今回は侑視点でお送りします。
「ここが神崎家……」
「侑ちゃん強張り過ぎだよ……」
「そういう歩夢も緊張してるじゃん……」
「だ、だって零さんの家だし……」
私と歩夢は神崎家の前に来ていた。それなりに大きな建物だってこと以外は至って普通の家なのになんだろう、今からRPGのラストダンジョンへ向かうようなこの感覚は。私も歩夢も男性の家にお邪魔するのは初めてだからってのもあるかもしれないけど、それ以上の禍々しい雰囲気を感じる。遊園地のお化け屋敷とは比べ物にならないくらい足がすくむんだけどどうしようか……。
私たちがここに来たのはお勉強をするためだ。勉強とは言っても高校の勉強ではなく、スクールアイドルとしての勉強。歩夢はスクールアイドルとしてのいろはを、私はマネージャーとしてのノウハウを学びに来た。お兄さんに頼んだら『だったら家に来るか? 教えてくれそうな奴がいるから』と軽い気持ちで誘われ今に至る。ちなみに他のみんなは用事で来られず、だったらみんなが揃う別の日にしようと思ったけど、お兄さんがどうやら今日しかダメらしいので歩夢と2人でここに来た次第だ。
「ずっとここで立ち往生していたら私たち不審者だよね……。覚悟はいい侑ちゃん?」
「う、うん! お願い!」
歩夢は意を決して神崎家のインターホンを押す。呼び出し音が鳴り響き、私たちは息を飲んで相手方の反応を待つ。
すると間もなく会話口から女性の声が聞こえてきた。
『は~い!』
「あっ、えぇっと、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の上原歩夢です! 神崎零さんいらっしゃいますか?」
『虹ヶ咲? 上原歩夢……?』
声は非常に若々しい。そして歩夢が自分の所属と名前を伝えた瞬間、何かを思い出そうとしているかのように黙り込んでしまった。ただでさえお兄さんの家の前に来て緊張しているのに、ここで変な間を作られると更にそわそわしちゃうんだけど……。
すると、突然家のドアが開いた。私たちは驚いて一歩後退る。
出てきたのはとてつもない美少女。女の私でも惚れてしまいそうな愛くるしい女性に目を奪われてしまう。私とは天と地ほどオーラが違い、この人の輝きで目が潰れそうなくらいだ。
しかし、どうやら様子がおかしい。私たちのことを見下して今にも襲い掛かってきそうなくらいの怖さで――――――
「アンタたちが……」
「「え……?」」
「アンタたちがお兄ちゃんを監禁したのかぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああ!!!!」
「「え゛ぇ゛ぇ゛え゛え゛ええええええええええええええええええっ!?」」
目の前の美少女さんは持ち前の愛くるしさを捨てて鬼の形相で私たちに襲い掛かる。突然の襲撃に私たちは野太い悲鳴を上げることしかできない。
そもそもお兄ちゃんってお兄さん――――神崎零さんのこと!? それに監禁ってありもしない無罪の罪を被せられるとか意味が分からないんですけど!? いきなりこんな展開になるなんてやっぱりラストダンジョンだよここ!!
