ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回からLiella編に突入します! ついでに小説のタイトルも分かりやすくリニューアルしました!
 新しいキャラ、新しいストーリー、新しい舞台、そしていつもの主人公でお送りします!


 話の時系列は虹ヶ咲編の1年後。スーパースターのアニメで恋が加入して、グループ名が『Liella』に決まった後になります。それだけ念頭に置いていただければ、あとはいつも通りノリで楽しめると思います!
 一応キャラの容姿だけはある程度知っておくと良いかもしれません。


Liella編
またスクールアイドルかよ!?


 スクールアイドルと言えば、今や日本だけではなく全世界規模にまで発展した超大型コンテンツだ。興味がなくてもその名を知らぬ者はいないと言っていいほどの知名度を誇っており、連日メディアに取り上げられたりするほど有名となっている。昔はいわゆるアイドルやオタクの界隈でしか話題になってなかったのに、今ではそこらの一般人にも認知されるほどである。SNSの発展で情報の伝達が爆速になったってのもあるだろう。そこのところは深夜アニメが一般のお茶の間にまで知れ渡るようになった背景とよく似てるな。

 

 スクールアイドルは言ってみればアマチュアのアイドル集団だが、それでも注目される理由はやはり『若い女の子たち』の集団であるからだろう。女の子は女の子でも成長途中の未成熟な思春期女子たち。そんな華のような女の子たちが愛嬌や魅力を振り撒くスクールアイドルを世間が注目しないはずがない。それに今やスクールアイドルは高校生だけでなく小中学生までもが参戦してきてるから、そりゃ10代の女の子たちの輝く姿を拝めるコンテンツに期待が集まるのは必然だろう。

 

 そんな感じでμ'sやA-RISEが界隈を牛耳っていた昔とは違い、今ではどの学校でもスクールアイドルが存在すると言っても過言ではない。特に女の子しかいない女子高ではスクールアイドルが存在してる率が高い。そして俺は行く先々で女子高生と何かしらの縁を持つことが多く、それすなわちスクールアイドルと遭遇する確率も高いわけだ。アイドルになる子たちだからみんな可愛く知り合えることは嬉しいんだけど、もはや『スクールアイドル』って言葉自体が聞き飽きてるんだよな……。

 

 最近ではあまりにもスクールアイドルの女の子と関係を持ちすぎて、俺のことを『スクールアイドルキラー』と呼ぶ奴まで現れる始末。しかもその異名が独り歩きをして一部女の子は俺と会ったことがないのに警戒しているとか……。自分の知らないところで要注意人物扱いされてるなんてスクールアイドル界隈怖すぎる。たまにはこの界隈以外の女の子と穏便に日常を過ごしたいもんだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 季節は秋。俺の教師生活が始まって半年が経過した。

 勤め先は『結ヶ丘(ゆいがおか)女子高等学校』。文字通り女子高であり、教育実習に行った浦の星女学院や指導役として訪れていた虹ヶ咲学園といい俺と女子高には因縁があるらしい。まあ野郎の相手をするよりも思春期の女の子に色々教え込む方が楽しいから別にいいんだけどさ。

 

 ちなみにこの学校は表参道と原宿と青山という3つの街のはざまにある新設校だ。そのため現在いる生徒はもちろん全員が入学生であり、歴史もなければ名前も全く知られていない、ないない尽くしの学校である。学科は普通科と音楽科の2学科であり、俺が見てきた女子高では初めて学科ごとに制服が異なっている。当初はその格の違いを感じられて音楽科の方が普通科よりも勝っているかのような雰囲気があった(主に生徒会長のせい)が、今では紆余曲折あって学科間の反目もなくなり、学科問わずどちらの制服を着ても良くなっていた。

 

 それよりも俺が一番驚いたのは、新設の学校であるのにも関わらず資金が枯渇ギリギリで学校経営がなされていることだ。そのせいで新設なのに廃校の話が出始めるほどであり、あまりにも計画性のない経営に落胆を通し越して呆れてしまった。結局はそれも山あり谷ありで一部解決したのだが、それはまたの機会に話すとしよう。そもそも俺の関わった学校は虹ヶ咲を除けば廃校やら統廃合の危機やら、何かしら事件が起きないと気が済まないのか……?? さっきも言ったけど、たまには穏便に生活させてくれよ……。

 

