ、それはそうデスが……」

「思い出さなくてもいいわよ! もうっ、何を言わせてくれたのよ全く……」

「ほ、ほら、あのままだと先生が変態さんだと疑われたままでしたし、仕方なくですよ仕方なく……あはは」

 

 

 可可もすみれも千砂都も、顔を赤くしたまま俺と目を合わそうとしない。ちなみにかのんは未だに羞恥に悶えて気絶していた。

 まだ恋愛経験は未熟ながらも、俺への想いを語るときのコイツらは真剣そのものだった。つまり嘘偽りはなく、心の奥に隠している気持ちをすべて吐き出したということだ。恋も俺とサヤに対する想いを解放した。

 

 つまり、残るは俺の気持ちだけってことか。

 教師として、そして男として。俺が取るべき選択。それは――――――

 

 

「ちなみにサヤさん、結局このムチとかロウソクは何に使う予定だったのですか?」

「ふぇっ!? い、いやその……せ、先生?」

「いやこっちを見ても助けてやらねぇからな!?」

「嘘付き!? さっき皆さんが『困ったら助けてくれる』って言っていたではありませんか!?」

「他人の尻拭いはしねぇよ!?」

 

 

 おいおい、いい感じに話をまとめられそうだったのにこのドMメイド……。

 尻拭いはしないと言ったが、一応フォローだけはしておいてやった。我ながらお節介焼きだな、俺……。

 

 




 今回はLiellaの面々が初めて零君への想いを語った回でした。ただ恋とサヤさんがメインだったので、かのんたちの出番が控えめで1人1人の気持ちはそれほど描写はできませんでした。また個人回で各々の気持ちを物語として描写できたらと思います。

 とりあえず今回は想いの頭出しということで!

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