すると、美少女さんの後ろからお兄さんが現れ、首根っこを掴んで動きを封じた。
「おいやめろ、俺の客人だぞ」
「お兄ちゃん離して! ソイツらを殺せない!!」
「いきなりこんなことになってわりぃな。この前お前らの学校で夜遅くまで歓迎会をやっただろ? しかも突発的に。それで晩飯をキャンセルしちまったから怒ってんだよ。コイツ、俺に飯を作ったり世話をするのが生き甲斐だから」
「は、はぁ……」
お兄ちゃんって言ってたからこの人はお兄さんの妹さんか。兄をお世話するのが生き甲斐って、それブラコンってやつじゃないのかな……。しかも有無を言わせず私たちに襲い掛かってくるあたり相当拗らせてるよねこれ。お兄さんも大概変な人だけど妹さんも相当だなぁ……。
お兄さんに封じ込められたことによって妹さんの暴走は収まったようで。乱れた服を正して私たちに向き直る。黙っていれば物凄く可愛いけど、こういうのを残念美少女っていうのかも。
「えぇっと、お久しぶりです楓さん。上原歩夢です」
「久しぶり。スクフェス以来だね」
「楓……さん? も、もしかして元μ'sの神崎楓さん!?」
「この子は?」
「あ、歩夢の幼馴染の高咲侑です!! 最近μ'sのライブいっぱい見ていて、それでファンになっちゃいました!」
「そ、そう……。また相当アクの強い子を引っ掛けてたんだねお兄ちゃん……」
「可愛いだろ?」
お兄さんが何か言ってるけど今は気にしている場合じゃない。μ'sと言えばあの伝説のスクールアイドルで、神崎楓さんはそのメンバーだった1人だ。スクールアイドルの勉強のため、そして自分自身の趣味のためにμ'sのライブ映像は穴が開くほど見たんだけど、どのライブも心から熱くなるほど素晴らしかった。そのライブをしていたメンバーの1人に会えるなんて最高でテンション上がっちゃうよ!
「歩夢どうして言ってくれなかったの!? お兄さんの妹さんがμ'sのメンバーだって!」
「いや別に隠していたわけじゃなくて、そういえば言ってなかったなぁって……」
「お兄さん……だぁ?」
「えっ!?」
またしても楓さんの目付きが鋭くなる。私なにか失礼なこと言ったかな?? お兄さんって呼び方は馴れ馴れしくもなければ他人行儀でもなくいい塩梅だと思うんだけど……。
「お兄ちゃんをお兄ちゃんって呼んでいいのは私だけだぁ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああ!!」
「えぇっ!?」
「あ~あ、地雷踏んだな」
「引っかかりやすい場所に置きすぎですよその地雷!? だったら先に警告してくれません!?」
再度襲われそうになるも、お兄さんが楓さんの首根っこを掴んでいたおかげで難を逃れる。
そうか、ブラコンで独占欲も強いから私の『お兄さん』呼びに反応しちゃったんだね……。じゃあこれからお兄さんのことを呼ぶたびに楓さんに睨まれるってこと?? 流石にそれは怖いというか勘弁して欲しいんだけど、今更名前呼びをするのも恥ずかしいというか……う~ん。
「玄関先で騒ぐのは近所迷惑だから、とりあえず家に入れ」
「そ、そうですよね……。でも楓さんが……」
「大丈夫だ。あとから『一緒に風呂入ってやる』『夜一緒に寝てやる』『また一緒にデートしてやる』のどれかをぶらさげておけば勝手に機嫌が治る」
「そ、そんなことで……」
「もう~お兄ちゃんったら♪ それ全部やってくれなきゃ満足しないんだからね♪」
「うわぁ凄くデレてる……」
チョロいというか何と言うか、出会って数分でこの人が更生しようのないブラコンだってことがよく分かる。神崎家の人たちは色が濃いと歩夢から薄っすらと聞かされていたけど、今それを思う存分に実感したよ。このまま家に入っちゃって本当に大丈夫かなぁ……。主に私たちの精神力が。
そんな心配をしながら神崎家にお邪魔する。玄関先もそうだけど家の中も掃除が行き届いていてとても綺麗だ。面倒くさがりなお兄さんが掃除をやるとは思えないから、これは楓さんのおかげなのかな? ぶっちゃけさっきの楓さんを見てるだけだとただの変人でマメな人には見えないけど……。