 とまあこの半年で大きな問題はあったが、とりあえずその一部は方が付いたので今はいったん平穏な日常を送っている。

 だから教師として毎朝学校の正門に立って朝の挨拶運動をしているのだが……どうして俺がこんなことを?? いやもう立派な社会人だから教師としての責任を全うするのは当然だけど、朝の挨拶のために校門に立つって小学校かよ。しかも朝早くだから眠くて眠くて仕方がない。あのクソババア理事長、俺が新人教師だからって社会勉強の名目で色々頼み込んできやがるからな……。

 

 校門をくぐる女子生徒たちは元気よく俺に挨拶をしてくれる。この学校の生徒も可愛い子たちばかりだから、そんな子たちに挨拶される立場ってだけでも喜ぶべきなのかもしれない。それでも朝早いのは眠気に来るから、うん、やっぱりやりたくねぇわ。

 

 

「ふわぁ~……。ったく、メンドくせねぇなオイ」

「おはようございます。朝にしっかり目覚められないのは生活が不規則な証拠です。神崎先生も教師なのですから、しっかりと生徒の模範となる行動をしてください」

「恋か。朝から説教はやめろ。頭に響くから」

 

 

 気品ある立ち振る舞いで登校してきたのは、この学校の生徒会長でもある葉月 恋(はづき れん)だ。

 その厳粛な雰囲気からお察しのこと、頭脳明晰、加えて様々な習い事の経験から運動やピアノ等、あらゆる分野に精通した優等生である。礼儀正しく落ち着いた物腰から、周りの生徒からの人気も高い。

性格は至って生真面目で向上心も強く、しかもお嬢様という珍しいオプションまで付いているという、中々に属性を盛られた子だ。お嬢様と言うこともありやや世間知らずであるためか天然ボケで、割と周りの説得で流されやすい。完璧なように見えて少し穴があるという、男が惚れる要素まで兼ね備えていた。

 

 そんな彼女だからこそ、俺の態度が気に食わないらしい。もうどちらが教師と生徒か分からなくなるくらい普段の生活態度を注意されており、普通科と音楽科のいがみ合い問題が解決した後はその堅い性格はかなり丸くはなったものの、俺の教師としての態度に対してだけは今でも厳しい。まあコイツが100%正しいから何も反論できねぇんだけどさ……。

 

 

「先生は普段から日常生活がだらしないです。服装は崩さず綺麗に着こなす、歩く時はズボンのポケットに手を入れない、言葉遣いは丁寧に、女性を口説かない、女性に安易に触れない。まだまだありますよ?」

「どれだけ俺のことを見てるんだよ。興味津々じゃねぇか」

「な゛っ!? せ、生徒会長として風紀の乱れを見逃せないだけです!!」

「おい朝っぱらから叫ぶな近所迷惑だぞ。生徒の模範になるんだったよな、生徒会長さん?」

「ぐっ、あなたって人は……。私を助けてくれた時はカッコ良かったのに……」

「ん? なんか言ったか?」

「い、いえっ、なんでもありません!!」

 

 

 恋は顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。今まで女の子のこの表情と反応を何度も見てきたから分かる。コイツは俺に厳しい態度を取りつつも一定の好意は抱いてくれているってな。まあ普通科と音楽科の問題が発生した時に多少なりともコイツを支えてやってはいたから、その影響だろう。思春期の女の子がチョロいとは言わないが、大人としての自我が芽生えてくるこの時期に心の支えとなる男が現れたら、そりゃこうもなるだろう。今までたくさんの思春期女子を相手にしてきたから、何もかも分かってるよ。

 

 

「とにかく、結ヶ丘は由緒正しき校風を目指している学校です。そのことをお忘れなきよう」

「分かってるって。それにそうやって注意するくらい俺のことを見てくれているんだもんな。嬉しいよ」

「だ、だから拡大解釈が過ぎます!! 全く、もう行きます。ごきげんよう」

 

 

 恋は顔を赤くしたままこの場を去ってしまった。そうやって素直になれないところがアイツの可愛いところって言うか、その不器用さがいいんだよな。そしてそういった子がデレた時の破壊力と言ったらもう……ね。生徒会長が故に教師の俺ともコミュニケーションを取る機会は多くなるだろうから、アイツとの関係がどう進んでいくのか今から楽しみでもあるな。

 

 言っておくけど、別にまた女子高生を自分のモノにしようとかは考えていないぞ? あくまで教師と生徒としていい関係を築けたらって思っているだけだ。そりゃ女の子側が本気で愛をぶつけてきたら考えなくもないけど、普段から可愛い女の子がいたらとりあえず自分のもとに引き込もうなんて考えてねぇから、勘違いしないように。