私と歩夢は靴を脱いで家に上がる。
初めての男性の家に緊張しつつ、掃除が完璧にされた内装に目を奪われていたためか、背後から近寄ってくる1つの影に気付かなかった。
気配を察した時はもう遅く、私と歩夢はその影の人に後ろから思いっきり抱き寄せられる。
「いや~2人共もっふもふで気持ちいいねぇ~♪」
「わぁああっ!? な、なんですか一体!?」
「ちょっ、えっ、誰!?」
「あなたたちのぉ~未来のお姉さんだよ♪」
「いや俺の母さんだから。てか『お姉さん』じゃなくて『おばさん』だろ」
「「お母さん!?」」
お姉さんって言ってたからこの人が噂の『秋葉さん』かと思ったら、まさかお兄さんのお母様だっただなんて……。顔は超絶美人で大学生と言われたら信じてしまうくらいで、それにノリが若々しくてとてもパワフル。私たちはこの人の腕から抜け出そうにも抜け出せず、曰く『もふもふ』されまくっている。でも不快を感じないあたりは流石母の温もりと言ったところか、暖かくてとてつもない母性を感じる。
「あ、あなたが零さんのお母様ですか!? は、初めまして、上原歩夢です!」
「零くんから聞いてるから知ってるよ! 神崎詩織です♪ あなたたちには
「ふ、藤峰って、あの世界的大女優の藤見詩織さん!? えっ、お兄さんのお母さんって女優さんだったんですか!?」
「あぁ。いつもは海外にいるんだけど、最近は家に帰ってきてんだよ」
藤峰詩織と言えば世界を股にかける大女優であり、スクールアイドルをやっている者であればその演技やパフォーマンス力を学ぶ一番の対象でもある。私も歩夢たちのマネージャーをするにあたってこの人の舞台や映画を動画で何度も見たんだけど、まさかこんなところで本人登場だなんて思ってもいなかったから開いた口が塞がらないよ……。ていうか有名人が近くにいても案外気付かないという話がネットでよく上がってるけど、それって本当だったんだね……。
「でも今日は妹さんとお姉さんしかいないって連絡があったような……」
「悪いな歩夢。お前らにサプライズもふもふしたいからって口止めされてたんだよ。約束を破ったら母さんと風呂に入らなきゃいけない上に、添い寝までしなきゃいけなくなる罰ゲームがあったからな」
「罰ゲームってひど~い! 私はただ息子と家族団欒したかっただけなのにぃ~!」
「いやお母さんの家族団欒はお兄ちゃんの貞操が危ないから!! 私が何度注意しても勝手に添い寝してるし、お兄ちゃんのお世話は私の役目なの!!」
「あっ、楓ちゃんいたの」
「いたよ!! ずっとお兄ちゃんの隣にいたよ!!」
あれだけ存在感を放っていた楓さんを蔑ろにするなんて、詩織さんも相当大物だなぁ……。お兄さんも詩織さんに逆らえない雰囲気を出してるし、今私たちを抱きしめている強引なところも含めて神崎兄妹の母親だって思うよ。ていうかそろそろ離してくれないかな……。
「それにしても2人共可愛いなぁ~♪ このままウチの娘にならない? 零くんと添い遂げるまで待てないからね!」
「うっぷ! し、詩織さん苦しいです!! それに零さんのお嫁さんだなんてそんな……」
「今たっぷりと想像しちゃってるね? いいよいいよ如何にも思春期の乙女って感じで、抱き着いてる私まで若くなった気がするよ♪」
「わ、私は別にお兄さんのことなんて何とも……」
「そうかにゃ~? 零くんに時々目を向けているような気がするのは気のせいかぁ~?」
「そ、それは助けを求めようとしてるだけで他意はないです!!」
詩織さんはまるで修学旅行の夜の恋バナのようなテンションで私と歩夢の心を揺さぶる。この慣れたからかい方は確実に女の子を弄ぶのに慣れてるよね。楓さんを一瞬でからかったように、私たちも今まさにその餌食となっている。詩織さんはにんまりと悪い笑顔で私たちを見つめるが、ここで顔を逸らすとこの人の意見を肯定してしまうようなもの。だからと言って世界の大女優を相手に見つめ合うのは目が焼ける。これって……詰み??