 

 

「あっ、先生だ! ういっすうい~っす!!」

「賑やかな奴が来たな……。てか先生に向かってその挨拶の仕方はなんだよ……」

「えぇ~だって零先生って先生って言うよりなんか大学生のお兄さんみたいな感じだもん! フレンドリーさが半端ない、みたいな?」

「お前が図々しいだけだと思うぞ、千砂都……」

 

 

 次に登校してきたのは嵐 千砂都(あらし ちさと)

 俺との接し方で分かる通り穏やかで友好的な性格であり、趣味でダンスをやっているためかフィジカル、バイタリティも高い。加えて洞察力の高さや頭脳派な一面を見せることもあり、高校一年生とは思えないほどのハイスペックだ。人当たりがいいので友達も多く、俺に対しても友達感覚で話しかけてくることからコイツが自分の生徒だってことを忘れてしまいそうだ。まあ変に畏まられるよりもこうして愛嬌良く接してくれる方がコミュニケーションが楽ではあるけどな。でもコイツの場合はあまりにも距離が近すぎる気もするようなしないような……。

 

 

「てかお前も恋も早いな。アイツは生徒会があるからだろうけど、お前はどうしたんだ?」

「朝練でダンスの練習! 大会とかにはあまり出る気はないけど、ダンスは好きだから続けてはいこうかなって。それに朝ダンスは身体も暖まるし目も覚めるしで、いいこと尽くめなんだよね!」

「朝っぱらから元気だなお前は。こちとら寒い中でテンション上がんねぇっつうのに。それにあまり寝てねぇから眠いし」

「あははっ、寝不足アピとかやっぱり大学生みたいなノリだ!」

「いや小学校じゃねぇんだから校門に立って挨拶なんて必要ねぇだろ……。寒いし眠いしこのまま凍死するぞ俺……」

「ふっふっふっ、だったら先生のためにいいモノがあるよ!」

「いいモノ?」

「はいっ!」

「むぐっ!?」

 

 

 突然口の中に暖かいモノ、いやそこそこ熱いモノを捻じ込まれた。ソース、かつおぶし、青ねぎのトッピング、咀嚼すると外はふわふわ中はとろとろの生地、そしてぷりっぷりのタコ。そう、たこ焼きが俺の口いっぱいに広がった。千砂都はつまようじの先に刺したたこ焼きを俺の口に押し込んだらしい。そういやコイツはたこ焼き屋でバイトしているんだと思い出しつつ、口に広がったたこ焼きを火傷しないようゆっくりと咀嚼しながら体内に流し込んだ。

 

 

「ってか熱いわ!! 危うく火傷するところだったぞ!?」

「でもこれで暖かくなったでしょ? 最近また改良したから先生に味見してもらいたいと思って!」

「だったら普通に渡せよな。つうか学校にたこ焼き持ってくるってどういう神経してんだよ……。まあ美味しかったからいいけどさ」

「美味しかったか……ふふっ♪」

「千砂都?」

「いやなんでもないで~すっ! あっ、そろそろ行くね!」

「ちょっ、おいっ! ったく名前の通り嵐みたいな奴だな……」

 

 

 朝からハイテンションで話しかけられて頭に響いたし、たこ焼きを口に捻じ込まれて物理的に熱くさせられたりと、方法は難あれど眠気を吹き飛ばすことはできた。そうやって持ち前のテンションの高さで周りを奮起させる能力があるのがアイツの魅力だ。どうやら昔はここまで積極的な性格ではなかったらしいけど、そのことについてもまた今度話すとしよう。

 

 

「ふわぁ~……おはよ……」

「お前さぁ、あくびしながら挨拶する奴がいるか普通?」

「今日は朝から神社の掃除で忙しかったのよ。だからアンタの授業で仮眠しないと……」

「先生の前で堂々とサボり宣言かよ……すみれ」

 

 

 気だるそうに登校してきたのは平安名 すみれ(へあんな すみれ)だ。

 金髪で見た目も派手なのは自分を綺麗に魅せようとしている現れか、幼い頃からショウビジネスの世界で生きてきたからだろう。同年代の奴らとは違って既に社会に進出しているためか誇り高い言動が目立つものの、本質的には努力家そのものであり、派手な外見に見合わぬ真面目な性分の持ち主である。

 また、スタイルが良く、ダンスを直ぐに会得できる吸収能力の高さ、料理が得意、相手を思いやる優しさを持つ、神社の巫女、ショウビズへの精通、決め台詞の保有など、属性盛り盛りのフルコース女子でもある。恋や千砂都もそうだけど、最近の女子高生ってどうしてこんなにハイスペックなんだろうか……? それとも俺がそういった子を呼び寄せてるだけ??