「お母さん、そろそろ離してあげたら? お母さんのもふもふは緊張を解すという意味では効果的だけど、初対面の子からしたら刺激が強すぎるからね」
「秋葉ちゃん!」
「お姉ちゃん、おはよう。起きたんだ」
「ふわぁ~おはよう……。そりゃこれだけドタバタされたら起きるって。昨日は夜遅くまで研究してたんだから寝かせてよ……」
「お前こそコイツらが来るのを知ってながら寝起きで現れるのはどうかと思うぞ……」
「いいじゃん別に、知らない仲じゃないんだし。ね、歩夢ちゃん、侑ちゃん」
「お、おはようございます、秋葉さん」
「秋葉さん、この人が……?」
2階から誰かが現れたと思ったらまたしても美人さんだった。しかもこの人が噂に聞く秋葉さんか……。寝起きだというのに詩織さんに負けないくらい美貌が整っている。お兄さんによればこの人は『悪魔』らしいんだけど、雰囲気的には普通にいいお姉さんにしか見えないけどなぁ……。寝起きなのに何故か白衣だからファッションは難アリかもだけど。
「侑ちゃんはこうして会うのは初めてだね。知ってると思うけど、この子のお姉ちゃんの秋葉です!」
「は、はい! 歩夢からお話は聞いてます」
「つうか頭をポンポンすんな! この家の主は俺だぞ? だからもっと敬え」
「そうだねぇ~。美人の母と姉、可愛い妹に囲まれて最高の家族ハーレムだね~」
「それは流行らせてはいけないジャンルだろうが……」
「お母さんも仲間に入れてくれて嬉しいなぁ~♪ お礼にもっふもふしてあげるね♪」
「ちょっ!? やめろって!!」
「もうお母さんもお姉ちゃんもお兄ちゃんにくっつきすぎ!!」
「ふぅ~なんとか解放されたね……。でも零さん大変そう……」
「うん。まさか家の中まで女性に囲まれてるなんてね……」
「そうだね。家族だけど……」
お兄さんは秋葉さん、詩織さん、楓さんに密着されて身動きが取れなくなっている。お兄さんは抵抗してるけど仲が良い……と言ってもいいんだよね一応。
世界を股にかける大女優の母親、世界を牛耳る美人研究者の姉、超絶美少女で元スクールアイドルの妹。そんな女性たちに囲まれた毎日がどんなものなのか想像することもできない。それにお兄さん自身もイケメンで超スペック人間だから、家族ぐるみで異常者の集まりだ。そういえば以前に愛ちゃんが『神崎家の人たちはこの世の人たちの集まりではない』って言ってたけど、その理由がよく分かったよ。
そういえば私たち玄関にいるんだよね。まだ家の中にも案内されていないのにここまで話が膨れ上がるなんて、やっぱり神崎家の人たちは濃すぎる。濃すぎて同じ空間にいるだけでも胸焼けしてしまいそうだ。これ帰れるのいつになるんだろう……。
そんなこんなしている間にお兄さんが女性陣の拘束から抜け出す。
「ったく、客人の前でなんてことすんだお前ら……」
「お兄さんいつもこんなことをやってるんですか……?」
「主に母さんのせいだな。楓は母さんがいると今みたいにより積極的になるし、秋葉も無駄に悪ノリするから……。まともなのは俺だけだよ」
「「「「えっ?」」」」」
「えっ!?」
お兄さん以外の女性陣全員から疑問の声が上がる。そしてそれに対してお兄さんは驚きの表情を見せているけど、まさか本当に自分がまともだと思っていたなんて……。私はお兄さんと出会ってまだ間もないけど、思い返してもこの人が正常な思考を持っていたことは一度もない。私がそうだから付き合いがそれなりの歩夢や家族の人たちは更にそう思うだろう。
「お兄ちゃんよく自分をまともとか言えたよね。女の子を何十人も侍らせて、次々と新しい子を引っ掛けて自分のモノにして粋ってる。これをヤバい人と言わずに何て言うの」
「それに家族である私たちですらこんなに虜にしちゃってね。私のことを散々悪魔だとか言って罵ってたのに、最終的には結局自分のモノにしちゃうんだから大物だよ」
「どうしてかは知らないけど、零くんが一番もふもふ度が高いんだよね~。お母さんもうメロメロになっちゃう♪」
「さて、家族にこれだけ言われてますけど弁解は?」
「誰が何と言おうが俺は認めない。そうだよな歩夢?」
「ふぇっ!? そ、それは……」
「そうだよな!?」
「ち、ちかっ……!? は、はぃ……」
「そういうところだよ、お兄ちゃん……」
お兄さんは自分の味方がいないと分かると、歩夢を壁ドンで追い込んで無理矢理従わせる。
うん、楓さんの言う通りそうやって女の子をすぐ手玉に取るようなことをするからヤバい人扱いされるんだよ……。
「つうか俺のことはどうでもいいんだよ。今日は歩夢と侑がお前らにスクールアイドルのこととか、マネジメントについて聞きに来たんだよ」
「そうなんです! 私たちまだスクールアイドルを結成したばかりなので、元μ'sの楓さんとμ'sの顧問だった秋葉さんに色々聞きたくて……」
「なんだそんなこと? だったらスクールアイドルの極意についてこの私が教えてあげる!」
「「お願いします!」」
「スクールアイドルに必要なのは――――お兄ちゃんへの愛だよ!!」
「「は、はい……??」」
なんか私たちの考えていたこととは違う斜め上の回答が飛んできたんだけど……。もしかしてからかわれてる?? でも楓さんの目は本気だ。まだ出会って数分だけどこの人はお兄さんの話をする時だけ目がマジになるのは既に理解済み。ということはこれが本気のアドバイス……なの?
「お兄ちゃんのために歌い、お兄ちゃんのために踊り、お兄ちゃんのために可愛い衣装を着て、お兄ちゃんのためにライブをする。そうっ、自分が抱く愛を全てお兄ちゃんに向けてこそのスクールアイドル! 私がスクールアイドルをやってきた意義!」
「え、えぇ……。歩夢はこのアドバイスで大丈夫なの?」
「わ、分かる気がします!!」
「嘘!? あっ、でも歩夢たちは最初からそれが目的でスクールアイドルになったんだっけ……」
「うん。だから楓さんの言いたいことはよく分かるような気がして」
「一応忠告しておくけど、その考え方は一般的じゃないからね……」
お兄さんの周りは偏った考えの持ち主が多すぎて、あたかもその人たちの意見が世論だと思い込まされてしまうから怖い。私もその世界に取り込まれつつあるけど、まだ染まっていないので最後の良心としてみんなが世界の外れ者になる事態だけは避けさせてあげないと。
とは言っても、誰かのために頑張ることは間違いじゃない。楓さんや歩夢の場合はお兄さんへの愛が強すぎるところがあるけど、その意気込み事態は私が否定できるものではないからね。むしろ誰かへの愛だけでスクールアイドルに情熱を注げるならリスペクトするくらいだよ。
「お前らをここに連れてきて言うのもアレだけど、楓の発言をまともに受け取るなよ。コイツ、男性ファンが多いくせに男からのファンレターは全部焼却してるから。ファンサービスもあったもんじゃねぇよ……」
「だってお兄ちゃん以外の男なんて視界にも入れたくないしぃ~! それに私の中では他の男なんて存在そのものを消してるから、汚らわしい」
「こうやってアドバイスも偏ってるから、やっぱり穂乃果たちを連れてくるべきだったか……」
「スクールアイドルって清楚とか清純とか、そういうイメージがあったんですけど違うんですね……」
「あぁ~中々の妄想だなそれは。清楚か……懐かしい響きだ」
「お兄さんなんか遠い目になってますけど大丈夫ですか!? もしかして……」
「侑ちゃん!? どうして私を見るの!?」
いや最近の歩夢の痴態を見ていると他人事とは思えないような気がして……。幼馴染が欲深い煩悩を持っているなんて最近まで知らなかったから、私もお兄さんの気持ちが分からなくもない。でもお兄さんは私の想像以上に女性たちの醜態を見ているみたい。μ'sもAqoursも清楚ってイメージがあるけど違ったりするのかな……?