 

 

「なにジロジロ見てるのよ……」

「いや朝早くから仕事をしてたのに、身だしなみが整っているっつうか相変わらず光って見えてんなって思ってさ」

「当たり前でしょ。ショウビジネスで生きる者として、どんなことがあってもこの美貌と魅力を衰えさせるわけにはいかないわ」

「なるほど。俺は好きだぞ、自分の魅力を曝け出してくれる女の子のこと」

「べ、別にアンタに好かれたいとか思ってないし……」

「輝いている女の子が大好きなんだよ、俺はな。もちろん可愛い子ってのが前提だけど」

「なにそれナンパのつもり? あぁ~くっさいくっさい! それだから恋人の1人もいないのよ。そんな男の言葉で私が靡くとでも思ってるの?」

「どうだろうな。でもいつか靡かせてやるさ」

「なによその自信!? ったく、勝手にすれば」

 

 

 おっ、ちょっと靡いたぞ! この手の『自分を強く魅せようとする奴』に対しては、こちらからもストレートな想いをぶつけると相手の心を揺さぶれるから有効だ。μ'sのにこや虹ヶ咲のかすみみたいにな。しかも俺が教師だと分かっていてこの鋭い言葉選びをしてくるから、だったらこっちも容赦せず好意をぶつけてやるまでだ。褒め称えまくってあの自信に満ちた顔を羞恥の色に染めてやりたいところだ。

 

 ちなみに俺はこの学校では恋人がいない設定を貫いている。別に隠すつもりはないのだが、虹ヶ咲の奴らとも関係を持った都合上、逐一その関係を説明するのは面倒だからな。しかも相手は思春期女子、複雑な恋愛関係には興味津々のお年頃だからわざわざこちらから餌をぶら下げる必要はない。その餌1つで女の子たちに根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だから情報は隠蔽するに限る。まあそのせいで俺はイケメンのくせにこの歳で彼女1人もいない寂しい奴って扱いだけど……。

 

 

「アンタとのタイマンは調子狂うからそろそろ行くわ。この腹いせにアンタの授業の時間フルで爆睡してやるんだから」

「ツンツンしてんな。たまにはデレを挟まないと俺にはモテねぇぞ?」

「アンタにモテてどうすんのよ!? 顔はいいのに性格が難アリじゃねぇ……」

「顔は変えられないけど性格は変えられるぞ。とは言っても俺はお前のことを気に入ってるから、あとはお前が俺のことを気にしてくれるだけでいいんだけどな。あっ、でもこうして校門前で立ち止まって話しかけてくれるくらいには気があるってことか?」

「~~~~ッ!? もう行く!!」

 

 

 あらら、顔を真っ赤にして立ち去ってしまった。流石に少しイジり過ぎたかな? でもいつも自信満々の子のそういった表情が大好きなドSなんでね、仕方がない。この性格は社会人になっても治るどころか、女子高勤務になったせいでより一層歪んだ性癖が加速するかもな……。

 

 

「零先生おはようございマス! 今日はいい朝いい天気で絶好のスクールアイドル日和デス!」

「可可か。いやお前の脳内がスクールアイドルに支配されてるのはいつものことだろ……」

「そんなことはありマセン! 自分が大勢の前でステージに立つ妄想をしたり、可愛い衣装を考えたり、憧れのスクールアイドルの前で頭を垂れているだけデス!」

「それ十分支配されてるからな!? 情熱の強さは分からなくはねぇけど……」

 

 

 次に登校してきたのは唐可可(タン クゥクゥ)。名前を見て分かる通り上海出身の日系中国人である。海外出身とは言っても日本語レベルは検定1級(N1)に合格する程なので、日常会話もさっきの通りなんら問題なく可能だ。

 

 基本的には礼節を重んじる淑女で、誰であっても敬語で接する礼儀正しい子。敬意や好感を持てる人物に対して特に情に(あつ)く、その人のためならばどのような尽力も惜しまない。そして『自分の願い』を叶えるためならば決して諦めず、常に研鑽を重ねる努力家でもある。

 更にコイツを語る上で外せないのが異常なまでのスクールアイドル大好きっ子であること。さっきも彼女が言っていたが、憧れのスクールアイドルに対しては土下座するほどの信仰心を抱く。だがそれだけスクールアイドルに情熱を注いでいるということであり、彼女の燃える闘志は他のメンバーの士気を上げるくらいには熱い。ここまで純粋な心でスクールアイドルに打ち込んでる奴は初めて見るかもな。

 

 

「先生、今日は部室に来てクダサイ! 次のライブの段取りの打ち合わせをするので、顧問がいなかったら話になりマセン!」

「だから言ってるだろ勝手に顧問にすんなって! てかどうして俺なんだよ!?」

「だって可可と一緒にスクールアイドル部の設立や、ファーストライブを手伝ってくれたじゃないデスか! それはもう可可たちと運命共同体になるという意思の現れに他ありマセン!」

「都合のいい妄想だなオイ!? お前らが困ってたからちょっと手伝っただけだろ!」

「そのさり気ない優しさに可可は感動しマシタ! あなたこそが顧問に相応しい人! 可可の目に狂いはないのデス! さぁ可可たちと一緒に世界を目指しマショウ!」

「いやライブするのはお前らだろ……。なるほど、()()()もこんな感じで強引に勧誘されたんだな……」

 

 

 声を上げながら俺に迫りくる可可。わざわざ背伸びまでして自分の顔を俺に近付け、こちらの目をじっと見つめてくる。瞳を見ていると綺麗で透き通っているので、本人も悪気があるわけではないことが分かる。ただ単にそ自分のハートに来た人を前にしてテンションが上がっているだけだろう。こんな可愛い子に誘われてどうして顧問を引き受けてやらねぇんだって話だけど、俺だってたまには平和に生きたいんだよ。それにスクールアイドルの指導は虹ヶ咲でもやってるから、それで十分だ。

 

 

「むぅ、もう少しで朝礼デスか……。今は立ち去りマスけど可可は諦めマセン! 可可をスクールアイドルにしてくれた先生には感謝しているのデス。だから一緒に同じ部活を……あっ、うぅ……」

「えっ、どうした? 顔赤くなってるぞ?」

「な、なんでもありマセン! とにかく次の休み時間にまた勧誘しに行きマス! それでは!」

「そんなに頻繁に来るのかよ……」

 

 

 俺に顔を近付けていた可可だが、突然頬を染めたと思ったらそのまま引っ込んで走り去ってしまった。男とあんなに近くで対面して恥ずかしかったのか、それとも……。

 なんにせよ平和な日常を送るためにどこの部活にも属さないようにしようと思ってたけど、属さなけえればアイツから永久に勧誘されそうだな……。今年の春にアイツがスクールアイドルをやりたがっていたから少し手伝っただけなのに、今ではここまで懐かれてしまって……。やはり触らぬ神に祟りなしだな。

 

 気が付けばもうすぐ各教室で朝礼の時間だ。俺もそろそろ準備して教室に向かうか――――と思ったが、まだ来てない奴が1人いることに気が付いた。遅刻する奴ではないので今日は休みかと考えていた矢先、小走りでこちらに来る女の子が1人。

 

 

「はぁ、はぁ……ギリギリセーフ……」

「どうした? 今日はやけに遅いな」

「えっ、零先生!? お、おはようございます!」

「おはよう、かのん」

 

 

 息を切らせて校門をくぐって来たのは澁谷(しぶや) かのんだ。オレンジ色の髪は穂乃果(アイツ)千歌(アイツ)を想像するが、アイツらとは違いコイツは美人系の女の子である。

 美人系で顔つきも強気を感じられる風貌だが、実は内気で引っ込み思案気味。でも性根は心優しく繊細。理不尽な物言いには強く言い返すなど、ここぞというときの芯の強さも持ち合わせている。ただ他のオレンジ髪の奴らとは違い、何かと我が強い周りのメンバーに振り回される苦労人でもある。

 また自己評価は低く、自分のことを『アイドルってガラじゃない』『普通』と謙遜しており、若干のダウナー気質を持つ。そういったところは他のオレンジ髪とは一線を画す違いだ。ちなみにコイツはアコースティックギター演奏歴があることから作詞と作曲を両方できるため、他のオレンジ髪とは能力が比べ物にならないほど高い。今までの奴らもそうだけど、この学校の生徒のハイスペックさには驚かされるばかりだ。

 

 

「昨晩ずっと作詞をしていたせいで寝るのが遅くなっちゃって、起きたら時間ギリギリに……」

「またスクールアイドルの活動か。頑張るのはいいけど学生の本分を忘れんなよ。これまでのスクールアイドルだって学業を疎かにせずやってきてたんだ」

「これまで?」

「あっ、いや、やってきてただろうなって推測だよ」

 