「秋葉さんはμ'sの顧問だったんですよね? マネージャーをするにあたってのアドバイスをいただけると嬉しいんですけど……」
「フフッ、それを聞いちゃう? 秘訣と言えばそうだなぁ、みんなの自主性に任せていたってところかな」
「えっ、それって自分では何もやってないってことでは……?」
「そうとも言うね! でも私の目的はどちらかと言うと零君のサポートだったから。零君が穂乃果ちゃんたちとくっつくように同棲生活を提案してあげたりだとか、たまにキツく当たって心を調教してあげたりだとか、今の零君があるのは私のおかげだよ♪」
「そう考えるとお前との思い出っていい記憶が全くねぇな。ただ自分のやりたいように俺ばかりにかまけてたし」
「そりゃ私はこの世の人間の中で興味があるのは零君だけだからね! つまり自分の愛する者のために全力を注げってことだよ、侑ちゃん」
「は、はぁ……」
これってアドバイスになってるのかな……? でも自分の好きなことに全力を注ぐのはせつ菜ちゃんと同じ考え方だから、マネージャーとしても大好きなみんなのために全力を出すのは当たり前のことかもしれない。もっと具体的なアドバイスを期待していたから最初は拍子抜けだったけど、意外と的を得ている意見だったから納得はした。それよりも『愛する者のため』と言った時に私とお兄さんの顔を交互に見ていた意味を知りたいけど、追及するとまた弄られそうだからやめよう。
それにしても楓さんも秋葉さんも行動原理は全部お兄さんか……。もう家族愛を通り越して男女の関係みたいだけどどうなんだろう。近親愛にはあまり踏み込まない方がいいかもしれないけどね。
「じゃあ最後は私からのとっておきアドバイス!」
「母さんはいいだろ」
「なんでぇ!? こちとらドラマに映画に引っ張りだこに大女優なんだぞぉ!?」
「そういう時だけ肩書を誇示するのやめろよな……」
「私は詩織さんのお話も聞きたいです! お会いできたこの機会に是非!」
「さっすが歩夢ちゃんは分かってるねぇ~! ご褒美にもふもふしてあげるね♪」
「ふぇっ? ひゃぁあああっ!?」
あぁ、また歩夢が詩織さんの魔の手に……。とは言っても不思議と包み込まれたいと思っちゃうくらい包容力がある。よく見ると歩夢も困った様子でもないし、もしかしたら私もあんな顔してたのかな?
「スクールアイドルとして上達するにはまずは仲間を知ること。それつまり、大好きな人と一夜を共にするってことだよ!」
「えぇっ!? 親睦の深め合い方が濃すぎませんか!?」
「ということで、今日はみんなお泊りね! なんなら他のみんなも用事が終わったら呼んでいいよ!」
「えっ、それって私も……??」
「もちろん! 歩夢ちゃんも侑ちゃんも今夜は寝かさないよ~♪ はい、ぎゅ~っ!」
「ひゃぁ!? ま、また!? お、お兄さん……!!」
「母さんがこうなったらもう手が付けられない。諦めろ」
「ちょっと!! ここは私とお兄ちゃんの愛の巣なんだよ!? ただでさえお姉ちゃんとお母さんっていう邪魔者がいるのに、他の雌を泊めるなんて……!!」
「いいじゃん楽しいし。お姉ちゃんもたまには楓ちゃんを可愛がってあげるよ♪」
「ノーセンキュー!!」
こんな感じで終始混沌とした状況が続き、なし崩し的に私たちは神崎家に泊まることになった。この家に足を踏み入れた時からこの家の人たちに押されっぱなしなのに、一夜を共にするってなったら私たちどうなっちゃうんだろう……?
今日一日で神崎家の恐ろしさを知った私たちだった……。
神崎家の女性陣は本当にキャラが濃く、出演するたびに原作キャラを食ってしまいそうです(笑) それでも私はそんな彼女たちが大好きなので、今回出演させてあげられてよかったです。
オリキャラであってもこの小説のシリーズは6年間も続いていることから、もうラブライブのキャラとして溶け込んでいる感はありますね(笑) それだけ読者さんにも愛されているのはこれまでの反応から分かっているので、私も臆せず出演させやすいというのもあります。
しかし虹ヶ咲編は過去作キャラやオリキャラを出さないスタンスですから、次の登場はいつになるやら……。