 

 自分がスクールアイドルの関係者だってこともコイツらには伏せている。そうでもしないと顧問に勧誘されそうだし、何なら伏せてる状態でもされてるんだからスクールアイドルの指導経験があるってバレたら大変なことになるぞ……。

 

 誤魔化せたかは分からないけど、とりあえずこの話題を避けるために校内に戻ることにする。だがかのんは俺に追いついて隣に並んできやがった。まあ行き先は一緒だから仕方ないんだけどさ……。

 

 

「先生。昨晩考えた歌詞、あとで見てもらってもいいですか?」

「…………どうして俺なんだ? 他の奴らでいいだろ」

「もちろん可可ちゃんたちにも確認してもらいますけど、先生のご意見も頂きたいんです。なんだろう、もう歌詞を作る段階でそうしたいって決めていたといいますか……。あはは、ゴメンなさい曖昧で」

「いいよ。それだけ俺を信用してくれてるってことだろ。でもスクールアイドルをやるなら、今後は自分たちだけで曲も歌詞も作れるようになるんだぞ」

「はいっ、ありがとうございます!」

 

 

 うわぁ~すげぇいい笑顔するじゃん。やっぱ女の子の笑顔に弱いんだよなぁ俺。こんな表情を見せつけられたら思わず甘やかしたくなっちゃうよ。特にメンタルが弱いかのんがひたむきに頑張っている姿を見ると思わず手を差し伸べたくなってしまう。今の俺は立派な教師なんだから、そういうところもしっかり指導していくべきなんだろうけどな。

 

 ここで今更の話になるが、この学校にもスクールアイドルが存在している。俺の隣にいる澁谷かのん、そしてさっき俺と会話をしていた唐可可、平安名すみれ、嵐千砂都、葉月恋の5人で『Liella』というグループ名でスクールアイドルをやっている。発起人は可可であり、俺はソイツが1人の頃からグループ名が決まるまで、いわば『Liella』の軌跡に何かと加担してきた。そのせいで可可からはあの手この手で顧問として勧誘されているのだが、ここまでのらりくらりと避け続けているのが今の日常だ。何かとお節介を焼いてしまうこの性格を何とかしてねぇよ……。

 

 まあそういった縁があって今日会話した5人とは特別関係性が強いってわけだ。本来であればあまり面倒事に関わりたくないのだが、一度可可に巻き込まれたら逃げられないのはアイツに勧誘されたかのんも良く知っている。当時エピソードはまた話すとして、その時に俺は真っ先にこう思ったね。

 

 

 

 

 またスクールアイドルかよ!? ってな。

 

 

 

 

 そんな昔話を思い出していると、もう朝礼のチャイムまでマジで時間がないことに気が付いた。

 

 

「意外と時間やべぇな、おい走るぞ!」

「えっ、はいっ! あっ、手……」

「何してるんだ転んじまうぞ」

「は、はいっ! 暖かい……」

 

 

 この時の俺は意識していなかったが、自然とかのんの手を取って走り出していた。やっぱりどうしてもお節介を焼かなければ気が済まない性格らしい。そのせいで毎回面倒事に巻き込まれるけど、かのんたちみたいな美少女に出会えるのであればこれもまた一興なのかもな。

 

 そしてコイツらに関わったことで、また俺の新しい運命が始まろうとしていた。

 社会人になってもまだ新しい女の子たちとの出会いがあるなんて、本当に休まることを知らないな俺の人生って……。

 

 

 ちなみにこの後、かのんと手を繋いでいたことを生徒たちにめちゃくちゃ茶化された。

 




 遂に新章のLiella編が始まりました!
 まだ全体的にどういった話の構成にするのか、何話くらい連載するのかは決めていない見切り発車ですが、いつも通り自由なノリでグダグダやっていく予定です。

 1話目は完全にキャラ紹介がメインの回になってしまいました。当初は虹ヶ咲編のように1人1話の登場回にする予定で下が、5人しかいないので詰め込んだら文字数が意外と多くなってしまい執筆が大変に……(笑)
 それでも紹介編を一気にやったことで、もう次回から好き放題できるのは良かったかもしれません。

 というわけで新しい女の子たちが登場する新章。今まで読んでくださっていた方も、ここから読み始めた方も応援してくださると嬉しいです!



 それにしても零君が社会人か……。大人になりましたね(笑)

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